第31話 近づく終焉
今回は2話分の投稿とさせて頂きます。
突然現れた『オルトロス』に自衛隊と奴隷たちは、その場で固まってしまい思考が停止する。一体どうやってここまで一瞬で来れたのか、誰も分からなかった。
(…へんな服装をした人族だな。あまり大した腹の足しになりそうに無いな…でも、新鮮だ!)
オルトロスがゆっくりと川尻二尉へ近づこうとしたその時、彼はオルトロスの背後にいた隊員達に目で合図を送る。
「(避けろ)」
それに気付いた隊員達は、直ぐにオルトロスの背後に立たないよう横へ避けていった。
(ん?)
その行動に気付いたオルトロスは一瞬目を背後へ向ける。彼はその瞬間を逃さず持っていた『20式小銃』をオルトロスへ向けてフルオートで引き金を引く。
ドタタタタタタタッ‼︎
(ッ⁉︎ッ⁉︎)
オルトロスはまた黒煙を纏いながら一瞬でその場に消え、近くの建物の屋根へと移動していた。
「オイオイ…あいつマジでテレポート出来んのか?」
屋根へ避難したオルトロスは、自身の身体に目を向ける。数発が命中し、そこから黒い血がポタポタと流れている。
(…あいつ今何をした?……魔法?いや、魔力を纏う感じは無かった。)
必死に自身に起きた出来事を考え様とするが直ぐさま下から自衛隊達の小銃がオルトロスへ向けて火を吹いた。
ドタタタタッ!
ドタタタタタタタ!
ターンターン!
再びオルトロスは別の建物の屋根へ逃げる。
(…痛いな、結構奥まで抉られたな。俺の体毛を貫く程の威力……矢でも槍でも剣でもない……なんだアレは?…まぁいい…だったら動きを封じてやる。)
するとオルトロスのもう一つの頭が口をガパッと開き、そこから黒煙が吹き出てきた。
「ッ⁉︎なんだありゃ⁉︎」
あっという間に黒煙は地面にいた自衛隊と奴隷たちを包み込んだ。
「じ、状況ガス‼︎」
「ガスマスクを付け……あれ?」
黒煙に包まれた自衛隊達は、自分たちの異変に気付いた。
「なんだコリャ⁉︎」
「身体が…重い!」
身体がまるで鉛のように動きにくくなっている事に気付いた。
(その煙は俺の魔力を練って作られたモノだ。毒ではないが、その煙に纏わり付かれれば、身体は鈍重な鎧を身につけているかのごとく重くなる。そして…相手の魔力を一時的に封じ込める事が出来るのだ。貴様らの『魔法の杖』は一切使えんぞ。)
オルトロスは屋根から降り、余裕の表情で自衛隊達へと近づく。
(さぁて…ゆっくり頂くとするか…。)
その時、隊員の1人が小銃を構えオルトロスへ向けて発砲する。
「こんにゃろ!!」
ドタタタタッ!
(うぐッ⁉︎)
オルトロスは近くの建物の裏へと瞬間移動をした。すると、あたりに立ち込めていた黒煙はフッと消えていった。
「おい!ジエイタイ達は動けて何で俺たちは動けなかったんだ⁉︎」
「ヒョットして…あの体に付いてる鉄の棒みたいなヤツのお陰じゃねぇか?」
ーー
『パワードスーツ』
初めは介護士用に作られたパワーアシストスーツが様々な分野に使われる様になり、遂には軍事関係にまで広がった。最初は国内からの軍事用に改良する事に対し不満の声が多かったが、今では使うことが当たり前になってしまったため、殆どの人は気に留めていない。
着脱は非常に簡単で、総重量は僅か2㎏。
助走なしで幅8m、高さ2mの壁を飛び越えることが可能。また、筋力を本体の1.5倍以上にまで上げることが可能で、100mを9秒台で走りきることもできる。
しかし、無理に使えば身体を壊してしまう事があるので、使用するには必要最低限の基礎体力テストに合格する必要がある。
ーー
(くッ⁉︎…アレは…魔法の類では無いのか……だが理解した…アレは『武器』なのだな。)
オルトロスの身体にはさっきよりも深い銃創が出来ていたが、そんな事に構わず大きく飛び上がり連なる建物を飛び越えて、自衛隊員達の頭上を通る。
「ッ⁉︎いたぞ!上だ!」
「スゲェジャンプ力だ!」
オルトロスはさっきよりも多量の黒煙を吐き出し、自衛隊を包み込む。今度は首から下が黒煙に纏わりついていた。流石の『パワードスーツ』でもまともに動かす事は出来なかった。
「ヤバいってオイ‼︎」
「おい!誰か援護してくれ‼︎」
今度は直ぐさま食い千切ってやろうとオルトロスは1人の隊員へと飛び掛かって行った。
「あっ!終わった‼︎」
隊員は目を瞑り自身がこれから起きる悲劇を待った。しかし、いつまで経ってもその悲劇は訪れなかった。
「あれ?」
隊員が目をそっと開けてみると、左の建物にオルトロスを押さえつけているブルゴスがいた。ブルゴスはオルトロスが黒煙を吐いた瞬間、近くの家屋へと飛び移り直ぐさま2階へと上がり避難していた。その後、好機を伺いオルトロスが飛びかかった瞬間、2階の窓から飛び出して横からの突進により隊員を救ったのだった。
(ウグッ⁉︎おのれェ亜人が!)
「クソっ何てパワーだ!」
ブルゴスの怪力を持ってしても直ぐにも振り払われてしまいそうな膂力だった。他の奴隷たちも直ぐに助けに行きたいが、煙が邪魔で身動きが取れなかった。しかし、自衛隊にとってはそれだけで十分だった。
「今のうちに無線で『八咫烏』に攻撃命令を出せ!空対地ミサイルをぶち込め‼︎」
これにより近くの『八咫烏』が空対地ミサイルを撃ち込む為、オルトロスへ向けてロックオンを開始した。
「ブルゴスさん‼︎離れて下さい‼︎」
ブルゴスは直ぐさまオルトロスから離れる。次の瞬間、放たれた空対地ミサイルがオルトロスへ向けて火を吹いた。
ドシュッ‼︎
(なッ⁉︎ーー)
ドグォォォォォン‼︎
『目標命中。』
オルトロスがいた場所からとてつも無い爆熱と爆風が吹き荒れる。そして、少しずつ煙が晴れていくと、そこには右後ろ脚が爆散したオルトロスがいた。
(何だ今の……とにかく今は…逃げる!)
再びオルトロスは黒煙を纏って消えた。しかし、さっきいた場所からほんの4〜5m程しか移動できていなかった。また、消えるも今度は2mも移動していない。
「どうなってんだ?」
オルトロスの息が荒くなっている、彼自身焦っていた。
(まさか…ま、マズイッ!)
オルトロスの瞬間移動は自身の魔力によって何時でも発動できる。しかし、移動できるのはせいぜい80m弱で、一度に大量の魔力を消耗する為、使うにはペース配分を考えなければならない。
オルトロスは久しぶりの戦闘によりそのペース配分を誤ってしまったのだ。無論口から吐き出される黒煙も魔力を使っているため、体力と魔力はかなり消耗していた。
オルトロスは少し進んだ後、力なくその場に倒れ込んでしまう。彼の体力はもう限界だった。
(あぁ……せっかく自由になったと思ったのに…あんな奴等と出くわしちまうとは……ツイてない……。)
オルトロスは意識がなくなると同時に身体が砂の様に崩れて始め、風と共に吹かれ消えていった。
「し、死んだか?…。」
「それにしても、恐ろしい生き物もいたもんじゃのう。」
「ブルゴスさん‼︎助かりました〜。ありがとうございます!」
「はぁ…はぁ…ふふ、もうあんなヤツと戦うのは御免だな。」
ーーテスタニア帝国 王城のとある一室。
全ての一部始終を望遠鏡を使って見ていた官職達の顔からは血の気が引いていた。
勝つと思っていた魔獣達が全滅、あの最上級の魔獣『オルトロス』までもニホン軍に殺られてしまった。
「何だったのだ…今のは?」
「皆目見当もつかない…」
「高度文明国家にアレと似た様な兵器なら…見たことがある…だが…ソレよりもはるかに凄まじい。」
「に、人間業じゃない…怪物だ‼︎」
あの神の如き力を持った軍隊に成す術などあるのか?『赤門』にいる『アレ』なら何とかなるのか?否!ならない⁉︎
次にあの力の犠牲となるのは…我々だ!
官職達達は悲鳴を上げながらその部屋を後にし、我先にと脱出用の馬車へと向かう。
部屋に1人残されたベルマード皇帝も冷や汗を滝の様に流しながら震えていた。
(ほ、本当にあの……魔獣達を…オルトロスを葬ったのか⁉︎)
ガクッと膝が崩れ頭を掻き毟る。
(そんな馬鹿なそんな馬鹿なそんな馬鹿なそんな馬鹿な‼︎あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない‼︎)
(敵は…未開な蛮族どもの筈だ!低文明国家どもの集まりだ!亜人族と手を組むような汚れた連中だ!…そんな国に我が帝国が…帝国が……どこで間違え…いや‼︎間違えてない!私は何も間違っていない!私は正しい事をしたまでだ!強者こそが弱者を支配する!…我々は支配する側、奴らは支配される側だ‼︎)
ここでフラフラしながらもゆっくりと立ち上がるベルマード皇帝、その眼は血走っていた。
(そうだ……まだ負けたんわけではない…何故なら私が生きているのだから……『赤門』だ…『赤門』を開こうぞ!例え『帝国が焦土となっても』また再建すれば良い‼︎私さえ生きていれば…この帝国はまた栄える。)
「ロスキーニョ侯はおるか⁉︎」
ガチャッ!
「おお、来たか…ッ⁉︎」
部屋の扉が開き数人の男達が入ってきた。そこに居たのはベルマード皇帝がよく知っている人物と全く知らない緑色のマダラ模様と黒いマスクを付けた男達がいた。
「『赤門』を開かせる訳にはいきません。貴方には此処で終わって頂きます。」
「お前……カーネギー公ッ⁉︎それに…ロスキーニョ侯まで、お主達何故⁉︎…そ、その者達は…まさか…ッ⁉︎」
「どうもお初にお目にかかります。我々は日本国自衛隊特殊作戦群の者です。貴方を拘束させて頂きます。『赤門』は既に我々が押さえてありますので、どうか大人しくして頂きたい。」
「に、ニホン国だとッ⁉︎おのれェ貴様ら…裏切りおったなぁ‼︎」




