第78話 第2世界とは…
地図が上手く出来ない…手描きはやっぱり難しい。
ーー昨日 国会議事堂 会議室
時は少し遡る事昨日前、ネイハムと亜人族国家の王達による会談での出来事である。
「レムリア共和国……詳しい事は私にも分かりませんが、強大な軍事国家です!」
ネイハムの言葉に亜人族国家の王達は絶句する。広瀬達は深い溜息を吐いてどうしたものかと口に出す。
「ネイハム殿、分かる範囲でいい。そのレムリア共和国の情報を教えて頂きたい」
バハムートの言葉にネイハムは頷く。
「は、はい。レムリア共和国は先ほど申しました通り、その軍事力は強大で……恐らくはヴァルキア大帝国と同等もしくはそれ以上の力を有しています」
「なるほど。貴国はそのレムリア共和国と繋がっていたと? だがあの霧の壁をどう越えて来たのだ? あの霧の向こう側へ行くことは不可能なはず」
「確かに……普通に霧の中へ進めば、また入り口へ戻されてしまいます。しかし、たった1つだけ壁の向こうへと繋がるルートがあったのです。そのルートは、15年前に僅かではありましたが、我が国と彼の国の交易ルートとして使っていたものです。しかし、ヴァルゴ皇帝は、レムリア共和国の力を恐れ、そのルートを隠して来ました。しかし、我々は見つけたのです」
「そのルートを……ではそこから行って向こう側へと行くことも可能なのだな?」
「そういうことになりますね」
するとドヴェルグが立ち上がり頭を掻き毟り出した。
「あーーもーーー‼︎ ややこし過ぎる! 俺たちが生まれる前に何があったんだよ⁉︎ 第2世界⁉︎ レムリア共和国⁉︎ もっと一から十まで教えてくれい‼︎」
そこで南原が手を挙げて答える。
「そういうと思いまして、一応吾々の方で簡単にまとめたモノを作成しました。ではあちらのスマートガラ……お、大きいガラスをご覧下さい」
南原がスマートガラスをスライド操作している時、全員が思った。
((最初からそうしてくれよ))
ーー
霧の壁を越えた先には、現在では『第2世界』と呼ばれる世界が存在する。元々は霧などは存在しなかったが、約500年前に突如発生したことにより、我々がいる世界と完全に隔たれてしまう。
霧の壁の向こう……そこには3つの大陸が存在する。
◇レムリア共和国
◇ローゲウス大陸
当時ローゲウス大陸は『魔の大陸』と呼ばれ、どういった国が存在しているのか皆目見当がつかない。噂ではかの魔人族が移り住み、『ガルヴァス王国』を再建しているとのこと。
◇キトゥア大陸
20カ国の国々が存在し、中には準列強国が5カ国も存在している。
ーー
「これが霧の壁の向こう……『第2世界』ですね」
ウェンドゥイルとアビジアーナはヒソヒソと話をしている。
「やはりでしたな。噂では神の裁きで滅び、霧が発生したと聞きましたが、まだ存在していたとは……」
「うむ。ワシは400歳じゃから当時の事は父上から聞いたのだが……バハムート殿達はこれらの事について何か聞いた事はありますかな?」
バハムート達は互いに顔を見合わせた後、1人づつ答える。
「私の国ドラグノフ帝国は、知っての通り滅多な事で他国と関わることはないし、興味も無いのでな」
「俺は、採掘したモノの輸出や建設でそんな国があったって噂を聞いた事はあるが」
「私も噂程度なら……でも御伽噺話だと思ってたし」
3人ともレムリア共和国だけでなくそのほかの国々についても、これと言った話を聞いた事がない様子だった。
「どうやらほかの皆様もこれと言った情報は無いみたいですね広瀬さん」
「そうみたいだねぇ……アビジアーナ氏も結局は人から聞いた程度だろうし、1番の事情通はウェンドゥイル氏かな?」
広瀬と南原はコソコソと話をしていたが、その内容が彼らに聞こえることはなかった。そして、広瀬はウェンドゥイルに質問した。
「ウェンドゥイルさん、長寿種族の貴方様は何かご存知で?」
ウェンドゥイルは静かに頷き、口を開く。
「え、えぇ……500年ほど前に確かに存在していた3大陸です。これはあんまり関係はありませんが、魔人族は確かに存在してきました。まぁ長寿種のエルフ族でも魔人族を知っている、会ったことがある者は私も入れてほんの僅かですが」
この言葉にほかの亜人族国家の王達や広瀬達はざわついた。魔人族は実在していと言うが、その確信的な証拠は殆ど存在しておらず、嘘か真かハッキリしていなかったのである。例えるなら、地球に巨人族の遺骨や伝承はあるが、それが事実なのか嘘なのか……どちらもハッキリとした証拠がないのと似ていた。
そもそも魔人族は忌み嫌われた存在であるため、仮にそう言った証拠がかつて存在していたとしても、その殆どが燃やされるなどで処分されたとのこと。
「話を戻しますね。レムリア共和国は、その存在が確認されてから数年間は、他国との交流を一切拒み続けて来たのです。その為、どれ程の文明で、どんな民族・種族がいるのかすら分かりませんでした」
「まさに超鎖国国家っというわけですな。後、一つ気になることが」
「なんでしょうか?」
広瀬はウェンドゥイルのある言葉に一つの疑問を抱き、質問する。
「存在が確認された……とありましたが、それまで近隣の国々が気付かなかったのはどうも気になります。まさかとは思いますが、レムリア共和国は我が国と同じ様に、別の世界から来たのではありませんか?」
「……とある国の話では、ある夜突然彼方の水平線が緑色に輝き始めだと同時に、それまで存在していなかった大陸が現れた…とのことです」
「「ッ⁉︎」」
広瀬の言葉に他の大臣達は驚いた。まさか日本以外にこの世界に転移して来た国が存在していたという可能性が出て来たことに。
「広瀬総理、これは……」
「うーん。その国と何らかの形で接触出来れば良いんだけどね。ウェンドゥイルさん、どうか続きを……」
「は、はい……だからどの国も船や翼龍で近づこうとしましたが、突然やって来た『光の雨』によって、吹き飛ばされてしまったとのことです」
防衛大臣の久瀬は、その国は高い性能を持つ銃火器を有している可能性を考えた。
「我が国は、バハムート殿達と同じ様に他国には大して興味などありませんでしたけど、私はどうしても気になってしまい、ごく稀にやってくる冒険家から話を聞いていました。そこで驚くべき事を知ったのです」
「驚くべきこと?」
「その国は突然、『覇』を唱えて来たそうです。」
「『覇』を? つまりそれは侵略?」
ウェンドゥイルの話では、突然の他国に対する強襲によってその大陸が『レムリア共和国』である事が判明。多くの国々が滅ぼされてしまう。しかし、その国がどう言った武器を使ったのかは明らかになっていなかった。少ない生き残り達は『火を噴く巨大なバケモノ船』、『轟音の怪鳥』とだけ話していた。
多くの国々が滅ぼされた事により、当時7大列強国の国々は同盟を組んでレムリア共和国と戦おうとも考えていたが、そのが実現する事はなかった。
その前にレムリア共和国が突然濃霧に包まれてしまったからである。他の2大陸も巻き込んで。
「……以上が私の知る全てです」
「むぅ、そんな危ない国であったとは……アビジアーナさんは何か?」
「ワシは知ってる事知らない事全て、ウェンドゥイル殿が話されました。いや、一つだけありますかな」
「それは?」
「うむ、レムリア共和国はその侵略戦争を『聖教化戦争』と話されていた。つまり宗教国家ですな」
広瀬達はアビジアーナの言葉を聞いて、頭を抱えた。宗教根強く絡むのはかなり面倒な事になる。この間保護したエドガルドの話で聞いた、クアドラードの話を思い出す。
「……これでハッキリとしましたな。やはり自衛隊基地を各地へ建設し、あらゆる脅威に対抗するという必要性が」
「ですが、抜け道があっても向こうは超えて来ようとしません。この霧を利用して、向こうが攻め込んでくる場所を特定し、そこだけを重点に監視していけば大々的な基地は必要無いのでは?」
「だかよぉ、もしもって事も考えれば必要だろ? 全部ってわけじゃねぇが、アメリカの中東地方での戦闘も直ぐに駆けつけられる基地がある事が必要不可欠だったって事が戦後改めて重要になった事もあるしよ」
大臣達は自衛隊基地の必要性の有無について話し合いを始めたが、それとは関係なしに広瀬がネイハムに質問をする。
「ネイハムさん、貴方は実際に第2世界へ行った事は?」
「い、いえ、ありません。ですがレムリア共和国は既にキトゥア大陸を占領していると聞いています。それと、レムリア共和国の国教は『メルエラ教』と言うそうです。あの国は聖神メルエラを信仰し、それ以外の宗教は『邪教』としているそうで。キトゥア大陸の国々は、『聖教化』により強制的に改宗させられたと」
「……他には?」
「レムリア人の大半は、『聖教化』された国の民を邪教の苦しみから解放したと信じ込んでおり、その国の人々は『偉大なる聖神メルエラの導きを与へ、本来の使命を与える』と聞いています」
「その、本来の使命とは?」
「まぁ色々ありますが、要は隷属化ですね。」
それは実質植民地化である。『聖教化』という聞こえのいい様に言ってはいるが、その中身は植民地として支配する事を意味していた。
「あのぉ、一つ聞いてもよいですか?」
手を挙げたのは安住であった。
「まぁ第2世界やレムリア共和国についてあらかたの事は分かりましたが、あの『霧の壁』の正体については?」
「それは……」
ネイハムはチラリもバハムートの方へ目を向けた。バハムートはなぜ彼が自分を見たのか分からなかった。
「あの霧の正体は……ある生物から造られた魔法の霧なのです」
「ある生物?」
「……古代龍です」
「「ッ!」」
古代龍…それはバハムート達が乗ってきた巨大な龍である。
「さらにレムリア共和国は、近年その霧の正体に気付き、元凶となる古代龍を始末しようと躍起になっています。あの霧を生み出している古代龍は第2世界側に生息しています」
広瀬は南原へ耳打ちする。
「『始末しようとしている』……つまりこちら側へ戻ろうとしているって事になるよな?」
「やはりその可能性はありますね……第2世界は既にレムリア共和国の手に落ちたとなれば、次は我々のいるココへ」
ネイハム氏は話を続ける。
「これは私が知る最後の情報です。これはニホンの皆様にも話しそびれていた事です」
ネイハムの言葉に全員が注目した。
「レムリア共和国は第2世界で、ただ1カ国だけ500年近い間、落とせない国があります。彼の国はその国が古代龍を守っていると考え、その国への『聖教化』をより一層激しくさせているそうです。」
「どれほどか分かりませんが、そんな長い年月の間も独立を保つ国……気になりますな。」
「その国の名は、『オワリノ国』です。」
会議室が再びざわつき始める。特に亜人族の王達は違和感だらけの国名に驚きと疑問を抱く。
「お、『おわりのくに』?」
「変な名前だな」
「名前からして謎の多そうな国だな。他に分かる事は?」
ネイハムは少し考えついた後に答える。
「えーーーっと……これはわたしも半信半疑なのですが……元々は『ガルヴァス王国が再建されていた場所』との噂がありますが、まさか……ね?」
大臣達はその『オワリノ国』に何か違和感を感じ考えていたが、広瀬がある事を思い出した。
「オワリノ国、オワリノくに、おわりの……尾張……ん? 尾張?」
ネイハムはその時の広瀬の様子をジッと見つめていた。そして、何かを確信したのか小さく頷く。
それから数十分後、会談は無事に終了となり、翌日の明朝にウェンドゥイル達は古代龍に乗って、日本を後にした。
ーー時は戻り…日本国 首相官邸 とある一室
広瀬はいつもの広い和室のど真ん中である歴史書を読んでいた。
「オワリノ…尾張、尾張しかねぇよなぁ。……お前さんはどう思うよ? 田中」
奥の暗がりから1人の小汚い男が静かに現れてきた。
「なんだ……知ってたんですか? いつからです?」
「うーーん……部屋に入る少し前からかな?」
「最初からじゃないですか……はぁ、引退した貴方に簡単にバレるようじゃぁ正直凹みます」
「ハハハッ! そんな気に病むな! お前さんは十分俺の後釜を務めているよ!」
田中一朗、黒巾木組の一員である。
「まぁそんな事よりも……ほれ、これ見てみ?」
田中は広瀬なら手渡された資料を取って眺める。そこには第2世界の事、レムリア共和国の事、そして、ガルヴァス王国と書かれていた所は二重線が引かれ、赤字でオワリノ国と記載されていた。そして、日本国の尾張(愛知県西部)の地図と歴史書。
「ふむふむ………ほほぅ、『オワリノ国』ですか」
「だよなぁ…県西部これは偶然か?」
「ふむ、日本だけでなくレムリア共和国も移転された事を考えれば……」
「考えれば?」
田中はクスクスと笑いながら答える。
「ふふ……日本の歴史上の人物がやって来た。そして、その人物は当時の尾張国のモノがそのガルヴァス王国をオワリノ国へ変えたと? しかし、何故この事をネイハム氏は敢えてガルヴァス王国と最初に我々へ教えたのでしょうか?」
「そうなんだよなぁ……まぁ単に言い忘れ? もしくは、あの各国がいる中での全員の反応を見たかったとか?」
「ん? それは何故ですか?」
「さぁな……だがその時のあいつの顔、何か確信に近いものを得たような顔だった」
次の瞬間、田中の目つきが変わった。その目は冷たく鋭い。見たものを凍えさせるような目だった。
「どうしますか?」
「まだ様子見だ……だが、油断は禁物」
「分かりました」
田中は広瀬へ先ほどの資料をスッと返すと広瀬はそれを受け取り、自分の横へと置いた。そして、フッと田中の方へ目を向けたが、そのには既に田中はいなかった。
「……はっや」
広瀬は誰もいない静かな和室から見える月を見て静かに呟く。
「一度組織を裏切る奴は何度でも裏切る」
その頃、ハルディーク皇国では自国を始めとする全ての傘下国に対し緊急宣告を行おうとしていた。




