第142話 悪夢の夜
誤字報告誠にありがとうございます。
またなんか仕事が忙しくなってきましたよ…
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オワリノ国国境外縁部 森林地帯
ヴァルンゴルスト墜落地点から東へ5㎞地点
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医薬物品や通信機器の回収及び基地への発信、そして生存者救出の為、旗艦ヴァルンゴルストの生き残りの中で選出された派遣隊30名は暗い森の中を各員一定間隔を空けつつ慎重に進んでいた。
整備などされてる筈もない悪路な獣道。地面から畝り出た木の根や突出した岩に生えた滑りやすい苔など、ただ歩くだけでも相当な体力を奪われる中で周囲を警戒しながら進まねばならない。
ここは敵地だ。
いつどこで奇襲を受けても不思議ではない。
派遣隊は張り詰めた緊張感の中、既に5㎞もの道のりを進んでいた。
「隊長……質問、よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
先頭を進む派遣隊隊長、その背後にいた1人の兵士が恐る恐る声を掛けた。その表情は明らかに暗い。元々この状況下で明るい顔をしている者など皆無に等しいが。
「助けは……来るのでしょうか? 我々は、助かるでしょうか?」
隊長はハンドサインを出して一度隊を止め、片膝を付けて身を屈めさせる。周辺に驚異が居ない事を確認してから質問してきた兵士の方へ顔を向ける。
背後を見ると後続している他の隊員達からも同様に不安の表情が滲み出ていた。皆も彼と同じ心情なのだろう。
隊長は少し鼻で息を吸ってから答えた。
「分からない。だが、俺たちは誇り高きレムリア軍人だ。最期まで決して諦めるんじゃない……いいな?」
「は、はい……」
隊長は慰めるつまりで彼の肩を叩いた。しかし、当たり前と言うべきか彼の表情は晴れない。他の隊員達も同じだ、皆も不安で仕方ないのだ。その気持ちは隊長自身も痛いほど理解している。
彼も不安なのだから。
「ハブルデッド、地図を見せてくれ」
「は、はい」
隊長は無理やり気持ちを切り替えて別の兵士を呼ぶ。彼は懐から周辺の地図と携帯型魔光灯を取り出した。隊長は外套を取り出すとそれを自分と兵士に上に被せ、その中で地図を広げてから灯りをつけた。
「一番近い墜落地点まであとどのくらいだ?」
「そうですね……目撃情報によればこのまま真っ直ぐにあと3㎞ほどに重巡洋艦があると思われます。それから、あと2㎞程進めば大きな川に辿り着きます」
「川? そこは深いのか?」
「情報によればそこまで深くはないとの事です。せいぜい膝くらいまでかと。雨が降らなければ流れも穏やかです。ただ、少し幅はあります。」
「ふむ……出来る事なら川渡りは避けたいな。迂回ルートは?」
「……無くはないですが、南に10㎞ほど進んだところに朽ちた橋があります。ただそこは時折、オワリノ人も使うため、遭遇する可能性はあるかと」
隊長は少し悩んだ。音を立てずに進むならば南進して橋を渡るのがベストだが、今は出来るだけ急ぐ必要がある。それにニホン国側であるオワリノ人に見つかるとそのまま戦闘に繋がる危険もある。
川自体渡れるのであればこのまま進むのが一番だと隊長は結論付けた。
「よし。このまま進む。川を渡り、目標予測地点を目指す」
「了解」
灯を消し外套を外すと隊長は各員にこのまま進む事を伝える。
再び緊張感が張り詰める行進が始まり、其々の持つ銃火器を大事に持ち構えながら進んでいく。
(神よ、慈悲深き神メルエラよ。どうか我を護りたまえ……)
最後尾を進んでいた兵士が引き金を掛けている右手と一緒に教紋のロザリアを握りながらブツブツと祈り続けていた。その時、何かを察したのかいきなり後ろへ銃口を向けた。
「……っ!? はぁ、はぁ!」
(お、おい……どうした?)
進む気配がない同胞に気付いた他の兵士が彼に声をかける。しかし、彼の目は異様に血走っており、明らかに恐怖に呑まれていた。
(なるほど……そりゃあこんな鬱蒼と生い茂る不気味な森の中だ。敵地って事も考えれば、突然の反応だろうな)
(な、何か……か、感じたんだ! 背後から……突き刺さるような視線が!)
必死に訴えてくる言葉を聞くと彼は肩を竦めた。
(馬鹿。それなら俺は身体中穴だらけだよ。この状況だ、気が張り詰め過ぎたんだ。気持ちは分かるよ。ほら、いくぞ)
(……あ、あぁ分かったよ)
仲間の説得で最後尾の兵士は銃口を下ろした。それでもやはり気になるのか、途中何度も背後を振り返る。しかし、やはり気のせいだったのかと漸く納得したのか、少し離れた隊列に戻るべく小走りで進み始めた。
「隊長、川付近はぬかるんでます」
「分かってる。各自、川の音が近付いたら足元に注意しろ」
「了か……うわっ!」
隊長の指示に皆が了解すると隊列の横を一羽の鳥が通過した。突然現れた鳥に驚く一行だったが、敵では無かった為、心の底から安堵する。
「な、なんだよ……」
「脅かしやがって……ちくしょう」
鳥は近くの木に止まった。
暗い為よく見えないが、レムリアでは見ない姿をした鳥だった。動きは鳥そのものだが目も赤く、あの木から中々動こうとしていない。
「なんか、初めて見る鳥ですね、隊長」
「この辺にだけ生息してる鳥なんだろう。もしかすれば新種かもな。フフフ、環境研究学院に報告したら手を上げて喜びそうだ」
「ははは、そうですね」
安堵感からか軽い会話で場の張り詰め過ぎた空気が少しだけ柔らかくなった気がした。過度な緊張は返って危険を招かねない。
(少しだけ空気が戻ったか)
隊長は木の止まっている鳥に視線を向ける。鳥はキョロキョロと周りを見渡している。餌か何かを探しているのだろうか。今はそんな何気ない平凡な行動が心の救いとなっている。
(我らを落ち着かせてくれたのか? ならばあの鳥は神の使いだな。神メルエラよ……感謝致します)
隊長は心の中で自らの信仰する神に感謝し、隊列は再度歩みを進めた。
その隊列を後ろ姿を鳥はジッと見つめ続ける。
『蜂鳥より映像確認。〝はぐれた羊達は餌場に向かった〟』
『了解。事前に通達を受けている小隊は〝はぐれた羊たち〟の追跡継続。所定位置に到達し次第、無力化。発砲の許可は既に下りている』
『了解。各機に再度指示更新……更新完了』
隊列の後方200m地点より無機質な人型が悪路を物ともしない歩速で進んでいく。
ーーー
ーー
ー
派遣隊は川に差し掛かった。事前調査の情報通り川幅はそれなりにあったが深さは大したことない。だが、暗闇の森の中という環境が川の中を渡って進むことに恐怖感を増幅させる。
「気を付けて進め」
膝から下にかけて川の冷たい感覚が伝わってくる。流れは緩やかだが水の中を進む時の独特な重さを感じながら隊はゆっくりとした足取りで進んでいく。
「あと少しで向こう岸だ」
「あー、くそ。足が冷てぇ」
「我慢しろ」
終わりが見えて来て兵達に僅かな余裕が生まれる中、隊長は向こう岸にある一本の木の枝に注目していた。
あの両目が赤く光る鳥……隊長は確信した。
「まさか……さっきの野鳥か?」
こんな所にもいたのかと思いながら見ていると妙な胸騒ぎを覚えた。隊長は腰に備えた双眼鏡を取り出し覗き込む。だが、それとほぼ同時に奇妙な野鳥は飛び去った。
「まるで見られるのを嫌がっているようだ」
流石にそれは考え過ぎかと自分に言い聞かせ、今は周囲を警戒しつて川を渡る事に集中する。
それから約数分後、全員川を渡り終えると小休止した。張り詰めた緊張感の上、殆ど歩きっぱなしだ。ここから先も何が起きるか分からない。急ぐ必要はあるが体力の温存も重要だ。
「ふー……む?」
腰を下ろし一息着いた時だった。隊長はまたあの野鳥が此方を覗くように木の枝に止まっている姿を発見した。幾ら見慣れない種と言えどこうも後を付けてくる様に覗かれては薄気味悪く感じる。
野鳥は自分ではなく他の隊員の方へ目を向け続けていた。
(まさかな……)
先程よりも強い胸騒ぎを覚えた隊長は再びこっそりと双眼鏡を取り出すと野鳥の方へ向けた。最新型の魔導闇視機能付きでは無いただの双眼鏡だが、長いこと暗い森の中を歩いていれば自然と視界も慣れてくる。
(……鳥か?)
ぱっと見の形状は鳥そのものだ。だが、やはり何処かおかしい。さっきから隊の方へ顔を向けてばかりで他へは一切顔を動かそうとしない。
すると、野鳥は此方を見た。
そして気づいた。
アレは野鳥じゃない……そもそも生き物ですら無かった。
「ぜ、全員目的地まで走ー」
隊長は大声を上げながら肩に掛けていた小銃を野鳥では無い何かに向けようとした。
「ぐあッ!?」
突然、部下の1人が声を上げて地面へ倒れた。苦悶の声を上げながら地面を転げ回る部下に皆が呆気に取られる中、隊長はいち早く彼が撃たれた事に気付いた。彼は川を背に休んでいた。そして、背後から突き飛ばされたかの如く前のめりに倒れた。
銃撃は自分達が来た方向……向こう岸からだ。
「クソッ!」
隊長は野鳥目掛けて引き金を引いた。装填されている8発全てが彼が扱う半自動小銃から放たれた。しかし、命中する事なく何処かへ飛び去ってしまった。動きが妙に機械的であった為、やはり生き物では無かったようだ。
隊を見てみると皆困惑した様子で各々が持つ銃火器で四方八方に撃ちまくっていた。
「クソクソクソ!」
「何処だ、何処からだ!?」
「隊長。どうすれば?」
隊長の目の前で1人また1人と兵達が次々と斃れていく。
「うぅ……」
「ぎゃあ!」
「うぐぅ!」
此方は敵の位置が分からない。だが、向こうは此方の位置を正確に把握している。そして、連中が無駄に弾を撃たず確実に命中させている事を考えれば、こちらからは目視困難な位置から余裕を持って狙撃する狙撃手と目標観測員がいる事になる。
対して此方に狙撃銃は無い。
皆が近接戦闘用の自動小銃か半自動小銃しか持っておらず、これではロクに対抗する事すら困難だ。
隊で唯一の衛生兵が最初に撃たれた兵士の元へ駆け寄り、その容態を診ていた。
「か、貫通はしていない。背後から肩を撃たれてる」
「ぐぅああぁぁぁ! い、痛ェェ!」
「た、隊長!」
隊長はすぐに指示を出した。
「敵は背後から狙ってる! だがここでは狙い撃ちにされるだけだ! 全員この先にある墜落地点へ走るぞ! 誰かそいつに手を貸してやれ! よし走れ、走れ!」
皆が隊長の指示のもと、一斉にその場から駆け始めた。息のある撃たれた兵士はまだ動ける仲間達の手を借りながら何とか立ち上がる。
隊列も何もない。皆が生き残るため必死に駆け続けた。敵の狙撃から逃れる為、敢えて草木の多い場所や蛇行して走る者など様々だ。だがそれでも現実は非情である。
「がぁっ!?」
「痛ェェェェ!」
1人ずつ背後から撃たれ斃れていく。地を這いずり背後から逃げていく仲間に向けて手を伸ばそうとする。「助けてくれ!」と叫ぶ。だが、皆その言葉を聞こえぬふりをして走り続けた。
未だに姿が見えない……だが確実に迫りつつある敵から逃れるために。
「見えたぞ! あの残骸の中に隠れろ!」
走り続けていると情報通り墜落した巡洋艦の残骸が存在していた。損傷が激しく生存者は絶望的だろう。周囲の木々を薙ぎ倒している為、経路を阻まれる事はなくなったが身を隠す場所がほとんど無い。ならば隊長の言う通りあの残骸と化した艦艇の中に隠れるしか無い。
皆其々入れそうな損傷箇所へ入ると銃器を持ち先程まで逃げて来た方向目掛け銃口を向けた。
「ま、待ってくれ!」
「撃つな! 撃つな!」
遅れてやって来た仲間がこちらに向かって手を振り撃たないよう訴えて来た。勿論、彼らは仲間を撃つ気なの無い。しかしー
「ぐ!」
「うっ!」
背後から迫って来ているモノは別だ。
アレらは確実に仕留めに来ている。
「クソぉ!」
「ま、待て!」
激昂し森の中へ出鱈目に発砲しようとする兵士を隊長は止めた。
「何故ですか! 何故撃たせないんですか!?」
「下手に撃てば個々の居場所を知られてしまう。見ろ、攻撃を仕掛けてこない」
隊長の言う通り撃ってくる気配がまるで無い。艦艇の残骸の中に縮こまり怯えながら銃を構える此方が酷く滑稽に思えるほどの静かな森に戻っていた。
「連中は狙撃手と目標観測員の2人1組で確実に此方の居場所を突き止めてから狙撃している。待ってるんだ……下手に撃って各々の場所を教えてくれるのを」
「く、クソ!」
撃ちたくても撃てない。撃てば他の仲間が危険に晒される事になる。兵士は苛立ちぶつけるべく近くの鉄屑を蹴り飛ばした。
「……生き残っている者は?」
「自分を含めて10人です、隊長」
「10に……そ、そうか」
予想以上に仲間がやられた事に隊長は強いショックを受けた。あの時もう少し早く野鳥と思っていたアレの違和感に気付いていれば結果は変わっていたのかもしれない。
完全な奇襲。
敵は万全の状態を敷いて攻撃を仕掛けて来た。
(恐らく副長達のいる場所も)
最悪の展開が脳裏をよぎる。何としてでも全滅だけは免れねばならない。それはこの派遣隊の隊長としての責務は勿論、中にはまだまだ若い兵士もいるからだ。既に何人かが敵の凶弾に斃れてしまったが、まだ生き残っている者もいる。
その内と1人が今、隊長の隣で身を縮こませながらガタガタと体を震わせていた。その顔は真っ青で完全に恐怖に支配され掛けている。
隊長は彼の肩に手を乗せて優しく摩った。
「心配するな……俺が必ず家に返してやる」
「た、隊長……」
「皆、ここが踏ん張りどころだ。絶対にー」
次の瞬間、大きな爆発が全員に襲い掛かった。その衝撃によって一時的に意識が朦朧とする中、皆が必死に状況を飲み込もうとしていた。
爆発は内部ではなく艦艇外壁で起きた。装甲板の幾つかが吹き飛んでしまったが、少なくとも内部にいた者は辛うじて無事だ。
爆発の原因は間違いなく森の中にいる連中だ。
奴らは痺れを切らし、携帯型重火器で此方から動くよう誘導してきたのだ。
「ぐぅ……おのれ!」
隊長が指示を出すよりも前に先に意識を取り戻した兵士が、艦艇壁の隙間から森に向けて弾丸をばら撒くように撃ち放っていた。
「クソったれがァァァ!」
「くたばりやがれ、蛮族ども!」
激昂した兵達から一斉に銃声が聞こえてきた。極限の緊張状態の中で1人が発砲すれば皆も続けて引が金を引く。追い掛けて背後から撃ってきたのも、先程の爆発も全て森の中にいる連中が仕掛けたもので間違いない。
ガガガガガガガガ!
ダンダンダン! ターンッ! ターンッ!
ガガガガガガガガガガガ!
ドパパパパパ!
皆、恐怖の対象を打ち倒すべく引き金を引き続けた。夜の森の中に青い弾丸線が無数の飛来するが、その中に森側からの弾丸線は無かった。
「ぐあぁ!」
1人の兵士が斃れた。胸からジワリジワリと滲み出る血が軍服を濡らしていく。此方は残骸を遮蔽物にして撃っているのに敵は引き裂かれた艦艇外壁の隙間から此方を狙撃して来ている。予想以上に敵は凄腕の狙撃手のようだ。発砲時の光が見えず、一体何処から狙っているのか全くわからない。
「ぎゃあ!」
「あぅ……」
「ぬぁあ!?」
また1人、また1人と凶弾に斃れ伏していく。気が付けば味方は5人にまで減っていた。
「クソ!」
隊長は負けじと遮蔽物の隙間から森に向けて撃ち続けるがまるで手応えを感じない。
「くっ! 艦内の入れるところまで入るんだ!」
まだ動ける者達に艦内の奥へ避難するよう声を上げる。そんな中、例の若い新兵が銃を捨てて軍用ヘルメットの縁を掴み深々と被りながら更に身を縮こませていた。
「ひぃぃぃ! 死にたくない! 死にたくないよぉぉぉ!!」
次々と仲間が無惨に殺される光景を見た事で完全に気が動転してしまっている。敵は狙撃を主とした攻撃をしているがさっきの爆発のように他にもどんな手を使ってくるか分からない。あの場にいるのは危険と判断し、急いで彼の元へ駆け寄った。
「おい、此処にいたら殺られるだけだ! 早く奥へ行け!」
「は、はいィィィ」
泣き噦る新兵を無理やり立ち上がらせ先に艦艇内へ行かせるよう背中から押す。周りを見れば死体以外何も無く、他は奥へ避難したのが見て取れた。
次の瞬間ー
パカーーンッ!
薄い鉄板に銃弾が当たるような音が聞こえると、先に行かせたはずの新兵が奥へと続く歪んだ扉の手前で前のめりに倒れた。
「えぇ……」
呆気に取られた隊長は倒れたまま動かない新兵を見下ろしていた。ヘルメットの後頭部に丸い孔が開いており、新兵のドロリとした血がヘルメットの内側から止めど無く流れ落ちていた。
「お、おのれぇぇぇぇ!!」
激昂した隊長は銃を構えながら残骸の艦艇から飛び出した。そして、森に向かって駆け出しながら近接戦闘用の小銃を撃ち続ける。
だが彼が飛び出すと彼の横スレスレを高速で飛行する何かが通り過ぎた。彼がそれに反応すると同時に先程まで遮蔽物として利用していた艦艇が内側から大爆発を起こした。
「なにッ!?」
振り返るとそこには内部から燃え盛る艦艇の姿があった。その中から奥へ避難していた仲間達の悲鳴や断末魔の叫び声が聞こえてくる。
「ギャアアアアア!」
「あ、熱いぃ! 熱い!」
「助けてくれェェェェ!!」
隊長はその光景をただ眺めることしか出来なかった。
「あ、あぁ……あぁぁあぁ……」
その場に膝から崩れ落ちると森の方から近づいて来る足跡が聞こえてきた。最早、戦う気力など起きずに絶望していた隊長はただ後ろを振り返った。
「はぁ?」
最早これしか言葉が出てなかった。
自分たちが戦っていた相手は人間だと思ってた……銃を扱うのだから間違いなく人間だと思っていたのだ。だが違った。自分たちが戦っていたのは人間の形をした機械だった。
『生存者は1人か……捕縛する』
人間の形をした機械は銃を持ち、よく分からないが軍用装備に身を包んでいた。そして、機械的だが何処か人間寄りな喋り方をしている。後から続いてやって来た似た様な姿をした機械人形達が自分に近づくと銃やナイフを取り上げられ、左右から両手を持ち上げるようなカタチで連れて行った。
(は、ははは……はひひひひひ……俺たちは機械人形と戦ってたのかぁぁぁ!? ひひひひははは)
歩こうが関係なし足を地面に引き摺りながら機械人形達に連れて行かれながら、隊長は全てを諦めた。今はただ副長達が無事である事を、壊れかけた心の中で祈り続けるしかなかったのだ。
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ーー
ー
一方、ゼラーフ副長らが残っている総旗艦墜落地点では重苦しい空気に包まれていた。時間が経過するに連れて艦内から見つかるのは死体ばかり、生き残っていた者もその傷の深さ故に次々と命を落としていた。
「これでもう1200人だ……」
「救出作業なんかやっても出て来るのは死体だけ……死体安置所の格納区も今じゃ死体の上にまた死体を乗せなきゃなんねえ始末」
「気が滅入るぜ……」
「全くだ」
外に設置された野営テント。中には怪我で苦しむ兵士達で満たさらていた。そんな光景を眉を顰めながら副長のゼラーフは眺めていた。
「派遣隊よ……頼んだぞ」
最早僅かな希望に賭けていたゼラーフの元で、あまり機嫌がよろしくない医務長のラムが訪れた。
「副長、最後のポーションが切れました。他の医薬物品ももう底をつきます」
「そうか……くっ」
「副長、分かっているとは思いますがこのままではー」
パパパパパッ
ダンダンダンッ
その時、外から銃声が聞こえてきた。近くでは無いもっと遠くの方向からだが、その聞こえてきたと思われるのが派遣隊が向かった方向だった。瞬時にゼラーフとラムに嫌な考えが浮かぶ。
「派遣隊か!?」
「副長……何かヤバそうな気がします!」
「……今すぐ動ける者全員に艦内へ避難するよう伝えよ」
「は、はい!」
勿論、銃声が聞こえたのは彼らだけでは無い。この場にいる全員が聞こえていた。敵地同然のこの場所に響き渡る遠くからの銃声は皆の不安や恐怖を加速させるのには充分すぎるほどの劇薬だった。
「全員、艦内へ避難しろ! 動ける者は怪我人に手を貸してやれ!」
副長の指示のもと、皆が一斉に動き始めた。
銃を構え周囲を警戒しつつ野営テントに居た怪我人達を艦内の入れるところまで連れて行く作業が続く。
避難が終える頃には艦外は殆ど人が居なくなっていた。
「敵は何処から現れるか分からん、四方八方に目と耳に神経を尖らせるのだ!」
彼らが身を隠す場所は撃沈こそされたが、レムリア最高峰の装甲を持つ重装甲型戦艦ヴァルンゴルスト。この堅固な装甲を携帯火器のみで撃ち破れるなど決してあり得ないという確固たる自信と信頼があった。
そこはもう要塞と言っても過言では無い。
「むぅ……水が無くなるか。おい、スマンが水を汲んで来てくれんか? 近くに小さな小川があっただろ? そこから汲んできてくれ」
「は、はい!」
ラムが近くにいた女性衛生兵に声を掛けた。
すると近くにいた若い兵士が手を挙げた。
「じゃあ自分が付いて行きますよ」
「うむ、その方がいいだろう」
「お、お願いします!」
こうして衛生兵は兵士の護衛のもと艦外へと出て水を汲みに行った。
小川は少し森の中へ入るのだが比較的近くにあった為、女性の衛生兵は大量の丸型水筒を掛けていた肩から降ろし一つずつ水を汲み始めた。
「な、なぁアンタ、名前は?」
若い兵士が声を掛ける。
女性衛生兵は少し困惑しながらも水を汲みながら答えた。
「さ、サーニャです。」
「そっか……あ、俺はラレス。よろしく」
「ふふ、よろしくお願いします」
「な、なぁ……サーニャはなんで衛生兵になろうと思ったんだ?」
多分この状況下で彼は空気を少しでも和ませようとしてくれているのだと思い、サーニャは素直に答えた。
「愛する人のため、家族のため、友のため、そして敬信する神メルエラのために戦う兵士さん達の力になりたくて、その一心で目指したんです。ですが……まさか初めての現場が前線に出ることになるとは思いもしませんでしたが」
「へぇ、凄い立派だね」
「……ラレスさんはどうして兵士に?」
「俺? 俺は……家を継ぎたくなくて兵士を目指したんだ。あんな貧相な農家を継ぐくらいなら、神に使える神兵になって名を上げたいって思って。でもこんな目に遭うなんて…はは、人生って分かんねぇな」
「えぇ、全くですね」
ラレスは彼女の隣にしゃがみ込んだ。
「此処で死ぬのかな、俺たち」
「そ、そんな事を! 神は最後まで諦めない者に振り向きます。どうか気を落とさないでください」
彼女はラレスの背中に優しく撫でた。すると彼はゆっくりと振り返る。何故だかその目がマトモに思えなかった。
「どうせ死ぬなら、悔いのないように死にたいなぁ」
「ら、ラレスさー」
突然、サーニャは押し倒された。彼女の上に覆い被さるラレスの目はギラギラとしており息も荒く、とても正気とは思えない瞳をしていた。
「このまま経験も無しに死ぬのは嫌だ!」
「ちょ、ら、ラレスさん!? だ、誰か!」
「うるさいィィ!」
激昂したラレスはその拳を彼女の顔面にぶつけた。衝撃と痛みで抵抗がなくなると彼女の衣服を無理やり破こうとする。
「や、やめ……て」
その時、彼の体重が一気にのし掛かると同時にドロっとした生暖かい液体が降りかかった。自分の身に起きたことに困惑するサーニャは何故か一向に動く気配のない彼を何とか退かして身体を起こした。
「……え?」
彼は死んでいた。顔面がその原型が残らないくらいぐちゃぐちゃになっていたのだ。
全くもって意味が分からない出来事と目の前の死体に思わず声をあげそうになると、突然何かが彼女の口元を押さえて森の中へと引きずり込んでいった。
(な、なんなの!)
振り解こうにも凄まじい力で押さえ込まれており微塵も抵抗出来なかった。彼女が何とか視点を動かすと、そこには人の形をした機械が自分を押さえ付けているのが見て取れた。
ーーー
ーー
ー
一方、艦内に通じる主な出入り口を瓦礫で塞ぎつつある中、外から格納区へ通じる大きめな亀裂は未だに閉じられずにいた。
「ラム医務長、そろそろ瓦礫でー」
「あー、もうちょい待ってくれ。今、水汲みを頼んだ子がそろそろ戻ってくる筈だ」
ラムは亀裂出入り口付近に立ち小川がある方向へ顔を向ける。
「もうそろそろの筈なんだがなぁ」
その時、近くの茂みに歩く人影がチラリと見えた気がした。ラムは彼女達が戻ってきたと思い声を掛ける。
「ご苦労さん、そろそろ瓦礫で埋めるから早くー」
カラーン! カランカラン
何かが奥から投げ込まれ床に転がった。
ラムが足元へ目を向けると、自分たちの知るソレとは形状は違うが直感的にソレだと分かった。
「しゅ、手榴だー」
バァァァァァァァァン!!
ラムが叫んだ刹那、投げ込まれたソレが強烈な破裂音と閃光を発した。ラムが思っていたのは強烈な爆発と金属片を飛ばす手榴弾だったが、ソレは少し違った。
音響閃光手榴弾
室内や車内における戦闘で武装勢力を一時的に無力化させる為に使われる音響閃光手榴弾が見事その役割を果たした。そんな物など存在しないレムリア人にとっては全くもって未知の兵器。
格納区に居た者のほぼ全員が視覚と聴覚、意識が酷くボヤける現象に襲われた。破裂した場所に比較的近い者の大半は気絶しており、中でも一番近くにいたラムは鼓膜を破壊されてしまっている。
『制圧開始』
その直後、銃を持った人型機械の群が続々と格納区へ侵入してきた。まだ起き上がっているレムリア兵達に向けて銃弾を容赦無くばら撒く。
「て、敵だ!」
「撃て撃て!」
辛うじて意識を失わなかった兵士達が武器を取って対抗するが、放れた鉛の弾幕により次々と蜂の巣にされてしまった。
ものの数分足らずで格納区を制圧した人型の機械……機甲無人第一中隊は更に艦内を制圧すべく、奥へ続く通路へと進んでいった。
ーーー
ーー
ー
鳴り響く銃声。兵達の怒号。
時折聞こえる爆発音。
既に艦内全体は騒然と化していた。
「どうした、何が起きた!?」
死体を処理した後の艦橋で待機していた副長ゼラーフの元に慌てて駆け付けた兵士が報告する。
「ほ、報告! 艦尾格納区の亀裂部より武装勢力侵入!」
「何だと!?」
「敵勢力は格納区を制圧! 現在、格納区へ通じる第3通路にて兵達がバリケードを構築し応酬!」
「敵は……敵は何者だ?」
「わかりません! 格納区から脱出した者の話では、ひ、人型の機械……と!」
「き、機械だと!?」
ゼラーフの脳裏に過ったのはオワリノ国の『サムライ』と呼ばれる兵士達だ。時には『ブシ』と呼ぶ事もある。
この世界で機械を見紛う装備を持つ国など、異端国家群の蛮族かオワリノ国の化け物どもしかいない。そして、此処はオワリノ国の端…そう考えればオワリノ軍が攻めて来たと考えるのが妥当だ。
(しかし奴らはマトモな銃器すら持たぬ野蛮人……どこぞの異端国家群から武器調達を受けた? いや、そんな報告はなかったはずだ)
その時、艦橋が爆発音と共に少し揺れた。爆発が起きた場所は艦尾方向からだったが、ここまで揺れが伝わるとなれば相応の爆発力の筈だ。
艦橋後方の見張り所で監視していた兵士から報告が相次いだ。
「か、艦尾格納区付近より大爆発を確認!」
「火薬庫による誘爆ではありません!」
慌ててゼラーフは艦橋後方部へと移動した。
そこから見える光景は、確かに格納区付近の艦尾から爆炎と黒煙が立ち昇っている。加えて絶えず聞こえる銃撃音。
あそこは今、地獄の戦場と化しているのだろう。
「中腹部から艦尾に繋がる通路全てを閉鎖しろ! 中腹部で待機している動ける者で敵の侵入を防ぐのだ! 敵は艦尾のみと思うな! 四方八方を取り囲んでいるものと思え!」
「は、ハッ!」
ゼラーフも武器を取り、報告に来た兵士たちと共に、今激戦地と化している艦尾へ続く通路へと向かって行った。
間違いなく敵は本艦を包囲している。
だが侵入を確認出来たのは艦尾の格納区のみ。
他から攻撃を仕掛けて侵入してこないのは逃げ場を無くした自分たちを艦外へ誘き出す事が狙いだ。
そこへ外で待機している他のニホン兵達がトドメを刺す。
正直敵が皆殺しを是とする本物の野蛮人ではない事を祈りたいが望み薄だろう。
(大勢の犠牲も覚悟せねばならないか……)
ゼラーフは息を切らしながら走り出した。
敵がどんな連中なのか分からないのが酷く恐ろしかった。しかし、生き残る為には敵を撃退するしかない。降伏は絶望的だろう。
ーーー
ヴァルンゴルスト艦内
第3通路(格納区へ通じるメイン通路)
ーーー
艦艇中腹部以降に通じるメイン通路ではレムリア軍が瓦礫や残骸を積みバリケードを作成して敵の迎撃にあたっていた。文字通り無数の弾丸が飛び交い、広くはない通路は戦場と化していた。
「もっと弾幕張れ!」
「う、撃て撃て!」
「おい、弾薬を寄越せ!」
「手榴弾はあるか?」
「ぐあっ! う、撃たれたぁ!」
聞こえてくるのはレムリア軍側の悲鳴とも怒号とも取れるものばかりだ。バリケードを遮蔽物として応戦していた兵士が敵の銃弾に次々と倒れていく。
「クソが! どうなってやがー」
兵士の1人が積み上げたバリケードに出来た隙間の穴から覗き込む。しかし、その穴を敵の銃弾が通過し、彼は覗き込んだ眼から貫通されてしまった。
「ウッ!」
血と脳髄が混ざったドロドロの赤黒い液体が大の字で後ろから倒れた兵士の後頭部からどくどくと流れる。
「や、野郎ぅ……」
仲間の凄惨な死を目の当たりにした兵士がバリケードの上から自動小銃を乱射した。
バリケードの向こう側、通路の所々にある遮蔽物に半身を隠していた機甲無人第一中隊のWALKER達の何機かが被弾する。しかし、戦場を想定して造られているWALKERの機能を停止させるには到底至らなかった。
WALKERは仕返しとばかりに装備していたM4カービンの引き金を引いた。
レムリア兵はギリギリで味方が足を掴み引き摺り下ろしてくれたおかげでヘルメットを掠る程度で済んだ。しかし、彼の表情は敵に銃弾が効かなかったという得難い現実を見て真っ青となっていた。
「う、嘘だろ!? 今の当たっただろが!」
「ど、どうなってやがんだ!」
「よ、鎧か!?」
「だとしたらどんだけ固いんだよ!」
「バカ、ありゃあ魔導機械だ!」
「ンなわけあるかよ! ぐはッ!?」
WALKER達は乱雑している遮蔽物から遮蔽物へ移動しながら弾丸の雨を叩き込む。レムリア軍の築いたバリケードが弾幕によって徐々に欠けていく中、彼らも負けじと弾丸を撃ち込み続ける。
「くたばりやがれ!」
ガガガガガガガガッ!
カキィン! チュイン! カンカンカン!
移動していたWALKER数機に命中するも、ただの小銃が特殊なカーボン装甲で覆われたボディに致命傷を負わせる事などそう簡単に出来るはずもない。
生きている者ならこの弾幕の嵐の中、近くを移動するだけでも相応の覚悟と勇気が必要だ。
しかし、WALKERは無機質な機械。
恐怖など感じるワケもなく、飛び交う弾丸の中を平然と移動し続ける。
彼らにあるのは冷酷で合理的な応用的状況分析能力のみである。
「し、手榴弾!」
レムリア兵の1人が安全ピンを引き抜き、柄付き手榴弾を通路に投げ込んだ。
ドガァァン!
強烈な爆発と爆風が数秒後に起きた。
その衝撃でバリケードの一部が崩れ少し大きめな穴が形成される。
「ハハハ、ざまぁみろ!」
手榴弾を投げ込んだ兵士がそう叫びながら今の爆発でどれだけ敵にダメージを与えたか確認しようと覗き込む。
次の瞬間、彼の顔面が文字通り崩壊した。
ドロドロした脳髄と血が混ざった液体が背後にいた兵士達に降り注ぐ。
貫通ではない……粉砕である。
『ターゲットダウン。次の目標捕捉』
通路の奥でバレットM82A1で伏せ撃ちの体勢をしている1機のWALKERが次弾装填をする。
その両斜め後ろ方向にはM24を構える2機も存在する。
彼らは遠方から1発1発で確実に相手を仕留める援護要員だ。その精密性は人間のプロ以上とずば抜けている。
「しゅ、手榴弾も殆ど効かねぇのか!?」
多少の損傷は確認できたが動きが鈍る様子はまるで見られない。今もWALKERら機甲無人第一中隊は十分な訓練を受けた兵士の如き連携の取れた動きでバリケードまでの距離を縮めつつある。
確実に敵は近づき、そして攻撃に激しさも増している。このままではここを突破されてしまうのも時間の問題だ。
せめて次のバリケードが出来るまでの時間を稼がなければならない。
「状況は?」
そこへ副長のゼラーフを始めとした増援が駆け付ける。
「既に格納区は制圧され、この第3通路に敵が押し寄せて来ております! 他の通路は固く閉鎖ししましたがその分ここに敵兵団が集中してしまい」
「敵は何者だ? 人型の魔導機械と聞いたが?」
「は、ハイ。鎧を纏っている様に見えなくもありませんが……やはり魔導機械としか」
「敵勢力接近!」
ゼラーフは苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「仕方ない。用意できるありったけの爆薬をバリケードに仕掛けよ。直ちにここから撤退し次第、起爆させ敵に多少なりとも損害を与えるのだ。そうすればいくらか時間も稼げるだろう」
「は、ハッ! おい、直ぐにー」
そこへ複数の黒い物体がバリケードの上から投げ込めれた。その内の1つがゼラーフの足下近くにまで転がって来ると…
ボォォォォォン!
凄まじい大爆発がバリケード内側で幾つも発生した。
投げ込まれたのは衝撃手榴弾で、これは破片ではなく高い爆発力と衝撃波で目標を破壊することに優れている。
そこへダメ押しとばかりに84㎜無反動砲のM3E1がバリケードに向けて撃ち込まれた。
反動を打ち消すために砲口逆方向の後方へ大量のガスや樹脂破片が高速噴射される。より安定した射撃が可能な上、使用しているのは人間よりも優れた身体機能を持つWALKERである為、その安定性は一層確実なモノとなっている。
『撃て』
ボシュッ!
ズガァァァァァーーーーンッッ!!
突如として強烈な爆発がバリケードで起きた。築いたバリケードは無残に破壊され、近くにいた兵士達も五体がバラバラに千切れるように吹き飛ばされた。
その衝撃はゼラーフ達にも襲い掛かり、彼は数メートル後方まで飛ばされてしまった。
「ぐぅ……な、何が起きー」
鈍い痛みと朧げな意識の中、ゼラーフは立ち上がった。周りは死屍累々と化しており、息がある者でも死ぬのは時間の問題だった。
背後から走り迫って来る無数の足音が聞こえる。
ゼラーフの背中に冷汗が流れ落ちた。
だがそれは迫り来る足音に対してではなく、今漸く気付いた自身の状態である。
……腰から下が無い。
「うそ……だろ」
痛みは感じるどころか段々と和らいでいく。
意識もぼんやりとしてきて、異様に瞼が重い。
彼は何とか這おうとするも意識を留める事は出来ず、そのままゼラーフという男の全てが終わった。
『通路確保 艦内制圧継続』
無機質な声が呻き声だらけの通路で一際よく聞こえ響いた。
何とか銃を拾い反撃しようとする者は悉くトドメを刺されていく。例え死に体でも息があって危害を加えようものなら容赦無く弾丸を撃ち込む。
心を持たぬ機械ならではの行動と言えよう。
WALKER達は生き残りを格納区へと連行しつつ、更に艦内奥へ進んでいく。
ーーー
ーー
ー
艦橋では艦尾からの激しい銃声が聞こえる中、周囲を怠らずに警戒していた。
「な、なぁ、俺たち……生き残れんのか?」
「さ、さぁな。蛮族どもの事だ……人肉を好む連中かも」
「ひぃっ!」
皆が不安を抱いていると艦橋の割れた主観ガラスから何かが投げ込まれた。
コロコロと転がるそれに一瞬呆気に取られていると、凄まじい閃光と破裂音が艦橋内を襲った。
「うわぁぁぁぁ! め、目がぁぁ!」
「眩しいぃぃ!」
「耳がぁぁぁ!?」
同時に窓を突き破りガラスが艦橋内に舞い散らしながら何かが侵入して来た。
機甲無人第二中隊のWALKER達だ。
『制圧射撃』
無機質な声でM4カービンの引き金を引く。
ダダダ!
ダダ!
ダンダンダン!
反撃の余地も与えないまま発砲。
瞬く間に制圧し捕縛する。
WALKERの1機が1人を無理やり起こし問い詰める。
『ここの指揮官は誰だ?』
「こここここ殺さないでぇぇ! 撃たないでェェェェ!」
『ここの指揮官は誰だ?』
気が動転した兵士は助かりたいが為に、安否不明である副長ゼラーフ以外の名を出した。
「な、ナスレス、ナスレス艦長です!」
『何処にいる?』
「じ、重防区画にいます! 怪我人も皆そこですぅぅ!!」
WALKERは他にも確認を取るが皆が一貫してナスレスの名を口にした。
『第一中隊へ通達。現在戦闘中の通路に敵指揮官はいない。繰り返す、敵指揮官はいない』
『了解。直ちに掃討を開始する』
数分後、第3通路は突破された。
毎日いい事、平穏な事ばかりじゃない
嫌な事だってあるし思わずイライラしてしまう事もある
それら含めての人生
まだ先は長い…嫌なことも時間が解決してくれる
仕事も今一度見つめ直そう
そう思うここ最近の出来事




