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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
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第156話 怪物襲来

出来るだけこのペースで投稿出来るよう頑張ります。

──元5大列強国が一角、ハルディーク皇国


 彼の国は、当時のレムリア共和国を含め、第2世界の国々と気脈を通じ、自国の自然環境を著しく破壊し尽くす事で強力な技術力を得て急速に発展していた。やがては第2位の列強国、サヘナンティス帝国は勿論、世界最強と名高いヴァルキア大帝国さえも凌駕しようと画策していた野心国家である。


 其の技術の中には当然、魔術に類するその進化…『魔導』によるモノも含まれている。皇国が目を付けたのは自らの生命エネルギーを媒体にして肉体の異常な進化と強化を齎す魔導法則だった。それは当時の皇国の宮廷魔術師達からすれば悍ましき呪詛の如し代物であり、万が一この法則通りに実用してしまえば『破滅』を意味する。



──それは人を異形の怪物へ変化させる──



 ソレは2本角を有する制御不能な怪物『ミノタウロス』となる。やがては『禁術』或いは『禁呪』と呼び限定的なごく少数の部隊にのみ施される事となった。

 時の皇帝は多くの反対を押し切り、莫大な金銭等を支払う事で供与を受けた。


 その魔導法則は当時のレムリアでもまだ実験段階で、より多くのデータを得るために皇国へ売ったに過ぎないのだ。緩衝国を含めた両国間との交易にそれらのデータも一緒に送られる。

 その甲斐と『賢王石』の解析が進んだ事でレムリアは第一の課題である『理性の遺失』を何とか克服する事に成功。加えて、禁術或いは禁呪の埋め込む過程で適合率が高ければ高いほど理性の遺失は低くなり、超人的な異能を得る事が出来る事も判明した。


・適合率30%以下は知能指数は6歳以下

・適合率49%以下は知能指数10歳以下


・適合率50%以上60%以下は知能指数12歳

・適合率61%以上は知能指数15歳


・適合率70%以上は知能指数変異前と遜色ない

 高確率で性格面での異常性が発生 

 何かしらの異能を得る事が出来る


 埋め込まれた者の大半は知能を大幅に遺失し、個としては驚異的な力なれど意図した理知的な行動や指揮は期待出来ない。また、適合率はあってもそれが発動されるという保障も無いのも大きなデメリットである。


 しかし、適合率が70%を超えると別義。

その有用性及び能力は測る知れない価値を生み出す。ある意味、これは『ギャンブル』『賭け事』

だが、故にあの(・・)魔導科学者は成し遂げたのだろう。



『ルクス』──


 賢王石の影響を強く受けて造られた『ルクス』は星型を上下反転した形の小さな結晶体であり対象の脳内に埋め込む。

 生命操作型魔導であり適合者の生命活動が一定時間まで停止する事で変異・発動する。適合率が70%以上の者は変異前でも異能を一部行使する事が可能。なお適合率69%以下の変異体は等しく巨躯と凶悪なツノを持つ怪物になるが、70%は人間の姿を維持したまま強靭な身体能力を得る。


 『ルクスの恩寵』


 異能を授かった者たち非公式にそう呼称した。



ーーー

第1塹壕戦線より3km地点


レムリア陸軍

ーーー

 

「伏せろ‼︎」



 誰かが怒鳴った。咄嗟に鉄帽の縁を掴み深く被りながら湿り切った大地に飛び込むと、砲弾が地面へ着弾する凄まじい衝撃波と轟音が鳴り響く。もうこれまでに何度降り掛かる土を被ってきたのか覚えてない。



(痛くない…両手足の感覚は、ある)



 兵士は自身の五体が満足である事を確認してから再び半自動小銃を持ち、中腰姿勢のまま凸凹の大地を駆け始める。高速で飛び交う無数の弾丸の嵐を間を縫うように移動しては、砲撃により出来た窪みへ身を寄せる。


 ずっとこの繰り返しだ。


 至る所で曳光弾が襲い来ると、それらが友軍達を次々と貫き、まるで糸人形の糸が急に千切れたかのようにバタバタと湿った大地へ倒れ込む。当然、動くことは無いが、当たり所が悪かった不運な輩は大地をのたうち回り絶叫を上げる。曳光弾は正に目に見える脅威だ、曳光弾1発に続いて更に数発の普通弾が飛んでくる。



「衛生兵は…衛生兵は何処だ!」



 心優しい間抜け(・・・)が不運な奴の側に寄って叫んだ。その直後に間抜けは敵の凶弾によって地面へ倒れ伏す。敵が狙ったか否かは別として、ああやって負傷兵の元へ駆け寄る奴は大体が衛生兵だ。敵はそれを見つけ次第、狙って攻撃を仕掛けている。1人を負傷させれば2人か多くて3人をまとめて仕留める事が出来るからだ。腹立たしいが自分達(レムリア)も良くやる手段の1つでもある。


 地を這いながら少しずつ塹壕線へ接近する。

 ふと周囲を見渡せば結構な数の友軍が銃弾と砲弾の雨霰の中を必死に掻い潜りながら自分よりも進んでいる。阿鼻叫喚の地獄だが、ここまで来たら引き返す事など出来るはずも無い。

 

道中、砲弾により右脚を吹き飛ばされた中年の兵士が、地面に転がっているのを見つけた。恐怖と痛みにより涙と鼻水でグシャグシャになった顔を中年兵士は自分に向けている。

「助けてくれ…」激しい銃砲撃音の嵐の中でそんな言葉が聞こえた気がした。しかし、男はそれを無視してまた別の遮蔽物のある所へ移動する。何も彼に限った事じゃない、皆が負傷した仲間を見捨てている。



(運のねぇヤツ…)



 前へ…ひたすらに前へ進み、敵を殲滅するしか生き残る方法は無いのだ。



 1人の兵士……アルデムはレムリア帝国本土の片田舎に住まう家畜農家の一人息子だ。しかし、彼はそんな農家を継ぐのが嫌で実家を出て、軍隊に服したのだ。嫌だったんだ、両親のように田舎で生涯を終える事に、そんな所に俺を無理やり縛りつけようとした両親に。

 だから出て行った。実家の両親とはもう10年も会って無いし、手紙でのやり取りもしていない。正確には両親からの手紙は来ているが読んだ試しが無い。どうせ「帰って来い」しか書いてないのは目に見えている。

 彼は自分が選んだ道に後悔はしていない。だが、せめて最後くらい手紙は返しておくべきだったかも知れないと思っていた。



ドドォォン‼︎

「おわぁ!?」



 近くに敵の砲弾が着弾した。

 アルデムはその衝撃波により軽く1、2mほど飛ばされた。耳がキンキンと劈き、視界が軽くボヤけている。どうやら炸裂による砲弾の破片を受ける事なく済んだらしい。



「これも神のご加護か?」



 彼は口の中に入った土を吐き出し、再び身を屈めながら突き進んだ。幸いにも着弾跡の窪みは沢山ある。そこへ砲弾が降って来る不幸が起きなければそれで良い。隠れては進みを繰り返しながら進めば進むほど仲間の無残な死体や負傷兵が増えていく。

 敵の攻撃が苛烈さを増した証拠だ。そして、敵の塹壕線が目と鼻の先まで迫っている事も意味する。



「くそったれが! 嫌になるぜ」



 兵士はありきたりな悪態を吐きながら窪みの斜面を少しずつ這った。両の手にはしっかりと半自動小銃を握り締めている。兵士は個人的に持ち出した小型望遠鏡を使いゆっくり覗く。目測にして約1㎞あるかないかの先に人工的に作られた盛土が僅かだが見受けられた。そこから曳光弾が無数に飛び出ていくのも見て取れる事から敵はあの場所に居るのはほぼ間違いない。

 

 頭部なのか肩なのか体の一部らしきものが見えているが、あれではあまりにも不用心だ。「どうぞ狙ってください」と言っている様なものだ。彼は照準を合わせて、引き金に指を掛ける。



ダァン‼︎ダァン‼︎ダァン‼︎



 3回引き金を引き、内1発が目標に命中し火花を散らした。


 同時に彼は我が目を疑った。最初は鉄帽に上手く弾かれたと思ったが、どうにもそれとは違う。当たったのなら例え防がれたとしても多少の怯みなどの反応はあるはず。しかし、命中した敵兵士はまるで何事も無かったかのように機関銃らしきモノを操作し、弾丸をばら撒いていた。

 

 余程強靭な精神力を持っているのか、はたまた恐ろしく鈍感なのか分からない。彼は再び小銃の照準を合わせようとした。


 その時、敵が一斉に塹壕から出てきたのだ。自分達がすぐ近くまで接近し、空爆も砲撃もままならないと判断したのか敵は白兵戦に持ち込んできたらしい。これを機会とばかりに兵士は銃を構える。だが、彼の目に信じられない光景が映った。



「に、人間か…アレは?」



 人のカタチをしているが明らかに人では無い何かが銃火器を持っている。友軍たちは絶好の機会と言わんばかりの一斉射撃を始めた。しかし、あの人のカタチをした何かは苛烈な銃撃をモノともせずに歩み続ける。



「なんだありゃあ!?」

「まるで効いて無いぞ!?」

「う、撃て撃て、撃ちまくれ‼︎」

「擲弾発射器を持って来い‼︎」



 人のカタチをした存在──陸上自衛隊無人機甲連隊のCFW群は襲い来る弾丸やロケットランチャーの中を臆せずに前進を続ける。FN2020を構え標的を捕捉次第、躊躇無く引き金を引く。

 現代であれば相手が同じWALKER、或いは完全防備の兵隊であれば銃弾は弾かれるか特殊防護板で防がれるのが関の山だが、相手は大した防弾整備を施していない軽装歩兵が大半のレムリア軍である。


 遮蔽物に隠れて伏せ撃ちをしても忽ち接近を許してしまい、撃たれて体を死の紋章で赤く滲ませるのがオチだ。しかし、レムリア軍とてやられてばかりではない。



「撃てぇーー‼︎」


ボシュ‼︎ ……チュドォォーーン‼︎



 携帯型擲弾発射器を持っていた対装甲部隊が迫り来るCFWの群勢に向けて次々と発射筒を吹かしたのだ。盛大な爆発と土煙を巻き上げて直撃を受けたCFWとその近くにいた不運なCFW諸共、吹き飛ばされてしまい再起不能となっていた。



キキキキィン‼︎

ガァンガァン‼︎


『ビーー…ビビー…ガガガガガガガ…ボォン!』



 レムリア軍の主力機関銃『ガローク8型汎用機関銃』、『カインファッハ12型半自動小銃』、『ヴァルツァ6型自動小銃』による激しい銃撃を無数に受けたとなれば、幾ら特殊合金装甲を備えているWALKERと言えど無事で済むはずがない。


 損傷が蓄積されるにつれて動きが鈍くなり、あらゆる回路も機能不全にまで至るとCFWは1機また1機と煙を上げて地面へ倒れた。レムリア軍の『ボルカーム3式携帯型対重装甲擲弾発射器』によりバラバラに破壊される機体も少なくは無い。


 数では未だにレムリア軍が上回っている。しかし、圧倒的に追い詰められているのもレムリア軍だ。 


 続々と前へ出てきたCFWに対しレムリア軍は果敢に迎撃行動を取り続けた。遮蔽物や起伏のある地形に身を隠す事で進撃がほぼ停滞している状態だ。CFWはレムリア軍との距離数百mを境に激しい銃撃の応酬を繰り広げている。


 ここが正念場だと多くのレムリア兵達は思っていた。だが、既に日本は『王手』を仕掛けていた。



ズガァァァン‼︎

ドォォォォォォン‼︎

ドドォォン‼︎

ズゥゥゥゥゥゥ…‼︎



 日本の偵察型航空無人機『八咫烏』による編隊が密集しているレムリア軍へ向けて一斉に空爆を仕掛けてきた。連鎖的な爆音と爆発がレムリア軍側で発生する。それと共に大勢のレムリア兵達の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 アルデムのいる場所に爆弾が落ちてくるのも時間の問題だろう。彼は出来る限り身を伏せながらCFWに向けて引き金を引き続ける。しかし、弾丸は装甲により幾つかの火花を散らすだけで破壊にまでは至らなかった。10発全てを撃ち尽くすと、腰から挿弾子(クリップ)を取り出して装填する。



「サヘナンティスに栄光をォォォ‼︎‼︎」

「進めェェェェ‼︎‼︎」



 爆音と銃声とは違う、無機質なCFWから発せられているとは思えない生身の声が彼の耳に入ってきた。本来ならここまで接近すれば普通に聞こえて来るであろう敵の声も、今では妙な違和感を感じる。



「サヘナンティス軍が出てきやがった‼︎」

「まさかあのヘンテコな魔導機械もアイツらが操ってんのか!?」

「畜生が‼︎」



 近くにいた味方が悪態を吐きながら迫り来るであろうサヘナンティス軍に備えた。


 アルデムはそれはあり得ないと心の中で嘲笑する。もしアレがサヘナンティス軍のモノなら最初から出張って来ていた筈だからだ。自国の中枢まで敵の侵攻を許すほど温存するなどお気楽にも程がある。



「大方、ニホン軍だろうな。訳わかんねぇモン出しやがって」



 悪態を付きたくなる思いについては同感する。

 気が付けばサヘナンティス軍らしき無数の影が塹壕から次々と飛び出しているのも見えた。


 まさかと思いながらも狙えるサヘナンティス兵に向けて引き金を引く。鬼気迫る勢いで突っ込んできたサヘナンティス兵はいとも容易くぬかるんだ地面へ斃れた。やはりそうだ、自分達がおかしくなったのでは無い、あの人型魔導機械(CFW)がおかしいのだと再認識する。数発の銃弾を受けても殆ど影響を受けないアレらを前にしたのだから無理もない。


 弾が当たり、そして血を流し殺せる。

 そうとわかればレムリア軍の標的は次々とサヘナンティス軍へ向けられる。



「撃てェ‼︎ 今こそ友軍たちの仇を取るのだ‼︎」



 一方でサヘナンティス軍も負けてはいない。200m程の距離から遮蔽物へ身を隠し各個応戦射撃を開始した。苛烈な銃撃戦だが、サヘナンティス軍にはドラッカル18号なる戦車が存在している。尤も装甲板はかなり薄い為、対戦車ではなく対歩兵を想定したかのような造りである。しかし、レムリア軍には現在まともに動かせる戦車隊は自衛隊の榴弾や空爆、対戦車地雷により全滅している為、脅威としては十分だった。



「あのデカブツに噴進弾を食らわせてやれ‼︎」



 レムリア軍は直ちにサヘナンティス軍戦車を破壊すべくボルカーム3式携帯型対重装甲擲弾発射器を構える。


 発射筒を吹かして飛翔する擲弾は見事、サヘナンティス軍戦車のドラッカル18号へ命中。大きな爆発と共に砲塔部が吹き飛んだ。最初の犠牲となった一輌を皮切りに次々とドラッカル18号は破壊され、ただのガラクタへ変わり果てていく。



「い、一撃だと!?」



 自国が誇る戦車がこうも容易く破壊される現実に驚愕するサヘナンティス軍。対歩兵に於いて無類の強さを誇るとばかりに意気揚々と仇敵に挑むまでは良かったが、サヘナンティス軍の勢いは徐々に無くなってしまった。


 

「我が国が誇るドラッカル18号が……い、一時撤退だ!」



 早急に戦車部隊が歩兵しかいない敵軍に対し、壊滅的被害を受けるとは想定していなかったサヘナンティス軍の指揮官は慌てて塹壕線まで退くよう指示を出した。まさかの撤退指示に驚くサヘナンティス兵達だが未だに敵の攻勢が強力である事もあり続々と撤退を始めた。


 呆気ないサヘナンティス軍の撤退にレムリア軍は別の意味で困惑した。

 「何か策があるのか?」と疑るほどに。その為、敗走するサヘナンティス軍への追撃を躊躇したのだ。その混乱に乗じてCFWが更に追い討ちを掛けようと前進し始めた。



(なるほど…サヘナンティス軍を囮にしてノコノコと出てきた所を人型魔導機械が仕留める、と言ったところか。舐めやがって)



 アルデムは味方をも餌に使う敵の狡猾な作戦に苛立ちを覚えつつも、その意図を形は違えど冷静に読み取れた自身と友軍達に安堵のため息を吐く。


 だが、その安堵も瞬きの間でしかなかった。

 現に敵の攻撃は陸、空共に勢いを増しつつある。このまま篭って撃ち合いを続ければ間違いなく全滅は必須。



「いっその事…『降参』するか?」



 ふとそんな考えが口に出てしまった。だが、あの無機質な魔導機械に道理云々が通じるとは思えないし、やはりサヘナンティス人からの報復を受ける可能性もある。



ドドドォーーン‼︎


「くっ! ヤベぇ…ッ」



 アルデムの近くで凄まじい爆発が起きた。敵による空爆だろうが、彼は今自分が身を隠している場所へ狙いを定めているのだと直ぐに気付いた。

 頃合いを見計らい、彼は姿勢を低くした状態でジグザグと軌道を変えながら慌てて別の場所へ移動する。



ドォーーン‼︎


「うわッ!?」



 その時、今度は彼のすぐ後ろで砲弾が直撃し大きな衝撃波と土砂を巻き上げる。彼はその衝撃に背後から受け、大きく前方へ飛ばされてしまう。


 土を被った状態で彼の意識はそこで途絶えてしまった。



ーーー

ーー

 レムリア軍はCFWと155㎜榴弾砲、UAVによる精密爆撃の激しい攻撃を受け、徐々に支離滅裂の集団へ成りつつあった。下士官クラスは後方からの狙撃部隊により確実に仕留められ、取り残された歩兵部隊は一定の対戦車兵装部隊を除く殆どが携帯小火器のみの武装だ。


 量産型CFWによる圧倒的な物量を前に為す術などあろうはずも無い。



「クソッ! 退け、100m程後ろへ退がるんだ‼︎」



 敵の展開が早過ぎる為、レムリア軍下士官の1人は兵達に後方へ退がるよう指示を出す。だが、その下士官も指示を送った直後に胸部をM24狙撃銃の餌食となった。



「お、おい、このままじゃ全滅じゃないか?」

「畜生‼︎ やってられるかよ‼︎」

「『聖火隊』もいつの間にか居なくなってる今がチャンスじゃねぇか?」



 レムリア軍は各々の持ち場や武器を放棄し、慌てて後方へ撤退を始める。1人、また1人と戦線離脱を起こせばなし崩しで次々と他のレムリア兵達も武器を捨てて逃げ始める。戦う意志もない彼らにとっては武器など重荷でしかない。



『敵勢力 撤退を確認』

『反抗行動 一部停止 状況分析』



 傷だらけのCFW達は勝手に撤退を開始するレムリア軍を確認し追撃の勢いを徐々に落としていた。相手に戦意が無いのなら無駄弾を撃つ必要はない。


 CFWが後退するレムリア軍を観察していると、UAVより各種へ一斉通信が入る。



『……同属の新たな敵勢力多数確認』

『位置情報 後方部隊へ送信』

『行動開始』



 UAVからの報告を受信した自衛隊後衛基地の野営司令室は唖然とした。



「まさか敵が戻って来るとは……直ちに残弾数に余力のある『八咫烏』を向かわせろ。何としても撃滅しなければならない」



 佐和山は慌ただしくなる野営司令室内からUAVを通して送られたリアルタイムの映像を見つめる。遠距離でも高画質で映り出される映像には統率性の無い多勢のレムリア軍がいた。

 しかし、妙な違和感もあった。それは佐和山だけでは無い、この場にいるほぼ全員が抱いている違和感だ。



(何故…武器らしきものを持っていない兵がいるのだ?)



 数人程度なら分からないでも無い。ただ明らかに数百とかそのぐらいの数の武器らしき物を持っていない手ぶらのレムリア兵が映っているのだ。


 まるで武器すら忘れる程に迫り来る恐怖から必死に逃げている風に見て取れる。



「……『八咫烏』を1機更に後方へ送れ」


「了解」



 指示を受けた立体タブレットを操作していた自衛官が戦地上空を飛翔する偵察用『八咫烏』を動かした。


 目標は新たに現れたレムリア軍達の更に後方である。



「…何だアレは?」



 直ぐにソレは映し出された。

 蜘蛛の子散らす様に走り続けるレムリア軍の更に後方から追い込みをかけるように横一列の隊列を成して進んでいる集団を発見したのだ。

 

 その場にいる多くの自衛官達が1つの映像パネルに注目する。



「土煙が多過ぎる。映像を更に鮮明に出来るか?」


「了解」



 映像処理を行うと、それらの正体に驚愕した。



「何だあの化け物は!?」



 そこに現れたのは筋骨隆々の巨躯を持ち、大きな2本ツノと幾つもの紫の結晶を生やした怪物が映っていたのだ。


 その怪物達が横一列となってレムリア軍を追い立てている。佐和山はそう思えたのだ。そして、決定的な印が映し出される。


 怪物達の胸部辺りに例の督戦隊と思われる部隊と同じ紋章が見受けられたのだ。アレらは現地由来の魔物の類ではなく、レムリア軍の所属である可能性が高い。


 映像にはその怪物の何体かが走るのを辞めて縮こまるレムリア兵を見つけるや否や、力任せに上半身と下半身を2つに引き裂く様子が映し出されている。惨殺されたレムリア兵は多量の血と臓物を地面へ撒き散らし、怪物は雄叫びを上げた。


 心無しか逃げ続けているレムリア兵達の速度が増したように見える。恐らく、仲間がアレらに殺されるたびに聞かされる咆哮なのだ。「立ち止まり、逃げたら殺される」そう言う確信を定着させて進ませる、正に悍ましい所業である。



「アレは…危険だ。『八咫烏』でアレらを撃破出来るか?」


「こ、攻撃するんですか?」


「あの怪物達がここまで近づいて来て、我々に何もしないとは限らないし考えられない。今は危険性を排除する事を考えろ」



 佐和山の指示を受けた自衛官は偵察に向かわせていた『八咫烏』で怪物達を攻撃する為、降下を開始。バルカン砲の狙いを一番大きい巨躯を持つ個体へ向けられる。



ヴヴゥゥゥゥーーーー‼︎‼︎



 電動ノコギリのような轟音と共に無数の20㎜口径弾が一番大きな個体へ襲い掛かる。

 高い土煙を巻き上げながる着弾地点。

 その様子を他の怪物達は歩みを止めてジッと眺めている。


 『八咫烏』は軌道を修正し、目標に対する効果を確認する。



「……そんな馬鹿な」



 土煙が晴れた場所には何事も無かったかのように佇む怪物がいた。20㎜口径弾をまともに受けたにも関わらず、身体には小さな弾痕がある程度でその傷も瞬く間に癒えてしまった。


 常人であれば肉塊になるのが普通。

 この世界の魔物相手でも十分な効果は確認されている。



「ブフゥーーーーーー‼︎ 今ノハ中々ニ驚キマシタ。隙ノナイ弾幕、破壊力、ドレモ私ノ認知スル兵器デハアリマセンネ」



 自身の周りにしか聞こえないであろう悍しい声で一番大きな怪物は、機関砲の弾幕が飛んできた方向を睨み付ける。



「デスガ、既存ノ耐久性デ問題無サソウデスネ。『ルクスノ恩寵』ヲ使ウ必要モナイ」



 シカシ…と怪物──ジィードリヒは周囲へ視線を送る。あの機関砲は部下達のような失敗作では即死は無くともまともに受け続ければ無事では済まない。



「オオオオオオオォォォォォォォォォ‼︎‼︎」



 ここは急ぐ必要があると踏んだジィードリヒは大地を揺るがすほどの咆哮を上げた。それに呼応するかの様に部下達も同様の咆哮を上げると、その巨躯と膂力に任せて一斉に駆け始めた。



「タダチニ敵ヲ殲滅スルノデス。ソシテ、神メルエラニ殉ズルノデス」



 ジィードリヒは火急かつ速やかな制圧を思索していた。


 それと同時に夥しい銃弾が彼らへ襲い掛かる。

だが、部下達にそれを躱すか身を隠すかの回避行動など頭に無い。『目の前の敵を殲滅する』以外の思考が出来ない状況にある。


 一種の暴走とも動物的本能とも言えるだろう。


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[一言] 私はこの小説を初期の方からリアルタイムで読んでおりました。 出来ればまた復活して書いて欲しいです!私はこの小説が今まで読んだどの小説よりも好きな小説で今もそれは変わっておりません。是非よろし…
[一言] 内容もボリューミーでとても面白くて最高です! お仕事も頑張ってください!
[良い点] あ、やっぱりファンタジーなモンスターとかいるんだ。最近ファンタジー要素少なくてマンネリ気味でしたけど安心しました。この調子でガンガンファンタジー要素描写していって下さい! [気になる点] …
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