第38話 各国の思惑
時間があれば2話分投稿していきたいと思います。
ーーとある上空 龍車の中
2匹の『巨龍』と呼ばれる全長100mを超える龍が引いている龍車の中にバーク共和国の外務卿エステル・スウィントンはそこにいた。
エステルは窓から見える雲海を観ながら酒を飲んでいた。
「…エステル外務卿、本当にニホン国へ強襲を仕掛けるおつもりですか?」
「当然よ‼︎あんな田舎地方の蛮族国家など取りに足らぬわ‼︎」
「わ、分かりました!至急本国へー」
従者が魔伝兵へ本国へ連絡を取るよう指示を出そうとすると、エステルはハッ!と鼻で笑った後、その指示を止める。
「って、なわきゃねぇーだろ?」
「……へ?あのぉ…え?っえ⁉︎」
「ニホン国がテスタニア帝国に反乱を起こして混乱に乗じて一気に攻め込んで勝利した…てのは聞いたな?」
「えぇ…。」
「だがそれは逆にニホン国は内部工作に長けた隠密組織が存在するということだ。ニホン国は…恐らく強い…普通に銃や大砲の類も開発している…だが『物量』の問題だ…そして、それを補うために隠密組織を使うってのがニホン国の『戦争』だ。」
「…ですがー」
「…連中があの数十万の奴隷の人質達をたった1日で全員連れ去ったのは知ってるか?」
「ッ⁉︎」
「そして…奴隷の反乱と時を同じくして起きた植民国の反乱…翼龍の無力化…これも間違いなくニホン国の隠密組織が絡んでる。こんな事…易やすと出来ることじゃあない。」
従者は呆気にとられた様な顔をしながら冷や汗を垂らしていた。あの会談の場に、彼も広間の隅に立って聞いていたが、テスタニア帝国でのニホン国の戦争内容については詳しく聞いていなかったからである。
それもそのはず、ハルディーク皇国は
ー『混乱に乗じてニホン国の軍が攻め込んできた。奴隷共の反乱もあり大した反撃なく敗北した。』ー
としか伝えていないのだ。
「……そこまで詳しくハルディーク皇国のネイハム氏は…教えていませんでしたよ?」
「それは『ワザと』伝えなかったんだ。そして、ニホン国は大した国ではないと認識させて、俺たちに彼の国と戦わせるよう仕向けたんだよ。」
「何故そのような事を…」
「『余計な労力を使わずに手に入れる』…連中のいつもの手だ。」
「なんと…。」
「それに…今の5大列強国の『情勢』についてはお前も知ってるだろう?」
「…えぇ大体は…」
「とにかく今は『少しでも多くの戦力が必要なんだ』、低文明国家だとしても『味方を増やす』事が大事なんだよ…。あのテスタニア帝国に勝利した新興国だとすれば尚更だ。」
「成る程…」
「連中はニホン国の『軍事力』について何かしらの情報を手にしてるんだろう…多分…大砲や銃以外の何かだ…。そして、俺たちバーク共和国やレイス王国を戦わせてお互い疲弊しきった所を一気に…『取り込む』つもりだ…。」
「うっ⁉︎…」
「建前ではお互い良い関係と思っても心の中じゃ常に弱みを探ってるのさ。」
「では我が国は…」
「とりあえずニホン国強襲作戦の行うために準備をしてるっていう『パフォーマンス』だけしてろ。」
「は、ハッ!」
従者は本国へ連絡を取る為、直ぐに部屋を後にした。エステルは再び窓から見える景色を眺めながらボソリと話す。
「ハルディーク皇国の奴等ぁ…深淵の財宝を俺たちに拾わせるつもりだ…。」
ーーとある上空 グリフォンの翼車内
多数の闘龍騎士団の護衛の元、大空を羽ばたく巨大な怪鳥グリフォン。
「リオネロ局長、我が国傘下のウィルシール帝国、リルウッド王国、ローナム王国から報告書が伝書蟲にて届いて参りました。」
「ご苦労様…。」
報告書を眺めるリオネロ、その顔は時間が経つにつれて段々と難しい表情になっていった。
「あ、あのぉ…リオネロ局長?」
「ニホン国は…思ったより文明力の高い国だったみたいね。ネイハムはこの事知ってて言わなかったの?…」
「な、何が書かれていたのでしょうか?」
リオネロは従者に報告書の内容を伝えた。中身はエステル外務卿が話していた事とほぼ同じ内容だった。
「ーという訳よ。」
「そ、そのような事が…た、確かに今の情勢考えれば…納得いきます。」
「元々ハルディーク皇国は自分の手は汚さないで、何かしらの弱みに付け込んで他国を嗾けて、頃合いを見計らって全てを手に入れる国よ。今あの国の傘下にいる国のほとんどがそうやって支配された国なんだから。あのドム大陸とか言う田舎地方も手に入れようとしたらしいわ。まぁ、失敗に終わったけど…。」
「それで…我が国はどうしましょうか?」
「…多分、バーク共和国は動かないハズよ…。」
「そうです!そうです!ここは下手に動かずに様子をー」
リオネロは眉間にしわを寄せながら、従者を睨み付ける。
「何を言ってるのかしら?」
「へ?」
すると突破リオネロは無邪気な子供の様に笑いながら従者の案を否定した。
「ウフフ…キャハハハハハ‼︎キャハッ!キャハハハハハッ!そんな訳ないでしょ⁉︎」
「え?え⁉︎」
「むしろ…これはチャンスよ。美味しい『御馳走』を取り合う相手が居なくなったんだもの。」
「という事は…ニホン国を?」
「必ず手に入れる…オマケに銃や大砲の類も存在しているんでしょ?尚のこと手に入れたいじゃない⁉︎あの国を我が国の傘下へ入れる…間違いなくレイス王国は『大きく』なる!」
「……は、ハッ!」
「でも…まともに戦ったらコッチも大なり小なり打撃を受けるわ…そうなると間違いなくハルディーク皇国に『取り込まれる』。」
従者はゾッとした。かつてヴァルキア大帝国に戦争を仕掛けた『砂漠の大国:アルサレム王国』、『鉄の国:ペリュード連邦』。この2カ国は大敗後、ヴァルキア大帝国に『取り込まれた』、その後、徹底的な洗脳教育のもとその国の民達は、『自分達の国が存在していた事すら知らない』までに洗脳されてしまった。
「それだけは…何としても避けないといけない…でも行動しない訳にもいかないッ!『国力』を得なければ遅かれ早かれレイス王国は『取り込まれる』。」
「…バーク共和国はリスクを避けた…という訳ですね。」
「フフ…いつの世も行動にリスクは付き物よ。何もしなければリスクは起きない…でも何も得ることは無い…。」
「では…どのように攻めるおつもりで?」
「それは将軍達に任せるわ。私は、エステルみたいな元軍人じゃないし。あと、まだ仕掛けないほうが良いわねぇ…時期が悪すぎる…」
「それは何故ですか?」
リオネロは渡された報告書の一枚を従者に手渡した。従者はそれを受け取り、暫く眺めていると、その理由に気付いた。
「な、なんとッ⁉︎」
「ね?分かったでしょ?今ニホン国には主要亜人族国家の王達が『ウンベカント』へ向かってるのよ。目的は…ニホン国との友好条約…かしらね。」
ーーとある上空 真龍の龍車の中
全長80m以上はある白銀の鱗を持つスラリとした容姿をした『真龍』。そして、その真龍が引く龍車の中にいたハルディーク皇国の外務局長ネイハム・エアドレッドは副長であるシリウスと話をしていた。
彼らの前にはテーブルとその上に置かれたバレーボールほどの大きさの魔伝石が2つのあった。そして、其々の魔伝石から聞こえるのは…エステルとリオネロの声だった。
『ーー深淵の財宝を俺たちに拾わせるつもりだ…。ーー』
「ご明察…。」
『ーー何もしなければリスクは起きない…でも何も得ることは無い…。ーー』
「ふむ…的を得ているな小娘のくせに…だが、リスクは少ない方が良い。」
2人の会話を聞いていたシリウスはニヤニヤと笑いながら呟く。
「…バカめ、そういった話は本国についてからするものだ…我が国が開発した盗聴用魔伝石は相変わらず便利ですなぁ。所々ノイズが響くのは難点ですが…」
ネイハムは頬杖をつきながら2人の会話を聞き、軽い舌打ちをする。
「チッ、そう上手く事は行かぬか…だがレイス王国は何とか動きそうだな…。」
「ネイハム局長…この盗聴はどういった目的をしたものですか?ただの情報収集ならー」
「……『レイス王国とバーク共和国がニホン国へ攻め込もうとしている』この情報をニホン国へ教えるのだ…。まぁ…明確な情報はまだ得ていないがな。」
「ッ⁉︎成る程…ニホン国と信頼関係を築くおつもりですね…。」
「下手に武力を翳すのは愚か者のする事よ…我が国は効率良く、そして必要最低限の労力で欲しい物を手に入れる。ハルディーク皇国はそうやってのし上がってきた。」
「ふふふふふ…バーク共和国とレイス王国を生贄に…そして、新たな列強国として招き入れるのですね?」
「あぁ……南東の『ニホン国』、『異世界から現れた』と聞く謎の多い国、それゆえ未知数…だが…必ず我が国の傘下へッ!」
ーー第7艦隊旗艦 大型飛行戦艦『マクルーア』 応接室
応接室のソファに深々と腰掛けて深い溜息を吐くサヘナンティス帝国の外交長官ロラン・シェフトフ。
「はぁ〜〜〜〜〜……あの3ヶ国は馬鹿だ…この世の均衡を崩すつもりか?…でも、それくらい必死って事か…」
ロランは机に置いてあったタイプライターを使い書類を作成する。
「…悪いけど…君達の好きにはさせないよ。…先ずは…ニホン国とサヘナンティス帝国で国交を開いて、友好条約を結ぼう。…急がないと…最も最悪なパターンは、『ニホン国とヴァルキア大帝国が国交を結ぶこと』。それだけは何としても避けたいッ!」