第81話 イール王国海戦 その1
オススメ映画で『ワンス・アンド・フォーエバー』っていうのがあったので借りて見てみました。
メッチャ面白かったので、まだ見てない人がいましたら、ぜひ見てみて下さい!
ーーイール王国 150㎞地点海上
雲一つない快晴。波も穏やかな海をイール王国の遠距離漁船団が漁をしていた。
置き網を引き揚げるたびに大量の魚も一緒に上げられ、甲板に海水と一緒に撒かれていった。
漁師たちはその魚を次々と木箱に詰めていく。
「ウッホホ!大漁大漁‼︎」
「これで今日の分は終わりっすかねー?」
「おう!そうだな!早く港に戻って、皆んなを驚かせてやろう!今日は良い一日で終わりそうだ!」
「「へい!」」
漁師たちが道具を片付けていると、1人の漁師が水平線の向こうを指差して大声を出す。
「船団だーーー!船団が来るぞーーー!」
「はぁ?船団?…どこの漁船だ?ってかこの辺に他国の漁船なんて滅多に来ねえぞ?」
「わ、分かんねえッス。なんか煙出してて良く見えなくて…」
「煙?」
漁船の船長が望遠鏡を持って、彼が指差した方向を見ると、確かに大船団が見えていた。しかし、船長は特に焦る事はなく話し始めた。
「あぁ〜〜〜アレは多分イール王国の軍船団だろ?確か今日は軍事演習の日だったな。焦る事ぁねえよ。他の漁船にも特に心配はしないよう信号旗で伝えろ。」
「う、うっす。」
漁師たちが引き続き片付けを始めていると、船長はふと先ほどの船団を見る。するとある違和感を感じた。
(え?…もうあんな所まで…速いな。流石は軍船、上手く風を掴んで……待てよ、そっちは向かい風だ。)
再び望遠鏡を取り出しあの船団を目を凝らして見てみる。明らかに速いスピードで移動してきている事が分かる。それに船の形状からして、イール王国の軍船ではない事も分かった。
「っんだよアレは⁉︎」
正体不明の大船団を見て冷や汗が一気に出てくる船長は、直ぐに近くの仲間に緊急の信号旗を上げるよう口に出そうとした瞬間ー
ドォーーーーン!
突然、轟音が響き渡ると同時に近くにいた漁船数隻が粉微塵に吹き飛んでいった。
「うわーーー!」
「ギャーーー!」
「た、助けてくれーーー!」
目の前で起きた突然の惨劇…船長は再び謎の船団の方へ望遠鏡を向けると一風変わった大砲と思われるモノからもくもくと煙が出ていた。
「アレだ……あいつらがやったんだ‼︎い、急いで逃げろーーー!」
先ほどまで賑やかだった海が、今度は悪い意味で騒がしくなりはじめた。
死に物狂いで船を反転させて、港へ戻ろうとする漁船団。船長は急いで自室へと戻り、引き出しから魔伝石を取り出す。
「こ、こちら遠距離漁船団‼︎聞こえますか⁉︎な、謎の敵船から砲撃を受けている‼︎繰り返す!砲撃をー」
再び鳴り響く轟音と共に船長が乗っていた漁船団も粉微塵に吹き飛んでいった。
ーーハルディーク皇国海軍 バルザック艦隊 先遣隊 旗艦『モノセロス』
「第3斉射用ーーー意‼︎…撃てぇーー‼︎」
ドドドドォーーーン!
艦首部と艦側部の砲塔が漁船団の方を向き、一斉に砲撃を浴びせている。周囲の装甲砲艦も次々と砲弾の雨を降らせ、イール王国の漁船団を沈めている。
大きな水柱を上げ、直撃した漁船は跡形もなく消し飛ぶ。気が付けば漂流している漁船の残骸や死体の中を蒸気装甲砲艦『モノセロス』を先頭に航行していた。
「コップ艦長‼︎アレはイール王国の軍船で無ければ、ニホン国のものでもありません‼︎民間人の…漁船ですよ!」
甲板でパイプ草をプカプカと吹かしながら眺めていたコップと呼ばれる装甲砲艦『モノセロス』の艦長。彼は、部下の言葉に対し静かに答える。
「後々武装して襲い掛かってきては面倒だからな。低文明国家であるが海軍を主力とする国だ、船は全て破壊せよ。」
「は、はぁ…」
「それに皇帝陛下はこの新兵器の力の成果報告を楽しみにしておられる。皇帝陛下の期待を裏切る事はあってはならぬのだ、良いな?」
部下は敬礼した後持ち場へと戻っていった。そして、漂流している生き残りの漁師達を見つけるや否や、魔伝を用いて命令を下す。
『全海兵に告ぐ!漂流している敵国の民間人を射殺せよ‼︎繰り返す!生き残りを射殺せよ‼︎』
命令を聞いたハルディーク皇国海兵は、ウィンチェスターライフルの様なレバーアクション式の銃を取り出し、漂流している漁師達に照準を合わせて構える。
「ヒィ⁉︎」
「や、やめてくれ…た、た、頼む。」
ある程度射撃準備が出来たのを確認するとコップ艦長は、一斉射撃の命令を下す。
『撃てぇーー‼︎』
ダダダダダーーーン‼︎ダダーーン!…ダーン!
各砲艦から銃撃音と悲鳴が鳴り響く。その後も砲撃と共に止めどなく続いていった。
「……そろそろの筈だが。」
『敵船団発見‼︎イール王国水軍と思われます!その数300隻‼︎』
見張り台にいた海兵から魔伝による敵船発見の報せを聞くと、コップはニヤリと笑う。
「ふふふ…大規模演習にいたイール王国水軍だな。今度こそ、私が指揮するバルザック艦隊 先遣隊の力を見せつけてやる時だ‼︎…くっふふふッ‼︎…後方にいるアクアス提督と皇帝陛下に私の活躍を見せる事で、私も『あの計画』に加わってみせる‼︎……私も…『私も王にッ!』」
コップは魔伝石を持ち、先ほどよりも気合の入った声で他の砲艦に伝える。
『いよいよ本当の実戦が始まるぞーーー‼︎皇帝陛下が望まれるは分かりきった勝利ではなく、予想外の大勝利なり‼︎大きな戦果を上げれば上げるほど、我らは英雄として歴史に名を刻む‼︎』
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー‼︎‼︎」」
鼓舞させるコップ艦長の言葉に、至る所から海兵達の力強い雄叫びが響き渡る。その声は恐らく、イール王国水軍にも届いたであろう。彼等にとっては勝利への雄叫びでも、イール王国水兵からして見れば、死の雄叫びでしかなかった。
ーーイール王国 海軍 ウッドード船団
『……ッ⁉︎て、敵だーーー!ハルディーク皇国の大艦隊だーーー‼︎』
1人の見張り台にいた水兵の声からの声と同時に赤色の狼煙を上げる。それを見た各軍船は一斉に戦闘準備を始める。
大きなバリスタを甲板に移動させ、ハルディーク皇国の大艦隊へ向ける。しかし、バリスタの射程距離は最大で約100m〜150m。大砲を当たり前の様に備えている…それも列強国が相手となるとまず、射程距離に入る前に全滅は免れない。
「ウッドード団長!全船戦闘準備完了致しました!」
「うむ!ご苦労!」
ウッドードと呼ばれる小太りの指揮官は部下から戦闘準備完了の報告を受けていた。
「では、射程距離に入り次第、バリスタを一斉発射、そして梯子をかけて敵船へ乗り込む。その時の一番乗りはこの私めにお任せを!」
長い間、他国との戦争無く生きて来た国の人間とは思えないほどの強い闘志に満ちた目をしていた。ウッドードは、そんな彼を心強く思いながらも、我々が常識として捉えている戦法では間違いなく敗北する事を確信していた。
「…君のその強い意志は本当に心強いぞ。だが、君の出番はもしかしたら無いのかも知れぬ。」
「えっ…それは何故ですか⁉︎」
ウッドードは甲板で待機していた水兵達に合図を送ると一斉に中央の大きな滑車を回し始めた。すると、ハッチが開けられ、少し不細工ではあるが通常よりも大きい大砲が出て来た。大砲の内部には爆発系の魔鉱石が複数埋め込まれていた。
多くの水兵達が驚いた表情を見せていた。
「ッこ、これは⁉︎」
「ふふふ…コレは我が国の数少ない魔法技術士達が造り上げた新兵器…『カノーネ』だ!通常の大砲よりも遥かに射程が長く、そして威力が高い!その最大射程距離は約2㎞‼︎大半の高度文明国家が有する戦列艦をも貫く破壊力‼︎」
「「オォォーーー‼︎」」
イール王国水軍の士気が上がる。これほどまでの大砲を有する中小レベルの高度文明国家国が果たして他にあるだろうか…否!あるわけがない。
戦列艦と同等の力を持つ兵器を有したイール王国水軍は、必ず勝てるという自信を胸に薄っすらと見えるハルディーク皇国の大艦隊へ向かおうとしたその時ー
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉー………ッ!」」
遠くから聞こえてくる雄叫び声…言わずもがなハルディーク皇国海軍である。その雄叫びを聞いたイール王国水軍から僅かな不安の種が植え付けられる。
「怯むなぁ‼︎一気にカタをつけるぞ‼︎全兵戦闘準備を怠るな!オールを出せ‼︎」
各軍船からオールが出てくる。そして、一糸乱れぬリズムで漕ぎ出していくと、帆が受ける風の力と共に速度が上がっていく。
「敵の様子は‼︎」
『ウッドード団長‼︎敵は旋回する事なく真っ直ぐ進んで来ます!』
「敵艦隊までの距離約5㎞‼︎」
「よーーし!射程距離内に入り次第、『カノーネ』を放て!」
ウッドードは敵の船がまだ旋回せずに進んで来ることに、少し余裕を持っていた。普通の戦列艦は、右舷か左舷に旋回しなければ砲を向ける事など出来ないと分かっていたからである。そのため、今のうちに距離を詰めて、敵船が旋回する前かその最中に一気に攻撃を仕掛ける作戦だった。
「距離が4.5㎞を切りました‼︎」
「気を抜くなぁ‼︎このままー」
次の瞬間、ハルディーク皇国海軍艦隊から多数の煙が舞い上がる。
「ッ⁉︎な、何だ⁉︎自爆か⁉︎」
ドドドドーーーーーン‼︎
直後に大きな轟音が鳴り響き、前列にいたウッドード船団の軍船が一度に大爆発を起こし、沈んでいく。
「ッ⁉︎バカな‼︎敵船はまだ旋回していないのだぞ‼︎きょ、距離だってまだ…」
望遠鏡を使って確認すると、船首部と両舷部の砲塔から煙が上がっていた。しかし、ウッドードはアレが砲塔と呼ばれるモノなど知る由もなかった。それに圧倒的射程距離外からの砲撃、一度見たことがある戦列艦に積まれた大砲を遥かに凌ぐ桁外れの破壊力…どれも彼の経験にはないものばかりだった。
そして再び敵の大艦隊から大きな煙が包まれ始める。先ほどのとは比べ物にならない数だった。それを見た瞬間、ウッドードはゾッとする。
「ぜ、全員砲撃に備えろーーー‼︎」
彼が叫ぶのと同時に多くの軍船が大爆発を起こしていく。バラバラになる軍船、四肢が捥がれ、吹き飛ばされいく仲間達。雨のように降りかかる砲撃は、次々と仲間の船を沈めていく。
「クソッ‼︎進める船は進めーーー‼︎」
既に100隻近い船を沈められてしまったが、生き残っている船達はオールを思いっきり漕ぎながら大艦隊へと向かっていく。
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
旗艦『モノセロス』
無慈悲な砲撃を繰り返すハルディーク皇国バルザック艦隊先遣隊。指揮官のコップは、次々と沈んでいく敵船を見て思う。
「ふむ、新しい艦砲の射程距離は凄まじいな。最大約4㎞…しかし距離がある分、精密さに欠けるなぁ…思っていたよりも命中していないではないか。」
「敵船は低文明国家と言えど、水軍強国家です。油断せず、敵のバリスタからの射程距離外からこの調子で砲撃を続けるた方が宜しいかと…」
コップは顎をさすりながら考える。
「それも一つの手だ…しかし、さっきも言った通り『普通の勝利』など誰も望んじゃいない。『予想外かつ圧倒的な勝利』…これ以外は認めん。」
「では…ど、どのように?」
コップはニヤリと笑い、魔伝で各艦へ伝える。
『総員に告ぐ!敵船団へ向けて全速前進‼︎砲撃は各艦砲撃継続‼︎敵を皆殺しにしろ‼︎』
ハルディーク皇国の大艦隊は、一斉に大きな蒸気を上げながらイール王国のウッドード船団へ向けて突撃して行く。彼らの表情には間違いのない勝利を予感し、余裕が見られる。
ーーイール王国 ウッドード船団
一方、悲惨な現状が続くイール王国水軍ウッドード船団は、ハルディーク皇国の大艦隊が此方へ向かって前進して来ていることに気付いた。
「ッ!敵も向かってきているぞ!各船『風神の風切弓』の用意を‼︎」
「ハッ!」
その距離は3㎞……2.5㎞と近づいて来る。しかし、近づくにつれ敵の砲撃が激しさを増して来るため、射程距離内までに間に合うか分からなかった。
「行けーー‼︎」
ウッドード団長の船にもついに被弾してしまうが、右舷を軽く抉る程度で済んだ。
そして遂に、両軍の距離が2㎞を切っていった。
「ッ!今だ‼︎放てぇーーー‼︎」
ギリギリ射程距離内まで生き残っていた数隻の軍船から、大きな轟音と共に砲弾が放たれた。大きな風と衝撃を発生し、海に大きな波紋が広がって行く。
通常の大砲であれば考えられないスピードで、ハルディーク皇国の艦隊へ向かって行く。
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
イール王国のウッドード船団との距離が近づくにつれ、ハルディーク皇国艦隊の攻撃に加わる砲艦が増えて来る。敵との距離が2㎞を切ったことで、その凄まじさはまさに『破壊の嵐』であった。
ーー旗艦『モノセロス』
「くふふふ!…いいぞ…いいぞ!最初に武功を上げるのはこのコップ・スチートス将軍だ‼︎」
圧倒的な勝利を確実に予感したコップは両手を広げてその喜びを実感しようとしていた。
そこへ血相を変えた部下が現れた。
「こ、コップ将軍‼︎最前線の敵船数隻から巨大な大砲のようなモノが確認されます‼︎」
「大砲だと?…奴らいつの間にそんなモノを…」
『敵船より砲撃あり‼︎砲撃あり‼︎』
「なッ⁉︎」
海兵達から動揺の声がざわつき始めたその時ー
ドドドドドーーーーン‼︎
旗艦『モノセロス』を含む数隻の砲艦の周囲を大きな水柱が包んでしまう。
ーーイール王国 ウッドード船団
「……敵船複数に命中‼︎」
「よーーし!次弾装填急げ!この隙に敵艦隊まで一気に近づいて乗り込むぞー‼︎」
『カノーネ』を命中させた事で、軍の士気が上がる。そして、敵が少しでも怯んでいる内に近づき、ハシゴを掛けて乗り込む準備をしている。しかし…
ドドドドドーーン‼︎‼︎ドドドーン‼︎
「ッ⁉︎」
突然仲間の船が大きな爆発で吹き飛んでいく。しかし、彼が驚いたのは、その砲撃が来たと思われる方向であった。砲撃は先ほど自分たちが命中させた敵船からだった。
「そんな…ば、バカなッ⁉︎」
「て、敵艦健在‼︎」
「言われずとも分かっておるわ‼︎‼︎」
次弾装填しようにも、敵からの砲撃の雨にそれどころではなくなって来たウッドード船団。敵艦隊との距離は2㎞もない…絶望的であった。
木造船は勿論、通常の戦列艦であれば、『カノーネ』に被弾すればタダでは済まない。撃沈… 悪くて大破ぐらいには出来る筈だった。しかし、敵艦は今だ健在……一部の構造物を破壊し多少の黒煙が発生している程度で、特に支障なく航行と砲撃を続けて来る。
その後、何隻かは『カノーネ』の第2波を撃ち放つが、大したダメージを与えられない事によるショックと焦りからか、殆どが的を外れて大きな水柱を上げるか、少し掠った程度だった。
ーーハルディーク皇国 旗艦『モノセロス』
突然の砲撃を喰らった事による衝撃で、先遣隊指揮官のコップは床に倒れていた。
「いてて…被害状況は⁉︎」
「敵船からの砲弾が本艦の第2煙突部分と右舷甲板部に被弾‼︎一部火災発生!現在、鎮火中!魔導蒸気動力室及び右舷部を除く他の砲塔に影響無し‼︎」
「つ、つまり『小破』って事か?……ほ、他の艦は⁉︎」
『左方部隊より砲艦メサド小破!、砲艦ルーガドス小破、砲艦ナッヂ中破!、副旗艦ミューラ小破!』
『右方部隊より砲艦ギリガン中破!、砲艦ナルナザレ小破‼︎』
「げ、撃沈された艦は無しか…ホッ。」
バルザック艦隊 先遣隊の数は100隻、後方に控えている残りの本隊は約400隻と飛行戦艦150機…大した損害ではない事で艦橋にいた幹部たちは安堵の表情を浮かべるが、コップ将軍1人がワナワナと怒りに満ち溢れていた。
「ふ、ふざけた真似をしおってーーー‼︎コボルト…いやゴブリン以下の低文明国家の分際で大砲など生意気な事を〜〜ッ‼︎‼︎私の『王への道』を潰しおってッ‼︎‼︎徹底砲撃‼︎先遣隊全艦へ報告‼︎順列砲撃などまどろっこしい事はやめだ‼︎全艦砲撃開始‼︎砲撃開始だーーーー!!!!」
血走った怒りの表情で部下に命令を下す。幹部達は彼の尋常ではない怒りに臆してしまう。
「(な、なぁ?『王への道』って何だ?『あの計画』って?)」
「(わ、私が知るわけなかろう!)」
コップ将軍の命令により、先ほどまでの砲撃が更に激しさを増し、かなりの勢いでイール王国のウッドード船団がその数を減らしていく。もはや生き残っているのは、団長ウッドードが載っている軍船を含めた20隻……戦況は絶望。
激しい砲撃を受けたウッドードの軍船から至る所で、火災が発生。甲板には深手を負った水兵達が苦しそうな呻き声を上げ転がっている。
「う〜〜〜〜…う〜〜…」
「あ、足が…足が…」
「誰か……誰か…」
「うわ〜〜…か、母さん!母さーーん!」
「だ、誰か…俺の…俺の腕知らないか?俺の…俺の…」
その様子をタダ呆然と眺める事しか出来ないウッドード。己の無力さと敵との圧倒的な力の差を呪うばかりだった。
「う、ウッドード団長!!!ど、どうすれば⁉︎」
「海に飛び込め。」
「は、はい?」
「動けるものは海に飛び込めーーー!!!この船はもうダメだ!早く飛び込めーーー!!!」
彼の命令により動ける水兵達は一斉に海へと飛び込む。動けない者は動ける者の肩を借りて一緒に海へと飛び込むが、ウッドードは1人燃え盛る軍船に残っていた。
「ウッドード団長⁉︎何を⁉︎」
「私は事の現状を港で控えている軍に報せる。」
「だ、団長!!!」
ウッドードは部下達からの呼び声な答える事なく、魔伝を取り連絡をする。
「…こちらウッドード船団団長のアルマド・ル・ウッドードである。我が船団は壊滅…即ち、イール王国水軍は壊滅なり。敵艦隊へ一矢報いるも撃沈には至らず、今だ健在の状態で向かってー」
魔伝での戦況報告の最中、敵艦からの砲撃がウッドードを乗せた軍船に直撃。彼は、大きな爆発に巻き込まれ、そのまま船と共に沈んでいった。
ーーハルディーク皇国 旗艦『モノセロス』
『……敵船最後の1隻の撃沈を確認。イール王国の船団全滅。』
「オッシ!!!」
部下からの敵船団全滅の報告を聞いたコップ将軍はガッツポーズをする。他の幹部達からも喜びと安堵の声が聞こえてくる。
そこへ1人の海兵が報告にやって来た。
「失礼します!本隊への報告完了しました!」
「そ、そうか……っで?何か言っていたか?」
「ハッ!『このまま先遣隊は、タウラス将軍の軍を乗せた輸送艦を率いてイール王国の港へ侵攻を開始せよ』との事です!」
「そ、それだけか?」
「は、ハイ!以上であります!」
コップ将軍は「やはり…」とつぶやきガクッと肩を落としてしまう。
「あの時の被害が痛かったか…あれさえなければ……良し!早速イール王国の港へ侵攻する!」
「「ハッ!!!」」
こうしてイール王国の主力水軍であるウッドード船団を壊滅させたハルディーク皇国のバルザック艦隊 先遣隊は、イール王国への本格的な侵攻として港へと向かおうとしたその時ー
『砲艦ナッヂより報告!!!前方より正体不明の船が接近中!!!』
「なに⁉︎まだ生き残りがいたか⁉︎…どんな船だ⁉︎」
『距離が離れ過ぎているため目視ではハッキリと確認できませんが…イール王国の軍船の倍はある大きさかと思われます!!!』
「なに〜〜!!!…恐らくイール王国が新たに造った龍船だな!!!各艦射程距離に入り次第砲撃を開始せよと伝えよ!!!」
『ハッ!!!』
ーーイール王国 第五駐屯地 作戦会議室
口の時式に配置された長テーブル。そこに置かれた椅子に駐屯地に配属されている幹部自衛官達は皆真剣な表情で座り、一方に配置された大型のスマートガラスを見ていた。
そこにはとある海上と思われる場所がCGで映されており、多数の赤い点とその反対方向に一つの緑の点が光っていた。その緑色の点の上には『汎用護衛艦(DD)あさひ』と映っていた。
この駐屯地の司令官、滝沢勝重陸将補は他の幹部自衛官達の前に立ち話し始める。
「此度の行動は、友好国であるイール王国の市民はモチロン、『MSFJ』の一行をハルディーク皇国からの脅威から護るのが主な目的である。……残念な事にイール王国水軍を助ける事は叶わなかった。しかし、彼らの代わりに彼らが護りたかったモノを我らが護る事は出来る。」
自衛官達は、助ける事が出来なかった自分たちの行動と準備の遅さに怒りを覚えていた。彼らとこの第五駐屯地の自衛官達は、まだ日が浅いながらも何回かの交流はあった為に、友人となっていた。しかし、その友人を護れなかった…。
「この画面を見てわかるように、今現在この第五駐屯地における自衛隊の海上戦力は、この『あさひ』と搭載されている無人機の『八咫烏』3機のみである。たとえ相手勢力の武器兵器の性能や質が劣っていようとも、その数が我らの何倍…いや何十何百倍と有ればそれは途轍もなく大きな脅威と言えよう。」
1人の幹部自衛官が手を上げて質問する。
「ではどの様にして相手を…この圧倒的物量を有するハルディーク皇国の艦隊を迎え撃つつもりで?」
「うむ…先ずハルディーク皇国艦隊の旗艦を真っ先に狙う。幸いな事にイール王国には翼龍騎士団が存在しない為に、今いる艦隊に航空戦力はいない。空を気にせずに集中できる。」
「ですが、その旗艦をどう見極めるのか…。」
「その事についてだが…例の協力者であるネイハム氏から提供された報告書にある。掲揚されたハルディーク皇国国旗の下に三角の赤旗があるのが旗艦…青色なら副旗艦及び補佐艦…そこを集中して攻撃する。先ずは上空に『八咫烏』を1機向かわせて、艦隊を偵察…その目標を見つける。そして、座標を特定したらそこへ艦対艦誘導弾(SSM-1B)を撃ち込む。頭(司令塔)を失えば、敵艦隊に焦りや乱れが生じる。そこへ畳み掛ける形で数隻を沈めれば…」
「敵艦隊は引き上げる…っと?」
確かにこの作戦通りで行けば、この圧倒的に物量が不足していても、追い返す事は可能であろう。しかし、皆が心配している事は「果たして敵はそれで引き上げてくれるのか?」である。
下手をすればそのまま突き進んでくる可能性もある。そうなれば、『あさひ』の一隻だけで対処するのは難しすぎる。
「だが、何もしないわけにもいないだろう?いくら最悪な展開を想定しても、それが戦場ってもんだろ?そんなことばっかり考えてても仕方ねぇ。」
「そうですね。それに敵はもう目の前まで来ているはず…そろそろ敵も『あさひ』の存在に気づいている頃でしょう。」
時間はかかるが、中ノ鳥半島基地から空母『おおすぎ』と第17護衛隊群の派遣をしたとの報告を受けていた為、それまでに何とか持ち堪える他なかった。1番良いのは、敵が引き返してくれる事ではあるが…。
ーー汎用護衛艦(DD)『あさひ』
艦橋にいる全員が緊張した面持ちでいた。圧倒的な物量の差を前に生き残る事が出来るのか否か…誰もわからないからである。先ほど駐屯地司令部からの作戦通りで遂行するが、ここのいる殆どが初めての実戦に臆していた。
「落ち着け…落ち着け…教わったことを思い出せ…落ち着け…落ち着け…」
1人の若い自衛官が下を向きながらブツブツと自分を落ち着かせようとしていた。その言葉を聞いた、護衛艦『あさひ』の艦長、金平正徳一等海佐であった。
彼の肩にポンっと手を置いて優しく声をかける。
「おい、若いの。実戦は初めてか?」
「え?は、ハイッ!…自分は7年前の時はまだ訓練生でしたので。」
「そうか…7年前の第二次朝鮮戦争……結局はどちらが勝ったともなく、互いの痛み分けで終わったが、あの時は中々に悲惨だったからな。コッチも20人が殉職した……いや、海上護衛と防衛、補給の任務だけでだったからコレで済んだのか…兎に角、戦争など良いものでは無いな。」
「か、金平一佐…自分は……怖いです。殺すのも…殺されるのも…」
「そうか……俺もだ。」
すると戦闘指揮所(CIC)より、偵察に向かった『八咫烏』から目標を特定できたとの報告が来た。
時は来た………後は、此方からの警告を相手に伝え、それがダメなら……相応の対処をせざるを得ない。
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
旗艦『モノセロス』
「何ダァ〜あの船は〜?」
コップ将軍は部下からの報告を聞き、上甲板へ出て望遠鏡を覗き込む。すると、距離はかなり離れているが、確かに見たことのない船が一隻だけそこに存在していた。
「わ、分かりません……この距離であそこまでハッキリ見えるという事は…かなりデカイ船かと。」
「…旗は?」
「ハイ…えーっと…し、白地の真ん中に赤丸が描かれています。」
「何⁉︎…ば、馬鹿者!!!それは敵の…ニホン国の国旗だ!つ、つまりアレは、ニホン軍の軍艦だ!!!」
この言葉を聞いた部下たちは直ぐに持ち場へと戻り、各艦へ戦闘準備の指示を出す。
「くっふふふふふふ!…コレで私の汚名返上だ!!!ニホン軍を真っ先に叩き潰して、私の武功を知らしめればー」
『12時の方角より、謎の飛行物体接近中!!!』
無人機の『八咫烏』が猛スピードで降下した後、最前列艦から500m離れた場所に滞空しながら拡声機を使い、ハルディーク皇国の艦隊へ警告を発する。
『我々は日本国海上自衛隊である!!!貴方達の行動は国家的武力行為である!!!到底容認できない!直ちに引き返しなさい!繰り返す直ちに引き返しなさい!!!でなければ、此方もそれなりの対応をしなければならない!!!』
繰り返し発してくる拡声機の声にコップ将軍は特に動じることなく、拡声器を取って砲兵へ命令を下す。
『アレを撃ち落としたら…今夜一杯奢るぞ?』
すると左舷部の砲塔がゆっくりと動き、砲門を『八咫烏』へと向け……撃った。
ドォーーーン!!!
間一髪、『八咫烏』は砲門が向き始めた時に回避行動をとった為、当たる事は無かったが、コレでハルディーク皇国が引き返さない…交戦の意思を示したという決定的な行為となった。
ーー護衛艦『あさひ』艦橋
「敵戦艦より砲撃!敵戦艦より砲撃!砲弾11時の方角!」
「『八咫烏』砲撃回避!損傷無し!」
「敵艦隊の砲塔より動きあり!」
「艦長!指示を!」
金平一佐は「遂にきたか」と心の中で思いながら命令を下す。偵察に向かわせた『八咫烏』からのデータリンクにより、目標となる敵艦を特定する。
「射撃管制室!敵艦攻撃意思あり!90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)発射用意!」
艦橋より射撃管制室へ命令が伝えられる。
射撃管制室ではオペレーター達が急ぎながらも落ち着いた様子でSSM-1Bの発射準備に入っていた。
「情報共有確認。第一目標捕捉。距離30㎞。」
「第二目標捕捉。距離同じく30㎞。」
「SSM-1B発射!」
護衛艦『あさひ』から搭載されている2基の発射筒から艦対艦誘導弾2発が発射される。
SSM-1Bは、固体燃料ロケットエンジンのブースターを激しく燃やし、加速させ目標であるハルディーク皇国艦隊の旗艦及び副旗艦に向かって進んでいく。
ーーハルディーク皇国 バルザック艦隊 先遣隊
副旗艦『イーゴス』
「何だったんだ…今の飛行物体。まぁいいか、良し!敵艦との距離が30㎞近くあるから、射程距離内まで全速前進との命令だ!向こうもこんな距離があっては仕掛けようにも仕掛けられまい。」
副旗艦『イーゴス』の艦長、エルベ・ジーゴン将軍は、海兵達に指示を送る。周りには複数の砲艦に囲まれており、旗艦『モノセロス』は更に奥にいる。取り敢えずは、敵に頭を落とされる心配はない事を改めて確認すると大きく息を吸って艦橋へと移動しようとした。その時ー
『敵艦より煙発生!!!同時に何かが雲を引いて飛び出しました!!!』
「は、はぁ⁉︎」
エルベ将軍は急いで上甲板の望遠鏡を覗くと、確かにニホン軍の艦から何かが噴き出してきていた。それは長い雲の線を引いて遥か彼方へと伸びている。
「な、なんだアレは⁉︎そ、総員警戒態勢!!!対空迎撃用意!!!」
海兵達が急いでハンドルを回すとハッチが開き、両舷の構造部から何かが複数現れる。操縦席と思われる所には1人の海兵が搭乗し、複雑なレバーやハンドルを握っている。
目標に命中するまでほんの僅かな瞬間ではあったが、空中を飛行していた『八咫烏』がそれを空撮する。
それは『高射機関砲』に見えた。
対空兵器を早速操縦しようとしていたその時ー
「ッ⁉︎アレはなんだ!!!」
水平線から火を噴く槍のようなモノが、猛スピードでこちらに向かって来ていた。更にもう一方にもそれが現われ、副旗艦『ミューラ』へと向かっていた。海兵は急いで艦橋へ報せようとするが、『火を噴く槍』は既に、前方にいた砲艦の間を通り抜け、目と鼻の先に来ていた。
直前、エルベ将軍はその『火を噴く槍』を一瞬だけ目にする。
「……えっ?」
そして、2発のSSM-1Bは、見事ハルディーク皇国艦隊の副旗艦2隻に命中。副旗艦『ミューラ』と『イーゴス』は、激しい大爆発を起こし、鉄の残骸となって海の底へと沈んでいった。
戦闘描写は資料本などを参考にしながら何とかやってる状況です。




