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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
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第151話 上陸開始

沢山の誤字報告本当に感謝しています。


嫌な思い出がありますが1ヶ月前より久しぶりにハーメルンに戻って来てました。しかし、ハーメルンでの私は読み専ですのでご了承下さい。

 F-35Jの飛行連隊を漸く目視確認出来たルーゼルは、アフターバーナーを作動させ一気に距離を詰めて行く。狙いは勿論近接戦闘(ドッグファイト)、とてもではないが中・遠距離では最新鋭機の『クルセイダーズ』を以ってしても勝ち目が無い事を彼は嫌と言うほど知った。



『さぁて! お手並み拝見と行きますかァ!』



 彼の心に恐怖心は微塵も無い。有るのは人生最後となる空中戦で未知の敵戦闘機部隊と戦えるという歓喜に満ちた高揚感しかなかった。無論、与えらた任務を確実に(こな)すつもりでいる。


 敵戦闘機は自機よりも300m上空を飛行している為、当然彼は下腹部から食い破るようにして真っ直ぐと突き進んでいく。しかし、やはりと言うべきか敵は30㎞先にいるルーゼル機の存在を察知しており、最も近い2機が別々の方向へと旋回し始めた。残りの敵機は一矢乱れぬ動きで直ぐに反転を開始し、元来た航路を辿り引き返して行く。


 先に動いた2機は引き返す素振りを見せず旋回しながら下降し此方に向かってくる。どうやら自分の相手をするのは2機で十分だと敵は思ったらしい。そう考えたルーゼルは若干の苛立ちを覚えるものの、そこまで高い敵の自信がどれほどのものなのか試してみたいという欲求の方が強かった。



『掛かってきやがれ!』



 そう叫ぶと機外主翼部に備えてある空対空魔導ミサイルを発射しようとした。その時、敵戦闘機2機の内の1機が先にミサイルを発射し始めたのだ。



『いッ!? マジかよ……!』



 ついさっきまで旋回行動で機体上部を曝け出していた筈が1機に此方へ機体正面を向けてきた事に、敵戦闘機の高い機動力に驚愕しながらも、直ぐに魔導電波球を射出して何とか敵ミサイルを撃退することに成功する。


 敵は更に此方へ接近……する事は無く距離を取る為、急速反転し始めた。どうやら敵は近接戦闘をする気はないらしい。本来ならそれこそが戦闘機の戦い方であり、戦闘機に於ける近接戦闘など陸戦で言えば主力小銃が使えなくなった時に使う拳銃で戦うようなものだ。態々リスクを犯してまで戦う理由が向こうには無いのだ。


 こうなると慌てるのは当然、ルーゼルである。



『お、おい待て! 逃げんなよぉぉーー!』



 少しでも敵戦闘機の情報を得たいルーゼルはまるで自分を振って帰っていく恋人を追い掛ける男のように戦闘機の速度を上げ、何とか捕 捉(ロックオン)出来次第、攻撃できるようにする。しかし、相手は振り返ってくれない。レーダー画面も捕捉と消失を何度も繰り返している。時折、敵戦闘機2機は急に左右へ方向転換を始めたりと振り切ろうとしているが、それでもルーゼル機のクルセイダーズは食い下がり続ける。



(クソ……連中もコッチを探ってやがる。レーダーが殆ど使い物にならない事を知っているかは不明だが……マトモに魔導ミサイルが機能していない事は多分勘付かれたか?)




 偶に一瞬捕捉出来る時は逃さずに魔導ミサイルを発射するが直ぐに敵戦闘機を見失い、在らぬ方向へと飛翔してしまう。ならば、とルーゼルは何とか機銃による攻撃を仕掛けようとした。


 しかし、ミサイル警報機が作動。

 けたたましく鳴り響く。



『何だと……!?』



 レーダー画面に映し出される反応を見たルーゼルは勢いよく上を見上げた。そこには急降下で此方に迫り来る敵機が確かに存在していた。


 ルーゼルは舌打ちした。

 敵は2対1で相手をしてきたものとばかり考えていた。しかしそれが甘かった。敵は最初から3機いたのだ。



(上手く機能しないレーダー画面……こっち迫って旋回して来た途端に撃ってきたミサイルに捉われた事で俺は2機しか見えなくなっていた。だが実際は、敵は3機で残りの1機は更に高度を上げてから急降下で奇襲を仕掛けるつもりだったのか……クソ! してやられた!)



 直ぐに回転しながら急降下による回避に移るルーゼルだが、既にミサイルは此方を捕捉している上に魔導電波球も撃ち尽くしている。



『だぁ〜悔しいなァ畜生っ! ハッハッハッハッ!』



 案の定、放たれた敵ミサイルはものの数秒足らずでルーゼル機後尾へと接近し爆発。ルーゼル機はあっという間に爆散した。


 最後の敵戦闘機を撃墜したF-35J 2個飛行連隊はミサイルや燃料の補給も兼ね帰投していった。敵の新型戦闘機の性能と『チャフ』や『フレア』に酷似した対空防衛措置も有しているという貴重な情報と共に。


 そのF-35Jの編隊飛行姿を遠くから見つめている1人の男……パラシュートにぶら下がりながら見つめるその目はとてもキラキラと輝いている。とてもつい先程まで敵に撃墜された者とは思えないくらいに純粋な羨望の眼差しだった。



「うっひょ〜……カッケェなオイ。さてさて、取り敢えずやるだけの事はやったし。ま、お疲れ様でしたくらいの言葉はくれるだろ」



 ルーゼルはそんな事を呟きながらゆっくりと地上へ向かい落ちて行った。地上には全員ではないにせよ、何人かの部下がパラシュートで脱出している。何処かで落ち合ってから一度ランダルシアまで戻ろうとルーゼルは考えていた。



「戻ってからの事は……あー、別にそん時になってからでいいか、面倒くさいし」






ーーー

サヘナンティス帝国東方


ハーロ郊外大河川中間地点

ーーー

 地球で言うカナダのユーコン川を更に広大化させたようなこの大河川。その大河川上空100m弱の高度で数百隻にも及ぶ聖国連内レムリア帝国陸軍の第50、56歩兵師団と第36、42魔導機甲師団を搭乗させたアトモス級輸送艦は悠々と……しかし緊張感に包まれた状態で飛行していた。


 アイロンを彷彿とさせる形状をしているがその姿はより鈍重かつ力強さを放っているアトモス級輸送艦だが、搭乗している者からしたらとても心強いというわけでもない。艦艇そのものが問題では無いのだ……言うなれば兵士一人一人の心の問題だ。これから弾丸砲弾が雨霰の如き飛び交い降り注ぐ戦場をせいぜい50万強の軍勢で攻め落とそうと言うのだから無理もない。


 強い愛国心と信仰心、そして正義感を胸に抱く者であれば今まさに死と隣り合わせの戦場へ赴くといえども武者振るい程度で済むのかもしれない。しかし、そんな人がこの場にどれほどいるのだろう。多くの兵士たちはすし詰め状態の艦内で自身が扱う自動小銃や半自動小銃、携帯型対戦車砲などを握り締めてただひたすらに怯え続けるしかないのだから。


 ましてや3日前の夜半に起きた謎の大爆発事故。


 あの大事故による誘爆で魔導瘴気ミサイルの瘴気が溢れ出してしまい、多くの犠牲者が出てしまったのだ。加えて魔導転移装置の大破……修理に必要な資材も先の大爆発事故で諸々吹き飛んでしまった。もはや修理しようがない状況で限られた人的、物的資源で補給路も断たれている。


 口には出す者はいないが誰もがこう思っている……〝アレは事故では無く意図的に起きた出来事なのではないか〟と。あの大爆発事故は敵対勢力による破壊工作の方がある意味しっくり来る。


 あの大爆発事故の影響により陸軍の士気はあまり高いとは言えない。寧ろ、時が経つにつれドンドン低下傾向にある。士気低下のトドメの決め手となったのはフォイト中将が処断された事でワケの分からない怪しい政府直轄組織の人間が指揮官となった事だ。長年慕い続けていたフォイト中将の死を未だ受け止めきれない下士官や兵達も多い。



「もうじき対岸へ到着するぞ‼︎ 覚悟を決めよ、偉大なるレムリア人達よ! 優等人種たる神に選ばれし真の人間である我らのチカラを、蛮族どもに思い知らしめるのだ! 戦え! 武器を取れ! それが祖国の為‼︎神メルエラの為となる!」



 戦場にあまりに相応しくないアースホワイト色の軍制服と軍帽を身に纏う、鼻から下も黒色布地で覆われた謎の軍人が拳を上に挙げながら皆に聞こえるよう高らかに声を張り上げている。


 見た目通り素性のよく分からない連中──『聖火隊』なる帝政府直属の部隊が現れてから下士官達の代わりとばかりに指示を出している。鼓舞する為か知らないが、時折ああ言う事を口に出しながら。


 下士官達は文句の一つでも言いたいところだが、誰もそれを実行しようとはしなかった。誰もフォイト中将の二の舞にはなりたく無いのだ。帝政府直属の神衛隊……下手に逆らったり邪魔だてする様な動きをすればどうなるかはフォイト中将の一件を知れば想像に難くない。



「ったく、何が神メルエラだよ……くっだらねぇ」



 1人の兵士が聖火隊隊員に聞こえない声で苛立ちながら呟く。その言葉を聞いた隣の兵士はギョッとなった。



「ば、バカ……そんな事アイツらに聞かれたら事だぞ?」


「構いやしねぇよ……どうせ聞こえやしねぇよ。つうかお前はどう思うよ、ラピカ? あの大爆発事故をよ」


「そ、それは……証拠なんか無いわけだし……事故としか……敵の破壊工作って話もあるがそんなの何の根拠も無いんだし」


「かもな……あー、クソ」


「……苛立つ気持ちも分かるが、今はとにかく自重してくれ、イエメル」



 二等兵のラピカもイエメルが聖火隊隊員の目を盗みながら耳打ちをする。


 今回の作戦に対し強い苛立ちを覚えているのは彼だけではない。可能ならこの苛立ちを戦場にぶつけて発散したいと誰もがそう考えている。


 敵の破壊工作説を考えてはいても結局のところ、それは上の連中が弛みきっているからそうなったのであって、純粋な戦闘ではまだまだ此方が優位に立っている事自体は信じて疑っていない。



『対岸まであと3分だ! 繰り返す、対岸まであと3分!』



 艦内放送で操縦士からの言葉を聞いた兵士達はいつでも上陸できるよう準備を始める。

 教紋を模したペンダントを握り締めながら祈りを捧げる者、震えた手で鉄帽の顎紐を締め直す者、緊張と恐怖のあまり嘔吐する者、深々と深呼吸し集中力を高める者など様々だ。祖国の為、神メルエラの為、大河川を越えた先に居る敵の守備部隊を撃滅すべく自分達はこれから戦うという使命感が押しあがった。



「ラピカ! さっさと終わらせるぞ!」


「あぁ、分かってるよ、イエメル」



 互いの肩を叩き合い必ず生きて再開することを誓い合った。


 次の瞬間──



 ズガァァァァァァァン!



「ッ!? な、何だ!?」


「何の音だ!?」



 大きな振動と共に聞こえて来た爆発音。

 2人が乗る輸送艦からでは無い。恐らく、すぐ隣を飛行していた輸送艦だろう。



『敵の攻撃だ! 全員しっかりと掴まってろォ!』



 操縦士からの怒声に近い声が艦内放送で聞こえてくる。ざわめきこそ起きなかったが明らかな動揺が周囲で起きていた。それを見た聖火隊の隊員達が狼狽える兵の元へ歩み寄ると、その兵士を突然蹴り飛ばし始めた。



「うわっ!? な、何を──」


「勇敢なるレムリア兵が敵の攻撃などに怯むべからず!」


「皆の者もそう心得よ!」



 僅かな動揺さえも許さずに断罪して来た。

 それを見た周りの兵士たちは殺される事を恐れ身を縮こませながら必死に恐怖と戦う。


 その間もまた一隻、また一隻と輸送艦が沈められる音が連続して聞こえてくる。艦内故にどのような攻撃を仕掛けてくるのか不明だが、少なくとも敵は河川敷沿いに対艦砲を配備している可能性が出て来る。



「上陸した先は敵の野砲基地ってか!?」


「い、イエメル……コレってやばいんじゃ?」



 それでも輸送船団は進み続ける。

 その間も仲間を大勢乗せた輸送艦は敵の謎の攻撃により沈められ続けていた。



ーーー

ーー

 ハーロ街防衛の要たる塹壕戦線。

 その最後方の第3塹壕戦線に配置されていた陸上自衛隊第16師団隷下の地対艦ミサイル連隊の第1から第8中隊が、重装輪遠隔操作型車輌に搭載されていた25式地対艦誘導弾を止め処なく打ち続けていた。目標は大河川を越えようとしているレムリア帝国陸軍を乗せた輸送船団である。



「敵の被害は?」



 現場に居た1人の自衛官が1機のWALKERに声を掛ける。WALKERはE-770から送られてきたリアルタイムのデータを元に報告をする。



『地対艦ミサイル連隊により敵輸送船団の数は確実に減りつつあります。ですが如何せん数が多く、13秒前の時点では800隻を切りました』


「……やはり数が多過ぎる、か」


『現在当初の予定通り第2無人飛行連隊が出撃しております』


「あぁ、分かっている。だか、それでも敵船団を壊滅するには至らない……少なくとも500前後の輸送船は河を越えて来る」


『正確には506隻になるかと』


「……第1塹壕戦線に迎撃準備を怠らないよう連絡をしてくれ」


『了解』



 1人と1機のやり取りをしている最中もミサイルを撃ち続ける。瞬く間に地対艦ミサイル連隊が配置されている一帯は発射煙により白い煙の世界へ変わった。


 自衛隊員やWALKER達が忙しなく動き回る様子をサヘナンティス兵達はただ不思議そうに眺める事しか出来なかった。



「な、なぁ、アレ何してんだ?」


「多分、噴進弾の類じゃないか?」


「でも敵はまだ見えてないぞ?」


「威嚇発射か?」


「さ、さぁ……」



 サヘナンティス兵達が其々の素直な感想をぼんやり呟いていた。


 その中でアレが敵輸送艦を撃ち落とそうとしているのだと知っている者はこの場にいるサヘナンティス軍の中でも指揮官クラスの者だけであった。



(頼むぞ、ニホン国の自衛隊……不甲斐ないが、我が国の運命は君達の活躍に掛かっているのだ)



 サヘナンティス帝国陸軍のパウパル少将は心の中であの飛翔する物体が敵船団を殲滅してくれる事を祈り続けた。


 それとほぼ同時に上空5000mほどを第2無人飛行連隊の『烈空』80機が飛行していた。

 第2無人飛行連隊はハーロ街郊外の航空自衛隊基地から出撃し、第3から第1塹壕戦線の上空を通過する。そして、『烈空』は敵輸送船団に淡々とASM-4を発射し始める。



ーーー

ーー

 輸送船団の渡河まで残り1分を切り、目視でも向こう岸がハッキリと見える距離まで近づく。しかし、大した対空武装を有しておらず魔導障壁装置すらも無い輸送艦では、自衛隊の25式地対艦誘導弾に耐えられる筈も無かった。



ドォォォォォォン!


ゴゴゴォォォーー……!



「クソッ! 53番艦もやられた!」


『こ、こちら79番艦‼︎ 敵魔導ミサイルにより機関部をやられた‼︎操作不能‼︎操作ふ──』



ズガァァァン!



「畜生ッ! サヘナンティスが魔導ミサイルを持ってるなんて聞いてねぇぞ!」


「う、うわぁぁぁ! もうダメだァァ!」


『頑張れ! あと少しで対岸に辿り──』



ドゴォォォォォォン!



 地上と空からの猛襲を受けた輸送船団の被害は増大の一途を辿っていた。無線から聞こえてくる断末魔の叫びと爆発音。無残な残骸と成り果てた輸送艦は搭乗していた兵達と共に次々と大河川へ落ちていく。アレほどの爆発が起きてしまえば生き残りは絶望的であろうが、仮に生きていたとしてと落ちた先は深く流れの速い大河川。装備品の重さや艦艇の残骸、車輌などに押し潰される形で落ちてしまえば二度と浮かび上がる事はないだろう。


 友軍艦を視界に収めながら死に物狂いで対岸を目指し続けた。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 操縦士が心の奥底から溢れ出る恐怖を無理やり抑え込むよう雄叫びを上げながら操作し続ける。もはや退く事など出来るはずもない。それならばあと少しの距離……苛烈化する敵の攻撃を掻い潜り兵士達を対岸へ運ぶしかないのだ。



『総員上陸に備えろォォォ!』


「行くぞォ! 誇り高きレムリア人よォ!」



 操縦士と下士官達が声を上げる。

 それは聖火隊の連中が言っていたような言葉であったが鼓舞するという意味では正に適切であった。ポッと出の素性のよく分からない者よりも馴染みと小隊指揮官の言葉の方がずっと心に届くからである。それで一時的とはいえ、僅かに死への恐怖が薄らぐ……というよりも誤魔化せる事が出来た者も少なくない。



 ジリリリリリリリィ!


『『進めェェェェ!』』


「身を隠せる所まで移動せよ! 続けェェ!」



 死に物狂いで渡河した輸送艦が次々対岸へ着陸し、艦首部の大型観音開き式の扉が開くと、レムリア兵達が戦車群と共に次々と地上へ降りていった。中には少し河川に沈む形で無理やり着陸した輸送艦もいたが兵士達が必死に泳ぎながら何とか対岸まで辿り着いていた。その中には二等兵のラピカとイエメルも居る。2人は必死に対岸まで泳ぎ切ると肩で息をしながら互いに肩を貸し合い、死に体で何とか敵の死角になる丘陵帯へ倒れる様に身を隠した。



「し、死ぬかと……お、思った……」


「は、はは、何とか、なったな?」



 取り敢えず互いの無事を喜び合う2人だが、その気持ちも直ぐに霧散した。ここは既に敵地なのだ。敵は直ぐにでも自分達を迎え撃とうと攻撃を仕掛けて来るに違いない。慌てて小銃を構えようとするが、ラピカは対岸まで泳ぐ際、溺れかけていた為、銃を河の中へ落としてしまっている。



「ど、どうしよう、イエメル」


「ンな事言われてもよ……落ちてるモンなんて何処にも……」



 誰かが落とした銃でも無いか2人は辺りを視界が届く範囲で見渡すがやはり落ちていない。それどころかラピカと同じように武器を落としてしまった兵達がいる。彼らも武器が落ちてないか探している様子だが、中には河岸にある掌大の石を握り締める者もいた。



「い、石でも使ったらどうだ?」


「石……たって」



 途方に暮れるラピカだが他にどうしようもない。


 仕方なく彼は石を手に持つ事にした。

 何とも不恰好この上ないが自分だけでない分まだマシなのかもしれない。


 何とか対岸まで到着した輸送艦は全部で509隻。

 戦車輌250台。歩兵250,000人。当初の半分まで減らされてしまったが、輸送船団が対岸まで100mを切ると先程までの苛烈な攻撃がピタリと止んだのだ。



「河岸を確保せよ!」


「河岸を確保せよーー!」



 既に小石が犇く丘陵帯で身を屈め、敵の銃撃から身を隠していた兵士達が敵の攻撃が無いことに気付き、僅かに静謐に包まれた動揺が辺りを包み込む。



「な、何で敵は攻撃をやめたんだ?」


「なんだか……不気味だぜ」


「誰か! お、俺の御守りを知らないか!? 娘から貰った大切なモノなんだ!」



 続々と集結しつつある輸送船団の中にはジィードリヒ特務中将が乗る輸送艦も居た。既に指揮戦闘車へ搭乗しながら地上へ降りて来たジィードリヒは、開放している銃座ハッチから上体を晒しながら周囲を見渡した。何やら訝しげな表情を浮かべながら目を細める。



「静か過ぎる……敵の守備隊が控えているとばかり思っていたが……ふぅむ」


「見たところトーチカも見当たりません」


「内地にて迎撃する腹積りでは?」


「……一先ず、ここで一度部隊を立て直す。輸送船団は既に撤退しつつあるようだが……見たところ無事に辿り着いたのは250,000程か?」


「ハッ。恐らくは……その通りかと」


「半分も兵力を失ったか……まぁ良い。我らには神メルエラがついているのだ」



 ジィードリヒは大きな不安を抱く事なく部下達に各隊の監視を命じつつ部隊の再編も指示した。地獄の様な渡河であったがこれほどの兵力があればまだまだ勝機はあるというのがジィードリヒの見解だ。それに自分達には神メルエラの加護があると信じているのも大きな要因の一つとも言えるだろう。



「さて……先ずは魔導機甲師団を先頭に進軍して行くべきであろうな」



 小石だらけの丘陵帯を越えれば、後は土剥き出しだらけで所々適当な草木が生えている平野が広がるばかり。多少の凹凸はあるが進軍に支障はきたなさい程度だ。この平野を越える事自体も問題ではない。魔導ミサイルを撃ってこないのは恐らく撃ち尽くしたからだろう。



(でなければ撃ってこない説明が付かん。まぁサヘナンティスに噴進弾だけでなく、魔導ミサイルをも実用化させていたとは驚いたが、やはり劣等人種如きではあの程度が精一杯と言った具合だろうな)



 そう考えた時だった。


 ドォォォォォォォォォン!


「うわぁッ!?」


「何だァ!?」



 背後から聞き覚えのある爆発音が同時に幾つも聞こえてきたのだ。兵士達は一斉に地面へ伏せながら敵を探している。


 慌てて爆発音が聞こえた後方へ振り返るジィードリヒの目に映ったのは、引き返していた生き残りの輸送船団が次々と爆散し大河川へ落ちてゆく光景だった。最も遠くまで引き返していた輸送艦から河岸方向に居る自分目掛けながらまるで迫り来る様に次々と撃墜されて行く。



「これは……部隊編成どころではないな」



 ジィードリヒは拳銃を引き抜きそれを真上に向けて発砲した。


 ダァン! ダァン!


 背後で撃ち落とされている生き残りの輸送船団に呆然と動揺する兵達の注目を此方に集め声を上げる。



「もはや後には引けず! 我らが生き残る為にも前進あるのみである! 進めェェェェ!」



 彼が叫ぶのと皮切りに今度は河岸の地上へ砲弾が着弾する。土煙を勢い良く巻き上げながら耳を劈く強烈な炸裂音が鳴り響き、凄まじい衝撃波がその近くにいた兵士達を悉く吹き飛ばした。



「うわぁぁぁ!」


「砲撃だァァ!」



 誰かがそう叫んだ。それを聞いたかどうかは定かではないが河岸にいた兵士達は一斉に丘陵帯へ身を屈めながら急いで前進を始めた。匍匐前進をする者もいるが、砲撃は一度だけにあらず。河岸全域に於いて先程の砲撃が矢継ぎ早に一斉に襲い掛かって来たのだ。つい先程までの不気味な静寂など嘘のように此処ら一帯は一瞬で地獄の強襲上陸作戦さながらの地獄と化したのだ。


 鳴り響く轟音と爆発音、そして兵達の怒号と絶叫。どこから間も無く襲いくる敵の砲撃を受けた兵達の身体は爆発四散し、手脚などが吹き飛ぶ者は勿論、最早原型すら残らずに消滅した者も現れている。


 レムリア軍とてただでやられるわけにはゆかず、『破壊型重戦車ハヴァリーIII世』は75㎜砲を内地側へ向けて発砲を開始した。

 敵砲撃の直撃を受け、爆発してしまう車輌も現れるがそれでも負けじと魔導機甲師団は自慢の主力戦車の砲撃を撃ち続けた。


 これを機に『強襲型軽戦車シエルーヴァV世』を主軸とする軽戦車部隊が次々とその高い機動力を活かす為、一気に丘陵帯を越えて内地へと出陣を始める。



「今だ! 丘陵を登り平野へ出ろ!」


「「おぉぉぉぉぉぉぉォォォ!」」



 指揮官の命令により続々と重軽戦車部隊に追随しながら250,000もの各歩兵師団が各部隊に分散して敵陣へ突き進み始める。


 日本・サヘナンティス連合の第1塹壕戦線は迫り来る敵兵と敵戦車輌の波を迎え討つべく攻撃を開始した。


陸戦のプレッシャーに負けそうですが何とか頑張りたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 行くも地獄(制圧砲爆撃)、退くも地獄(督戦 後ろ弾)・・・・>残存上陸部隊 なかなか悪運強いルーゼル、帰還しても難癖付けられて敗戦の責任転嫁させられそうなので、日本側…
[一言] このルーゼルさん、陽気ですなぁ。生き残りそう。 >自分達には神メルエラの加護があると信じている 一方ジィードリヒの方は……どこまで進めますかね。
[良い点] 更新乙です ドッグファイトでF-35と勝負しようとするルーゼルでしたが、哀れ3機のF-35に翻弄され機を撃墜されてしまいましたね。 でもそのほうが幸運だったかもしれませんね。F-35に死角…
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