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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
72/161

第67話 大脱走

今回は長めです。


新しい異世界側の兵器が登場します。


ミリタリー知識皆無であることを理解した上で見て下さい( ;´Д`)

 ーー監獄島


 ゴーーーンッ!ゴーーーンッ!



 緊急時の鐘が鳴り響く…監獄島内の兵士達はバタバタと走り回っていた。



「だ、脱獄だーーーーーーッ‼︎」


「5階に収容していたネイハムが居なくなったぞーー‼︎」


「どうやって逃げたんだ⁉︎」


「警備は何していた⁉︎」


「ンな事はどうでも良い‼︎厳戒態勢をとれ‼︎」




 監獄島内部に兵士達が続々と集結しつつあった。石窓には棘付きの檻が降ろされ、監獄内の出入り口は1つだけを残して閉められ、その唯一の出入り口には数百の兵が長銃を構えながら陣を構えていた。脱獄犯が外へ出ることを防ぐ為である。



「監獄長!東門以外全ての出入り口を閉鎖しました‼︎」


「うむ!東門はどうなっている⁉︎」


「ハッ!東門には200人の兵とサイクロプスで固めております。」


「良し‼︎伝令兵‼︎近くのフーバ海軍基地へ戦列艦を直ぐに寄越すよう連絡しろ!」


「お、お言葉ですが外は嵐です!戦列艦は直ぐに出撃出来ないかと…」


「連絡するだけ連絡してみろ!」


「は、ハッ!」





 ーーハルディーク皇国 フーバ海軍基地 伝令室



 多くのパドル型戦列艦が停泊しているフーバ海軍基地。陸地には城のような建物が立っておりその中にある塔の1つが伝来塔であり、遠方からの魔伝などの情報を整理していた。



「……ッ⁉︎ソウザ大佐!監獄島より緊急連絡!…『脱獄犯あり、至急援軍を要請する。』」


「なに⁉︎…しかしこうも嵐が酷いとー」



 バァーンッ!


「「ッ⁉︎」」



 突然、伝令室のドアを蹴破りながら入って来た一人の男…ベネット・サジタリュウスが血相を変えて現れた。



「なんだとぉ〜〜⁉︎オイオイ‼︎そこのあんちゃん!脱獄したおバカさんは誰なのか聞いてみねぇい!」


「え?…は、ハイ!」


「あ、あのぅ…ベネット将軍……何をそんなに…」


「お前さんには関係ねぇよ‼︎」


「わ、分かりました!ネイハム!…ネイハム・エアドレッドです!」


「ッ⁉︎」



 ベネット将軍は「やっぱりか⁉︎」と話し苛立ちの表情で腕をブンブンと振り回す。



「クソッ!遅かったか!何であの男をよりによってあんな所に入れたんだ⁉︎あの監獄島はヤツにとって庭のようなもの!万が一逃げ出したりしてどっかの国に行ったら……ちくしょう‼︎もっと早くに気付くべきだった!」


「あ、あのぉ…」


「ここの指揮は任せたぞ‼︎」



 ベネット将軍は足早に部屋を後にした。そして、塔から出ると出入り口で待機していた兵に声を掛けた。



「オイ!『電磁通信機』は使えるな⁉︎」


「ハイ。」


「良し!直ぐに『ユートピア』に繋げろ!」


「(ち、ちよっと待って下さい将軍⁉︎声がデカイですよ⁉︎)」


「あぁ⁉︎こんな嵐だ!聞こえねぇよ!早く連絡しろ!オレの『コルテス』ちゃんを直ぐに出すようにな‼︎」


「ッ⁉︎じ、『蒸気装甲砲艦』をですか?そ、それこそ機密情報を漏洩する事に…」


「どっかの国がヤツを拾って『あの情報』を聞き出されたらマズイんだよ!いいから早く連絡しろぉ…オレの『ダミアン』がぶっ放すゾ‼︎」





 ーー監獄島内部 1階



「第2警備隊続けー!」


「第4警備隊は6番通路を塞げ!」


「見つけ次第だ撃ち殺せ!」


「おい!もっと燭台に灯りを付けろ!」



 別班達は1階の階段下や積まれた箱樽の陰などに隠れながら事の様子を見ていた。しかし、警備がかなり厳重になって来ていることに別班達は溜息をついた。



「(チッ!コッチはダメだな)」


「(コッチもだ…我々が通ったルートは全て抑えられた。待機していた奴らは?)」


「(さぁな…でも変に騒ぎが大きくなってない辺り、うまく隠れてんだろ。)」



 隊長の鈴木は周囲を見渡しながらこの状況をどう切り抜けるか考えていた。



「さぁて…どうしたものか(装備はP-90とM-4に9㎜拳銃、手榴弾…十分とは言えないな)。」


「(さぁさぁどうする?ニホンの隠密部隊よ…フヒヒヒ!)」


「……」



 鈴木はネイハムの言葉に若干の苛立ちを覚えるが、直ぐに気持ちを切り替える。すると鈴木は兵士達の声を聞いてある事に気付く。



「オイ!もっと灯りを付けろと言っだろ!」


「も、申し訳ありません!外の倉庫にしまっていた燭台や松明が湿気っていて上手く灯りません!」


「ええい‼︎クソッ…外は月明かりも出てない最悪の天気…唯一の外の光は雷だけか!」



 鈴木はこの言葉を聞いて閃いた。そして、無線を使って各隊員に命令を出す。



『各隊員灯りのついた松明や燭台が見えるか?』


『……えぇ見えますね。』


『コッチもです。』


『良し…あの燭台と松明を消すぞ、その後敵を出来るだけやり過ごしながら一気に出口を探す。』


『…燭台や松明は確認出来るだけで15個ありますよ。誰がやります?』


『平山、粕谷、米井、松崎…やれるか?』


『『問題なし』』


『良し…灯りが消えた時の障害物及びルート確認』


「あ、あのぉ…」



 隊員達とのやり取りに恐る恐る割って入って来たネイハムは、魔伝を使わずにどうやって連絡を取り合っているのか不思議に思っていた。



「ん?なんだ?」


「えぇ…と…開いてる出口は恐らく東門だ。だがそこには数百の兵達が守ってる。」


「む?そうか…」


「だが…ここから出ることは出来るぞ。西門近くの石柱の根元に隠し通路がある。そこを使えば外に出られる。安心しろ、外に出てもあるのは処分される筈の死体の山しかない、そんな所に兵士達は滅多に寄り付かない。」


「…案内できるか?」


「無論だ…何を仕掛けるのか分からぬが、この状況を切り抜ける事が出来るのならな。」


「わかった…いいだろう。じゃあこれをつけろ。」


「ッ⁇」



 そう言って鈴木は暗視装置サーマルを取り出し、それをネイハムに装着させた。



「わっ!な、何をする!これはなんだ⁉︎こ、拘束具か⁉︎」


「声を出すな…ほら」



 暗視装置サーマルのスイッチを押すとネイハムは口をポカーンと開けて辺りを見渡した。



「見えるぞ…これはどうなってる?松明の光でしか見えなかった所がハッキリと……なんだこれは…」



 人は本当に心の底から驚く時は、大きな反応ができない。ネイハムは今まで真っ暗で見えなかった視界が突然見えた事に驚愕していた。景色こそ少し違和感があるが、それも気にならないほどハッキリと見えていた。



「良し…今からあの灯りを消してここを真っ暗闇にする…その隙にお前の言う場所へ向かう…各隊員聞こえたか?」


『『ハッ』』


「あぁ!任せろ……いや待てよ…お前さんはいいのか?」


「ん?何がだ?」


「これが無ければお前さんも他の敵と同じ様に周りが見えなくなるんじゃあ?」



 突然、鈴木は顔をネイハムにグイッと近づけた。イキナリの出来事に戸惑うネイハムは口に出す事が出来なかった。


 鈴木はネイハムの首元まで顔を近づけさせるとスーッと大きく鼻で息を吸った後、ニヤリと口元を歪ませながら耳元で呟く。



「心配してくれてるのか?…優しいねぇ……だが問題はない…既に『覚えたからね』…それに…それは俺にとっては御飾りみたいなモンさ。」


「え?」


「いや…何でもない。んじゃあ始めるぞ。」



 松明や燭台を頼りに相変わらずバタバタと忙しそうに走り回る警備兵達。別班達は気付かれないうちにユックリとサプレッサー付きのM-4とP-90を松明や燭台に向け始める。



『…各員いつでも行けます。』


『よし……撃て。』



 ブシュッ!ブシュブシュッ‼︎ ブシュッ!



 サプレッサー特有の音が聞こえると同時に松明が弾丸に貫かれて吹っ飛んだり、燭台が倒れたりしていた。


 平山達は、1つ目を命中ヒットさせたら直ぐさまつぎの目標ターゲットに標準を合わせて引き金を引いた。



 ブシュッ‼︎ブシュッ‼︎



「うわぁ⁉︎」


「なんだ⁉︎燭台が吹っ飛んだぞ!風か⁉︎」


「ま、真っ暗で何も見えない⁉︎」


「は、は、早く灯りを付けろ!」


「暗くて何も見えません!燭台の位置がどこなのか…」



 そしてものの数秒で全ての松明と燭台の明かりを消した隊員達はネイハムの誘導の元、西門へと向かった。



「(こ、コッチです!)」



 真っ暗闇でそこら中に警備兵が入り乱れる中を縫うように隊員達は走り抜けて行った。



「あ、あれ?今何か走らなかったか?」


「馬鹿なこと言うな!こんな暗闇を走るやつはいねぇよ!」



 途中突然ネイハムの目の前に警備兵が狼狽えながら銃をアッチコッチに向けてやって来た。その足取りや様子から此方の様子は見えていない様だったが、このままでは変に気付かれてしまう為、『排除』する事となった。



『平山…あいつを殺れ。』


『了解。』



 ブシュッ‼︎



 掠れた空気音が聞こえると同時に目の前の警備兵は頭部を撃ち抜かれ、脳髄と血液が混ざったドロドロの液体を噴き出しながら崩れるように倒れる。



「わひぃ⁉︎」



 突然目の前で起きた壮絶な人の死に情けない声を上げるネイハムは、一瞬その場に立ち竦んでしまったが、すぐに他の隊員に背中を押される事で正気にもどった。



「大丈夫か?」


「え?…あ、あぁ…」


「頼むぞ。」



 他の隊員がその死体を運び、何処か見つかりにくそうな場所へと直ぐに隠した。


 そして未だ灯りを点けられずに騒いでいる警備兵達を後に、別班の隊員達は西門へと再び向かった。






 ーー監獄島内部 西門前



 別班達は何とか西門まで辿り着く事が出来た。西門には警備兵が全くと言っていいほど存在しなかった。殆どの兵士達が、東門やその付近、及び1階へと向かったからである。



 隊員達は、近くの樽が複数置かれた所に隠れて様子を見ていた。



「ここの警備兵は5人だけか…5人同時射撃だ。」


『『了解』』


『3…2…1…撃て。』



 ブシュッ‼︎‼︎



 サプレッサーから聴こえるか独特な掠れた音が5つ重なり、それが西門付近に響くと同時に見張りの兵士達5人が頭部や胸部から血を撒き散らしてバタバタと倒れていった。



『…Beautiful♡』



 すかさず他の隊員達が死体を運び樽の中に隠していった。



(あ、あれはまさか…銃か?…だが我々のとはかなり形が…)



「さぁネイハムさん…隠し通路は何処ですかな?」


「そ、そうだな…えーっと…確かここに…」



 ネイハムは西門から少し離れた石柱まで移動するとその根元を手で探り始めた。


 しかし、その隊員達が警戒していなかった空樽の中に、予想だにしていなかった者がいた。



(ま、マジか…マジかマジかマジかよオイ⁉︎だ、だ、脱獄犯見つけちゃったよ……どっかの国の隠密部隊も…ヤベェよヤベェ…俺仕事が嫌だからサボってたダケなのにッ⁉︎)



 先ほど隊員達が死体を隠した樽の中に1人の若い警備兵がいた。彼は運良く隊員が死体を隠す樽に選ばれなかった為、バレずに済んでいた。



(ど、どうする?…ここで出てきて取っ捕まえるか?…イヤイヤ!コッチは1人向こうは多数…勝てる見込みがねぇ!それに…)



 彼は樽に空いた穴をソーッと覗いて外の様子をみていた。鋭い眼で辺りを警戒する別班の姿があった。



(絶対に無理だってぇ‼︎……ここはやり過ごそうか?……ん?)



 すると彼は樽の中に1匹のネズミが居たことに気付いた。大のネズミ嫌いの彼は驚きのあまり手に持っていた銃の引き金を引いてしまう。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 ダァーーンッ‼︎……



「「ッ⁉︎」」



 監獄島内部に響く女の様な情けない叫び声と銃声。隊員達は直ぐにその樽の方へ向かって銃を向ける。若者は樽の中で縮こまりながら、恐怖と絶望から失禁してしまう。



(は、はは…はははは…終わったよ…俺の人生…)



 隊員達はその樽に近づこうとしたその時、だんだんと怒号にも近い掛け声が近づいて来ている事に気付いた。



「隊長、早くしないとヤバイですよー。」


「ハァー…分かってる。俺のミスだ…こりゃ後で指詰めなきゃいけねぇかな?」


「チョット隊長〜任侠映画の見過ぎっすよ〜?」



 最悪の事態になって来ているというのに別班達はまるで何時もの日常風景の様な雰囲気で会話をしていた。



(な、何なんだあいつらは?ニホンの隠密部隊はイかれ野郎達で編成されてるのか?)



「さて、ネイハムさん…いよいよ時間が無くなって来ました。隠し通路は見つかりましたか?」


「…へ?あ、あぁ見つけたぞ。ここだ。」



 そう言うと彼は石畳の隙間に指を入れるてそれを引くと、そこから下へと通じる階段が出てきた。



「これだ…下に続いているが、直ぐに外へと通じる階段が見つかる。さぁ早く!」



 隊員達は全員がその隠し通路へ入るとネイハムは、石畳をソッと閉じてる。すると直ぐに他の警備兵達が現場に駆けつけてきた。



「ここだ!ここで銃声が聞こえたぞ!」


「暗くて良く見えませんが、目を凝らすとあたりに撃たれたような血の跡がみられます!」


「見張りの兵士達がいない…と言う事はこの血は…」


「クソッタレ‼︎脱獄犯だけじゃない‼︎恐らく侵入者もいる!」


「か、監獄長!…樽の中に生き残りの警備兵がいました!」


「なに⁉︎」



 他の警備兵に抱えられながらフラフラと歩く若い警備兵が居た。



「だ、大丈夫か?」


「はい…だ、大丈夫れす。」


「(大丈夫には見えなんだが…)そ、そうか…では聞くが、ここに敵はいたのか?」


「はい…。」


「何人だった?」


「ハッキリと見てはいませんが、8人程いました。その内の2人が囚人でした。」


「なに⁉︎…誰だか分かるか?」


「ね、ネイハムさんと…エドガルドでした。」


「ッ何だと⁉︎くそッ敵はエドガルドの力を手に入れることか⁉︎ネイハム氏は何故なのかは分からんが…そいつらはどこに行った⁉︎」



 若い警備兵はゆっくりと腕を上げながら人差し指を立てた。そこは石柱近くの石畳だった。


 直ぐに近くの警備兵が数人で指差された所を探すと一部の石畳が外れ、そこから階段が現れた。



「ッ⁉︎こ、こんなとこに…」


「て、敵は何でこんな所に隠し通路がある事を?」


「ええい!奴等を追え!そして殺せ!撃ち殺せ!」


「は、ハイッ!」



 多数の警備兵達が雪崩の様に隠し通路へと進んで行った。通路は1列に進むのがやっとな程狭かったが、警備兵達はドタドタとその狭い通路を走り抜けていく。



「(クソッタレが!俺の親友を殺しやがって!絶対にゆるさねぇ!見つけ次第俺が一番に撃ち殺してやる!)」



 すると先頭を走っていた警備兵が足に何かを引っ掛けた。しかし警備兵は気にすることなくそのまま走り抜けて行った。次の瞬間ー



 ピンッ……ドグォォォォォォン‼︎



 狭い地下通路で突如として起きた大爆発。地下に入っていた数十人の警備兵はその爆発と爆発後の地下崩落に巻き込まれてしまった。


 入り口付近に居た警備兵たちもその爆風に吹き飛んでしまう。



「うわぁ⁉︎」


「な、何が起きた!」


「あぁ‼︎…地下通路が崩落してます!」



 突然の出来事に全くと言っていいほど理解出来ていなかった監獄長は呆然とその悲惨な光景眺めていた。



 実は別班の隊員がこの通路を通っていた時に、通路の中程に手榴弾を使ったブービートラップを仕掛けていた。手榴弾の安全ピンに紐を対象物に繋げて、それに引っかかった敵が安全ピンを抜くと炸裂する仕組みとなっている。



「か、監獄長!沖合に戦列艦と思しき船が見られます!」


「……お、おぉ‼︎そうか‼︎この嵐の中来たのだな!さぞかし腕の良い者がー」


「そ、それが少し可笑しいんですね……チョットこれを…」



 警備兵が監獄長に望遠鏡を手渡し、その戦列艦と思わらるモノが見えた沖合を指差した。



「……ほら!あそこです!」



 かなり離れてはいたが、確かに船があった。旗も見た感じではハルディーク皇国のものである為、恐らく自国の軍艦である事は分かった。しかしー



「…なんか見たことない形をしていないか?蒸気機関の煙突は見えるが…アレは……まさか鉄で出来ているのか?それに両舷艦側に砲門が無いではないか?…」


「ま、まぁでも…我が国の戦列艦である事は間違いないですし……と、取り敢えずいいかなぁ〜…っと思いますが…?」






 ーー監獄島


 嵐の中、爆煙を上げている監獄を外から見つめていた別班達がいた。その中にネイハムやエドガルドも当然存在していた。



「ヒュ〜〜…スッゲェな。」


「あんなところでやられちゃ溜まったもんじゃねぇわな。」


「それにしてもここは…」



 別班達がいた場所は亡くなった囚人の死体安置所であった。数百体はいるであろう死体は、鼻が曲がりそうな異臭を放っていた。比較的新しいモノ、腐りかけてるモノ、ほぼ白骨化したモノ…全くと言っていいほど処理をしていなかった。



「はぁ…はぁ…この死体は誰が処理するんだ?」



 息を切らすエドガルドの質問にネイハムが答えた。



「ある程度死体が溜まったら海へ落とす…んでもってその死体を魚や海獣が餌として食べて処理してもらうのさ。」


「…ここの囚人達は何をしてここへ?」


「ここは普通の監獄とは違う…政府にとって危険『かもしれない』人を収容する所さ。別に何かしでかしたってヤツはあんまり居ない。」


「『かもしれない』⁉︎」



 ネイハムの答えにエドガルドは驚愕する。ネイハムはその後も淡々と説明をする。



「政府に対し強い不満を抱いていたモノ、王族の意に添わない何かしら新しい政策を考えたモノ、とにかく政府が危険と判断したモノを死ぬまで閉じ込める為の監獄だよ。私も…その1人だった。」



 エドガルドはあまりのやり方に声が出せなかった。そして、同時にネイハムの事が哀れに思えた。自分で設計した監獄に当の本人が収監されてしまった事に。


 エドガルドはこらからどうするのか別班達に聞こうとした…その時、彼らはその死体に手を合わせて目を瞑り、軽く頭を下げていた。



「(これがニホン国の死者に対する弔い方なのか…敵とはいえ…異国人とはいえ…異教徒とはいえ…死者は平等に弔う。)」


「はは…こんなのを他の宗教徒が見たら、『汚らわしい』と彼らを蔑むだろうな。」



 別班達は数秒死者を弔った後、直ぐに行動に移った。



「良し…回収ランデブー地点ポイントへ移動する。」



 別班の鈴木はスンスンと辺りの匂いを嗅いだ後に呟いた。



「……思った以上に回収ランデブー地点ポイントから遠い所に出たな。」



 次の瞬間ー



 ドグォォォォォォン‼︎



 突然彼らからそう遠くない場所が大きな土煙を上げて大爆発を起こした。



「伏せろ‼︎」



 隊員達は一切にその場に伏せた。エドガルドとネイハムは何が起きたのかサッパリ分からなかったが、他の隊員達に押される形で地面に伏せた。



「状況確認。」


「んー…よく分かんないですけど……恐らく沖合からだと思われます。」


「沖合?…奴等にこの嵐の中、沖合まで来る船があるのか?」



 この言葉を聞いたネイハムは一瞬にして青ざめた表情になった。



「ま、まさかッ⁉︎」




 監獄島内にいた警備兵達も大慌てだった。



「な、何だ⁉︎何が起きた⁉︎」


「監獄長‼︎…砲撃です!この島は砲撃を受けています!」


「何⁉︎」



 すると次々と大きな爆発音と共に地面が揺れ、監獄の一部が大きく崩れていった。



 ドグォォォォォォン‼︎



「か、監獄の北門に直撃‼︎」


「死傷者多数‼︎」


「何だ一体!何が起きてる⁉︎」


「か、監獄長‼︎砲撃は…砲撃は先ほどの戦列艦からです‼︎」


「は、はぁ⁉︎」







 ーー監獄島 沖合



 大きな嵐の中、転覆する様子もなくどっしりと構えていた一隻の『蒸気装甲砲艦』の姿がそこにはあった。



「……監獄の北門に砲弾直撃‼︎……次いで死体安置所付近に着弾‼︎」


「ゲーーッゲッゲッ‼︎良いぞ〜‼︎ドンドンぶっ放せ‼︎…監獄島を火の海にしろ。」



 甲板から望遠鏡を使って状況報告をする水夫の傍にゲラゲラと笑うベネット将軍の姿があった。



「一気に叩き潰すぞ‼︎主砲!副砲発射用意‼︎」



 装甲砲艦の艦首部と左舷部の砲塔が再び目標に標準を合わせ始めた。



「ゲヒッ!撃てぇーー‼︎」



 ドォン! ドォン!ドォン!



 デカイ爆発音と爆煙を上げて撃ち放たれた砲弾は数秒後に、監獄に直撃して大爆発を起こした。



「いやっほ〜‼︎…さっすが俺の『コルテス』ちゃん♡ゲッゲッゲッ!」




 ーー

 蒸気装甲砲艦『コルテス』


 とある国の軍事技術を元に急ピッチで建造されたハルディーク皇国の新兵器。海軍将校ではないが、特例としてベネット将軍が指揮する装甲砲艦として使われている。



 全長…90m

 全幅…18m

 主機…マキシム蒸気機関2基

  石炭専焼缶8缶 2軸推進


 最大速度…13ノット

 航続距離…4500海里

 乗員…350人

 兵装…200㎜砲 2門

  150㎜砲 2門

  57㎜連射砲 2門

  37㎜砲 6門


 装甲…鋼鉄製バーベット

  鋼鉄製装甲水線

 ーー



 砲弾が撃ち放たれる度に爆発する監獄はみるみる崩落していった。嵐と砲撃音しか聞こえないはずが、水夫達の耳には監獄島にいる同胞達の断末魔の叫び声が聞こえてくる。誰一人として明るい表情の者はいなかった。いや…1人だけずっと笑っている狂人がいた。



「ゲッゲッゲッゲッゲッゲ‼︎本当に最高だぜ‼︎俺ちゃんこの兵器気に入っちゃった‼︎」






 ーー監獄島


 次々と砲弾が撃ち込まれ、もはや見る影も無くなってきた監獄を逃げながら見ていた別班の隊員達。



「ひでぇなこりゃ…徹底的に殺るつもりだぜ。」


「す、スズキさん‼︎ま、まだ着かないのか‼︎」


「砲弾が迫って来てるぞ‼︎」


「もう少しです……ん?」



 暫く走ると沿岸部の大きな岩礁の影に大きな黒い球体があった。すると、その球体の中から2人の隊員が出てきた。



「お?生きてたよ。」


「へへへへ、賭けは俺の勝ちだな。」


「チッ…次は負けねぇぞ。」



 どうやらこの2人の隊員達は、彼らが生きて戻るかどうかの賭けをしていた様子だった。



「ハァー…またお前たちは…」


「隊長!こっちはいつでも行けますよ!」


「御苦労だった…良し乗り込むぞ。まずはエドガルド氏とネイハム氏だ。」



 隊員達はエドガルドとネイハムを担ぎながらゆっくりと球体の中に入れる。


 球体の中は、エドガルド達も含め全員がなんとか入れる様なスペースだった。円で囲むように着けられた座席に座り、シートベルトを装着させてもらった。


 そして、全員が搭乗すると隊長の一人が壁にあったパネルを操作し始めた。



「お、おいおい!こんな船?で大丈夫なのか?」


「舌を噛みたくなかったら口を閉じてな。」


「な、何を言ってー」



 すると黒い球体は回転を始め、少しずつ沖合へと出発して行った。球体は回転しているが、中は全くと無動だった。ネイハムは小さな丸い小窓から外の様子が見ていた。



「す、進んでいる?…どう言う原理なんだ?……ッ⁉︎」



 球体が進み出してから僅か数分で島が突然大爆発を起こし、監獄は跡形もなく吹き飛んだ。



 ドドドドドドドォォォォォォーー……



「お、恐らく地下の火薬庫に引火したんだろう…あと少し遅れてたら丸焼けになっていた。」



 ガンッ!


「「ッ⁉︎」」



 突如球体に何かがぶつかってきた。



「…多分吹っ飛ばした監獄の瓦礫だな…どうだ?」



 隊員がパネルを操作するがビビーッと言う音が聞こえるだけだった。



「あぁ〜ダメですわ…潜行出来ません。」






 ーー監獄島 沖合



「見たかよあの大爆発‼︎最高だったよなぁ⁉︎ゲッゲッゲ‼︎」



 監獄島が燃え盛る火炎に包まれているのを甲板から眺めてはしゃいでいるベネット将軍…その様子を引き気味で見ていた水夫達。



「ッ⁉︎べ、ベネット将軍!監獄島の南沖合部に謎の黒い球体が‼︎」


「何ぃ〜?見せろ!」



 ベネット将軍は水夫から望遠鏡を奪い、言われた方角を見てみると確かに黒い球体がそこにはあった。



「なんだぉありゃ?…まぁいいか……アレもぶっ飛ばせ‼︎」


「「は、ハッ!」」



 装甲砲艦『コルテス』から再び砲撃音が鳴り響いた。





 ーー監獄島 沖合南部



 別班達を乗せた球体の近くでは大きな水柱が高く上がっていた。大きく揺れる球体と一緒に中にいたね達も大きく揺れた。



「ひ、ヒィ〜もうダメだぁ‼︎」


「隊長、これってどうなります?」


「…このままじゃ死ぬかもな。」


「じゃあここは…賭けませんか?生き残る方に俺は1本!」


「俺も1本…」


「俺は死ぬ方に…って死んだら意味ねぇじゃん。」


「「ギャハハッ!」」



 この状況でも笑っている別班達を見てネイハムはドン引きしていた。



「(や、やっぱりこいつらはイかれてる…)」


「心配するなネイハムさん…ちゃんと望みはある。」


「の、望みって…どう考えてもこれは絶望しかー」



 すると小窓から一瞬だけ何かが空を通り過ぎるのが見えた。



「い、今のは⁉︎鳥ではなかったし、龍でもなかったぞ⁉︎」



 驚くネイハムに鈴木はニヤリと笑う。



「だから言ったでしょ?望みはあるって。」





 ーー監獄島 沖合部



「撃てぇーー撃ちまくれぇーー!ゲーーゲッゲッゲ‼︎」



 少しずつ別班達を乗せた球体に近づく装甲砲艦コルテスの砲撃はより一層激しさを増していた。



「次弾装填急げーー‼︎」


「了か……ッ⁉︎な、何だありぁ⁉︎」



 1人の水夫が驚愕の表情で突然空を指差していた。他の水夫達もその方向へと目を向けると、何かが猛スピードで此方に向かってきていた。




目標ターゲット捕捉ロックオン発射ファイア。』



 3機の機体から撃ち出されたのはAGM-65空対地ミサイルだった。


 それらは装甲砲艦コルテスに命中すると凄まじい爆発を発生させて砲塔を吹き飛ばす。



 バグォォーーン‼︎



「うぎゃ!」


「う、うわぁ熱い!熱い!」



 次いでダメ押しに撃ち込まれるガトリング砲に甲板にいた水夫達はバラバラの肉片となっていった。ベネット将軍は運良く攻撃を喰らわなかったが、目の前で起きている惨劇に衝撃を受けていた。



「な、何が起きて……ハッ!」



 そして再び上を見ると先程の『アレ』がまだ飛び続けていた。



「ひ、引けぇーー引き上げろーー‼︎」



 装甲砲艦コルテスは黒煙をモクモクと上げながらその場を後にする。



目標ターゲット撤退エスケープ…仕留めるか?』


『いや、最早何の力もねぇ…引き上げだ。』



 3機の機体は直ぐにもと来た方向へと戻って行った。その様子を見ていた別班達は小窓からバイバイと手を振っていた。



「ヒュー!いいねぇ『A-10サンダーボルト』!男の浪漫だ!さっすが在日米軍!」


「とりあえず危機は脱したな……ん?」



 するとさっきのA-10の1機が戻って来たのだった。それは機体底部からワイヤーの様な物を伸ばし始めた。そして、球体の上を通る際に上手く引っ掛けた。



「おわ!…ら、乱暴だなぁ!」


「す、す、スズキ殿!」


「ん?」


「貴方は最初、私から情報を得た後殺すつもりだっだろうが…残念だったな!だが…感謝する……本当にありがー」


「え?殺す…貴方を?なんで?貴方も救出するよう命令を受けてましたよ?」


「ーとう……って…え?」


「え?」


「え?って…貴方は私を殺すつもりだったのだろう⁉︎」


「いや…貴方を殺してコッチに何のメリットが?…デメリットしかありませんよ。」


「は、はぁ?」


「えーっと…ネイハムさん…貴方ひょっとして…ご、誤解してたんじゃ?」


「………。」



 沈黙しているところどうやら図星だった様だ。隊員達はやれやれと言った感じで彼を見ていた。エドガルドはポカンと口をあんぐりしていた。今回の騒動の原因は彼の思い違いであったからである。



「隊長ぉ〜彼に変なプレッシャーを与えたでしょ?」


「俺は何も悪くない…全て彼の思い違いだ。」



 ワイヤーに引っ掛けられた球体は勢いよく引っ張られるとそのままA-10に運ばれて水平線の向こうへと消えて行った。



装甲砲艦コルテスのモデルは、清国の戦艦『鎮遠』です。


在日米軍がやっと登場しましたね。

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