第46話 不吉の予感
設定を2025年から2125年にした方が、『WALKAR』の技術レベルが合うような気がしますがどう思いますか?
ーー留置所
ダークエルフの隠密部隊と盗賊2人が同じ檻の中に入れられていた。特に会話をする様子もなく、重っ苦しい雰囲気が立ち込めていた。
「(ハァー…何でこんな目に…)」
隠密部隊は考えていた。
どうすればここから抜け出せ、どうすれば奴等の隙を突いて情報を得るか、そして…どうすれば戦士長とメトに合流出来るのかを。
(……奴等には、我々を殺さなかった事を後悔させてやる…。)
すると、盗賊の1人だった弟分のダークエルフがスッと立ち上がりあたりをキョロキョロと見渡す。そしてボソッと一言…
「ここら辺で良いかな…」
兄貴分のダークエルフは何を言っているのかサッパリ分からなかった。
「お、お前ぇ何言ってんだ?」
しかし、弟分はその質問に答える事なく隠密部隊がいる所へ移動する。
隠密部隊は警戒しながらその弟分を睨みつける。すると弟分が口を開く。
「悪いが…下手に情報を流させるわけにはいかない……」
「なに……ッ⁉︎まさかお前ッ!…待て‼︎まだ我々は任務を遂行出来る!もう少し待っー」
「いや…任務は『遂行出来ている』……アルマスキートゥ《ありがとうございます》…皆さん。」
ニヤリと笑う弟分と訳がわからない兄貴分、そしてその弟分に掴みかかろうとする隠密部隊達…しかし次の瞬間、弟分は『黒いボールの様な形をした物』を取り出し、ピンを抜く。すると…
バグォオォォォォオーーーーーンッ‼︎‼︎
突然の大爆発、留置所の檻の中は一瞬にして地獄となった。
ーー酒場〝ニシタニ〟
スタッフルームはかなり和気藹々としていた。色んなスタッフが色んな衣装を持ってああでも無いこうでもないと話し合っていた。
着替え用スペースのカーテンが閉められ、そこに誰かが入っていた。
そして…
「よし…完璧よ……ホラ!出てみて!」
シャーーッ!
カーテンを開けるとそこにはメイド服を来たルナとメトが立っていた。
ルナは満更でも無いような顔をしていたが、メトはスカートを必死に抑えながら顔を赤くしてかなり困惑していた。
「あ、あの…これは?」
メトが恥ずかしそうに質問すると他のメイドスタッフ達が答える。
「これはこの店で働いている人ならみんな着てる作業服ですよ‼︎」
「メト君は男の子だけど、メイド服でも十分イケるわよ‼︎」
「ニャ⁉︎…ネヅさん⁉︎大丈夫ですかニャ⁉︎」
床に倒れこむ根津は、鼻血をポタポタと垂らしながら血走った目でカッとメトを見ていた。その目に怯えたメトはサッとルナの後ろへと隠れる。
「な、何かしました…か?」
「わ、私の目に…狂いはなかった……イイ‼︎凄くイイ‼︎」
「え?何がー」
「『男の子』ならぬ『男の娘』‼︎イイ‼︎凄くイイ‼︎」
「あのぉ…」
「大丈夫…大丈夫よぉ〜〜…ハァー…ハァー…わ、私の脳内が…盛り上がってまいりましたーー‼︎」
これ以上はいけないと思った西谷達が彼女を羽交い締めにして、そのまま奥へと引きずり退場させる。
「全くあの変態女……でも確かにいけるな…」
「西谷…お前ぇまさか…」
「わ、分かってるよ!ったく…まぁ暫くはその服装でウチのメイドとして働いてもらうかな…あっ!メト君は勿論別の衣装に着替えるよ、執事の衣装があるからそれにしようか!」
「「は、ハイ!ありがとうございます!」」
新しく入った仲間にメイド達はみんな大歓迎ムードだった。西谷もこれから起こる事柄に覚悟を決めて、この2人を養う事を決意。根津や川口もそれに同意した。
(よし…これで内部捜査が上手く出来そうだ……ふふふ、見ず知らずの私達を匿うように受け容れるなど…何と愚かな、もし事が終われば貴様らは口封じの為にー)
ズキィ…
敵に情を移すことはご法度…だがしかし、心が痛む…メトの方へ目を向けると彼は早くもスタッフ達と仲睦まじく接していた。
(………まぁ…見逃してやっても良いか…)
ーー基地本部 とある一室
シンプルにテーブルとソファが置かれたその部屋には、新堀外交官とソファに座っている久瀬防衛大臣、巌城防衛副大臣、南原副総理がいた。
新堀は申し訳なさそうな表情で座っている3人の前に立っていた。
巌城は新堀を睨みつけ、ドスの効いた声で掛けてくる。
「自分が何したのか分かってるのか?…新堀。」
「申し訳ありません…。」
続いて久瀬が声をかける。
「自分がしでかした事がどんなものか…分かるな?」
「例の…スパイ活動未遂事件の…件ですね…確かに…わたしはトンデモない方々を招き入れてしまい…日本を危機に晒そうとしてしまいました。ですが…私は彼と出会ったことに対し後悔はしておりません‼︎」
この言葉を聞いた巌城は額に血管が浮き出そうな程の怒りの顔で新堀に詰め寄り襟元を掴みグイッと引っ張る。
「お前のその行動が最悪の事態を引き起こし掛けたんだぞ。」
「貴方が『防衛官にしか分からない事』がある様に…私は『外交官にしか分からない事』があります。私は外交官として…日本の代表として……誇りを持ってこの役目を担っています!」
「その結果がこれだ…。独断行動ではなく、先に上へ報告するべきだったな。」
新堀は少し黙った後ゆっくりと口を開いた。
「……安住大臣に伝え…許可を得ています。」
「なに?」
この事には久瀬大臣も驚いたが、南原副総理は特に驚きはしなかった。その様子を見た久瀬大臣は、南原副総理に質問をする。
「南原副総理。その顔を見ると、まるで知ってたみたいですね。」
南原はその言葉を聞くとコクリと頷く。
「君が…優秀な外交官である事は安住さんは勿論、私も広瀬さんも知ってる。だからこそ…今回起きた出来事はとてもショックなんだ…話を聞く限りでは、サヘナンティス帝国とは良い関係を築けると信じていたが…」
この言葉を聞くと、どうやら南原は彼の国との友好関係は絶望的と捉えているようだ。
それもそのはず、強い志を持って…危険を犯してまで来日してきたその覚悟を理解して、受け容れた結果、『スパイを送り込む』という行為が帰ってきたのだから。
「さっきお前は『防衛官にしか分からん事がある』って言ったな?だったらそれを教える……自国の脅威となるかもしれん国の存在が在れば、何かしらの諜報活動はするだろう、今回のサヘナンティス帝国が仕掛けてきたのはそれだ。」
「でも…これはー」
「良い加減にしろ‼︎夢見たいな事を言うな‼︎‼︎」
見かねた久瀬が巌城を止めようとするが一向に収まる気配は無かった。
「おい巌城…もうその辺に。」
鋭い目つきで巌城を睨みつける久瀬、その目と気迫に押された巌城は急に大人しくなる。
「はい…分かりました。」
次に久瀬は新堀へ顔を向け声をかける。
「新堀…俺たちはコレまでのお前の働きには満足している…長い間良く外交官として勤めてきてくれた……だが今回のサヘナンティス帝国のスパイを知らずに受け入れてしまった事はあまりにも痛い…分かるな?」
「ハイ……」
「流石にお咎めなし…って事は出来ない…そこで広瀬総理はキミを『停職処分』する事を決めた……悪いな」
「い、いえ…」
こうして新堀は停職処分により、日本へ帰国する事となった。話を済ませた久瀬達は部屋を後にした新堀を見送った後、今回の件について話し合いを始める。
「今回の件はかなり怪しい…。」
「話を聞く限りじゃ、あの国の行為は明らかにデメリットしかない。なのに何故わざわざこんな事を…それをロラン外交長官殿には一切知らされていない…」
「あのリオルとか言う男は、その参謀長官から『皇帝陛下からの命令だ』と聞かされていて、ロラン外交長官も知ってるものと思っていたらしい…。」
「何故その参謀長官は、こんなバカなマネしたんでしょうか?明らかに失敗する可能性がデカイというのに。」
南原は少し考え込んだ後、ボソリと呟いた。
「……『失敗させる事が目的』だった?」
次の瞬間、とてつも無い爆発音が留置所の方から聞こえてきた。