表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
146/161

第141話 生き残りたち

3ヶ月もお待たせしてしまい誠に申し訳ございません。

仕事は相変わらずですが山は超えました…多分


投稿頻度は前より少し遅くなるかもしれませんが、どうかこれからもよろしくお願いします!

 オワリノ国遠征軍第3航空軍前衛艦隊が壊滅してから3時間弱が経過した頃、オワリノ国国境外縁部をレムリア帝国の偵察機『クストルフォ』3機が上空約7900mを飛行していた。


 目的は消息を絶った前衛艦隊の安否と戦況確認である。


 最後に通信があったのは3時間前…もはや報告とは思えない悲鳴に近い声が前衛基地の通信管制棟へ入るが、此方が再度詳細な報告を求めようと声を発する前に爆音と同時に通信音声は砂嵐となった。



(全滅など考えられんが……)



 偵察機(クストルフォ)のパイロットは栄えあるレムリアが蛮族国家相手にそれは無いだろうと考えるが、何故か妙な胸騒ぎを感じていた。



「直下範囲型魔波レーダーには今現在のところ感無し。ま、このあたりなら前衛艦隊も無事だったから問題ないのは当然か」



 同乗者である相棒が索敵レーダー機器と睨めっこしながら少し蛇足な言葉を含めて報告をする。



「此方のレーダーにも感無しだ」



 パイロットも続けて報告をする。

 情報共有は基本中の基本である。



「おい、そんな暗い顔すんなって。こちとら8000弱の高度を飛んでんだ。まずバレることはねぇよ」


「その点の心配はしてない。俺が心配してんのは前衛艦隊だ」


「あぁ、お前の同期がいたんだったな。エストレーラーのパイロットだっけ?」


「あぁ、一流だ」



 パイロットはかつての親友を思い出していた。

 彼がレムリアの撃墜王を目指すなら、俺はそれを補助する一流の偵察機乗りになる、誓い合った仲だった。


 無論、艦隊とその同胞達の心配もある。



「もう少しで内縁部だ。警戒を怠るな」


「了か……ん?」



 相棒がレーダー機器の半球盤を食い入るように見ていると、突然声を上げた。



「10時の方角より飛行物体接近! 超音速で接近中! これは……魔導ミサー」



 この時、前線基地司令棟司令室の魔波レーダーから3機全ての偵察機の反応が消えた。


 この出来事をきっかけに前線基地は漸く事態の深刻さに気付く事となるが時既に遅し。これから起きる地獄を誰一人として想像だにしていなかったのだ。






 ーーー

 半日後……


 オワリノ国遠征軍前線基地『カプターゼ』

 ーーー


 オワリノ国攻略を目的とした前線基地。

 此処には遠征軍第3航空軍も駐留しており、陸軍も約5万弱の兵力が存在している。


 様々な建築物が立ち並ぶ中でも、前線基地管制本棟では職員達が今までにないほど忙しく駆け回り、場は喧騒で溢れていた。


 その理由は言わずもがな、オワリノ国遠征軍第3航空軍前衛艦隊からの連絡が途絶えた事と、それの偵察に向けて飛び立った偵察機の消失である。


 オワリノ国の国境守備隊と思われる部隊との衝突報告を受けて以降、罵声と轟音に紛れた悲鳴に近い無線報告が入っていた。内容は所々プツプツと切れていた為、断言は出来ない点も多い中で断定して言える点は



 ーー敵は魔導ミサイルを有しているーー


 ーー敵の射程は我が軍を超えるーー


 ーー魔波レーダーに感知しないーー


 ーー全滅ーー



 この報告を受けた通信班は我が耳を疑いながらも一語一句上官へ報告した。無論、上官らは信じる訳もなく何かの間違いだろうと思い、これらの報告を特に重く受け止める事はなかった。


 しかし、最後の悲鳴に近い前衛艦隊からの通信以降、前衛艦隊からの通信は一切無くなった。臨時報告は兎も角、定時報告すら無いのは流石におかしいと感じた上官らは早急に原因究明を模索した。だが、事態は一向に解決せず、寧ろ最悪な結果を辿ろうとしていた。



 ーー派遣させた偵察機部隊が突然消息を絶つーー



 ただの通信機の故障だとしても派遣させた3機全ての通信機が故障するなどまず有り得ない。

 消息を絶ったと思われる場所がオワリノ国国境外縁部付近という点も気になる。


 この時、察しのいい者には何となくその答えがみちびき出されていた。根拠や証拠はない、直感ともいえる答えだ。


(敵に墜とされたか……)




 ーーー

 オワリノ国遠征軍前線基地カプターゼ


 基地長室

 ーーー


「やれやれ、向こう側は修羅場だな」



 少し古めかしくも清潔感のあるこじんまりとした部屋にある2つの二人がけのソファ。その1つに座るこのカプターゼ基地の基地長ナイスン大佐は窓から見える情報管制棟を苦笑いで眺めていた。



「仕方ないでしょう……前衛艦隊が全滅、偵察部隊も消滅したとなれば。ところで基地長の方は大丈夫なのですか?」



 彼と向かい合うようにソファに座る褐色肌の偉丈夫な男、ダーガ・ザイザム中佐が基地長ナイスンに質問する。


 ザイザムは肌の色こそ褐色だが、耳はレムリア人と同じ尖っている。彼は父親が現地人、母親がレムリア人の混血人だ。



「大勢の部下を失った悲しみはまだジワジワと胸の中に残っているよ。連中の対応にも、もう慣れた……ハハ」



 枯れた笑い声を発する彼にザイザムは肩を竦めた。


 大勢の部下を失った悲しみはザイザム自身痛いほど理解している。前衛艦隊には彼の友人や元部下もいたのだ。特に旗艦ヴァルンゴルストの艦長ナスレスとはここ最近知り合ったばかりなのだが、直ぐに気が合うことが出来た新しい友人だった。そんな彼をこんな早々に失うことになるとは、ザイザムは微塵も思っていなかった。


 そして彼の言う連中の対応、それは貴族院の事である。



「『前衛艦隊、壊滅的条件』の報告を本国へ上げた途端に、本国からの通信が引っ切り無しだ。まぁそれも職務としての内容なら全然良かったのだが……」



 ーー大貴族であるリッター家当主の安否はー


 ーー蛮族相手に遅れを取るなどレムリア人の否、メルエラ教徒の恥晒しーー


 ーー貴族を守るのが平民の義務。それを怠った報いは受けねばならぬぞーー


 ーー貴様を降格処分の後、2度と昇進など出来ぬ窓際部署へ放り込んでくれるー


 ーーこれだから平民はーー


 ーーこれだから二等臣民以下はーー


 ーーこれだから劣等人種はーー



「――みたいな事を何時間も休みなく言われたよ。ただの暴言の嵐だ」


「……心中お察しします」



 ナイスンが分かりやすく肩を竦める。ザイザムが今の彼にしてあげられる事は傾聴と同調、あとは高い酒を一杯奢るくらいだろう。だが、それは職務外ならの話だ。



「……救出部隊の派遣は?」


「ダメだ。残念だが、許可は出来ない」



 ザイザムは苦虫を噛み潰したかのような顔で静かに目を閉じた。何となく棄却されるのは理解していたが、それでも僅かな可能性に賭けていた。



「理由は分かるだろう? 偵察機が内縁部近郊で消息不明。十中八九敵に撃墜されたと見ているが、どこからどうやって攻撃をしてきたのかが不明だ。悪戯に部隊を派遣し、更に犠牲を出す可能性が高い。陸路からという案もあるが、輸送艦での着陸地点は内縁部近郊にある為、それも敵に撃墜される可能性がある。他は鬱蒼と生茂る森林と不安定な地形だ。より確実かつ安全に部隊を降ろせる場所はそこしかない。此処から向かうにしても距離があり過ぎる。とてもじゃないが墜落地点に辿り着く頃には生存は絶望的だ」



 見事なまでに反論の余地がない。前衛艦隊にはナスレスの他にも彼の部下や同期が多数配属されていた。助けに行きたい気持ちは強いが、ここは耐えるしかない。このどうしようもない無念な感情はナイスン基地長も同じだろう。



「第二陣の艦隊指揮官はザイザム中佐、君になる」


「……貴族連中は何も言ってこないので?」


「フン、連中はすっかり尻込みしてるよ」



 なるほど、つくづく腰抜けだと改めて思った。まぁそれもナイスン基地長からすれば無能なバカ貴族を指揮官に部下を失うことになるよりずっとマシだろう。



「副指揮官はロルル・ロ・ルーロル少佐だ。1週間後に到着予定の援軍と共にこの基地へ来る予定だ」


「ルーロルですか。彼女が副指揮官なら心強いです」


「第二陣は機動力重視になる。いいか? 今度こそ敵勢力を叩き潰す」


「はっ!」



 ザイザムは勢い良く立ち上がるとキレのある敬礼をする。救出部隊の派遣は出来ない。仲間たちの生存は絶望的となるだろう。ならば、自分たちが敵を殲滅することで彼らの手向けとするのが一番だ。


 彼と彼の部下たちは来るべき決戦に向けて闘志を研ぎ澄ませた。



 ーーーーーー

 オワリノ国国境内縁部 


 上空

 ーーーーーー

 聖国連オワリノ遠征航空主力前衛艦隊軍との激戦から2時間が経過した。あんなにも砲弾と怒号、爆発音が鳴り響いた場所が今では月夜に照らされた静かな森林地帯へと変わっている。



『オールド01よりモビー01。周囲に未確認機の反応無し』


『モビー01了解。これより目標地点への降下準備に移る』



 オワリノ国第八自衛隊駐屯地より発進した大型輸送機『山鯨』7機が先の戦闘で墜落した敵旗艦と思われる超弩級戦艦の鹵獲及び乗組員の救助と無力化を目的とし、目標地点に向け上空を飛行してた。


 格納庫には普段ならば様々な車輌を搭載しているのだが今回ばかりは違った。


 今回の敵艦の鹵獲、そして敵国兵士の無力化の任務に当たるのは人間ではない。それらを実践する者たちが格納庫に存在していた。それは多数の第5世代型のWALKER(ウォーカー)達で、全機が格納庫に格納、鎮座していた。

 特殊装甲板は迷彩柄、機体によっては相手への威嚇の意味も込めた塗装を施されているモノもある。戦地に赴くのと何ら変わらない文字通り完全装備の状態のWALKER達は整列したまま直立不動で待機している。


 そんな中、他の機体と違い格納庫内を自由に歩いているWALKERが何機か存在した。それらはCHIEF(チーフ)WALKER(ウォーカー)と呼ばれている。CW(チーフ・ウォーカー)は多数のWALKERの管理・制御端末の役割を果たしており、予めインプットされている個体の現在地や状態の把握は勿論、個々や複数機に細々とした指示を送る事も可能となっている。


 本来、第5世代型は応用力に長けた高性能AIを搭載されているが、情報機能分析・判断・処理はやはり機械的と言わざるを得ない場合が多い。故に飽くまでも人間とチームを組んで任務にあたる事が常識である為、全てをWALKERに頼ると言うことは地球でも前例が無いのだ。

 今回は未知に等しい土地とどれほどの実力を持つのかが未だ不透明と言う事もあり、生身の人間は派遣せず遠隔操作型のCWを通しての任務にあたる事となった。


 格納庫を見て回っているCWの特徴としては背嚢の様に背部に備えられた制御管制端末と頭部のアイカメラが一般的なWALKERが赤色に対し、こちらは緑色に発光している。



(はは、まるでVRゲームそのまんまだな)



 CWの1機を操作している1人の陸自の幹部自衛官、新橋(しんばし)一等陸佐はこの機甲無人機連隊の連隊長を務めている。彼の下に小隊を務める小隊長が複数存在し、操縦するCWもディテールが少し違う。


 彼は毅然として整列しているWALKERをアイカメラを通し安全圏である第八自衛隊駐屯地の遠隔操作型作戦指揮所(ROPC)より眺めていた。特殊VRヘルメットを装着し、超高画質な機内映像とその光景をリアルタイムで見ているのだが、不思議とその場に居ると言う気にはならなかった。



(感触も、臭いも感じない……リアルを感じない事は戦地における人の感覚を鈍らせる。死や痛みに対する恐怖や不安が無い。これはリアルに感じない事を逆手に取ったと言えるが、それはつまり人を殺したという実感を与えなくしている事にも繋がる。精神的負荷や苦痛を緩和させると言う意味では素晴らしいのだろうが)



 何故かその事に少しばかり狂気を感じる。高度な技術の発展により戦争などの危険な現場で人が死ぬという事が大幅に減少した事は素晴らしい事ではある。だが、そうなってしまったら人間とロボットの差が無くなるような気がしていた。心あるからこその人間、例え未熟で愚かだとしてもそれが人間という者なのではないだろうか。それも無くなれば人はロボットと何ら変わらなくなる。



(……そんな事を気にしてもしょうがないか。今は任務に集中だ)



 新橋は首を横に振り余計な雑念を振り払う。それに合わせて操縦機のCWも首を振った。



『此方機長、もう直ぐ降下地点へ到着する。木が邪魔で着陸は出来ない。そのまま飛び降りてくれ』


『了解』



 内蔵無線から送られてきた通信に返事を返すと、新橋は各小隊長に作戦準備の指示を送る。降下地点は墜落現場から約5km近く離れた場所になるがこれは生き残っている敵勢力からの奇襲を想定しての判断だ。



『よし、全機起動開始せよ』



 薄暗い格納庫内が赤色のアイカメラで埋め尽くされる。



『全機起動確認』




 ーーーーーー

 オワリノ国国境内縁部と外縁部中間 某所


 森林地帯 ヴァルンゴルスト級艦内

 ーーーーーー

 激戦の末、無残な姿と成り果て墜落したオワリノ遠征軍前衛艦隊旗艦、ヴァルンゴルスト級重装甲型戦艦は至るところから黒煙を上げていた。地上の木々を多く薙ぎ倒して墜落した艦艇は粉微塵に爆沈する事は無く、何とかその原型を保ったいた。しかし、素人目から分かる通り修理すればまた飛べるというレベルを遥かに超えたダメージを受けている。


 艦は死んだ。


 しかし、奇跡的にも生存者は多かった。

 現生存者は約500人。



「動ける者は手を貸してくれ!」


「おーい、こっちにもいたぞ!」


「瓦礫を退かせる、離れててくれ!」


「しっかしろ、今助ける!」



 奇跡的に無事だったレムリア・聖国連兵(以降レムリア兵)は生存者の確認と救助にあたっていた。そこには灰色の肌を持つ純レムリア人やそうでない混血やそもそも人種が違う二等臣民が互いに協力し合っていた。そこにはよくある人種差別や階級差別など存在しない意識が確かに存在していたのだ。



「怪我人は外に出せ! 武器になる物を見つけて安全圏を確保するんだ!」



 ヴァルンゴルスト副長のアルマン・ドン・ゼラーフ少佐は動ける兵達を指揮し現場の安全確保に努めていた。怪我人は外へ連れ出し、即興で作成した簡易テントで治療を出来る限りの行い、動ける者は艦内で生存者の捜索と救助、使える武器弾薬、医療薬品の運び出しなど…的確な指示を送り続けた。



「無事ですかい? 副長」


「む? おぉ、ラム医務長!」



 残骸と化した艦内から現れたのは本艦の医務長のラムだった。彼も傷を負っているが特に支障は

 無さそうで安堵した。彼さえいれば怪我を負った兵達を診てもらう事が出来る。



「酷いことになりましたな……まさか不沈艦のヴァルンゴルストがこんな事に……一体なんの悪夢なのか」


「分からん。私も未だに信じられない」



 2人は改めて残骸と化したヴァルンゴルストを眺める。最高硬度を誇る艦首は大きく凹み貫かれ、至る所が爆発により引き裂かれている。無敵の不沈艦と呼ばれた軍艦が無残な姿と化し、その実力を信じた大勢の同胞達がまだこの中で救助を待っている。そう考えるとなんとも言えない虚しくも悔しい気持ちに駆られる。



「なぁ副長、ワシらは一体何と戦っているのですかい?」


「それは……ニホン国のニホン軍だ。奴らは神メルエラの慈悲を無下に扱った蛮族共だ」


「その野蛮人がこの不沈艦を撃破出来る程の技術を……蛮族恐るべし、ですな」



 ゼラーフは残骸と化したヴァルンゴルストを改めて眺めた。そして、同時に疑問が浮かんでくる。



(自分たちが戦っている相手は本当に蛮族なのだろうか? 蛮族がアレほどの技術を持てるものなのだろうか?)



 最新式魔波レーダーに映らない敵の魔導ミサイル、凄まじい破壊力を有する砲塔、優秀なパイロット達が扱う主力戦闘機隊を全滅……どう考えてもおかしい。今まで戦ってきた相手とは一味も二味も違う、違い過ぎる。



(本国のニホン国に対する分析はサヘナンティス以上ヴァルキア未満だった。そして、ヴァルキアであれば我々は十分に勝てる……だが、そのヴァルキアよりも下である筈のニホン国にこうも一方的に敗北するなど)



 ゼラーフは途轍も無く嫌な予感を全身で感じた。



「国は……彼の国の分析を誤っている」



 ヴァルキア以下などとんでもない。ヴァルキアよりも遥かに格上だ。何としてでも上層部に意見具申の手続きを踏み、今一度敵の情報収集と分析を行うべきと判断した。


 だが今は乗組員の救助と、助けが来るまで生き残る事が大事だ。



「そう言えば、先ほど医務室を調べたのですが、案の定メチャクチャで使える器具は殆ど有りませんでした。ですが、緊急治療薬(ポーション)はありましたよ」


「おぉ、それはありがたい!」



 ポーションはレムリア・聖国連軍で配給されている治療薬で負傷した時に経口摂取する上級の魔導薬品だ。効果として高い鎮痛作用と自然治癒の強化が付与される。しかし、致命傷には効果は殆ど現れない。致命傷には覚醒治療薬(エリクサー)が用いられるがこれは劇薬である為、副作用に強い興奮作用と依存性が現れる。


 因みにエリクサーはハルディーク皇国より多量に輸入した『ルカの秘薬』を更に加工処理して生み出されたモノだ。



「ですが、数は限られてます。正直今いる怪我人全員に配れる分もあるかどうか……」


「致し方ないだろう……配分は医者である君の裁量に任せる。すまないが、彼らは今はある意味私より君がいた方が心強いのだ」


「分かりました、任せて下さい!」



 ドンと胸を叩いたラムはポーションが沢山詰め込まれた袋を持って下へと降りていった。そこへ1人の兵士が残骸を掻き分けながら慌てて近づいて来た。



「ふ、副長! か、艦長が、ナスレス艦長が生きていらっしゃいました!」


「な、何だと!?」



 このヴァルンゴルストの艦長にして最後まで皆を引っ張ってくれた気高き軍人であるナスレスが奇跡的にもまだ生きていた。この報告により陰鬱な空気に包まれる現場に僅かな希望が差し込まれた。



「今複数人で救助にあたっていますが、傷が深く……」


「わ、分かった。直ぐに私も向かう!」



 彼は兵士の案内で艦長の元へと駆け付けた。



 ーーーーー

 ーーー

 艦橋に到達するまでの道のりはかなり過酷で通路なんてあってないようなものだった。それでも何とか通り抜け、ゼラーフは艦橋へと辿り着いた。


 艦橋内は死屍累々と化していた。


 一見すれば生存者がいるなど誰も思わない様な状況の中で数人の兵士が積まれた瓦礫を必死に退かそうとしているのが目に入った。案の定、艦長のナスレスはその瓦礫の下敷きとなっていたのだ。


 ゼラーフ達はなんとか力を合わせナスレスを救出。念のため、艦橋内を隈なく見たが他の生存者はいなかった。


 ナスレスを外へ連れ出し、ボロ布を使い木の幹や枝、残骸から取った鉄の棒に結び付けて作った簡易式テントの中へ運んだ。医務長のラムを連れて来たが思った以上に傷は深く、必要な器具や薬品も無い今ではどうする事も出来なかった。



「う、うぅ……ぐぅ……」


「ナスレス艦長!」



 ゼラーフが必死に声かける中、ラムがポーションを待って慌てて来た。



「先ずはこれを飲んでください」



 ラムが彼の上体を抱き起こし、アンプルに似たガラス容器の蓋を開けて飲ませようとするもナスレスは手で弱々しく払い除けた。



「ふ、不要だ……それは、まだ間に合う奴に……使ってくれ。は、はは……なーに分かってる、この傷の深さじゃあ……ポーションなんか効かない……」


「艦長……」


「馬鹿野郎、なんてツラしてやがる……それでもお前、副長か?」



 ナスレスは笑っていた。それが自分たちを不安にさせない為の痩せ我慢である事は理解していた。故に、その精一杯の笑顔が心苦しかった。



「オレはこんなザマだ……現時点を以って……お前が、皆の指揮を取れ。流石の俺でもこの状態は……はは、キツイわ」


「はっ!」



 ゼラーフは声の震えを必死に抑え答えた。


 流石にこれ以上は艦長の身体に障ると思い、ゼラーフはテントから出た。そこへ数人の兵士が駆け寄ってくる。



「副長、か、艦長は?」


「……容態はよろしくない。只今より私が現場の指揮を艦長より委任された」



 周囲に騒めきが起こるがすぐに止んだ。今は無駄に狼狽る場合ではない事を皆理解しているのだ。本当に優秀な兵士達だと彼らを誇りに思いつつ、彼は命令を発した。



「人命救助と武器食料品などの使える物の回収作業は継続。通信班は艦内の通信機器がまだ使えるかどうかを確認し可能なら救難信号をカプターゼ基地へ送れ」


「「ハッ!」」


「此処はまだ未知の森だ。周囲の警戒も怠るな。周囲は血の匂いで溢れている。火は焚いてあるが獰猛な獣が襲って来ないとも限らん。交代で見張りにあたれ」


「「ハッ!」」



 皆が一斉に各々の役目を果たすべく行動を開始した。そんな中で1人の兵士がゼラーフの元へ歩み寄る。



「副長……少しよろしいでしょうか?」


「どうした?」



 その兵士は「見てもらいたいものが……」と言い、彼をとある場所へと案内した。


 そこは格納区だった。巨艦であるヴァルンゴルストには複数隻の小型艇が格納されていおり、そこそこの広さを有している。その格納区にも大きな爆発と火災はあったが今は鎮火し、ある場所として活用している。それはー



「……確認出来た数は?」


「ハっ……既に500人は超えています」


「そうか……くっ!」


「まだ見つかってないだけで、もっと出てくるかと……怪我人にも傷が酷い人もおります。このままでは……」



 遺体安置所と化していた。

 既に亡くなった者、傷が酷く救出後に亡くなった者など、多数の乗組員達が安置されていた。中には身体の半分以上が遺失している者もいた。その為、損傷が酷い部位に上着や布切れなどで顔や体を覆っている。



「数少ない医薬品も底を尽きそうです。救助作業は続けてますが、やはり時間が経ち過ぎているのか……」



 そこへ2人の横を担架に乗せた遺体が運ばれる。



「出てくるのは死体ばかり……」



 奥から多量の金属が入った複数のヘルメットを嗚咽しながら運ぶ数人の兵士の姿が見えた。



「クリスタルタグは必ず回収しておけ……遺体は最悪置いていく事になる」


「はい……」



 彼らの言う『クリスタルタグ』は地球でいう『ドッグタグ』であり軍隊における個人識別表の役割を持っている。クリスタル製で縦長の菱形をした薄い金属板には各個人の名前が彫り込まれている。1人につき2枚与えられており、これは戦場で亡くなった際、遺体の代わりとして持っていく為である。



「こんな地獄は、生まれて初めてです」


「俺もだ……」



 格納区は悲しみに暮れる者で溢れていた。

 遺体の前で泣き崩れる者、遺体に顔を埋めて泣く者、心が壊れたのか死んだ目で遺体に語りかける者、互いが互いに悲しみを共感し合う者など様々だ。



(何とかこの状況を乗り越えねば……)



 ゼラーフは格納区を後にした。そして、動ける者を何人か呼び集め、ある命令を下す。



「他に墜落した艦艇から医薬品等の回収及び通信機を使い基地へ救助要請。さらに生き残りがいた場合、その救助……このままでは更に犠牲者が増えるばかりだ。せめて医薬品でも確保したい」



 彼の前には30名の兵士が集められている。皆戦場を経験した事のある優秀な兵士たちだ。ゼラーフは彼らに此処から墜落した艦艇が存在すると思われる場所へ向かい必要物品の確保と救助という任務を告げた。


 正直危険の多い任務だがこのまま満足な治療道具も無い状況で、ただ救助を待つだけでは仲間が死ぬだけだった。


 動ける兵士達に呼び掛け、志願した者が彼らだ。

 誰1人として考えが変わった者はいなかった。



 ーーーー

 ーー

 ー

 数人のレムリア兵が残骸の上に登り見晴らしの良い場所で周囲を見張っていると1人の兵士が口を開いた。



「なぁ」


「どうした?」


「なんか……変な音聞こえないか?」


「へ? どんな?」


「いや、なんか……飛空艇に似たような」

新キャラの名前を考える度に「自分キャラ増やし過ぎだ…」と気付きました。

これは悪い癖です…泣 

なんとか努力はします…


この前、書籍版日本国召喚6巻を買いました!

7巻は何時になるのか待ち遠しいです!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙です! レムリアは何故この日本よりヴァルキアの方が上だと思ってしまったのか まさか飛空艇の有無だけで決めてしまったのか?まああっちには詳細不明の「大量破壊兵器」やらもあるみたいだし、…
[良い点] レムリアの特に貴族どもの選民思想は差別主義は許せないな。日本国の恐ろしさ骨の髄まで叩き込むしかない。逆に仏教に改宗させちまうか。別に仏教は日本の国教ではないがなんとなく。神道でもいいし。
[一言] さっさとレムリアのクソどもを物凄く苦しませてね
2020/11/02 08:41 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ