第139話 オワリノ国進撃その1
誤字報告ありがとうございます!
久々に新SF兵器が出てきます。
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日本国近海
関東地区海上自衛隊海底ミサイル基地
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時は日本にレムリア側の使節団が訪れる前に遡る。日本は偶々観光に訪れていたアメリカの某重鎮から、転移後の家族の安全と生活の保証を条件に受け取った『AOP』のデータを使い、日本国近海……主に転移前の排他的経済水域地点に日本を囲うほどの超大規模な海底ミサイル基地の建設に取り掛かっていた。
先ず初めに取り掛かったのは日本国周辺……最低でも全世界の排他的経済水域にあたる部分の海底地形のデータ収集である。
無人海底探査機や海中作業特化の『SEAWALKAR』は勿論、バルフォール海底国からの全面協力もと日本周辺の海底地形データ収集をスムーズに行う事が出来た。
正直、バルフォール海底国の協力が無ければ日本は今でも海底地形の調査をしていた可能性が高い。
地形、そして海流のデータが取れれば、後は無人機という名の人海戦術による超ピッチな海底ミサイル基地の建設の開始である。現在は日本国周辺を優先的に建設しているが、海に面した各同盟国にも海底ミサイル基地建設を実施。
現在の完成率は8割まで進んでおり、関東地区の海底ミサイル基地は既に完成している。
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・RGM-84式対艦ミサイルセル×40基
・SAM-4式対空ミサイルセル×40基
・短距離弾道ミサイルサイロ×30基
・中距離弾道ミサイルサイロ×20基
・大陸間弾道ミサイルサイロ×10基
・その他観測ミサイルセル×5基
・無人潜水艦『海舟』×3隻
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海底部や海底山などをそのままミサイルセル・サイロとして活用。外部からの物資搬入や人員移動などは基地内部へと続く海底洞窟が複数箇所存在しており、その中にある空洞部が海底ミサイル基地の港湾の役割を果たしている。
無論、その場所を見つける事は勿論、近づく事は極めて困難。その近辺には『海舟』や『SEA WALKER』、バルフォール海底国の水人族や人魚族の戦士達も同盟条約に基づき巡回・警備している。
なお、基地内の8割以上がミサイルセル・サイロで埋め尽くされており、SCIC ーSeabed Combat Information Centerーやトイレ、簡易居住区以外生身の人間が入れる場所は極めて少ない。完全な有人型となれば様々なコストや時間が掛かりすぎる為、海底ミサイル基地は基本的に無人機による運用・管理が行われている。
この様にWALKARのみで運用している基地などには遠隔操作型の『CHIEF WALKAR』が最低2機存在している。
この海底ミサイル基地に於いては一番近くにある海上自衛隊基地内地下にある遠隔操作型作戦指揮所と呼ばれる場所にて幹部自衛官らが日夜交代制で操作している。
また、その操作方法は特殊なヘルメットを装着、操作対象となるCHIEF WALKARの端末とリンクする事で、まるで自分がその場にいる様に操作や指示を出す仕様となっている。
また、そのヘルメットはVRゴーグルをフルフェイス版にした様な独特なデザインをしている。操作端末は許可が降りれば個々によって変更や調整が可能で、キーボードタイプ、某ゲームメーカー型のコントローラータイプ、身体に専用端末を装着しそのまま手脚の動きに連動する体感型コントーラーなどが存在する。
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同所
第三港湾区
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海底ミサイル基地内にある天然の空洞部を改造して物資運搬や搬入などを主とした複数の港湾区。その中の第三港湾区にて、今日もドム大陸経由で無人潜水艦『海舟』で運び込まれた物資を運ぶ作業が進んでいた。
『第1ドックより物資運搬用潜水艦が入ります』
『了解。周囲作業中の機体は海面浮上時の飛沫に注意せよ』
電子音染みた声で魂を持たぬ人型の機械――WALKARが荷下ろし作業の準備を進める。
今回運び込まれるのは大陸間弾道ミサイルの部品である。ほんの一部とは言え相応の重量はあるが、慎重な作業が求められる。慎重さは兎も角、総重量1t以上の部品を運ぶのには生半可なパワーでは厳しい。
ズゥン! ズゥン! ズゥン!
列を組む荷下ろし作業班の中へ、かなりの重さを感じさせる一定の足取りで近く巨大な何かがあった。
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搭乗型多目的パワードスーツ
『BTMP-3』
全高4.5m。
内蔵兵器は両肩部の小型対地ロケット弾。
両腕に隠蔽型高周波片刃ブレード。
大型の28㎜機関砲を備えている。
また右脚部にも大型高周波コンバットブレードが装備されている。
コクピット部分には特殊強化防弾ガラスで覆われており、搭乗員は専用の操作端末を両手脚に装着する事で人間のように事細かな動作を行う事が出来る。
そのパワーは勿論、強靭な防御性と見た目からは想像し難い機動性と移動速度を誇る。また気密服としての機能も備わっている為、高温地帯や高高度でも問題なく駆動が出来る。
28㎜機関砲は利き手側の肩部から背部弾倉部(350発)を通って給弾を行う仕組みになっている。
中にはパイルバンカーを片腕部に内蔵した機体も存在するが、それは戦闘用ではなく工事や掘削作業に用いられる事が多い。
今回の作業においては武装は全て解除。
文字通り運搬のみを目的としている。
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『オーライ、オーライ』
港湾ドック固定型クレーンに運ばれる巨大な半円型の部品をBTMPが両手で受け取る。
プシューーーーー!
両肩部の排気口から大量の熱気が噴出し、ほぼフルパワーでその部品を運搬車の荷台へ運び始める。
『……了解』
港湾区管制塔にいた1機のWALKARが地上の基地からの指示を内蔵無線で受けると、一斉に港湾区で作業している各機へ指示内容の電子信号を送る。
『本日の作業終了。本日の作業内容レポートを作成…………作成完了。送信…………送信完了。これより清掃作業を開始』
運搬用として寄港していた『海舟』は再び海中へと潜り、上の基地へと戻って行った。
作業班WALKARが次々と港湾区を後にし、決められた収納スペースへとその身体を収める。彼らのかわりに現れたルンバに酷似した特殊清掃機がゾロゾロと現れると、一斉に清掃作業が開始される。
「いいね、順調じゃない」
「はい。当初はSEA WALKARが主流になるのではと少し心配していましたが、杞憂だったようで」
「だな。SEA WALKARはバカにコスト掛かるしな。通常型のWALKARでも問題無くて良かったよ、ホント」
「稼働限界時間の半分も経ってはいませんが、さっきの様に充電を兼ねた点検が必要です。空洞とはいえ、ここは海底。水深500mなんですから」
「まぁね。こういった室内じゃないとスーツがジメジメしてやんなっちゃうし」
第三港湾区天井部にある渡り通路。
そこに設置された窓から港湾区を眺める2人の濃紺スーツ姿がいた。
日本国総理大臣の広瀬、防衛大臣の久瀬である。
2人は現在日本がこの関東区海底ミサイル基地を含めた数ヶ所で開発建造中のとある兵器の視察に訪れていた。
「第2世界の連中が此方の動向を探っていないとは限らない。魔導科学は未知の分野だ。あの巨艦のビーム砲みたいのが出てくる可能性がある」
「えぇ。ミサイルなら兎も角、あれほどの大きさともなると従来の電磁加速砲では少々心もとないですからね」
2人は以前の会議の中で出て来た例の空中艦艇……ノスウーラ級殲滅型大戦艦を思い出していた。あのビーム兵器は弾道型ミサイルには及ばないものの、その射程は決して短くは無く、十分過ぎる程の脅威と受け止めていた。
それが何隻も量産化され、尚且つ現代科学の兵器では効果が無いなどと言う事が起きれば最悪だ。
それに加えて第2世界では妙なリング状建造物を利用した短期間航法……所謂ワープ航法なる術を有している可能性が高い事が偵察衛星にて判明した。
近いうちに纏めたデータをヴァルキアやサヘナンティスを含めた対第二世界連合の各国へ送信する予定となっている。
「ワープねぇ……羨まし過ぎるなぁ」
「全くです。中国やアメリカ、ロシアあたりなら喉から手が出るほど欲しい技術ですね」
「それはこっちもだよ」
「しかし……そのワープ装置の範囲がどの程度まで可能なのかも重要ですね。本国から日本の首都東京まで一気にワープ可能なんて分かったら、例の軌道衛星型兵器の使用もやむを得ませんよ」
「むぅ。今の国民世論は幸運にも此方側だ。マスコミや野党は相変わらずだが、これを使う事で全てから批判を受ける覚悟も必要か」
「例の軍事機密データが入ったマイクロチップ、あの男は今は建国で勤しんでいる新アメリカ国で家族共々平穏に暮らしているそうですよ。そう言えばまたクルーズ大使……失礼、クルーズ首相が我が国に国土防衛要請が」
在日アメリカ大使のクルーズ氏は在日米軍やアメリカ人と共に無人の島へと移住。そこを異世界の新たな故郷、『アメリカ国』を建国中だった。既に大まかな作業は終了し、国家として堂々と動かしていこうと言った矢先にこの第2世界との戦争の危機である。
在日米軍と日本から輸入している武器弾薬兵器類があるとしてもアメリカ単体ではどう考えても勝ち目が低い戦いだ。故に首相となったクルーズは日米同盟条約に基づいた援軍要請を出したのだ。
「向こうも生き残るのに必死なんだよ。逆の立場なら俺だってそうしたさ。しかしまぁ……ハハ、同盟ねぇ。よくもまぁそんな綺麗事を……いや確かに真っ当な理由としては妥当だろうけどな」
「『この世に真の同盟は存在せず、あるのは共通の利益のみ』……これがリアルですね」
「そゆこと。んじゃま、早速建造ドックへ御案内願おうかな」
「長話が過ぎましたね。どうぞ此方です」
2人は渡り廊下を歩き始めた。
2人が向かった先は表面上は予備ドックとして空いている場所だった。
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同所
第1予備ドック
最重要保護区
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「これは……凄いな」
「えぇ、凄いですとも」
そこは予備ドックとは名ばかりの大規模な建造ドックだった。様々な用途に使われている無数のロボットアームやWALKAR達が休む事なく建造に勤しんでいた。
「今現在、建造しているアレは2番艦です。1番艦は既に隣のドックへ」
広瀬は見晴らしの良い高所からその様子を感心しながら眺めている。
「この2番艦建造を始めてからどのくらい経つ?」
「そうですね……半月も経ってませんね。なにぶん海底ドックなので、物資の運搬作業に時間は取られましたが」
「だとしてもこの速さだ。1番艦の稼働テストはどうだ?」
「直ぐにでも実戦へ出せるレベルです。乗員の選出も既に終え、今はアレをよりスムーズに動かすための訓練に励んでおります」
「そうか。よし、んじゃあ行ってみるか」
「はい」
2人は隣のドックへと移動した。
そこには空中で固定された一隻の巨艦があった。
「時代は繰り返す……か」
「まさかここへ来て『戦艦』を造る事になるとは、最初は驚きましたよ」
「正確には大型護衛艦だけどな」
そこにあったのは紛れもなく戦艦だった。
灰色の塗装で覆われた戦艦。
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ふそう型汎用戦闘護衛艦DDB-01『ふそう』
全長250m、全幅30.8m、最大速力30ノット。最新型イージスシステムを搭載した戦後の日本に於ける最大規模の護衛艦である。
艦首甲板部にMk.41が72セル。
艦尾甲板部に17式SSMの後継版30式SSM4連装発射筒2基。324㎜3連装短魚雷発射管2基。高性能20㎜機関砲3基。
最も重要なのは主砲である。
45口径35.6㎝連装電磁加速砲塔3基
50口径15.6㎝単装電磁加速砲塔4基
大口径の連装砲塔型の電磁加速砲の搭載である。
最高速度はマッハ38。射程は230㎞。
射出体である2本の導電性大型レールが対となっている連装砲塔が3基。従来の護衛艦に1基搭載されている15.6㎝単装電磁加速砲搭が4基も存在する。
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「大口径2連装……しかもレールガンだ。半端ない迫力があるな。しかしまぁ、良くここまで進化したよレールガンも」
「テスタニアで獲得した鉱山にドルキン、イールから輸入した例の鉱物。地球で発見されていたら各国がこぞって採掘争いを始めたでしょうね」
「資源戦争? かぁ、やだねやだねぇ」
電磁加速砲は2本のレールに強力な電流を流すことにより凄まじい磁界をそのレールに発生させる。そして、磁界の中にある射出体にも電流が流れる事により強力なローレンツ力が発生、射出体がレールに従い平行な方向へ爆発的に進んで行く。その速さは強力無比で軽く音速の7倍近くに達する。
圧倒的破壊力、圧倒的アウトレンジから目標を破壊する事が出来るこの兵器で地球世界でも決戦兵器として主に先進国で使われていた。
しかし、故に欠点もある。
その一つが使い方によっては光速にも匹敵する兵器だが、それもレールが無限に続く場合に限る。現実な話、レールは有限だ。その有限のレールの内に目標の速度まで達しなければならない。
つまり2本のレールを通り抜けるあのコンマ僅かの、極々一瞬の間にどれだけの電流を流せるのかが重要なのだ。そして、その瞬きの間で膨大な電力を発生させる電源も必要となる。
一つが電流を流せば必ず発生するのが電熱である。流す電流が膨大であればある程、比例して電熱も上昇する。その為にも電熱によってレールや他の電気回路にダメージが及ばないよう高度な耐熱加工が必要不可欠となる。
目標速度を撃ち出す程の電流を瞬間的に流すとなると回路に逆起電力という、凄まじい超電力により本来の電極反応を逆に妨げてしまう現象が起きる。そうなる事によって回路素子そのものを破壊してしまう。
もう一つが高速で導体が移動するのは電極的変化が早く起きている事である為、表皮効果に似た現象が発生する。つまり、速くなればなるほど射出体を加速する導体に電流が流れにくくなってしまう。故にある一定速度以上が発生しなくなるのだ。
つまりー
ーーー
「瞬発的な超電力とそれに耐え得る砲身が必要って事か」
「えぇ。地球世界では実現不可能でした。故に未完成の決戦兵器だった。しかし……」
「それももう終わりか」
電磁加速砲の抱える問題点。
それら全てを解決へと導いた2つの鉱物資源。
『アダマント鉱石』 『ヒヒイロカネ』
アダマント鉱石はドワーフのドルキン王国と砂漠の島国イール王国で採れた新種の天然合金型の鉱物資源である。この鉱石の突出した特徴は加えられたエネルギーに応じて、そのエネルギーに変化・発生させるという点である。しかもその発生するエネルギー量が地球の常識を逸脱したもので僅か50×50㎝の大きさのモノでも、僅かに与えたエネルギーによってそのエネルギーに内部で変化し、瞬く間に膨大なエネルギーが発生したのだ。
加工前故にそれは一定量に達すると自壊してしまうのだが、その時の測量は馬鹿げたモノだった。
例えば熱エネルギーを発生させた場合は、アダマント鉱石に熱放射を当てた。その時、瞬間的に発生したエネルギー量は、日本全国に存在する全ての火力発電所の1年分相当という桁違いのモノだった。
問題は加工法だと考えていたのだが、意外にもその加工方法は天然合金資源であるオリハルコンと大差は無く、滞りなく済む事が出来た。
因みにドワーフ族を始めとする各国の加工職人、鍛治職人、錬金術師達はアダマント鉱石を加工する事が出来ないことも判明した。
ーー硬過ぎてどうやっても加工出来ないーー
実にシンプルな理由である。
確かにアダマント鉱石はファンタジー作品に出てくるようにとんでもなく硬い。オリハルコンと同程度の加工方法と言うが、それでも日本の最新型の加工機器を駆使して漸くのレベル。
ここで一つの疑問が出て来る。
この世界に存在する鉱石の加工難易度として……
1番がヒヒイロカネ
2番がアダマント鉱石
3番がオリハルコン
4番がミスリル
5番がプラチナ
その下に金、銀、銅などが入るのだが、現地の人々でも加工が出来る鉱石はオリハルコンが限界なのだ。それでも宮廷に使える専属職人、超一流職人レベルの実力が必要なのだが、それでも加工は可能なのだ。
硬度だけで見ればオリハルコンと同程度にも関わらず何故アダマント鉱石は不可能なのか。
それはこの世界に於ける加工方法の常識に問題があった。
プラチナ以上の鉱石を加工するには通常の道具では非常に困難を極める。故に加工道具には必ず『魔化』が施されているのだ。
道具を魔化する事によって通常では加工困難な硬い鉱石でも加工する事が出来る。その魔化自体、超一流の魔導師でなければ扱えないのだが。
アダマント鉱石は加わるエネルギーによって変異する特殊な鉱石。そのエネルギーとは魔力を意味する事が日本側の研究にて判明した。火の魔力なら火力、雷の魔力なら電力、水の魔力なら水力、風の魔力なら風力と、アダマント鉱石に秘めたる莫大で異質な魔力によってコレらが爆発的に発生する。
魔化された加工道具は単純な強化魔法である為、その力を打ち付けられたアダマント鉱石は馬鹿げた硬度に瞬く間に上昇する。故に現地ではアダマント鉱石以上の鉱石の加工は不可能なのだ。
日本政府は雷の魔鉱石を科学の力でそのエネルギーを放出させる事に成功しており、これらを使い電磁加速砲を完成させたのだ。
既に日本は既に搭載している各護衛艦や未搭載の護衛艦に完成型電磁加速砲の配備を完了している。
「日本がアダマント鉱石の加工に成功した事をどこで嗅ぎつけたのか、国交を結んでいる国々から一切にその加工方法を教えて欲しいとの嘆願書が届いたのはいい思い出だ」
「あれ、安住がかなりヤツれてましたね」
さらにもう一つ、『ヒヒイロカネ』
これは日本がテスタニア帝国との戦争に勝利し、その戦後賠償の見返りとして得た鉱山から採出された特殊な天然合金資源である。
このヒヒイロカネは魔化云々関係なしに馬鹿げた硬度を有しているが、これも日本の最新型の加工機器にて何とか可能としている。
ではこの鉱石の優れている点は何かというと、耐熱性である。
琥珀色をしたその鉱石は中身がメラメラと燃え盛る業火のように煌めいている。常識外れの熱伝導性と耐熱性を持つヒヒイロカネは火口に投げ入れても、マグマに浸しても微塵も変形はしなかった。
実験で加工したアダマント鉱石に雷の魔力を流し込み、それによって変異発生した膨大な電流と電熱を通したのだ。その結果、従来のレールよりも遥かに高い耐熱性を証明する事ができた。政府はすぐに開発と実験を進んで行う事を指示をした。
「1番艦が『ふそう』なら2番艦はー」
「当然、『やましろ』です。」
「はは、やっぱりな。『ふそう』は日本で初めて造られた純国産の弩級戦艦だからな。今は何隻出来てる?」
「『ふそう』を含め8隻です」
「8隻か……」
この『ふそう』に匹敵する巨艦があと8隻も残っている。しかし、敵の数は膨大で『ふそう』すら超える巨艦も多数存在する。
個々の実力は高いが数が少し頼りない。
だがやはりここは数をスペックで補うしかないのかと考えていた。
「あ、そう言えば、オワリノ国国境部に設置した固定型電磁加速砲の稼働率はどうだ?」
固定型電磁加速砲。
それはオワリノ国国境部に地面への埋め込み式で設置された対地、対空の固定砲台に近い。
国境部に連なる中規模の山脈の山頂を主に陣を取っている。
「テスト起動は問題無く。50口径15.6㎝は既に7番までが完成し、将来的には15番まで開発する予定です。地下に電力供給用特殊ケーブルを張り巡らせて繋げています。射出体も問題無く発射可能かと」
「どこまで相手に通じるかは分からないが、何もないよりかはマシだろう。対空警戒は?」
「隠蔽式のCIWSを複数設置しています。もしもも考え機甲無人機連隊も近くにて常時待機を」
「万が一の時の判断は任せる」
「わかりました」
2人は建設作業の音が聞こえるドックを背にその場を後にした。
ーーー
オワリノ国
内縁部 上空
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時は戻り、あらためまして。
外縁部までの距離200㎞上空にて同盟国オワリノ国へ接近中のレムリア聖国連軍空中艦艇の艦隊30隻を迎え討つ為、オワリノ国沿岸部に停泊していた第13護衛隊群第1護衛隊航空戦略型護衛艦『ほうしょう』から艦載機が発艦していた。
航空自衛隊F-3戦闘機『心神』20機が編隊を組んで飛行する。
目標は言わずもがなレムリア聖国連軍。
『目標到達まで2分弱。敵は近代文明レベルだと思え。攻撃の手を緩めるな』
『『了解』』
マッハ2.5という音速を超えるスピードで空を切る編隊は灰色の機体が太陽に照らされ輝く。
目視では確認出来ないが、『心神』のレーダーにはハッキリと敵艦艇の数が表示されていた。ただし、相手は海の上ではなく空、であるが。
『目標艦隊確認』
『全機、目標捕捉』
各機が敵艦艇に向けて24式空対艦誘導弾が捕捉する。
そして、下される指示。
『攻撃開始』
一斉に撃ち出された十数発のASM-4が音速を超える速度で向かっていく。
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オワリノ国国境外縁部
約300㎞地点 上空3000m
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雲ひとつない快晴の空を単横陣で進む30隻に及ぶ艦隊。聖国連オワリノ遠征航空軍の主力艦隊。その前衛艦隊である。
指揮官はレムリア帝国内でも有力貴族として名を馳せるリッター家の当主、ウル・メック・リッター大佐である。
「ん……オワリノ国にニホン国の駐留軍相手になんと贅沢な艦隊か。ホホホ、ここから私の栄光ある貴族人生が始まるのですね」
彼はこの前衛艦隊旗艦の艦橋にて、180°弧線を描くように貼られた左右前面の強化ガラスから見える艦隊の景色を誇らしげに眺めていた。
「ルデーリアンには申し訳ありませんが、命令ですからねぇ。まぁ私としても蛮族相手に交渉など、無意味だと思っていましたから、これはこれで良い結果になるかと……艦長!」
「ハッ! リッター司令」
彼の斜め後ろで待機していた旗艦艦長が背筋を伸ばす。
「敵が仮に砲撃を仕掛けてきた場合、本艦はどこまでの影響を受けますか?」
「他の艦艇ならいざ知らず、本艦にダメージを与える事は不可能かと。本艦が前衛艦隊の後方部にいるのも理由の一つですが、1番の理由はやはり本艦の性能そのものにあるかと。」
「えぇ、そうでしょう。偉大なるレムリア帝国の最新鋭艦が蛮族の武器にやられるなどあり得ません。ホ〜ッホホホホホ」
片手を口に当てながら女の様に高笑いをする彼に艦長は内心引いてはいたが、彼の言う通りこの艦が沈む事などまずあり得ないという自信があった。
オワリノ遠征航空軍主力前衛艦隊旗艦
『ヴァルンゴルスト級重装甲型大戦艦』
全長600mを超える巨大軍用飛空艇艦。
艦艇の両舷から艦尾部分に掛けて二段構造のノコギリ型の胸壁を思わせる厚い装甲が備えられている。その凹の隙間からは固定型20㎝単装砲の砲身が伸びている。
固定型の砲塔はその砲身を上下に動かす事は出来ても左右に動く事は出来ない。主砲による撃ち漏らしは両舷の副砲で仕留めるか、後続の艦艇に掃討する事となっている。
もっとも特徴的なのは艦首である。
巨大で堅固な盾を思わせる装甲板が幾層にも重ねた形状をしており、メルエラ教の教紋が刻まれている。見た目通りの圧倒的な防御力を持つ艦首前面部は45㎝級の砲撃を受けてもビクともしない。
「リッター司令。間も無くオワリノ国国境外縁部へ到達します」
艦橋の魔波観測班からの報告にリッターは上機嫌で頷き返した。
「宜しい。先ずはミサイル戦隊による長距離攻撃を仕掛けなさい。目標地点はオワリノ国であれば何処でも構いません。連続3波の攻撃を仕掛けた後、空母より艦載攻撃機を発艦。何かしらの建造物を発見次第破壊せよ」
「ハッ。」
『攻撃機ガリアンテ』は対地・対艦に特化したレムリアの戦闘機の一種で、地球で言うL-39Albatrosに酷似している。
通信班はリッターからの命令を全艦に通達させると、ミトロギア級ミサイル戦闘艦の魔導ミサイル戦隊は後部甲板に設置された対地魔導ミサイルの発射準備を始める。
ゲイル級航空母艦の飛行甲板には既に内部格納庫からガリアンテがエレベーターを介して整列し、いつでも発艦出来る準備をしていた。
「衛雲があれば、誘導システムにより正確な目標地点の攻撃を行えるのですが……ここにではまだ配備されていませんから仕方ありませんね」
「魔導ミサイルの発射準備完了」
「攻撃機発艦準備完了」
「うむ。ではミサイル攻撃をー」
「り、リッター司令!」
ミサイル攻撃開始の命令を下そうとした瞬間、魔波観測班からの報告により遮られてしまった。その事に苛立ちを覚えながらも何があったのかと観測班に聞き返した。
「一体何事ですか?」
「12時の方向より微弱な魔力反応が急速接近!」
「これは……ま、魔導ミー」
ドゴォォォォォォォォォンッッッ!!
突如して起きた大爆発。
それは先行していた駆逐隊から大規模に発生した。同時に生じた爆風とは違う謎の衝撃波が後方にいた他の艦艇にも襲い掛かる。
「うわぁ!?」
「な、何だ!?」
「損傷調整!」
先行部隊とその周囲で起きたタダならぬ光景をリッター達は前面の魔導モニターにて見ていた。
「な、何が……何が一体!?」
驚愕の表情で狼狽るリッターをよそに、ヴァルンゴルスト級の艦長は直ぐに被害報告を指示する。
「状況報告!」
「せ、先行の駆逐隊3隻が轟沈!」
「8隻が大破し戦闘継続不能!」
「6隻は中破! 動力にダメージを負ってしまい内3隻の航行能力大幅低下!」
次々と聞こえてくる被害報告。
駆逐隊の半分近くが前方から飛来してきた謎の物体により戦闘不能に追い込まれてしまったのだ。
「一体何が起きて……」
「分析班より報告! 飛来した物体は魔導ミサイルに酷似した兵器である可能性大!」
その報告にリッターは驚愕する。
未だ鉄の棒を振り回すだけのオワリノ国が、そんな最新鋭兵器を有するなど絶対に有り得ない。それは彼のみならず皆同じ心境だった。
「魔導ミサイルだと!? 馬鹿な! そんな高度な兵器を蛮族共が持っているはずがー」
「魔波レーダー感知! 微弱ですが超高速で此方に向かって来る物体あり」
魔導観測班からの報告を受けたリッターは直ぐに艦橋窓から前方へ目を凝らす。魔導モニターも前方部の彼方へ映像を拡大する。すると、モニターから横並びの陣形で此方に向かって来る物体が見て取れた。
もの凄い速さだ。
発生源は不明だが真正面からだ!
リッターはつい先ほど起きた出来事が未だに信じられないとばかりに呆然としている中、見兼ねた艦長が指示を飛ばす。
「全艦魔導障壁展開! 空母へ通達、直ちに艦載戦闘機発艦。目標はミサイルが飛んできた12時方向だ!」
「了解!」
全ての残存艦艇から赤色に淡く光る不思議な膜が各々の艦を包み込んだ。
従来の魔導障壁は都市部などを覆う事は出来ても飛空艇への搭載を目的とした小型化は難航していた。しかし、賢王石のデータ解明により克服。
今ではほぼ全ての艦艇に搭載できる程に至っている。
生半可な砲撃や雷撃では障壁を突破する事など不可能な程に堅固な防御装置である。向かってきた敵のミサイルが真っ直ぐ此方へ向かい、残った巡洋艦や戦艦の魔導障壁へと直撃する。
ドドドドドドォォォォォォ!
凄まじい爆発、爆炎、衝撃波が襲いかかる。
魔導障壁が無ければ巡洋艦なら良くて中破…最悪、大破するだろう。戦艦さえもアレをマトモに喰らえば無事では済まない。
一見薄っぺらい魔導障壁越しに見えるその凄まじい破壊の塊に甲板にいた兵たちは恐怖を抱くが、魔導障壁によって護られていると言う安心感と信頼ゆえか、少しばかりの余裕も生まれていた。
魔導障壁がどれほど優秀な防御装置なのかは彼ら自身がよく知っている。例えさっきの攻撃が来たとしても跳ね返せる。最初の攻撃は魔導障壁を展開していない状態だからこそ、出してしまった最悪の被害だ。
アレ以上の事態は発生しない。
そう考えていた……
「ま、魔導障壁、臨界点に達します!」
「何だと!?」
ミサイルの直撃を受けたその艦は魔導障壁越しに発生していた強烈な爆発をその場にいた者全員が蒼褪めた顔で眺めていた。
「そ、そんな……」
「魔導障壁が破られるのか!?」
「あ、ありえない! 3発以上ならともかく、たった1発の魔導ミサイルで、り、臨界点を超えるなんて!」
一隻の巡洋艦艦橋部内に響き渡る絶望に近い報告。
受け流せるダメージの臨界点に達した魔導障壁はガラスの様に粉々に砕け散り、防ぎ切れなかった爆発は、吸収出来なかったエネルギーと共に艦全体に襲い掛かる。
グオオォォォンッッ!!
一隻の重巡洋艦から大きな爆発が発生する。その爆発を皮切りとし内部の弾薬へと引火。連鎖的爆発を引き起こし撃沈された。
「重巡洋艦5番艦、爆沈!」
「魔導障壁の臨界点が突破された模様!」
「はぁ!?」
リッターは我が耳を疑った。
魔導障壁は万能では無いが防御装置としては非常に優秀。それがたった1発の魔導ミサイルで防ぎ切れず、吸収し切れずに砕かれたとなれば…。
「敵の魔導ミサイルは……我ら以上、だと!?」
「空母より入電! 艦載戦闘機、20機全て発艦しました!」
「そ、そうか……」
やっと空母から艦載機が飛んで行く。
これで敵の正体を掴み、そのまま迎撃出来ればなお素晴らしい。リッターは祈る様に艦載機達が戦果を上げることを願った。
編隊を組む艦載戦闘機エストレーラーが次々と本艦の上空を飛び越えて、敵ミサイルが飛来してきた方向へ飛び去って行く。
「巡洋艦隊2隻撃沈! 3隻が中破! 我が方の被害甚大!」
「対空警戒を厳とせよ!」
尻餅を付けて床にへたり込んでいるリッターを他所に艦長は観測班から今分かり得る情報の確認を取る。
「敵艦艇か戦闘機は?」
「反応はありません。か、感知範囲外かと思われます」
魔波レーダー探知範囲は300㎞。
その範囲外……つまり敵は圧倒的長距離から攻撃を仕掛けている事になる。
艦長の額から嫌な汗がダラダラと流れる。
不気味な静けさが艦橋内に漂う中、艦長は今現在までに起きた損害と敵の兵器の情報を分析すべく観測班達へ問い詰める。
「微弱な魔力反応と言ったが、我々の知る反応と比べてかなり薄い反応なのか?」
「は、はい」
艦長は顎に手を当て考える。
「ふむ。空雷やミサイルでの迎撃は可能か? 対空機銃は?」
「微弱ではありますが魔力反応自体はあります。尤もその反応も自然物のモノと大した変化はないレベルです。魔導誘導兵器はその魔力反応を感知して、我が方のミサイルや空雷が追尾・誘導に向かいますが……この程度の反応では僅かな追尾性しか無く、本来の性能の半分ほどしか発揮出来ません」
「そうか」
「対空機関砲も同様です。最も近い魔力を感知して対象物に向けて砲身が移動。砲座にいる空兵が球体魔操器による操作で対象の変更や角度微調整、発射を行います。しかし、反応が微弱とあれば上手く反応出来ず、完全手動による操作が必要になります。そうなりますと、目視による魔導ミサイルの迎撃は困難を極めます」
レムリア・聖国連の軍用飛空艦艇に備えてられている対空機関砲は半自動システムで運用されてる。大まかな目標の補足と照準は自動だが細かな微調整と射撃はその対空機関砲の砲座にいる空兵によって行われる。
しかし、微弱な魔力ともなればその半自動システムによる目標捕捉も上手く機能するかは不明。例え動いたとしても従来の効果は望み薄である可能性が高い。
「やはりここは艦載機の成果を期待する他ない……か」
幸いな事に第2波以降のミサイル攻撃はない。
「しかし……まさか魔導ミサイルがあるとは。しかも魔力反応しないとは……」
艦長はある国の名前を頭に思い浮かべる。
「ニホン国……これ程とはな。上の情報分析は誤りだったわけだ。実際に前線で戦う者からすれば、たまったもんじゃない」
艦長はかつての軍議に上がってきた彼の国の情報を思い出していた。
文明レベルは決して低くは無く、中規模の飛空艇を建造できる技術を持つ。とは言っても、せいぜいサヘナンティス以上ヴァルキア未満と聞いていた。
他にも色々な情報もあったらしいが数ヶ月前に彼の国へ赴いた使節団の報告は信用に値せずとして報告書は破棄されたと聞く。
謎多い国ではあるが必要以上に恐れる必要無し。
コレが自分たちに聞かされたニホン国に対する認識である。
だが、もしこの攻撃が全てニホンによるものであるのであれば……
「通信班。後衛艦隊のザイザム副司令へ送れ。今この場で起きた内容全てを伝えるのだ」
「ハッ!」
「ナスレス艦長。我々はどうすれば?」
旗艦ヴァルンゴルストの艦長、ドラン・アオ・ナスレス中佐は軍帽を被り直し、凛とした姿勢で指示を出す。
「本艦隊はこのままオワリノ国へ向かう。魔導障壁を最大出力で展開。前線基地からの増援をー」
「な、ならん!」
突如として聞こえてきた怒鳴り声。
その主たるリッター司令は震える脚で何とか立ち上がると指を刺し血走った目で告げてきた。
「増援は認めん! 撤退もだ! このまま残存艦艇で敵を殲滅する!!」
「し、しかし、司令。あの魔導ミサイルの威力をご覧になったではありませんか! ここはもう1隻ヴァルンゴルスト級を旗艦とした後衛艦隊と合流し、『魔障鉄壁の陣』で突っ切るのが最も犠牲が少なくー」
「ダメだぁ! もし増援など要請してみろ! 私の評価が下がるではないか! このまま増援無し、これ以上の被害を受けずに敵を殲滅するのだ! 良いか、これはオワリノ遠征軍司令官の命令だ! 歯向かうものは命令違反で即処断してくれるわ!」
リッターは彼の胸倉を掴み引き寄せた。
「良いか!? 貴様のつい先ほどまでの勝手な行動は特別に水に流してやる! だがそこまでだ! ここから先は一切の口答えは許さん‼」
「は、はい……申し訳ありません」
「フンッ! 平民風情が!」
リッターはナスレスを突き飛ばすように掴んでいた胸倉を離した。
「蛮族共め! 反撃といくぞ! 陣形を維持しつつこのまま突き進め!!」
この場にいる誰もが彼の身勝手で私利私欲に塗れた性格に激しい苛立ちを覚える。今なら補給も増援も望めるというのに、彼は印象が悪くなるからとそれを拒否したのだ。
反対しようにも相手は貴族の中でもそれなりに力のある大貴族。逆らえばどうなるか分かったものではない。その矛先が自分ならともかく、何の関係もない家族や友人知人、恋人にまで容赦なく向けられる可能性がある。
今のレムリア……いや、聖国連全体が急速的にそういう体制に戻りつつあるのだ。
貴族派は『古き良き時代』、と。
それ以外は『悪夢の時代』、と。
少なくとも皇帝ルデグネス陛下は後者派であると思っている者も多かったのだが、所詮は皇族権を得た一族というワケかと落胆する者も少なくはない。
神メルエラのみが彼らの唯一の希望であり支えとなりつつあった。
(はぁ……すまんな、ラゼフ。俺はお前ほど強い人間ではなかったようだ)
ナスレスが俯きながらそう心の中で呟くと、通信班から報告が上がってきた。
その内容は、つい先ほど飛び立った艦載機エストレーラーの攻撃部隊の件だった。
慣れない家庭菜園は腰を痛めます。




