第19話 初陣
『特戦群』が登場します。
テスタニア帝国軍との戦争は意外と静かな形ではじまるのでした。
ーー3月1日 中ノ鳥半島基地内 中ノ鳥港
ロイメル王国 外務局局員バリー・ロモンは、此度の戦争で自衛隊の艦隊が先陣を切ると報告を受けた為、第三者の監察官として中ノ鳥半島基地内中ノ鳥港へやって来た。
しかし、そこで見た光景は彼が予想していたものとは圧倒的に違う光景が広がっていた。
「ほ、ホムルス局長の話は本当だったのか…鉄の船が…浮いておる…ほ、帆も付いてないのに…動いて…おる。」
◇第2護衛隊
・DDH-144 くらま(3代目)
・DDG-178 あしがら
・DD-102 はるさめ(3代目)
・DD-154 あまぎり(改良型)
◇第6護衛隊
・DDG-174 きりしま
・DD-110 たかなみ
・DD-111 おおなみ
・DD-116 てるづき
バリーからしたら、『鉄で出来た軍船に複雑な形をした城が建てられている』様に見えていた。開いた口が塞がらない、一体どんな性能を有した軍船なのか、バリーは自分がロイメル王国で初めてのニホン国の軍事力をこの目で確認できる立場でいることに幸運を感じていた。
さらに自衛官の案内の下とある場所へと向かい到着した。
「こちらが今回の海戦で貴方様が搭乗される艦でございます。」
バリーは絶句した。
(こんな船を…人間は造り、操る事が出来るのか⁉︎こ、これではまるで…『要塞』ではないか⁉︎)
ーー
ヘリコプター搭載型護衛艦『いせ』
全長 197m
全幅 33m
最大速力 30ノット
最大搭乗員数 360名
兵装はCIWS 2基、12.7㎜単装機関銃7丁 HOS-303 2基 、MK41VLS 16セル、ESSM発展型シースパロー艦対空ミサイル 4セル、
艦載ヘリは、SH-60J/Kを3機、オスプレイ3機、MCH-101掃海輸送ヘリ5機。
ーー
海上自衛隊が誇る護衛艦の一つである(と言っても実際すべてが誇らしいのだが)。
さっそくバリーは甲板の上へと上がる。するとそこには、アムディス王国の外務局局員キルトがそこには居た。彼もバリーと同じく今回の海戦の連絡武官として派遣された。
「おや?貴方は…キルト殿ではございませんか?」
「そういう貴方は…バリー殿!いやぁ、お久しぶりでございます。」
2人は軽く握手をする。その時キルトはふと思う。
「(少し前までは毛嫌いしていた外国人と、この様に手を取り合う中にまで…)」
挨拶を終えた2人は艦内へ案内されるが、その中でも2人は驚愕の現実を目の当たりにするが、それはまた別の話。
ーー数日前 とある上空
青く透き通った空、所々に漂う雲、そんな上空1000mほどの位置で1匹の『母龍』が飛んで行く。
ーー
『母龍』
唯の翼龍の事を言うのだが、通常の翼龍よりも3倍近くの大きさを持っている。体長約25m、背面が広い。種類は翼龍なのだが、何故こんなに大きくなるのかは不明である。共通した特徴は全てが雌である事から『母龍』と呼ばれた。
ーー
主に兵や物資の輸送に使われる。その翼龍を操るは、ロイメル王国翼龍騎士団総長のラーツだった。
「どうですか⁉︎ホリウチ殿、大丈夫ですか⁉︎」
母龍の背中には翼龍騎士団の鎧甲冑を身に纏った堀内武久がいた。スーツの上に鎧甲冑…中々シュールである。
今回アルフヘイム神聖国へ此度の戦で同盟かつ友好的関係を築く為、堀内は母龍に乗って向かっていた。何故ヘリコプターでは無いのか、突然見たことの無い乗り物でやって来たら『敵』として認識される可能性が高い。
一応ロイメル王国を通じて魔伝で連絡はしていたが、テスタニア帝国がいつ攻めてきてもおかしくなく国内はピリピリしている。そのため、念には念をというわけで現在に至る。
「すっごいですねぇ…150㎞以上スピードが出てるのに全く風やGを感じない。この鎧凄いですね。」
「ハハッ‼︎大丈夫そうですね‼︎ん?…見えてきましたよ‼︎アレがエルフの国、『アルフヘイム神聖国』です‼︎」
「やっとですね…深夜0時に出発して今は夜の21時。」
「予定より1時間早く着きましたね。」
「これも全て、貴方の腕がいいからですよ。ありがとうございます、ラーツ殿。」
ーーアルフヘイム神聖国 聖都アルファーム
そこは美しく幻想的な場所だった。周りはシイの木を途轍もなく巨大にした様な木々が生い茂っている。長さは60m近くはあるだろう。しかし、樹海特有のどんよりとした雰囲気は一切感じない。暖かく、優しい日差しと木々のせせらぎが聖都を包みこんでいる。
所々に見える木製の建物。その全てが洗練されている様に見える。多くのエルフ族達がワイワイと生活している。そして、全員が美しい容姿をしていた、日本だったら全員がファッションモデルになれると思うほどだった。しかし、どちらかといえば町レベルでとても都市と呼べるほど発展した印象はなかった。
「なんか…そのぉ…都市って感じはしませんね。」
「いやいや、ホリウチ殿!上を見て下さい。」
ラーツに言われて上を見ると、そこにはクオリティの高いツリーハウスの様な建物が至る所に存在していた。中に大きなドーム型の建物もある。驚くほどに森と同化していた為気付かなかった。
木々の間に吊り橋や架け橋の様なものが多数存在する。そこをエルフ達が行き来している。
「はぁー……大体が木の上で生活をして居るのですね…。ん?」
堀内は自分達が向かおうとしている方向から列をなして歩いてくる集団が見えた。
「あれは…兵隊ですかね?」
「ハイ、アレはエルフ族の守備隊です。このアルフヘイム神聖国から西の孤島にテスタニア帝国軍が駐留しているのですよ。うまく風を捉えれば、半日も掛からずに到着できる距離です。それに、今はもう奴等がいつ攻めこんで来ても可笑しくない状況ですから…。」
美しく整った鎧甲冑、背中にマントをなびかせて、腰に細い曲剣と全員が弓矢を装備している。兜は鷹をモチーフにした様な形をしていた。
「……この国も、テスタニア帝国の侵略に怯えていたのでしたよね。『属国』になれば定期的に大量の国民を『奴隷』として差し出さなければいけない、逆らえば圧倒的軍事力で国は滅ぼされ、植民国…いや、『奴隷産出国家』にされる。どっちを選んでも地獄だ…。」
「ん?使者が来たようですよ、堀内殿!」
奥からアルフヘイム神聖国の使者が馬に乗り、数人の兵を連れてやって来た。
堀内達の近くまで来ると、使者は馬から降りて少し駆け足気味で近づく。
「どうも、遠路はるばるよくお越し下さいました!私はアルフヘイム神聖国外務員のシーギス・ヴェンベリと申します。」
「日本国外務官の堀内武久です。お出迎い頂き恐縮です。本日はよろしくお願いします。」
「それではさっそく『王樹』まで案内します。ささ!こちらの馬車へ!」
「(ラーツ殿、『王樹』とは何ですか?)」
「(こちらでいう『王城』の事ですよホリウチ殿。)」
こうして2人は『王樹』へと向かうのであった。聖都の大木とは比べものにならない程デカイ大樹かこの国の城てある『王樹』である。
ーーアルフヘイム神聖国 王樹 聖王の間
煌びやかではないが幻想的で美しい、とても樹の中にいるとは思えない広い空間だった。
その部屋の奥にある玉座に座る方がこのアルフヘイム神聖国の国王(正しくは『聖王』)
ウェンドゥイル・アルヴァーナ、1003歳。
その容姿は人間で言えば40半ば位であるが、ロングヘアーの金髪にブルーサファイア色の眼に整った顔をしている。玉座に座る姿勢も真っ直ぐで見てるこっちの腰が疲れるくらいだった。
「よく来てくれた、ニホン国の使者よ。我が名はウェンドゥイル・アルヴァーナ、この国の聖王である。」
「ニホン国外務官の堀内武久と申します。本日は貴重なお時間を割いてまで会談の場を設けていただき感謝に堪えません。」
この言葉を聞くとウェンドゥイル王は軽く笑った。
「フフッ…いや、失礼した。我らエルフ族は長寿種である。それ故時間は腐るほどあるのだ。(ほう…人族にしては随分と礼儀が正しいな。ロイメル王国以外の人族でここまで礼儀正しい人族は見たこと無い。)」
「さて、では本題に入ろうか。今回のテスタニア帝国との戦…お主達も参戦するというのは誠だな?」
「ハイ。日本国、ロイメル王国、アムディス王国の3カ国はテスタニア帝国のいかなる要求も拒否しました。今まさに戦が始まろうとしています。」
「うむ、それは私も勘付いておる。近頃、西の孤島にいるテスタニア軍の動きが慌ただしくなってきたからな。」
「そうでしたか…それとー」
「娘の事だな…?」
「ハイ。」
「……ニホン国の噂は耳にしておる。高い技術力を持っているとな。私は娘をテスタニア帝国の魔の手に捕まらないよう国外へ逃した。しかし、まさかニホン国へ向かったとは…。」
「…。」
「お主達には大変な迷惑を掛けてしまった。誠に申し訳ない…。だが、今回の会談は神の救い。正直言って助かった。お主達が現れなければ遅かれ早かれテスタニア帝国の『奴隷産出国家』になっていただろう…。本当に…ありがたい。娘を助けてくれた事も…本当に感謝に堪えん。」
ウェンドゥイル王は涙を流しながら堀内に礼を言った。周りの近衛兵達は動揺していた、聖王が他国の者に涙を流して頭を下げる事は今までなかったからである。
「…決心した!我が国も貴国達と共にテスタニア帝国と戦おうぞ。同盟成立かな?」
堀内はもう少し気難しいことを覚悟していたが、スムーズに事が進んだことに安堵していた。
「あ、ありがとうございます‼︎‼︎」
「では早速貴国の援軍の受け入れの準備を行いたいのだが、いつ頃こちらへ到着出来るのだ?出来れば、テスタニア帝国軍の事もある為早々に来てくれたら助かるのだが…。」
「6時間弱で到着します。」
「そうか、6時間も掛かるのか…それまで何とか持ち堪え…………は?」
「あ、その派遣する時の乗り物なのですが…少し異形な物である為、どんな物が来ても決して敵対行動はとらないようお願いします。」
「ちょっ!ちょっ!チョット待ってくれ!」
ウェンドゥイル王は両の手を前に出して驚いた表情で堀内の話を止める。
「え?あのぉ…何か…?」
「ろ、6時間⁉︎たったの6時間で着くのか⁉︎我が国からニホン国までは3000㎞以上あるのだぞ⁉︎」
「え、えぇ6時間で着きます。しかし、それは最近得た中ノ鳥半島基地からの距離であるため、本国からであれば4時間弱で着きます。」
「〜〜〜〜ッ⁉︎」
ウェンドゥイル王は驚愕のあまり言葉が出ない。
「(そんな短時間で移動するなど、どんなに優秀な翼龍を持ってしても不可能だ!…ニホン国は私が思っていた以上の力を持っているようだな…。)」
「スミマセン…何か、不味い事でも…?」
「え?ああ!いや、問題ない。早く着くのであればそれに越した事はない、待っておるぞ。」
「ハッ!ではすぐに連絡をして参ります。」
堀内とラーツ達は広間を後にする。
2人が広間から出た後、ウェンドゥイル王は静かに目を閉じて祈った。
「スアールの神よ、貴方様の祝福に感謝します。我がアルフヘイム神聖国は…神に愛された国である事を今改めて思いました。」
ーー時は戻り アルフヘイム神聖国 西側 孤島
テスタニア帝国軍 アルフヘイム侵攻軍本陣
ーpm10:00
広い孤島の沿岸部、沖合には2500隻のテスタニア帝国水軍の軍船が停泊していた。
軍船はローマの『三段櫂式のガレー船』とキャラック船を足したような軍船だった。
三段の櫂と横帆によって航行し、櫂は大量の水夫を使って漕がれる。
武装は敵船に衝突して穴を開ける為の『衝角』、敵船に乗り込むための折りたたみ式『可動橋』、矢を防ぐための両舷に『矢盾』、大矢を打ち出すための『カロバリスタ』などを備えていた。
全長40m、全幅7m、速力2.5〜7ノット。
孤島には多数のテントが張られ、そこには将兵たちが寝泊まりをし、一般兵達は軍船で寝泊まりをしていた。
孤島に張られたテントの中でも一番大きいテントの中では、将兵たちによる作戦会議が行われていた。アルフヘイム侵攻軍最高指揮官のコルネール・リンハルト将軍はアルフヘイム神聖国の地図を眺めていた。
「何ともまぁ…チッポケな国だな。一月も掛からずに終わってしまうわい。」
「まぁ、所詮は亜人族国家ですから仕方ありませんよ。」
「ふんっ!こんな蛮族国家ばかり相手にしていてはつまらん!ワシもニホン国侵攻軍に参加したかったなぁ…。」
「そう仰らずに…その代わりこの国のエルフ族達を『好きなように』出来るのですからいいじゃあないですか。」
「まぁ…それもそうだな。」
「それよりも!如何して攻め込みますか?先日にようやく本国から侵攻許可がおりたのです!どうせやるならド派手に行きますか⁉︎」
「待て待て、それよりも占領した後の略奪品をどうするかを考えましょう!」
「エルフ族が住まう木々は非常に質が良く高値で売れる。先ずはエルフ族の村々を見つけ、住民達を追い出し木を切り落とすか。」
「いやいや、そんな物よりもエルフ族の雌は皆んな上玉揃いじゃないか?私はちょうど新しい女奴隷が欲しかったところなのだ、タダで手に入るのなら10…いや20人は欲しいな!」
「エルフ族の財宝も気になるな…」
将兵たちは勝ち戦を確信し、どう戦うかよりも略奪品をどうするかで話し合っていた。テントの見張りをしていた兵士は呆れた様子で聞いていた。
そんな中、沿岸部に薄っすらと動く影が8人現れた。それらはゆっくりと浜辺へと上がり、辺りを警戒しながら、進んでいく。
彼らは『特戦群』ー
日本が誇る自衛隊最強と言っても過言では無い部隊である。その実態はつい数年前まではある程度公に出ていた存在だったが、2020年には、自衛隊の観覧式にも姿を現さなくなり、タダでさえ謎だらけの部隊が益々謎に包まれてしまった。
彼らは、『オクトカム機能』が付いた黒い特殊フェイスマスクと全局面対応型戦闘服、そして『エクソスーツ』を身に纏い任務にあたる。
ーー
『オクトカム』
主に特殊部隊にのみ配布される。ステルススーツ程ではないが、高い擬態機能を有しており、約2秒程で周囲の背景と同化する、カメレオンのカモフラージュに近いがこちらの方が遥かに性能が良い。ナノマイクロ技術を応用した技術である。
『エクソスーツ』
パワードスーツの次世代型。主に自衛隊や機動隊などに使われる強化外骨格型のスーツである。
某野球漫画の「養成ギプス」を近未来的に進化させたようなモノで、これを脳や脊髄神経に「融合」させる。それにより筋力は勿論、身体能力を飛躍的に増強させ、同じ部隊同士のコンタクトとの情報共有が可能。
極寒地帯や海中、亜熱帯地域など様々な環境で適応する事が可能で電池や燃料の類は一切必要無く、あえて言うなら「本人」の体力がバッテリーである。
専用の装置があれば着脱可能。
ーー
そんな彼らの任務は
ー敵勢力の戦力を大幅に減退させるもしくは侵攻不能にさせる為の破壊工作ー
である。
彼等の隊長である土井嘉門(どい かもん)は、周囲を見渡し状況を分析する。
「(孤島にいるのは恐らく将兵とその近衛兵のみ、あの大きなテントから話し声が聞こえる、15…いや、20人はいる。そして中に大将首がいる。孤島の見張りは…12人、場所はー)」
土井は知り得た情報を他の隊員たちへ『エクソスーツ』を通じて送信する。すると、各々が己の役目を果たすため、行動を開始する。
そして、そんな彼らの行動を少し離れた浅瀬で見守る5人の男達。その内2人は同じ特戦群だが残りの3人は違かった。
孤島のとある浜辺で数人の兵が焚き木に囲みながら話をしていた。
「にしても、やっと戦えるな!」
「ああ!待ちくたびれたぜ!あ〜早くエルフの雌を犯したいぜ‼︎」
「おいおい、先ずは指揮官達が先に『味見』してからだぞ。勝手にヤったら不味いって。」
「構えやしねぇよ!どうせ今まで皆んな同じ事やってきたんだから!」
「それより、この樽の酒早く飲んじまおうぜ!」
「ああ!祝勝の前祝いだな!」
すると遠くで離れていた見張りの兵達も何人かが集まり、みんなで酒盛りを始めた。
その様子を物陰から見ていた『特戦群』達。
「(勝手に酒盛り始めたな、孤島の見張り兵の半分近くがそっちに行ったか…まぁ好都合だな。)」
軍船の上で見張りをしていた兵が少し離れた所で孤島の見張り兵達が酒盛りをしている様子がわかる。
「はぁ〜…いいなぁ〜おれもそっちが良かったなぁ〜…。」
チャポンッ!…
「んあ?」
船の真下で何かが海に落ちる音が聞こえた。
兵士は音のした方へと向かうも、そこには何もいなかった。
「あれ?」
船の手すりに捕まり、身を乗り出すように船の下を覗き込む、すると突然何者かに頭を掴まれ、そのまま引きづり込まれてしまう。
「〜〜ッ⁉︎」
海には落ちなかったが、何者かに身体と口を押さえられてた、身動きが取れない。一体誰なのか?彼はそれを知る術もなく、首筋に何が刺さり、止めどなく溢れる生暖かい感触を感じると同時にそのまま目覚める事のない眠りについた…。
この様な事はこの船だけでは無かった、方法は違えど、他の船でも甲板で見張りをしていた兵達が1人…また1人と消えていく。
中には、甲板の見張り兵が減っている事に気付いた兵もいたが、孤島でドンチャン騒ぎが聞こえる事から「はぁ〜…向こうの祝勝に混ざってるんだろう。」と思われ、特に気にも止める者は居なかった。
「(…あんまり気付かないものですね。)」
「(いや、仲間が消えた事には気付いてはいる。が、向こうのバカ騒ぎに混ざっていると思ってるんだろう。如何に規律が腐っているのかが分かるな…。)」
「(…ん?どうやら、あらかた片付けた様ですね。)」
「(……そうだ、お前よぉ『三国志』って知ってるか?)」
「(はい?え、えぇ知ってますけど…。)」
「(俺はその中でも『赤壁』の戦いが大好きでな、ガキの頃はよく小説なり漫画なりを読んだよ。昔は映画にもなったしな…。特に諸葛孔明の策略がもう堪らなかった、孔明と同じ事をやって見たいと何度も思った。)」
「(…それを実現しようと?)」
「(丁度協力者もいるし、この方法のほうが効率が良い。)」
隊長がこの様に話すと、エクソスーツを通じて全隊員へ送信した。
ーー十数分後
大テントから出てきたコルネール将軍は、少し高めの丘に乗り孤島の浜辺と沖合に停船している水平線を埋め尽くす大量の軍船団をその目で眺め、ニヤリと笑う。
「ふふ、何度見ても爽快な景色だ。こんな大船団を見たら、エルフ族どもは戦わずに降伏するかも知れんな…。」
そう思い、自室のテントへ戻り眠りにつこうとした瞬間。
ドグォォォォォォォォォォォォォン‼︎‼︎
大地を揺るがすかの様な衝撃と音が周囲を一瞬にして埋め尽くし、辺りは突然日が昇ったかの様に明るくなった。
「な、なんだ⁉︎」
コルネール将軍を始め、孤島にいた将兵や見張りの兵が音のした方向へ目を向けるとそこには先程の爆発が起きたであろう軍船が巨大な火柱を上げながら燃えていた。それも一隻ではない、浜辺に停船していた殆どの軍船から巨大な火柱が出ていた。
「なッ⁉︎」
コルネール将軍達は驚愕のあまりその場に立ち尽くしていたが、将兵の一人がすぐ見張りの兵に消火の指示を出した。すると、別の見張り兵がコルネール将軍の元へやって来た。
「報告します!船に積み込まれた油樽に引火した事が原因と考えられます!」
「なに⁉︎何故だ!あそこには火をつける松明も無かった筈だが⁉︎」
「見張り兵が酒樽を探しているうちにその油樽のある部屋に入り、その時持っていた松明の火の粉が移ったと思われます!」
「そんな馬鹿な…何て事を…ッ!は、早く火を消さぬか‼︎」
「やっていますが、火の勢いが強すぎてどうにも!」
「ど、どうにかしろよ‼︎役立たずが!」
すると突然東から風が吹いてきた。それは徐々に強くなってくる。すると1人の将兵が何かに気付き顔を真っ青にさせる。
「この風…ま、まずいッ‼︎沖合に停船している軍船へ魔伝で伝えろ‼︎直ぐに船を動し、孤島から離れろ‼︎」
「ハッ!分かりました!」
そう言うとその見張り兵はその場を離れた。
命令を受けた見張り兵は生い茂った草むらの中に入ると身に着けていた甲冑を脱ぎ始めた。そこには、将兵が思っていた見張り兵ではなく特戦群の隊員が姿を現した。
「フゥ〜…一丁アガリ。」
兵士たちの必死な消火活動も虚しく、炎は益々広がるばかり、更に強い東風が吹いてきた事で炎が、西側へズラリと列をなして停船していたテスタニア帝国の軍船に次々と燃え移り、炎は浜辺の船を全て飲み込んだ後沖合にいた軍船団も巻き込んでいた。
迫ってくる炎から逃れようと兵士や水夫が次々と海へ飛び込んで行ったが、重い甲冑を着けた兵士たちは必死にもがくも海に浮かぶ事なくそのまま沈んでしまう。
「何故だ…何故このようなことが…ッ!」
コルネール将軍はガクッと膝をついて絶望していた。
1人の将兵は近くにいた兵士に詰め寄る。
「おい‼︎私は沖合にいる軍船に孤島から離れる様に指示を出した筈だぞ‼︎何故皆離れない‼︎ちゃんと魔伝で連絡したのか⁉︎」
「え⁉︎自分はその様な命令は聞いてませんし、魔伝にそのような連絡は来ていません!」
「なんだとッ⁉︎(バカな…では…さっきの兵は何をしていたのだ‼︎?)」
盛大に燃える大船団。辺りはまるで昼間の様に明るく照らされている。
「思ったより炎の拡がりが早いですね。」
「油樽でも積んでいたのだろう。」
浅瀬で待機をしていた2人の隊員が暗視装置付きの双眼鏡を覗きながら様子を見ていた。
「あ、あのぉ…これで良かったんでしょうか?…」
「はい、ありがとうございます。出来ればもう少しこのまま『風を起こして』頂けませんか?」
「は、はい!」
「な、なぁこの『姿が見えなくなるフード』ってすごいな!こんなすごい魔法道具見たことないぞ!」
「俺だって見たことないさ!…ニホン国は噂通り、とてつもない力を持った国なのかもな!」
彼らの他に3人待機していたのはアルフヘイム神聖国の守備兵達だった。今回の作戦を行う上で、風魔法に長けた者を選んで同行して貰ったのだ。必要最低限の装備と『ステルススーツ』を貸すことで、敵に気付かれずに彼らの風魔法により船に巻き上がった大火はその風下にいる船団を大きく巻き込みさらに炎は拡がっていく。
大船団を飲み込んだ炎は2日は消えることは無かった。
今回の作戦でテスタニア帝国アルフヘイム侵攻軍は8割近くの大損害を受けてしまう。軍の士気も大きく下がってしまい、アルフヘイム侵攻作戦続行不可能と判断した。コルネール将軍はトボトボと本国へ帰国、その後ありもしない言い訳をでっち上げるも、大失態を犯した愚か者として処刑されるのだった。
日本国による異世界での戦争の初陣は実に地味な形のスタートとなった。
戦争内容は、色んな史実小説を参考に行うます。




