第35話 悪夢の終わり
ーーテスタニア帝国 帝都のはずれ
ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ〜ッ!
ギャオオオオオオオオオオオオオッ‼︎‼︎
突然の地響きと共に聞こえる獰猛な鳴き声。その鳴き声からは『憤怒』の感情が伝わる。
長い年月もの間、暗く狭い地下の檻に閉じ込められたことに、『炎龍』達は怒っていた。
『ヘトヴィヒ』
『シュナーベル』
『ツェプター』
どうやったのかは不明だが、テスタニア帝国が捕らえた3体の炎龍達は、巨大な翼を羽ばたかせるたびに上空に多量の火の粉を撒き散らしながら大空を優雅に飛んでいた。その姿はまさに『空の王者』。
まだ離れているとはいえ、炎龍が帝都までやって来てその猛威を振るうのは時間の問題だった。
帝都の人々は何事かと建物の屋根や高台に登り、その鳴き声のする方へ目を向けると、全員の顔から血の気が一気に引いた。
「え…え…え……『炎龍』だぁーー‼︎‼︎」
「に、逃げろー‼︎‼︎」
「早くしないとみんな焼き殺されるぞ‼︎」
「逃げろ逃げろー‼︎」
「もう〜どうなってんだよこの国は〜⁉︎」
「馬鹿ッ!そんな物はいいから早く逃げるぞ!」
「ママ〜‼︎ママ〜‼︎」
帝都は大混乱だった。全員が一目散に帝都から逃げようと荷物をまとめ、正門へ逃げようとするが、とてつもない人波により正門は詰まっている状態だった。
混乱によって怪我をした人、家族とはぐれてしまった人、混乱に乗じて火事場泥棒をしている人などがいた。
警備兵も混乱を抑えきれず、中には一緒に逃げようとしている者も少なくなかった。
議会にいた官職達も混乱していたが、カーネギー公は直ぐに議会から出た後、懐から『無線機』を取り出した。
「と、父さん⁉︎…何するの?」
「『新しい友達』に助けてと伝えるんだ。」
カチッ…ザザー…
「ジエイタイ殿!聞こえますか⁉︎カーネギーですが!」
『ーはい、聞こえてます。どうしましたか?ー』
「恐れていたことが起きた…炎龍が出てきました!」
『ー分かりました、後は我々にお任せ下さい。貴方様は、何処か安全な場所へ避難をー』
ーーテスタニア帝国 西側沖合部
航空母艦『ほうしょう』 艦橋
「松永艦長、旗艦『きりしま』から伝令です。帝都のカーネギー公爵から無線が入ったそうです。…炎龍が現れたと。」
「第3航空隊の『F-35J』を発艦させろ。くれぐれも帝都上空で戦うな、必ず郊外へ誘き寄せてから仕留めろ。」
「了解。」
航空母艦『ほうしょう』から飛び立つ8機のF-35Jは、綺麗な編隊を組みながら帝都へと向かっていった。
『目標到着時間は?』
『約3分半です。』
ーーテスタニア帝国 郊外上空
郊外の森林帯は燃え盛る火炎の海となっていた。怒り狂った炎龍達がデタラメに火炎を吐き出しながら飛び回っている。いつ帝都にその猛威が振るわれてもおかしく無かった。
「クッソ!この野郎!」
「また7騎落とされた!」
「やっぱり炎龍に勝てるわけねぇんだ畜生‼︎」
「残りは半分以下だぞ!」
帝都を守るため炎龍と激闘を繰り広げるテスタニア帝国の翼龍騎士団。しかし、その圧倒的力の差に、まるで羽虫を蹴散らすように次々と叩き落とし、引き裂き、焼き尽くしていった。
「……最早これまでか…ん?」
「おい、なんか近づいてこねぇか?」
「は、はぇぞ⁉︎もう直ぐそこまで来てる⁉︎」
西側から何が猛スピードで向かってくる…『F-35J』だ。
『目標捕捉……発射。』
8機のF-35Jから一斉に撃ち出された中距離空対空ミサイルが炎龍達に襲い掛かる。
ドドドドォォーーーーーーンッ‼︎
『命中…ん?』
グルゥアアアアアア‼︎
炎龍達はまだ生きていた。しかし、腕は千切れ、身体中の鱗が砕け、大きな翼も大小様々な穴が開いていた。
『驚いたな…まだ生きてんのか。』
『次弾用意。』
炎龍達は生きていたとはいえ、決して問題ないという傷ではなかった。ボタボタと流れる血が遠くからでもハッキリと見える。かなり重症である。
『一撃では倒せないが、かなりのダメージを与える事は出来るな。』
炎龍達はF-35Jに向かって猛スピードで迫って来た。その眼は『刺し違えてでも必ず殺す』と言った意思が伝わる。
『……こいつら…漢だぜ!』
『雌かもしれませんよ?』
『細けぇこたぁいいんだよ…目標捕捉…発射。』
ドドドドーーーン‼︎‼︎
再び中距離空対空ミサイルが炎龍達に襲い掛かった。ミサイルによって炎龍達は今度こそバラバラな肉片となって燃え盛る火炎の海へと落ちていった。
『…任務完了。』
ーーテスタニア帝国 帝都
「あの…『空飛ぶ剣』は…何をしたんだ?」
「炎龍を…それも3体を一瞬で…」
「あ、新しい魔獣?」
帝都にいる人々は今見ていた光景が夢だと思っていた。炎龍を操る者は世界を制する…この言葉を昔から聞いていた彼等にとってはとても信じられない事だった。無論、議会にいた官職達も同じ感情を抱いてた。
「あ…あの…炎龍が…アレがニホン国の…ジエイタイの力…帝国はこんな国を敵に回していたのか…。」
官職達からは安堵の空気が包まれてた。炎龍によってこの国もろとも自分達も焼かれるかもしれないと思っていた。
「助かったあ〜…。」
「それにしても…何なのだアレは?」
「今はそんなのどうでも良いですよ!助かったんですから‼︎」
そんな空気の中、カーネギー公は全員の前に立ち、高らかに口を開く。
「さぁ…これからこのテスタニア帝国は生まれ変わる!」
ーー北西部 ギルバトア大陸のとある場所
機械作りの廊下を歩く一人の男。男は上下紺色の整った服装と帽子をかぶっていた。胸元には煌びやかな勲章が付けられている。
彼は軍人である。
そして、廊下突き当たりにあった扉をノックして入室していく。
「失礼します!第7艦隊旗艦『マクルーア』艦長のヴィクトール・フィンク中将です‼︎ロラン外交長官殿!もう直ぐ『リトーピア』へ着きますので、ご準備を‼︎」
「あぁ…わかった。やっぱり雲一つない空を『飛ぶ』のは心地いいな。四六時中窓から外を見てたよ。」
「軍艦での飛行旅にその様なお言葉を頂けるとは…光栄です!」
「さて…今回の『5大列強国会談』はどうなるのかな?」
アッサリと敗けた炎龍…そして、ついに動き出す5大列強国




