第53話 狙われたダークエルフ
少し遅くなりました、申し訳ありません。
そして、多分…これからもちょくちょく間隔が空くと思いますのでご了承下さい。
ーーウンベカントのとある裏路地
人通りが殆どない裏路地の隅っこに集まっている数人の薄汚れたフードを羽織った獣人族達がいた。その中の1人…獣人族が口を開き、他の獣人族達に声を掛ける。
「…ヤラは見事に任務を全うした……これでヴァルキア大帝国に雇われたダークエルフ族は全滅…ヴァルキア大帝国はニホン国の情報を得られず困惑する事だろう…だが何よりもニホン国が亜人族国家に対する不信感を抱かせる事が出来た……上手くいけばニホン国と亜人族国家…願わくばヴァルキア大帝国を戦争の道へと向かわせる事が出来る……フフフフ…全ては…『祖国』のために…順調だ。」
「あ、あのぅ……ヘヴァックさん…」
1人の獣人族がヘヴァックと呼ばれる彼に対し恐る恐る質問をする。
「ほ…本当に……今回の仕事が終われば……家内を…助けてくれるのですね?」
「お、俺の娘もだよな⁉︎」
「私の……息子も…?」
獣人族のヘヴァックは、苛立った様子で質問に答える。
「あぁ?あーハイハイ、助ける助けるよ。
…ただし『成功すれば』だからな!」
他の獣人族達はコクリと頷く。すると、そこへまた別の獣人族が現れた。
「す、スミマセン…ヘヴァックさん…じ、実は…」
「あぁ?…なんだ?」
彼は、耳元でゴニョゴニョと何かを伝える。すると、獣人族は驚いた表情を見せた。
「はぁ⁉︎そ、それは…本当か⁉︎」
「ハイ…間違いありません。実際にボロボロのダークエルフ族をメイド服を着た同族の女が担いでいたのを見たという人達が…数人いま…した。」
「クッソォ‼︎…死に損ないのクソエルフが‼︎そいつは今何処だ⁉︎」
「恐らくですが…あのメイド達の寮ではないかと…」
ヘヴァックはその言葉を聞いてピンとくる。それは…酒場〝ニシタニ〟。ド派手なメイド服を店員に着せて働かせるのはあの店くらいなものだからだ。
「……今夜そいつの住処に忍び込んで…殺す‼︎…無論お前達にも働いてもらうぞ!…家族の命を助けたかったらな?」
彼らはヘヴァックに雇われた獣人族達で元軍人に元傭兵など、ある程度戦闘経験のある者たちを集めていた。そんなバラバラな職業の彼らだが、たった一つだけ共通点がある。
それは…『家族の誰かが重病を患っている』
という点である。
彼らは今回の仕事が上手くいけば、ヘヴァックから『ルカの秘薬』と呼ばれる万能薬を受け取る約束となっていたのだ。
「どうした…返事が聞こえないぞ?」
「わ、分かりました」
他の獣人族達は悔しさを堪えるように歯軋りをしていた。彼らとてもう誰かを殺す様な事をしたくは無いのだ。殺す事を生業としていた過去を断ち切り、『温かい家庭』を築いて行こうと心に決めていた。しかし、今はこの様な事になってしまった。
ーーウンベカント 酒場〝ニシタニ〟
今日も1日が終わり、店員たちが其々帰り支度をしていた。しかし、今日のルナとメトはどちらかと言うといつもより元気が無かった。
「(我々は……これ以上任務を全うする事は出来ない…やはり此処は一度、故郷へ戻るしか)」
ルナがこの様に考えていると、不意にメトの方へ目を向ける。彼も大分落ち込んでいた。
(メト……そうか…そうだよなぁ……始めての任務がこんな事になってしまったんだ…無理もない)
しかし、メトは落ち込んでいる理由はそれでは無かった。問題は、今彼が着替えようとロッカーを開けたその中身にあった。
(あ、明日は…これを着るのですか?)
そこにあったのは…スクール水着(女子用)でご丁寧に胸には白地に黒字で『メト』と刺繍が縫られている。
メトは頬をカァと赤くし、トンガリ耳を下にへなぁ〜と下げてしまう。
(い、幾ら何でも…こんなの西谷さんが許可するわけー)
すると、メトはロッカーに置いてあった置き手紙を見た。そこには…
ーー メイド達の寮
ルナとメト、そしてジウが輪になって座り、これからどうするかを話し合っていた。
「最早任務を全うする事は叶わん……」
「やっぱりもう…故郷に帰るしか…無いんですかね…。」
ルナは胡座をかきながら目を閉じて静かに考えていた。2人は、戦士長である彼女に決断を任せる事を決めていたが、なかなか答えが出てこない。
「る、ルナ戦士長?」
ルナは静かに目を開けて、少し不安そうな表情で口を開く。
「……いや、故郷へは帰れない。」
「ッ⁉︎な、何故ですか?」
「……やはりそうなりますか…」
「え?…じ、ジウさんも…故郷に帰れないってどういう事ですか⁉︎」
「…メト、我らダークエルフ族の隠密部隊には、暗黙の掟が存在する。これを知る者は…族長と各部隊の戦士長…そして熟練者として認められた者のみなのだ…」
「な、何なんですか⁉︎その…暗黙の掟って言うのは⁉︎」
「『例えどんな理由でどんな任務だったとしても、それを全う出来なかった者は例外なく始末する』…これがその掟だ……俺たち隠密部隊に失敗は許されない。」
「そんなぁ…じゃあ仮に戻ったとしてもー」
「『殺される』だけだ…どんな理由でもな。」
「……6年前のとある任務で失敗して帰って来たサナがいたのを覚えているか?……」
「…は、ハイ…でも、サナは…」
「木の実を取りに行った最中に、誤って崖に落ちて…死んだ。」
「ま、まさかそれは…」
「…事故ではなく…殺されたのだ。」
メトはショックを隠しきれなかった…事故で死んだとばかり思っていた仲間が同族に殺された事に…だが当時、それ以上に辛かったのはルナ戦士長だった。サナはルナの妹だったからだ。
「……今までも任務に失敗した者は全員殺された…サナもその一人…それだけの事だ。」
ルナは一見何とも無いように見えるが、その手は強く握りしめられていた。サナはルナにとってたった一人だけ残された肉親…家族だったからだ。出来ることなら、サナには普通の生活を送って欲しかったが、彼女は姉であるルナと同じ隠密部隊の道を選んだ。もしあの時、無理してでも止めていれば…もしあの時、同じ任務に就いていれば…どんなに悔いても悔やみ切れるものでは無かった。
ーー数時間後の真夜中 メイド達の寮
複数のプレハブ小屋が立ち並ぶこの場所も、夜中になればコンビニと街灯以外全ての電気が消えてほぼ真っ暗状態だった。
そんな暗いプレハブ小屋の間を縫うように進む複数の影がいた…ヘヴァック達である。彼らはルナ達が使用しているプレハブ小屋を見つけたのだった。
「(静かに…静かにだ。文字通り『影』となれ。)」
ザザザザザッー
ヘヴァック以外も流石は元軍人・傭兵といったところで、一糸乱れぬ早さであっという間にルナ達が使用している小屋の周りを囲ってしまう。
「(ここか?)」
「(は、ハイ…そのダークエルフ族達はこの小屋を住処として使ってます。)」
「(魔鉱石組込型爆破弾…『ノヴァ』を使え……)」
「(え…あのヤラが使ったのと同じヤツですか?……しかしー)」
「(なんだ?)」
「(ほ、他の小屋も巻き込みかねないですよ!)」
他の獣人族達も下手に犠牲者を出すわけにはいかないとヘヴァックに訴えるが、ヘヴァックは特に興味無さそうな表情で答える。
「(はぁ?…他の奴らが何人犠牲になろうが知ったことか。)」
「「〜〜〜ッ⁉︎」」
「(どうした?…家族を助けたくないのか?)」
彼らは気が進まなかったが、今はヘヴァックの言うことを聞くしかなかった。でなければ、家族を助ける事が出来る『ルカの秘薬』が手に入らなくなってしまうからである。
そして、彼らはカバンから『ノヴァ』と呼ばれる、赤紫色の魔鉱石と金属の塊を合体させた様な物を取り出した。
ヘヴァックは窓からソーっと中を覗き込み様子を伺うと、頭までスッポリと毛布に包まれている姿が見られた。
「(バカめ…これから爆殺されるとも知らずに……いや、眠ってたほうが良かったか?…文字通り『眠るように死ぬ』のだからなぁ〜苦痛など微塵も感じられまい……)」
ヘヴァックは後ろを振り返り、全員が『ノヴァ』を取り出している事を確認する。
「(よし……魔力を練ろ!)」
全員が『ノヴァ』を持ちながら魔力を練り始める。それは小さく光りだす。これで安全装置であるピンを抜く事が出来る。(このピンは魔力を練らないと抜けない仕組みになっている)
(チィッ!…やっぱり魔力がそんなに多いわけじゃない獣人族じゃあ時間がかかるか…ヤラの様なエルフ族だったらスグなんだが…)
ヘヴァックは苛立ちながらそんな様子を見ていたが、すぐに自分がやるべき行動に集中し直す。
「(全員準備出来たな……ピンを抜け!)」
ピンッ……ピピンッ!…ピンッ!
全員が次々とピンを引き抜き始める。後はこれを投擲するだけ…。
「(……やれ!)」
そして一斉にルナ達が使っている。プレハブ小屋へ向けて『ノヴァ』を投げ入れる。
ガシャーーン!パリンパリーン…
「(離れろ‼︎)」
彼らは一目散にその小屋から離れろ、其々が物陰に隠れて様子を伺う。そして…
バグォオォォォォォォーーーンッ‼︎‼︎
ルナ達が使ってまいたプレハブ小屋は、近くの小屋複数も巻き込み、大きな爆炎と爆風によって粉々に吹き飛んだ。
(良しッ!やったぞッ!俺ぁやりきったんだ!)
思わず笑みがこぼれるヘヴァックは直ぐさまその場から引き揚げようとした。その時ー
突撃辺りが激しく明るくなり始めた。暗い所から一気に強い光が襲ってくるため、ヘヴァック達は思わず腕で顔を覆い怯んでしまう。
「くぁッ⁉︎ま、眩しい‼︎…な、なんだぁ⁉︎」
「目…目がぁッ⁉︎」
「何も見えないッ‼︎…光が強すぎる‼︎…い、痛い‼︎」
あまりにも強すぎる光にどうしよう無いヘヴァック達、そんな彼らの動揺と戸惑いの声の中に聞き慣れない不自然な声が混じっていた。
『激発物破裂罪 公共物破損 殺人未遂ト断定。《YellowPhase》ヲ《RedPhase》ニ切リ替エマス。』
「なっ⁉︎…何だあのバケモノ共は⁉︎」
ヘヴァック達の周りには、赤く目を光らせながら『P・W』達が囲うように近づいて来た。そのあまりの威圧感と恐怖心から全員が怯えてしまう。
ザッザッザッザッザッザッ!
「ひ、ヒィッ」
「怯むなぁ‼︎こ、ころー」
彼らの1人が剣を抜こうとしたその時、『P・W』達は一気に彼らのすぐ側まで接近してきた。
『P(パトロール・W』達は、彼らを掴むや否や直ぐに地面に押さえ込み内蔵されていた特殊なワイヤーで両手足を拘束させる。
「ウワァ‼︎」
「イテェ!」
「助け…ガァ‼︎」
ヘヴァックの部下たちは皆なす術もなく捕まってしまう。しかし、ヘヴァックは『P・W』が一気に接近してきた隙を突いて、その場から逃げようとしていた。
「クッソォ!また体制の立て直しだ!ここは一旦逃げ…はっ‼︎」
彼が逃げた先には1人の黒スーツ姿の男が煙草を吸いながら行き手を阻むように立っていた…鈴木である。
「なんだぁテメェ…?そこを退け‼︎」
ヘヴァックは腰から剣を引き抜き、それを鈴木の顔面に向けて突き刺して来た。しかし、彼はこれを少し身を屈めて難なく躱してしまう。
(ッ⁉︎躱された⁉︎)
すかさず鈴木は、自分に向かって突き刺して来たヘヴァックの腕を挟み込んで固定し、一気に背負い上げた。
「ッ⁉︎え?、え?、え?」
『投げ技』というものに全くの耐性が無かったヘヴァックにとって、突然世界が高速で真っ逆さまになった景色は驚きと戸惑いと…恐怖でしか無かった。
ドシャアッ‼︎
「がはっ‼︎………」
そして…背中に途轍もない衝撃を感じると共に彼の意識は遠い世界へと行ってしまう。
「ケッ……引き上げるか。」
鈴木は汗一つかく事なく平然とした表情で、完全にノビてるヘヴァックを見下ろしながら、襟元を整える。
すると、自衛官に扮していた別班の1人が彼の所へやった来た。
「全員拘束しました。」
「苦労さん。避難させてた他のメイド達も無事だな?」
「はい。あの3人はー」
「今は基地で保護させてる。少し前までは、不届き者やったが今は大切な情報提供者だ。あの時、ロッカーに手紙を入れるよう西谷に頼んで正解だったな。」
「はい。ところで西谷はどう処分を?」
「偶然だが、アイツが通報しなかったことが幸いした。今回は上も黙認するらしい。」
「あら?そうなんですか?」
「そろそろずらかるぞ。後は…本物に任せよう。」
別班達は再び闇の中へと消えて行った。
彼らが表で明るみに出る事は決して許されない。