第150話 哀れなるビルゼー艦隊
色々と大変ですがそれは皆同じこと…
自分1人だけではないと心に刻みながら頑張ります。
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サヘナンティス電撃侵攻艦隊
大河川以東450㎞地点
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日本の大陸間弾道ミサイルにより壊滅的被害を受けたサヘナンティス方面レムリア帝国内聖国連航空軍の大連合艦隊は、航空軍指揮官のビルゼー中将を中心に残存艦艇90隻を率いて侵攻を開始していた。
残存艦艇といえど90隻もいれば十分な艦隊であり、サヘナンティス帝国程度が相手なら負ける可能性は低い。しかし、戦争に絶対は無い……レムリア帝国軍はランダルシアで起きた謎の大爆発事故の原因が未だに分かっていない。もしこれが敵の破壊工作によるものであったなら、敵は戦術的勝利を勝ち得たと言う事になる。
偉大なる神メルエラの祝福と加護を受けている栄えあるレムリアが外界の異端国家、劣等人種に遅れを取るなどと言う事はとても許容出来るものでは無い。ましてや、家柄を重んじる貴族出の将校であれば尚更である。
1000隻を超える大艦隊を任せられたにも拘らず、その大半を壊滅させてしまった貴族将校ビルゼーは、何とかこの大失態を帳消しにする為、無理矢理に陸空から電撃侵攻を敢行する事で敵に王手を決めようと企んでいた。
(サヘナンティス軍は既に虫の息……ニホン国の軍隊もいるようだが物の数ではない。鎧袖一触で蹂躙出来るはずだ)
彼は「まだ大丈夫……まだ大丈夫」と座乗艦『ビルマルク』の指揮官席に座していた。やや前のめりの姿勢で膝に両肘を立てて寄りかかり両手を口元に当てながらブツブツと独り言を話している。
(敵戦闘機も我が侵攻軍最高の戦闘機乗り……『撃墜王』ルーゼルが向かった。必ずや敵を殲滅し我が艦隊を護ってくれる!)
特に大した根拠の無い自信でほくそ笑むビルゼーだが、その縋り付いたような脆い自信は通信士からの叫ぶような報告により崩れかけた。
「ッ!? 3時の方向、より微弱な反応あり!! 距離200㎞地点! こ、この速度は……恐らく魔導ミサイルかと!!」
「正確な数は……は、反応が微弱な為、詳細は不明!おおよそですが60は超えます!」
「なッ!? ぜ、絶対に迎撃するのだ!! おい、戦闘機部隊は何をしている!?」
指揮官席の肘掛けを強く叩き怒鳴るビルゼーに、困惑した様子で通信士が答える。
「そ、それが……向こうも現在交戦中と──」
戦闘機部隊は戦闘機部隊で現在敵航空勢力と交戦中……という事は現在此方に向かっている魔導ミサイルは敵の別働隊である可能性が非常に高い。仕方がないとはいえ魔導ミサイルを撃ち込んできた敵の別働隊は此方で対処するしかない。
ビルゼーは指揮官席から立ち上がり腕を振り翳しながら指示を送る。
「全艦魔導障壁展開最大出力を維持せよ!! 対空戦闘用意!!」
艦隊は高速で迫り来る敵魔導ミサイルを迎撃する為、13㎜2連装対空機銃と28㎜対空機関砲の速射準備を迅速に行い始める。特に高い対空戦闘能力を有する駆 逐 艦と軽巡洋艦は戦艦や空母、重巡洋艦群を護る為、輪型陣形を敷き始めた。
「対空戦闘用意!」
「対ッ空ッ戦闘ォー」
対空銃座で既に待機している機銃士達は半自動魔導照準器を作動させ、飛翔して来る敵魔導ミサイルを捕捉しようとする。しかし、肝心の魔波反応があまりにも微弱過ぎる為、中々目標が定まらず、照準盤のスクリーンには目標捕捉のカーソルが点滅するように何度も捕捉と消失を繰り返していた。これでは撃ったところで大した効果は出ないだろう。
この現象に機銃士達は舌打ちする。
「クソッ! 反応が微弱過ぎる!」
「距離50㎞を切りました!」
「ッ!? やるしか無いか!」
このままでは敵の魔導ミサイルを受けてしまう。魔導障壁があるとはいえ過信は出来ない。戦艦級ならともかく、駆逐艦などの小型艦は40㎝砲や魔導ミサイルが1発でも当たれば魔導障壁の臨界点を一瞬で超え、艦艇は崩壊ないし撃沈されてしまう。
ならばいつまでも手をこまねいている様な真似は出来るはずもない。
「撃てェェーーー!!」
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!!
ドドドドドドドド!! ドドドドドドドド!!
号令と共に全艦隊が一斉に飛翔して来る敵ミサイルへ向け、紫色の光の雨が一斉に襲い掛かった。
周囲にけたたましい轟音と破裂音が響き渡る。
28㎜対空機関砲は半自動魔導照準器のみで捕捉し手動で対空射撃を実施する。しかし、9.5㎝対空高射砲は魔波反応が半自動魔導照準器と魔力看破対空防御システムと連動し目標物を捕捉後、その飛翔速度と本艦との距離を瞬時に計算するよう設定されている。それらの情報は装填されている調整型時限信管の砲弾へ組み込まれ、発砲後に目標から事前に設定された距離まで近づくと調整型時限信管によって炸裂し、120個の小型徹甲弾をばら撒く。個々の小型徹甲弾の威力は低いが4秒に1発という速射による、数の命中で目標物を破壊する仕様となっているのだ。
尤も魔波を満足に感知できない目標物に対してどこまで有効なのかは定かではないが、反応さえあれば優秀なのは間違い無いのだ。
反応さえあれば……だが。
「魔導ミサイル尚も接近中!!」
「撃って撃って撃ちまくれ!!」
時折、魔波感知した9.5㎝対空高射砲が放った調整型時限信管の砲弾の幾つかが作動し数発を撃墜する事は可能であったが、それでも45発以上のミサイルはもう迎撃不能圏域まで接近していた。
それら敵ミサイルは空母打撃群旗艦『フォーデン』を含めた艦艇へと向かっていく。
「そ、総員衝撃に備えろぉぉ!!!」
『フォーデン』のガットー艦長の叫び声に従い艦橋内の兵達は掴まれる場所に掴まり恐怖の中直ぐに訪れる死の脅威に備える。
次の瞬間、敵ミサイルが次々と本艦の魔導障壁に激突し巨大な爆発が巻き起こった。その振動は魔導障壁越しでもしっかりと伝わって来る。最初の1、2発は何とか魔導障壁の臨界点を突破せずに持ち堪えたが、直ぐに襲い掛かる残りの魔導ミサイルにより魔導障壁は脆いガラス細工の様に砕け散ってしまう。そして、吸収し切れなかったエネルギーが艦全体に襲い掛かる。
グオォォォォォォンッッ!!!
ズズズゥゥゥゥーーーーンッ!!
「うおぉおおおお!?」
凄まじい爆発と激しい振動に揺れる本艦。近くの物に掴まっていたお陰で何とか床や壁に叩きつけられずに済んだガットーだが、艦橋の前面ガラスから見えた光景を見て愕然とした。
「あ、あぁ……神よ、貴方は何と、残酷な……!」
そこには黒煙と炎を上げながら撃沈されている
本打撃群の友軍艦艇の姿が映っていたのだ。敵ミサイルにより真っ二つに裂かれたまま墜ちる艦艇もあれば、原型すら分からない形状で最早残骸に近い姿をした艦艇もある。
それはガットーの座乗艦であるフォーデンも例外では無く、滑走路甲板はその鋒すら見えなくなるほどの黒煙と炎に包まれてしまい、徐々に高度が落ちているのも確認できた。
「が、ガットー艦長! この艦も墜ちます!」
悲痛に声を上げる部下に現実へ呼び起こされたガットーは直ちに退艦命令を下す。
「総員へ通達せよ!直ちに──」
『こ、こちら機関室!! 魔導機関と浮力機関共に機能停止!! ま、間も無く墜落します!!』
「くッ……む、無念なり!」
ガットーががくりと膝を床に着けた瞬間、一気にフォーデンの高度が下がり始めた。浮力機関には反重力魔導機能も備わっている為、浮力機関が止まった事でその機能も同様に停止してしまったのだ。
それにより凄まじいGが艦全体を襲い掛かってきた事で、生き残っている兵達は天井部に張り付く形で身動きが取れなくなってしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「助けてェェ!」
「死にたくないィィ!」
艦橋内は断末魔の叫び声に包まれる。
仲間や部下達にこの様な残酷な運命を辿らせてしまったという罪悪感を抱きながらガットーは「無念ッ!」とだけ呟くとそのまま艦と共に地上へと激突してしまった。
唯一の航空母艦『フォーデン』の撃沈は旗艦『ビルマルク』に乗在しているビルゼーに大きな衝撃を与える。
「ふ、フォーデン……撃沈……」
「なん、という……」
通信士からの報告を受け目の前が真っ暗になりそうになった。敵は真っ先に戦争の戦略上、要とも言える航空母艦を狙った、それもレーダーからは映らない圧倒的此方の射程圏外からだ。正確に識別し、そして強力無比なミサイルを持って撃滅する……これが如何に危険な事か、戦争経験が豊富では無いビルゼーでも理解出来る。
彼は指揮官席から立ち上がり血走った目で叫び声を上げる。
「敵は何処だァァ! 何処から魔導ミサイルを撃ってきた!!」
心の底から湧き上がる恐怖心を押し殺すために放った怒声に通信士やレーダー士は答える。
「い、未だ敵魔導ミサイルの発射地点特定出来ず!!」
「魔波が微弱故に特定難しくッ! ……あ、圧倒的索敵圏外としか言いようが」
「偵察機を飛ばそうにも空母は既に失われております!!」
つまり今はどうする事も出来ないのだ。
再び襲い来るであろう敵魔導ミサイル群から防空措置を取ることしか出来ない。敵魔導ミサイルが3時方向から来たというが、本当に敵がそこにいるという確証もない。
「ど、どうすれば良いと言うのだ……なぁ、テペル艦長」
力無く項垂れながら指揮官席へ腰掛けたビルゼーは、傍で佇み続けている『ビルマルク』艦長のテペルへ縋るような、砕かれた気持ちで問い掛けた。
「今出来ることやり遂げましょう……目の前の事を、ただひたすらに」
「……あぁ、そうだ、な。それが──」
「12時の方向より多数の魔導ミサイル接近!! 距離180㎞!!」
突然のレーダー士からの報告により艦橋内が再び慌ただしくなる。
「た、対空戦闘だ! 絶対に近づけさせるな! 空母部隊の二の舞になるぞ!!」
再び侵攻艦隊は迫り来る破壊の権化を撃墜するべく、対空戦闘による紫色の光の雨を放ち始める。
ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!
ドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドド!! ガガガ!!
ドンドンドンドン!!
鳴り響く対空機関砲と対空高射砲の炸裂音。
遠くから1発、また1発と撃墜された敵魔導ミサイルの爆発の光と爆音が見え聞こえする。
しかし、それでも迫り来る敵魔導ミサイル……その数90発以上はその数を殆ど減らす事なく、とうとう迎撃不可圏域まで侵入を許してしまう。
その僅か数秒と経たぬうちに80発以上の敵魔導ミサイルが艦隊各艦艇の魔導障壁に衝突。
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大河川以西上空12000m。
在沙日本国航空自衛隊第6航空団隷下3個飛行隊のF-3 30機が一矢乱れぬ編隊航行をしていた。
『……命中。E-770AWACSより入電、敵艦13隻撃沈を確認』
『了解 このまま飽和攻撃を敢行させるぞ』
『『了解』』
3個飛行隊F-3部隊の隊長機から命令により再度|24式空対艦ミサイル《A S M - 4》を80発以上発射させる。現空域に居るのはF-3だけではなく第1無人飛行隊も随伴していたのだ。
対艦無人攻撃機『烈空』
日本が朝鮮紛争以降ごく少数だが製造した所謂、無人戦闘機である。戦闘機と偏に言ってもその武装は空対空戦よりも空対艦戦に特化だ。建造に必要なその他資材の確保が安定化しつつある今、ここ最近になって漸く量産体制が充実化。日本政府はそれらを、生命線であるドム大陸近辺への配備よりもサヘナンティス帝国と東方大陸にある龍人族の国、ドラグノフ帝国と獣人族の国、ヴェルディルへ優先配備させている。時間があればあと数ヵ国にも配備する予定であったが、生産が間に合わず現時点で以上3ヵ国への国外配備が完了していた。
そして、今この空域にて作戦行動を実施している『烈空』の数は60機にも及んでいる。単純計算で少なくとも90発の空対艦ミサイルを撃ち込むことが可能なのだ。
現在の敵残存艦艇は30隻を切ろうとしている。
『次の第3斉射で決めるぞ……発射』
隊長機からの命令により此度3度目のミサイル斉射が行われる。『烈空』もAWACSからの指示を受けミサイルを発射した。
正に蹂躙。
正に数の暴力。
前世界ではアメリカ合衆国は勿論、ロシア連邦や中華人民共和国、インド共和国ですら様々な問題から満足に出来なかった無人機戦略をこの異世界にてやり遂げている。
これが結果的に良い事なのか否かは、後世が証明する事となるやもしれない。
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サヘナンティス電撃侵攻艦隊は航空自衛隊のF-3部隊と対艦無人戦闘機『烈空』部隊による飽和攻撃を受け、壊滅的被害を現在進行形で出し続けている。
残存艦艇はすでに10隻以下となってしまった。
その中にはビルゼーの『ビルマルク』もいたが、既に魔導障壁は使い物にならず、数発のミサイル攻撃を受け満身創痍の状態で、とても戦闘の継続など不可能だ。
「お、おの、れぇ……このような屈辱を!」
敵の攻撃により深傷を負ってしまったビルゼーは、床に這いつくばっていた。もう立ち上がる気力は無いが恨みつらみを吐き散らす力は何とか残っていた。死屍累々と化した艦橋内に生き残っている者は他にいない。
『き、機関室の消火間に合わず!!』
『重防区画でも大規模な火災発生!!』
応答する者などいない通信端末から艦内各所の被害状況を悲鳴に近い声で報告している。
「わ、私は……ビルゼー……だぞ……大貴族ビルゼー家が主……ナット・カ・ビルゼーなのだぞ! それがこんな……こんな……異教の蛮族どもに!」
認めたくない……認められない……そんな現実を悪態を吐くビルゼー中将だが、そのまま火災による火薬庫への誘爆により自身の座乗艦『ビルマルク』と共にその最期を迎えた。
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一方、渡川を目指す総勢5万もの軍勢を乗せたレムリア帝国陸軍輸送船団は、電撃侵攻艦隊の壊滅的被害を受けているという報告を受けていた。
『敵魔導ミサ……! 壊滅! 被害は!』
「……ジィードリヒ殿、如何なされる?」
本来の陸軍指揮官だった故フォイト中将に代わり全陸軍を指揮している『聖火隊』所属のジィードリヒ特務中将は特に気に焦るでもなく、指揮棒をパシン、パシンと自身の掌に軽く打ち付けながら周囲に居る自身の部下である聖火隊の皆々へ告げる。
「この報告は兵達に告げる必要はありません」
「ほう……」
「では……暁に散れ、と?」
「そうです」
最後に強くパシン! と打ち付けるとジィードリヒは高らかに部下へ告げ始めた。その動きを見た聖火隊の隊員達は直様、踵を一斉にカッと鳴らし直立の姿勢をとる。
「我らが成すべきはもはや1つ! この身、この魂を神メルエラへ捧げる為、最後の一兵となりうるまで敵陣へ向けて突撃を敢行すべし! 我ら栄えある誇り高きレムリア人はその『信仰心』と『忠誠心』を武器に変え、敵を殲滅するのです! これ即ち神の御意志なり!」
「「神の御意志なり!!」」
「「神の御意志なり!!」」
決して広くない艦内に響き渡る発声には微塵も恐怖のかけらなど存在していなかった。ジィードリヒはこの光景がさも当たり前であるかのように満足げに頷くと、艦内放送が聞こえて来た。
『間もなく対岸まで後3分!!』
ジィードリヒは艦内に積まれている指揮戦闘車へ乗り込むと深々と軍帽を冠り、そして呟いた。
「神は常に……我らと共にあり」
話はそこまで進みませんがこの文字数の方がそれなりのペースで投稿出来ると思います。