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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
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第76話 『悪魔の息吹』その1

本日は久し振りの2話連続投稿です。




ーーハルディーク皇国傘下 グワヴァン帝国 帝都 中心街



クアドラード連邦国家との戦争から暫くたった後、合成獣キメラによる壊滅的な被害も少しずつ復興の道へと進んでいた。


帝都の街並みも何時もの日常に戻りつつあった。しかし、今日ばかりは違っていた。


帝都の中心街を始め、様々な場所に帝国兵が展開し武器を構えながら配置についていた。路地の隅や広場、屋根の上、中には地下通路にも配置されていた部隊もいた。


一般市民達は、何故兵士達がこんなにもたくさん居るのか全く分からず、不安な気持ちを抱えながら仕事やら復興作業に取り組んでいた。しかし、そんな不安を抱えているのは市民だけでは無かった。


実は兵士たちも何故このような事になったのかさっぱり分からなかった。まるで敵がこの帝都へ攻め込んでくるのに備えているかのようだった。しかし、命令を受けてから暫く経つが何が起きるわけでもなく、兵士たちの中には、退屈しのぎに剣や槍、銃の手入れをする者も少なくなかった。



「ったく!何だってこんな事に…これだったらさっさと復興作業を手伝ってたほうがずっといいのによぉ。」


「しらねぇよ…上からの命令だ。」



広間で陣を張っていた兵士達は皆苛立ちを隠せず、不満な気持ちを口に出していた。するとそこへ指揮官が現れる。指揮官は、ダラけていた兵士達に喝を入れようと注意していた。



「コラ!お前達!何をダラけている!」


「し、指揮官殿‼︎」


「申し訳ありません!…ですが…」


「なんだ!」


「こ、これは一体…何を想定しての…配置なのでしょうか?帝都中に兵を展開させるなど…まるでこれから市街戦が始まるかのような…」


「そ、そうです…皆んな…不安に思ってます……一体何が起きるのですか?」



部下の言葉に指揮官は怒ることなく困った表情で黙ってしまう。



「し、指揮官殿?」


「…ないのだ。」


「え?」


「我々にも全く分からないのだ。将軍達もだ…これは…皇帝陛下直々の命令…理由は本当に分からない…だが、命令に背くわけにはいかない。」


「…し、将軍様達もですか?」


「だ、だから黙って命令に従うしかない…いいな!」



兵士達は納得がいかなかったが、これ以上聞いてもどやされるだけと思い、黙っている事にした。



「何だよ…何だってんだよ…ん?ナギア?お前何見てんだ?…手紙か?」


「え?あ、あぁ!…離れ町にいる幼馴染からの手紙なんだよ。…へへ!1ヶ月に結婚するんだ!」


「おぉ!マジかよ‼︎」


「ちっくしょ〜!やるなぁ!」


「だ、だからさ…早くこの仕事終わらせて、町に戻るんだ!…早く会いたいよ。」




帝都の正門にある見張り高台にいた兵士達も訳がわからない上からの命令にブツクサと文句を話していると、1人の兵士が空を見て何かに気付いた。



「んぁ?何だあれは?」



それは少しずつ近づいて来た。そして、それは翼龍の類ではない事もすぐに気付いた。



「アレは……ひ、飛行船だ!…サヘナンティス帝国の飛行船だ!」



見張り高台から鳴り響く敵襲を知らせる鐘音が帝都中に鳴り響く。市民達は屋内へと避難し、兵士達は武器を構えながら襲撃に備える。



「だ、だが何でサヘナンティス帝国なんだ?」


「噂じゃあ、ハルディーク皇国がサヘナンティス帝国に破壊工作をした報復じゃねぇかって話だ!」


「そもそも飛行船もってんのサヘナンティス帝国だけだ!その飛行船を使って攻め込んで来るのはサヘナンティス帝国しかいない‼︎」






ーー帝都上空 飛行船内



『目的地に到着!繰り返す!目的地に到着!』


『グワヴァン帝国帝都!目標地点周囲には多数の兵が展開されています!』


『投下用意!』


『投下用意完了!』


『命令待て!』



船内は兵士達が慌しく動いていた。その様子を眺めていた…オリオンと彼の隣には飛行船の船長もいた。



「速度は翼龍よりも遅いがより強力な兵器とより多くの兵を運べる…この飛行船は素晴らしいな!」


「ありがとうございます…サヘナンティス帝国の飛行船科学は素晴らしいものでしたよ。独力だけでしたら後20年は掛かっていたでしょう。」


「そうか…ところで『悪魔の息吹』はどうだ?」


「それなら彼処に…」



船長が指差した先には、ワイヤーで固定し吊るされた1つの『黒いカプセル状の塊』があった。アレが『悪魔の息吹』である。


吊るされた『悪魔の息吹』の下には、投下用のハッチがあり、すぐ横にはハッチを開けるための大きなハンドルを2人の兵士達がそれを握り、いつでも開ける準備をしていた。



「よしよし…いいぞ。取り扱いには注意しろ、下手に衝撃を与えればコッチが危ないのだ。」


「言われるまでもありません。」


「失礼します!」



1人の兵士が現れ、状況報告をする。



「グワヴァン帝国の兵士達が大砲や銃で攻撃して来ました。」


「お!そうか、あの皇帝には兵士達を帝都中に展開させるよう命を出していたなぁ。本船の被害は?」


「いえ!ここは上空850mですので、グワヴァン帝国の兵器ではココまで攻撃は届きません。翼龍ならともかく…」


「ふむ…実戦を想定しての作戦だからな。ある程度の損害もやむなしと思っていたが…被害はゼロか。」


この言葉聞いたオリオンはクックックと笑い始めた。



「そうか……クックック!そうか!」



そして、窓から見える帝都を眺めながら小馬鹿にした顔で呟く。



「文明の低い国は…哀れだなぁ〜。恨むのならそんな国に生まれた自分自身を恨むんだなぁ?まぁ…最後に我が国の役に立って滅びるのだから、有り難く思え。…グワヴァン帝国の王族達は?」


「ハッ!王族達は財産全てを持って、指定の場所へ避難しております!」


「あの皇帝は、最後まで身の安全を保障してくれるか否かの確認をして来ましたなぁ。確か事が済めば、我が国の隷貴族として迎えいるのでしたね?」



グワヴァン帝国の皇帝は、彼らが帝都に来る前日…命令を下してすぐに王族貴族と共に財産を持って逃亡していた。



「簡単に国を捨てる愚王だ。…隷貴族となってからは、その財産全てをジワジワと縛り尽くしてくれようか。…さてさてもう時間だな……観察官の準備も良いな?」


「ハッ!いつでもいけます!」


「よし……投下だ。」



オリオンの言葉の後から、電線管を使って飛行船全域に投下の命令が下る。



『投下開始!』


『投下!投下!』



投下用ハッチが開かれると同時に、『悪魔の息吹』のワイヤーが外されて…帝都中心へ向けて落ちて行った。



絶えず聞こえて来る銃声と砲音が帝都を包む。しかし、一向に飛行船に届く気配が無かった。



「クソ!翼龍騎士団はまだか⁉︎」


「そ、それがまだでして…」


「バカモン!早くせぬか!」


「は、ハッ!」


「ハルディーク皇国は何をしているのだ⁉︎列強国が攻めて来ていると言うのに援軍も無しか?」



指揮官達は苛立ちを隠せて無かった。敵が自国の…帝都の上空を悠々と飛行するのは屈辱的だった。届く事のない攻撃をし続けていると、何かが飛行船から落ちている事に気付く。



「何だあれは?…黒い…塊?」



それは真っ直ぐに中心街へと落ちていく…『悪魔の息吹』である。



「中心街へ落ちるぞー!」


「逃げろーー!」



中心街にいた兵士と市民達が我先にと逃げ出して行く。そして、中心街の地面に『悪魔の息吹』が落ちた瞬間ー



ブシュゥゥゥゥーーーー‼︎‼︎



軽い破裂音の後に紫色の煙が、まるで火山の噴火の如き勢いで溢れ出してきた。



「な、何だあれは⁉︎」


「に、逃げろ‼︎何だか知らんがヤバそうだ‼︎」



それは巨大な紫色の煙の壁となって、雪崩のようなスピードで帝都を中心から包み込んで行った。それは建物や人を容赦なく飲み込んで行く。



「く、来るぞー!」


「ウワァァァァーー⁉︎」


「う、ぐわ!何だ⁉︎」


「ひ、ひぃ!」


「助けてくれぇぇ‼︎」



屋根にいた兵士達も昇り上がって来る煙に飲み、地下通路にも容赦なく入って来る。



「うわ!」


「う!ッひぁ!」


「ゴッホ!ゴッホ!」



次々と兵士達や市民が紫煙に飲まれていく。その中の1人だったナギアは暫く身をかがめていたが、そっーと頭を上げながら辺りを見渡す。



「こ、この紫の煙はなんだ⁉︎…ま、周りが見えない…」



ナギアは手探りで辺りを慎重に、這うように進んでいく。聞こえて来るのは悲鳴ばかりだった。



「だ、誰かいないか!誰かー」



すると彼は何かに手が当たる事に気付いた。それが人の感触だと気付くのに時間は掛からなかった。



「お、おい!お前!大丈夫なのか⁉︎…おい!」



うつ伏せに倒れていた同じ兵士を何とか起こして声を掛ける。しかし、彼は衝撃的なモノを目にした。



「なッ⁉︎」



倒れていた兵士の口、目、鼻、耳から血がドクドクと流れていた。兵士は白目を剥いて、小刻みに痙攣する。そして、その痙攣が大きくなると突然事切れてしまった。



「これは…まさか、毒⁉︎ど、毒の煙か⁉︎」



咄嗟に彼は口元を抑えようとするが、何かが鼻から垂れるのを感じた。それは手に落ちていき、恐る恐る見るとそれは血だった。



「う、嘘…だろ…おい。」



次から次へと血が垂れて来る。次は目から…耳から…口から出て来る。必死に止めようとするが一向に止まる気配なかった。



(ふっざけんな!…こんなとこで…こんな事で死んでたまるかよ!)



気持ちとは裏腹に、段々と意識が遠退いていく、身体中から悪寒を感じ、力も抜けて行った。呼吸も苦しくなり、まともに息が出来なくなる。そして、遂には歩けなくなりその場に倒れこむ。



(イヤだ!イヤだ!死にたくない!…誰か…誰か…助けて……)



彼が最後に見た光景は、同じように身体中から血を流して倒れていく仲間達と市民達の姿だった。


彼は二度と起きることは無かった。



帝都の悲惨な状況を飛行船から眺めていたオリオンは満足そうな笑みを浮かべていた。



「ハーハッハッハッハ‼︎これは凄まじいな!見ろ!あっという間に広大な帝都が『悪魔の息吹』に包まれたぞ!」


「…中々惨い光景ですなぁ…身体中から血を吹き出して死ぬなど…」


「いや…それだけではない。」


「え?」



船長はオリオンの言葉を聞いて耳を疑った。これだけでも十分過ぎるほどの殺傷力を秘めているにも関わらず、まだ何か効果がある事に驚いていた。



「それはこれからだ……煙が晴れ次第、後方部隊を帝都へ向かわせろ!」



オリオン達を乗せた飛行船は帝都中に『悪魔の息吹』が包み込んだのを確認すると、来た方向へと戻って行った。




ーー数時間後


月すら出ていない不穏な夜空…そんな夜空を進んでいく十数隻の飛行船団が現れた。


彼らはハルディーク皇国の飛行船団で、新兵器実験場と化したグワヴァン帝国帝都から『サンプル』を回収と、『悪魔の息吹』の『真の力』が発揮されるかどうかの確認へと向かった。




『目標地点、グワヴァン帝国帝都を確認。毒ガスの有無を確認せよ。』



船員が望遠鏡で帝都の様子を見ると親指を立てて、毒ガスがない事を知らせる。



『毒ガス消失、これより着陸準備に切り替える。』



飛行船団は、とても人がいる気配がしない帝都の中心街近くの広場へと着陸する。飛行船からは、ガスマスクを付けた兵士達が一斉に下船する。



「良し!各班に分かれて、死体を集めろ!」



兵士達は班を作り、帝都中を進んでいく。途中で見つけた死体は専用のケースに入れて運ぶ。老若男女、大人に子ども…中にはペットの死体もケースに入れて、飛行船の中へと入れる。



「良し!順調に事が進めば1時間で終わる作業だ!急げ!」



次々飛行船へと運び出されていく死体。中には目を当てられないほどの無残な姿も存在し、運んでいた兵士が堪らずにそれを乱暴に投げ入れてしまう。



「ッ!馬鹿者!新兵器の効果を調べるための貴重なサンプルだぞ!もっと丁寧に扱え!」


「も、申し訳ありません!」



すると、ある班が路地裏近くを歩き、死体を捜索していた。



「酷い光景だ…観察官に魔導研究者、化学者共は運び込んだ死体を見て大喜びだったぜ。」


「…あいつら頭ブッ飛んでんじゃねぇか?」


「なぁ?…これ生存者って居るのか?」


「はぁ?居るわけがねぇだろ。あの死体見なかったか?あの毒ガスの殺傷力がどれほどのモノなのか分かるだろ?…居るわけがねぇ。」



班の兵士達がそんな会話をして居ると1体の死体を見つけた。



「…死んでるな。」


「間違いねぇ……ケースに入れるぞ。」



兵士達は死体を運びケース入れようとする。顔の至る所から多量の血が流れていた顔を見ると、強い吐き気が込み上がってくる。



「ウッ!…辛いなぁ。」


「しょうがねぇよ…早くケースにー」


「うぅ…う…」



突然死体から呻き声が聞こえた。兵士達は驚きのあまりに死体から離れてしまう。



「ヒィ〜‼︎う、動いた!ってか喋った!」


「ま、まさか!生きてんのか⁉︎」



死体はゆっくりと起き上がり、フラフラの足取りで歩いたと思いきや、建物の壁にもたれかかりそのまま座り込んでしまった。


息も荒れていて、明らかに苦しそうだった。兵士達はその様子を呆然と眺めていると、さっきまで死体同然だった顔にみるみると生気が戻っていくことに気付いた。



「お、おい…顔色が…」


「生き返った…のか?」


「そ、そんなの…あるわけねぇ。」



死体と思われた男は辺りをキョロキョロと見渡した後、立ち上がる。



「ここは…何処だ……ッ!誰だあんた達は⁉︎」



男はハルディーク皇国の兵士達を見るや驚き、腰に備えていた剣を引き抜いた。



「ッ⁉︎こいつグワヴァン帝国の警備兵だ!」



その男は…ナギアであった。ナギアは剣を構え兵士達に問いかける。



「お、お前達は誰だ!何処の国のものだ!あのガスはお前達がやったのか⁉︎…ッ!その紋章…ハルディーク皇国か⁉︎」



ナギアは兵士達のヘルメットに描かれた国旗を見て、ハルディーク皇国の兵だと気付いた。

ナギアは続けて兵士達に問いかけるが、兵士達は銃を構え、武器を捨てるようナギアに警告する。



「剣を降ろせ!せっかく助かった命を捨てたくはないだろう‼︎」


「……くっ‼︎」



圧倒的に不利な状況に、ナギアは為す術もなく剣を降ろし、捕縛されてしまう。兵士達は死体を集めろという命令しか受けていなかった為、取り敢えず船へ連れて行く事にした。


広場へと戻った彼らは、生き残った男をどうするか指揮官に聞こうとした時、ある事に気が付いた。なんと、他の班でも彼と同じような生き残りを何人か連れてきていたのだった。




「ッ!お、おい!お前達の班も生き残りを見つけたのか⁉︎」


「お前らも…みたいだな。取り敢えず連れて来たんだが…何で生きてんだこいつらは?」


「さ、さぁな。」



生き残りは一箇所にまとめられていた。そこへ船団の指揮官と魔導研究員、化学者達が現れる。彼らは生き残りを見た途端、喜びの声を上げて、互いに握手を交わし合う。



「せ、成功だ‼︎」


「やったーーー!」


「おめでとう!おめでとう!俺たちの苦労は報われてんだ‼︎」



全員がぽかんと彼らを眺めていた。なぜ生き残りがいたことが嬉しいのか…成功なのか…むしろ失敗ではないのか。


そこへ1人の男が現れる。彼はハルディーク皇国の大魔導士、カプリコス・カミュエスであった。さらに彼の後ろにはデドリアスも居た。



「喜ぶのはまだ早い!早く生き残りを乗せて、第2実験に移る!」



彼らは急いで生き残り達を船に乗せた後、飛行船団はある場所へと向かう。


飛行船団が再び悠々と空を進ん行く中で、甲板に立つカプリコスとデドリアスが風に当たりながら会話をしていた。



「デドリアスよ…『悪魔の息吹』生みの親であるお前は、この兵器は成功か?失敗か?」


「今の所は成功ですね。しかも想像以上の殺傷力…素晴らしい。」


「では…次の実験が成功すれば?」


「『悪魔の息吹』の完成だ。そして、次の実験こそ、『悪魔の息吹』の本領が発揮される。アレはただの毒ガス兵器ではない…それだけでは、ヴァルキア大帝国やレムリア共和国と渡り合う事など不可能だからな。」


暫く進むと離れ町が見えてきた。

次の実験はこの離れ町で行うことが決まる。



飛行船の格納庫、死体が詰められた沢山のケースに囲まれた檻には、多数の生き残り達がいた。その中にはナギアもいた。



「何処だ…何処へ連れて行く気だ?」



彼はこれから自分達がどうなるのか…不安を胸に抱いていた。しかし、そんな彼の心の支えとなっていたのは、将来を誓い合った幼馴染を思い出す。



(ロレーナ…俺は絶対に死なない!…必ずお前の元へ帰るからな。)





ーー離れ町


この小さな町は、今現在お祭りムードとなっていた。この町の娘ロレーナが、軍に入隊した幼馴染のナギアとの結婚が正式に決まった事により、彼女やその家族、親戚一同、町の住民全員が祝福していた。



「いやーーまさか俺たちの女神ロレーナちゃんが嫁いじまうとはなぁ〜…時の流れは早いもんだ。」


「全くだ!…にしても、あの弱虫の泣き虫だったナギアが相手とはなぁ。」


「幼馴染だったのは知ってたが、まさか両思いだったとは…あのヤロゥ〜。」


「ギャハハ!仕方ねぇよ!……ってかよぉ、帝都から来る何時もの夕刻の荷馬車がこねぇな?」


「そうなんだよ……それに、帝都の方角から何か紫色の煙みたいなのが出ていたのが見えたんだが…何かあったのか?」



町で1番大きな御屋敷、ここは町長の家である。家の中では豪華な食事や大勢の親戚達がグラスを片手に喜びを分かち合っていた。



「イヤイヤ!まさかワシの可愛い一人娘が、あのナギアを好いていた事は、私自身最近知ったのですよ!」



町長が親戚達と機嫌よく話をしていた。実はロレーナはこの町の町長の娘だったのだ。そんな彼女と幼い頃に出会い、毎日の様に遊んでいた中であった。


ロレーナは父とは少し離れた場所で、夜空を見ながら今もなお、懸命に軍人として人を果たしているであろう未来の夫を思っていた。



「ナギア…今から1ヶ月後が待ち遠しいわ。早くあって…貴方に伝えたい事があるの。」



ロレーナは優しくお腹をさすった。彼女のお腹の中には、ナギアとの子どもが宿っていたのだ。


ロレーナは早くこの事実を伝え、彼と喜びを分かち合いたい…これからの幸せな家庭を約束したい…そう願っていた。



「子どもの事を伝えたら…喜んでくれるかな?」



そんな事を月を眺めながら思っていると何かが月を横切るのが見えた。それはまるで鳥の群れのように見えなくもないが、姿形は鳥とは違う何かのようにも見えた。



「何あれ?……鳥?」






ーー飛行船団



『離れ町に到着しました‼︎』


『指示通りに行動しろ!生き残りを乗せた1号船と2号船は町近くの丘へ向かえ!3号船は町の中心部上空へ向かい作戦通りに行動しろ!』



最新の無線電信による指示を各船が受け取ると一斉に動き出して行った。残りの13隻は、『もしもの自体を考え』、砲門の準備を進める。



『良いな⁉︎全員十分に注意しろ!特に1号船と2号船は生き残りを下船させた後、すぐに上空へ退避!3号船も投下後はすぐに上昇しその場を退避!良いな⁉︎直ぐにだぞ‼︎直ぐだ‼︎』



船員達に緊張が走る。これから行う『悪魔の息吹』の最終実験は、それ程までに危険な事なのである。

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