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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
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第79話 動き出すハルディーク皇国

悲報:プリン食べたら銀歯取れた。

ーーハルディーク皇国 皇都ハル=ハンディア



皇城前の大広場にて、多数の国民達がガスマスクを装着し待機していた。これから皇府から緊急の宣告が始まるとのことだった。



「一体何が始まるのだ?」


「ほら、先日の…」


「あぁ、あの皇城で起きた騒動か?」


「何でも裏切り者を捕らえるためだったとか…」


「おれはクーデターだって聞いたぞ?」




国民達は一体何の宣告が起きるのか、互いにああでもないこうでも無いと話し合いをしていると前方にある演説台に1人の政務官が現れた。国民達は一斉にシーンっとなって、彼の発言に耳を傾ける。


政務官は音声拡張魔法具を使い、高らかに話を始めた。



『偉大なるハルディーク皇国の民達へ告ぐ‼︎先日‼︎我が国に巣食う蛆虫…一部の政務官達と先代皇帝ヴァルゴ・ガピオラを捕らえ、投獄した!』



この言葉を聞いた国民達は一斉にざわついた。

まさかあの時の騒動で捕らえられたのが、ヴァルゴ皇帝だったなど誰も予想していなかったからである。


国民全員が困惑していた。



『静粛に‼︎…諸君らが動揺するのは分かる。だがしかし、それによって我がハルディーク皇国は生まれ変わり、新たなる皇帝にして指導者様が誕生した‼︎』



政務官がこのように話すと彼の後ろから1人の豪華な服装をした男…オリオンが現れる。入れ代わる形で今度はオリオンが話を始める。



『親愛なる皇民諸君…新皇帝のオリオンだ。突然の事で色々と困惑している事は分かっている…だが、どうか受け止めてほしい。』


「「………。」」


『我が父…ヴァルゴがニホン国から雇われていたスパイであったという事実を‼︎』


「「ッ⁉︎」」



突然の事実に国民達は大きく困惑したが、オリオンは演説を続ける。



『非常に嘆かわしいことだ‼︎あの新興国ニホンにいつの間にか飼い慣らされていたのだ!実に許せん‼︎だから私は…我が国…そして我が国の民達と永遠の絆を結んだ傘下国のために……父とその一派を捕らえたのだ!』



国民達はざわついた。



「どういう事だ?ヴァルゴ皇帝は裏切ったというのか?」


「元々パッとしない皇帝だったな。」


「なんかオリオン様の言葉には…力があるように感じるな。」



この様子を見てオリオンはニヤリと笑い話を続ける。



『我が偉大なるハルディーク皇国は、先進的な業と奇跡の技を誕生させた‼︎…我に従う者には…外からの脅威や害悪な環境に怯えぬ暮らしを…そう遠く無い未来に実現させる事を誓おう。その為には、更に広範囲に我が国の勢力圏を広げる必要がある!あの我らをコケにしたニホン国とて例外ではない‼︎我等の栄光への道…それを邪魔する国を滅ぼそうぞ‼︎我がハルディーク皇国こそが……この世界を統べる国なのだ‼︎』


「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」」



大広場が大歓声に包まれる。


大手を広げてその大歓声を全身で受け止めるオリオン。その目は途轍もなく強い野心に満ち溢れていた。そして、演説台の後ろ側にいた他の幹部達は、これから始まる世界統一に向けた第一歩に歓喜していた。


オリオンは両腕を下ろすと再び高らかに宣言する。



『我がハルディーク皇国は、現勢力圏外へ向けて徐々に拡大する必要がある‼︎その偉大なる道への第一歩として、最初に仕掛けるは……ニホン国だ!あの蛮族国家は我が国を侮辱しただけでなく、差し伸べた慈悲の手を払い除け、唾を吐きかけた‼︎…これは許させる事ではない‼︎』



オリオンの言葉に同調する国民達の声が聞こえる。



「そうだそうだ‼︎」


「蛮族どもは殺せ!」


「ニホン国を滅ぼせ!それが俺たちの総意だ‼︎」



この声が段々と増えるとオリオンはニヤリと笑い演説を続ける。



『言わずもがな今ここで改めて宣言しよう……ハルディーク皇国は、ニホン国とその同盟及び友好国に対し、宣戦布告をする‼︎‼︎』


「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー‼︎‼︎」」



大歓声と拍手が皇都を覆う。


オリオンは両腕を高く突き上げて国民を更に奮い立たせる。


「「オリオン!オリオン!オリオン!オリオン!」」



鳴り止まない拍手とオリオンコール。完全に国民を掌握したオリオンは近づいてきた側近に耳打ちをする。



「(『リトーピア』の議長、モイセスに至急連絡せよ…これよりハルディーク皇国が戦争を行うとな。)」


「(ハッ!)」





ーーハルディーク皇国 『ユートピア』



巨大な地下空間へと続くデカくて長い通路…その通路は普段は人気は殆ど無いに等しいが、重く…そして…大多数の足音が響き渡る。その足音は乱れる事のない行進であった。


淡い地下通路を埋め尽くし、行進していたのは、『ユートピア』にて造られた装備を身に纏った、ハルディーク皇国軍隊であった。彼らは一糸乱れない行進で地上へと続く通路を進んでいた。


ドラムとシンバル、ラッパの力強い音色が響き渡ると兵士達から軍歌が響き渡る。



多くの兵士や武器兵器、軍用車両も多数の見られるその軍事パレードは正に列強国の象徴とも言える程不気味で…壮大なものであった。この行進を見る限り、その威厳はかなりのものであった。



「先ずは上々ですね……蒸気装甲を身に纏った『合成獣キメラ』、レバー式ライフル、蒸気装甲兵、蒸気飛行兵、蒸気戦車etc…爽快な光景ですね。」



自国の軍の行進を高いところから眺めていたのは、王族顧問のソニーであった。すると彼の後ろから1人の男がやって来た。



「はぁ…はぁ…ただいま戻りました。」



かなりの疲労が溜まっていたのだろうか、その男は息を切らしながら胸に手を当てて声を掛ける。ソニーは後ろを振り返り返事をする。



「おやおや、随分と早く着きましたね…ヨルチ。」



その男はヨルチであった。ヨルチはボロボロの身体で大きな荷物を持っていた。



「……始まるのですね、戦。」


「えぇ…お陰様で。」


「……イール王国も標的ですか?でしたら私に行かせて下さい!…あの国の地形は知り尽くしています。あの国と…あの国にいるニホン人達を殺してやる!…仲間達の仇だ‼︎」


「…ヨルチ、貴方の部下と仲間達がやられてしまった事はとても残念な事だと思いますよ。長年死線を越えてきた仲間達がいなくなるのはとっても辛くて寂しい事だ。でもね、今重要なのは他にある。」


「他に?」



ソニーは彼の後ろにあるモノを指差した。



「その荷物…中身は何ですか?私はとっても気になりますねぇ。」



ヨルチは荷物の結び目を解く…そして出てきたのは…。



「ニホン国の『鉄の人形兵』…の残骸です。」


「……デドリアスとカプリコスを呼んできます。」



ソニーは初めて見る謎の兵器…『鉄の人形兵』を見て気分が高揚していた。すると其処へ1人の兵士が慌てた様子でやって来た。



「し、失礼します!ソニー様!」


「どうしましたか?」


「に、2年前にレムリア共和国へ向けて出航した蒸気船『ドゥマ』が帰還しました!」



『ドゥマ』と呼ばれる蒸気船は、2年ほど前レムリア共和国への連絡船として出航し、霧の壁を越えて行った船である。



「ほう…『ドゥマ』がですか。少し時間が掛かりましたから少々心配してましたから…良かったです。これから『秘密の入江』へ向かいますが、その慌てようだと…『また』みたいですね?」


「は、はい…」








ーーイール王国 自衛隊第五駐屯地



イール王国と国交を結び、国内の外れにある荒れた土地を『借りた』日本は、其処に自衛隊基地建設を進めていた。


其処へ1機のCH-47がやって来た。CH-47はゆっくりと着陸すると其処から数人の白衣を着た人達と『CケアWウォーカー』が降りて来た。



「ようこそ!イール王国へ!…私は自衛隊第五駐屯地の司令、滝沢たきざわ勝重かつしげです!」


狭山さやまです!此方こそ!よろしくお願いします!早速ですが…」


「えぇ分かってます!これから王城の方へご案内させて頂きます!」



降りて来た白衣の人達…『MSFJ』そのうちの1人にして団長の狭山さやま泰平たいへいが降りて来た。


2人はプロペラのモーター音に負けない声で軽く挨拶をした後、近くに停めてあった高機動車とトラックに乗って王城へと向かった。


その理由は…王妃アデールの診察と治療である。




ーーイール王国 王城 正門前



狭山達を乗せったトラックが正門をくぐると、すでに多数の従者と衛兵達が出迎えていた。そして、奥から小走りで近付いてくるギーマ国王。



「どうも。『MSFJ』の団長や狭山でー」


「よく来てくれたーー‼︎ささ!早く!妻を診てくれ!早く早く!」



挨拶する事なく半ば強引に引っ張られながら連れて行かれる狭山。必要な医療器具を降ろしていた他の団員達はポカーンとした様子で眺めていたが、直ぐに必要最低限の荷物を持って、後を追い掛ける。




ーー王妃室



王妃室では大きなベッドで弱々しい呼吸で横になっていた。側では心配そうに見守るメイド達が半泣きの状態で立っていた。



バターーンッ‼︎



「アデール!医者だ!前に話したニホン国の医者が来たぞ!」


「こ、国王様!大きな音と声を上げないで下さい‼︎」



メイド達から一斉に叱られたギーマ国王はショボンとなってしまってが、直ぐに狭山に診て欲しいと伝える。



「さ、サヤマ殿…よろしく頼む…。」


「あ、はい。」



狭山は先ず王妃の顔色を伺う。


見るからに苦しそうに息をしている。聴診器をとって呼吸音を聴取する。



コヒュー…コヒュー……コヒュー…



掠れたような、十分に上手く呼吸が出来ていない呼吸音が聞かれる。案の定、血中酸素濃度は70%台弱と正常値よりかなり低い。チアノーゼも見られる。



(こりゃあ不味いな…)



其処へ遅れてやってきた団員達が急いで道具を広げる。


直ぐに酸素マスクを装着し、血圧や脈を測っていく。狭山はケースから採血用の注射器を取り出して採血の準備を始める。


ギーマ国王達は目の前で起きている事が全く理解できずにただ眺めていた。自分達の知っている医療とは次元が違い過ぎているため、今目の前で作業しているのは医療なのか?と疑問に思うほどであった。



「良し…王妃様。貴女様の血液を調べる為に血を採っていきます。少しチクっとしますが、我慢して下さい…では駆血帯を巻いていきます。」



王妃は返事はしなかったが、狭山を見て軽く頷いた。最早怖がる余裕すらない様子だった。


王妃の腕に針が刺さり、それに繋がっているガラス製のカプセルの様なモノに血液がドクドクと流れていく様子を見ていたギーマ国王達は目も当てられなかった。



「良し…早速シリンダーを『CケアWウォーカー』にセットして検査だ。」



狭山は血液の入ったシリンダーを仲間に手渡す。それを『CケアWウォーカー』の腕にセットするとピピっと音と同時に頭部の画面から『測定中』の文字が出てくる。


次に持ち運び式のX線検査機を組み立てる。そして、何枚かの胸部写真を撮るとその画像を見て団員達は眉をひそめる。



「この影は何でしょう?」


「場所的に考えて……結核か?」


「ですが結核以外の症状も見られます。」


「他の何かか?」


「癌の可能性もある…。」


「これ…胸水だな。」



こうなのかどうなのかと話していると血液検査が終了していた。その時に出た検査値を画面を通して見てみると全てが滅多に見れない程のデタラメな異常数値ばかりで、益々困惑する。


すると狭山はある一点に注目した。



「……特に高いのが……好酸球だな。」



ある病気が頭によぎる狭山…近くのメイドに話を聞いた。



「すみませんが…他にどんな症状が?」


「へ?えーっと…激しい咳や血の混じった痰、発熱や胸の痛みもありますね。」


「うーーん…まさかこれは……『CケアWウォーカー』の設定を変えてもう一度検査をするぞ。」


「分かりました…で、どのように?」


「…寄生虫関連に設定しろ。多分これは…『肺ジストマ症』って奴だ。」




ーー数時間後



多くの点滴薬の呼吸器に繋がれているアデール王妃。ギーマ国王達は、部屋の外へ出て妻の容態がどうなるのか不安に思いながらただジッと待っていた。すると、部屋から出てきたのは団員の1人であった。ギーマ国王は詰め寄る様に彼へ近づいた。



「つ、妻の容態は⁉︎」


「い、いま治療薬を投与して症状は落ち着いてきてます。体力の消耗と食欲不振もあってかなり弱っていましたが…何とか峠は越えそうです。」


「そ、そうかッ!…そうか……そうか…」



ギーマ国王は涙を流し、感謝の言葉を贈ると、狭山も部屋から出てきた。



「お!説明は受けたみたいですね。」


「おぉ!サヤマ殿‼︎…お主達には感謝してもしきれん‼︎…妻の病気はなんだったのだ⁉︎」


「…王妃様は『肺ジストマ症』という病気を長年患っていました。」


「は、はいじすとま症?」



ギーマ国王を始め、周りにいる側近達が互いに顔を合わせ、キョロキョロしていた。



「肺ジストマ症とは…まぁ簡単に言ってしまえば、肺の中に虫が入って、其処で卵を産んで孵化して成長するにあたり悪さをする病気ですね。」


「「虫⁉︎」」



虫が身体の中に入って悪さをしていたという言葉を聞いた途端に全員の顔が真っ青になった。しかし、特に驚く様な反応では無い。誰だって自分の体の中に悪さをする虫が寄生している何て話を聞いたら鳥肌ぐらい立つだろう。



「……そ、それで今治しているのだな⁉︎」


「えぇ…専用の薬を投与していますので…」


「はぁ〜…良かったぁ。」



側近達からも安堵の表情が見られたが、狭山は1番気になっていた事を聞いた。



「あと…すみませんが、王妃様は何かお薬をお飲みになられていますか?」


「む?薬?……おぉー!確かにあったぞ!名前はわからんが、時折やってくる旅の薬屋から高値で買っている薬だ!その薬を飲むと妻の容態も良くなるばかりか、元気にもなるのだ!…もしかしたら、その薬を飲んでいたからこそ、間に合ったのかも知れんなぁ。」


「その薬を見せて頂くことは可能ですか?…いや、出来れば一粒だけでも頂ければぁ…」


「もう妻が治ると分かったのだ!今あるその薬全てを渡そう!」



実は狭山にはもう一つ気になる事があったのだ。狭山は血液検査の結果から、まさかと思い、導尿して尿検査も行い、ある検査を行った。そして、最悪なことにその検査結果は『陽性』だった。



(……まさかとは思ったが…本当に麻薬反応が出るなんて。王妃様は肺ジストマ症と言うよりも重度の麻薬症状によって死に掛けていた。)



その後、狭山達はその薬を受け取ると急いで駐屯地へと戻り、その薬について詳しい検査を始めた。





ーーハルディーク皇国 皇室



豪華絢爛なる皇室。そしてかなり大きい派手な椅子に座るオリオンの姿があった。オリオンはかなり満足気な様子で深々と椅子に座り、電話の様なものを使っていた。



「あぁ……そうだともモイセス殿。我らはもう止まる事はない…賽は投げられたと言うやつだ。」


『ーーーッ⁉︎ーー!ーーー‼︎ーーー!』


「なに?戦争はやめなさいだと?…誰に向かって口を聞いているのだ?…他の列強国と戦争するよりはマシだろ?……下手に説教をするのなら……リトーピアにも攻め込むぞ?」


『っ!……ーーー?』


「本気さ!今のハルディーク皇国は間違いなくこの世界で最強の国と言っても過言では無いのだ‼︎…他の列強国は自国のことで精一杯では無いか?……分かるな?これ以上指図するので……あれば…」


『ーーーッ!……ーー?』


「まぁ……取り敢えずニホンを滅したら5大列強国会談で後々の事は話すつもりだ。もう良いな?切るぞ。」



チンッ……



電話を半ば強制的に切ってしまった。オリオンは深い溜息の後、クスクスと笑う。



「クックックッ…俺たちが新たな秩序を作ってやる!…トニーはいるか?」



2人の衛兵と一緒にトニーか部屋に入ってくる。



「お呼びですか?皇帝陛下。」


「直ぐにマグネイド大陸全体に『傭兵召集令状』を出せ。各地の名のある傭兵、賞金稼ぎを集めよ。」


「ん?何故です?正規軍ではダメなのでしょうか?」



オリオンは首を横に降るとニヤつきながら答える。



「敵の動きを知る…その為の尖兵だ。チェスでも先に出すのはポーンからであろう?…ドム大陸のクドゥム藩王国から内通を得た。商隊に扮して、クドゥム藩王国経由で『ウンベカント』に潜入…街とニホン軍基地に火を掛ける。」


「なるほど……そこで混乱していた所を我が軍の艦隊で攻め込む。」


「そしてニホン国を完全に包囲して、周辺国との連絡を絶たせる。ジワジワも弱らせてから…本軍を上陸させて…終了だ。」


「……分かりました。ではそのように…」



トニー達が部屋から出るとオリオンは壁に貼ってあった世界地図を眺める。そして、ドム大陸が描かれた場所にバツ印をつける。



「ニホン国を亡き者にし…他の列強国も潰し…第2世界へ進出する。レムリア共和国など、全世界を統一した後の我が国の敵では無し!」






ーーハルディーク皇国 秘密の入江



ハルディーク皇国のとある海岸…岩礁だらけの海岸にポッカリと空いた大きな穴ぐら。そこを進むと怪し気な灯篭が所々で灯された妙に薄暗い秘密の入江…〝隠れ港〟『レレミータ港』。


ココでは、ハルディーク皇国にとって決して公には出来ない貿易や商売取引などが行われる場所である。


普段であれば複数隻の他国貿易船などが停泊しているのだが、今日に限ってはたった一隻の船にその港にいる人達は注目していた。






「ふぅ…やっと着きましたか。それにしても蒸気駆動車は速いですなぁ、もうこれからは馬車の時代ではありませんね。」


「ま、全くですねぇ。…ではお早く!『ドゥマ』の方へ。」



蒸気駆動車に乗ってやってきたのはソニーであった。彼は車から降りると少し急ぎ足で港へと向かい、一隻の船に目が入る。



「また随分と…派手にやられましたね。」




そこに停泊していた船とは、2年前に第2世界のレムリア共和国へ向かった連絡用蒸気船『ドゥマ』であったが、その姿はかなりボロボロの状態で所々から黒煙が上がっていた。港の作業員達は、水の入ったバケツで消火作業にあたり、船からは続々と死傷者を運び下ろしていた。


『ドゥマ』の船体や甲板には夥しい数の矢や槍、弾痕などが残っており、その死闘ぶりが鮮明に想像させられる程である。



「ソニー様…報告させていただきます。『ドゥマ』の損害は大破に近いレベルです。全乗組員45名中死者28名、重軽傷者12名、行方不明者5名となっています。」



その報告を聞いたソニーは眉をひそめ若干の不快感を露わす。



「……無事なものはないワケですね。バイル船長は?」


「……戦死してます。副船長も、甲板長も…」


「そうですか……」



ソニーは甲板に上がりその状態を確認すると、メインマストに一枚の紙が矢で固定されていた。それは血文字で乱暴に書かれていて上手く読み取れないが、かなり強い恨み言葉が書かれている事は確かであった。



「……襲撃してきたのは…やはり『オワリノ』の野蛮人どもですか?」


「間違い無いかと……レムリア共和国へ向かうには必ず『オワリノ国』を通る天然の大運河を進まなければなりません…要は敵対勢力のど真ん中を進まなければいけないわけですから…戦闘は避けられせん。しかし、ここ数年でその国のからの奇襲があまりにも激化しつつあります。」


「ふむ…被害は増えるばかりか。」



すると近くにいた衛兵が質問してきた。



「しかし…何故わざわざそんな航路を?地図を見れば普通に迂回して海からレムリア共和国へいけそうですが…。」



ソニーは呆れたように溜息を吐き、衛兵の質問に答える。



「迂回しようにもその海域は少なからずあの霧の影響が出ている。おまけにあの海域一帯は、海獣どもの巣窟だ。レムリア共和国ならまだしも我が国の軍事レベルでは到底太刀打ち出来ない…レムリア共和国からの迎えも期待できない。飽くまでコッチは下手に出ているからな。」



しかしこの被害はあまりにも酷かった。幾ら旧蒸気船と言えども、武装した蒸気船が未だに弓矢と剣を主力とする国の兵達に潰されるのは腹わたが煮えくりかえる様な気分だった。


生き残った兵士達の顔色からも恐怖の表情が出てきていた。ソニーは「近代兵器を持ってこの有り様…恥を知れ!」と口に出そうとしたその時ー



「ヒィ〜〜〜‼︎‼︎来るなぁー!来るなぁー!」



1人の治療中の兵士が突然悲鳴を上げて怯え始めた。周りが押さえ落ち着かせようするがなおも悲鳴を上げ続けている。そして、彼は周りの制止を振り切り、ソニーの方へ駆け寄る。しかし、途中で躓き盛大に転んでしまう。



「……る………つらが…来る。」



男はうつ伏せの状態で何かをぶつぶつと呟いていた。



「……『サムライ』が…来る…『サムライ』が…『化け物サムライ』が…『鬼』が……ま、『魔人族』が…。」


遂に始まる日本VS列強国


ハルディーク皇国軍の軍歌のモデルは、平沢進さんの『パレード』です。


色々と原曲とズレるところはありますが、あくまでイメージ、モデルとして受け止めて下さい。

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