第22話 剣奴達の密談
今回は剣奴達の話をメインにしています。
コメントでもありましたが、テスタニア帝国総兵力110万ってヤバいですよね。某独裁国家でも100万超える特殊部隊(笑)がいましたからいいかなと思ったのですが…やっぱり半端ないですね。
ーーテスタニア帝国 帝都ロドム
帝都の裏道を歩く2人の男達、彼らは少し古ぼけたフードを羽織っていた。彼らは出来るだけ人目に付かないよう慎重に薄暗い裏道を進む。
その道中では、過酷な労働を強いられている奴隷達、飼い主に馬乗りにされて殴られる奴隷、悪漢達に『暴行』されている捨てられたであろう女の奴隷…裏道では少し歩く度にこんな光景ばかりが目に入る。そして、帝都のど真ん中でも普通に奴隷達が虐げられている。
「……本当に奴隷だらけですねこの国。」
「まぁ…両国の情報通りだな。この国は他国よりも異常な程の『奴隷体制国家』だ。」
「ふぅん。……あの人は確か…今は『あそこ』にいるんだよな?」
「あぁ。」
「…にしても何で『あそこ』を選んだんだ?もっと他にいい場所があると思うんだけどなぁ。」
「…あの人曰く、『国の事情を深く知っている者は国の一番の嫌われ者で人気者が分かってる』…だそうだ。」
「ふぅーん…」
2人の男達はできるだけ目立たないように『ある場所』を目指して歩いていた。
ーーテスタニア帝国 コロシアム
『さぁさぁ南の門からは〜〜我らの稼ぎ頭‼︎〝猛突〟のブルゴーースゥ‼︎今回の試合、もし勝利することが出来れば彼は『自由』の身!このテスタニア帝国の奴隷ではなくなるのデーーース‼︎‼︎』
何時にも増して観客が更に湧く。流石のブルゴスも少し武者震いがする。しかし、依然問題なし。コンディションはバッチリだった。
「帝国が簡単に俺を自由にする訳が無い。きっと最後はとびっきりの相手がでてくる。魔法騎士か?はたまた隣のコロシアムから脱走した魔獣か?どっちでも良い…俺は勝つ!」
ブルゴスは北の門から現れるのはさぞかし腕の立つ強者だという事が分かっていた。
『そしてぇ〜…そんな彼の対戦相手は…オーーッと⁉︎コレはコレはどういう事だ⁉︎ブルゴス記念すべき10勝目を飾るべき相手は、なんと当コロシアムの戦績は0戦0勝の無名の新人だーーーー‼︎』
「何⁉︎」
ブルゴスは驚愕する。何故ここで新入りを入れたのかサッパリ分からなかった。
『それでは…御登場いただきましょう。〝猛突〟のブルゴスの生贄となる可哀想な剣奴は……この人…スーズーキーー‼︎‼︎』
北の門が開かれる。そこから出てくる男は…
上半身が裸、緑色のバンダナを頭に巻いていた。下は緑色でまだら模様のズボン。靴は…長靴?にしては少し形が違う…とにかくそんな印象を受ける靴だった。武器は…腰に備えられたナイフ1本⁉︎それだけか⁉︎
身長は…170いや、175㎝程か、あまり高い身長ではない。体格も…恵まれたとは言えない。だが、筋肉質なのはここから見ても分かる、かなりの密度だ、よく使い込まれ鍛えられている。……むぅ、なんと鋭い眼だ…数回の戦を経験したとしても早々出来る眼ではない。
「強いな…こいつ、何者だ。」
彼の問いに答える者は居ない、それはこれから分かることだからだ。
『えー…彼についての素性は一切が不明‼︎しかし、このコロシアムに入りたいとの希望があったため参加となりました!』
「何だあいつ?見たことねぇな。」
「見ろよ!ブルゴスと比べると大人と子供だぜ⁉︎」
「…なんか可哀想に思えてきたよ。」
「ブルゴスの記念すべき10勝目がこんな雑魚かよ⁉︎」
「せめて1分くらい持ってくれよー‼︎」
『それでは試合……開始ーーーー‼︎』
アナウンサーの声と同時に多数の角笛が鳴らされる。
ブルゴスは何の躊躇いも無く、相手に向かって突進していく。ブルゴスのお決まりパターンであるが、中々これを避けるのは難しい。
そしてスズキがとった行動は…しゃがんだ。
「ッ⁉︎」
ブルゴスはこんな行動をとる相手は今まで1人といなかった。それもただしゃがんだと言うよりはコッチに向かう様な形でしゃがんで来た。
コレによりブルゴスはしゃがんで彼の身体に足を引っ掛けてしまう。走る勢いそのままで派手に転んでしまい、壁に激突する。
ドォォ…ン
コロシアムの一部壁が激突した勢いで少し揺れている。ブルゴスは派手に転げぶつかってしまい、目を回しながらも何とか立ち上がる。
(目に見える世界が…歪んで見える⁉︎くそ…不覚だった!ヤツは何処に⁉︎)
すると歪む世界に誰が立っているのが分かった。
「ハッ…今、見えてる世界が大変な事になってるだろ?」
スズキはニヤけながら問いかける。
(ヤツだ‼︎目の前にいる‼︎)
ブルゴスは彼が目の前にいる事を確認するとすぐに腰に備えた鉈を取り出し、それをスズキに向けて…振り下ろす。
グブゥ…!
鈍い音が聞こえる。あたりには血がまき散られているのが分かった。視界が少しずつ回復する。しかし、突然ブルゴスの右手に激痛が走る。
「あっ‼︎…グぅ………がはッ‼︎」
ブルゴスは何が起きたのか。何故自分が痛みを感じているのか。回復しかかった眼で確かめる。
(振り下ろした鉈は…彼の頭上で止まっている。当たっていない、何故⁉︎。ハッ!な、ナイフが⁉︎)
自分の右手首がナイフの刃に深々とくいこまれていた。スズキはナイフの刃を上向きにして頭上に構えて文字通り俺の右腕が来るのを待っていた形になる。
ブルゴスは何とかスズキから距離をとる。
(予想外のダメージ…‼︎不味い‼︎)
するとスズキはすかさず自分に近づいて来た。
「ッ⁉︎」
ブルゴスは驚愕するもすぐに無事な左手にモーニングスターを持ちスズキに向かって振り下ろそうとする。
しかし、突然下半身に鋭くも鈍い…電撃を受けたような痛みが走った。
ブルゴスのモーニングスターが振り下ろされるよりも早くスズキは足のつま先を使ってブルゴスの股間を下から勢いよく蹴り上げていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎⁉︎」
ブルゴスは股間を抑えながら地面をのたうち回る。
観客達は何が起きたのか分からないといった様子だった。
歴戦の勇者であるブルゴスが手も足も出ずに転げまわっている。このスズキという男は何者だ?
「悪りぃなあんちゃん、止め刺させて貰うぜ。」
そう言うとスズキはブルゴスの顔面を踏み付けた。
ゴシャッ!ゴシャッ!ゴシャッ!
最初は片足だったが、次に両足を使って踏み付けてきた。思いっきり…。
ゴシャッ‼︎グシャっ!
ついにブルゴスはピクリとも動かなくなった。微かに意識は残っているが、とても戦える状態でもない。
『な、なーーーーーんと⁉︎突然現れた謎の新人スズキに当コロシアム最強の男ブルゴスがあっという間に叩きのめされたぞ‼︎何なんだコイツはーー⁉︎』
観客達は大歓声に沸く。謎の新人が現れ、結果はブルゴスの勝利と思っていたがまさかの大番狂わせ。観客達は彼を大いに讃え、スズキも彼らの声に応えるように拳を高く掲げる。それにより更に観客達は大歓声を上げる。
ーーコロシアム 剣奴控え室
「ん?おい!目を覚ましたぞ!」
「ブルゴス!」
「おい!親友!」
「ブルゴスさん!」
周りの声に目が覚めるブルゴス。身体の痛みは殆どない、右手首の深傷もほぼ治りかけている。おそらく治療用魔鉱石を使ったのだろう。
そして…ブルゴスは理解した。
「敗けたか…。」
がくりと肩を落とすブルゴス。そんな彼を慰める仲間たち、その中にはスズキもいた。
「よぉ…具合はどうだ?」
「最高…な訳ねぇだろ。」
「はは、だよなぁ。」
「……んで俺たち剣奴の夢を奪ったヤツが何の用だ?まさか…笑いに来たのか?」
スズキの周りには殺気立った剣奴達がいた。コロシアムで初の10連勝、そして『自由』を得る。これが剣奴達の夢だった、ブルゴスがその希望だった…だがそれも終わった。
この男のせいで‼︎
「……ハッキリ言おう。もしお前があの時、俺に勝っていたとしてもお前は『自由』になれない。」
「なに⁉︎」
「これ…わかるか?」
スズキは1枚の写真を見せる。
剣奴達は皆驚愕した様子で写真を見ていた。
写し絵とも違う!紙に人が閉じ込められている!何だこれは!こんなの見た事がない!
ブルゴスも写真に驚愕はしていたが、1番大事なその写真に写っているものに気付いた。
「…この男は…」
「ん?どうしたブルゴス。ここに写ってる男が誰か知ってんのか?」
「ウィルシール帝国の奴隷商人だ⁉︎」
「「えっ⁉︎」」
「だがスズキ、これがどうかしたのか?」
「…今回のコロシアムの試合でもし、お前が勝った場合テスタニア帝国から解放される。」
「ん?それは…分かっていーー」
「そして次はウィルシール帝国に買われ、この国の奴隷兵になる。」
「⁉︎」
「ど、どういう事だ‼︎スズキ!」
「テスタニア帝国の奴隷でなくなる代わりに他国の奴隷にさせるって事だ。飛びっきり強い奴隷兵として…高値でな。」
「……。」
「今まで10連勝一歩手前まで行ってたヤツらは他国のお偉さんが買いたいと思う奴じゃなかった。だから10連勝する前に飛びっきり強い奴と戦わせて殺させる。もしくは、戦えない状態にして、鉱山地帯へ労働奴隷として連れて行かれる、売れないからなぁ…。その代わり他国のお偉さんの目にとまって高値で売れた剣奴は最後の一戦は弱い奴と戦わせてワザと10連勝させて…1度自由にした後また他国の奴隷にさせる。」
「…つまりブルゴスさんは…」
「ウィルシール帝国のお偉さんに『買われた』って事だな。にしても、このコロシアムがそんなシステムになってたとは…。」
ブルゴスは落胆していた。
自分たちの今までの苦労は、犠牲は、無駄だったのか?
「だが、まさかブルゴスが新人に敗けるとは思わなかったんだろうな。お偉いさんはかなり慌ててるだろうぜ。売るはずだった奴隷が売れなくなっちまったんだからよ。でも、その代わりお偉いさんは『俺に夢中らしい』。」
「……お前は誰なんだ?」
「…実はお前さん達にある協力をして欲しくてこの国へ来た。」
「……何だ?その『ある協力』ってェのは?」
スズキは軽く鼻で深呼吸をした後、決心したように口を開いた。
「他の奴隷達と一緒にこの国で『反乱』を起こしてほしい。君達が先頭に立ってな。」
「「ッ⁉︎」」
この場にいる全員が驚愕した。この男は何を言っているのかと。だが、テハムは軽く笑った後答えた。
「反乱…へっ反乱ねぇ…そんな事俺たちが思いつかないとでも思ったか?」
「……。」
「そりゃあ俺たちだって反乱をしようって考えた事があったさ、何回もな。でも上手くいかなかった…いや、『出来なかった』の方が正しいか?」
テハムの言葉に周りの剣奴達も頷く。
「あぁ、全員がそうだというわけじゃあないが、『人質』がいるからなぁ。下手に動けば殺されちまう。」
「その人質っというのが…貴方達の『家族』や『友人』達ですか?」
剣奴達は互いに目を合わせて頷く。
「…しかし、大人しくしていれば『家族』が無事という保障は…」
「分かってるさ、でもヘタなリスクを背負って、なんもかんも台無しになるのだけは嫌なんだ。」
「…その人質は何処にいるのですか?」
「帝都ロドムの北の山脈『リノーロ』のふもとにある大監獄さ。1つの山を丸ごと監獄に変えた馬鹿デカイ所さ。そこの守りは固い、助けに行きたくても…。」
「あぁ、前に助けに行ったヤツらは呆気なく返り討ちにされて、その家族は目の前で殺されちまったんだ。」
スズキは少し考え込むと静かに口を開く。
「…その人質が助け出されれば私の計画に協力すると?」
「あぁそうさ。」
「わかりました、ではやりましょう。」
「……は、はぁ⁉︎お前は話聞いてたかよ⁉︎」
「実は…私がさっきの試合で勝たなければいけなかった理由は、『観客達の注目を私に集める必要があった』からです。このコロシアムは熱気に溢れているとは言え、稼ぎ頭以外はあまり人気では無いですからね。いいですか?今作戦の『主役はあくまで貴方達で、私は囮です。』」
「……た、確かにコロシアムの関係者達は『稼ぎ頭』だけ結構優遇してたし、それ以外のヤツらはオマケみたいな感じで殆ど気にも留めなかったよな。」
「貴方達は、『この作戦』を出来るだけ多くの他の奴隷に伝えて欲しいのです。その時が来た時にすぐ行動できるように…。」
「ま、待ってくれ!だったらある人に会わせたいんだ!」
「ある人?…」
「えっと…そろそろ来る頃だとー」
ドンッ ドンッ
剣奴控え室の壁から誰かが叩く音が聞こえた。
なんか無理やり感が否めないですね…。
文章力と想像力が足らない自分が残念でしかないです…。