第154話 急襲のランダルシア
皆さまお久しぶりです。
長い事お待たせしてしまい誠に申し訳ありませんでした。
色々ありましたが何とか執筆再開する事が出来ましたので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
ーーー
サヘナンティス帝国
現レムリア帝国占領地
東方都市ランダルシア
ーーー
レムリア帝国軍による占領地改築が進んでいた東方都市ランダルシアは、現在未曾有の壊滅的被害を受けており、その復興作業が進められていた。尤もその殆どが不幸な事故か、サヘナンティス軍の破壊工作としか認識しておらず、本当の原因が日本の大陸間弾道ミサイルによるものだと気付いている者は1人も存在しなかった。
重機は勿論、内火艇もフル稼働で作業を進めているが、復興作業自体遅々として進んでいない。
必要最低限の家屋の修復すら行えておらず、瓦礫の撤去作業のみで、その瓦礫も『全て』という訳ではないのだ。魔導瘴気ミサイルの誘爆により搭載されていた致死性の瘴気が一気に拡散、範囲内の人や物も一気に汚染されてしまっている為、下手に撤去も出来ずにいる。
「撤去作業の進展具合は?」
ビルゼー達の留守居を預かるベッケ代官は頭を悩ませながら各復興作業状況の報告を自身の執務室で受けていた。
「……予定の3割も進んでおりません」
「魔導瘴気ミサイルの誘爆による汚染が想定よりも広範囲でして…下手に汚染された瓦礫を動かしでもしたら更なる汚染被害が拡大する恐れが……」
ベッケは思わず机に突伏して頭を掻き乱した。
(あぁぁ……なんで私がこんな役目を)
上官にあるまじき言葉だが口に出さないだけマシというもの。
ビルゼーの腰巾着でしかない下級貴族出身である彼が、今回の戦争に参加出来た事は漸く掴み取ったチャンスだったのだ。与えられた役職は輝かしい戦果を得られるとは言い難い物であったが、彼は僅かな可能性に賭けたが、今彼は絶望的窮地に立たされている。
(陸軍は1個師団、航空軍はたった1個防空隊……ランダルシアの規模を考えてもこの防衛隊の数は足りたい、足りな過ぎる……)
思わぬ大損害を受けたレムリア・聖国連のサヘナンティス侵攻軍は残存戦力の殆どを第3首都リヴェとハーロ街の電撃攻略の為、出撃させている。最前線占領基地であるランダルシアには必要最低限の兵力しか残されていないのだ。
加えて例の大爆発事故。眉唾ものの噂ではあるが敵の新型兵器によるものであるという噂も耳にしている。
「魔導転移装置の復旧作業はどうなのだ? 何とか修復は可能か?」
「も、申し訳ありません。全力を尽くしてはおりますが……修復に必要な資材も、例の爆発事故で消失してしまっておりますので……し、修復の目処は全くと言っていいほど立っておりません」
「第2工業都市オローム及び港湾都市エゼに居る友軍も同様です。魔導転移装置の復旧作業は未だ……か、芳しからず」
レムリア軍にとって最重要インフラ装置と言っても過言では無い魔導転移装置が使えない。それは事実上の兵站輸送手段の遺失を意味しているも同然である。修復に必要な資材は勿論、武器弾薬、増援や食糧もまともに補給が出来ないこの状況は非常に不味い。
仮に兵器の質で大きく劣るサヘナンティス軍であろうと、現存している武器兵器や弾薬で対処出来ないほどの人海戦術で攻め込んで来れば一溜まりも無い。
「……い、致し方ない。今は全力で復興作業を進めるのだ。言わずもがな、警戒を怠るな」
「「ハッ‼︎」」
部下達が退室するのを見届けた後、割れ掛けた窓ガラスから見えるランダルシアを眺めた。
(何としても……何としてもこれ以上の失態だけは防がなければッ)
上官であるビルゼーからの通信はまだ無い。魔導通信部からの報告によれば、未だに通信が繋がらないと言う。未だ外界の魔層解明が途上であるが為に、軽い通信障害が稀に起こる場合はある。
今も魔導通信部が懸命に呼び掛けているが音沙汰はない。
彼の脳裏に最悪の展開が過ぎる。
「い、いや……そんなはずが無い。あってはならないんだ……『侵攻軍の継戦能力に異常無し』と上へ報告したのだ。失敗は……ゆる、されないッ!」
彼が祈るような気持ちで視線を青空へ向けた時だった。突然、空襲警報のサイレンがけたたましくランダルシア全体に響き始めたのだ。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥ〜‼︎‼︎
「く、空襲警報だと⁉︎」
慌てて彼は執務室に取り付けられている通信機を操作し、航空基地司令塔へ繋げる。
「何事かッ!」
『は、ハッ‼︎ 魔波レーダーに感あり‼︎ 上空約10,000mに無数の所属不明艦艇を確認しました‼︎』
「なんだとッ⁉︎ ま、まさかサヘナンティスの……ッ!? 直ちに迎撃せよ‼︎ 直掩機を全て上げるのだ‼︎」
『ハッ‼︎』
ベッケの指示を受けた航空基地司令塔は直ちに『近接格闘型戦闘機カピストラ』を主機とする第1防空戦闘隊に出撃要請を出した。
近接格闘型戦闘機カピストラは重要拠点の防空用戦闘機として高い戦闘力を有する重型戦闘機である。主兵装は13㎜機銃(機首)、両翼下部に空対空魔導ミサイル4発。
『隊長機のカベッジより各機へ。これ以上の恥辱を晒すな、何としても敵を撃退するんだ』
『『了解』』
ーーー
東方都市ランダルシア
上空約10,000m
ーーー
ハーロ街近郊在サヘナンティス駐屯地から大型輸送機『山鯨』と共に出発した航空自衛隊第2無人飛行隊の随伴護衛無人機『東風』20機は、護衛対象の目標地点であるレムリア帝国軍が現在占領している東方都市ランダルシア上空付近まで接近していた。
随伴護衛無人機『東風』はアメリカのXQ-58ヴァルキリーと日本の無人機研究システムを足して二で割った様な形態をしている。最高速度はマッハ1.1、最高飛行高度は12,000m。主武装はAIM-102、M61バルカン砲。少し古いタイプの無人機だが無人偵察機『八咫烏』と共同で警戒任務にあたる場合が多い機体である。
『目標地点より敵性航空機の接近を確認』
『全機共有……迎撃措置へ移行』
直掩機のみならず『山鯨』の操縦士もWALKERという完全無人化で航行していたこの部隊は、目標地点であるランダルシアを占領しているレムリア帝国軍を無力化する為、とある作戦を決行しようとしていた。しかし、ランダルシアには大勢のサヘナンティス人が存在しており、空爆などという作戦は行えない。
『護衛機 敵航空部隊と接敵……データ受信 既存データに存在しない航空機と判明 データ収集開始』
『データ共有……本部へ送信開始』
『ウィンド05 ウィンド16が被撃墜』
『敵機6機撃墜を確認』
『ウィンド09被撃墜 被害拡大』
事前データに存在しない敵航空機部隊との戦闘が始まる。護衛機も何機か被害を受けているものの輸送隊は現在のとこら無傷である為、戦況は有利に進めていた。
『降下準備開始』
全輸送機の後部ハッチがゆっくりと開放される。広い内部に限界まで積まれていたのは爆弾の類では無かった。
『WALKER全機起動……』
第4世代型のWALKER、『COMBATFORCEWALKER』の群勢である。各機には既存の装備の他、手部と足部の間に布を繋げた滑空用特殊ジャンプスーツが備えられている。
これらの役目はただ一つ。迅速に襲撃を仕掛け、敵占領都市を解放する事である。
『全機起動確認……降下開始』
『Good luck』
一斉降下が始まった。次々と無機質な人型のムササビが布を広げて目標地点へ向かい滑空して行く。
ーー
ー
相も変わらず空襲警報のサイレンが鳴り響く。
ランダルシアの航空基地司令塔管制室では敵機撃墜へ向かったカピストラ隊からの通信を受け、蜂の巣を突いたかの如き大騒ぎとなっていた。
『こ、こちら隊長機カベッジ‼︎ 現在、敵戦闘機部隊と交戦中‼︎ 既に半数近い友軍機が堕とされた‼︎ 敵はサヘナンティス軍では無い‼︎ く、繰り返す‼︎ 敵は━━』
ザザーーーッ
「つ、通信途絶……」
「他の友軍機からの通信も途絶しました……」
通信士が青褪めた顔で報告する。ランダルシア航空基地司令官のゴルニッシは直ちに対空部隊へ命令を送った。
「敵は此処ランダルシアに空から攻撃を仕掛けてくるぞ‼︎ 対空戦闘用意‼︎ 敵の攻撃に備えるのだ‼︎ 魔波レーダー班は1つの異変も見逃すな‼︎」
「「ハッ‼︎」」
より一層ランダルシア航空基地は騒がしくなる。兵士達が一斉に持ち場へ着く。敵機を捕捉次第、即撃墜行動が出来るよう9.5㎝対空高射砲を起動させた。半自動化魔導照準器により魔波を感知し次第、捕捉後射撃を行う。
強い緊張感により喧騒に満ちつつも張り詰められた空気が航空基地全体を包み込む。レムリア兵達の士気は決して悪く無い。皆がこういう事態を想定した訓練を何度も繰り返し、その成果を発揮する時が来た。
そんな想いを胸に抱きながら防空隊が全滅している青空を見上げる。
「て、敵航空機、ランダルシア上空を通り過ぎました!」
レーダー士の報告を受けたゴルニッシは直ぐに絨毯爆撃の可能性が過ぎる。
「ば、爆撃艇だったかッ!?」
爆撃による空襲に備えるよう伝えようとした時だった。何か黒い点らしきモノが空のあちこちから現れ始めたのだ。一瞬、爆撃が始まったのだと思ったが、彼は妙な違和感を覚えた。
(ば、爆弾にしては小さ……え? ひ、ヒト?)
あり得るはずのない言葉が自然と出てきた。その直後、急速に接近して来たソレらの一つが管制室から見える別棟へ突っ込んで行ったのだ。
ガシャーーンッ‼︎‼︎
「うわっ!?」
「な、なんだ!?」
別棟の最上階窓ガラスが急に割れたのだ。
管制室からその瞬間を偶然目撃していたゴルニッシは、今しがた一瞬だったがその落下してきたモノの正体を見て嫌な汗をかいていた。
(い、今のはひ、ヒト? に、人間だった……ような、気が)
我ながら狂ってると思う。
仮に落ちて来たのが人間だったとしてもあんな急加速で窓へ突っ込めば即死は免れない。ましてや降下傘も開いてないとすれば尚更だ。
恐らく間抜けな敵兵がうっかり落ちて来たのだろうと思ったが、だとするとあの空にある無数の黒い何かも人間だと言う結論に至ってしまう。
その時、激しい銃声がその別棟から聞こえて来た。
パパパパッ!
ダンダンダンッ!
ダダダダダダダダダッ‼︎
劈くような銃撃音が聞こえる中、兵士達と思われる断末魔と絶叫に気付いた。
「い、一体何ご──」
ガシャァァン‼︎
今度は自身が居る管制室の窓ガラスが盛大に割れて部屋全体に破片が四散した。何かが空から突っ込んで来たのだ。
何人かが飛び散ったガラスの破片を浴びた事で眼球を傷付けてしまい床へのたうち回る。
「あ、あぁぁぁ……ッ」
「め、目がぁ!!」
ゴルニッシは気付いてしまった。明らかに異質な存在……窓を突き破って入って来た『何か』がゆっくりと上体を起こしていることに。
その場にいる誰もがソレを見て唖然としている。
「き、機械……?」
平然と起き上がったのは人のカタチをしているが明らかに人では無い、無機質な存在。
ソレは彼らが人型魔導機械と呼ぶ…地球世界ではごく一般的な WALKERだった。
『RED PHASE……掃討開始します』
「なっ!?」
CFWは FN2000の発展版FN2020を取り出すと、躊躇無く銃口を1番近い距離に居たゴルニッシへ向けて引き金を引く。
ダンダンダンッ‼︎
彼も慌てて腰のホルスターから拳銃を引き抜こうとするが間に合わず、乾いた破裂音と共に撃ち出された6.8㎜弾が、彼の肉や臓物を容赦無く破壊した。航空基地司令官が血濡れた肉塊と化して倒れ伏したのを皮切りに、管制室に居た通信士やレーダー士らが一斉に拳銃を構える。
「う、撃てェェ‼︎」
ダンッ‼︎ダンダンダンッ‼︎
パンパンパンッ‼︎ ダンッ!ダンッ!
前方多方向から銃弾を受けるCFWだが特殊合金素材の装甲板を貫くには至らず、直ぐに発砲してきたレムリア兵達へ照準を合わせ引き金を引く。
「ぐあぁッ‼︎」
「あぅ‼︎」
「がっ!」
レムリア兵達はCFWの射撃に次々と被弾。1人またひとりと血溜まりの床へ斃れていく。何人かは咄嗟に伏せて机などを遮蔽物に身を隠すが、銃弾が通じない得体の知れない敵と分かった途端、慌てて逃げて行く者もいた。
「何なんだよありゃ!?」
「俺が知るわけ無……おい嘘だろ」
遮蔽物を背にしていた兵士の1人が徐に窓から見える外を見て絶句した。無数の……それも数百単位の何かがどんどん空降りていたのだ。
「あ、あんなのが……無数にッ」
かなり広範囲に降下している事から間違いなくランダルシア全体にまで及んでいる事だろう。ちらほら空で爆ぜている黒煙は、対空高射砲塔からの砲撃に違いない。だが、見るからに効果があるとは思えなかった。
「ど、どうする!?」
「逃げるしかねぇだろ‼︎ ここはもう駄目だ‼︎」
無理もない。銃が満足に通用しない相手がランダルシア全体に次々と降りて来ているのだ。どう足掻いても今は勝ち目が無い。
CFWのばら撒くような射撃に身を縮こませ、まだ生き残っている兵士達は隙を見て此処から地上まで逃げようと考えていた。
その時──
ガァァン‼︎
ガシャァァン‼︎
『目標捕捉』
『掃討開始します』
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「こ、このッ ば、化け物がァァ!」
更に2体のCFWが窓から突っ込んで来たのだ。
この場から何とか逃げようとしていたレムリア兵達は慌てて応戦するが、拳銃ごときで破壊されるCFWであるはずもない。
管制室に居たレムリア兵の殆どはCFWの銃撃を受けて斃れてしまった。
管制塔は瞬く間に地獄絵図と化したが、無残な光景は管制塔だけではない。
特殊ジャンプスーツを着用したCFWは続々と地上へ降りて来る。地上へ降り立ったCFW達は背部に格納されていた銃火器を取り出し、頭部の高感度識別センサーから敵勢力を捕捉次第射撃を始める。
航空基地の滑走路等はレムリア兵達とCFWで入り乱れていた。レムリア兵達は空から現れた自律式の人型無人機へ携帯火器を撃ち込むが装甲板で弾かれるのを見るや、慌てて逃げ惑い始める。
明らかに人とは違うが、まるで熟練の精強な特殊部隊が如き動きで飛び交う弾丸などモノともせずに襲い掛かって来るその姿は『恐怖』以外の何者でも無い。唯一の対空手段となった高射角砲塔も既にその大半がCFWによって制圧ないし破壊されてしまっていた。壁や斜面など障害とは思わない動きで、蜥蜴などの爬虫類のようによじ登って行く。
「あ、悪魔だ……悪魔が空から来た」
そんなCFWを前に、逃げ惑う1人のレムリア兵がそんな事を口にした。
遮蔽物も高所も関係無い……武器も通用しないなら、ただ蹂躙されるのみ。
そのレムリア兵は逃げるのをやめた。
両膝を地面へ付け、両手を組み祈りを捧げる。
ーーー
同時刻
同所 執務室
ーーー
CFWの上空からの降下によるランダルシアの制圧作戦は当然、航空基地のみに限った話ではない。既に都市部郊外から中心部にまでCFWは降り立っていた。
「状況を報告しろ‼︎ 一体何が起きている!?」
ベッケ代官は全身冷汗まみれで部下達に報告を仰いだ。
「謎の敵勢力が上空より降下し、ランダルシア全域へ侵攻を開始しております。各所防衛部隊が迎撃しておりますが、戦果芳しからず‼︎」
「敵勢力は全身鎧を纏っているとの報告が上がっております。しかし、各所からの報告を照らし合わせますと、恐らくですが例の人型魔導機械の可能性高く‼︎」
「なんだと……! 敵はサヘナンティスではないと言う事か!?」
「恐らくは……ニホン軍」
「に、ニホン軍……だと!?」
予想外過ぎる謎の敵勢力の正体に思わず目眩を覚えるベッケだが、流れ弾が窓ガラスを撃ち砕いた事が気つけとなり何とか意識を留めさせる。
「被害は!?」
「ランダルシア航空基地は既に壊滅状態。第1、第2、第5格納施設は現在も交戦中なれど敵の装甲が強固故に戦況は芳しからず」
「陸軍基地でも軽戦車隊を動員させて敵勢力と交戦中。詳しい戦況は未だ不明」
「他都市部各所でも大規模な衝突あり‼︎ 敵の動きを見るに恐らくはサヘナンティス人収容区を狙っているものと─」
そこへ乱暴に執務室の扉が開かれた。
ベッケ達は例の人型魔導機械の襲来を考え、心臓が飛び上がったが入って来たのは顔を真っ青にした通信士だった。
「工業都市オロームより緊急通信‼︎ 現在、敵対勢力と大規模交戦中とのこと‼︎」
報告を受けたベッケ達は思わず息を呑んだ。
「お、オロームだと……?」
「ハッ‼︎ 現在、ランダルシアを襲撃しているモノと同種の敵と交戦、本営区画を除く全ての区画を奪還されたとの事です‼︎」
どうやら敵はランダルシアだけではなく、オロームさえも奪還しようとしているらしい。もしそれならばランダルシアは完全に分断される事になってしまう。
そうなれば絶望的だ。何としてもオロームは守り切らなければならない。
「それはもう……奪われた様なものではないか!? エゼに救援要請を送る様に伝えるのだ‼︎ エゼの方が此処より近い‼︎」
サヘナンティス最東端の港湾都市エゼは、現在レムリア帝国軍のサヘナンティス攻略に於ける重要な橋頭堡の一つとなっている。エゼでも謎の爆発事故により魔導転移装置が破壊されてしまっているものの、予備兵力にはまだある程度の余裕があるのも知っている。
少なくともランダルシアよりかは援軍の可能性は期待出来る。
だが、もう1人の通信士が血相を変えて現れた事でその期待も露と消えた。
「失礼します‼︎ オロームが……陥落しました‼︎」
ベッケは言葉も出なかった。
室内が水を打ったように静まり返り、外から聞こえる敵と味方の銃声のみが聞こえるのみ。
「え、エゼにも、通信を──」
青褪めた顔で絞り出すような声でベッケが言う。しかし、その命令を遮るほどの地鳴りが発生した。かなり近い場所で爆発が起きたのだ。
ベッケは直ぐに爆発地の特定を急ぐよう備え付けの無線機を使うが、聞こえてくるのは砂嵐の様なノイズ音のみ。
その瞬間、彼は悟った。
「まさか……れ、レーダーを……っ!」
今の爆発は間違いなく此方の通信手段を破壊する為のものだと気付いたのだ。これで増援の要請も、各地の状況を把握する事も出来なくなった。
各地の銃撃、爆発音は未だ止まる気配無し。
ランダルシアは完全に孤立無援状態と化した。
何事も程々に…本当に心の底から痛感しました。




