第17話 コロシアムの剣奴達
本日は2話分の投稿をしていきます。
自衛隊は新たな師団が設立されたりしてますが、細かな役割設定はあまり自信が無いです。
ーー2日後 アムディス王国
アムディス王国内は慌ただしかった。テスタニア帝国が攻め込んでくると知るや否や王国内は急ピッチで軍備を整えていた。
ーー王城内 謁見の間
そこには玉座に座って、先日の4カ国会談の内容を聞いていたバルトルア国王とその説明をしている外務局員のルックルがいた。
そして、ひと通り説明を終えると、バルトルア国王は数秒間目を閉じて、深々と溜息を吐いた後呟いた。
「…なさけないなぁ…。」
「ハイ?」
「テスタニア帝国の外務官達のことだ…そなたの報告を聞く限りでは、外務官とは名ばかりのただの『賊徒』ではないか。」
「…全く以って同意見です陛下。」
バルトルア国王は光が入ってくる天窓を眺めながら懐かしそうに答えた。
「15年以上前のテスタニア帝国には、それなりに優秀な外務官が居たのだが…その者たちも彼の国の『狂気』に呑まれたか…。『強国』の手本といってもおかしくない国だっただけに残念で仕方ない…。」
「…『昔は敵ながら天晴れな国だった』っと言う風に聞こえますね。」
「あぁ…15年以上も昔だが、当時のテスタニア帝国には『誇り』と『名誉』があった。『奴隷制度』は昔からだが、今のテスタニア帝国ほど酷くはなかった。」
奴隷が当たり前のように存在しているこの世界でも、『今の』テスタニア帝国の奴隷制度があまりにも『異常』だということが分かる。そして、バルトルア国王は語り続けた。
「テスタニア帝国の先代皇帝『リウマード・サルゥ・ミルガンド』殿は敵であったが、常に民の事を考える優しくも強いお人だった。私は、同じ国を統治する者として『尊敬』していた。」
「…それほどのお方だったのですか…」
「15年前、テスタニア帝国と領海を巡って小さな争いが続いていた時に彼の国から数人の外務官が対話で解決する為にやって来たんだ。…その時の会談はまさに大激論だった、お互いに一進一退の繰り返し、会談は夜更けまで続いたが、結局解決することはなかった。」
「その時の外務長官がかなり『優秀』でな、あんな政務官を持つテスタニア帝国が羨ましかった…。」
「同じ外務官職として興味深いですね。いったい誰なんでしょうか…?」
「ふむ…確か名前は…『カーネギー・ルガー』という男だったな。その時の称号は『伯爵』だったが、今頃は『公爵』になっておるかもな。まぁ、『今の』テスタニア帝国の『狂気』に呑まれなければの話だがな…。」
「…ん?あ!国王陛下!そろそろニホン国からジエイタイの方々が来られるお時間です。」
「おお!もうそんな時刻か。さて、此度の戦の助けになるかどうかは分からんが、テスタニア帝国に関する情報を提供するか…。」
ーー日本国 首相官邸 会議室
会議室ではテスタニア帝国との開戦にむけての準備が進んでいる。
◇日本国
・本国への侵攻も考え、防空識別圏・排他的経済水域も含め厳重に警戒する。
・南西部、中ノ鳥半島基地を司令部所在地とする陸上自衛隊第16、17師団、航空自衛隊からは第10、11航空団、海上自衛隊からは第2護衛隊群を派遣する事を決定。
・ロイメル王国、アムディス王国からテスタニア帝国の情報収集と互いに情報の共有を行う。
◇ロイメル王国
・ロイメル王国はジエイタイと共にテスタニア帝国攻略に参加し、また侵攻に備え、国境海域に軍船を展開し防衛に尽力を尽くす。
・万が一上陸してきた時の為、沿岸部警備強化を中ノ鳥半島まで展開する事を声明。
・ウンベカントの警備をジエイタイに代わりロイメル王国兵を派遣する。なお、その他のニホン国の事業・開発施設の警備も必要であれば派遣していく。
・ロイメル王国はテスタニア帝国に関する全ての情報の提供と共有を行う。
◇アムディス王国
・アムディス王国軍はジエイタイと共同でテスタニア帝国本土攻略に参加する。
・ドム大陸海域の警戒はロイメル王国とも行う。
・テスタニア帝国に関する全ての情報の提供と共有を行う。
各国が主張した役割を聞き、少し考えた後に南原副総理は口を開いた。
「まぁ、自衛隊や情報共有の所は良いとして…両国の『自衛隊と共同で』って所に関してはどうします?」
それに対して久瀬防衛大臣は小難しそうな顔をした。彼もアムディス王国側が主張する役割に頭を悩ませていたからである。
「うーん…正直言って…あのぉ…」
「『足手まといだからすっこんでろ。』っとは言えないのかなぁ?」
割って入る様に広瀬総理が頬杖をつきながら答える。さすがにそんな事は言えないことは広瀬自身もよくわかってはいる。しかし、いつもの彼の性格からして周りの大臣達は本気なのかと感じてしまう。
「ひ、広瀬総理…それはぁ…あのぉ…。」
「ん?何だその顔は?…あ!冗談だよ冗談!幾ら何でも俺がそんな馬鹿正直に言うわけないじゃないか♡。」
「「(ホッ…)」」
「でしたら、共同で戦うにしても、後方支援を要求しては?」
久瀬がこの様に答えると周りの大臣達も納得した。
「その方がいいね。」
「異議はありません。」
「取り敢えずこの事を両国へ伝えるよう自衛官達に伝えます。」
「そし!じゃあ、解散‼︎」
会議が終わり大臣達がそれぞれの役職に戻ろうとした時、小清水官房長官が安住外務大臣へ近づき話しかけた。
「なぁ安住。『例の件』はどうなってんだ?」
「えぇ、もうそろそろ『到着』する頃だと思いますよ、小清水さん。」
「ははっ、そうかい。堀内には苦労をかけちまうなぁ…。」
「覚悟の上ですよ。」
ーーロイメル王国
ロイメル王国内でも、慌ただしかった。会議では将軍達が集まり、王都では兵士達が駆け回る。これは誰の目から見ても「これから戦が始まる」というのが分かる。
「急げぇ‼︎急いで軍備を整えるのだ!」
軍務局局長のガーナンドは指示を出す。そんなガーナンドの元にホムルスが近づき声をかける。
「ホホッ!随分と張りきっておるではないかガーナンド。」
「ん?ああ、ホムルスか。当然であろう!此度の戦で我が国がニホン国に『恩を売る』事が出来れば、これからの関係に多少なりとも有利になれる!」
ガーナンドは少し興奮気味で話した後、今度は深刻な顔で呟いた。
「…だが、此度の戦が今までとは違うことは分かっている。国の存亡…いや、このドム大陸の存亡がかかっているのだ、絶対に負けられん。」
「…分かっている様で安心したわい。さてと、ニホン国のジエイタイがそろそろ来る頃じゃから失礼するぞ。」
「ああ、確かテスタニア帝国の情報提供だったな。」
「うむ、では失礼するぞ。」
ホムルスはその場を後にし、ガーナンドは参謀達を集めて軍務会議を始めた。
ーー日本国 東京都 某所
日本政府が管理しているとあるホテルの一室。そこで椅子に座り窓を眺める1人の少女がいた。フレイヤ・アルヴァーナである。
「(さっき来たニホンの政務官から聞いた話が本当ならニホン国、ロイメル王国、アムディス王国はテスタニア帝国と戦争になってしまった…。)」
フレイヤは悲しそうな顔になり、彼女の胸に『罪悪感』が出てくる。
「(私のせいだ…私が助けを求めたばかりに…大勢の方々が犠牲にッ!…でもこれは、我が国を守るため。父様やみんなのためッ!)」
ーーテスタニア帝国 城内
長く豪華な大廊下を、書物を持って歩く1人の貴族。彼の名は、ヨドーク・ツェベライ『公爵』、58歳。
先日の4カ国会談に出席したムローロ男爵の報告を聞き、要点をまとめた報告書を届ける為、ベルマード皇帝の元へ急いでいた。しかし、その表情は暗い。『あのような』皇帝に関わらなければならない事も理由の一つだが、1番の理由は先日の会談に出席したあの3名である。
「(国と国との取り決めをする大事な会談の場に、何故あの様な『素人』を…『外務官』の面汚しどもを選んだのだ‼︎)」
ヨドーク公はテスタニア帝国外務長官であるが、前回の会談の出席を許されなかった。ベルマード皇帝に理由を聞いても「お前は適任じゃあない。」と一言だけ、当然納得の行くわけもなかったがヘタに逆らうと不敬罪・反逆罪で縛り首にされる。
実はムローロ男爵が4カ国会談に出席できた理由は、ベルマード皇帝へ『賄賂』を贈ったからである。4カ国会談に出席した理由は、『自国の圧倒的な軍事力を前に相手がすがりついてまで許しを請うてくる姿を見たい』が為、出席したのだ。
しばらくして皇室の前に到着した。ヨドーク公はドアをノックして部屋に入る。
コンコンッ
「外務長官 ヨドーク・ツェベライ公爵であります!先日の4カ国会談の報告書を届けに参りました!」
ガチャッ!
ヨドーク公がドアを開けるとそこには異様な光景が広がっていた。
大窓には暗幕のカーテンが引かれ、部屋は薄暗い。あたりに立ち込める『お香』の匂い、その強い匂いにヨドーク公は思わず眉を歪ませる。
ヨドーク公はもう少し部屋の奥へと入りベルマード皇帝を探した。すると、薄暗くて最初は気付かなかったが、部屋の辺り一面に何かうごめくものが多く見られた。ヨドーク公はそれらを見た後、深いため息ついた。
「またか…全くッ!執務を側近達に任せて自分は奴隷の女達と『まぐわい』ばかりしおって。」
部屋の辺り一面にうごめいていたのはベルマード皇帝が手に入れた女の『奴隷』たちである。人間、エルフ、獣人族など様々な種族がいた。全員が裸で横たわり、ゼェゼェと肩で息をしている者から屈辱からか踞って涙を流す者がいた。
「(惨いな…)」
ヨドーク公はベルマード皇帝が不在であることを確認すると部屋を後にする。その時、後ろから弱々しい声で「助けて…」と聞こえたが彼は無視した。そんな事をすれば自分が殺される。ましてや、皇帝の『所有物』であれば尚更だ。彼は己の無力さに激しい怒りを抱えながら皇室を出た。
皇室から出ると1人の中級貴族が声をかけてきた。
「おや?ヨドーク公爵様ではないですか?どうかなされました?」
「ん?ああ…皇帝陛下に用があったから、ちょっと皇室に入ったんだが…居なくてな。」
すると中級貴族はニヤけた顔で話した。
「では…『あれ』も見たのですなぁ?かなりの上物ばかりでしたよね?皇帝陛下も1人くらい私に恵んで頂けないものか…。」
「お前…何を言って…⁉︎」
「へ?何をって…あ‼︎そ、そうですよね…皇帝陛下の『私物』を欲しいなど…いやはや、恐れ多い事を言ってしまいました。どうか、皇帝陛下には御内密にッ!あのー…これを…。」
そう言うと彼は懐から金貨が入った小袋を渡そうとした。ヨドーク公はそれを受け取らず拒否する。
「…いらん。それよりも、皇帝陛下が今どこにいるのか分からんか?」
「えーっと…皇帝陛下は『コロシアム』に向かわれました。」
「…分かった。」
それを聞くとヨドーク公はズンズンと不機嫌だという事が分かるくらいの乱暴な足取りでその場を後にする。
「(全く!これから戦争が始まるというのにッ‼︎本人は呑気に娯楽か⁉︎)」
ヨドーク公は馬車に乗って王城を後にし、コロシアムへと向かう。
ーーテスタニア帝国 帝都ロドム コロシアム会場
帝都内に存在する巨大なドーム型の2つの『コロシアム』。この2つのコロシアムにはそれぞれ特徴がある。一方は剣闘士奴隷(剣奴)同士がどちらかが死ぬまで闘い、たまに血に飢えた名のある軍人や傭兵が参加するコロシアム。もう一方は猛獣や龍、『某国』から輸出してくる『魔獣』と剣奴を闘わせるコロシアムである。
コロシアム内から音声拡張魔法具を使う司会の声が場外からも聞こえる。
『さぁ‼︎‼︎やって参りました‼︎本日のメインイベントの開始デーーース‼︎‼︎』
わぁーーー‼︎‼︎という約8000人の観客からの大歓声が場内を埋め尽くす。
『さぁ出て参りました!北の門から登場するは、当コロシアムの稼ぎ頭…〝猛突〟のブルゴーーーーーースゥ‼︎‼︎‼︎』
アナウンスの後に門から出てくる猪の獣人族のブルゴスと呼ばれる男。190㎝以上はある身長と筋肉質な体格で、所々生えている体毛はゴワゴワと固く、チョットした天然の鎧の様な役割を果たしている。鋭い眼光、下顎から生える4本牙は見るものを圧倒させる。
粗末な作りの鉄製胸当と膝当、革製の草摺、腰には鉈の様な形の剣とナイフ、背中には木製の盾が備わってある。右手には通常よりもワンサイズ大きいモーニングスターを持っている。
「ヒョーーーッ⁉︎スッゲェ筋肉質‼︎」
「待ってたゾォーー‼︎」
「いつもみたいに相手をぶっ殺せ!」
「おい!こっち見ろよ!」
「この剣奴欲しいなぁー‼︎」
観客席から聞こえる様々な声。しかし、彼はその声を一切無視して相手が出てくる向こう側の門だけを見ていた。
『さぁ…続きまして南の門からは、現在5連勝中…我がテスタニア帝国が誇る猛者、第Ⅷ軍団所属‼︎ボルミッグ・ジョルガ中将様の入場…の予定でしたが、生憎ボルミッグ様は風邪をこじらせて仕舞い本日は不参加となりました…。』
場内からは「「ア〜〜…」」といった声が重なって聞こえた。
『しかーーし!!無論、代役は揃えています‼︎‼︎我が国自慢の将兵で、現在3連勝中の《彼ら》をご紹介しましょう‼︎』
アナウンスがこの様に話すと観客席が再び熱気に溢れた声で埋まる。すると南の門からは鎧甲冑を身に纏った3人のテスタニア帝国の将兵たちが現れた。
『さぁさぁ役者は揃ったなぁ…それでは〜〜…試合開始ィーーーー‼︎‼︎』
何十本もの角笛の音と共に始まると、3人の将兵達がジワリジワリと詰め寄ってくる。それに対し、ブルゴスは…突然3人に向かって猛ダッシュしてきた。
「「なっ⁉︎」」
2人の将兵が突然の先制に驚き固まってしまい、全身を使った強烈な体当たりをまともに受けてしまう。ブルゴスは2人をそのままの勢いでコロシアムの壁に押し潰した。
ドゴォォォォォン‼︎
「かっ!…」
「うぐぇッ!…」
2人はブルゴスの巨体と猛スピードで圧し潰されてしまい、鉄仮面の覗き穴から血が吹き出す。
『アーーーーっと、イキナリ2人を屠ってしまったーー‼︎』
湧き上がる大歓声。有利な状況だったにもかかわらず残りはあと1人になってしまったが、最後の1人は特に臆する事なくただ立っていた。
ブルゴスは壁から身体を離し2人の将兵は、ズルズルと力無く崩れてしまう。そして、ブルゴスは残った1人を睨みつける。
「(…強いな。)」
ブルゴスは左手に盾を持ち、右手のモーニングスターをいつでも振り下ろせる様に構える。
相手も剣を上段に構え近づく。互いにジリジリ近づき、2人の距離があと2m弱になった時、甲冑の男が勢い良く飛び出しブルゴスの脳天に向けて剣を振り下ろす。しかし、ブルゴスは動かない。
「(勝ったッ‼︎)」
甲冑の男がそう確信した時、ブルゴスは頭を少し傾ける。すると、振り下ろされた剣がブルゴスの牙で止められた。
ガッ‼︎
「はぁッ⁉︎」
甲冑の男は予想外の防御に驚愕する。ブルゴスはそのチャンスを見逃さずに、すかさずモーニングスターを振り下ろす。
ゴァキィッ‼︎…グシャ‼︎
男の兜はモーニングスターの棘付き鉄球をまともにくらい、大きく凹む。兜の隙間からは脳髄液と血が止めどなく溢れる、兜の中は酷いことになっているだろう。男はゆっくりと倒れてしまう。
その途端、コロシアムが大喝采で溢れる。
『なななな、なーんと⁉︎3対1の変則試合も勝利してしまったーー‼︎強い、強すぎるぞ⁉︎ブルゴーース‼︎これで彼は現在9連勝目となりましたーー‼︎目標の10連勝まであと1勝だーー‼︎』
ブルゴスは多くの祝福を受けながらその場を後にした。
ーーコロシアム 剣奴控え室。
薄暗い質素な煉瓦造りの部屋、そこにブルゴスは試合を終えて一息ついていた。そんな彼に大勢の剣奴達が集まる。
「見ましたよブルゴスさん‼︎やっぱり貴方は最強の戦士だ‼︎」
「あんたは俺たち剣闘士奴隷の『希望』だよ。」
「あんまり無茶すんなよなぁ。」
ブルゴスに労いと感謝の声を掛ける剣奴達。ブルゴスはそんな彼らの言葉に笑顔で答える。
「あぁ、ありがとうみんな。」
するとその剣奴達の奥から1人の男が近づいてくる。
「よぉ!さっきの試合すごかったなぁ。流石だなぁブルゴス!」
彼の名はテハム。人族だが彼と同じ剣奴である。現在4連勝中で『双槍』の異名を持っており、その名の通り2本の槍を使い戦う剣奴である。
「…テハムか、お前も今日の試合はすごかったじゃあないか。開始僅か2秒で喉に一突き…。」
「まぁ…前座だけどね。それよりよ!お前あと残すところ1勝じゃあねぇか⁉︎やったなあオイ‼︎」
「あぁ…必ず勝ってやる‼︎」
このコロシアムに参加している剣奴は全員『志願』して参加したのである。どっちかが死ぬまで闘わせるこのコロシアムに何故参加したがるのか。それは、15年前にベルマード皇帝が言ったある言葉が原因である。
ーーこのコロシアムで10連勝という偉業を成し遂げた剣奴には『自由』を与える事を約束しよう!無論、その者の家族もだ!ーー
この言葉をきっかけに多くの奴隷がコロシアムの剣奴を志願し参加してきた。『自由』を得るために…。ブルゴスやテハムもその1人である。しかし、15年経つがまだ一人も10連勝を達成していなかった。
「なぁブルゴス、今回のお前の相手なんだが…チョットおかしくねぇか?」
「…あぁ、絶対におかしい…あれはワザとだな、本来闘う相手が風邪をこじらせたというのも嘘だ。」
「…たしか前回の試合は、『突然隣のコロシアムから抜け出して、迷い込んで来た翼獅子が来ちゃったから、もうこいつを相手にしよう‼︎』ってなったよな。」
「…あぁ。」
「帝国は俺たちを誰一人として『自由』にする気は無いらしいな。」
「あぁ…だがそんな事は関係無ぇ、俺は必ず勝つ‼︎それだけだ!」
「へへッ!そうだったな!頑張れよ親友!」
2人は笑顔で互いの拳同士合わせる。その場に居た剣奴達も2人に詰め寄りワイワイと賑やかになる。
その時ーー
ドン……ドン…
壁の方から誰かが叩く音が聞こえた。
ブルゴス達はすかさず音のする壁に近づく。
ブルゴスは音のする壁に3回壁を叩く。
すると音のした壁からさらに3回叩き返す音が聞こえる。その音を聞いた瞬間、全員の表情から緊張が無くなる。
テハムは煉瓦造りの壁の隙間に指を入れてそれを少しすつ引っ張り出して、壁の一部を外す。
ガコォッ!
外された壁には直径30㎝程の正方形の穴が開く。そして、剣奴達は笑顔でその穴の向こうにいる人物に声を掛ける。
「やっぱりあなた様でしたかッ!いつも助かります!」
その穴の向こうにいる男は言葉をかける。
「はははッ…年は取りたくないものだな、ここまで来るのに随分と時間が掛かってしまったよ。ほら、傷薬と治療用の魔鉱石だ。あと、食べ物と水と…」
穴からどんどんと運び込まれてくる物資。
数分後全ての物資を運び終える。
「…っと、これで全部だな。すまんなぁ、これっぽっちしか運べなくて、すぐに追加を用意してくるよ。」
剣奴達は穴に近づき、その中にいる男に礼を言う。
「これっぽっちだなんてとんでも無いッ!これのおかげで自分達も含め、多くの奴隷達が救われているのです。皆んなあなたに心から感謝しています。…カーネギー公爵。」
「……私は感謝される価値など無い。『公爵』という地位にありながら、君達を救う手立てが何一つ出来ていないのだから。このくらいのことしか出来ない……。結局私はこの国の『他の者達』と何ら変わらん。」
「違います‼︎…それは…違います。貴方は…『あいつら』とは違います‼︎」
「………ん?おっとっと、そろそろ追加の物資を持って来なくてはな!警備兵に気付かれてしまうぞ!早く穴を閉じなさい。」
「は、はい!」
剣奴達は急いでさっき外した壁の一部を持って元の場所にはめ直す。
「…もしも貴方が…この国の『皇帝』だったらどんなに素晴らしい国になっていたか…。」
ブルゴスは穴の塞がった壁を見つめながら静かに呟き、一時その部屋をテハムと共に後にする。
戦争に向けた各国の準備に至ってはてんで素人なので不安しかないです。