第77話 『悪魔の息吹』その2
今回は少しグロ注意です。
ーー離れ町の小丘
暗闇の中、ゆっくりと草が生い茂る丘の上に着陸する第1号と第2号飛行船。着陸するや否や急いで下船し、生き残りを掃き出す様に降ろしていく。
「ほら!行け行け行け!降りろ!さっさとしろ!」
「急げ!は、早く!早く!」
「ほらほら!」
ガスマスクを装着していても、兵士達から恐怖が伝わって来るのが分かった。ナギアは捕らえた自分達をアッサリと解放した事に強い疑問を抱いていたが、他の生き残りは解放された事で命が助かったと思い喜んでいる。
「やったぁぁ!」
「な、なんだか分かんないが、解放されたー!」
「か、帰ろう!家に帰ろう!」
「ここは何処だ?」
「見たことあるぞココ…離れ町近くの小丘だ。」
この言葉を聞いたナギアは驚いた。まさか降ろされた場所が婚約者のいる離れ町近くだとは思ってもいなかった。
「ど、どういう事だ?何故ココに?…それに、奴等の焦り様…気になる。」
しかし考えてもどうしようもない為、ナギアは急いで離れ町へと向かった。
そんな彼らの様子を早速飛び出した1号船と2号船の観察官は眺めていた。
「バラバラに動いたぞ?大丈夫なのか?」
「問題無い…まだ『効果範囲内』だ。データ上では問題ない。」
ーー離れ町 上空
『離れ町の上空に到着後しました!』
『良し!投下準備!』
『投下準備よーし‼︎』
『……投下‼︎』
『投下投下‼︎』
第3号飛行船の投下用ハッチから複数の木箱が落ちて行った。それは、離れ町の広間へと真っ直ぐ…真っ直ぐ落下する。
ーー離れ町
相変わらずお祭り状態の離れ町…その中央付近の家の屋根に何かが物凄い勢いで落下してきた。
ガシャーーン‼︎
「ッ⁉︎な、なんだ⁉︎」
突然の音に町の人々がざわつき始める。すると今度は広場の中央に何かが落ちてきた。それは、食事が並べられたテーブルを上へと落ちて、破壊してしまった。
「何事だ!屋根の煉瓦が落ちたのか⁉︎」
町の人々が落ちてきた物を確かめ様とする。するとそこにあったのは、1つのボロボロとなった木箱だった。木箱は、落下の衝撃で箱と呼べない程に壊れてしまったが、中身は布袋に詰められており、おそらく無事だった。屋根の上に落ちてきた物も同じであった。
しかし、その布袋から出て来る煙の様なものが彼らの鼻を突き刺していった。
「ウッ!なんだこの匂い⁉︎」
「は、鼻にツーンと来る‼︎」
1人の町人が袋を開けてみると、中には燃えカスとなった大量の葉っぱがギッシリと詰められていた。
「な、なんだこりゃ⁉︎」
「オーーーイ!なんだ匂いは⁉︎」
そこへ町長がやって来た。彼は顔をハンカチで覆い、涙目で走ってやって来た。
「強烈な匂いが町中に広がってるぞ⁉︎ワシの屋敷までだ!何かあったのか?」
「ち、町長!これ見てください!コレが突然空から…」
「なに!」
町長は恐る恐るその箱へと近づくと中身を見た。そして、暫く見つめた後にあるモノを思い出す。
「コレは…まさか『極楽草』なのか?」
「え?ご、ごくら…え?」
「なんですか…それ?」
「いや、極楽草はハルディーク皇国にしか存在しない特別な草…なんだが、私も一度だけ見ただけで…はて?一体どんな効能があったかなぁ?」
「は、はぁ?…でもなんでそれがこんな所に?空から降って来たんですよ?」
「う、うーん…わざわざ燃えカスで煙を立たせているのもなんだか…と、とにかく土を掛けて埋めてしまおう。」
町長の声掛けによりお祭りは一時中断して、強烈な異臭を放つ『極楽草』を処理していた。
「ひでぇ匂いだったなぁ…うわぁ…服に匂いがこびり付いてらぁ。」
ーー小丘近くにて
ハルディーク皇国に捕らえられていた生き残り達は、取り敢えず近くの離れ町へと一旦向かって行った。月明かりも殆ど照らされない平原であったが、荷馬車などが何度も通って出来た町への道を頼りに進んでいた。
「それにしても…なんでハルディーク皇国がこんな事を…。」
「属国とはいえ、味方に対してこの様な事…許される訳がない!」
「早く離れ町に戻ったら、軍駐屯所に向かって進んで行こう。この事を他の兵士達へ知らせるべきだ!」
ナギア達は、自身が体験したハルディーク皇国の凶行を直ぐにでも人々に知らせようと話し合いながら離れ町へと向かっていた。
「望まぬ形であったとはいえ…彼女に会える…なんだか緊張するよ。」
すると突然、1人の男性が歩みを止めた。他の人達は何故彼がピタリと止まったのか分からず、早く進ん様声を掛けるが、反応は無かった。
「お、おい?どうした?」
「何かあったのか?…おい?」
男は口を開けてポケーっとしていて、反応は無かったが、少しその口元が動き何かを話している事に気付いた。
「……いだ……なぁ……て……て…ない。」
「は、はぁ?」
なにを独り言で話しているのか分からなかったが、その声が次第に大きくなるにつれ、表情も、ニヤついた顔になっていく。
「良い匂い…だなぁ……愛しくて愛しくてたまらない。」
「に、匂い?…何言ってー」
「気付かないか⁉︎この匂い…なんだか分からないがそのぉ〜…本能的に欲しくて欲しくてたまらない匂いだ!…もうそれが無いと生きていけない…そんな感じが心の底から火山の如く勢いで湧き上がって来る‼︎」
彼の目はとても正気とは言えなかった。しかし、彼の言葉の通り、何か匂いを感じる言葉確かだった。すると、1人…また1人と彼と同じ様な状態になる人が出て来た。
「本当だ‼︎……欲しくてたまらない匂いだ‼︎」
「欲しい…欲しい……オ…れ…おれの…ダ…ダ…ダ。」
「何処だ‼︎ど…コだぁ?匂いは…ど…コ?」
明らかに皆んなが狂い始めていた。目は血走り、焦点が合っていない。口は歯茎を剥き出して、だらだらとヨダレを出している。しかし、最も恐ろしいのは…そんな彼らと同じ感情が湧き上がってる自分が恐ろしいと、ナギアは感じていた。
(気分が悪いわけじゃ無い…でも動悸が強くなる…その度に何ともいない高揚感が湧き上がって来る。…あの匂いだ……アレを嗅いでからみんなも自分も可笑しくなってる……あの匂い…匂い……愛しくて…イとシクて…たまらなイ……アレが欲しい……あのニオイのすル奴を手に入れレバ……全ての苦しみから…解放サレる…そんなキブん…きぶん…キブン…キブンキブン…な……ル。)
遂には生き残り全員が狂った様子となり、ぎこちない歩みをしながらゆっくりと歩を進めていた。その姿はまるで…ゾンビそのものであった。
そして、彼らが匂いに釣られて辿り着いた離れ町…その町から匂いが来ていると知った彼らは……怒りに満ち溢れた…恐ろしい形相となった。
「「アレガあそこニある……アイツラに…渡さない………ゼンぶ…俺のだ‼︎‼︎」」
すると彼らは一斉に狂った様に走り出した。中には四足歩行の動物の様に駆けて行くものもいた。
デタラメな走りと狂った様な叫び声を上げながら走り抜ける姿は、人ではなく『人の形をした化け物』であった。
離れ町の出入り口にいた警備兵は、いつもの様に退屈な時間を過ごしていたが、暗闇の奥から正体不明の集団が町に向かい走って来るのに気が付いた。
「誰だ?あいつら?」
「さぁ?…取り敢えず通行証を見せてもらわん事には中には入れない。」
集団は町の入り口へと向かっている。門番が前に出て声をかけた。
「止まれー!通行証を見せろ!」
集団は止まらない。近づくにつれて走り方がおかしい事に気付く。
「ん?止まれーー!」
集団は止まらない。近づくにつれて呻き声の様な…叫び声に近い声が聞こえて来る。この声を聞いた途端、門番達はゾッとした。
「と、止まれー!止まらんかー‼︎」
数人が一斉に門番に飛びかかった。掴まれた門番はそのまま地面に押さえつけられてしまう。もはや組みついて来た彼らは人間とは思えない恐ろしい顔をしていた。
「フシューー!フシューー!…する…匂いがスルゥ〜〜〜…。」
門番は必死に振り落そうとするが、組みついて来た集団は落ちていた石や木の枝などを使ってメチャクチャに門番を殴り始めた。
「うぎゃャャャャャーーーー‼︎」
もう1人の門番は目の前で起きている現実に呆然と眺めていた。ふと我に帰ると剣を抜いて仲間を襲っている集団を斬りつけて助けようとするが、同じ様に剣を握っていた男が門番に斬りかかって来た。その男は他でもないナギアであった。
咄嗟に避けようとするも首元を斬られた門番は、血を吹き出しながらその場に倒れこむ。
集団リンチを受けていた門番は、顔面をメチャクチャにされた状態で虫の息であった。
「コイツラジャアナイ…もってナイ……ドコニある?」
集団は遂に離れ町へと入って行った。そして、町のから人々の悲鳴と絶叫、そして化け物の様な叫び声が至る所で聞こえ始める。
ーー離れ町上空にて
「それはつまり……『悪魔の息吹』で耐性のついた人間は、その場で生物兵器になると?」
飛行船の中で船長とデドリアス、カプリコスが一室で酒を飲みながら話をしていた。
「その通り…『悪魔の息吹』の原材料は、様々な有害物質もそうだが、1番の主成分は『極楽草』。それも過度に使用した時に発症する重度の臓器破壊…これを大量に…高密度に濃縮され1つの塊のなったのが…」
「『悪魔の息吹』…。」
「その通りだ。…しかし知っての通り、『極楽草』の真骨頂はその強すぎる依存作用。…大抵の人間は『極楽草』による臓器破壊と有毒物質の含まれたガスによる呼吸器不全で死に至る。…だが、耐性を持つ人間は死に至る事なく、蘇生する作用も持ち合わせている。」
その言葉を聞いた船長は、窓から見える離れ町を見た。離れ町は、先ほどまでの祭りとは打って変わって、地獄と化している。
「そ、その耐性を持つ人間が…あの様なことに?」
「あぁそうだ…。毒ガスの免疫を得た代わりに、彼らの身体には、極楽草の強すぎる依存作用が埋め込まれている。そして、極楽草の匂いを嗅ぐと…自我を失うほどの強烈な依存作用に襲われ、極楽草を求め走り続ける。同時に脳内に強力な興奮作用が働いて攻撃的な性格となる。…目の前に移る人間全てが、自分達が求める『極楽草』を奪っていると錯覚してね。」
「つまり…極限なまでに怒っていると?…超攻撃的性格に変わると?」
カプリコスは笑いながら答える。
「くっはっはっはっは‼︎…理解が早いな!今のあいつらの眼に映る全てが敵に見えている。…たとえ肉親だろうが何だろうが…彼らにとっては『極楽草』を得る事が何よりも重要なのだ……『今の』彼らにとってはな。」
2人の笑い声が部屋いっぱいに広がる。船長もそれに合わせて笑みを浮かべ用とするが、明らかな作り笑顔しかできなかった。
今地上で起きている残酷な状況を考えるとゾッとするが、自分が今空にいるという安心感も感じていた。
ーー離れ町
町の中は地獄とかしていた。所々の建物からは火が広がり、人々の無残に殺された死体が至る所に倒れていた。
「な、何だこいつらは⁉︎よ、よせ!…ウワァァァァーー‼︎」
「来るなぁ!来るなぁ‼︎」
次から次へと襲われる町人達…狂った集団は、剣に木の棒、石、クワや刺又など町に落ちているモノを拾っては、デタラメに振り回して襲い掛かる。
町長は傷だらけになりながらも銃を構えて応戦していた。
「お、おのれぇ!人の皮を被った悪魔どもめ‼︎」
ダァーーン‼︎
引き金を引いて銃を撃った。銃弾は男の胸を貫通したが、男は止まる事なく無我夢中で町長に襲い掛かる。
「ヨコセ‼︎…オレノモノダ‼︎…お前から匂いがスる‼︎…オレのだ!オレノモノダ‼︎‼︎」
男は町長を押し倒すと同時に持っていた鎌を何度も振り下ろす。他の集団も加わり、各々が持っている武器を使って、町長を滅多刺しにする。
「グァ‼︎…うぐ‼︎…や、やめ…ウワァァァァーー‼︎」
飛び散る血と臓物、そして悲鳴。町長が死ぬと掻っ捌いた腹部を無理やり手で開き、何かを必死に探そうとするが、何も見つからなかった。すると男達は地面を何度も殴り、悔しそうな叫び声を上げた後、血みどろだらけのまま、別の方向へと走って行った。
殺されまいと必死に抗う町人達。槍や弓矢などを使って必死に抵抗するが、集団は身体を槍に突かれても、矢を射られても、剣で斬りつけられても、一向にその勢いは止まらない。
聞こえて来るのは
「オレノモのだ‼︎」
「オレニヨコせ!俺にヨコセ‼︎」
「盗っ人ドモガ殺してヤル‼︎コロセ殺せ‼︎」
殆どが叫び声に近い声であった。表情は人間とは思えない形相で殺意に満ち溢れた目つきをしていた。
離れ町の中心部で、ロレーナは必死に逃げていた。ロレーナの付き人達も彼女を守ろうとしていたが、回り込まれてしまい、あの集団に襲われてしまう。
「お、お嬢様はお逃げください‼︎」
「早く逃げて下さい!」
ロレーナは見捨てることは出来ないと拒むが、付き人達が必死に説得する事で何とかその場から逃す事ができ、近くの建物へと避難した。しかし、それからすぐに建物に集団が雪崩の如き勢いで侵入して来た。
ロレーナは咄嗟に部屋にあったクローゼットに入り、息を殺しながら身をひそめる。
同じ建物に隠れていた人達の悲鳴が聞こえて来る…中には子供の声も。
ロレーナはお腹をさすりながらこのまま生き残れる事を…将来の伴侶であるナギアとの再会を祈った。
(お願いします!どうか…どうかッ!)
ギギーー……
部屋に誰かが入って来る。最初は逃げて来た町の人かとおもったが、荒々しい獣の様な息づかいと声から直ぐにあの集団の1人である事に気付いた。
「フシューー!…フシューー!…匂い…ガする……チカイ…ドコダ?……オレのモノだ…カエセ…カエ…セ‼︎」
あまりの恐怖で涙がポロポロと流れてしまう。そして、ふと隙間から部屋の様子を伺うと、信じられない光景が彼女の目に映った。
「な、ナギア?…貴方なの⁉︎」
ロレーナはクローゼットから勢い良く飛び出した。確かに部屋にいたのはナギアだった。しかし、それはもうナギアであってナギアではなかったが、今の彼女にとってはそんな事よりも彼がここに居る事の喜びの方が大きかった。
「ナギア…ナギアよね?……私よ!ロレーナよ‼︎」
「………。」
ナギアは返事する事なくロレーナの方を見つめていた。
「貴方に……貴方にずっとずっと会いたかった……」
「………。」
ロレーナはゆっくりとナギアの方へと近づく。ナギアは何をする事でもなく、その場から動かなかった。
「貴方にね…伝えたかった事があるの……赤ちゃんよ…貴方との赤ちゃんが出来たのよ。」
この言葉を聞いた途端、ナギアは反応する。
「お、俺の…?」
「ッ⁉︎そうよ…貴方のよ……これからは…一緒に
…3人で暮らそう?」
ナギアはゆっくりとロレーナの方へと近づきながら、手を伸ばし…彼女の頰を撫で始める。
「ロレーナ……」
「ナギア…ナギア…」
ロレーナが彼に抱きつこうとした。次の瞬間…
ズブッ!……
彼女の腹部に何か鋭い痛みが走る。
「………えっ?」
彼女は腹部の方へと目を向けると、ナギアが剣を深々と突き刺していた。
そして、彼女の頰を撫でていた彼の手が爪を立てながら彼女の顔を思い切り掴む。
「ロレーーーーナァァァーー‼︎‼︎オマエが……オレノモノを盗んダのカァァァァ⁉︎⁉︎このアバズレがぁぁぁぁーーーー‼︎‼︎」
ナギアの顔は怒りの形相へと変わり、彼女の腹部を何度も…何度も…何度も深々と剣を突き刺し続けた。
「シネェェェ‼︎死ねぇぇぇぇ!盗っ人女ガァァァーーーー‼︎‼︎」
ロレーナはどす黒い血を口から大量にボタボタと流しながら、苦悶の表情を浮かべてその場に倒れこむ。目からは涙が流れており、静かにナギアを見つめていた。
ナギアを倒れた彼女の腹部を引き裂きながら中身を探り始めた。その時の搔きわける不気味で不快な音が、部屋に響き渡る。
「ドコダ…ドコダ!…どこだドコダドこだ‼︎」
その途中で彼は、切断された小さな足を摘みそれを取り上げる。しばらくそれを見つめた後、壁に投げつける。
「チガウ‼︎コレジャナイ‼︎」
その後、彼は部屋を後にして出て行った。
無残な死体となった…未来の妻となる筈だった幼馴染をそのままにして…。
終始状況を飛行船から観察していたカプリコスとデドリアスは、満足した様子で互いのグラスで乾杯していた。
「我らが生み出した最高の兵器『悪魔の息吹』…その成功と…」
「近く行われる戦争…その勝利が確実のモノとなった事を祝して…」
「「乾杯…」」
グイッと一気に飲み切った後に響き渡る2人の笑い声。それと同時に聞こえてくる轟音…
『目標!離れ町…撃て‼︎』
ドォォーン‼︎ドォォーン‼︎
飛行船に搭載された砲門から撃ち出される砲弾が離れ町に降り注がれる。崩壊する建物…爆散する人々…実験を終えた後、用済みとなった彼らはもはや邪魔者でしかなかった。
「実験のご協力…感謝するぞ。低文明国家の『ゴミ』共諸君。」
爆炎により燃え盛る町、倒壊する家屋、人々の悲鳴…それら全てが砲撃が降り注ぐ毎に強くなる。
「だ、誰か‼︎助けー」
「ちくしょう‼︎一体全体何が起きてんだーー⁉︎」
地獄と化した町の中を這いずるナギアがいた。ナギアは砲撃に巻き込まれてしまい、両足が無くなっていた。しかし、彼はそれでも『ニオイ』の元を必死に探していた。
「ドコだ⁉︎どこだーーーー‼︎」
そして遂に…見つけた。極楽草が埋められた場所を見つけ、そこを無我夢中で掘り起こす。
「お、おぉ、おぉぉぉぉぉーーーー‼︎」
ナギアは歓喜の雄叫びを上げると同時に土まみれの極楽草を必死に口の中へ入れて貪り始める。ジャリジャリと音を立てながら頬張る。すると、彼の目が少しずつ何時もの目に戻っていく。
「はぁ〜〜〜〜〜…ん?俺は何を?…ハッ!ココは…離れ町⁉︎な、何故砲撃を受けている‼︎…そ、そうか分かったぞ…ハルディーク皇国だな‼︎」
彼は剣をとって立ち上がろうとするが、上手く立てない。足が吹き飛んでいる事に気付くが彼はそれどころではなかった。
「あ、足がッ!…そうだ、ロレーナ⁉︎彼女は無事なのか⁉︎ロレーナは⁉︎」
彼は必死に彼女の名前を口にするが、聞こえてくるのは砲撃と悲鳴だけだった。
「帰ると…一緒に暮らすと約束したんだ……俺はッ!俺はー」
自分が手にかけたと知らずに…返ってくることなど無い事も知らずに彼は必死に彼女の名前を呼び続ける。そして、彼の意識は直撃してきた砲撃と共に消えていった。
飛行船でひたすらに砲撃を続ける船員達も気が引けていた。いくら傘下国でも民間人を虐殺するのは決して気分が良いものでは無かった。しかし、彼らが異常に不気味だと思ったのが、カプリコスとデドリアスの2人だった。
2人は豪火で燃え盛る町と人間を眺めながら高らかに笑い続けていた。その光景は正に『悪魔』そのものであった。
その後、マグネイド大陸内のハルディーク皇国傘下の国々で謎の崩壊現象が発生するという事件が世に広まる。グワヴァン帝国もその内の一国であった。
ーーハルディーク皇国 とある牢獄
ピチャン…ピチャン…
地下に作られた牢獄…多くの地下牢と地下水が滲み出ており湿気がひどい。決して良い環境ではなかった。その牢獄の奥にいた1人の老人…ヴァルゴ皇帝であった。
コツ…コツ…コツ…コツ
誰かが地下牢へと降りてきて、彼らのいた牢の前で止まった。その人物は、ヴァルゴ皇帝の息子…オリオンであった。
「今の貴方にはお似合いの場所ですね……父上。」
「くっ…オリオン!」
「……我が国は、この私…オリオン体制の下着実に変化しつつあります。私の意に賛同してくれた7割近い政務官。残りの…父上側の政務官3割…内半分以上は私の方へ寝返りましたよ。残りは我が体制の反逆者として処刑しました。」
「…国を手に入れて満足か⁉︎お前ごときが他の列強国に対抗できるのか⁉︎」
オリオンはニヤリと笑う。
「えぇ…勿論です。」
「…まんまと私を騙したっと言うわけか。」
「父上……あの時なぜ…『レムリア共和国』との交易を拒んだのですか⁉︎あの国とのパイプを得れば、我が国は間違いなくヴァルキア大帝国をも凌ぐ最強の国になり得たと言うのにッ!」
ヴァルゴ皇帝は答えなかった。オリオンは話を続ける。
「…まぁいい…私は、15年前から彼の国との交易を再開してます。」
「ッ⁉︎な、ほ、本当なのか⁉︎」
「本当ですよ。あのユートピアの建設技術も、あの国から教えて頂いたものです…まぁあの国にとっては昔の技術らしいですがー」
突然ヴァルゴ皇帝が身を乗り出すような勢いでオリオンに迫り、檻にぶつかった。いきなりの事に驚いたオリオンは一瞬身を引いてしまう。
「こ、この愚か者め‼︎なんたる事をッ!」
「な⁉︎…お、愚か者は貴方でしょう‼︎我が国の国益を損なう彼の国との『断交』の道を選んだ貴方はー」
「国益などッ!…そんなものはどうでも良いのだ‼︎」
「アギロンを使ってのクアドラード連邦国家宗教戦略!最初は父上の考えた戦略と思っていましたが、アレは中身は違えど、その基礎はレムリア共和国に模して行っていたのではないですか⁉︎」
「ッ⁉︎気付いていたか。だが、あの国と国交を断絶した後だ!それをどう使おうが関係ない!」
お互い息を切らしていた。そして、オリオンはニヤリと笑いなが話を続ける。、
「は、ははは…貴方がどうこう言おうが俺に関係無い…既に始まったことよ。」
「まさか…本当にッ」
「…そうです‼︎我がハルディーク皇国とレムリア共和国は今度こそ正式に国交を結んだのです‼︎勿論、公にはできませんが。」
「バカなッ…あの濃霧を越える方法など…アレは魔法の霧だ!」
オリオンは見下すような表情でヴァルゴ皇帝を見る。
「くくく…何故レムリア共和国があのユートピアの建造技術を我々に教えることが出来たのか……先ずそこに疑問を抱きませんかな?」
「ッ!」
ヴァルゴ皇帝は檻に阻まれながらも身を乗り出す勢いで詰め寄る。
「あるんですよ‼︎…濃霧を越える方法が‼︎…まだ完全ではありませんが…東の濃霧を越えるただ1つのルートを通じてレムリア共和国と国交を行っているのです!」
「なっ⁉︎み、見つけたと言うのか⁉︎あの道を⁉︎」
「まだ我が国と繋がっていた時に使われていた霧の道…貴方は上手く隠してきた…苦労はしましたが我々は見つけたのです!貴方がずっと隠してきたあの道を!そして、彼の国と再び繋がりを得ようと我々は近づいた。それだけではありません!レムリア共和国は『霧の正体』にも気付いてます。そう遠くない未来いずれは全ての霧を晴らして『戻ってくる』…っと彼の国は約束しました。」
ヴァルゴ皇帝は落胆していた。遅かれ早かれ彼の国は再び戻ってくる可能性があった事に…
「お前は…何という愚かな事を…」
「父上…私は何もレムリア共和国の属国になると言う訳ではありません。利用するのです…彼の国の力を…そしてー」
「お前は何も分かっていない‼︎…あの国とは……あの国だけは……決して関わるべきではない‼︎あの国の恐ろしさをお前は何も分かってない‼︎」
オリオンはいつにも無く真剣に話すヴァルゴ皇帝の言葉に何かを感じるが、既に引き返せないところまで来ている事もあり、特に返事をする事なくその場を後にしようとする。
「……オリオン…我が息子よ……忘れるな、お前が彼の国を利用しているのではない…彼の国がお前を利用している事に…。」
「…ふ、フンッ!」
オリオンは心の底から煮えたぎる苛立ちを抑えながら、地下の牢獄を後にする。