第148話 サヘナンティス侵攻その5
暑い夏が続いてます。
仕事もしんどい…クーラーはもう必需品です。
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ハーロ街より東へ100㎞
第一塹壕戦線
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レムリア帝国陸軍の陸からの侵攻に備え、自衛隊の土木作業機材やWALKER達による大規模に設営した大塹壕戦線。その直径はハーロ街の東側全体に匹敵する。これほどの大工事をものの短期間で実施した自衛隊のインフラ技術にサヘナンティス軍はただただ脱帽していたとの事らしい。それも1つだけではなく、二重、三重と塹壕戦線を築き上げたのだ。
1番外側の第一塹壕戦線の手前2〜3㎞に至るまでビッシリと有刺鉄線網が敷かれている。また対戦車車輌のバリケードブロックも抜かりなく設置。第一塹壕戦線は等間隔にミニミ軽機関銃を設置、土嚢を使った簡易型のトーチカを設営し敵歩兵部隊の掃討を行う。
後方の第二塹壕戦線には155㎜榴弾砲や30式装輪自走155㎜榴弾砲が多数配置されている。敵と敵戦闘車輌は有刺鉄線網とバリケードブロックに阻まれながら機関銃と榴弾砲の雨霰を真っ向から受ける形になる。陸上からの侵攻に限ればこの第一塹壕戦線の突破は困難を極めるだろう。
そして第3塹壕戦線には主にサヘナンティス陸軍が配備されている。最も前線から離れている事に不満を口にするサヘナンティス兵は大勢居た。しかし、レムリア軍と真正面からぶつかるのがあの無機質な命を持たない兵士――WALKERを始めとする自衛隊の無人機群である為、「下手に犠牲者が出るよりマシか」と兵士達は素直に引き下がるのだった。
◇日本国
陸上自衛隊(在沙駐屯地)
・第1無人機甲師団
・第2無人機甲師団
・第5無人機械化師団
・第7無人機械化師団
・第16師団
航空自衛隊(在沙駐屯地)
・第5航空団
・第6航空団
・第1無人飛行隊
・第2無人飛行隊
海上自衛隊(在沙・港湾都市アロスカ駐屯地)
・第5潜水隊群
・第5護衛隊群
・第7護衛隊群
・第6航空群
この第3塹壕戦線にも自衛隊の兵器が配属されている。地対艦ミサイル連隊の重装輪遠隔操作型車輌に搭載された25式地対艦誘導弾である。目標はレムリア軍の輸送艦で、敵が大河を越える前に出来るだけ撃ち落とす事を主目的としている。また状況に応じ敵艦に攻撃を加える事も視野に入れている。
「あ、アレがニホン軍の兵隊か?」
「機械兵……で、でも生身の日本兵も居たぞ」
「ニホンはヴァルキアやレムリアと同じ異世界から来たと聞いたぞ。多分だが、俺らとはもう戦争の概念が全然違うんだろうな」
「人のカタチをしてるのに生気がまるで感じないのは兵士としては理想だろうよ。でもなんか、気味悪いよな」
たまたま興味本位で第1塹壕戦線の様子を見に来ていたサヘナンティス兵は、精巧で頑強なWALKERが武器を持ち塹壕で微動だにせず身構え待機している光景は心強くもあり、同時に不気味さも感じていた。
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「だぁぁぁぁクソッ、クソクソッ! このポンコツ! オンボロの鉄屑! 劣悪飛行石品が!」
第3塹壕戦線の後方約30㎞地点上空にてサヘナンティス帝国が誇る大型輸送艇『デール』の輸送船団が飛行していた。まるで樽を横に倒したようなずんぐりむっくりとした機体に大小無数のプロペラが推進用含め取り付けられている。正直、洗練されたデザインとはとても呼べないが一度に200名と戦車1輌分を運ぶ事ができる。
その中の一艘の操縦士であるサヘナンティス兵の1人が怒鳴りながら操縦桿やメーター機器を壊れない程度に殴っていたのだ。浮力調整士のサヘナンティス兵が呆れながら彼を諌める。
「怒鳴ったってかわんねぇよ。諦めて現実を受け入れろ現実を」
「うるっせぇ! 俺は飛行艇乗りとしての生き方に誇り持ってんだ! それなのに……畜生がッ!」
「その怒りは敵に向けてくれよ。味方のニホン軍じゃなくてな。あ、自衛隊だっけか?」
「知るかよクソが!」
彼が怒る理由は同じ空にあった。
通信士が無線に入ってきた報告を口に出す。
「おい、自衛隊からだぞ。『今より本隊の上空を通過する 注意されたし』……だとよ」
「あぁん!?」
怒っていた操縦士は窓へ身を乗り出しながら上を見上げた。すると本艇のかなり上空を日本の大型輸送機『山鯨』の輸送隊群が通過し、あっという間に通り過ぎて行った。
操縦士は飛び去っていく『山鯨』の機尾を憎々しく睨み付けながらまた大声を上げる。
「だァァもう! 何でこのデブスケ飛行艇よりもずっとデケぇくせにあんなに速ぇんだよ!」
「それぐらいニホンの航空技術が優れてるって事だろ?」
コックピット内は目的地に到着するまでの殆どを男の罵声が響き続けていた。操縦士以外の乗組員達は理不尽と知りながらも自衛隊に対しても少しばかり苛立ちを覚えたという。
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塹壕戦線の後衛野営基地では無数のテントの他に在サヘナンティス駐屯地内陸上自衛隊第2無人機甲師団の30式装輪自走155㎜榴弾砲が第1塹壕戦線が突破されたときに備え等間隔で配置されている。加えて10式戦車と新型の無人駆動を可能とする『25式戦車』も配備されていた。ここまでの重野砲や戦車を有していないサヘナンティス帝国軍はその力強い佇まいとその数にただ圧倒されていた。
「なるほど。では我が戦車隊の出る幕はない、という事でしょうか? パウパル少将」
作戦会議を行っている野営テントの中で1人の将校が第5軍団の指揮官であるパウパルに話しかけていた。
「そうだ。我がサヘナンティス軍は敵が第3塹壕戦線まで攻め込んで来た時に備える。ハウジー少佐、コレはもう決定事項だ」
「そんな……納得出来ません。既に多くの国民や友軍たちが殺されているのです。なのに敵と戦う機会を同盟国とは言え他所者達に与えるなど!」
「納得出来るかどうかではない、納得するしかないのだよ、ハウジー君」
「ッ!……ちっ」
サヘナンティス帝国陸軍第5軍団第455戦車部隊隊長のハウジー少佐は彼の言葉に納得がいかなかった。友軍達の仇であるレムリア軍は目の前にいる、なのに上はその機会を他国の軍に譲ると言うのだ。
「……失礼します」
ハウジーは敬礼をすると乱暴な足取りでテントから出て行った。彼のように不満を訴えてくる士官は少なくない。既に数人がパウパルに抗議の意を伝えに来ているのだ。
テントから出たハウジーの前を丁度、自衛隊の25式戦車が通りかかる。彼はそれを恨めしそうに睨み付けて見送った。
「ケッ……何が同盟国だクソが」
実は自衛隊がサヘナンティスに駐屯地を敷く際、「日本の実力の一端でも見たい」というサヘナンティスの将軍、将校達からの強い要望もあり小規模ながら急遽実弾演習を実施していたのだ。
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サヘナンティス側の「同盟国とはいえ弱ければ話にならない」「足手纏いだけはやめてくれ」と言わんばかりに列強国としての威厳と余裕の態度が現れていた。明らかに自衛隊を格下に見ているのがハッキリと理解出来るサヘナンティス側の態度に対し日本側は至って冷静だった。「では演習を実施しましょう」と言う日本側の提案にサヘナンティス側は最初驚きこそしたものの、直ぐに元の態度へ戻り「面白い」とばかりに日本の提案を満面の笑みで受け入れた。
日本としては元々ある程度の実力を理解させて貰った後で対レムリア戦に向けた作戦を練る予定であったので丁度良かったのもあった。場所はサヘナンティス領の陸上軍事演習場で行われた。サヘナンティス側が「列強とはなんたるかを見せてやろう」と先制を名乗り出てきたので日本はそれを素直に譲り、サヘナンティス軍主力歩兵銃の紹介と射撃演習が実施された。
『パレッカ16号歩兵銃』
5発装填可能なボルトアクションライフル。
銃身が完全に木製ハンドガードに覆われており唯一露出している銃口部は丸く潰れた様な形状をしている。実弾射撃では200m先にある的を見事に撃ち抜いていたが5発中4発が的の縁側部分であった為、かなりギリギリである。その反動も中々強い為、熟練の腕でも射撃時の反動で銃身がブレてしまう事も珍しくない。銃床部には覆うように金属プレートが嵌め込まれている。
イギリスのSMLEに酷似している。
『ピレッカ9号軽機関銃』
半円形弾倉に装弾数20発。サヘナンティス帝国初の携帯型機関銃で命中精度は良くないが近距離には特化しており銃弾をばら撒き弾幕を貼ることを目的としている。旧来、機関銃はロイス軽機関銃の様にそれなりの重量を有するのが主流と考えてきたがサヘナンティスの技術力の真価を問われる試みは見事に達成できた。しかし、かなり高度な技術が求められる為、量産体制にはまだ漕ぎ着けておらず、実際に使用した兵士達からもあまり良い評価は出ていないらしい。
形状はショーシャ軽機関銃に酷似。
『ブルカ重機関銃』
毎分500発で射程約2000m。サヘナンティス帝国が誇る重機関銃で、主にトーチカや塹壕戦などに配備される事が多い。氷属性を持つ魔鉱石を加工し銃身部分に組み込む事でほぼ断続的な連続射撃を可能としている。しかしかなり重量がある為、牽引するときは車両か馬が必須であり、人力のみで運ぶとなれば5人〜8人も要する。
形状はPM1910重機関銃に酷似。
サヘナンティス側の陸上兵器群の演習は丘の上を占領している敵軍の制圧を想定した内容だった。適当に掘られた塹壕から身を乗り出すように配置された敵兵を模した人形に向けて制圧を目指し前進するサヘナンティス陸軍。重機関銃が援護射撃で弾幕を張りながら歩兵達が身を屈めて丘の上を目指す。一定の距離まで接近すると兵士達は射撃を止め一気に突撃態勢に移った。
日本側が驚いたのはこの瞬間だった。
突撃態勢に移る際、サヘナンティス兵達は銃剣を取り付けるのではなく銃を逆さにして銃身部を握り始めた。そして、サヘナンティス兵達は歩兵銃を振り上げて喊声を上げながら一斉に丘の上目掛け突撃を開始した。丘の上まで登ると兵士達は歩兵銃を敵兵に見立てた人形目掛け何度も振り下ろしている。
確かに白兵戦の際、銃床を鈍器として扱う事自体は決して不思議な事では無い。だが、銃剣は一切使わずここまで積極的に銃を鈍器、というより棍棒として扱うのはかなり新鮮な光景だ。蛇足と思われていた銃床部の金属プレートもアレを見れば納得である。
丘の上の制圧が完了し、サヘナンティス軍側の演習が終了する。
拍手が場内に響き渡り、色々な意味で驚く日本側を見て、サヘナンティス側は自国の兵士たちと兵器の威力と優秀さに感嘆しているのだと勘違いしていた。また、中にはこの後行われる陸上自衛隊の演習が際立た無くなってしまったのではと内心申し訳なさそうにする者もいた。
そして、陸上自衛隊の簡易的な演習が始まる。
サヘナンティス側の面々は陸上自衛隊の演習が始まって10分と経たない内に、その自信に満ち溢れていた顔は瞬く間に真っ青に変わった。
Combat Force Walker…通称『CFW』の文字通り人間離れした流れるような動きであっという間に丘の上を制圧してしまう。その動きは熟練兵士の如き洗練されており、各種装備している武器も臨機応変に使い分けていた。個々が持つ小銃の性能の高さもだが、何より個人が装備できる対戦車兵器の存在にサヘナンティス側は驚愕していた。丘の上の制圧にサヘナンティス側が用した時間は30分。自衛隊側は5分足らずでその素早さは勿論、攻撃の苛烈さに置いても圧倒的だった。
続いて行われたのは戦車部隊による射撃演習。
内容は3㎞先の的に当てると言うもの。
最初は勿論、サヘナンティス側である。サヘナンティスの将軍達は今度こそ自分たちの優位性を示す為、精鋭中の精鋭の戦車部隊を投入させた。
『ドラッカル18号戦車』
全長6.8m、全高3.3m。重量15t、速度25㎞。
主砲52㎜15口径戦車砲。最大装甲22㎜。乗員4名。キャタピラではなく装輪型であるがこれがサヘナンティス陸軍が誇る戦車である。野外地は勿論、市街地でも活躍できる万能にして最強と豪語するドラッカル18号の形状は主砲部が小型で装輪型以外はKV-2に酷似している。
5輌の戦車隊が整列すると3㎞先の的目掛け一斉に52㎜戦車砲が火を吹いた。見事に命中したのは2発のみだがこれでも精鋭部隊だからこそなせる技であるとサヘナンティス側の将軍達は満足気に手を叩き拍手を送った。
次に現れた陸上自衛隊の主力戦車『25式戦車』。
25式は見た目こそ10式と大差ないがその中身は一味違う。完全な無人化である。遠方からの遠隔操作は勿論、高度AI機能を搭載しており自己学習機能による戦況把握と迅速且つ的確で合理的な行動が可能となっている。
超高度なC4I機能とFCSによる精密且つ正確な射撃能力は瞬く間に的を55口径120㎜滑腔砲の凄まじい威力で次々と粉砕した。また、移動しながら目標を攻撃するスラローム射撃を見せられた時のサヘナンティス側の将軍達が唖然としながら次々と席から立ち上がり軍帽を脱いだらしい。
「勝てる要素が見つからない……」
すっかり意気消沈してしまった将軍達の各々がこのような言葉を述べていた。席に着くまでの自信に満ち溢れた顔つきも終盤はどんよりと曇りがかった顔をしていた。
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その場には将軍以下のその他将校らも下士官達も同席しており、その中の1人にはハウジーも居た。日本の自衛隊の実力は嫌と言うほど理解している。だが、納得は出来ない。まるで自分達の訓練とこれまで築き上げてきたモノを否定されたような気持ちになるからだ。
(あぁ分かってるよクソ! これまで何度もレムリア軍と俺ら陸軍がぶつかって惨敗を喫してるのは! でも、それでも俺たちは俺たちの手で友軍達の仇を取りてぇんだよ!)
自衛隊は勿論、敵であるレムリア軍の戦車にすら敵わない事も彼は理解している。戦術ではどうしようもない位の隔絶した力の差があるのだ。恐らく、レムリアの戦車隊に真っ向から戦えるのは自衛隊の戦車隊くらいだろう。自分達は最終防衛線を守る要と呼ばれているが実際は邪魔者は「前線に立つな」と言う意味である事を彼は誤りなく受け止めていた。
無論、己の意思を優先してまで足手纏いになろうなどとは彼も思っていない。そのくらいの理性は残っている。
「オイ自衛隊、友軍達の仇は任せたぞ! 逃げ出したら承知しねぇからな!」
彼は通りゆく25式戦車の後ろ姿に向かって叫んだ。無力な自分が言える立場ではないがこうでもしないとやってられなかったのだ。
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サヘナンティス帝国 某所
レムリア帝国内聖国連航空軍
サヘナンティス電撃侵攻艦隊
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数時間後、ハーロ街手前にある大河川より更に東へ500㎞地点上空。
3日前の日本によるICBM爆撃により壊滅的被害を受けていたレムリア帝国内聖国連航空軍は残存艦艇90隻という3個規模の艦隊を率いてハーロ街へ向けて侵攻を開始していた。この残存艦隊の提督であるビルゼーは鬼気迫る眼光で艦橋内の司令席に座り前面窓を睨んでいた。
「陸軍輸送船団より入電。たった今、大河川へ到達したもようです」
「……よし」
「観測班より報告。現在、魔波レーダーに反応無し」
「よ、よし……良いぞ、良いぞ」
ここまで特に何事も無く進軍出来ている。
ビルゼーは侵攻中止命令を無視した事に内心焦ってはいるが、上手く事が運べば上層部も寛容な対応をしてくれるだろうと言う都合の良い未来に逃げていた。それどころか何か褒美が出るかもしれないと言う淡い希望すら抱いていた。
(大丈夫だビルゼー。敵の艦隊は傷だらけの第8艦隊のみでニホン軍に到っては軍艦すら存在しない。大分減ってしまったがまだ90隻もいる! 空母だってある! イケる、イケるぞ!)
段々と根拠の無い自信が湧き上がってくる。
だがその妄想も通信班からの報告によって強制的に打ち切られてしまった。
「先遣隊の駆逐隊より入電、微弱ながら魔波レーダー感知! 恐らく敵部隊であると思われます!」
「移動速度から戦闘機部隊かと!」
「来たか……全艦に通達! 第1種戦闘配置に就け! 魔導障壁展開!」
「ハッ! 魔導障壁を展開!」
「続けて空母へ通達、戦闘機部隊出撃! 小うるさい蝿どもを叩き落とすのだ!」
「ハッ!」
本艦隊唯一の航空母艦は旗艦『ビルマルク』からの命令が届く頃には甲板が慌ただしくなり始めていた。
「サヘナンティスか、それともニホンか……」
ゲイル級航空母艦『フォーデン』艦長のガットーは艦橋から見える甲板を眺めながらボヤいた。そこへパイロット服を着込んだ男が彼に話し掛ける。
「やっと出番ですかい。さぁて、それじゃあちょっくら行ってきますよ艦長殿」
「うむ。頼むぞ、ルーゼル」
互いに敬礼を交わした後、ルーゼルは踵を返し艦橋を後にした。
次々と甲板から発艦するレムリア航空軍主力戦闘機『エストレーラー』40機。その中の精鋭である第213戦闘隊10機はかの『撃墜王』の称号を持つルーゼル少佐が率いている。他の戦闘機乗り達も熟練者ばかりだが、彼が居るだけで百万の味方を得ているような気分になる。
そして、『エストレーラー』とはまるで違う戦闘機をルーゼルは操縦していた。
高速機動戦闘機『クルセイダーズ』。
レムリア帝国軍が誇る最新型戦闘機で今回のサヘナンティス侵攻航空軍の中では一機だけが配備されていた。ルーゼルはこの最新鋭機のパイロットなのだ。
各隊編隊飛行で進み始めてから数分と経たない内に彼らのレーダーに微弱な魔力反応が感知される。だがあまりにも反応が弱すぎる為、中々捕捉出来ずにいた。
『ダメです。反応が弱すぎて敵機かどうかも』
『鳥獣型魔獣の可能性もありますが……』
僅かに混乱する戦闘機隊の無線にルーゼルが割って入る。彼は自信満々に全機へ通達する。
『僅かでもレーダーに反応があればソレは敵機と考えろ。躊躇はするな、ガンガン魔導ミサイルをぶち込んでやれ』
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
その僅か数秒後、全機のミサイル警報機が一斉に鳴り響いた。魔波レーダーからも高速飛行物と思わしき物体を途切れ途切れだが反応を見せている。
『て、敵機魔導ミサイル発射を確認!』
『おっしゃ。こっちも撃ち返してやれ! 捕捉出来次第、全機発射!』
戦闘機隊からも微弱な魔波を頼りに捕捉し、迫り来る敵ミサイルの迎撃の為、一斉に魔導ミサイルを発射した。
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『E-767より入電。敵艦隊空母艦より戦闘機群発艦を確認』
航空自衛隊は第5、第6航空団隷下の2個の飛行隊からF-35Jの戦闘機部隊を出撃させていた。40機と数はレムリア軍戦闘機部隊と同数である。
各機のパイロットが装着しているヘッドアップディスプレイには敵機反応等が浮かび上がっていた。彼らはそれらの反応を冷静に確認する。
『各機空対空誘導ミサイル発射用意……目標捕捉』
『『発射』』
十数発のAAM-6が捕捉した目標機に向け軌道を描きながら空を駆けていく。
遂にサヘナンティスの命運を掛けた決戦が始まった。
次回から空戦と陸戦が本格的に始まりますが戦闘描写が未だに苦手な私としてはかなりプレッシャーなところです。