第63話 大司祭の企み
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ーー日本国 首相官邸 会議室内
「さぁてと…チョットばかし面倒な事になっちゃったよねぇ?」
会議室内にいた広瀬総理をはじめとする各大臣達は、難しそうな表情で悩んでいた。小清水官房長官は、頭をボリボリと掻いた後、広瀬総理に質問を投げかける。
「広瀬よぅ…あのクアドラード連邦国家が今ドンパチしてる相手は、列強国の一角、ハルディーク皇国なんだよな?」
「おうよ。その通りだぜ、小清水さん…例の工作員を送り込んで来た国さ。」
「…そうかぁ…確か〜ロイメル王国とアムディス王国の件でも絡んでたのもその国だったよな?久瀬。」
防衛大臣の久瀬靖人は、持参の資料を読みながら答える。
「えぇそうですね。更に詳しく説明するなら、ロイメル王国の上級政務官の1人…リヌート・テュメル氏を殺害し、応用した擬態魔法で彼に成り代り、色々と偵察行為を働いていたとの事でした。オマケに、あの時の任務が上手くいっていたら、彼はドム大陸の統括権を与えられていたとの事でした。」
「そのぉ…ロイメル王国は、リヌート氏が殺されたのはいつ頃知ったのですか?」
「約1年と少し前ですね…その時にリヌート氏が突然消えて無くなった事に、ロイメル王国はかなり騒ぎになったそうで…そして、偶々執事の1人が古井戸を覗き込むと、そこには白骨化したリヌート氏の遺体が見つかったと…」
「…リヌート氏は結構前に殺されていたのですねぇ。」
すると南原副総理は手をパンパンッ!と叩き、その話を一度中断させる。
「はいはい、今はその事について話し合う時間ではありませんよ。今問題なのは、クアドラード連邦国家の件をどう対処するか…ですよね?総理。」
「ヨッ!さっすが南原ぁ〜頼りになるぅ!」
「ど、どうも。」
「まぁ…堀内外交官が言ってる事がもし現実に起きたとすれば、日本は戦争に巻き込まれることは明白です。国民は再び日本が戦争へ踏み込む事を恐れています。」
「……。」
安住外務大臣の言葉に会議室内は沈黙する。自国をハルディーク皇国から守る為に日本と同盟を組み、共に戦う…聞こえは良いかも知れないが、日本にも戦火が降りかかる事は明らかだった。
「ちょいとばかし良いかな?あのテスタニア帝国との戦争を前に起きた『ウンベカント』の騒動を国民は見ただろう?」
「え、えぇ…」
「だとしたら…国民達の意識は変わってるんじゃあないか?この世界と自分達がいた世界は、大きく異なる事にさぁ…」
「まぁ…変わってる人もいることは間違いはないと思いますね。しかし、だからと言ってその同盟を是とするかと聞かれると、非を唱えるでしょう。」
「…結果的に『その国が最初から日本を狙っていたら?』…テスタニア帝国みたいにさ。」
「え?」
「だからよぉ〜…ハルディーク皇国も日本侵攻を計画した大陸統一戦争だったらどうするって事よ。」
「ッ⁉︎ま、まさか総理⁉︎」
「だったら…やられる前にやった方が良いんじゃあないの?」
広瀬総理の言葉に全員が驚愕する。一国の頭が戦争を是とし、それを進めようなど…絶対に認められない事だからである。平和主義を歩む日本を否定する事にも繋がり、国民からの非難の嵐は確実だからだった。
「め、滅多な事を言わないで下さいよ‼︎…はぁ…ここにメディアがいなくて良かった…総理ともあろうお方が、戦争を自ら起こそうとするなどー」
「そう遠くない未来…日本へ攻め込んで来る敵を始末する…これは間違い無く平和を維持する為の正当な行為だと思うけどなぁ…。」
「…で、ですがね!…確実に日本へ攻め込んで来るというかったる証拠が無いではないすか⁉︎」
「サヘナンティス帝国とウチを衝突させようとしてたんだぜぇ?」
南原副総理は、口がぐもってしまった。確かにハルディーク皇国の工作員が我が国を破滅せようとしていた事は分かっていたが、だからと言って戦争の口実として認めるわけにはいかなかった。しかし、南原副総理は、広瀬総理の言うことは最もである事に気付き、上手く否定する事が出来なかった。
すると小清水官房長官が助け舟を出してきた。
「…でもそれは認められる事ではない…広瀬ぇ…お前さんも分かってんだろ?諦めな?」
「んー…ハルディーク皇国が大陸統一する前にクアドラード連邦国家の味方をした方が圧倒的に有利だろ?」
「そうだろうなぁ…それでも俺たちは平和主義を貫かなきゃならねぇんだ。日本は色々と変わってきたが、これだけは終戦間もない頃から変わらなぇ…変えちゃならねぇんだ。」
「(迫り来る脅威から目を逸らしてまで貫く程か?……)」
2人の会話に久瀬防衛大臣が入って来た。
「とりあえず今は傍観の立場を取りましょう…はやりは禁物です。それに、万が一ハルディーク皇国におかしな行動が無いかを『監視』する為に、イール王国と国交及び友好を結んだのです。」
「そりゃあ、衛星だけじゃあ限界があるからね〜…久瀬さんの言う通りだな、下手に動かずここは傍観の立場を取ろう…今はね。」
ーー数時間後 首相官邸 とある和室
黒巾木組の田中と密会したこの大きな和室で広瀬は今日も飲んでいた。しかし、彼と前にはもう1人分の酒の席が用意されていた。
「…そろそろだと思うんだけどなぁ……ん?」
誰かが襖を開けて入って来た。その人物はスタスタと広瀬の前まで来ると、もう1人分あった酒の席へドカリとあぐらをかきながら座り、酒を飲む。
「フゥ〜……そんで?今日はどういった御用ですか?広瀬さん。」
「へへへッ…悪りぃな臼井…まぁ、とりあえずジャンジャン飲めよ。」
その人物は、野党代表の臼井太一、57歳。与党とは犬猿の仲である野党のトップである彼は今、与党のトップと酒を飲んでいた。
「……んお?…このツマミ美味いですね。」
「鮭の内臓の塩辛だよ♡俺の大好物。」
「ん〜〜…この独特な臭いと味が酒を引き立たせるとは…こりゃ酒がガンガン進みます!」
「又の名を『酒盗』ってんだ。名前の由来は…今あんたが思った通りだ。」
「ハァー……そんで?どういった御用で?」
「へへへ…先ずはこの資料を読んでくれや。」
臼井は受け取った資料に目を通しながら酒を飲む。
「…ふむ……ふーん………ほぅ…」
「どお?」
「つまり…『これの通りに進めてくれ』って事ですね?楽勝ですよ。」
「お?マジ?…悪いねぇ。」
「…でもこれは与党内でも反対が出るんじゃあ…」
「それは重々承知だよ…でもやらなきゃならねぇ…あの国は…思った以上にデケェ事やらかす。」
「…それはどこ情報で?」
「長年の勘ってヤツさ」
「勘ねぇ…」
「へっ嘘だよ…マジになんなよバカヤロゥ……宇津木と中村からの連絡があった…」
「おっ!黒巾木組の人間が遂に異世界進出ですかい⁉︎」
「なに言ってんだバカヤロゥ…ロイメル王国の件でも活躍したぞ…この野郎ぉ。」
「ハハハッ!御返しですよ。…宇津木達からは何て?」
「イール王国にもハルディーク皇国の息のかかったネズミが何人かいたって話さ。」
「あぁ〜…それを見たネズミ共は、日本とクアドラード連邦国家との関係に気付き、それを口実に…ってやつですかい?」
「まぁそうなる可能性がデカイ…もしそのネズミ達のお仲間がウンベカントに居たとしたら…何かしらの報復措置をしてくるだろう」
「破壊工作…ですか?」
「うーん…」
「日本はもうとっくに巻き込まれてるんですね…」
「そうなのよぉ〜〜…下手にあいつらに教えるワケにもいかねぇし……だ・か・ら♡」
「これを実行しろと…」
「そゆこと♡…でも正直心苦しいぜ。」
「ん?」
広瀬は俯きながら頭をボリボリ掻きながら呟く。
「お前さん達には…いっつも…辛い目にばかり合わせちまってよぉ……参るよなぁ…周りから嫌われるのは…」
「与党と野党…互いに何かしら批判し合う…中傷する。これはずーーーっと昔から続いてきた…ある意味伝統とも言える事じゃあないですかい。例え野党も同調しても…必ず与党を非難する…そして、野党は嫌われ、与党を支持し、時には与党が嫌われ野党を支持する。どっちかが異常に嫌われる事で『あの党ならまだマシ』っと思わせる。『嫌われ者がいるから好かれる者がいる…嫌われ者ってェのは必要不可欠な存在なんですよ』。」
「臼井…」
「国の為なら…俺達は喜んで嫌われ者になりますよ。」
申し訳無さそうなな顔をしている広瀬とは裏腹に、臼井はニッコリとした笑顔で広瀬を見ていた。一見呑気な顔にも見てるが、その顔は苦痛の道を選んだ者の覚悟か秘められていた。
ーーイール王国 王都内 夜中
泥煉瓦で造られた大小様々な建物が多く建ち並ぶ王都。その少し離れには計画性があまり無く建てられたであろう密集した住宅街があり、裏路地は複雑に入り組んでいた。
その裏路地にポッカリとあく一坪ほどの空き地、そこには砂埃を被ったフードを羽織った男達がいた。
「おい、今日は『3番』に集合って言ってなかったか?…何でワザワザ『7番』を選んだ?」
『3番』…『7番』…これは彼らが、この入り組んだ路地裏にある複数の小さな空き地に付けた呼び名である。
「知らねぇよ…ヨルチのヤツが『変更しよう』って言ったんだからよ…」
「チッ!あのクソガキッ…チョット腕がたつからってリーダー面しやがって!」
「まぁまぁ落ち着けって…あと来てないのはヨルチだけだな。」
「ヘッ!場所変更を指定した本人がいねぇとか笑えるぜ!」
「僕ならココだよ…」
「「ッ⁉︎」」
彼らは声の聞こえた方へ目を向けた。そこには、空き地の隅に生えていたヤシの木の上から彼らを見下ろす1人の子供がいた。
「よ、ヨルチッ⁉︎」
ヨルチと呼ばれる若者は、スタッと地面へ降りた後、人差し指立ててそれを唇へ当てる。
「しー…声が大きいよ。夜中でももしかしたら何処かで聞き耳を立ててる人がいるかもしれいんだから…例えば…『クソガキ』って言葉もさ…」
ヨルチは冷たく鋭い目線を先ほど悪口を言っていた男へ向け、男は思わず身震いしてしまう。
「わ、悪かったよ…ところでヨルチ、今回の密会を開いたのは何でだ?」
「うん…ついこの前、あの新興国がこの国へ来たことはみんな知ってるよね?」
あの新興国とは…言わずもがな『日本』の事である事はみんなが気付いており、一斉に頷く。
「あぁ…それは知ってさ…ついでに言うとクアドラード連邦国家の奴らも来てることも知ってる…アガルド・ヴェルチ…あの『バケモン』の弟だ。」
「これらの事はとっくに本国へ伝えたぞ。何か指令が来たのか?」
「うん…実はそのアガルドが…日本国へ助力を求めた可能性が高い。」
「…マジか。」
「うーん…あのテスタニア帝国をぶっ潰した国…確かに味方へ引き込めば、我が国は負けぬまでも無事では済まないかもな。」
「そう……だからね…今この国にいるニホン国の使者を……『殺せ』との命令が出たんだ。」
ヨルチの言葉に全員は特に驚きはしなかったが、その顔はニヤニヤとしていた。
「なぁヨルチ…それで決行はいつなんだ?」
「うーん…明後日がいいな。」
「チョット待ってくれ…それじゃあニホン国を完全に敵に回す事に繋がるんじゃ…」
「そうだね…普通に殺したらそうなるかもね…でも、それを僕達じゃない『別の誰か』がやった事にすれば…」
「ナルホドね……」
「それじゃあ皆はーッ⁉︎」
突然ヨルチは、近くの草叢へナイフを投げ飛ばした。すると、その草叢から1人の男が悲鳴を上げながら飛び出してきた。
「ウギャァッ!…く…そが…」
「あれ?…ん?…あれれ?」
男の姿が見えるとヨルチは頭を傾げる。そして、男は反撃しようと短弩を取り出すが、直ぐに崩れ落ちてしまった。
「ッ⁉︎ヨルチ…コイツはッ⁉︎」
「……この国の密偵だね。始末して正解だったよ…でも僕たちの存在がこの国にいる事はバレちゃうかもね。」
「あぁ…『この国にいる事だけ』だがな。」
「でも……」
「どうした?ヨルチ。」
「いや…さっき感じた気配は、『コイツとは違った』感じだったんだけど…気のせいかな……取り敢えず…明後日の夜に一度『2番』で落ち合おう…」
ヨルチの言葉に全員がコクリと頷くと、全員が一斉にその場から散開し、直ぐに見えなくなってしまった。
…数分後、先ほど殺された密偵の男がいた草叢とは別隣の木陰から『目に見えない何かが』ヌゥっと出てきた。それはピピッという操作音が聞こえると徐々に姿を露わにした。
「ふぅ…『ステルススーツ』で誤魔化せるほどあの国の隠密共は甘くねぇって訳か…」
堀内外交官の護衛自衛官が1人、中村はそそくさとその場を後にした。
ーークアドラード連邦国家 大統領府 同時刻
薄暗い部屋には、アヴァロン教団の侵攻道具や飾りが多数付けられていた。そして部屋には、アギロン大司祭とディカルド大統領がいた。
「(まさかエドガルドの兵達がここまで強いとは……だが、オリオン様から『問題無し、例の作戦を実行せよ』と来たからにはやるしかないな。)」
「アギロン大司祭…どうかなさいましたか?」
「い、いや…何でもありませぬよディカルド大統領閣下…今しがたアヴァロンの使いと心で会話していたところで御座いました。」
「おぉ…それはそれは……アヴァロン様の使いは何と?」
アギロン大司祭はココで少し面白い事を思いついた。
「ふむ…アヴァロン様の使いは私との会話を中断させた貴方のことを快く思ってはいません…」
「そ、そんなッ⁉︎…ど、どうすれば許して頂けるのですか⁉︎」
必死な形相でアギロン大司祭の足元を掴み、許しを請うにはどうすればいいのか聴いてくるディカルド大統領の姿を見て、彼は笑いを堪えようとしていた。
「ぷっ……く……くく…ッ!」
「は、はい?」
「ッ⁉︎い、いや…ゴホンッ!今しがた声が聞こえました…『許して欲しくば、今のこの場で跪き床にキスをしろ』っと話されています。」
「それで許して貰えるのならッ!」
ディカルド大統領は、直ぐにその場に跪き思い切り顔を床に付け、そして床にキスをした。必死に何回も…何回も…その姿はまるで『下僕』そのもの…『土下座』であった。
「(グフフフフッなんとも無様よ!こんな間抜けがこの国のッ……グヒヒッ哀れよのぅ〜…あの15年前と10年前の出来事がそんなに忘れられないかぁ?)」
ーー
15年前…ディカルド大統領は今ほど宗教熱心な男ではなかった。むしろ、宗教には否定的な男でアヴァロンを信仰する国にとっては極めて珍しい人だった…あの日まではー
15年前、彼の奥さん…大統領夫人のアンジェリカ・ヴェルチが、不治の病に侵された時であった…余命幾ばくもないと宣告され、いつ死んでも可笑しくない状態だった。何もすることで出来ないディカルド大統領は悲しみに明け暮れていた。
ある時、新しい大司祭が就任されたがディカルドは特に気にも留めていなかった…しかし、その新しい大司祭はイキナリ「大統領夫人に御祈りをさせて欲しい。」と言ってきた。本来なら断わっていたが、藁にもすがりたい気持ちだった為、駄目元でやらせてみた結果…夫人の容態は回復していった。そして、これ以降彼は少しずつ宗教にのめり込むようになって行く。
しかし、極め付けはそれから5年後、今から約10年前だった。大統領夫人は、突然の事故死…それにより深い深い悲しみにくれたディカルド…そんな彼を慰めていたのが、その新しい大司祭…「アギロン・ドゥグモ」であった。これによりディカルドは完全に宗教に取り込まれていった。
だが、そんな父を心から心配していたのは、長男のエドガルドとエドガルドの義兄にあたる人物で、先代大統領の息子…エクトル・マルキスであった。
2人は共に優秀な武将で、エドガルドは世にも珍しい雷龍を従える龍騎士で、その高い実力と雷魔法から『光将』、『アヴァロンの御子』と呼ばれる猛者で、エクトルに至ってはいずれは全軍総帥の地位に着けるとまで言われる程の実力を有していた。
当時のクアドラード連邦国家は、ハルディーク皇国と戦争の真っ只中だった。両国の間に存在する国々を巻き込んでの激しい戦いは一進一退の繰り返しで、2人は連日戦場へ赴いていた。妻を失い悲しみに暮れていた時も2人は、戦争にいた。その為、一番彼の側にいなければいけない時にいることができなかった…。
エドガルドもこの時までは、ある程度宗教に熱心だった。しかし、毎日御祈りをしていたにも関わらず、義兄エクトルは戦死…仲間や部下の死を経験する事で宗教に対し強い不信感を抱くようになっていった。だが、戦争は停戦となり、帰国するとそこには狂った様にアヴァロンの像に対して御祈りをしていた父の姿とまだ幼い弟のアガルドも父と一緒に御祈りをしていた。その側には、不気味に笑うアギロン大司祭の顔…
ディカルドは「母が亡くなったのは、偉大なる神アヴァロンへの信仰が足りなかったからだ…エクトルが死んだ理由も同じだ…もっと熱心に御祈りをしていたら、死ぬ事など無かったのに…さぁお前も一緒に御祈りをしよう…」
この事をキッカケに…エドガルドは宗教を否定する様になり、ディカルドは宗教に依存する事となった。
ーー
「さぁて…そろそろ頃合かな」
「は、ハイ?アギロン大司祭…頃合とは?一体…?」
アギロン大司祭は見下すような目つきでディカルド大統領を睨み付けた後、不気味に微笑みだした。
ーーグワヴァン帝国内 帝都内
「ヒィィーー!」
「だ、誰かあのバケモン止めろぉ‼︎」
「勝てるわけねぇ〜よぉ!」
ついにグワヴァン帝国の帝都まで進軍を続けたクアドラード連邦国家軍は、グワヴァン帝国軍を物ともしなかった。グワヴァン帝国軍は成す術もなく撤退を余儀なくされる。
「進めぇー‼︎敵を蹂躙せよ‼︎」
先頭を突っ切るのは、やはりエドガルドだった。彼は兵士達を鼓舞しながら自ら敵地へと進んでいく。
現時点でのグワヴァン帝国軍の被害は約10万を超え、一方のクアドラード連邦国家軍は未だ5000未満であった。このまま行けば間違い無くハルディーク皇国へ突っ切る勢いだった。
「ハァー…ハァー……良し…『トレボール王国』手前まで行ったら一度そこで野営地を張るッ!」
「はぁ…はぁ…は、ハイッ!」
「え、エドガルド中将!…俺ぁまだやれますよ!」
兵士達は疲労困憊だったが、闘志は衰えていなかった。
「頼もしい事だが休みは必要だ!兎に角今はー」
「エドガルド中将ぉ‼︎」
「どうした⁉︎何事か⁉︎」
「ほ、ほ、本国でアギロン大司祭を支持する者たちが大規模な反乱を起こしているとの情報がッ⁉︎」
「な、何だと⁉︎残っていた精鋭達は何をしている⁉︎」
「そ、それが…その精鋭達も反乱に加担しているそうで…」
「ば、バカなッ⁉︎」
ーークアドラード連邦国家
「き、貴様らッ⁉︎エドガルド様を裏切るつもりか⁉︎」
「ヘッ!…偉大なる神アヴァロン様を認めない異端者に忠誠を誓った覚えは無い!」
「異端者エドガルドとその仲間に死を!」
首都は所々火が上がっていた。民衆はアヴァロンを讃えた旗を靡かせながら、武器をとって血を埋め尽くすほど大群となって行進をしていた。
「アヴァロンは偉大なり‼︎」
「アヴァロン様こそ絶対であり唯一である‼︎」
「アヴァロン様を否定する異端者は悪魔の使いだ!殺せ‼︎殺せ‼︎これはアヴァロン様の意思である!」
辺りに血を流して倒れているのは、アヴァロンを讃えないもの、熱心に御祈りを捧げなかったもの、または他宗教信者が殆どだった。老若男女問わず…
民の群衆は、大統領府前に集まっていた。その大統領府のテラスから現れたのは、アギロン・ドゥグモ大司祭だった。
「我が親愛なるアヴァロンの信者達よ…これを見なされ‼︎」
アギロン大司祭がこの様に話すと、彼の側近達が奥から『磔にされた何か』を運んできた。
「我らアヴァロン教団の熱心な信者であり‼︎この偉大なるクアドラード連邦国家の大統領、ディカルド・ヴェルチ様が……異端者エドガルドの息が掛かった者たちに……殺されたーーーーッ‼︎」
磔にされていたのは、ディカルド・ヴェルチであった。両手には釘を打ち込まれ、血だらけの状態でダラリとしていた。群衆は悲しみにより泣き叫ぶ者達であふれていた。
「…皆は既に、我が教団の使徒達の声掛けに賛同し、破滅を企む異端者狩りをしていただろう…だがまだ足りぬ‼︎もっともっと異端者共を殺せ‼︎これはアヴァロン様の御意志である!」
「「ウォォォォォォォォォ‼︎‼︎」」
もはや誰にも止める事など出来なかった。群衆達は再び武器をとって首都へと突き進む。
「……この国に…栄光は戻らぬ。」