第43話 別班式拷問と新たな脅威
なんかいけそうだったのでもう一話投稿します。
色々混乱させてしまい申し訳ありません( ;´Д`)
ーー夜9時頃 ウンベカント
夜も相変わらず賑やかな『ウンベカント』、そんな街を新堀の案内のもと観光をするロラン外交長官。
街並み、商店、公共施設、道路、街灯etc…全てが自国を圧倒的している事にタダ驚いていた。
「ロラン外交長官、アレがー」
ロランにはもはや新堀の説明は聞こえなかった。彼にも一応5大列強国に認めらたという自国の文明力に多少の自負心があった。しかし、それ以上の日本の文明力の高さに感銘を受けていたのだ。
「ロラン殿!ロラン殿!…あの…」
「えっ⁉︎…」
リオルに声を掛けられてハッと我に帰るロラン。新堀もそれに察して、心配そうに声をかける。
「あの…気分でも優れませんか?」
「あ、いえいえ!大丈夫です!…すまないリオル…リオル?」
声を掛けてくれたリオルに礼を言おうとしたが、そのリオルの顔色が青い…リオルが声を掛けたのは自分が体調不良である事を報せるためだった。
「すみません…ど、どこか…トイレを…」
「え?あっハイ。では此方へ。」
リオルはSPの案内のもと、近くの公衆トイレへと入っていった。
「ーーこれを回すと流れる仕組みです…大丈夫ですか?」
「なるほど。どうもありがとうございます!」
「では…出入り口でお待ちしております。」
バタン…ガチャッ…
個室に1人となったリオルは懐から少し昔の大きめな携帯電話のような物を取り出し、電話の相手に話しかける。
「(こちらリオル…今の所順調だ。そっちはどうだ?)」
『(こちらモレッティ…ダメだな…一向に外にいるニホン軍の数が減らない…もう少し様子を見る)』
「(分かった…だが無茶はするな。)」
『(分かってるって……ところでお前、よく無線機を没取され無かったな。)』
「(へへ…物隠しはガキの頃から得意中の得意さ)」
『(流石だなリオル…お前さんはサヘナンティス帝国特殊部隊『プレゼント・バーズ』の誇りだ。)』
「(そりゃどうも…任務が終わったら一杯奢ろう。)」
『(そりゃあいいな!…それじゃあそっちは頼むぞ。)』
「(あぁ…)」
やり取りを終えたリオルは無線機をしまい個室を後にする。
ジャーーーっ!
ガチャッ
「フゥ〜…」
「お疲れのところ申し訳ありません。」
「え?」
リオルは背後から聞こえた声の方向へ振り返ると『それ』はそこにいたー
『それ』はー
全てが『黒』だった。
ーーー顔。服装。履物。そして、眼光と呼吸も、実際そうだと言うのでは無く、雰囲気や気配などが『黒』だと感じる。
そう…『別班』である。
「なっ⁉︎」
突然現れた別班に驚きを隠せないリオル。
目の前に全身黒色装備の男が立っていれば尚更だ。
男は落ち着いた様子で一歩足を進ませ。
「後静粛にお願いします。」
命の危機を感じたリオルは、咄嗟に裾に忍び込ませていた小型のナイフを取り出し、隊員の喉元に向け突き出した。
しかし隊員は頭を一個分横に動かして避けた後、突き出た右手を自身の右手で掴んだ。そして、残った左手で相手の伸びきった右腕の肘関節を逆から押し込み、立位の関節を決める。
「うぐッ‼︎」
リオルの右腕肘関節に鈍く重い激痛が走る。
顔を歪めるリオルに、隊員は容赦無く右腕肘関節を押し込んだそのままの勢い投げ技を仕掛けた。
そして、トイレの壁へ激突する。
微かに公衆トイレが揺れ、リオルは顔面をモロに壁にぶつけた衝撃で完全に気を失っていた。
「ふむ…ボディチェックを掻い潜った技と急所への正確な攻撃は見事だった。だが…『環境』に適応出来ていなかったな…この狭い公衆トイレを武器に活かせなかった。」
「おーい。終わったか?」
隊員が声をした方向へ目を向けると、そこには同じ服装をした別班隊長の鈴木がいた。
「あ、隊長。お疲れッス。」
「さっきの戦い方…動きにムダがありすぎだ。音も立てるな。新入だからと言って甘やかしたりはせんぞ。」
「あ、ハイ…」
「まぁ良い…それよりこいつ運ぶぞ。」
ションボリと項垂れる部下に鈴木は溜息を吐く。
2人は直ぐにもう一つの個室に用意していたバッグから清掃員の作業服を取り出し着替え始めた。
そして、リオルをもう一つの大きめのバッグは入れて運び出す。
出入り口には先程のSPがいたが、2人がトイレを後にしてSPの前を通った瞬間ー
「(外は何の問題もありませんでした…お疲れ様です。)」
「(ご苦労。)」
このSPも別班の1人。
SPは2人が出て行った後に再びロラン達の元へと戻っていった。
「あれ?…リオルさんは?」
「リオル氏はあまり体調がよろしくない為、先に本部基地へと戻りました。」
「そ、そうですか…ちょっと心配ですが…まぁ彼なら大丈夫でしょう。」
ロランは部下が日本の影を担う隠密部隊に捕らわれているとも知らずに、新堀の案内による観光を続けた。
ーーー
ーー
ー
「う……うぅ…ん?」
顔と右肘の強い痛みによって目が覚めたリオル。彼が目を覚ました場所は、裸電球が1つしか付いてない薄暗い小屋の様な所だった。
「こ、ここは?…そうだ…俺はー」
「目が覚めたかなぁ?」
「ッ⁉︎」
リオルは聞き覚えのある方へ目を向けると、そこにはさっき程の公衆トイレで出くわした黒ずくめの男がいた。
(そうだ!俺はこいつに‼︎)
リオルは掴みかかろうとするが、全く動けない。彼は自分が両手両足が縛られていた事に今頃気付いた。
「まぁまぁ…そう怒りなさんなや…ま、無理ねぇか…っと、そんな事はどうでもいい。重要なのはここからだ。」
「な、何⁉︎」
「これから質問する事に答えて下さい…その答えようによってはー」
「俺を殺すってか?…上等だ!」
「フッ…『あんた』はそうだろうな…でも…あいつはどうかな?」
「何?」
そう言って隊員が合図を送ると1人の男が引きずられて来た。
ドサッ!
「うわっ!」
「ッ⁉︎も、モレッティ⁉︎ 」
「こいつ…お前達が乗ってきた…『ロズウェル』って言ったか?…その機体に潜り込んでたぞ。」
運ばれたのはリオルと同じ『プレゼント・バーズ』の1人でモレッティと呼ばれる男だった。両手を縛られた状態で連れてこられた彼は申し訳なさそうな表情をしていた。
「我々も最初は、まさかもう1人潜入しようとしていたとは気付かなかったよ…だから、そういった点ではかなり反省しているし、こんな大胆な方法で潜入しようとしていた君達に敬意を表している。だからこそ…『約束』しよう。」
「な、何をだ?」
「これからの質問に先に答えた方だけを…『助ける』…答えなかった方は『始末』する。我々は『質問』をする…君達は『答える』…そしてその結果によって『助ける』し『殺し』もする。…いいか?『1つの行動』に『2つの目的』だ…。」
「ひ、ヒィッ!」
モレッティは怯えきった表情で情けない悲鳴をあげる。それもそのはず、モレッティは『プレゼント・バーズ』に入ったばかりの新人…オマケに最近結婚したばかりだ、死にたくないのも当然…だからこそマズイ。
リオルは彼を見捨てるという選択肢をこの時すでに捨てていたのだ。
「それじゃあ質問するぞ…君達の目的は何だ?」
いきなり核心を突いてきた質問にリオルはドキッとする。モレッティの方を見ると…もういつ喋っても可笑しくなかった。
するとモレッティは目でリオルに合図を送るー
『偽り』『喋れ』
ーーだった。
モレッティはは死を覚悟していた。
だが、リオルは仲間を見捨てる覚悟はなかった。
リオルは偽りを喋れば恐らく誤魔化せるという自信はあった。何故なら尋問道具が見たところこの部屋には無く、殴る蹴るの暴力による尋問も耐えられる。
「お、俺たちはロラン外交長官の護衛を任されたんだ‼︎…本当だ!」
隊員はウンウンと頷く、リオルは微かな希望を抱く。しかしー
「……嘘ついたな?」
「え?」
すると暗闇に紛れてたもう1人の隊員がリオルの背後から現れ、彼の喉元にナイフを突き刺す。
「なっ⁉︎…」
真っ赤な鮮血が格納庫内の一角に飛び散り、小さな水溜りを作った。
リオルはその場に力なく倒れ込む。その光景を見たモレッティは、恐怖の感情が一気に押し寄せてくる。
先ほどの覚悟など何処かへ飛んで行ってしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎」
「ちゃんと答えたら助けてやると言ったのに彼は嘘をついた…そういう生意気な態度は実に気に入らない…。」
「う、うわぁ…ヒィ…!」
モレッティの顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。そんなモレッティの目をただジーっと見つめる、隊員の目…その目は驚くほどに真っ黒で見るものを飲み込むような目をしていた。感情など全く無い。人を殺すことになんの躊躇い無い…恐らく自分が殺される立場でも彼はそんな目をするのだろう。
「次が最後だ……お前達の目的は何だ?」
「うぅ…お、俺だぢは…うぐぅ……に、に、『ニホン国の軍事力を…探れ』と…参謀長官の…『テオドシウス・レンツ』様の…ご命令で…本当です!殺さないでぇ…」
ブレることなくモレッティの目から視線を外さない隊員の目にモレッティは、その重圧から気が遠くなり…気を失った。
「チッ!情けないなぁ…おい坊主、お前特殊部隊どころか軍人にも向いてねぇわ。」
「おい、終わったか?」
格納庫出入り口。その暗闇の奥から隊長の鈴木が現れた。辺りを見渡すと『気を失っている』2人が床に倒れていた。
「聞き出せたか?」
「えぇ…ちゃんと録音もしてあります。取り敢えず基地へ運びますか?」
「あぁそれで良い。お前…そんなオモチャなんかで脅したのか?」
鈴木は隊員が持っていたリオルの喉元を突き刺したナイフを見た。刃の部分には血がベットリと付いていた。
「これですか?…ハハ、よく出来てるでしょ?自作ですよ。」
隊員は刃先を柄まで押すと刃先が引っ込み、代わりに血のりがブシュッと噴き出てきた。
「こんな事で殺してもしょうがないじゃないですか?」
「まぁやり方は任せると言ったからな。ちゃんとやる事やってくれれば文句はない。」
ーーウンベカントの外れにある小丘
月明かりも少なく暗い平原に一際目立つ光を放つ『ウンベカント』。そんな街を離れた小丘から眺めているフードを被った集団がいた。
「あれが…ニホン国…『ウンベカント』か…思ったより大きい街なのだな。」
「ルナ戦士長…全員準備万端です…何時でもいけます。」
「そうか…分かった。では予定通り個々で行動を起こせ、何かあれば魔伝を使って連絡をしろ。」
ルナと呼ばれる女性は後ろにいる15人の部下へ命令を下す。
「いいな…我らの目的は1つの…『ニホン国の軍事情報を一つでも多く手に入れる事』だ。もし敵に悟られる様であれば…『殺せ』…何としても任務を遂行しろ…我らダークエルフ族の誇りにかけて。」
彼らはヴァルキア大帝国に雇われたダークエルフ族の隠密部隊の中でも、戦士長ルナが率いる精鋭中の精鋭達だった。
「よし………行くぞ!」
ダークエルフ族達は身をかがめながら、平原をかなりのスピードで駆け抜けウンベカントへと向かい走り出した。
彼らの胸中には、『予言』ではないが『予感』よりも確かな自信が満ち溢れていた。彼らに遂行できなかった任務は今まで一つも存在しない。
ピピッ…ピピッ…ピピッ…!
彼らの通った後の平原から赤く点滅する何かが生えてきた。するとそこから、『人の形をしてした何か』が平原の土と一緒にムクリと起き上がった。
『公道外にて未確認人物15名を確認…基地本部へ送信……。送信完了…システムに基づき《Hunting・Phase》に切り替えます。』
するとまた1体…また1体と起き上がり、数が増えてきた。
今回の任務において、ダークエルフ族には1つだけ誤算があった。
それは『日本は今までの相手とは全然違う』という事である。
もう大晦日です!皆さん良いお年を‼︎
そして来年もよろしくお願いします‼︎




