第25話 リノーロ大監獄 その2
リノーロ大監獄はこれで終わりになります。
ーーリノーロ大監獄 地下2階 収容所入り口付近
ブシュッ! ブシュッ!ブシュッ!
入り口付近で待機していた隊員達がサプレッサー付きのM4カービンを『目標』に向かって撃ち続けていた。
『…目標5名ダウン。』
『………こっちは3名ダウン。』
『………危険分子確認出来ず、再度警戒に当たれ。』
出入り口付近は侵入者を始末しようと何処からともなく現れた『無』達で死屍累々となっていた。
しかし、隊員達はその光景がまるで当たり前かの様に弾倉補充を行い、再び敵が現れるまでこの出入り口を死守していた。
「40人くらいはいるんじゃあないか?」
「いや…50人だろ?」
「上の方は20人も居たらしいぜ。」
「まじか、おぉ〜くわばらくわばら。」
ーーリノーロ大監獄 地下2階 収容所
ガチャン ガチャン ガチャン
鍵を使って檻を次々と外していく。鍵が皆同じ形だったのが幸いし、思ったよりも早く解放できた。
親族や家族など関係なしに檻に詰め込んだのだろう。檻から出るとさっそく子供や家族、友人、恋人の名前を呼んで互いの無事を確認しようとしていた。
「多いな…。」
「あぁ…思ったよりも多いな。こんな馬鹿広い空間を埋め尽くしちまうほどの人数…20万くらいはいるか?」
「どうしましょう…。」
「はぁ〜……やるしかねぇべ。長谷部、上の奴らに連絡とれ。」
「了解。」
ーーリノーロ大監獄 頂上 大見張り台
辺りは先程より吹雪はマシになっていたが、相変わらずの寒さだった。屋上の大見張り台は非常に広く、城壁付近には『バリスタ』や『投石機』があった。
『……クリア。』
『こちらもクリア。』
『…こっちもクリアだ。』
辺りに敵がいない事を確認すると、隊長と隊員達は辺りを見て回り、測りのような物を出して大見張り台の広さを測っていた。
「カーネギー殿の話では、ここは運搬用の翼龍や母龍が余裕で離着陸出来るように造られていると聞いたが…。ふむ…。」
「……隊長、縦横共に73m程あります。」
「…良いぞ。さっそく『運び屋』に連絡しろ。」
「了解。」
「隊長、救出班からで人質は全員無事解放したそうですが、衰弱しかけている者もいるそうです。」
「わかった、コッチは何時でも良いと伝えろ。」
ーー救出班
「押さないでください!女子供を優先的に!病人怪我人には手を貸してあげて下さい!」
隊員の指導のもと、人質達が列を成して登って進んでいく。互いに助け合いながら進んでいるが、それでもまだまだ多い。
「侵入した時に居た見張り兵も『除去』したとの事です。取り敢えず危険分子は全て『除去』しました。」
「それにしてもエライ数の人質だなぁオイ。本当に『奴隷大国』ってェのが分かるよ。」
「その分、奴隷達への依存性が高いと思います。奴隷が居なくなれば国として機能しなくなるほどに…。」
ーー救出班
『……了解しました。』
「隊長、あと15分ほどで来るそうです。」
「分かった。」
「……人質達の移動手段が空路しか無いと言っても、テスタニア帝国の翼龍騎士団の監視網を抜ける事が本当に出来るんですかね…。」
「…その為に、『特戦群』が動いてるんだろ?」
「それはそうですが…一体どうやるつもりなんでしょうか?」
「翼龍を『使えなくする』んだよ。」
「…それって『殺す』って事ですか?」
部下の質問に隊長はクスクスと笑った後に答える。
「…連中は俺たちと違って『優しい』からな、そんなこたぁしねぇさ。」
ーーテスタニア帝国 龍舎
「たくよぉ〜…子爵の息子である俺が何で翼龍の世話をしなきゃなんねぇんだよ。」
1人の兵士がぶつくさと文句を垂れながら、龍舎へ続く道を歩く。手には翼龍の糞を片付ける為の道具があった。
そして、龍舎の前に着く、相変わらず彼はぶつくさと文句を垂れていた。
「ほらほら翼龍ちゃ〜〜ん、お前ぇらの汚ぇクソをわざわざ片付けに来たんだ、有り難く思えよ〜。…ん?」
彼はある違和感に気付いた。翼龍達が1匹も吠えるなかったことに。何時もだったら何匹かは返事を返すように鳴き声を上げたり、変に警戒して唸り声を上げるのだが、それらが一切聞こえなかった。
「あれぇ?何でだ?」
彼は不審に思い翼龍達が寝床へ近づく。するとー
「オイオイ!誰がやったんだよ‼︎翼龍が全員…『腹いっぱいで眠っちまってるじゃあねぇか⁉︎』。」
彼が見た光景は食いかけで大量に残された餌にスヤスヤと眠る翼龍達。1匹2匹ではない、領空警備用の翼龍全3000匹全てだった。
翼龍はお腹が満たされても、空きすぎても飛ぶ事は出来ない。何時でも飛べる為には、常に腹八分目か五分目位を保つ必要があるのだ。
エサの時間はとっくに終わっているのに、何故餌箱に食いかけの大量の餌が入っているのか、彼にはサッパリ分からなかった。
「これはまさか…新兵のよくやるミスの一つか?」
彼は恐らくそうに違いないと思い、上官へ報告をしに行った。すると、近くの藁山からゴソゴソと数人の男達が現れた。『特戦群』である。
「ふぅ〜…ギリギリ間に合ったな。」
「カーネギー殿の言う通りだったな。この国の翼龍達は、与えた餌は全て食べてしまう。」
「……あんまり思い出したくないですが、使えなくなった『奴隷』達を簡単に処分する為に此処へ運び込まれて…。」
「…それが兵士達の間での暗黙の了解らしいからな、エサの時間に関係無く与えるらしい…。」
「にしてもここの翼龍はあんまり行儀が良くないですね。まぁ寝顔は結構可愛いですけど…余所者の与えたエサもバクバク食べちゃいますから。」
「ロイメル王国の翼龍達は主人や担当のエサやりの人が与えたモノしか食べなかったからな。」
「ここが普通なのか…ロイメル王国が厳格に育て過ぎたのか…それは分からねぇがな。」
「………此方の作戦が成功した事は『彼等』にも伝えました。」
「良し、では我々は来るべき時が来るまで……待機。」
ーーテスタニア帝国 リノーロ大監獄
大監獄内は人質達の大行列でいっぱいだった。隊員達は混乱しないようしっかりと誘導し、怪我人や病人を運ぶ手伝いをしていたが、数が多すぎていたが、それでも何とか頂上まで辿り着く事ができた。
頂上の大見張り台では脱出班が待機していたが、彼等以外にまた別の何かがあった。それはとても大きく、一瞬小山か何かと間違えるほどだった。
「な、何なんだコレは⁉︎」
驚愕と怯えが見える人質達。無理はない、この『輸送機』は日本国内でも滅多に飛ぶ事はない。
ーー大型輸送機『山鯨』
2022年に陸海上自衛隊で正式採用された空中輸送機である。長さ48m、高さ22m、最大75000Kgまで搭載可能で、容量は500人程。最大速度950㎞、最大持続飛行距離12000㎞、エンジンはウランベースのタービン、ブイトール機である。
ーー
「先ずは病人、怪我人、子どもを優先的に乗せてください‼︎慌てないで下さい‼︎まだまだ来ますので!」
隊員達が人質達を誘導し、搭乗させていく。『山鯨』の中には複数の『WALKAR』が待機しており、搭乗した人々の誘導を行う。
「隊長、あと5分で次の『山鯨』」が来ます。」
「分かった。」
隊長も他の隊員達と同じ様に誘導を行う。するとその時、1人の男の子が彼の元へやって来た。身体中が傷だらけの男の子だった。
「ん?どうしたのかな?」
隊長はしゃがんで男の子に目線に合わせる。すると男の子は涙が溜まった目で話しかけてきた。
「あ………あり…。」
「…。」
隊長はこの時、男の子が伝えたい事が何なのか気付いた。
「…あり……ありがとーー」
すると隊長は優しく男の子の口を押さえる。その後、隊長は首を横に振り、自分のマスクを外し微笑みながら伝えた。
「…俺らみたいなモンにそんな事を言うもんじゃあない。」
隊長はそっと男の子の口から手を離すと再び誘導作業に戻り、男の子は涙をグシグシと拭いた後、家族と一緒に『山鯨』に乗った。
ーーリノーロ大監獄内
静かな場所で1人魔伝石に向かって連絡を取り続ける粕谷。実は粕谷は隊員の中で唯一常人よりも少し高い魔力がある為、固定型の魔伝石を使わなくても連絡ができたのである。(固定型は別の物で魔力を媒体するが、携帯型は直接本体の魔力を媒体とする。)
『ーーでは、異常は無いんだな?ーー』
『ーーはい、此方は何も異常はありません。平穏無事です。ーー』
『ーー分かった、明日の昼頃には交代の者たちを向かわせるからな、もう少し辛抱していくれ、以上だ。ーー』
『ーー了解です。ーー』
そして、連絡を終えて淡い光が消えた魔伝石を静かにポケットに入れる。
「『我々は』平穏無事ですので…。」
粕谷は上にいる他の隊員達と合流すべく登っていった。
半日以上掛けて、10機の『山鯨』を出動させて十何往復もした事で何とか全員をアルフヘイム神聖国へ一時的に避難させる事に成功する。
その後、交代に来たテスタニア兵がリノーロ大監獄内が兵士と『無』達の死体以外もぬけのからになっていた事にベルマード皇帝を始めとする全ての官職達が絶句するのだった。
次からはテスタニア帝国が大変な事になります。