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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
73/161

第68話 『ユートピア』

今回も長めです。


駐日アメリカ大使とのやりとりがありますが、上手くできてる気がしません。


それを承知した上でご閲覧下さいm(__)m

ーー同時刻 駐日アメリカ大使館



広い応接室には2人の男性が座って話をしていた。1人は日本国副総理の南原武、もう1人は駐日アメリカ大使のジャック・クルーズだった。



「今回、在日米軍も自衛隊共々の作戦に協力姿勢を決定して頂いたことに大変嬉しく思っております。」


「いえいえ、むしろ遅過ぎるくらいで……なにぶん小心者で…本国と連絡の取れない在日アメリカ軍の兵達を何処までこの世界の争いに巻き込んでしまうのか……中々踏ん切りが付かなくて…ですが…ようやく決意いたしました。日本国を守ることは在日アメリカ人を守る事にも繋がりますからな。」


「本当に感謝に絶えません……それにしても…クルーズさん。」


「ん?」


「また…痩せましたね。」



クルーズ大使はかなり痩せこけた体格をしていた。着ているスーツは元はもう少し大きかったのだろうか、少しガホガホした様な感じだった。



「あ、あぁ…ははは…唯一の心の拠り所だった家族と永遠に離ればなれになってしまったことが…かなり堪えまして…」



実は1年以上前の日本国転移の前日、クルーズ大使の家族は、実家の両親に会うため一度母国へ戻っていたのだった。そして、あの転移が起きてしまい、彼は家族と永遠に離ればなれになってしまった。その時のショックが余りにも大きく、日本国政府とのやり取りも思った以上に進まなかったのだった。



「…何がともあれ、私はもう大丈夫です。それよりも…例の約束は?」


「えぇ勿論…この世界に第2のアメリカとなる土地を見つけました。日本から南へ約3000㎞程に陸地があります。そこは何処の国にも属していない前人未到の陸地ですよ。勿論そこの開拓費は我が国の自己負担でやらせて頂きます。」


「おぉ!ではー」


「ですが…その開拓には一つ条件があります。」


「じ、条件ですか?」



南原副総理はポケットから1枚の紙をとりだし、それをクルーズ大使へ手渡した。クルーズ大使はその紙を読んで驚愕する。



「ッ‼︎こ、この情報を何処で⁉︎」


「……それは明かせません。ですが…それを我が国へ提供する事が第2のアメリカ建国へ協力する為の条件です。もし承諾頂けないのであれば…残念ですが……建国の話は無かった…ということになりますが?」


「……分かりました、背に腹は変えられません。ですが、一度各米軍指揮官と話をさせて下さい。」



南原副総理はクルーズ大使の返事を聞くとニッコリと笑い手を差し伸べる。



「ありがとうございます。御安心下さい…あなた方が約束を守って頂けるのであれば、我々も約束を守りますので。」



クルーズ大使も手を出し、2人は堅い握手を交わした。クルーズ大使に渡された紙には『ARSENALアーセナルOCEANオーシャン PROJECTプロジェクト』と書かれていた。







ーーハルディーク皇国 皇城内 会議室


あの騒動から翌日、会議室内にはオリオン皇子とベネット将軍、ソニー王族顧問、リブラ軍務局長がいた。


会議室内は険悪な雰囲気が立ち込めていた。特にベネット将軍とリブラ軍務局長は、もうかれこれ15分も口喧嘩を続けていた。



「ベネット!あの蒸気装甲砲艦一隻作るのに、通常の戦列艦5隻分の費用が掛っているのだぞ‼︎それをあんな大破寸前にまでー」


「好きでああなったんじゃねぇよリブラさんよぉ‼︎」



ベネット将軍とリブラ軍務局長の怒号が響き渡るが、直ぐにオリオン皇子がドンッ!と机を叩いて2人の怒りを鎮める。



「落ち着け‼︎…ではベネットよ……その謎の密偵は飛行船を有していたと?」



オリオン皇子が腕を組みながら質問をすると、ベネット将軍は静かに答えた。



「はい‼︎間違いありません‼︎私も実際飛行船を目の当たりにするのは初めてでしたが…」


「飛行船を有していた所を考えると、今回エドガルドやネイハム達を連れ去ろうとした国は、サヘナンティス帝国の可能性が高いですなぁ。」



この世界において、龍や怪鳥以外の航空戦力を有した国は列強国の『サヘナンティス帝国』と『ヴァルキア大帝国』以外には存在しない考えられている。そもそも、その両国の航空戦力については、低文明国家や普通の高度文明国家は勿論、他の列強国ですらその実態については詳しくは分かっていない。


その為オリオン皇子は、昨日のエドガルドとネイハムを攫おうとした輩はサヘナンティス帝国だと考えた。



「サヘナンティス帝国か……ソニーよ。お前はあの時、彼の国に破壊工作を仕掛けたらしいな。」


「えぇ…確かに仕掛けましたよ。まさかその報復とでも?」


「報復とは違うかも知れぬな……ただ単に、我が国と徹底的に戦う覚悟を決めて、その為にエドガルドの『力』とネイハムの持つ情報を狙った可能性も無きにしも非ず。」


「という事は…遂にサヘナンティス帝国と一戦交える訳ですな⁉︎…ゲッゲッゲ!あの国との衝突は過去何年も両国共に避けて来ましたが、今は我が国の方が圧倒的に有利‼︎…では無いか…あの国には昨夜現れた様な飛行船と隠密部隊『プレゼント・バーズ』がいるか…。」



ベネット将軍の言葉に対し、ソニー王族顧問は疑問を抱いた。



「いえ…サヘナンティス帝国の隠密部隊はハッキリ言って御粗末…取るにたりません。それに、昨夜現れた飛行船に関しても疑問があります。」


「んぁ?何に疑問があるんだよ?」


「ベネット将軍…その飛行船には『プロペラ』と呼ばれる高速回転する羽根は見ましたか?」


「プロペラだぁ?…んー……あの時は嵐で、しかも夜中だったからよく見えなかったけどなぁ…多分付いてたんじゃないか?なんか空飛ぶとき五月蝿かったし。」



ソニーはベネット将軍の答えを聞いて、顎を軽く撫でながら考えていた。



(プロペラがあったと言う事は、やはり彼の国の飛行船か?そもそも龍以外の空飛ぶ乗り物などサヘナンティス帝国とヴァルキア大帝国以外に存在する訳が無いからな…)



「やはり昨日の犯人はサヘナンティス帝国の隠密部隊と飛行船でしょう。…ですが隠密部隊もネイハムも始末できた。取り敢えずは良かったと言ったところですかな?」



オリオン皇子は腕を組みながら今までの話を聞いていた。そして、ニヤリと笑った後にリブラ軍務局長の質問に答えた。



「まぁそういう事になるな。その飛行船が強襲して来たのは驚きだったが、ソニーが持ち帰った軍事技術情報をもってすれば同じ…いやもっと強力な飛行船を我が国は造る事が出来るだろう。それが出来るのなら問題無い…飛行船の建造の方はどうなっている?」


「我が国の蒸気機関技術と彼の国の軍事技術を組み合わせた兵器類は今現在、7割近くまで実現できています。飛行船も戦艦級のモノが数隻建造済みです。」


「順調、順調……ではこの話はもう終わりだ。」



昨日の件については、取り敢えずは終息した事に安堵の表情を浮かべるベネット将軍。実は彼は彼らにある事を伝えていなかったのだ。



(ゲッ…ゲッゲッゲ!…よ、良かったぜ…誰にも気付かれてねぇな。水夫達は口止めしておいたから、もうバレることはねぇよな?)



それは、あの謎の球体を仕留め損なった事である。確信は無いが、あの中にネイハムやその隠密部隊が居てもおかしくは無かったからだ。



(もしあの事がバレたら…俺ぁ間違いなく始末される!)



するとソニー王族顧問が冷や汗を大量にかいているベネット将軍を見て声を掛ける。



「ん?…どうしたベネットさん?顔色があまり優れないみたいですが?」


「え⁉︎いや…そのぉ……別に…」


「……。」



コンコンッ!


「スミマセン…トニーですが…」



会議室のドアをノックしたのは、ソニーと同じ王族顧問のトニーであった。



「トニーか…何用だ?」


「ハイ…ヴァルキア大帝国の使者が来られました。今は客室の間でお待たせさしています。」


「おぉ⁉︎それは誠か⁉︎」



オリオン皇子は嬉しそうな表情でガタッと椅子から立ち上がり、部屋を後にする。他の幹部達も皆彼の後に続いた。その中でもベネット将軍はかなりイラついていた。



「チッ…あのクソ生意気な国と会談かよ……オリオン様は分かってるのかぁ?エドガルドにウチまで攻めるようかき立てたのはそのヴァルキア大帝国だぜ⁉︎クアドラード連邦国家が使えなかったから、今度は自らで手を下す筈だ!」



不機嫌な態度で歩くベネット将軍。その隣を歩くリブラ軍務局長は、特に気にする様子も無く、ベネット将軍を宥める様に彼の話に入り込んできた。



「ウンベカントでの情報工作妨害の報復と言うのならとっくにそうしている。だが、敢えて極秘裏にクアドラード連邦国家に我が国へ攻め込むよう誘導し、それが失敗した後、また何かしらの攻撃を仕掛けてくるのでは無く、この様な会談を望んだ。つまり…少なくとも彼の国は我が国との衝突を恐れている可能性が高い。」



彼の言葉を聞いて少し落ち着いたベネット将軍だが、その表情は相変わらず不機嫌なままだった。



「数日前にヴァルキア大帝国が我が国と会談を行いたいと言う電信が届いた時はヒヤリとしたがな…だが、会談を行うにあたり、『ハルディーク皇国の力を観たい』という要望があったそうだ。」


「はぁ?それってまさかぁ…『ユートピア』の事か?」


「だそうだ…オリオン様はそれを見せるつもりらしい…だが、それが吉と出るか凶と出るか…随分と思い切ったことをする…。」






ーーハルディーク皇国 皇城 応接室



豪華絢爛な応接室の窓から外の景色を眺めていた1人の銀髪の美しい女性と無精髭の生えた軍服姿を男性がいた。



「酷い国……人々はガスマスク無しでは外に出歩けないのね……」


「環境を顧みず国の発展のために尽くす…富国強兵の例となる国と聞いていましたが……私的には全くの期待ハズレでしたな。貴方様にとっては酷く不快な場所ではあると思いますが…」


「いえ…これも国の為……仕事ですから」



ヴァルキア大帝国の外務大臣、オルネラ・ヴェルガゾーラは窓から見える皇都の景色を眺めてこのように呟いた。




コンコンッ



「ハイ…」



ガチャッ!



「おぉ!ヴァルキア大帝国の方々よ、遠路はるばるよく来てくれた!私はこのハルディーク皇国の皇子である、オリオン・ガピオラと申す!」


「ありがとうございます。私はヴァルキア大帝国の外務大臣、オルネラ・ヴェルガゾーラと申します。そして、隣いるのが側近のソル大佐です。」



オルネラ外務大臣の側近、ヴァルキア大帝国陸軍第8師団所属のソル・ティエカン大佐は、堂々とした態度で挨拶を交わす。



「まぁ…宜しくお願いします。」


「うむ!さて、先ずはお待たせしてい申し訳ありません、チョット込み入った事情がありましてなぁ。いやはや!恥ずかしい限りですなぁ!……おやおや?」



オリオン皇子はオルネラ大臣をまじまじと見つめ始めた。急に顔を近づけたりなどをしていた事に、オルネラ大臣は困惑していた。


「あ、あのぅ…何か?」


「ん?ハッハッハッ‼︎イヤイヤ失礼致した!この様な髪の色…中々見ないと思いましてなぁ。いや!髪だけではない…容姿も美しい…いやぁ〜そそりますなぁ〜。」


「は、はぁ…」



すると突然オリオン皇子は、オルネラ大臣の手を取り、甲にキスをした。普段、ポーカーフェイスのオルネラ大臣もこれには驚いた。



「えっ…」


「本当に御美しぃ…どうでしょう?私の側室になって頂けませんかな?…悪いようには致しません…寧ろ次期皇帝である私の側室になれば一生不自由なく暮らせますよ?」



オリオン皇子はオルネラ大臣の手を摩りながら、ニヤケ顔で問いかけてくる。しかしオルネラ大臣はその手をスッと払い退ける。



「お心遣いありがとうございます…。」



オルネラ大臣は明らかに下品な態度のオリオン皇子に心の底で幻滅しながらも、それを表に出さずに堪えていた。



(大柄で下品な人…とても皇子には見えない。)



一方アプローチに失敗したオリオン皇子は、言葉遣いこそ丁寧に思えるが、その表情は不快そうな顔をしていた。



「ふん…そうですか。」



2人の空気の重さを瞬時に察したソル大佐は、早くこの会談を終わらせようと話を進めようとする。



「ゴホン…オリオン様、早速で申し訳ないのですが、『例のモノ』を見させて頂きたい。」


「……そうですな、では早速ご案内しましょう。道中地下への暗く長い階段がありますので、ご注意を…それでは、『ユートピア』へご案内致します。」






ーー

オリオン皇子達の案内の元、『ユートピア』と呼ばれる場所へと向かうオルネラ大臣達。入り組んだ複雑な皇城内を暫く歩くと地下へと続く通路が現れた。



その通路を進むと今度は巨大な歯車が幾つも組み込まれた扉に出た。扉には小さな鍵穴の様な穴が見える。


オリオン皇子は懐から何の変哲も無い小さな鍵を取り出し、その鍵穴にさしこむ。すると、その扉の歯車が連動するように回転し始めた。回転が止まると真っ白い蒸気がプシューッと噴き出し、扉が開く。



ゴゴゴゴゴゴゴ〜〜〜ッ‼︎…プシューッ‼︎



その扉を越えた先には…また同じ様な通路が続いていた。その通路を暫く進むとまたさっきと同じ扉が…それを開くとまた同じ通路が…暫くはこれの繰り返しだった。




「…まだ着かないのですか?」


「…もう直ぐです。」



オルネラ大臣が少し疲れた様子でオリオン皇子に問いかけるが、あの時のことを根に持っているのか、オリオン皇子は相変わらずの調子で答える。


するとさっきまでの倍近くはある扉に差し掛かった。オリオン皇子は今度は先程よりも少し大きい鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。


金属が軋む音と蒸気が勢いよく噴き出してくると、今度は長い長い螺旋階段が見えた。



「この階段を降りた先だ…」



長い長い螺旋階段を降るにつれて、段々と熱気や煙が立ち篭って来た。オルネラ大臣は思わず口を塞いでしまう。



「ハァ…ハァ…この煙みたいなのは?」


「ハッハッハッハッハッ‼︎心配後無用、ここでは外の様な害悪なガスは充満しておらぬ。」


「そうですか…」



暫く長い螺旋階段を降ると、また大きな扉があった。その扉の前には門番と思われる兵士達が警備をしていた。兵士達は頭までスッポリと入ったガスマスクを装着しており、口元からはホースが伸びて背中に着いていたタンクの様な物に繋がっていた。



ソル大佐はその兵士達が持っている銃をチラリと見るとある違和感を感じた。



(武器が…地上にいた奴らと違う?)



その兵士が当たり前のように持っていた銃は、レバーアクション式の長銃で、その機関部には小さな歯車などが無数に組み込まれており、通常のレバーアクション式の長銃には見られないパーツが見られた。



(あの形状…まさかレバーアクション式か?その割には随分とヘンな形をしているな。)



兵士達がオリオン皇子達に向かって敬礼をするとすぐに扉を開けた。


扉を開けた先に見えた景色は…とても地下空間とは思えない程広い空間だった。そこら中に建てられた機械仕掛けの工場に似た建物と数え切れない程の大小様々なパイプが勢いよく蒸気を噴き出していた。


至る所に見える歯車とメーターの様なもの…蒸気が止めどなく溢れでる度にその歯車が連動し動き出している。


蒸気機関都市…これ以外に例える言葉が見つからなかった。多くの工場と歯車、パイプが溢れる白い蒸気に満ちた世界…。



「これが‼︎我が偉大なるハルディーク皇国の心臓部…『ユートピア』です‼︎この国の最先端蒸気機関技術によって日々様々な兵器開発を勤しんでおります‼︎」



オルネラ大臣達はこの光景には正直言ってかなり驚いていた。これほどまでに発達したモノがこんな地下深くに眠っていた事に。



「凄い……」



思わず口から本音が出るソル大佐、普段細目のオルネラ外務大臣も目をパッチリと開けてこの巨大な蒸気機関都市を眺めていた。



「これだけのモノを動かしていたら、ここは外よりもずっと環境の酷い場所になるのでは?」


「確かに…ですが、兵器建造によって排出される有害物質をここに溜め込まない様、外へと続くダクトポンプが無数にあるのです。その結果、外はあの様な事になってしまったがな。あの皇都に見える無数の煙突の殆どはここから伸びている。」


「でもそれと引き換えに住処を汚してしまった…兵器の為なら自分の住処を犠牲にする方なのね、ヴァルゴ皇帝は…」


「いえ、父上はこの場所を知りません。」


「…それは何故ですか?」


「ふふふ…それは何故でしょうかねぇ?」



オリオン皇子の笑顔には何か大きな企みをオルネラ大臣は感じた。オルネラ大臣は、より一層オリオン皇子に対し警戒心を抱くようになるが、寧ろこれは彼女にとっては望んだ事であった。



「まぁいいでしょう…それよりも、上の格納庫ドックのように連なった建物は?」



オルネラ大臣が見上げた目線の先には、天井に吊るされる形で建っていた複数の工場が存在していた。



「アレは飛行船の格納庫ドック兼建造工場です。」


「飛行船?…この国は人工的な航空戦力を有していると?」


「まぁ…このくらいは当然です。表に出ている武器兵器は一種のカモフラージュですよ。」



ここから見える範囲では確かに数十機の飛行船が存在していた。その格納庫ドックの中でも特に大きい格納庫ドックには、通常の飛行船よりも明らかに巨大な飛行船が多数の作業員のもと、造られていた。




「ほう……確かにこれは素晴らしいモノですなぁ。」



オルネラ大臣の側近、ソル大佐がこう呟くとオリオン皇子は誇らしげに語った。



「そうであろう、そうであろう…『龍』で空を飛ぶ時代は終わった…これからは飛行船の様な超機械的な文明力が世を支配するだろう‼︎」



しかし2人は彼の言葉に反応を示さず、ただ『ユートピア』の景色を眺めていた。すると、ソル大佐はそれら飛行船を見てある事に気付いた。



(あの飛行船…サヘナンティス帝国のモノとソックリだ…なる程…彼の国から設計図を盗んできたという訳か。それに…やはりこの建物は…)



ソル大佐はオルネラ大臣の方へチラリと目を向けると彼女も彼の目を見て、小さく頷いた。



(なるほど…オルネラ大臣もお気付きに…)



ソル大佐もそれに応えるよう小さく頷くと、彼はオリオン皇子へ声を掛ける。



「オリオン様…そろそろ本題へと参りましょうか?」


「ふむ、そうだな…では場所を変えるか。」





ーーユートピア とある室内


さっきまでの蒸気機関都市とは不釣り合いな普通の部屋へと場所を変えて、ヴァルキア大帝国とハルディーク皇国の会談を始めていた。


ーー

◇ハルディーク皇国

皇子 オリオン・ガピオラ


王族顧問 ソニー・ジェミニェス

トニー・ジェミニェス


軍務局長 リブラ・グリエント


将軍 ベネット・サジタリュウス



◇ヴァルキア大帝国

外務大臣 オルネラ・ヴェルガゾーラ


大佐 ソル・ティエカン

ーー



薄い装飾模様が掛かった長テーブルに向かい合う形で座る両国の代表者たち…真っ先に口を開いたのは、トニー王族顧問だった。



「まぁ貴国とは色々とありましたが…ここは一つ水に流そうではありませんか?あのダークエルフの一件に関しては、私たちは全く知らなかった事だったのです。」



ソル大佐は怪訝な顔でトニー王族顧問の言葉に対し質問する。



「…それはつまり、貴方達は命令を下さなかったという事でしょうか?」



ソル大佐の質問に対し、トニー王族顧問はシレッとした態度で答えた。



「えぇその通りです。因みに独断でその命令を下した幹部は既に処分しております。」


「そもそもそういった者は、被害国である我が国に対し身柄を引き渡すべきではないか?そのように自身の地位を利用した暴挙者を、我が国では『暴権罪』と言い、銃殺刑に処される。」


「貴国ではそう決まっていても、我が国には我が国のやり方がありますので…」



2人の会話に入るようにオルネラ大臣が静かにトニー王族顧問に対し口を開く。



「…貴方は今その幹部は『処分した』と話しましたね?」


「えぇ確かに…」


「…でしたら、我々としてはその者は『口封じされた』…と受け止められます。これは、これから貴国と良い関係を築いていく上では非常によろしくない事ですね。」


「言われてみれば確かに……ですが、あの一件を引き起こしたその幹部を処分したのは貴国が我が国に連絡を取る前なのですよ。せめて貴国がもう少し早く連絡を……いやいや、ただの言い訳でしたね、申し訳ありません。」



トニー王族顧問はオルネラ大臣達に対し軽く頭を下げながら謝罪する。



(上手いこと仕方のない理由をつけましたね……これではヘタに問い詰めることはかえって危険…ここはひとまず水に流す事にしますか。)



オルネラ大臣は、トニー王族顧問の謝罪に対し、自らもまた頭を下げる。



「こちらこそ…至らぬ点があった事を謝罪します。……やはりここは、水に流すとしましょう。」



取り敢えず、大きな壁を乗り越える事が出来たハルディーク皇国…その中でリブラ軍務局長は、ホッと胸を撫で下ろしていた。



(良かった…あの一件を機に戦争など仕掛けられたら堪ったもんじゃない。……やはり『ユートピア』を見せることで我が国と争うことは得策ではないという事に気付いたっと言ったところか…。)



あの一件とはウンベカントでのダークエルフ族の隠密部隊とその自爆事件である。ヴァルキア大帝国は、自らが雇ったダークエルフ達がハルディーク皇国が雇った別のダークエルフによって始末されていたという情報を得ていた。お陰で日本の情報を詳しく入手する事無く終わってしまった。


そして、あの旧クアドラード連邦国家とハルディーク皇国の戦争終盤に、エドガルドと連絡を取っていたのはヴァルキア大帝国だった。


ヴァルキア大帝国はもしエドガルド達がハルディーク皇国の傘下国の中でもトップクラスの実力を持つトレボール王国を打ち破る事が出来れば手を貸すと申し出ていたが、結局は失敗に終わる。


これはハルディーク皇国側としても自国を破滅へと追いやろうとしたヴァルキア大帝国に対し宣戦布告を行っても可笑しく無い事態であったが、それをしなかった…出来なかったのである。



オルネラ大臣は、話を続けた。



「…我がヴァルキア大帝国としても貴国と組むことは世界において大きな力を誇示する事にも繋がると上層帝府は判断し、貴国と同盟を結ぶ事を前向きに検討しています。」


「おぉ…それはとても喜ばしい事です。」



オリオン皇子は、ヴァルキア大帝国の上層帝府の者達が、自国と同盟望んでいる事は彼自身願っても無いチャンスだった。ヴァルキア大帝国様な国がハルディーク皇国と同盟を結べば、この国はより強大な国として君臨する事が出来ると思っていたからだ。



(良いぞ……ヴァルキア大帝国を味方に加われば、最早我がハルディーク皇国に敵は無い…そして、そう遠くない未来…ヴァルキア大帝国をも超える強大な国家となれるだろう…その時は…我がハルディーク皇国の万年天下の時代がやって来る‼︎)



「ですが…それには条件があります。」


「…条件?」



トニー王族顧問は納得のいかない様子でオルネラ大臣に質問をする。



「…なぜ条件が?貴国は我が国との同盟を望んでいたはずでは?」


「…わたしは『前向きに検討している』と話したのです。決定ではありません。」



リブラ軍務局長が額に汗を流していた。



「そ、その条件とは?」



オルネラ大臣は平然とした顔で静かに答える。



「はい…その条件とは…『貴国が我が国の同盟者として本当に相応しいのかどうか…その実力を見せて頂きたい』との事です。」



オルネラ大臣の言葉にオリオン皇子は強い不快感を感じた。



(この女ぁ……偉そうな事をッ‼︎)



バァン‼︎



突然ベネット将軍が握り締めた拳で思い切りテーブルを殴った。



「オルネラさんヨォ‼︎…さっきから聴いてれば…随分と上から目線なんじゃあないのぉ⁉︎」



ベネット将軍はテーブル越しに詰め寄ってきたが、側近のソル大佐が懐から拳銃を取り出しそれをベネット将軍の眉間に当てる。しかし、ベネット将軍も同時にソル大佐の眉間に銃口を当てる。



「舐めるな下衆が…撃つぞ?」


「その言葉…そのまま返してやるよ…若造。」



場の空気が一気に緊張感に包まれる。



「止めなさいソル大佐…無礼よ。」


「…ハッ、申し訳ありません。」



オルネラ大臣の一言でソル大佐はスッと拳銃を懐に戻して席に座る。



「ベネット…お前もだ。」


「…チッ」



ベネット将軍もオリオン皇子の制止に従い、銃を下すがその敵意は剥き出しのまま席へと戻る。



「…ハハ、話が逸れてしまいましたな。ではその条件…どうすれば?」


「……その方法はあなた方にお任せします…ですが、『低文明国家や中小レベルの高度文明国家相手では足りない』…とだけ申して言っておきましょうか。」



オリオン皇子はこの言葉を聞いてニヤつく。



「ふふふ…成る程、『実力を示せ』っというわけか?」


「まぁ…そういう訳です……」



するとソル大佐はオルネラ大臣の側へスッと近づき耳打ちをする。



「ーーーー…。」


「…そう、分かった。」



オリオン皇子は2人の様子に違和感を感じる。



「ん?…いかがいたした?」


「本国から緊急の帰還命令が来ました。心惜しいですが、今日はこの辺で失礼させて頂きます。…我が国の意思はしっかりと伝えましたので…では。」



オルネラ大臣達は席を立つと、ハルディーク皇国の従者の案内の元、部屋を後にする。そして、ベネット将軍が苛立ちながらオリオン皇子に詰め寄る。



「オリオン様‼︎俺はあいつらと手を組むのには反対だ‼︎」



ベネット将軍の言葉にリブラ軍務局長は呆れながら答えた。



「はぁ…お前なんかの好き嫌いで国と国との付き合いを決めたんじゃあ堪ったもんじゃない。」


「あんだと⁉︎」



オリオン皇子はまた始まったかと言いたげな呆れた表情で2人の口喧嘩を眺めていると、王族顧問のトニーとソニーが近づいてきた。



「オリオン様…デドリアスが『極楽草』の件について報告が来ました。」


「是非とも見て頂きたいとの事です。」



『極楽草』とは、この大陸にしか生息しない植物である。この植物の活用方法は『色々あるが』、この国では『極楽草』を使った『あるモノ』の開発に力を入れている。



「ほぅ…デドリアスは今どこに?」


「彼は今『栽培舎』に…」




ーーユートピア 栽培舎地区



大きなビニールハウスの様な建物がズラリと建ち並ぶこの栽培舎では、作業員の殆どが防護服を着て作業をしている。


ここでは『極楽草』と呼ばれる植物の栽培と品種改良を行っていた。そこへオリオン皇子達が立ち寄る。



「皆のもの、励んでいるな?」


「お、オリオン様ッ⁉︎」


「オリオン皇子‼︎」



彼らは作業を中断し、オリオン皇子に対し敬礼していた。



「あーよいよい、それよりもデドリアス貿易長はいるか?」


「はい…ここに。」



ビニールハウスの中から防護服を着た1人の男が現れた。彼がこの栽培舎の責任者にして、ハルディーク皇国貿易局局長のデドリアス・スコーピオである。



「デドリアスよ…人工栽培の『極楽草』についてだが…」


「えぇそうですよ。此方へ…あっ!防護服着用をお忘れなく。」



オリオン皇子達は防護服を着て、デドリアス貿易長の案内の元、ある場所へと辿り着いた。そこは多数の檻が置かれ、その中には老若男女問わず多くの人間が入っていた。この人間達は、侵略した国で手に入れた者達である。


オリオン皇子達は、その新たな段階へと進んだ『極楽草』の場所へと向かっていた。そして、ベネット将軍が檻の中にいる者たちを見て呟く。



「『極楽草』ねぇ…名前こそは良い雰囲気かましてるけど実際のところ、かーなーりーえげつない代物だよなぁ?ゲッゲッ‼︎」


「我々にとっては金のなる木…いや金のなる草だ。」



『極楽草』はつまるところ強力な麻薬植物である。デドリアス貿易長の役割は、それを量産し他国へ売り捌き資金を得る事である。






ーー

一行がある栽培舎へ到着するとその中で栽培されていた『極楽草』は、他のモノと比べると少し大きかった。



「どうですか?こちらの『極楽草』は、品質、成長性において従来の物よりも遥かに上です。おまけに各傘下国の幹部たちから追加の注文が引っ切り無しですよ。お陰でがっぽり稼げてます。」



この国で栽培されてる『極楽草』は、殆どが傘下国や大陸外の周辺国へ輸出し、その国の高官職にかなりの人気がある。また、『極楽草』の依存性は高いため、続々と追加申請が来る。ハルディーク皇国にとっては正に『金のなる草』なのである。昔はその量産方法が難しく、多くの赤字を記録したが、試行錯誤の結果現在の様に大量の『極楽草』を栽培する事に成功できた。全ては沢山の金銭を得るため…


しかし、これらを高値で買う国の高官達は、何も『極楽草』そのものを欲しているのでは無かった。彼らは『極楽草』を原材料として作られる『ある物』を欲しているのだ。



「デドリアスよ…これの品質改良を成功させた事については良くやった。そこでだ……これの依存作用を50倍に出来るか?それでより多くの者へ売るのだ。高官だけで無く、中級から下級政務官と幅広くな。低文明国家に至っては、普通に国民にも裏ルートで売り捌け。」


「もちろん可能です。しかし、それではその国そのものが破滅してしまいますよ?」



オリオン皇子は、『極楽草』の葉を1枚むしり取って、それを照明に照らしニヤリと笑みを浮かべる。



「……所詮は下級国家ゴミどもだ、別に構わない。絞れるだけ金を搾り取れ。」




そこへ荷物を持った複数の作業員が現れた。



「あのぅデドリアス貿易長…これは何処にー」


「ッ⁉︎馬鹿者‼︎オリオン皇子の前だぞ‼︎身をわきまえろ‼︎」


「ひっ⁉︎も、申し訳ありません‼︎」



ガシャァァン!



デドリアス貿易長に怒鳴られた事で驚いた作業員達は持っていた荷物をうっかり落としてしまい、中に入っていた小さな赤い木の実の様なモノが散らばってしまった。



「あっ⁉︎…全くお前らは…すぐに片付けろ‼︎」


「は、ハイ‼︎」



するとその内の1つがオリオン皇子の足元へと転がって行き、彼はそれを摘み上げて静かに眺める。



「…こんなものを奴等は欲しがるのか?ククククッ…愚かな事よ、余計に苦しませてるとは知らずになぁ。」



作業員達が落とした箱には『ルカの秘薬』と書かれていた。





ーー数時間後 ユートピア 最深部


ユートピアのさらに近く深くに造られた青く薄暗い空間で多くの科学者や魔導士達が作業をしていた。



「おい、第3魔高炉はどうだ?」


「火薬と魔鉱石との適合率78%…順調です。」


「第5、6魔高炉の『魔操機』が完成した。」




ここには『魔高炉』と呼ばれる不思議な青白い炎を宿した炉が複数存在していた。


『魔高炉』は上級魔鉱石を兵器や道具に加工するのに必要不可欠な物である。



「『第0魔高炉』…適合率45%まで上昇。」


「よし…いけるな。」


「魔力注入量を7000にまで上げろ」


「了解。」



その魔高炉の中でも一番大きい、『第0魔高炉』と呼ばれるモノの内部に、透明な結晶石の中に約30㎝ほどの『球』が青い炎に包まれていた。


その『球』は時折赤い光を脈打つように光っており、それを離れた所から眺めている。3人の人物…デドリアス貿易長とソニー王族顧問とカプリコス大魔導士がいた。



「やっぱり…貴方は『正解』でしたよ。まさか本当に完成させるとは…流石ですね貿易局局長兼兵器開発局局長のデドリアスさん。」



ソニー王族顧問が拍手を送りながらデドリアス貿易長を褒めていた。



「まだ完成はしていませんよ。…あと、分かっているとは思いますが、これは今までの大砲や銃といった武器よりも遥かに強力でコントロールが難しい。ねぇ?カプリコスさん。」


「左様、これを使ったが最後、その有効範囲内にいる生物はかなりマズい事になりますが…どうなっても構わないのですね?下手すれば我々にも危険が及びますぞ。」



カプリコス大魔導士が豊富な髭を撫でながら話すとソニー王族顧問は、青く光る炉を見ながら答える。



「何事にも『リスク』が存在します。問題はそれを乗り越える事が出来るかどうかです。」


「「??」」



2人はソニー王族顧問の言ってる意味がイマイチよく分からなかった。しかし、彼は構わず話を続ける。



「これは1つの『試練』です。それを越えた先にある栄光を得るための『試練』なのです。『大いなる試練の先にあるは、大いなる幸福のみである』。つまり、我らが目指す栄光は、この新兵器完成の先にある…。」



2人はソニー王族顧問の話を聞いて、改めて思った。「これを完成させる事が、この国をさらなるいただきへ昇る事が出来る」という事に…。



「…これを完成させたら実験が必要ですね。『何処』でやりますか?」



デドリアス貿易長の質問にソニー王族顧問は首を傾げながら答える。



「…おかしな事を聞きますね?場所はもう決まったでしょう?」


「ん?」


「『試験』はもう行ったでしょう?」

『ユートピア』は『スチームパンク』をイメージしましたが、やっぱり言葉で表現するのは難しいです。

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