第65話 失意の中で…
今回は少し短めです。
久しぶりに新しいSF兵器が登場しますが、今回のは元々存在していたヤツが少しレベルアップした感じです。
ーー イール王国 郊外
美しい満天の星空に照らされて輝く砂が幻想的な光景を作り上げるこの場所で、あの集団が密かに密会をしていた。
「なぁなぁヨルチさんよ、何であの時予定通りに殺させてくれなかったんだ?」
「そうですよね…ですが、本国からの伝言なら仕方ありません。」
「ついこの前…本国から報告が来たんだ…どうやらエドガルドの奴はどっかの国と取引をしていたみたいだよ。」
「?…どっかの国ってどこだよ?」
「さぁ…少なくとも低文明国家やそんじゃそこらの高度文明国家でも無いね。」
「はぁ?それじゃあ列強国しかいないじゃあないか?」
「うーん…まぁそうなるかな…でもまだ絞り込めれるよ。バーグ共和国は今原住民ゲリラ軍との戦争でそれどころじゃないしね。」
「ってことは…レイス王国ですか?」
「レイス王国が今狙ってるのはバーグ共和国だよ。最初はニホン国か僕たちを狙ってたみたいだったけど……まぁバーグ共和国の方が自滅すると思ってたんじやないかな?」
「へっ!ってことはバーグ共和国が負けるのも時間の問題か⁉︎…列強国の一角が崩れる事は世界の均衡が崩れる事を意味するぞ‼︎」
「さぁ…4大列強国として上手く運営していくつもりなのか…あるいは…」
「?あるいは…?」
「『既に後釜が決まっているとか』?」
「……ハッ⁉︎それは絶対にないな。その後釜に近いクアドラード連邦国家はもはや存在しない。」
「…まぁそんな事はどうでもいい……それよりも今日みんなを集めたのはある事を見つけ、それを報告しようと思ったからだ…これは数日前…暗殺中止命令が来る前の事だった…今思えば、暗殺中止命令が来たのは、この時見つけた事を本国へ伝えた事も理由の一つだと思う…」
「な、なんだよ…そのぉ〜…ある事ってのは?」
ヨルチは少し深呼吸をして落ち着いた後に話し始めた。
「イール王国の城へ潜入した時の事さ…スムーズに暗殺が実行出来る様もう一度城の内部を確かめようと思ってさ…そしたら偶然ニホン国の使者の部屋を見つけたのさ…そして…僕はそこである物を見た。」
「だからそれがなんだよ⁉︎」
「……『無線電信』…っと思われる物を見つけたんだよ。」
「「ッ⁉︎」」
全員が一斉に驚愕する…それは魔伝を使わず…それも魔伝よりも遥かに優れた遠方への連絡を可能とした科学技術の結晶と言っても過言ではない物だからである。それを新興国の『ニホン』が使っていた。
「お、おいおい冗談だろ⁉︎何で田舎国家がそんな高度技術の連絡機を所有してんだよ⁉︎」
「さぁ…分かりませんが、その『無線電信』は『我々が知っているヤツ』とは形はだいぶ違かったです。ですが、使い方は無線電信とほぼ似たような感じだと思いました。」
「……冗談キツいぜ。」
「もしかしたら……ニホン国が例のエドガルドが密かなに連絡を取り合っていていた国なのかも知れません…『無線電信』を有するほどの文明力…油断できません。」
「なるほど…だから今はヘタに刺激せずに様子を見るよう命令を受けたっと言うわけですね。」
ーーイール王国 城内
酷く落ち込む様に椅子に座り込むアガルドの姿がそこにはあった。側にいたスミエフ将軍は、どう声を掛けたらいいものか分からず、ただ落ち込む彼の姿を黙って見ることしか出来なかった。
そんな2人の様子を少し離れた所から心配そうに見ていたのは、堀内外交官達とギーマ国王だった。
「すまないホリウチ殿…ちゃんと外からの情報が彼に入らないようにはしてたのだが……『完全』にとはいかなかった。恐らく、偶々廊下にいた衛兵達の会話を耳にしてしまったのだろう…。」
「…仕方ありませんよ、遅かれか早かれでしたから…ですが、自身の兄が敗戦によりハルディーク皇国軍に捕縛されたと言われれば、落ち込まない方がおかしいですから…」
アガルドが酷く落ち込んでいたのは、堀内が話した通り、エドガルドが率いるクアドラード連邦国家軍が、ハルディーク皇国傘下軍と自国の反乱軍により敗北…自身が敬愛しているエドガルドはハルディーク皇国に捕虜にされたという話を偶然耳にした。
その後、この事をスミエフ将軍へ問い詰めると彼はことのすべてを彼に話し、現在に至る。しかし、日本国も繋がっていたことまではバラしてはいなかった。
「あぁ……そんな…兄上ぇ…」
「アガルド様…も、申し訳ありません…エドガルド様からの願いでしたので…」
「良い…もう済んだことだ…だが…これはあまりにも……」
掛ける言葉も見つからない…堀内達は自分達がここに居るのは場違いではないかと思いたくなった。
「クアドラード連邦国家は今はどうなってますか?」
「あの国は今じゃ、大司祭アギロン・ドュグモの支配下にある。彼が今回クアドラード連邦国家が敗北した元凶といっても過言ではない。それに今じゃ…クアドラード連邦国家はクアドラード神国へと変わり、ハルディーク皇国の『右腕』的存在となっている。これで、マグネイド大陸は完全にハルディーク皇国のモノとなった。」
「ふむ…大司祭…あのアヴァロン信教のトップか…宗教絡みか…厄介だなぁ。」
「ほ、ホリウチ殿…」
するとアガルドがフラリと立ち上がり、フラフラと堀内の元へ近づいて来た。その姿はゾンビの様な…
「は、はい?」
「後生の頼みです…どうか……兄上と父上の仇を取る為…貴国の力をお借りしたい!」
「……」
「貴国の軍事力ならば容易なはずです‼︎どうか助力をー」
「申し訳ありませんが、貴方様のご期待には応えられません。」
「な、何故です‼︎」
「その仇打ちに参加すれば…間違いなくハルディーク皇国は我が国へ牙を向きます。そうなれば、国民は彼の国の脅威に晒される事となる。それに貴国とは同盟国ではありません…そもそもこの問題は私個人が判断できる領域を遥かに超えています。酷いことを言うようで申し訳ありませんが……助力はできません。」
「ッ⁉︎そ、そんな…くッ!…」
アガルドは再び力無くその場にへたり込んでしまった。スミエフ将軍は直ぐに彼を抱きかかえるが、もはや自力で立つこともままならない状態であった。
(すまないアガルド様…我がイール王国に力が無いばっかりに…)
「…すみませんが、少し席を外しても?」
「……ん?え、えぇどうぞ!」
堀内はその部屋を後にし、自室へと戻ろうとする。すると、途中から護衛自衛官の中村がスッと現れて、そのまま堀内の後に続くように歩いていた。そして、2人はできるだけ小さな声で会話をする。
「(……どうでしたか?)」
「(20人います……この国の者ではありません…ですが、攻撃してくる気配もありません。)」
「(監視のみですか……どうします?)」
「(下手に何人か捕まえても、状況が悪くなるだけです。)」
「(では?…)」
「(つい先ほど、宇津木にも連絡しました。やるなら『一度に全部』がいいです。)」
「(…い、一度にッ⁉︎…コッチは2人ですよ?)」
「(その通り…たった2人では不可能です…だから『応援』を呼びました。今日の夜更け頃には到着予定です。)」
「(『応援』?)」
「(『A・W』を乗せた約15隻の『海舟』が今現在向かっています。)」
ーー
無人輸送用潜水艇『UUV2』
通称『海舟』。特殊な閉鎖型内燃機関を動力して、最大深度約6000mまで活動することが可能。
ほぼ自律型で、旗艦や作戦本部などから送られる指定の場所へ物資の運搬や調査、偵察、果ては脅威対象の『除去』を主として用いられている。
『WALKAR』の『種類』にもよるが、1隻につき3体は搭乗可能。
ーー
この世界に転移してから日本は自律型偵察用無人機をいつもの倍近い数を配備していた。
ハルディーク皇国の影は、これから起きる悲劇に気付くことは無かった。
ーーハルディーク皇国 とある場所
「り、リブラ様!」
「ッ⁉︎どうした⁉︎」
「こちらを見てください…大陸から北へ約1500㎞離れた所から微弱ではありますが、電波信号を捉えました。」
「…海のど真ん中じゃあないか?海獣かなんかの超音波信号では無いのか?」
「い、いえ…これは明らかな人工電波です。それも空から…」
「……その電波信号はどういったモノだ⁉︎」
「……解読してみますが……これは…」
「ん?どうした?」
「あ、はい…この電波信号は…我々が捉えたっと言うよりは…『向こうが此方に合わせた』って感じですね…」