第26話 奴隷達の反乱
今回の話のモデルはローマ帝国時代で起きた剣奴達の反乱事件を参考にしました。
ーーアルフヘイム神聖国 アルフィの森林園の外れ
『アルフィの森林園』とは太古の昔、アルフヘイム神聖国が出来る前に最初のエルフ族『アルフィ』が毎日の様に森の動物達と戯れていたとされる場所である。そして、アルフヘイム神聖国建国者にして初代聖王『ガラドゥエル』と結ばれた場所でもある。此処へ訪れたカップルは永遠に結ばれるとも呼ばれてる。(まぁ…そんな事はどうでも良い)
人質達(※以後『避難民』と記載)がアルフヘイム神聖国へ避難してから半日が過ぎた。
この『アルフィの森林園』の外れに広い平原が広がっている。そこには、自衛隊の簡易型の基地と医療施設、そして避難民達の難民テント(大型)がズラリと建てられ、避難民達はそこで暮らしていた。
最初は訳もわからない乗り物に乗って移動した先はエルフの国…混乱するのも当然であるが自衛隊員を始め、現地のエルフ族達の協力のもと何とか彼らを落ち着かせる事ができた。
自衛隊の医官やエルフ族の治療魔法に長けた『魔導師』達が避難民達が使用するテントに入り回診を行う。怪我が酷いものや極度に衰弱している人は幸運にも少なかった。
避難民達は自分達が助かった事を改めて感じ、やっと安堵の表情になる者や涙を流す者でいっぱいだった。
「貴方様には感謝に絶えません、ウェンドゥイル聖王陛下。」
「気にしないでくれ、これくらい『同盟国』として当然である。」
少し離れた場所で会話をしていた堀内外交官とウェンドゥイル聖王。今回、避難民達の為に国土を一時的に提供して頂いた事に堀内は感謝していた。
「一体何人いるのだ?」
「詳しく数えたら14万人程いました。殆どが女子供ばかりです。」
「…働き手となる者達のみ『奴隷』にしたのか。」
「…彼らの殆どが夫や息子の無事を確認してくる人が多かったですね。」
「心が痛むな…。取り敢えず、彼等の安全は我がエルフ族の誇りにかけて守ろう。後は、申し訳ないがお主達に任せたい…。」
「いえ、そんな事…十分過ぎる程です。」
「ふふ…(それにしても多いなぁ〜…。)」
ーーテスタニア帝国 緊急会議室
会議室内はこれまでに無い程全員が深刻な顔をしていた。その中には、ベルマード皇帝も見られる、彼は顔に手を覆いながら「夢なら覚めてくれ」と言わんばかりの表情をしていた。
「えー…ヨドーク公です。皆さん既に分かっている事とは存じますが、一応伝えます…奴隷達の人質がいなくなった…いや、連れて行かれた…の方が正しいのでしょうか?…とにかくそういう訳です。」
その言葉を聞いたベルマード皇帝はワナワナと震えだし、テーブルを思い切り叩き怒鳴り散らす。
バァァーンッ‼︎
「「ッ⁉︎」」
「『そういう訳です』だと⁉︎そんな事は分かりきっておる‼︎だからそれをどうにかするのが問題なのではないか!あんな人数をどうやって半日程度で移動させたというのだ⁉︎だが今はそんな事はどうでも良い‼︎サッサと何か良い案を出さぬか‼︎」
官職達は怯えた様子で大した案を考えだしていないまま1人ずつ案を述べていった。とにかく何か話さなければ殺されると思ったからである。
「と、取り敢えず国内の警備を5倍以上に増やしましょう!」
「いやダメだ!既に大半の兵はドム大陸とアルフヘイム神聖国侵攻軍として遠方のルカナ軍港へ向かっている。今更引き返すとなると最低でも6日はかかる!」
「こ、高度文明国家へ援軍を要請しよう。」
「連中は『使えるか』『使えないか』で付き合い方を決めるような奴等だ。まず期待は出来ないし、我が国が危機的状況にある事を植民国へ教えるようなものだ!」
「ハルディーク皇国も来ている。無様な真似をしたら、間違いなく『見限られる』。」
「…やはり兵を戻すしか無いのか…。」
「奴隷どもがどこで聞き耳を立てているのかも分からん。6日も待ってたら…。」
「今動かせる兵達では足りないのか?」
「帝都だけでも20万近くの奴隷達がいる。今動かせる帝都警備兵は2万と少しだ。」
「何故そんなに割りに合わないのだ!」
「『人質』の事を話せば大半が大人しく言うことを聞くからだ!」
するとベルマード皇帝はある事を閃く。
「そうだ…そうだよな…『人質』の事がバレなければ良いのだ‼︎」
「しかし、皇帝陛下!完全にバレないようにするには限界がー」
「要は侵攻軍が引き返すまで持てば良い!それまで奴隷どもには、首枷に鎖紐をつけて屋内の檻に入れておくのだ!」
「ハルディーク皇国の方々へはどう説明するおつもりですか?彼等は必ず国内の不審な動きを察知する筈です。」
「『東から『炎龍』が近づいてくると言う情報が入ったので、大事をとって一度帰国なされてはいかがですか?』…この様に話せば良い。流石に奴等も『炎龍』が来るとなれば身の危険を感じ、帰国するだろう。」
「おぉ…」
「な、なるほどぉ…」
官職達からは少し安堵の表情が見えていた。が、ベルマード皇帝の顔は再び怒りに満ちていた。人質を逃した存在に対する激しい怒りだった。
「(おのれェ…この私をコケにしおって、どこの誰だかは知らぬが絶対に許さん‼︎捕らえて生きたまま『剥製』にしてやろうか‼︎)」
その会議の様子をカーネギー公は黙って見ていた。
「(……上手くいったようだな。)」
ーーその後
ベルマード皇帝は皇室にいた。先ほどの考えた案に余程の自信があるのかその表情は比較的穏やかだった。
彼は自室の椅子に座りながらワインを注いだグラスを片手に持って外を見ていた。側には既にカラになったボトルが何本もある。
「外はまるで嵐の前の静けさだな…。奴隷どもは…1人も逃すつもりはない、全てこの帝国の…私の『所有物』なのだ。」
その時、1人の上級官がノックもせずに入ってきた。
バタァーンッ‼︎
「ッ⁉︎な、何事だ⁉︎」
「ノックもせず申し訳ありません‼︎は、ハルディーク皇国の使者の方々が突然帰国するとッ‼︎」
「何ッ⁉︎」
ーーテスタニア帝国 翼龍基地
夜中だというのに翼龍基地の離着陸場はハルディーク皇国の使者たちが突然帰国するとの報告に慌ただしくなっていた。
実際彼らが乗ってきた『龍車』が控えており、何時でも飛べる準備をしていた。
すると向こうからシリウス外務副局長を始めとする使者たちが現れて、次々と龍車へ乗り込む準備をしていた。
そこへ慌てて駆け付けるヨドーク公他数名の官職達がいた。
「お、お、お待ち下されシリウス殿!一体何があって突然帰国などとッ⁉︎(まぁ近いうちに帰って貰うのだが)」
「何やら帝都内で不審な動きがあったとのことでな。大事をとって帰国する事にしたのだよ。」
「へ?不審な動きなど…その様な事は別にー」
「『別に何も無い』…というわけですか?」
「え、えぇそうです!帝都内はいつも通り平穏そのものでござーー」
突然2人の会話に1人の兵が割って入ってきた。
「き、緊急事態ですヨドーク公‼︎帝都内の各地で奴隷どもが反乱を起こし始めています‼︎」
「何ッ⁉︎」
「ハァー…ヨドーク殿、何が『平穏そのもの』なのだ?何故余所者の我等が気付いて、お主達が気付かないのだ?」
「え…いやぁ…あの…ち、違うのですよ‼︎実はーー」
「『実は』だと⁉︎お主達は我等に対し、自分達にとって都合が悪い事を隠し、我等を騙すそうという訳ですかな⁉︎」
「そ、そう言う訳ではッ⁉︎」
「…フン、お主達とは最早これまでだな…今回の事は『全て』我が国の陛下へ伝えますぞ‼︎」
こうしてハルディーク皇国の使者達は龍車に乗って飛び去ってしまった。
ざわつく官職と兵士達。彼らの顔には不安の表情が出ていた。
そんな彼らのざわつきなど耳に入っていない様子のヨドーク公は、鼻で大きく深呼吸をした後に後ろを振り返る。
「…まぁそんなるわなぁ、これで宜しいのですかな?カーネギー公。」
彼の後ろからカーネギー公がやって来たのである。兵士達は突然現れた皇帝陛下の古参側近の1人が来たことに驚くが直ぐに敬礼をして出迎える。
「申し訳ありません、ヨドーク公。嫌な思いをさせてしまって。ですがやはりこれは外務長官の貴方が出るべきだと思いましてな。」
「いえいえ、私は大丈夫です。ですが…やはり決めたのですね。」
「帝国は……一度『0(ゼロ)』になる必要があります。かなりの犠牲者が出ることは確実です…しかし、それは仕方がない事…皇帝陛下が素直に我等の意見を応じるわけがない。」
「我等は出来る限り協力しますよ、カーネギー公。」
ーーテスタニア帝国 帝都ロドム
帝都内は大混乱となっていた。
突然暴動を始めた奴隷達は、剣奴達を筆頭に捕まっている奴隷達を解放しながら、コロシアムの武器を渡し、各地の重労働施設や工場の破壊を続けていた。
「ど、奴隷達の暴動だーー‼︎反乱だー‼︎」
「逃げろーー‼︎」
「うわぁ‼︎、よせ!よせ!やめろ奴隷がーー‼︎…」
「兵士達は何をしてるんだ⁉︎」
帝都内では剣奴達がテスタニア兵達を次々と倒し前進して来る。
「武器を取れーー‼︎『自由』の為にーー‼︎」
奴隷達はカーネギー公やスズキとある約束をしていた。
(必要最低限の犠牲で済むようにしてほしい。)
だから彼等は逃げ惑う人々には目もくれず、自信を痛めつけたり家族友人を殺した飼い主に復讐する以外は建物家屋を壊す程度で済まし、あとはテスタニア兵達を物量の差でねじ伏せていった。
ーーテスタニア帝国 兵器・錬金術工場
「お、お前たち!こんな事をしていいと思っているのか⁉︎人質達がどうなってもーー」
工場関係者やバルム公を追い詰めていたドワーフ達がその言葉に対し笑いながら答える。
「ガッハハハハ‼︎…人質達が『居れば』の話だろ?」
「ッ⁉︎(ば、馬鹿な⁉︎何故その様な事を‼︎)」
「家族が捕まってなきゃよ…オメェらなんか怖くも何ともねぇんだよ‼︎」
「う、ウワァァァァーー‼︎…」
一斉に飛び掛かるドワーフ達、その時工場から聞こえた声はバルム公達の断末魔の様な叫び声だった。
ーーテスタニア帝国 コロシアム
コロシアム内はもぬけのから状態だった。カーネギー公が使っていた洞窟から帝都内の各地へと出て行った為、剣奴達は1人も居なかった。
誰も居なくなった剣奴控え室で葉巻を吸うスズキがいた。身体中生々しい傷跡があったが別に問題は無さそうだった。
そんな彼の元へ数人の男達がやってくる。
そう、彼等は『別班』である。スズキはアムディス王国で隊を率いていたあの『鈴木(仮)』だった。
「お疲れ様でした鈴木隊長。」
「おう。」
「痛々しい傷だらけですね。ここの対戦相手達は強かったですか?」
「見れば分かるだろ?強かったよ、5連勝だ。」
「ヒュ〜…隊長さっすがぁ。」
「うるせぇな。それより、帝都の方はどうなってる?」
「反乱は今の所順調です。カーネギーさんが自身の仲間と一緒に作った洞窟が至る所にありましたから、ほぼ全ての重労働施設や工場に奇襲をかけて制圧と奴隷達の解放に成功しました。」
「犠牲者は?」
「この状況ですからハッキリとは分かりませんが、幸い奴隷達の死体は見てません。腕の立つ剣奴達が前線に立っているお陰でしょう。ですが…彼らに酷い仕打ちをした飼い主と思われる人達の死体は結構見て取れました。」
「まぁそうなるか…。後は…自衛隊の坊主達の仕事だな、もう連中は向かってるんだろ?」
「はい。アルフヘイム神聖国で待機していた第17師団が向かってます。」
次は自衛隊が活躍しますよ。