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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
157/161

第152話 悪夢の進撃その1

誤字報告誠にありがとうございます。

仕事で死に体ですが何とか生きてます。

 ーーー

 第1塹壕戦線より10㎞地点

 ーーー

 命懸けの渡河直後、残存総兵力250,000は魔導機甲師団を先陣にしてサヘナンティス帝国攻略の『飛車角取り』を意味するハーロ街へ向けて前進を敢行した。無論、その先にある敵の防衛線での衝突を覚悟しての前進である。



「行けェェェ‼︎ 進むのだァァァ‼︎ これは聖戦、正義は我等にありィ‼︎」



 戦闘指揮官達が猛々しく声を張り上げ、味方の兵達を鼓舞しながら突き進んでいく。勇猛果敢に駆け続ける兵士達だが、苛烈な敵の野砲による猛撃を前に兵達は悉く悲惨な戦死を遂げていった。



 ドォォォォォォンッ‼︎

 ドドォォォォォォーーッ‼︎‼︎


「うわぁァァ‼︎‼︎」


「ぎゃああッ‼︎‼︎」


 ドゴォォォォン‼︎



 敵の野砲──陸上自衛隊の155㎜榴弾砲──が次々と地上へ降り注ぐ。轟々と鳴る爆音と共に大地を抉り、着弾地点付近にいた兵達は五体の何れかが吹き飛ばされた。運の良い者なら即死、運の悪い者は手脚を吹き飛ばされても爆風で腹を抉られても絶命に至らず瀕死で悶える結末を迎えた。



「あ、足がぁぁぁーー!」


「誰かぁ……殺し……ごろじで……お願いィ」



 助命か、トドメか……榴弾砲の餌食となり不運にも生き残ってしまったレムリア兵達が倒れ伏す自らを飛び越えるか踏み越えていく同胞達に必死に訴えかける。しかし、彼らはそれを心痛の思いで視線を送るか無視する事しか出来ず、衛生兵すら彼らに治療を施すことを許されなかった。彼らに出来ることは出来るだけ苦しまずに最期を迎えることが出来る事を歯噛みしながら祈るのみである。


 250,000という大軍だが火力装備は大して有していない所謂軽歩兵部隊が大半を占めている。一度目で全兵を送り込ませるためレムリア軍側の苦肉の策である。しかし、数の暴力はいつの世も馬鹿に出来ない。敵防衛部隊による決死の攻撃を想定し、各部隊を広域に分散させての突撃を敢行し続けている。そして、一定距離に魔導機甲師団の戦車部隊が兵達の盾となるよう配置もされていた。



「なるだけ密集は避けつつ戦車から離れるな!」


「何処から敵機関銃が襲って来るから分からん、注意しろ‼︎」



 各歩兵部隊は少しでも敵の野砲から逃れようと必死で戦車群の背後に隠れるように戦地を駆け続けた。しかし、155㎜榴弾砲はレムリア帝国が誇る軽戦車シエルーヴァV世や重戦車ハヴァリーIV世の装甲を悉く貫き、破壊し尽くしていく。



 ズガァァァッ‼︎‼︎


「うわぁ⁉︎」


「クソッ‼︎ こんな──」


 ボォォォォン‼︎ ドドォォォーン‼︎


「り、履帯がやられ──」


 ドガァァァン‼︎‼︎



 攻撃を受けたレムリア軍の戦車は惨憺たるものだった。爆炎と共に動きを停止し、ハッチや砲身部から燃料部に引火した時の劫火がハッチや砲身と言った部分から勢い良く噴き出し、瞬く間に戦車内は地獄のオーブンと化す。


 歩兵達は慌てて破壊された戦車から離れ構わず前進を続ける。



「うわぁッ⁉︎」


「クソッ‼︎ 離れろ離れろ‼︎」


「使えねぇ戦車だな‼︎」



 中には自分達の盾兼最大の攻撃手段である戦車が一撃で破壊された事に悪態を吐く始末。仲間が死んだと言うのに不謹慎極まり無いが、悪態を吐いた兵士も含め誰もそんな事を気にする余裕などある筈がない。皆、敵を倒しそして生き残る為に必死なのだ。



「───ッ! ───……!」


「ッ⁉︎ ひぃ…‼︎」



 途中で仲間の死体から銃を手にし、必死に走り続けていたラピカは破壊された戦車の横を通り過ぎた時に呻き声が聞こえた。彼は決して振り返らず頭を左右に振って必死に頭の中から消そうとした。


 そうこうしているうちにまた別の重戦車が敵の砲撃によって破壊されてしまった。



「ぐぅ……ッ‼︎ 畜生が‼︎ 敵はどうやってこっちの位置をッ!」



 砲撃による衝撃波を受けた1人の兵士が怒鳴り散らすように叫んだ。被っていた鉄帽を苛立ちをぶつける気持ちで脱ぎ捨てると同時にまた近くに敵の砲弾が着弾。強烈な爆風を受けたその兵士の頭部が一瞬で吹き飛ぶと、そのグチャグチャになった頭部の血肉や脳の破片が飛び散った。それらをまた別のところにいた兵士達が浴びる。



「ひぃぃぃ‼︎‼︎」


「うわぁぁぁぁ‼︎‼︎」



 彼らは声にならないような悲鳴を上げた途端にその場で踞り動けなくなってしまったのだ。



(ま、マズイッ!)



 ラピカは慌てて恐怖で踞り動けなくなった仲間の元へ駆け寄ろうとするも、誰かが自身の腕を無理やり引っ張り連れ戻そうとしたのだ。誰かと思い振り返りとそこに居たのはイエメルだった。彼は近くに居なくなったラピカに気付いて、慌てて戻って来たのだ。



「もう無理だ‼︎ 行くぞ‼︎」



 イエメルは振り返らずにラピカの腕を掴み無理矢理連れ戻し前進を続けた。半ば足を引き摺るカタチではあるがイエメルは決して引っ張ることをやめようとはしなかった。


 あの場に留まっていれば、少しでも引き返すような動きを連中(・・)に見せていたらどうなるか、彼はそれを知っていたのだ。



「ふむぅ、おかしいですね。サヘナンティス軍が我が軍の戦車を一撃で破壊し得る砲を持っているなど……」


「はい、聞いた事もありません」


「少なくとも情報局からそのような報告はありませんでした」



 決死の覚悟で突撃を続けている兵達の後方から『聖火隊』の隊員達が其々の指揮戦闘車両に座し、外周横一定の距離を保ちながらゆったりと進んでいた。その中の1両に搭乗しているジィードリヒ特務中将は訝しげに破壊された車両と兵達の無残な骸、砲撃により荒れ果てた大地を眺める。



「敵の砲撃は前を走る兵達に集中しているようですね」


「軽歩兵部隊が主とはいえ、250,000を広範囲に突撃させているのです。敵は我らに砲撃を浴びせる余裕など無いのでしょう」


「だとすると厄介であるな」


「厄介?」



 顎に手を当て神妙な面持ちで考えるジィードリヒは先の発言をした隊員に顔を向けた。



「その理屈で言えば敵に此方の様子が筒抜けている事になる。それは航空艦隊が壊滅した事を意味します」


「なるほど……制空権は敵の手にあり、と?」


「まぁ、此処に辿り着く前に手痛い被害を受けていたようですし、粗方予測はしていました。しかし、ピンポイントで歩兵部隊のみを標的とし野砲を浴びせ続ける事が出来る事は予想外です」


「……如何なされますか?」


「どの道退路は絶たれています。我らの道は前進あるのみですよ?」


「おぉ……! 偉大なる神メルエラよ、命をささげに奉ります」



 彼が搭乗している指揮戦闘車内は神の為に命を捧げる事が出来る運命と使命感により感涙の声で包まれた。皆が戦争そっちのけで涙を流し祈りを捧げる。



「うむ、これぞ信徒のあるべき運命(さだめ)であるな。ですが、伝令は送るべきでしょうね。通信士現状報告を」


「ハッ」


「ではこれより……おや?」



 ジィードリヒがふと車内へ目を向けると、明らかに信仰心による感涙とは違う涙を流し肩を震わせている若い隊員がいた。隊員の震える右手には写真が埋め込まれたらペンダントが大事そうに握られていた。



「どうかなさいましたかな?」


「ッ‼︎ た、隊長?」



 声を掛けられた隊員は驚き背後を振り返る。



「それは家族の写真で?」


「は、はい……父と母です。ふと、両親の顔が思い浮かんだもので」


「怖いですか?」


「……正直に言えば、恐ろしい、です……うぅ」



 涙ぐむ声で答えた若い隊員は思わず堪えていたものが一気に溢れ出し涙をポロポロと溢してしまった。そんな彼を隊長であるジィードリヒは背中を擦りながら優しい笑顔で慰める。若い隊員も顔と心が少しだけホッとしていた。



「そうですか……貴方は帰りたいのですね。家が恋しく、家族が恋しいと」


「ひっく! は、はい……帰りたい、です!」


「そうですか、そうですか……」



ジィードリヒは彼を優しく抱き締める。そして、彼の耳元へ口を近づけ静かに耳打ちをした。



「貴方は……不信仰者なのですねぇ?」


「え?」



 次の瞬間、ジィードリヒは既に引き抜いていたナイフを若い隊員の喉へ一切の躊躇無く突き刺した。突然の出来事に驚愕と混乱で目を見開く隊員だが、声を発する事が出来ない。喉からはドス黒い血が噴き出し、口からもゴポゴポと溢れるように吐血した。涙目で彼は喉を突き刺しているナイフを必死に抜こうとするが、やがて意識は薄れそのまま絶命してしまった。


 ジィードリヒはナイフを引き抜くと亡骸となった若い隊員に蔑むような目を向ける。



「神の御元へ逝く事を拒むなど不義不忠の極みである。ならば、私の手で送ってあげようぞ。全く何たることか……『聖火隊』から、それも私の部隊から不信仰者を出してしまうなど」


「隊長、アレを」



 部下の1人が指揮戦闘車の上部ハッチから半身を出した状態で前方へ指を差していた。


 その方向へ目を向けるとそこにはまた(・・)戦意を喪失した兵士達が居た。身を縮こませてガタガタと震える者、ロザリオを必死に握りながらブツブツと恐らく祈りの言葉を呟き続ける者、子供のように泣きじゃくる者など、老若男女問わず点々とした箇所に彼らは居た。


 そんな彼らを見てジィードリヒは激しい怒りが心の中に湧き上がる。



「全く……それでも貴様らは誇り高きレムリア人なのか?」



 箔のある静かな怒声で呟き車内から半自動小銃を取り出すと照準を戦意喪失した兵士に向けた。



 ダァーン‼︎


「がっ…⁉︎」



 銃声と共に近くで蹲っていた兵士が呻き声をあげて倒れた。それにより周りの戦意喪失した兵士達が跳ねたように彼等へ顔を向ける。



「逃げ隠れて生き恥を晒す事は許さん‼︎‼︎ 進め‼︎ 戦え‼︎ そして死ねぇ‼︎‼︎ 嫌というならば此処で貴様らを処断する‼︎‼︎ 神のご意志である‼︎‼︎」



「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」」



 顔面蒼白の兵士達は這う体で逃げるように前進を開始した。背後からは脅すように銃を撃って来る聖火隊。しかし、前は敵の砲弾が雨霰の如き勢いで襲い来る。どちらに進んでも命は無いのだ。

宇宙戦艦ヤマト2205観てきました。

前作2202の不評(私は好き)は少なくありませんましたが今回はとても良く出来ていたと思いました。


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― 新着の感想 ―
[一言] エルメラ教はどうなんだろう。 「神が勝利をもたらしてくれる」だけでなく「神のために勇敢に戦い死んだ者は死後天国で永遠の幸福が」……的な教義はないのかなこの状況を見ると。 しかし、宗教が悪い…
[良い点] 聖火隊、、、ろくでもねぇな、狂信的な集団の末路は憐れなり、いつの世も。
[一言] ラピカ・イエメルらは兵士の代表ですが、生き残れるか? ジィードリヒ・聖火隊はホント胸糞悪くなりますな。 さっさとやられりゃいいんだ。
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