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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第4章 クアドラード連邦国家編
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第60話 兄の覚悟

だいぶ遅くなりました、申し訳ありません。

今回は少し長めです。

ーー数日後 ラリオノフ共和国 首席官邸内



初陣から数日後、ラリオノフ共和国の国家主席ニール・リードルートは怯えていた。エルランジェ王国、アリ=ワンバ王国…この2カ国は自国と同じ高度文明国家でも格上的存在、この2カ国さえいれば何とかなると踏んでいたが、エルランジェ王国の敗北、アリ=ワンバ王国は第1前線基地をたった1日で敵に奪われてしまった。


地理的に考えればエルランジェ王国が敗れれば、そこから敵がなだれ込んで来るのは明白…しかも相手は魔獣軍団、勝ち目など有りはしなかった。ニール首席はこれからどうするべきか側近たちと話し合っていたが、その空気は非常に重かった。



「やはり…ハルディーク皇国を裏切るのは失敗だったのか……アリ=ワンバ王国の誘いに乗るべきではなったのだ。」


「首席!気をしっかり持ってください!まだ敗れた訳ではー」


「我が国より格上の高度文明国家がたった1日で大敗したのだぞ‼︎ナウゴーラ国に至っては、いつ敵が一気に畳み掛けてくるか……あのハルディーク皇国の事だ…裏切った国には相応の制裁を加えるはず…あぁ〜〜〜…」


「しゅ、首席……いっその事ぉ…降伏しては?」


「ッ⁉︎馬鹿者が‼︎そう安易に降伏などという言葉を出すな⁉︎仮に降伏したとしても、ハルディーク皇国が許してくれる保障はどこにも無いのだぞ‼︎」


「ここはやはり、全兵力を使って一か八かの勝負にー」


「そんな度胸がある兵がいればな、負けは見えてる。」


「一体どうすれば…ニール首席はどの様なお考えを?」


「ハァー…あると思うか?」



今までラリオノフ共和国は、いわゆる『コウモリ外交』によって、マグネイド大陸の戦乱の世を生き抜いてきた。しかし今回ばかりは今までと規模が違かった。『列強国』と『準列強国』の戦争で力の差は五分と五分、負けた方は全てを奪われる。



「まさかハルディーク皇国に『魔獣軍団』なるものが存在していたとはなぁ……」


「ですが、クアドラードには『光将』そして『アヴァロンの御子』と呼ばれるエドガルド様が付いておられます。あの方の強さは別格…『一騎当千』という言葉を具現化した様な御人です。」


「最早どっちが勝つか分からん……取り敢えず、我が国は勝てそうな方へ着くことを考えろ。口実は何とでもなる…今はとにかく、国境周囲の守りを固めー」


「お取込み中にスミマセン」


「「ッ⁉︎」」



突然ニール首席達の会話の中に聞き慣れない声が聞こえてきた。その場にいる者全員が、声の聞こえた方向へ目を向けると、部屋の隅っこに黒いフードを被った男性が壁に寄り掛かりながら、腕を組んで立っていた。



「な、何者だ貴様ぁ‼︎衛兵‼︎衛兵出会え‼︎」



ニール首席は、控えていた衛兵たちを呼び出したが、誰一人その呼び掛けに駆けつけたものはいなかった。



「え?…衛兵‼︎何をしておる‼︎早く来い!」


「……呼んでも無駄ですよ?貴方の衛兵達は今頃全員夢の中ですから…」


「ゆ、夢のなーッ⁉︎…まさか…全員殺したのか⁉︎」


「あぁ〜…チョット言い方が悪かったですね。御心配なく、生きてますよ。本当に寝てるだけです。」


「だが…一体どうやってここへッ⁉︎」



するとニール首席の側にいた1人の側近が、ゆっくりと懐へ手を伸ばして『それ』を抜こうとした瞬間、突然何処からともなく目の前にいる男と同じ様な格好をした者たちが複数現れた。そのうちの一人が、懐へ手を伸ばしていた側近の背後に一瞬の内に回り込み、喉元にナイフを当てる。



「くぅッ!こ、こんなにも居たのか⁉︎」


「はい…あまり下手に動かない方が賢明かと…その懐にしまっている『ピストル』をお渡し下さい。」



喉元にナイフを突き付けられた側近は、ゆっくりと懐にしまっていたピストルを取り出して、それを男へ手渡した。男はピストルを受け取ると喉元からナイフを離し、側近を解放した。



「…お前たちはどうやって此処まで…」


「…我らは、このマグネイド大陸が群雄割拠の時代だった頃から現在まで、祖国のために至る所で活動をしていました。暗殺、偵察、工作、潜入etc…この大陸のありとあらゆる場所を把握しています。この国へ侵入する時も、その把握した地形から見つけた『抜け道』の1つを使ったに過ぎません…」


「つ、つまり…お前たちはこの大陸のあらゆる場所への潜入場所や方法を知り尽くしていると?」


「そういう事です。まぁ全部ではありませんが…」


「それで…お、お前は何者なのだ?」


「申し遅れました。私はハルディーク皇国の『スキアーズ』の者でございます。」


「ッ⁉︎」


「(ニール首席、スキアーズとは何ですか?)」


「(ハルディーク皇国の…隠密部隊だ。今のハルディーク皇国が列強国になれたのは『スキアーズ』のおかげだと言っても過言では無い。)」


「ご、ゴホンッ!えー…それで何用で此処へ?」


「これを貴方様にお渡しする様命令を受けました。」



そう言うと彼は懐から焼印の付いた手紙を取り出してそれをニール首席へ手渡した。



「…お返事の方法はその手紙の中に…では私はコレで…」



男は普通にドアを開けてその部屋を後にする。数人の側近が後を追いかけようと直ぐに部屋を出たが、そこには既に男は存在していなかった。一方、ニール首席は渡された手紙を開けて読んでいた。



「……ニール首席、その手紙には何が書かれているのですか?…ニール首席?」



ニール首席は暫く手紙を眺めた後、側近達へ声を掛ける。



「…将軍たちを集めろ!」









ーークアドラード連邦国家 大統領邸内



僅かな月明かりと木菟の鳴き声だけが聞こえる真夜中の時間帯、大きくて豪華な大統領邸の廊下をランタンを持って歩くエドガルドの姿があった。エドガルドはとある一室の前で立ち止まるとドアをノックした。



コンコンッ


「アガルド…いるか?」



エドガルドの声に目を覚ました弟のアガルドは、ベッドから起き上がりゆっくりドアを開ける。



ガチャッ…


「あ、兄上?…こんな夜更けにどうしたのですか?」


「…すまないなこんな時間に、チョットいいか?」


「えぇ…どうぞ……」




2人は部屋に入り、薄暗い部屋をランプだけが照らす空間で、カップを片手に会話をする。



「それで…どんな御用ですか?兄上。」


「実はなアガルド…お前に……『任務』を与えたいと思う。」


「え…」


「私の部下としての『初任務』を与えたいと言っているのだ。」


「そ、それは…つまり……私の実力を認めて下さったと言う事ですか⁉︎」


「ん?…う、うむ……そういう事だ。」



アガルドは喜びと感動に包まれ、涙を流した。やっと実力を認められ…憧れである兄のエドガルドの部下としての任務につけることが出来ることに…。



「そ、それでッ⁉︎どの様な任務なのですか⁉︎」


「実はな…お前にはこの書状を『イール王国』へ届けて欲しいのだ。」



エドガルドは懐から丸められた書状を取り出してそれをアガルドへ手渡した。アガルドは少し腑に落ちない様な表情を見せ、エドガルドへ質問する。



「い、イール王国…ですか?…何故このタイミングで低文明国家へ書状を?…魔伝ではダメなのですか?」


「あぁ、イール王国は魔伝すらもまだ未発達で、彼の国との連絡はいつも書状なのだ。出来ることなら魔伝技術を教えたかったのだ、彼の国は変なところに頑固でなぁ…魔伝は自国で発展させるといって聞かないのだ。」



イール王国は、マグネイド大陸から西へ約25000㎞離れた小さな砂漠地帯の島国である。低文明国家で魔伝は殆ど使えず、気候のせいで翼龍すらも存在しない。しかし、1世紀以上も昔からクアドラード連邦国家とは友好関係を築いてきた国である。


今回の戦争に関して、イール王国は参戦の意を唱えたがクアドラード連邦国家は「友人を危険な目に遭わせられない」として拒否(実際は大して戦力にもならない足手纏いと政府が決めた為)、ハルディーク皇国も「何もない国」と捉え、攻撃対象から外れていたが実際は、「相手をする程の国でないし、遠くに位置する為時間が勿体無い」として相手にすらされていない。


これらの事からアガルドは何故今イール王国と連絡を取らなければならないのか分からなかった。



「お前は不満に思うかもしれないが、『お前にしか』頼めない事なのだ……受けてくれるか?」



確かにアガルドは、兄上から受けた初任務がこの様な『おつかい』じみた事に少し不満に思っていたが、ここまで言われたのであれば断る理由も無かった。



「…分かりました!私に任せて下さい兄上‼︎それで…いつ出発を?」


「ありがとう、アガルド。早速で悪いが、3日後の朝にでも出発してくれ。部下としてスミエフ将軍も同行させる。」


「み、3日後の朝ですか⁉︎……ほ、本当に早急な用事なのですね。」


「あぁ頼む…イール王国までは『龍車』を使って行くといい。」


「『龍車』ですか…そこまで急な…」


「では…確かに伝えたぞ。」



エドガルドが椅子から立ち上がり、部屋を後にしようとしたその時、アガルドが急に立ち上がり声を掛けてきた。



「あ、兄上!」


「ん?どうした?」


「何故私を選んだのですか?…外務長官に頼めば済む話だの言うのに…」


「今の政務官の大半は…『ダメ』だ。他国へ出向くたびに皆が『アヴァロンの意思だ』『アヴァロンの御告げ』だのと相手国の政務官に対しこの様に発言する……神に頼っているのだ。だが、相手が望むのは存在が不確かな神の言葉では無く、その人間自身の言葉なのだ。」


「ですが…アヴァロンは絶対なる神です。他国も人よりアヴァロンの声を望むはー」


「……それでは全てを『失う』。」


「え?」


「アガルド…お前は神を…アヴァロンを信じるのか?」


「も、勿論ですよ!アヴァロン様こそが素晴らしくて最高の……最高の…」



アガルドは段々と表情を暗くする。その変化に早く気付いたエドガルドは、大体予想をしていた事が頭によぎった。



「どうした?…まさか…『神に対し不信感を抱いている』のか?」


「実際のところ…私は……神々に対し疑問を抱いています。先の戦では、国民の皆がアヴァロンへ祈りを捧げました。『必ずや勝利し、民を平和へ導かんことを』…ですが戦は『敗北』…戦場へと赴いた夫や兄弟…子供の無事を祈っていた家族は…終わる事のない悲しみに暮れています。」


「……。」


「あれほど御祈りを捧げたにも関わらず…敗戦……多くの死者を生み出した。それに、教団の人達は、敗けたのは『御祈りが足りなかったから』だと言ってました。……正直、納得は言ってないですよ…今のアヴァロン教団には…何を信じれば良いのか…」



エドガルドは落ち込みながら話すアガルドの肩をポンと叩くと微笑みながら答える。



「神など所詮…空想の産物だ。何かにすがりたい、何かに押し付けたい、そんな生きとし生ける者の身勝手な考えによって生まれたのが『神』だとは考える。……何かに頼るなッ!自分を信じ、行動しろ!…道を切り開くのは…自分自身なのだ。」



エドガルドはそう答えるとその場を後にする。暫く歩くと物陰影からバルケロ将軍が現れた。



「宜しかったのですか?」


「…本当の事を語れば、アイツは否が応でも私について来るだろう……」


「アガルド様は貴方の事を誰よりも好いております。…もしこの事が知られればー」


「分かっておる。だから、スミエフ将軍に彼の同行を任せたのだ、決して悟られないようにな。」


「……大統領はまだ貴方の事を?」


「フッ…どうやらあのペテン師にひれ伏さない限り、私の事を許すつもりは無いらしい。だが軍からは追放はしなかった、今の階級は『中将』だ。」


「…では昼間あの大司祭が訪れて来たのは…」



実は今日の昼間、部屋へ謹慎処分を受けていたエドガルドの元へアギロン大司祭が訪れて来た。彼はエドガルドに「私の補佐官として活動する許可を与える」と話してきた。しかし、エドガルドはこれを拒否した。



「戦争に関しては素人の大司祭殿がイキナリ『全軍総帥』の役職を与えられたんだ。軍内部は大混乱さ。多分…それを落ち着かせる為に仕方なく私を引き戻しに来たのだろう。」


「…普通に考えれば、どの国でも同じ事ですよ…素人で何の信頼関係を持っていない者が総勢30万の兵を指揮するなど…だから貴方様へ助力を求めに来たと…」


「最初は断ったが、残された兵たちの事を考えるとなぁ……だから私は『中将』として軍へ戻る事ができた。…だがあのペテン師の顔はどこか腑に落ちなかった……何を企んでいる?」



2人は薄暗い廊下を歩きながら話していると、1人の兵が血相を変えてやって来た。



「エドガルド様ッ!一大事です!」


「どうした?」


「敵が動き出しました!急襲です!完全に不意を突かれました‼︎」


「…アリ=ワンバ王国はどうなっている?」


「アリ=ワンバ王国では第2防衛線が破られました!最終防衛線も破られるのも時間の問題かと…海に面した低文明国家の3カ国は、敵海軍の砲撃により自国の海軍戦力が壊滅…アリ=ワンバ王国も破れると思ったのか、アッサリと降伏しました。」


「こんな短期間で…恐らく敵はハルディーク皇国だ…あの国は何を思ってのことなのか、今頃になって自国軍を派遣したのか…」


「ご、ご明察です…敵はハルディーク皇国です!あの国は傘下国を使わずに攻めて来ました。」


「ふむ…ラリオノフ共和国とナウゴーラ国は?」


「それがまだ…」


「え、エドガルド総帥‼︎…あっ中将殿‼︎」



すると、また別の兵士が彼らの元へとやって来た。



「どうした?」


「ナウゴーラ国が…敵の手に落ちました‼︎」


「…ナウゴーラ国がそう簡単にアクティス王国の手に落ちるとは思えなんだが…」


「ラリオノフ共和国の裏切りです‼︎…あの国は、ナウゴーラ国がアクティス王国側の国境へ兵を集中し、後方が手薄になった隙をついて攻め込んできたとのことで…」


「…あの日和見国家め、やりおったなぁ。…結局残ったのは我が国とイール王国だけとなったか…まぁ元の状態に戻っただけだがな。」


「ど、どうしますか⁉︎…ナウゴーラ国、アリ=ワンバ王国、エルランジェ王国が落ちて…ラリオノフ共和国が裏切るとなればッ」


「落ち着けバルケロ。」


「し、しかしエドガルド総帥‼︎…あっ中将‼︎」


「あの時私が無理をしてでも父上の反対を押し切り、援軍を送っていれば幾らかは状況が良い方向へ変わっていたかもしれぬが…もはや後の出来事…どうしようもない。」


「で、では我が国も軍を派遣しましょう」


「あぁ…だがその前に…俺が出る。」


「え、エドガルド様が⁉︎」


「あぁ…俺の武器と防具を持ってこい……ハルディーク皇国と裏切り者には目にもの見せてやる。」





ーークアドラード連邦国家 アヴァロン教団本部 大司祭書斎室



「…あの男…私を小馬鹿にした様な態度で見下しおって…まぁ良い…奴が軍に戻ったことで多少は落ち着いたか。それに…グフフッ…ほぼ全ての傘下国が破れた、後はクアドラード連邦国家の本国のみ!」


「大司祭様、軍上層部の者達が軍の派遣許可を求めていますが⁉︎」


「あぁ…構わんと伝えろ!(どう足掻こうが貴様らの『敗北』に変更は無いがな…)」


「分かりました…あと、エドガルド中将なのですが…」


「どうせ彼奴も出陣するのであろう?それも想定内よ、構わん構わん。」


「は、はぁ…分かりました。ですがアギロン大司祭…本当に上手くいくのですか?未だに6割程の軍が反抗的態度を取っているのですよ?」


「グフフフフッ…我に従う兵が4割近くもいれば十分だ……全て想定内よ。」




ーークアドラード連邦国家内 離れ巨峠にて



クアドラード連邦国家の中でも大小様々な山々が存在するココでは、殆ど人の手が加えられていない大自然そのままの場所だった。そこに魔鉱石が埋め込まれた鎧兜を身に付けたエドガルドがいた。


人気の無い獣道をひたすら進むと大きな洞窟が見えてきた。彼はその洞窟へ迷う事なくはいり進んでいくと、そこにいた『相棒』に軽く挨拶をした。



「よぉ……10年ぶりだな…また頼むよ…『ゼラ』」



そこに居たのは、身体中からバチバチと放電している『雷龍』がいた。エドガルドは雷龍に臆する事なくソッと手を差し出す…すると雷龍はその手に顔をスリスリと擦り付ける来た。



「最後にもう一度だけ…戦ってくれるか?」







ーー 数日後 ラリオノフ共和国


「ふぅ〜…数日経ってやっと…勝利を実感出来たぞ。」



ニール首席は、先日のナウゴーラ国への裏切りを見事に成功させる事が出来た。そして、アリ=ワンバ王国も昨夜、ハルディーク皇国本軍の攻撃により壊滅し、もはやクアドラード連邦国家の味方をする国はこの大陸内では1カ国も存在しなくなった。



「背後から奇襲を仕掛けられた時のナウゴーラ国軍の焦り方と言ったら……思い出すだけでニヤけてくる。散々我が国を見下したあの国々が、今では我が国の…『下』だ。」



ニール首席はクスクスと笑いながら、自国の勝利に喜びを感じていた。彼は懐から以前に、スキナーズから受け取ったハルディーク皇国からの極秘の手紙を取り出した。



「それにしても、ハルディーク皇国からこの様な素晴らしい提案を頂けるとはなぁ…」



そこに書かれていたのはー




ーー此度の戦、ラリオノフ共和国がもしハルディーク皇国へ寝返るのであれば、我が国は貴国を全力で援護し、貴国に対し一切の危害を加えない事を約束する。そして我が国の傘下国として、『アリ=ワンバ王国』、『エルランジェ王国』、『ナウゴーラ国』を貴国の管理下に置く事を認める。もしこの提案を受けてくれるのであれば、『戦いの狼煙』を上げることーー




あの時、ハルディーク皇国はラリオノフ共和国に対し裏切りを誘発させる手紙を送っていた。そして、自国の保身を考えたニール首席は迷う事なく狼煙を上げ、軍を招集し、ナウゴーラ国へ攻め込んだ。


アリ=ワンバ王国では、ニルドール王国軍ではなくハルディーク皇国の本軍が現れ、さらに占領されたエルランジェ王国からグワヴァン帝国軍も攻め込んで来た。


これによりアリ=ワンバ王国は、圧倒的軍事力を前に大敗した。



「後はクアドラード連邦国家のみ……さぁて…どうやって叩き潰すか?…海なら攻めるか?…空から攻めるか?…陸から?…今の我が国にはハルディーク皇国がついておる、何も怖くはー」


「に、ニール首席‼︎失礼します‼︎」



突然ノックもせずに、側近の一人が入ってきた。その手には、薄汚れた布が握られていた。



「な、何なのだ⁉︎いきなりッ」


「こ、これが…東壁の国境警備兵の『死体』に巻かれていました!」


「クアドラード連邦国家側の防壁である東壁でか?…ん?死体だと⁉︎どういうことだ⁉︎」


「わかりませんが、東壁の国境警備兵の1人が仲間の死体を見つけたとのことで…その死体にこんなのが…」



側近がこの様に話すと、その薄汚れた布をテーブルの上に広げた。所々血で汚れていてかなり不気味だったが、それ以上に不気味だったのが真ん中に描かれた『血絵』であった。



「こ、この絵は何でしょうか?」


「………ッ⁉︎こ、これは…直ぐに東壁へ軍を集結させろ‼︎海軍、龍軍にもだ‼︎それと、ハルディーク皇国にも魔伝で伝えよ‼︎クアドラード連邦国家が攻撃を仕掛けてくると‼︎」


「は、ハッ!」



ニール首席は血相を変えて衛兵の1人に命令を下す。側近は、何が何だかよく分からない様子で戸惑っていた。



「ニール首席?」


「この血絵は『バルの実を食らうニーズヘッグを襲い掛かる翼獅子』の絵だ。バルの実は、『忠誠』を意味する木の実だ。そして、その実を食らうニーズヘッグは別名『裏切りの使徒』と呼ばれる。翼獅子はクアドラードでは、『アヴァロンの使徒』と崇められている……もう意味は分かるな?」


「ッ⁉︎つまり…クアドラードは…直ぐにでも我が国へッ⁉︎」


「攻め込んでくるだろう…クソッ分かりきっていた事だが『話が違うぞ⁉︎』。ハルディーク皇国は何を考えている⁉︎だが…来るのなら仕方が無い、返り討ちにしてやろうぞ‼︎」


「い、幾らハルディーク皇国がバックについているとしても、相手は準列強国ですよ!」


「だからあの『魔獣軍団』を使うのではないか?…そうですな?ラウル殿。」



ガチャッ



「えぇ…そういう事です。」



部屋に入って来たのは、ハルディーク皇国のラウル・ボラール中尉だった。



「ラウル殿、ニール首席はこう言っていますが、貴国の『魔獣軍団』は敵味方の区別なく襲い掛かって来た聴きましたが?」


「まぁ…まだ『実験段階』でしたから…ですがもう御安心を…既に『魔獣軍団』は、『完全なる生物兵器』に生まれ変わりました。」


「では……我らの命令通りに動く…と言う事で宜しいのですな?」


「えぇ…勿論ですとも。しかし、その為にはコレが必要不可欠です…おい。」


「ん?」



するとラウル中尉は、廊下に待機していた部下を呼び出した。綺麗な布に包まれた棒状の何かを持って入って来た。



「それは…何ですかな?」



ラウル中尉は、ニヤリと口元を歪ませた後にそれをテーブルの上に置いて布を解く…するとそこに現れたのは、赤紫色の魔鉱石が先端に組み込まれた杖が出てきた。



「これは?…魔術師…いや高名な魔導士が使う杖のようですが?」


「これは『魔操機』と呼ばれる物です。まぁ移動用の事を考えた結果、この様な『杖』の形になってしまいましたが…」


「ふむ、『魔操機』ですか…名前からして『魔獣軍団』を操る為の道具なのですね。」


「その通りです…ですがこの『魔操機』はかなりの魔力を消費します。よって、魔導士クラスの魔力を持った方しか扱えませんのでご注意を…」







ーークアドラード連邦国家 龍軍基地



多くの龍舎と翼龍が飛び立つための滑走土が整備されたこのクアドラード連邦国家最大の龍軍基地に、一機の龍車が何時でも飛び立てる準備をしていた。その龍車の入り口からズラリと整列しているクアドラードの兵士達、その前を通る2人の姿がいた。ディカルド大統領の次男のアガルド・ヴェルチと護衛のスミエフ将軍である。2人は、イール王国へと書状を届ける任務を受けていた。



「(兄上から与えられた初任務…見ていてください兄上ッ!必ずやり遂げてみせます!)」


「アガルド様、このスミエフが付いておりますゆえご心配なく!」


「あぁ、よろしく頼む。」



こうしてアガルドとスミエフ将軍を乗せた龍車は、イール王国へ向けて飛び立っていった。多くの兵士達に見送られ、讃えられながら、大空へと登って行った。アガルドが龍車の窓からそんな景色を見ていると、龍軍基地近くの小山の上に見知った人物がいた事にアガルドは気付いた。



「アレは…兄上だ‼︎兄上ぇーー‼︎」



アガルドはまるで遊園地で遊ぶ子供が少し離れた所で見守る親に手を振るかの様子で、小山にいるエドガルドに対し手を振っていた。それに気付いたエドガルドも微笑みながら軽く手を振る。


しかし、アガルドはその時のエドガルドの姿を見て違和感を感じる。



「アレ?…兄上……何で鎧なんか着てるんですか?」



この言葉にドキッとしたスミエフ将軍は、必死に訳を話す。


「あ、アレは…これから大規模な軍事演習があるからです!…何しろ状況が状況ですから…気持ちを引き締める!っという目的の……そのぉ…」


「何と!そうでしたか⁉︎…あぁ〜兄上の勇姿をこの目に焼き付けたかったなぁ。」


「ハハッ…任務を終えたらゆっくりとその時の話を聞きましょう(ホッ…)。」


「そ、そうですね!」



普段はあまり見る事がない、鎧甲冑を着けた兄であるエドガルドの姿に目を奪われていた。そんなアガルドの姿を見て、微笑ましく思うスミエフ将軍…しかし彼は先程の自分の発言に強い責任を感じていた。



「(『帰ったらゆっくりと話を聞きましょう』……本当にそれが出来ることを願おう…。)」




アガルド達を乗せた龍車は、とうとう見えなくなってしまった。それでも尚、弟が飛び立った方向を見つめるエドガルド…すると彼の側にバルケロ将軍がやって来た。



「……行かれましたな。」


「…そうだな。」


「見送りはしない…っと仰っていたはずでは?」


「そのつもりだったが……ハハッ情けないな。」


「…そんなことはないですよ。」


「…そうか……アガルドがな…」


「はい?」


「アガルドがさっき私に向かって…笑いながら手を振っていたよ……いい笑顔だった。」


「…そうでしたか!それは…良かったですな!」


「…もし『義兄』が生きていたら…同じ事をしたと思うか?」


「……恐らく『エクトル』様も…貴方様と同じ事をしていたでしょうなぁ。」


「…そうか…では……始めるか?」


「えぇ!…始めましょう!」



エドガルドがクアドラードの戦旗を空高く掲げると同時に、龍軍基地全ての龍舎の門が一斉に開かれる。そこから多数の『闘龍騎士』と『翼龍騎士』が空高く飛び出していった。


続々と空へ舞い上がる『黒い影』の大群は、圧巻の光景だった。その中に一体、一際目立つ光を放つ『龍』が現れた……『雷龍』である。


雷龍は放電しながら空を優雅に飛び交った後、主人であるエドガルドの元へと向かって行った。エドガルドは跳び上がると同時に向かって来た雷龍の手綱に掴まり鞍に乗った。


同じく闘龍に乗ったバルケロ将軍から三叉槍とハルバードを混ぜた様な槍を受け取った。



「『トランディート』ッ⁉︎」


「アレが伝説の…光を放つ雷の槍!」


「確か…10年前の戦で、エクトル様と渡り合ったというあの…」


「俺ぇ…感動しちゃったよ。」



猛々しく唸る雷龍、闘龍、翼龍達の鳴き声…クアドラード連邦国家が誇る『アヴァロン龍騎士団』総勢30000騎は、エドガルドを中心に見事な隊列を組み、西へと進む。



「行くぞ……俺たちを本気にさせたことを後悔させてやれ。」



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