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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
77/161

第72話 亜人族の王達

最近の胃腸の不調…受診したら『ストレス性の十二指腸潰瘍』と言われました( ´ ▽ ` )


大好きなコーヒーをしばらく控えるよう言われた私は心が折れそうです_(:3」z)_

ーーウンベカントから西側のとある海中



静かな海中、その深度700mを進む一隻の潜水艦『おうりゅう』。



ーー

『おうりゅう』型潜水艦


全長86m

全幅9.7m

深さ10.4m

機関方式

・ディーゼル・ハイエレクトリック方式

・改良型リチウムイオン電池

・推進電動機


推進機

スクリュープロペラ


速力

水上15ノット

水中22ノット


潜航深度

極秘


乗員68名


兵装

HU-606 533mm魚雷発射管 8門

22式魚雷

ハープーン級 対艦ミサイル

潜水艦魚雷防御システム

ーー


その『おうりゅう』のソナー室にて1人の隊員が怪しげな反応が出ている事に気付いた。



「艦長、ソナーに反応あり。11時の方向です。」


「なに?…数と速度は?」


「ハッ、対象は一機のみ。速度は…約70㎞。」


「艦長。微弱な電波から水中生物の類である可能性があります。」



『おうりゅう』の艦長である佐々木は少し考え込んだあと、命令を下す。



「恐らくは海洋生物だろうが、念のため基地へ報告。近くの『あまふね』を何機か向かわせろ。」


「了解。」





ーー数分後 とある海中にて



猛スピードで泳ぐその姿は、まるで怪物そのものであった。彼は一切の迷いなく中ノ鳥半島へと向かう。



「(そ〜〜ろそろかなぁ〜?……んぁ?)」



彼は目の前から何かが向かってくる事に気付いた。



「(ん〜〜?生き物じゃないねぇ〜〜。なんダァ〜〜?)」



暫くしないうちに現れたのは、2機の無人潜水艦『海舟』だった。


『海舟』に気付いた彼は、少し方向転換をして

避けようとするが、『海舟』も方向を変えて彼を追尾してくる。



「(ん?んん〜〜?しつこいなぁ〜〜。)」



彼は泳ぐのを止めて停滞し、身体をくるりと2機の『海舟』へと向ける。そして、口を大きくと、渦が口の中を中心に起き始める。



「(最初から全力で行くよ〜〜!……ガァッ‼︎‼︎)」



口の中で出来た渦潮を、大きな槍の様な形となって放出し、2機に襲い掛かる。槍の渦潮に巻きこまれた『海舟』は一瞬でバラバラとなり、暗い海中へと消えていった。



「(ん〜〜?なんだったんだ〜〜?…ハッ!攻撃して良かったのかなぁ?)」



彼は自分のした事が果たして良かったのかなそうでないのか、少し考えた後、難しい事が苦手は彼はすぐに考えるのを止めて、再び中ノ鳥半島へ向けて泳ぎ出した。


一方、謎の海洋生物の元へ向かわせた2機の『海舟』との交信が途絶えた事に驚いた『おうりゅう』の艦長佐々木は、この事実を本部へと緊急で伝える。







ーー中ノ鳥半島 航空基地



2機の無人潜水艦『海舟』が突然消息を絶ったという報告を受けた航空基地は、その近辺は向けて緊急スクランブル発進を受けていた。


そのため、隊員達が慌ただしく基地内を走り回っていた。その中にひたすら舌打ちをしながらF-2へと乗り込もうとする1人の隊員がいた。



「チッ!チッ!チッ!…無人潜水艦を2機もッ…海自の奴らぁ何やってたんだ⁉︎もしどっかの国の敵だったらどうすんだよ⁉︎平和ボケで本当にボケちまったか⁉︎」



彼は日本国航空自衛隊一等空尉の二階堂にかいどうたくみである。口は汚いが、自身が国を護る空の防人に高い誇りを持つ男である。



「まぁまぁ、心を鎮めて。下手に苛立ってると任務に支障をきたすよ?」



そんな彼の隣を歩くのは彼の相棒である大場おおば城平じょうへい一等空尉である。いつも彼のなだめ役で、あの怒りっぽさが彼の悩みのタネでもある。



「事実だろう‼︎そんなんで国を守れると思ってんのか⁉︎まぁ、海自には俺たち空自の英傑『ロック岩崎』さんの様な存在がいないから、いまいちピシッと来ないんだろうがな!」


「それは〜〜…関係ないんじゃないかな?それよりもほら!早くコクピットに乗るよ。」


「おう!分かって……ん?おい!…なんだありゃ?」


「え?」



二階堂がコクピットに乗ろうとした瞬間、ふと上を見ると何かに気付いた。相棒の大場も上を見上げる彼の言葉をきいて、一緒に上を見ると『アレ』に気付いた。


慌ただしく動いていた基地内がだんだんと静まり返り、小さなざわつきが聞こえてくる。走り回っていた隊員達も突然ピタリと動きを止めて上を見上げる。



「おいおい…管制塔のレーダーが壊れちまったのか?」


「あの白いモヤ?…いや大きな霧の…塊?」


「なんだよ…ありゃ?」



航空基地のすぐ真上に、巨大な白い霧の塊がユックリと滑走路のど真ん中に降りようとしていた。管制塔にいた隊員達も窓からその姿を見て絶句する。そして、その指揮官がハッと我に帰り、マイクを使って命令を出す。



『そ、総員警戒態勢‼︎警戒態勢を取れ‼︎』


「「ッ!」」



指揮官の命令に周りの隊員達が一切に滑走路から離れて、常備されていた銃器を構えて警戒態勢を取る。数分後には16式機動戦闘車も到着し、砲門と銃口を巨大な霧の塊へと向ける。



巨大な霧の塊は、大きな風を巻き上げながらユックリと滑走路へと…降りた。



ズゥゥ……ン…



少し大地が揺れると巨大な霧のモヤが少しずつ消えていった。隊員達は震える手を何とか鎮めながら銃器を構え続ける。


そして、霧が完全に消えてその正体が明らかになった時、その場にいる全員が絶句した。



「り、龍だ…途轍もなくデカイ…龍だ。」



そこに現れたのは、高層ビルと同じくらいの大きさを持つ巨大な龍がいた。薄茶色の龍鱗が夜空の星々に照らされて少しキラキラと輝いていた。


龍は攻撃してくる気配は見せないが、いつ向かってくるかも分からない状況である。もし少しでも変な動きを見せれば、あの巨大な口から炎を吐き出してくる可能性もある…隊員達の心は恐怖につつまれる。するとー



「案ずるな‼︎ニホンの兵士達よ‼︎我らは敵ではない‼︎」



龍から聞こえてくる声に隊員達は驚いた。



「我らは貴国の者と話し合いしに来たのだ‼︎どうか攻撃はしないでくれ‼︎」



その声が龍からではなく、龍の背中から聞こえていた事に気付いた。龍の背中にあったボコボコした背骨の様なものは、龍の体の一部では無く取り付けられたものだと分かった。声はそこから聞こえる。


するとその背部から4体の影がバッと飛び出して来たのが見えた。それらはスタッと地面に着地すると同時に基地の複数のサーチライトが瞬時に照らすと、その中の1人が大きな声を出して始めた。



「じゃじゃーーーーーん‼︎‼︎ドリアード族の国、『リリステォーグ国』の女王で絶世の美女(自称)‼︎シャロン・テオでーーす‼︎さぁニホンの男たち!私の身体を見て貴方達の身体が『大変な事』になってちゃってるじゃない⁉︎キャハハハッ‼︎」


「「…………………………。」」


「あ、アレ?どうしたの?ほら、私の身体を見てシコー」


「ウォッホン‼︎…全く!これだから娼婦の国の王は下卑なのだ。」


「なぁ〜ん〜か〜…言ったかしら!この汚らしいトカゲ野郎‼︎」


「と、トカゲとは何だ‼︎この美しくも強靭な鱗に覆われた私を見て言っているのか⁉︎龍人族の長にして『ドラグノフ帝国』の王であるこのバハムートに向かってッ!」


「オーイ‼︎ニホン人‼︎酒ねぇか酒‼︎」


「これこれドヴェルグ殿。初対面の相手に対してその様な無礼はー」


「良いじゃねぇかよ!相変わらずお堅いねぇアビジアーナさんよ?あんたら獣人族の『ヴェルディル王国』はもっとノホホンとした国だと思ってたがな?」


「お主は仮にも『ドルキン王国』の王、ドワーフ族の代表なのだ。もっと品性を持たんといかんぞ?」


「はいはい…それよりもオルカの奴がいねぇな?まだ海の中か?」



周りの事など御構いなしに勝手に内輪揉めを始める彼らに隊員達はどうすればいいのか分からないと言った状況であったが、掴み合いで一触即発状態の羽の生えた女性と龍人族の争いを止める為に何人かの隊員が止めに入る。



「ど、どうしましょうか?」


「取り敢えず本部へ連絡…だな。多分…あの人達は、亜人族国家のお偉いさんだろう…た、多分だが…な。」




一方バハムートとシャロンは相変わらずキーキーと喧嘩をしており、止めに入ったはずの自衛官達もあたふたとしており、中々止められないでいた。そこへしびれを切らした二階堂とほぼ強制的に連れてこられた大場が代わりに仲介に入る。



「え、えーっと…ちょいとお兄さん?オネェさん。何かあったか知らないけどさぁ…ここは穏便に…ねえ?」



二階堂が作り笑顔で止めて入ろうとするが、体格の大きいバハムートに相手にされない形で軽くあしらわれてしまう。



「邪魔するな人間が‼︎」



二階堂は軽く飛ばされてしまい、地面にドサりと尻餅をついてしまう。



「お、おいおい。大丈夫か?二階堂。…二階堂?」



心配して声をかける大場に返事をする事なく、俯いたままスッと立ち上がり、ズボンに着い土をパッパッと払う。


バハムートとシャロンは相変わらず喧嘩を続けていた。



「だからあんたはーーーーー」


「お主のそう言った態度がーーーー」



ゆっくりと2人に近づく二階堂。大場は無言の圧力を掛けてくる二階堂に声をかけることが出来なかった。



(えっ?うそ?…に、二階堂…さん?)




「トカゲ野郎は本当に…あら?」


「下品な女は…む?」



「いい加減しろぉぉぉぉーーー‼︎‼︎」



突然二階堂が助走をつけながらバハムートの背中に向かって飛び蹴りをくらわせる。マトモにくらったバハムートは前にいたシャロンを巻き込みながら吹っ飛ばされて地面に転がる。



「うぐぉ⁉︎」


「キャア⁉︎」



一瞬何が起きたのか分からない表情をぽかんと見せる2人。その目の前には怒りの形相で睨みつける二階堂が仁王立ちしていた。



「やめろって言ってんだろうが⁉︎お前ら何しに来た!あぁ⁉︎」


他の周りが一気に静寂に包まれる。バハムートはスッと立ち上がると二階堂の前に立った。



「ほう…『龍王』の俺に蹴りを…」


「王様だったら国民の模範となる態度を取れや…あぁコラァ⁉︎」


「ほーーう…」



険悪な雰囲気…このままではヤバいことが起きると思い、大場が決死の覚悟で間に入ろうとしたその時ー



「ハーハッハッハッ‼︎人族のくせに大した度胸だ‼︎気に入ったゾ!」


「は、はぁ?」



突然大口を開けながら大声で笑うバハムートにシャロン達は驚愕した。それもそのはず、50年前の彼は自国の種族の貶した国を打ち滅ぼした程の実力者。タダでさえプライドの高い龍人族…その王に対してあの様な暴挙…彼はもちろん、この場にいる全ての人族を皆殺しにしてもおかしくはなかったからである。


だからシャロン達は覚悟した。あの人族が惨殺される事を…しかし、バハムートの反応は彼女達の予想を大きく外れた行動に出ていた。



「お主…名は?」


「に、二階堂巧…ッス。」


「ニカイドウ・タクミ…ふむ、ニホン国の戦士よ。此方こそ、イキナリの無礼を許してくれ。」


「い、いえ…此方こそ、とんでもない事を…」



バハムートは静かに頭を下げると二階堂もつられて頭を下げて謝罪する。周りからは「おぉ〜」という声が重なり、響き渡る。



すると数台の車が滑走路を駆け抜けてやって来た。車が止まると中から飛び出すように外交官の舛添が現れた。



「き、今日はとんでもない日ですね。ハルディーク皇国に続いて亜人族国家の方々が来日してくるとは…。」



舛添は小走りでバハムート達の元へと向かう。



「え、遠路遥々よくご来訪頂きました。私は、日本国外交官のー」








ーー数分後



一通りの挨拶をした後、彼らは車に乗って本部基地へと向かって行っていた。しかし、全員は『乗れなかった。』


車に乗れたのは、女人鳥ハーピィ族の『シャロン・テオ』、エルフ族の『ウェンドゥイル・アルヴァーナ』、ドワーフ族の『ドヴェルグ・ドルキン』のみであった。龍人族の『バハムート』と獣人族の『アビジアーナ・アンプルール』は、体格が大きすぎるために車に乗ることが出来なかったのである。


バハムートは空を飛んで着いて来てはいますが、アビジアーナは急遽近くにあった工事用トラックの荷台に他国の王を乗せるという前代未聞の移動手段で向かう事となった。


しかし当の本人は、特に気にする様子などなかった。むしろ、生まれて初めて見る乗り物に乗ることにニコニコとしていた。



「ホッホッホ!速いぉ〜〜ホッホッホ!馬を使わぬ馬車など初めてじゃ!」



喜んでいるとは知らずにトラックを運転している人は、彼が怒っているのではないかとヒヤヒヤしながら運転していた。


楽しそうにしているアビジアーナを羨ましそうに空から眺めるバハムートは、そこから見えるウンベカントの街の光に気付いた。



「あんな昼間のように明るい街などがドム大陸に存在していたのか。」







ーー数十分後 中ノ鳥半島基地



基地本部へと到着した一行は車から降りるなり、フラフラとした足取りで跪いた。



「ウップ…気持ち悪ぅ〜。」


「はぁ…はぁ…酒の酔いが効いてて…や、ヤバい。、」


「これが…ニホン人の長距離用の移動手段ですか……な、なかなかに…酔いまし…ウッ!」



慣れない乗り物に酔ってしまった3人は、近くの隊員達に背中をさすられながら何とか踏ん張っていた。一方アビジアーナは、興奮冷めやらぬ様子でさっきまで乗っていたトラックを眺めていた。



「ホッホッ!これはこれは…一体どのような魔法で動いているのか…興味に耐えんな!ホッホッホ!」



バハムートも空から基地へと到着した。すると、基地の建物の陰から聞いた事のある声にきがつく。



「む?…この声は…まさか?」



バハムートが建物の陰へと見て行くと、そこには海水タップリの大きな箱に入っていた巨大な鯱がいた。



「オルカフ‼︎とっくに着いていたのか⁉︎」


「ん〜〜?おぉ!バハムートじゃないのぉ〜〜!エヘヘへぇ〜、僕もニホンの海兵達に案内して貰ったんだ。だから君達が来るのをこうやってリラックスしながら待ってたのよぉ〜ん。」


「水加減はどうですかー?」



1人の海上自衛官が海水吹き出るホースを持ちながらオルカフに尋ねた。


「いいよぉ〜ん。あと…君達の変わった船壊してごめんねぇ〜…敵だと思ってさぁ〜。」


「ですから…その事についてはもう大丈夫だと申してますよ、オルカフさん。」



巨大な鯱の水人族にして『バルフォール海底国』の王、サリヴァーン・オルカフ。彼は海からこの中ノ鳥半島を目指してやって来た。なぜ古代龍に乗らなかったかは、彼ら水人族は長期間水に入らなければ死に掛けてしまうからである。それ以前に、彼は高いところが苦手なのも理由の一つである。



「では皆様、あちらの方へご案内致します。」



淡島の誘導の元、彼らが案内された場所は基地内部の応接室…ではなく、基地の隣に作られた少し大きめのプレハブ小屋の様な建物だった。



「あらぁ?ねぇねぇアワシマさん。私達が亜人族だからってこんな適当な場所で会談するつもり?」



シャロンが頬を膨らませながら不快そうな表情で文句をいう。



「申し訳ありません。あなた方が亜人族だからという訳ではないのですがぁ…」



淡島はチラリとシャロンの背後を見るとシャロンもそれに気付いたのか「あ、そういう事ね。」と話し、それ以上の文句は口にしなかった。


後ろにいたバハムートとアビジアーナ、オルカフは何故淡島が困った様な顔で自分達をチラリと見たのか分からない様子で互いに顔を見合わせる。


図体が大きく、とてもではないが基地内部に入るのは少し厳しい『彼ら』の為に急遽用意した大きめの建物。


ただ建てただけでなく、中はそれなりに気品のある風には仕上がってはいるが、やはり見た目が建設現場の片隅にある様なモノに見えなくもない為、申し訳なさがあるが、寒空の下で会談を行うよりかはマシだと思われる。



その寒空の下、即席応接室の横でコッソリと電話をしている淡島がいた。



「はい…はい……分かりました。では、明日の朝頃にそちらへ向かいます。……えぇ、通常の飛行機やヘリではちょっと……分かりました。『C-2』で迎えば宜しいのですね?はい……分かりました…南原副総理。」



ピッ



電話で南原副総理と通話していた淡島は、電話を終えると携帯を内胸ポケットへと入れる。



「フゥ〜…さぁてと…始めますか。」



淡島は大きく息を吐いた後、即席応接室へと入って行った。





ーー即席応接室


大きな丸テーブルを囲む様に座る6人。



ーー

◇日本国

外務副大臣 淡島あわしまとおる



◇獣人族の国『ヴェルディル王国』

〝獣王〟アビジアーナ・アンプルール



◇エルフ族の国『アルフヘイム神聖国』

〝聖王〟ウェンドゥイル・アルヴァーナ



◇ドワーフ族の国『ドルキン王国』

〝鉱王〟ドヴェルグ・ドルキン



◇ドリアード族の国『リリスティーグ国』

〝妖妃〟シャロン・テオ



◇水人族の国『バルフォール海底国』

〝海王〟サリヴァーン・オルカフ



◇龍人族の国『ドラグノフ帝国』

〝龍王〟バハムート


ーー




「皆様、遠路はるばる御出で下さいまして誠にありがとうございます。私は日本国外務副大臣の淡島徹と申します。本日はこの様な場所での会談となってしまい申し訳ありません。出来ることなら室内で行いたかったのですが…」



淡島が申し訳なさそうになる述べると、獣王アビジアーナが手をゆっくりと上げて、優しく微笑みながら答える。



「ホッホッホ!気にすることはありませぬぞ。仕方ありませぬ、我とバハムート殿、そしとオルカフ殿の体格では、あの建物すら入る事すら難しいですからな。」


「うん、僕も問題ないよぉ〜。なんか逆にごめんねぇ〜〜。」


「まぁ、我らの事について知らなかったのだ。こちらも突然の来訪…仕方あるまい。」



3人はココで会談を行う事になった原因が、自分達にある事を十分に理解している様子で特に反論などはなかった事に安堵する淡島。



「(ホッ…)ありがとうございます。では早速で申し訳ありませんが…我が国から皆様へお伝えしたい事が御座います。」


「「…⁇」」


「我が国は今ー」


「『ハルディーク皇国と一触即発の危機的状況に陥っている。』…よね?」


「ッ⁉︎ご、ご明察…です。」



淡島の言葉を途中から無理やり入り込んで来たのは、リリスティーグ国の女王、〝妖妃〟シャロン・テオであった。


薄紅色の長髪で綺麗な髪飾りとちょっと薄い生地と露出度の高い服装をしている。両上肢の肘から先、両下肢の膝から先が猛禽類の様な形をしており、腕に至っては羽根の様なものがフサフサと生えていた。時折、スレンダーな身体と大きな胸を強調しながら淡島をジッと見つめるが、淡島は何とか自身の煩悩よりも仕事に集中させる。


彼女はこれから淡島が話すであろう内容をズバリ当てた事により、淡島は少し驚いた表情を見せる。



「な、何故…分かったので?」



淡島の質問に対してシャロンは妖艶な笑みを浮かべながら答える。



「ンフフフッ…風の精よ。」


「か、風の…精?…精霊って事ですか?」


「その通り♡…私達ドリアードは、自然の精霊の声を聞く事が出来るのよ。だ・か・らぁ…ココで起きた出来事も聴けたってわけよ。」


「は、はぁ…」


「もっとも…自然の精霊と『会話』出来るのは今じゃ私しかいないんだけどね。他のドリアード族は一方的な『向こう』からの声しか聴けないのよ…つまり、一般的なドリアード族は精霊達と会話ができないってワケ♡」


「ず、随分便利な力なのですね!」


「あらぁ?キャハハハッ!そうでもないわよ。自然の精霊達はとにかく忘れん坊だから、その日あった事なんか1日足らずで忘れちゃうし!…でもぉ…ハルディーク皇国の機嫌を損ねるのはちょっと不味くなぁい?相手は列強国の一角よ?」



シャロンの言葉にエルフ族の国、アルフヘイム神聖国の〝聖王〟ウェンドゥイル・アルヴァーナが答える。



「シャロン殿、ニホン国は今日までにハルディーク皇国から度重なる妨害工作を受けて来たのです。この会談も一時期は、実現不可能になっていた可能性もあったのです。その様な国と仲良くなろうなどと思うわけがありません。」


「分かってるわよぉ〜〜。でも、今までの国は列強国って看板に屈してたけど、ニホン国は屈しないで抗って本当に大丈夫なのかなぁって思っただけよ。」


「御心配なく…承知の上です。」



5大列強国の一角と衝突することも辞さないという淡島と言葉にシャロンはクスリと笑った。そのあとにドラグノフ帝国の〝龍王〟バハムートが話始める。


黒色に輝く鱗と鋭い眼光で見るものを圧倒させる強者の雰囲気を持っていた。2〜3m程の身長と立派な筋肉質の体格と無数の傷から明らかな根っからの武将であることが分かる。彼が話すたびに見える鋭くギラついた牙は見ただけで鳥肌が立ってしまう。



「ふむ…ウェンドゥイル殿の話では平和を愛し、争いを好まない国と聞いてはいたが…なるほど、唯の非現実主義の頭のイカれた国家では無い様だな。『平和のための戦もまた、平和である』…というわけか。」


「まぁ…その様な感じでしょうか。あの国と関わっても碌な事が起きない事くらいわかります。…それで先程の話なのですがー」


「んなこたぁ〜分かってるよ‼︎」



淡島の話を途中から割って入ったのはドルキン王国の〝鉱王〟ドヴェルグ・ドルキンであった。


赤茶色の髪と髭を豊富に蓄え、赤く大きな鼻が特徴的な頑固オヤジの様な男である。ゴツい鎧の様な服装で筋肉質な良い体格をしている。しかし、やはりドワーフだからか身長は低く、用意してあった椅子に腕を組んで堂々とドッカリと座るも足が床に届かず、時折パタパタさせる動きは何とも微笑ましいものであった。



「ハルディーク皇国は、最近の列強国の中で1番頭角を現して来た国だ!あのクアドラードもあの国にやられちまった!あの国は俺たちの山から採れる貴重な魔鉱石や鉄鉱石を馬鹿みてぇに安い値段で輸出する様要求して来やがる!このままじゃ遅かれ早かれ俺の国にもハルディーク皇国の侵略の魔の手が襲いかかって来てもおかしくねェ‼︎」


「ドヴェルグの言う事はちょっと乱暴だけどぉ〜あながち間違いじゃ無いんだよねぇ〜〜。最近あの国から排出される汚染水の量が何ヶ月か前から急激に増えて来たし、海洋資源も根こそぎ取ってくし…オイラ達の稼ぎや住処も少しずつ追われてるんだよねぇ〜〜。」



聞いたら力が抜けそうな声をして答えたのは、バルフォール海底国の〝海王〟サリヴァーン・オルカフであった。


鯱の水人族で、銀の装飾品を輝かせながら、ボテッとしたお腹をプヨプヨしながら手に持っていた水袋の蓋を開けて、海水を頭からバシャッ!とかけていた。



「あ!ごめんねぇ〜。こうやって海水浴びないとぉ〜オイラ弱っちまうのよぉ〜。」


「い、いえいえ。お気になさらずに…つまり、皆様方が何かしらハルディーク皇国からの被害を受けていると?」


「ふむ…ドヴェルグ殿とオルカフ殿の国では、貴重な資源が…ウェンドゥイル殿とシャロン殿、そして我が国では…彼の国から雇われた奴隷商会がコソコソと現れては、奴隷狩りを行なっているのです。」



ヴェルディル王国の〝獣王〟アビジアーナ・アンプルールが答える。


オランウータンのグノンで身長は約4m以上も有する体格と毛むくじゃらで優しそうな顔立ちをしている彼は悲しそうな目をしていた。



「ん?奴隷?…確か5大列強国の条例で奴隷制度を有することは認められない筈では?」


「確かにその通りだ…だが、ハルディーク皇国とバーグ共和国は、自国の利益と労働力を得る為、密かに行なっているのだ。実際にそれに気付いている国もいくつかいるが、誰1人告発しようと考える国はいなかった…我が国だってそうだ。」



淡島はアビジアーナの言葉を聞いて理解した。もし力の無い国がその様な事を下手に告発すれば、間違いなく列強国の力で捩じ伏せられるか、その様な事実は無かった等と言われ、適当にあしらわれて終わりだからだ。…つまり、デカいリスクしか無いわけである。



「なるほど…バハムート様の方は?」


「フンッ!我らは生まれながらの戦闘種族…我らとマトモに戦おうなどと考える筈がない…だが、近年妙な噂を耳にしてなぁ。その噂を聞いたからこそ、私は今回のニホン国との会談に参加したっと言うわけなのだ。」


「キャハ!確かあなた…気になる情報を数少ない他国の商人から聞いた噂があるって言ってたわよね?」


「妙な噂?」



バハムートは深刻な表情で答える。



「彼の国の軍事技術力が爆発的に進化していると言う噂だ…オマケに今までとは見たことの無い軍船を嵐の夜に見たとの話も…元々他国とはあまり関わりを持たなかった我が国も、この話を聞いたときは妙に胸騒ぎがしてな。単なる噂では無い気がしてならないのだ。」



バハムートの言葉を聞いた、淡島を除いた全員が驚愕する。



「んな⁉︎マジかよバハムート⁉︎そんな話聞いてねぇぞ⁉︎」


「やはり…あの国は強大な力を蓄えていたと言うわけか…下手をすれば我ら亜人族と比較的友好的であったサヘナンティス帝国よりも…いや、ヴァルキア大帝国をも超える国に⁉︎」


「うむ…これ以上我がエルフ族を奴隷の被害にさせてたまるものか!しかし、列強国が相手では……。」


「う、海に逃げれば大丈夫かなぁ〜〜?」


「あらあら…ち、ちょっとヤバイ感じ…ねぇ。でもぉ、本当にそうだって言う証拠も無いんだし…やっぱりただのガセネタじゃない?」



シャロンの言葉を聞いた淡島はそれを否定する。



「いえ、残念ながら本当です。」


「「ッ⁉︎」」



淡島の口から放たれた無情な言葉に驚愕する亜人族国家の王達…それぞれが落胆した様な表情を見せる。



「あ、アワシマ殿…それは誠なのか?」



ウェンドゥイルが恐る恐る聞く。



「実は数日前に我が国へ亡命したハルディーク皇国の元高官から聞いた確かな情報です。」



数秒の沈黙が続いた後、アビジアーナが口を開く。



「皆の者よ、だからこそ…だからこそでは無いか?我らがこうして共にニホン国と会談を行いに来た理由は?」


「そ、そうでしたね、アビジアーナ殿。…バハムート殿、ドヴェルグ殿、シャロン殿、オルカフ殿…異論はありませんか?」



ウェンドゥイルの問いに他の4人は答えた。



「仕方あるまい…我ら龍人族の誇りに傷が付くと思っていたが、事態は思っていたより深刻である可能性が高い…異論なしだ。」


「あまりエルフの言うことに同調したくは無いが…同族達の未来の為、仕方ねぇか…俺も異論なしだ!」


「私もぉ〜〜。これ以上あの国がデカイ面してるのも癪だし…異論ないでーーす。」


「オイラも異論ないぞ。」



ウェンドゥイルとアビジアーナは、全員からの同意を得た事を確認すると、淡島の方へ身体を向けて口を開く。



「アワシマ殿!唐突のことであるが…我ら亜人族国家を貴国の同盟国へ入れて頂けないか⁉︎我が国は既に貴国と同盟を組んではいるが、他の亜人族国家も…私は…その仲介役なのだ。」



淡島は顎に手を当てて少し考えた後に答える。



「実は我が国も…そうするべきではないかと考えていたのです。」


「「おお‼︎」」



淡島の答えに全員が明るい表情へと変わった。



「では、その同盟も含めた事について、別の場所で貴国らと話し合いを行いたいのですが…よろしいでしょうか?それに、我が国が得た彼の国の情報も共有していきたいですし…」


「え、えぇ…我々としては構いませんが…ここではない何処で行うおつもりで?」



少し間を置いた後、淡島はニッコリと笑いながら答えた。



「『東京』…日本国の首都です。」


「「と、とーきょー?」」


「はい、我が国の首都であります。つまり、日本国本土へと移動になりますね、明日の朝に出発していきたいと考えていますが…よろしいでしょうか?」



ウェンドゥイル達は一瞬ざわついたが、直ぐに落ち着き、「問題ない」との返事を貰うことが出来た。



「ありがとうございます。…私としてもこの同盟をより良いものにしていきたいと思っております。」



するとアビジアーナが長い髭を整えながら口を開く。



「ふむ…此度の同盟は、何も『戦争』だけが目的では無いからのぅ。個々の力は弱くとも、同盟を組み、力を合わせる事により大国と渡り合う事ができる。そうなれば、ハルディーク皇国も迂闊に手は出せまい。一つの巨大な力となって立ち向かえば、それだけでも十分な『抑止力』となり得る。」



彼の言葉を聞いた淡島自身もそう思っていた。『戦争を起こさないではなく、起こさせない。』そうする事により、最悪の状況を切り抜けることが出来るのであれば、それに越したことは無いからである。



「左様…それと『トーキョー』での会談では、その亡命して来たハルディーク皇国の高官も連れて来てほしい。信用していない訳ではないが、やはり確信が無いことにはどうにも…」


「ご心配無く、そのつもりでもあります。それと…その方から得たハルディーク皇国の『秘密』も…」



淡島の言葉に再び緊張が走る。あの列強国の秘密が何なのか…それはあの軍事技術とは別の物なのか…。



「では…これらの話はまた明日…と言うわけでよろしいでしょうか?それでは、これから皆様方のお部屋へご案内致します。」



こうして亜人族国家の王達は、少し晴れ晴れとした表情で即席応接室を後にした。彼らを見送った淡島は、暫くした後、ある言葉を思い出した。



(『同盟を組みたい』か…まさか本当に起きるとは…南原副総理の言ってた通りだ…内閣では、既にここまで先のことを見越して動いていたのか?…やっぱり、広瀬総理は…何かが違うな。)



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― 新着の感想 ―
[良い点] 風の精霊の情報網すごいですね 日本がこれを有効活用できれば諜報戦においてアドバンテージになりえますよ 是非ともシャロン女王に精霊との対話について手ほどきを頂きたいですね (本当に精霊のお…
[一言] ありゃま、海神じゃなくって、マーマンでしたか。
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