第69話 運命の一夜 その1
小説の賞を取る応募の事をスッカリ忘れていた為に締め切りに間に合いませんでした(泣)
次回からはキッチリと応募に間に合うようにします!
ーー夜10時頃 イール王国 王宮内 星空の間
護衛自衛官の中村は、腕に装着されているモニターを見ながら王宮周囲の状況を観察していた。
「やっぱりきたか…でも予想内」
モニターに映る30個の赤い点、そしてその赤い点の近くに映る緑色の点30個…赤い点はこの王宮外の周りをウロウロと動き回っていた。
「どこから来るか……それによってはあの『片影』の配置も変えなくてはならない。」
中村が窓から見える星空へ目をやると、その中に1つだけ、点滅しているモノがあった。
ーー
小型無人偵察機『SUPER・SKY』(通称:片影)
ドローンの形をした低高度・中距離監視無人機である。地上にいる中村の腕部装着モニターと本部の指令センターとシステムが連動して作動する。
四方八方に取り付けられた超高性能ズーム機能付きカメラにより、最大で5㎞先の風景も鮮明に映し出す事が可能。
パイロットシステム:自動・遠隔操作型
高度:250m
直径:1.2m
時速:120㎞
武装:無し
ーー
中村は無線機を取り出し、別の場所にいる宇津木達に連絡を取る。
「来ましたよ。お二人とも…特に堀内さん、その部屋から出ないで下さいよ。」
『わかってますよ。』
中村が無線機を切ると1人の女性が声をかけてきた。
「不思議な…魔法具ですね……魔伝石とも違う……ゴホっ!ゴホっ!」
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「……えぇ大丈夫です。ごめんなさいね、私もみんなと一緒に謁見の間に行けたらこんな面倒な事にならなかっのに…なにぶん身体を動かすのが辛くて……」
中村がいた部屋には1つの大きなベッドがあり、そのベッドに1人の女性が横になっていおり、病気でかなり弱り切っていた。
そして彼女が再び咳き込むと近くにいたメイド達が水の入ったコップでユックリと飲ませた。
「ハァ…ハァ……」
「お身体に触ります。どうか安静にしていて下さい、アデール王妃。」
彼女はアデール・ラ・ダーマ。このイール王国の王妃である。彼女は数年前より不治の病に犯されており、日に日に弱りつつあった。彼女は中村達の作戦の為に身体を動かすことがままならない為、中村が国王の許しを得て彼女の護衛に当たっていた。一応数名の衛兵達もいたが正直心許ない。
「ゴホっ!ゴホっ!…はぁ…はぁ…ゴホっ!」
アデール王妃の咳が段々と酷くなってきた。メイド達が彼女の側に心配そうに寄ってく。
「王妃様ッ⁉︎今、お薬を……アレ?…アレッ⁉︎」
メイドの1人がベッド近くの棚を開けて何かを探していたが、見つからずに焦っていた。
「ど、どうしたのアミラ?」
「薬がありません!…どうやら切らしたのかと…」
「なんですって⁉︎」
メイド達と衛兵達はかなり慌てふためいていた。しかし王妃は特に焦ることなく声を掛ける。
「……大丈夫ですよ。このくらいなんとも…ゴホっ!ゴホっ!」
「ッ⁉︎お、王妃様⁉︎……良し…私が取りに行きます‼︎」
「ッ⁉︎だ、ダメです…ここに居なさいアミラ!……今部屋の外は危険…ゴホっ!」
「いえ、行かせて下さい!このままでは王妃様が…」
中村は衛兵達の方へ目を向けるが、彼らは視線を下に向けて誰一人彼女と目を合わせようとせずに、付いて行こうとする人はいなかった。彼らも恐ろしいのだ…今この王宮に居る敵国の暗殺者が…
「……アミラ!私も行きます!」
「わ、私も‼︎」
衛兵達は頼りないと思ったのか他のメイド達が、彼女と一緒に薬を取りに行くと話すが、彼女はこれを拒んだ。
「ダメよ‼︎…貴女達は王妃様のお側についていて……私一人で十分だから。王妃様、少しお待ち下さい…このアミラ、必ず薬を取りに戻りますので!」
「ゴホっ!ゴホっ!…だ、ダメよ…アミ…ラ…。」
アデール王妃は彼女を止めようとするが彼女は振り返ることなく部屋とドアノブへと手をかけ、深々と深呼吸をする。
「……良し‼︎」
「待ってください…俺も行きます。」
衛兵達の不甲斐なさを見るに見かねて中村がアミラに声を掛ける。
「ッ⁉︎な、『ナカムナ』さん⁉︎」
「『中村』です…か弱い女1人を危険な所へ行かせるわけには行きません…俺も行きます。」
「で、ですが貴方様は…ここで作戦の指揮をー」
「俺はあくまでサポーターです。実際の所、俺無しでもいける筈ですから…(この部屋は『A・W』に任せるか)」
「『アカムラ』さん……」
「『中村』です。」
こうして2人は薬を取るために部屋を後にした。
ーー王宮外のどこか
王宮の離れ塔の屋根に、黒いフードを被った2人の男が魔伝を持って誰かと話をしていた。
「…おいヨルチ…外から見る限りじゃ、城の中は殆ど空だぞ?」
『……多分国王が必要最低限の人だけ残して、後の者は暇を出したんだろ。現にいま、謁見の間にギーマ国王やニホン国の使者、アガルド達が集まってる。衛兵の数もいつもの倍だ。』
「…なんか引っかかるな。」
『ふふ…良く分かってるじやないか。多分罠だ…コッチはコッチで仕掛けるがお前たちはしっかりと自分のやるべきことをやれよ?それが何よりも重要だ。』
「ケッ!わかってるよ。……ところでよ、標的がたった数人ってのは…イマイチ物足りないと思わなぇか?」
ヨルチは彼の言葉遣いから何かを察した。
『…何が言いたい?』
「分かってるだろう?…この城の…標的以外の奴らも殺していいか?」
ウルザの言葉に呆れたような溜息を漏らすヨルチは、その問いに答える。
「…標的以外にいたっては…『流の内なら』構わないらしい。」
この答えにウルザは満面の笑みを浮かべる。
「良し‼︎…了解だぜ!…『流の内な』?」
魔伝の通信を切るとウルザは小さくガッツポーズをとっていた。すると彼の相棒が何かに気付きウルザに声を掛ける。
「…ウルザ。」
「んぁ?何だアルゴル?」
アルゴルと呼ばれる彼の相棒が指差す先には開けた廊下を走る男女2人がいた。
「…何やってんだ?」
「さぁな、でもあの女…いい女だぜ。」
「おいおい、せめてニホンの奴らを殺してからにしろよ…ってアレは…」
ウルザは女の後ろを走っている男を見てある事に気付いた。
「気付いたか?緑色の服…間違いない、あの男、ニホン人だ。」
「……あの男殺すのが任務だよな?」
「あぁ…」
「それじゃあ、その時に一緒に居た女も抵抗してきたから始末したってのは…『流の内』だよな?」
「あぁ…」
ーー謁見の間
入り口から玉座まで敷かれた中東風の絨毯、その左右の壁側にはこの国の衛兵達が整列していた。しかし、その衛兵の数はいつもの倍以上もいた。
玉座にはこの国の王、ギーマ・ラ・ダーマが緊張した面持ちで座っていた。彼だけでは無い、衛兵達の顔にも不安と恐怖が見て取れる。
ギーマ国王の傍らには堀内外交官と護衛自衛官の宇津木、そして、旧クアドラード連邦国家の大統領子息アガルド・ヴェルチ、その護衛のスミエフ・スモルク将軍がいた。
「ほ、ホリウチ殿…本当に来るのか?そのぉ…暗殺者が?」
ギーマ国王は不安な表情を向けながら堀内外交官に聞いてきた。
「はい、もう既にその王宮内の周りに…」
堀内外交官の言葉に周りの人々が一斉にザワつき始めた。
「やっぱり本当なのか?」
「どんな敵なんだ?」
「な、何故ここに閉じこもる?」
「クソ!来るならきやがれ!」
ギーマ国王は再び堀内外交官に質問をする。
「ホリウチ殿…やはり私は妻が心配だ……妻の所へ戻らせて貰うぞ‼︎」
「ッ⁉︎い、いけません!…今はもう敵に囲まれている状態です。下手をすれば、王妃様にも危険がッ!」
「ぐ、ぐぬぅ…そうか……だが、やっぱり…」
この作戦を告げた直後、身体を動かすのもままならないアデール王妃の側につきたいと聴かなかったギーマ国王をなんとか説得してこの部屋に連れてきたが、やはりと言うか当然…王妃の事が心配な国王は自身が暗殺者に殺されるかもしれない事よりも王妃の事が心配で仕方なかった。
「(参ったなぁ…もし敵がギーマ国王も狙っているのなら、下手に分散させる訳には…)」
スミエフ将軍はそっと堀内外交官に近づき質問してくる。
「あ、あのぅホリウチ殿?…貴国はハルディーク皇国と争うつもりは無いと…」
「それはコッチ側から仕掛けることは無いと言うことであって、向こうから危害を加えて来るのであれば話は別ですよ。」
「そ、そうですか…しかし、何故この謁見の間に?敵はどこから来るか分からんのですよ?」
これの質問に護衛自衛官の宇津木が堀内外交官の代わりに答える。
「それは…この謁見の間の出入り口が一つしか無いからです。窓は全てカーテンと格子が付けられて中は見えず、侵入は不可。ならどこから入るか…あの出入り口しかありません。」
そう言って彼は謁見の間の出入り口の方に指を差した。すると一斉に衛兵達が武器を持って謁見の間の出入り口へ移動する。
「なるほど…侵入する場所が限られているのであれば、対策はうちやすい。しかし、それは逆に我々の脱出口もあそこしか無いということ…もし失敗してしまえば…」
「心配には及ばぬぞ。」
そう言ったのはギーマ国王だった。スミエフ将軍がどういう事なのか問うと、彼は宇津木を見てニヤリと笑う。
「こんな事もあろうかと……この玉座の裏に隠し通路があったのだ‼︎」
「「お、オォォォォー‼︎」」
周りにいた衛兵達が驚きと歓喜の声を上げる。
敵をここにおびき寄せた後に一気に取り囲み一網打尽にする。その時に何かしら予想外の事が起きた時にこの隠し通路を使って脱出するという寸法である。
早速ギーマ国王は玉座を動かすと、その裏にはだいぶ古ぼけた、質素な木で固定された通路があった。堀内外交官だけでなく、他の衛兵達もマジマジとその通路を見ていた。
「チョットばかし古いがまだ使えるはずだ。これで安心だな。」
堀内とスミエフ将軍は、その隠し通路を見て聞いてた以上の古さに少し不安な気持ちが大きかった。しかし、確認する時間がなかった事や状況が状況である為、文句は言えなかった。
一方アガルドはワナワナと震えていた。自身の兄を殺した国の人間が今近くにいることに…彼は黙っている事が出来なかった。
「あ、兄上を殺した国の者が……絶対に許さぬ!」
すると突然アガルドは腰の剣を抜き、出入り口の方へ走り出した。
「ッ⁉︎あ、アガルド様⁉︎」
「なんという事を…衛兵!アガルド殿をお止めしろ‼︎」
衛兵達がアガルドを止めようとするが、アガルドはそれを物ともせず、巧みに避けて、とうとう謁見の間から出てしまった。
「しまったッ!」
これには堀内外交官と宇津木も予報外の事に驚いた。そしてすぐに無線機を使い中村に状況を報告する。
『中村さんッ!アガルド氏が謁見の間から飛び出した‼︎』
この報告を聞いた中村は返事を返すことが出来なかった。目の前には黒のフードを羽織った2人の男が…『影』がいたからだ。
「へっへっへっ…運が悪かったな。」
中村は9㎜拳銃を構え2人のうちの一人に標準を合わせる。
(さてと…参ったなぁ……モニターを見る限り『まだ早い』…でも…)
「何ボーッと突っ立てんだよ?このマヌケ‼︎」
ウルザは懐から銃を引き抜き中村へ標準を合わせる。すると突然、隣にいたメイドが跳び上がり、壁を走りながらウルザの方へ一気に詰め寄った。
「えっ⁉︎ちょまっ…えっ⁉︎」
ウルザは咄嗟のことに慌てふためいていた。その隙を狙ってアミラは、壁を蹴って跳び上がり、ウルザの顔めがけて凄まじい勢いの回転蹴りを喰らわせた。
「ハァ‼︎」
「オボェ⁉︎」
ウルザはそのまま開けた廊下の外へと吹っ飛ばされてしまう。もう一人のアルゴルは、一部始終を驚愕の表情で眺める事しか出来なかった。
アミラは体勢を整えると直ぐにアルゴルの方へ身を構える。その姿はまるで某格闘ゲームの女性キャラクターの様だった。
「私たちは王族のメイドであり護衛よ。舐めないで…」
「クソがッ!」
するとアルゴルは持っていた小型ボウガンを構えアミラに向ける。アミラも直ぐにアルゴルの方へと詰め寄る。
ダァーン!
「ッ⁉︎」
突然の銃声と同時に倒れたのはアルゴルの方だった。ハッと思いアミラは中村さんの方へ目を向けると、薄く煙が出ている銃口を下ろし、誰かと連絡をとっていた。
『だから言ったでしょ?もう彼らを動かしましょう?今の銃声で気付かれましたよ。』
「仕方ないですね…まだ敵はバラついてますが…『A・W』…作戦開始です。」
『了解。』
ーー謁見の間
ダァーン…
「「ッ⁉︎」」
突然鳴り響いた銃声に謁見の間は再びザワつき始めた。
「じ、銃だ!」
「来るのか⁉︎」
「だ、誰か撃たれたのか⁉︎」
「おいおい…心の準備が…」
一方堀内外交官は持っていた無線機で中村と連絡をとっていた。
「…そうですか…先ほど作戦開始命令を出したと。」
『はい…ですが、ちょっと敵がバラついているので多少面倒なことになるとは思いますが……』
「コッチの事はご心配無く…万が一の抜け道もありますから……後は『A・W』に任せるのみ…ですよね?」
『ハイ…あとスミマセンが私は野暮用で今離れ塔の王妃の部屋から出ています。…何でも薬が切れたの事で…』
「そ、そうですか…気を付けてくださいね。」
『ハイ。』
スミエフ将軍はひたすらに両手を握って無言で祈りを続けていた。
(あぁ!アヴァロン様!どうか…どうかアガルド様の身をお守り下さい!…その為なら私は…)
「どうなっても構いません‼︎」
突然この様に叫んだスミエフ将軍は、腰の剣を抜いて出入り口へと向かって行く。あまりの突然な出来事に衛兵達も止める間もなく彼は謁見の間から出て行ってしまった。
「ッ⁉︎あぁ!す、スミエフさん!」
堀内外交官の声など聴こえるはずも無ければ、引き返すことも無かった。
アガルドに続きスミエフ将軍も居なくなった事に宇津木は舌打ちをする。
「チッ!勝手に動かれると、状況は悪くなっちまうのに!」
ーー
スミエフ将軍が1人剣を持って王宮の廊下を走っていた。
「アガルド様ぁ‼︎何処ですか‼︎アガルド様ぁ‼︎」
その様子を屋根の上からコッソリと覗く『影』達、その中にはリーダー格のヨルチもいた。
「…アガルドに続いて護衛のスミエフ…謁見の間で何があったのだ?」
「ヨルチ隊長…そんな事はどうだっていいじゃないですか?標的がノコノコと姿を現した…群れからはぐれた羊も同然…」
「そうだな…今頃ウルザ達も仕留めてる頃だろう……『流の内なら他の奴らを巻き込んで殺しても構わないらしい』。」
ヨルチの言葉を聞いた『影』達はニヤリと笑う。事実上の『皆殺し』であるからだ。
「だが標的は見失うな…アガルドはバズゥ…スミエフはリコーロ、それとニホン国使者3名…いや、2名は俺とジョッヂで殺る。他の奴らは援護しろ。」
「「オウッ!」」
「良し…作戦開始だ…行くぞ‼︎」
ヨルチの掛け声と同時に『影』達か一斉に謁見の間へと向かって行った。
謁見の間入り口にいた衛兵達は声を上げる。
「き、来たーー‼︎‼︎」
その声に気付いたギーマ国王は衛兵達に命令を下す。
「つ、ついに来たか‼︎落ち着けい、まず作戦通りに動け!全員陣をとって奥の方へ下がれ!大盾兵は前へ‼︎」
「「ハッ!」」
謁見の間の衛兵達は一斉に陣を張る。その動きには無駄がなく、あっという間に大盾兵を前衛とした密集陣形が出来ていった。
「イール王国の衛兵達よ‼︎命に代えても、ニホン国の使者達をお守りしろ‼︎」
「「ウォォォォォォーー‼︎」」
さっきまでのオドオドしていた彼等とは段違いの気迫と闘志か溢れ出ていた。
それを見た『影』達は少しばかり怯むかと思いきや誰1人冷や汗かく事なく、ゆっくりと謁見の間へと入ってくる。
「…威勢だけはいいな……その顔が恐怖に引きつる瞬間が楽しみだぁ。」
「ヒヒヒヒ…さぁどいつからだ?」
「喉仏をスパッと…安心しろよ…俺達ぁプロだ。」
『影』達は、弧を描いた様に刀身部分が湾曲し内側に刃がついた鎌剣を取り出して、構えながらジワジワと近づいてくる。その一番後方で腕を組みながら命令を下す、赤黒い頭巾をかぶった男…ヨルチがいた。
「そうだ、焦るなよ…奴らの面は一丁前だが、武器を見ればわかる…恐怖してる。」
彼の言う通り、衛兵達の目は勇ましいが持っている槍や盾を見ると小刻みに震えていた。恐怖は数や気迫でも誤魔化しきれていない。それが生か死かの状況なら尚更だった。
一番後方の玉座近くでは、宇津木が20式小銃を構え狙いを定めていた。
(そうだ…もっと近づけ…もっと…もっとだ。)
宇津木の存在に気付いたヨルチは彼を見つめる。
(アレはニホン人だな……銃を持ってるのか?…どんな性能かは知らないが、あまり軽んじない方がいいな。…それにあの目…何か狙ってるな。)
すると玉座の近くにいた1人の衛兵が恐れをなしたのか突然武器を投げ捨ててしまった。
「ち、チクショウ!死んでたまっかよ⁉︎」
彼は一目散に持ち場から離れ、玉座の方へと近づく。それに気付いた宇津木は思わず声を荒げる。
「ッ!ま、待てー」
しかし彼の声が届くより前に、その衛兵は玉座の後ろに掛かっていた大国旗をどかした。それによって、隠れていた隠し通路が開けてしまう。
「ッ⁉︎…何と…隠し通路がッ⁉︎…これは気付かなかった。」
隠し通路に目を見開いて驚くヨルチ、隠し通路の存在を敵に知られてしまった事に焦り始める宇津木、直ぐに隠し通路を隠そうとするが衛兵はサッサと中に入ろうとする。
次の瞬間、ヨルチが腰に備えていた刃付きのブーメランを投げ飛ばして来た。ブーメランは猛スピードで回転しながら宇津木へと襲い掛かって来た。
「ッ⁉︎危ぇッ」
宇津木はそれを間一髪で避けるとブーメランは隠し通路へ逃げようとした衛兵に向かって行った。
「…へっ?」
ブーメランは衛兵の首を通った、隠し通路の入り口付近に深々と突き刺さる。すると衛兵の首半分にピッと斬り筋が見え、そこから勢いよく血が噴き出した。刃のブーメランに血は全くついていなかった。
プシュゥーーー!
衛兵の首は半分繋がった状態でダラリと下がり、そのまま彼の身体は力無く倒れていった。
その衛兵の死に様を見ていた他の衛兵達の顔から一気に血の気が引いていった後、さっきまでの威勢とは逆に恐怖による悲鳴が聞こえてくる。
「ひ、ヒィィィィー!」
「く、く、首が…首がぁーー⁉︎」
「うっぷ…オェ……」
宇津木は直ぐに小銃を構えようとするが、ある違和感に気付いた。…小銃の先端部分が綺麗に斬られていた。先ほどの刃のブーメランを見るが、刃こぼれ1つ付いていない。
「なッ⁉︎なんて斬れ味だ⁉︎」
宇津木はヨルチの方へ睨みつけると彼の目は笑っていた。そして、何かに気付いた宇津木はもう一度先ほどのブーメランをよく見る。すると、ブーメランの中心部分に小さく埋め込まれた魔鉱石があった。その魔鉱石はピカピカと小さく光っており、その点滅は少しずつ早くなる。
「これは⁉︎……」
近くにいたギーマ国王もその刃のブーメランの小さな魔鉱石が早く点滅しているのを見ると何かに気付いた。
「ッ!い、イカン!全員伏せろ‼︎」
「ッ⁉︎」
ギーマ国王が叫んだ次の瞬間、突然刃のブーメランが爆発を起こした。
ドグォォォォォォンッ!
ギーマ国王と堀内外交官達は何とか壁側へと滑り込む様に伏せたお陰で大事には至らなかった。しかし、後方にいた衛兵達数名が爆発と爆風により命を落としてしまった。
「グゥ!…おのれぇ……ッ⁉︎つ、通路は⁉︎」
ギーマ国王が隠し通路の方へ目を向けると、先ほどの爆発により隠し通路は瓦礫で塞がれてしまった。
「そ、そんな……」
望みを断たれたと見たヨルチはニヤリと笑う。
「くくく…『詰み』だな。コレがお前達の最期…というやつだ。さて…そろそろ終わらせるか?」
ヨルチは腰に備えていたもう1つの刃のブーメランと直剣を抜き、構えながら近づく。衛兵達の戦意は完全に削がれている。状況は…最悪。
しかし、ヨルチはもう一度チラリと宇津木の方へ目をやると、彼の目だけは死んでいなかった。むしろまだ何かを企んでいる…そんなモノを感じさせる目をヨルチに向けていた。
(何だあの目は?……)
すると宇津木の口元がニヤリと笑う事に気付くとハッとした様子で後ろを振り向く。するとそこには、さっきまでそこにいなかった…『生気を感じさせない何かが』そこにいた。その数は約30近く…。
月明かりの背景にゆっくりと音も無く、赤く小さな目を光らせながら歩いて来る。『それら』は、その風貌から圧倒的な威圧感を『影』達に与えていた。
『目標捕捉…捕獲開始』
無論その正体は…『A・W』である。
生き物の声とは思えない様な声が一斉に聞こえ、より一層不気味さを掻き立たせる。『影』達は完全に動揺していた。
ヨルチは再び宇津木の方へと目を向ける。
「こ、コレが貴様らの狙っていた事か⁉︎」
彼の言葉に宇津木はニヤリと笑いながら答える。
「あんたは…俺たちに『詰み』だと言ったが…それは違う!お前達の方が…既に『詰んでいたんだ』!」
「ッ⁉︎」
尚もジワジワと迫って来る『A・W』、遂に痺れを切らしたヨルチは部下に命令を下す。
「ええい!見た目に惑わされるな!全員でかかれば殺られることは無い!」
「「ウォォォォォォ!」」
『影』達は一斉に『A・W』達に襲い掛かった。
「そりゃぁ‼︎」
1人が『A・W』の首元へ向けて鎌剣を振り下ろす。『A・W』は、彼の手首を掴んで軽々と止めると同時に勢いよく捻じ曲げる。
ベギィッ!
「はぎゃぁぁ⁉︎」
片手の手首が激痛と衝撃と共に突然あり得ない方向に曲がる。すかさず『A・W』は彼をそのまま掴み上げて床に叩きつけ、動けなくなった所を溝落ちに思い一発を喰らわせる。
彼はそのまま意識を失い動くことはなかった。
「ゴフッ!……」
他の『A・W』達も、次々と『影』達を無力化していく。
「おのれぇ…グハッ!」
「イデェ!」
「ウワッ!…ぐぇ!」
「や、やめ…オボェ‼︎」
バタバタと倒れる『影』達、それをチャンスとばかりに衛兵達が一斉に取り押さえ縄で縛っていく。
しかし中には『A・W』とギリギリで戦い持ち堪えている者がヨルチ以外に1人いた。
「クソッ!ジョッヂ!そっちは大丈夫か⁉︎」
「大丈夫!…とは言えませんね!クソッ!」
ジョッヂと呼ばれる幹部は、片手に鎌剣、もう片方に小型ボウガンを構え、傷だらけになりながらも何とか『A・W』と戦っていた。
一体の『A・W』が一気に彼へ詰め寄って来た。ジョッヂは反射的に小型ボウガンを撃ち放つと、偶然にも高感度センサーに命中し、『A・W』の動きを止める。
「ヨルチ隊長!ココは貴方だけでも逃げて下さい!」
「だ、だが…ジョッヂ」
「早く!こいつらは私が食い止めます!貴方様はこの事を本国へ!」
「……すまない!」
ヨルチは謁見の間を後にする。他の『A・W』も彼の後を追おうとするが、目の前にジョッヂが立ちはだかる。
「テメェらの相手はこのー」
バチィ!
「ッ⁉︎…て…テメェら……何しやが…」
ジョッヂは『A・W』に内蔵されていた電気ショッカーを喰らってしまい、そのまま気を失ってしまう。
そして直ぐさま部屋から逃げたヨルチの後を追って行く。
謁見の間には最早立ち上がっている『影』は誰1人いなかった。取り敢えずホッと一安心をする宇津木と堀内外交官、一部始終をただ驚愕して眺めていたギーマ国王。
「と、取り敢えず無事に済みましたね…宇津木さん。」
「えぇ…一時はどうなるかと……ギーマ国王様?大丈夫ですか?」
「………え?あ、あぁ!大丈夫だ!…話には聞いていたが、流石だな。想像以上だぞ…あの『鉄の人形兵』は!…」
「ですが…まだ安心は出来ません。アガルド様とスミエフ様…それに王妃様の安否を確認しないことには…」
「わ、分かっておる。」
『影』達の武器って鎌剣って呼び方で良いのかな?