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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第3章 ウンベカントの動乱編
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第45話 西谷の災難

WALKARウォーカー』がハイスペック過ぎるという意見はごもっともですが、これにつきましてもなるべく暖かい目で見守ってくだされば助かります。



ーーウンベカント 東街のはずれ


工事道具などが置かれた街外れの更地に隠れていたルナとメトがいた。2人ともかなり体力の消耗が激しいが、何とか逃げ切る事が出来た。



「ハァー…ハァー…ハァー……何とか…街に進入する事は出来た…大丈夫かメト?」


「うぅ……ぐ……」



メトの顔色はあまり優れなかった。怪我と上級魔法を使った事により体力の消耗がルナよりもずっと深刻だった。かなり危険な状態だ…



「メト!…メト!どうしよう…治療用魔石は…逃げる時に落としてしまった…どうすれば…」



ルナがオドオドしていると近くで話し声が聞こえた。ルナは物陰に隠れてその話し声に耳を傾ける。



「フゥ〜〜ッ!やっぱり仕事終わりの『かんこーひー』は最高ね!…ここはあんまり人も来ないし…静かで最高の休憩場所だわ。」



そこにはメイド服を着た獣人族ルナールの女性がいた。彼女は積まれた角材の上に乗っかり、足をブラブラしながらノンビリと休憩していた。



「(何だ…この街の住人か…てっきり追っ手かと思った……それにしても…なんたる不埒な格好だ!…スカートの丈が短すぎるッ!…まるで娼婦じゃあないか⁉︎…いや、娼婦なのか?)」



「お、こんな所でなーにやってんの〜カーラ?」


「あれ⁉︎…ミラ⁉︎、何でここが⁉︎」



そこに現れたのはミラと呼ばれる亜人族だった。褐色の肌に腕が4本生えている。彼女は亜人族の中でも『希少種族』の1つ…『スクナ族』と1人である。



「何でって…わたしもここがお気に入りの休憩場所だからよ。」


「なーんだ〜、私だけの秘密の場所だと思ったのに〜。」


「(また一人現れたな…アレは…まさか『スクナ族』か⁉︎な、何故『希少種族』がこんな所に⁉︎)」




『スクナ族』は故郷を持たない流浪の民である。主にゴツゴツとした人気の少ない荒野を彷徨う事が多い。繁殖能力は低くその数は非常に少ない。また、人族に対しては非常に敵意をもっており、人族のキャラバンや商隊をよく襲撃していた。



「にしても…ここは本当に『楽園』よね。ニホンの人達は、他の人達とは全然違う…あの時、私達を助けてくれた時から思ってた。」



テスタニア帝国へ侵攻した際、衰弱しきった50人ほどの『スクナ族』の奴隷が檻に入れられていたのを自衛隊員達が発見。彼らを保護し、ある程度落ち着いた時に、彼らが住まう荒野へ送ろうとしたのだが、彼等は『日本人達へ恩を返したい』と話してきた。一向に考えを変えない事に悩んだ本部の人達は、彼等もこの『ウンベカント』の住人(特定在日外国人として扱われる)事となった。



「…本当よねぇ…私達亜人族を…差別や迫害もしない、『受け入れて居場所を与えてくれた』…。」


「それと…ニシタニにも感謝だな!私たちに仕事をくれたのも彼だ!こんな『素敵な服』も無償でくれたしな!」


「チョット下がスースーするけど…こんなオシャレで可愛い服が仕事服なんて…確か次は『せーらー服』と『なーす服』も導入するって張り切ってたわよ?」


「何だろうなぁ〜楽しみだなぁ〜」



ルナは2人の会話の半分以上はよく理解できなかったが、ある言葉が印象に残った。



(『亜人族を…受け入れて居場所を与えてくれる』…か…そして、『ニシタニ』。)



彼女はメトの方を振り返る。相変わらず衰弱仕切っている。どうにかして、治療を受けさせないといけない状態だった。



(幸い…まだ顔は見られてない筈……この街に他のダークエルフ族がいる事を祈ろう…。)



そして…彼女は決心する。



(もう少しだからな…頑張れ!メト…)







ーーウンベカント 酒場〝ニシタニ〟



この酒場はいつも大繁盛で賑やだったが、店の客達がやたらと店の外を気にしていた。


店の客達はその光景を見ながらヒソヒソと会話をする。



「オイオイ…なんか今日はやたらとジエイタイと警備隊が走り回ってるのを見ねぇか?」


「何かあったのか?…さっきも『魔伝』で『緊急警戒令』ってのが発令されたって聞いたぞ?」


「何か物騒になってきたな…俺そろそろ帰ろうかな?」


「大丈夫だって!またジエイタイさん達が何とかしてくれるだろう⁉︎」



すると自衛隊員と警備隊が数名が店内に入ってきた。


「皆様!お楽しみの所申し訳ありません!『緊急警戒令』が出ましたので、今日のところは速やかに自宅に戻って下さい!皆様の安全を守る為です!」


この言葉を聞いた店の客達が、かなり困惑と怯えた表情を見せていたが、混乱が起きること無く、素直に店を後にして行った。


この『緊急警戒令』が発令されたのは今回が初めてではなかった。盗賊や海賊、奴隷商人に雇われた傭兵部隊が現れた時も何度か発令されたからである。



「西谷二士は居ますか?」


自衛隊員の声に店の奥から西谷にしたに正弘まさひろ二等陸士が現れた。



「ハイ!どうされました!」


「『緊急警戒令』が発令されました。今日はお店を畳んで、従業員も早急に帰らせるようお願いします。」


「ハッ!了解しました!…ところで…何があったのでしょうか?」


「詳しいことはまだ何とも…だがこの街に未確認人物が2名入り込んだそうだ…お前さんも気を付けろ。」


「ハッ!」



自衛隊員達は店を後にして、また別の店へと向かった。



西谷は従業員を集めて、さっきの事を伝えようとしたその時、獣人族ケットシーのシャーロットが慌てた様子でやって来た。



「に、ニシタニ店長ーー!た、大変ですニャ‼︎」


「おっ⁉︎ど、どうしたのシャーロットちゃん⁉︎…まさか………また、谷間に虫が入っちゃったのかな〜〜?よしよし、俺がまた優〜〜〜しく、取ってしんぜよう。」



西谷がヤラシイ目つきと指の動きを見せるが、直ぐに他の日本人店員に頭を叩かれ止められてしまう。



「ち、違いますニャ‼︎また、変なの人…いや変な『ダークエルフ族』が‼︎」


「……なぬ⁉︎」




ーー酒場〝ニシタニ〟 スタッフルーム



スタッフルームのソファに座っていたのは、確かにダークエルフ族の女性だった。そして、彼女に膝枕の形で横になっていたのは、同じダークエルフ族の男性だった。


男性の方は、見た目的にはまだ10代後半くらいの青年でかなり衰弱仕切っている様子だった。女性の方は心配した顔をしていた。



「……根津ちゃん…医療道具持ってきて…彼を診る必要がある。」


「は、はい!」



西谷はこの2人を見てある疑問が浮かぶ。そして、同期の川口と共に奥へ移動しコソコソと話をする。



「(なぁなぁ川口、この2人ってまさか…)」


「(例の未確認人物…の可能性が…)」


「(ハァー…勘弁してくれよ〜こんな事に巻き込まんといてよぉ〜)」


「(と、兎に角!本部へ連絡しましょう。)」



「西谷さん、治療終わりました。」


「お、おう!ご苦労さ…えっ⁉︎早くない⁉︎」


「ムッフフ…私、常人よりも魔力が高い人間なんですよ〜。だから、治療用魔石を使って簡単に治すことが出来ました!」


「はぁ〜〜…そうだったのぉ〜。」


「でも、カーラさんの話だと本当に危なかったそうですよ。あと一時間くらい遅れてたら死んでたって。」


「ギリセーフ…って事か…んで、2人は今どうなってんの?」


「女の方は、弟?が助かった事に泣き崩れてます。弟?さんはそんな泣いてる姉?を見て困惑してます。」


「そっか…まぁある程度落ち着いてから話を聞こうか。」






ーー中ノ鳥半島基地 取調室前



基地の取調室の外側で話をしている自衛官と黒スーツ姿のスキンヘッドの彫りの深い男がいた。



「捕らえた侵入者は13名…全てダークエルフ族です。目的はまだ何も聞き出せてません…ですが、あと2名いる事は分かっています。」


「それで…その2名は?」


「い、いえ…まだ捜索中です。」


「もし日本の機密情報が盗まれたなら…エライ事になるな。もっと警備を厳重にするべきでしたね。」



呆れたため息を吐いた。

こんな事がメディアや野党に知られたら、色んな情報を助長させての猛批判が待ってる事だろう。


別に全て自衛隊が悪いわけではないのだが、今傍にいる隊員は申し訳なさそうに視線を下へ向けていた。



「弁明のしようもございません…。」


「まぁ起きてしまったことは仕方ない。何とか穏便且つ早急に事が解決するよう努力するしかないな。」



このスキンヘッドの男は日本国防衛副大臣の巌城いわき大作だいさく、42歳。元血気盛んな自衛官。今は大分落ち着き元々が真面目な為、議員としての仕事もキチンと熟すのだが、真面目故に無茶振りの多い上司の久瀬大臣にはほとほと困っている。


因みに久瀬は、巌城が自衛官時代の元上官である。



「新堀の件で来てみれば今度はこれか…参ったな。」



巌城はやれやれと頭を掻いていると、そこへ一人の男が現れた。



「愚痴もその辺にしとけって。今回ばかりはしかたねぇよ…されに『AアサシンWウォーカー』も出動させてたんだ。心配後無用!」



日本国防衛大臣の久瀬靖人である。彼は巌城と一緒に『新堀の件』で基地へと訪れていた。そして、ダークエルフ族の隠密部隊の襲来に偶然にも立ち会ったわけである。



「うっ…すみません。」


「だが連中の目的は何だ?かなり訓練された様に思えたが…。」


「それが…サッパリ。」




取調室内では両手を後ろに手錠を掛けられたダークエルフ族13名がいた。全員多少なりとも傷を受けていたが、ある程度治療を済ませ、受け答えには答えられる。しかし、頑なに黙秘を続けている。



「とまぁ…この様な状態です。」


「うーーん…」



どうした物かと悩んでいると他の自衛隊員が現れ報告に来た。



「失礼します!ウンベカントにて盗みを働いていた2名のダークエルフ族を捕らえました…恐らく。」


「お?マジか。よっしゃ、早速取り調べをするぞ。っにしても盗みが目的か?…ちっぽけな連中だな。」



久瀬は侵入してきたダークエルフが全員捕まった事に安堵するが、その2人が盗みで捕まるという何とも情けない事実に妙な違和感を感じていた。


ーー


暫くすると、盗みを働いた2人のダークエルフ族が連れられてきた。


「(あ、アニキぃ!捕まっちまったよ〜。)」


「(馬鹿野郎が…だから金貨だけ盗めと言ったのに…ていうか、何処まで連れて行く気だよ…)」



2人は複数の自衛隊員に取調室まで連れられた。


ガチャッ


「な、なんだよこいつらぁ⁉︎」


「あれぇ?…こいつら…」



2人は既にいた13人のダークエルフ族を見て驚愕する。自衛隊員が2人に質問をする。



「この者たちに見覚えは?」


「へ?」



すると13人はコレを見て瞬時にある考えが浮かぶ。するとそのうちの一人がー



「せ、戦士長‼︎ご無事でしたか⁉︎」


「よかった〜…ん?『メロ』も無事だったか⁉︎」



「「ッ⁉︎」」



突然隠密部隊のダークエルフ族にこの様な事を言われた2人の盗人は驚愕する。彼等とは初対面で認識がなかったからである。



「い、いやいや!誰だよおまー」


「無事で良かったです!本当に!」



この言葉を聞いた自衛官達は、こいつらが逃走してた2人だと思った。



「この方々と面識がある様ですね…それに『戦士長』?…貴方がリーダー格か…連行しろ。」



こうして何も関係のない盗賊ダークエルフ2人が、この隠密部隊の残り2人であると勘違いした日本側は、全員を留置所へ移動させて行った。



「お、オイオイ‼︎ちょっと待てよ‼︎」


「あれぇ?…俺たちどうなるんだ⁉︎」



完全にパニックになっている2人を少し気の毒だと思いながら、無理やり巻き込ませた隠密部隊のジウ。



「(こいつ等には悪いが…暫くは俺たちの仲間って事にしてやろう…)」


「(でもこいつ等が変にベラベラ喋ったら…)」


「(時間を稼ぐ事は出来る…少なくとも今はあいつらが俺たちの残りの仲間だと思いこんでるしな。)」



取調室を後にするダークエルフ族たち、取り上げず全員捕まえる事が出来たことに安堵の溜息をする自衛官だが、その側に至る久瀬は違和感を覚える。





ーーウンベカント 酒場〝ニシタニ〟



スタッフルームでは、ダークエルフ族の2人がこうなった事情を説明していた。


両親が病気で死んだこと、姉弟で何とかその日暮らしの生活が出来ていたが弟が魔法の実験で酷い目にあったこと、今は藁にもすがる思いで働き場所を探していることetc…



「…というわけなんです……お願いいたします!どうかここで働かせて頂きませんか⁉︎」



「うーーーん…そ、そうは言われてもねぇ…」


「(西谷…マズイってさすがに今回は…サッサと本部にー)」


「(わかってる……でも…)」



既に姉弟の周りには、歓迎ムードのメイド達がいた。



「(いつもだったら他の子達と同じ様に、受け入れてあげてやりたい…あの子達もそれを望んでいるみたいだし…それにうちの従業員にはダークエルフ族も何人かいるし…)」


「(気持ちは分かりますが、もし例の侵入者だったらどうするんですか⁉︎)」



すると2人の会話の間に姉弟が心配そうな瞳で此方を見ていた。



「あ、あのぉ…ダメ…ですか?私達!何でも…何でもしますから‼︎」



西谷達は「ダメだ。」と言うのが当然だろうと思っていたが、2人の顔と他のメイド達を見ていると断り辛かった。それに彼女達はジリジリと詰め寄ってくる。



「ダメ……なんです…か?」


「うぅぅぅぅ〜〜〜ッ!わ、分かった分かった!……ハハ、雇うよ。」


「本当ですかッ!」



姉弟とメイド達は喜び合っていたが、西谷は苦笑いしか出来なかった。同期の川口が、後ろか頭を叩きながらやって来た。



「(バッッ!?おまっ!?バカバカ!…こんな事したらお前ぇ…かなりヤバイってオイ‼︎)」


「(分かってるよ……一応、監視ってことでさ。それに、この街にはダークエルフだって居るんだ。この二人がって言う理由にはならない。でも…ハハハハ、こりゃ俺もタダじゃあ済みそうにないな…)」


「ま、何がともあれ…雇うって事に変更無しなんですから!」



2人のコソコソ話に割って入る様に根津と呼ばれる女性従業員兼自衛官の彼女が現れた。



「なんだよ根津ちゃん…随分嬉しそうじゃないの。」


「ふふふ…そりゃあもう…」



すると彼女は姉弟の方へと歩み寄り、2人の肩をポンと叩く。



「『何でもする』って言いましたよね?」


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