第15話 カリムとの出会い
仕事が終わり、家に着いたので落ち着いて投稿していきます。
今回は、カーネギー公爵がカリムと出会った時のお話です。
ーー8年前 テスタニア帝国の隣国、ゾハン公国。
カリムは人族の女性と獣人族の男性との間に産まれた子である。
当時のテスタニア帝国とゾハン公国は戦争の真っ只中だったが、テスタニア帝国の圧倒的兵力を前にゾハン公国は僅か1ヶ月足らずで敗北してしまう。
ゾハン公国は決して裕福な国ではなかったが、人族と亜人族が手を取り合って暮らす素晴らしい国だった。しかし、隣国にテスタニア帝国がいた事が不運だった。
一方的な宣戦布告、ゾハン公国の村や町、都市が次々と戦火に飲まれ、民が虐殺されていく。
カリムとカリムの両親は王都にてテスタニア軍に捕まってしまった。
ーーゾハン公国 首都ボールン
あたりは倒壊した建物や生き物などが燃やされる臭い、悲鳴、怒声が立ち込めていた。
とある広場に集められた生き残ったゾハン公国民、全員何かしらの怪我を負っている。そんな彼らの周りをテスタニア兵十数名が囲んでいる。
『よぉーーし‼︎良いか⁉︎死に損ないども!テメェらは今日から『奴隷』だ!女はあの馬車に乗れ!他はここに残れ!』
音声拡張魔法具を使って民達に指示を出すテスタニア軍の指揮官。女達は鉄で出来た檻の馬車にぎゅうぎゅうになるまで積み込まれ連れて行かれる。
「(何て事を…)」
カーネギー公は当時、戦場視察と軍将校に労いの言葉をかける為ゾハン公国に訪れていた。今回は、たまたま今の場面に出くわしたのである。広間に残った男や老人、子供達を見た時、彼の目には父親と思われる獣人族の男に抱えられたカリムの姿が映った。まだ幼い子供なのに…とカーネギー公は思った。その時ー
グゥアアアアア‼︎‼︎
空からテスタニア帝国の翼龍騎士団が地上に降りてきた。カーネギー公は案内役の兵士に声を掛ける。
「な、なぁ!アレは今から何をするつもりなんだ?」
「あれですか?見ます⁉︎すっごい面白いですよ!」
カーネギー公は嫌な予感がした。そして、その予感が的中する。翼龍は広場に残っていた男や老人、子供達をバリバリと貪り食い始めた。
「なっ⁉︎何て事をッ‼︎」
彼らは悲鳴と絶叫を上げ、逃げ惑うが、周りにはテスタニア軍が槍や弓を構えて囲っているため出られない、1人…また1人と食われていく。
「ギャーーッ‼︎」
「た、助け…ガッ‼︎」
「ウワァー!嫌だぁ‼︎」
「おかーさーん!おかーさ…(ガブゥ‼︎)」
地獄絵図…カーネギー公はそう思った。そして貪り食われている彼らを見てゲラゲラと笑うテスタニア軍達がいた。
「ハーーッハッハッ‼︎‼︎」
「見ろよぉ‼︎あいつ!プフゥー!なっさけねぇ顔してるぞ!」
「ほれほれ!早く逃げねぇと食われちまうぞ〜。」
「おっ!おっ!…ほらぁ〜食われた!あの犬の獣人族が先に食われたぞ‼︎賭けは俺の勝ちだ!さぁ払った払った!」
「くっそー…なんであのガキを先に食わねぇんだよ‼︎クソッタレ翼龍が!」
カーネギー公は思わず目を覆いたくなった。
(酷い‼︎惨すぎる‼︎これが…人のする事か…⁉︎)
出来ることなら止めさせたい!しかし、これは皇帝陛下の了解を得た行為。その行為を止めさせたら不敬罪で縛り首にされる。実際、皇帝陛下の行為に逆らった同じ『公爵』の称号を持った友が捕らえられ、公開処刑されたのを見たからである。
数分後、翼龍はお腹を満たした事で食事を止めた。とてもとても長く感じた数分間だった。しかし、生き残った者は1人も居なかった。少し離れた所から、連れて行かれた女達の悲鳴が聞こえた。
「へへっみーんな食われちまったな。」
「おいおい!これ見ろよ!下半身だけ食われてらぁ!バンディットバニーの雄だぜ‼︎」
「本当だ‼︎スッゲェ…ん?なんか抱えてるぞ?」
下半身だけ食われ、上半身だけが残ったバンディットバニーの男性の遺体。その遺体が必死に何かを護るように抱きかかえられていた。兵士達がその腕を解こうとするが中々離れない、しびれを切らした1人がナイフを持ってその腕を切り落とした。そこにはー
「おいおい見ろよおい!子供だぞ!」
「気を失ってるみたいだなぁ…」
「生き残りがいたのかよ〜また賭けに負けちまった〜。」
すると1人の兵士がその子供を雑に抱えて翼龍の方へ向かう。
「ほら!食べ残しだぞ、ほれほれ!」
翼龍は少しその子供の匂いを嗅いだあと、プイッと顔を逸らしそのまま寝てしまう。翼龍騎士は必死に翼龍を起こそうとする。
「あ‼︎‼︎こらぁ起きろ!たく、お前らが余計なモン食わせた所為だぞ!」
「なーに言ってんだよ、ちゃんと金は払っただろうが!了承しただろ⁉︎」
「それより…これどうしよっか。」
「奴隷市場に流しちまえよ!」
「どうせ亜人族だ、どうなったって死ぬ事に変わりはねぇだろ。」
「な、なぁ!バラそうぜ⁉︎噂の切開術って治療法をやってみたかったんだ!」
「ばーか!そんな治療法は迷信だ!」
兵士達が生き残った子供をどうするかで話し合っていた。カーネギー公がその生き残った子供を見ると、あの時偶然目に入った子供だった事に気付いた。その瞬間、カーネギー公は「この子だけは死なせてはいけない‼︎」と思った。
「少し…いいかね?」
カーネギー公は兵士達に声を掛ける。
「あぁ?…なっ⁉︎、か、カーネギー公爵‼︎‼︎皆の者!気をつけ‼︎」
「その子供…私にくれないか?」
「え?コレをですか?」
「無論タダでとは言わん。ほら受け取れ。」
そう言うとカーネギー公は懐からパンパンに詰まった小袋を兵士の一人に渡した、その袋を開けると大量の金貨が入っていた。
「え‼︎?コレは…えっと…え‼︎?」
「足りないか?」
「い、いえいえ!とんでもございません!ハイどうぞどうぞ!お受け取りください!」
カーネギー公はその子供を優しく抱き抱えてその場を後にする。後ろからは大量の金貨を前に馬鹿みたいに騒ぐ兵士達の下品な笑い声が鬱陶しいほど聞こえた。
ーーカーネギー公爵 テント内
あれから半日近く経った後、子供がゆっくりと目を開けた。
「目が覚めたかな?痛い所は無いかい?」
子供は頷く。
「怖くなかったかい?」
子供はゆっくりと首をかしげる。
カーネギー公の目に涙が溜まり、頬を伝って落ちていく。
「君の…名前は?…」
すると、カーネギー公の涙目につられたのか子供も涙を浮かべ、ポロポロとこぼしながら震えた声で答える。
「か…りむ…」
その瞬間、カーネギー公はその子を抱きしめる。本当だったら父親と母親が抱きしめる筈だったこの子を、カーネギー公は抱きしめる。本当は自分にこの子を抱きしめる資格などない事を分かっている…あの蛮行を目撃していたのにも関わらず止める事が出来なかった自分を恥じながら…
頑張って早めの更新を心掛けてます!