第75話 ハルディーク皇国の秘密
ちょっと短めですみません。
ーー日本国 議事堂 会議室
広瀬総理を始めとする各大臣達と亜人族の王達が対面形式で大きな長テーブルを囲む様に座っていた。奥には大きなスマートガラスが設置されていた。
「そろそろいらっしゃる頃ですね」
南原副総理が腕時計を見ると、ドアをノックする音が聞こえて来た。そして、1人の男が部屋に入って来る。
ガチャ!
「し、失礼致します。ネイハム・エアドレッドです。こ、此度はどうもありがとうございました」
緊張した面持ちで入って来たのは元ハルディーク皇国の外務局局長のネイハム・エアドレッドだった。彼は用意されていたもう一つの椅子にゆっくりと座る。
広瀬総理はニッコリと笑いながらネイハムに話しかける。
「ネイハムさん、急に呼び出したりして申し訳ありませんでした。初めての飛行機は如何でしたか?」
「は、はい! 正直無事に着くことばかりを祈っておりまして。景色を眺める余裕はありませんでした」
「ハハハッ! そうでしたか……。ネイハムさん、此方の方々が説明していた亜人族国家の方々です」
広瀬が手を向けた先を見ると、バハムートが鋭い目つきでネイハムを睨み付ける。鋭い目に臆したネイハムは、思わず息を飲む。
「ど、どうも……」
亜人族国家の王達は、軽く頭を下げる。取り敢えず軽い挨拶を済ませた事を確認すると南原が話を進める。
「さて、ネイハムさん。我々が貴方様の亡命を認めた理由はお分かりですね?」
「は、はい……私が知っている限りの情報をニホン国を始めとする国々へ提供致します! 勿論、包み隠さずに全てをッ!」
「宜しいですね? では早速、貴方様が知っているハルディーク皇国の『秘密』……コレを話して頂きたい。我々も確認のためもう一度亜人族国家の方々にはより分かりやすくお願いします」
ネイハムは軽く鼻で深呼吸した後、静かに頷いた。
「ではお願いします」
少し咳払いをした後、用意されていた水の入ったグラスを一気にグイッと飲み干す。
「ふーはい。先ずはハルディーク皇国の秘密……これは大きく分けて2つ存在します。巨大な軍事技術開発研究所の『ユートピア』、そして皇国を再びこの世界で最強の国へと戻す為の『皇国再生計画』です」
ウェンドゥイルが手を挙げて質問をする。
「その『ユートピア』とはどの様なモノなのですか?」
「は、はい。『ユートピア』はハルディーク皇国の地下深くに造った巨大な空間で、そこでは日夜強力な武器兵器の開発に勤しんでおります。そこはオリオン派の人間のみが知っている場所で、ヴァルゴ皇帝はその存在を知りません」
バハムートは手を挙げて質問する。
「その軍事技術レベルは?」
「蒸気機関技術を軍事技術へと極限までに応用したレベルですね。しかし、我が国だけの技術レベルでは少し限界があった為、2カ国へ密偵を放ち、その国の軍事技術を盗もうとしました」
「その2カ国とは?」
「ヴァルキア大帝国とサヘナンティス帝国です」
5大列強国の中でも最も高い実力を有する2カ国の名前が出たことに、驚きを隠せないバハムートはそれは本当かと詰め寄る。
「ほ、本当なのか⁉︎」
「え、えぇ……ですが、ヴァルキア大帝国は失敗しました。守りが堅く、侵入すら出来ませんでした。しかし、代わりにサヘナンティス帝国の軍事技術を盗む事に最近成功したのです。それもあって、現在のハルディーク皇国の軍事技術レベルは爆発的に向上しています。恐らくは『飛行船』も開発し、純粋な軍事力で言えば、サヘナンティス帝国をも超えているでしょうね」
バハムートは頭を抱えてしまう。すると、ウェンドゥイルは再び手を挙げて質問をする。
「何故、皇帝であるヴァルゴは『ユートピア』の存在を知らないのでしょうか?」
ネイハムは少し俯いた後、静かに答える。
「元々ヴァルゴ皇帝は、国家移転計画を考えておりました。」
「国家移転計画? それは?」
「皆様も存じている通り、ハルディーク皇国は近代文明開発による環境汚染が最高レベルにまで悪化しており、とても生物が住めるような場所では無くなってしまいました。そこでヴァルゴ皇帝は、代わりとなる土地を見つけて、そこに新たなハルディーク皇国を移そうと考えていたのです……前の土地を棄て」
この言葉を聞いた亜人族国家の王達は、皆が溜息を吐き、「無責任だ」という言葉も聞かれた。実際、これを聞いた広瀬達も同じ様な意見であった。
「なるほど……それで、何故『ユートピア』の存在を知らないのでしょうか?」
「その『国家移転計画』の具体案、計画立案の任に名乗りを上げたのは御子息であるオリオン様だったのです。ヴァルゴ皇帝はオリオン様が計画を立てていると思っていました。しかし、実際は違っていました。オリオン様は地下に巨大な空間『ユートピア』を造り出していた。そしてオリオン様は『ユートピア』で造り出した武器兵器を使い、『クーデター』を企てていたのです。」
「ッ! く、クーデターだと⁉︎」
「なるほど、そりゃ父親には黙ってるわけだ。自分を蹴落す為の兵器を造ってるなんて知られたら、間違いなくオリオンは反逆罪で殺される。たとえ実の子であろうとな。」
今度はアビジアーナが手を挙げる。
「しかし何故そこまでするのだ? 場合によっては、話し合いで皇帝の座を受け継ぐ事も出来たであろうに」
「焦っていたか、それとも父親に深い恨みがあって、普通のやり方では満足出来ない……とか?」
ドヴェルグの言葉にネイハムは頷いた。
「焦っていたのもありますが、1番は恨み……でしょうか」
「何故そこまでして父親を?」
「わ、私も全てを知っているわけではないのですが。昔、ハルディーク皇国はある選択を迫られていました。『ある国』との国交を樹立するか否かの……ヴァルゴ皇帝は反対の意思を示し、その国との国交は無くなりました。恐らくはそれかと」
次はシャロンが手を挙げて質問をして来た。
「『ユートピア』についてはヤバイって事は分かったわ。でも、その『ある国』ってのはなんなのかしら?」
「……ッ! もしや⁉︎」
「?」
アビジアーナは何か思い当たるものがあるのかハッとした表情でネイハムの方へ顔を向けると、ネイハムは力強く目を瞑り、下唇を噛むながら俯いてしまう。
「う、ウェンドゥイル殿……もしかしたら今回のハルディーク皇国の一件は、我々が思っていたよりもずっと深刻やも知れませんぞ?」
「出来ることならハズレて欲しいですね」
ウェンドゥイルとアビジアーナの会話を見ていた他の亜人族の王達は何を話しているのか全く分からない様子であった。
「ちょ、ちょっと2人とも! な、なにコソコソ話してんのよ! まさか何か心当たりでもあるって言うの⁉︎」
「おいおい、ウェンドゥイル! 幾らドワーフといがみ合ってるからって、今回ばかりはそんなコソコソ話は無しだぜ!」
「……」
「おい! バハムート! お前さんも何か言ってやれよ!」
バハムートも何かを考えながら黙っていたが、その後、ドヴェルグ達の方へ顔を向けて話し始める。
「エルフ族と獣人族の猿は長寿種、ドリアード族の寿命は60年、ドワーフ族は80年、そして我ら龍人族は120年。恐らくは、我らの知らぬ何かを知っているのだろう。ネイハム殿、どうか教えてくださらぬか?」
「……そ、その国の名は『レムリア共和国』。詳しい事は私にも分かりませんが、強大な軍事国家です!」
ーーハルディーク皇国 皇都ハル=ハンディア
所々から黒煙が上がる皇城では絶えず悲鳴が聞こえてくる。皇都の民達はなにが起きたのかさっぱり分からない状況でその様子を心配そうに眺めていたが、直ぐに見たことのない軍服を着た兵士達が現れた。
『落ち着け! コレは皇国に住まう蛆虫どもを駆除する為の作戦行動だ! 皇民は何も気にする事は無い! 状況が落ち着き次第、説明を行う!』
音声拡張魔法具を使用した兵士がその様に話すと他の兵士達が押しもどす様に野次馬の民衆達を奥へと押していく。
民衆達は色々と戸惑ってはいたが、自分達には関係のない事だと考え、いつもの日常へと戻って行った。
「な、なんだったんだよ? ありゃ?」
「見た事ねぇ軍服と銃を持ってたよな? てかあの乗り物なんだ? 馬は引いてないのに馬車が煙出しながら進んでたぞ……まるで小さい蒸気機関車だ」
ーー皇城内 謁見の間
謁見の間には、多くの政務官達が中央に集められていた。殆どが血を流し怪我をしている。彼らの周りには先ほどの兵士達と同じ格好をしたもの達が囲う様に銃を構え見張っていた。
その捕らえられた政務官の中にはヴァルゴ皇帝も居た。
「お、お前達、コレは反逆罪だぞ! タダで済むと思っているのか⁉︎」
ヴァルゴ皇帝の怒声に答える兵士は1人も居なかった。すると、奥から2人の男性が近づいて来る。
「あんまりお声を出さないで頂きたい…私…うるさいのは嫌いです。」
「おー! 結構な蛆虫共が集まったなぁ‼︎」
その2人の姿を見たヴァルゴは驚愕する。
「と、トニー⁉︎ レオ⁉︎」
その2人とは、王族顧問のトニーと護衛隊長のレオであった。
「お、お前達が企てたのか⁉︎ な、なにが望みだ⁉︎お前達ごときが皇帝の座に君臨するつもりか⁉︎」
ヴァルゴの問いにトニーは静かに首を横に降る。
「いえ……私達では無く、オリオン様が皇帝の座に君臨するのです。あのお方こそこの国の皇帝に相応しい人です。それから……」
するとトニーは、いきなりヴァルゴに向かい拳を振り下ろした。殴られた事で後ろへ吹き飛ばされたヴァルゴを同じく捕えられた政務官達が受け止める。ヴァルゴ皇帝はそのまま気を失ってしまう。
「こ、皇帝陛下⁉︎ き、キサマ⁉︎何故この様な暴挙をー」
今度は声を荒げた政務官の顔面に蹴りをくらわせたトニー。政務官は首がおかしな方向へと向いてしまい、血の泡を吹きながら倒れこむ。それを見た他の政務官達は怯えてしまい、黙り込む。
「わたし、うるさいの嫌いなんですよ。」
「ハーーッハー⁉︎ 良いねぇトニー! 容赦ねぇな!」
「貴方もうるさいですよ……さて、邪魔者は排除しますか。ヴァルゴと上級政務官達を連れて牢屋へ入れなさい。残りは殺せ」
トニーの命令を聞いた兵士達はヴァルゴと複数の政務官を連れて謁見の間を後にする。
「ではレオ、後は頼みますよ」
「任せろ!」
トニーも続けて部屋を後にする。彼の後ろから聞こえてくるのは鳴り響く銃声と悲鳴。そして猛獣の叫び声だけであった。