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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
141/161

第136話 侵攻開始その1

長らくお待たせしました。


本当に色々ありましたよ…。

 

 500年以上前までは準列強国に連なる力を持った国であったが、レムリア帝国の圧倒的武力を前に為す術なく大敗。このまま領国として国としての尊厳や主権、文化を消されてしまうのかに思えたが、それは無かった。


 50を超える聖国連。

 それらのまとめ役に選ばれたのだ。


 自国の他にもエル・ドラヴィル王国、ルシール大公国が存在する。この2カ国も自国と同じ50を超える加盟国のまとめ役を担っている。


 聖国連としての地位は一般加盟国(領国)に比べれば高い。領国は先ず自治権が認められない、自国の軍隊を持つ事は勿論警察組織も許されない。全てが聖国連系統の組織で構成されている。


 対して常任理事国は自治権が認められ、軍隊も自国の組織での構成が認められている。多少政策や管理している領国への苦言や意見が聖国連から申し出がある事は仕方がないが、主権を認められているだけでもありがたい事なのだ。


 常任理事国の技術レベルは聖国連が管理している領国と比べれば少し遅れている。定期的に宗主国であるレムリアから魔導科学技術が享受されるがそれすら時代遅れのものばかり。故に軍隊が保有する兵器も空中戦艦はあれどその性能は少し劣る。


 聖国連からの出撃要請には応える義務があるが、自国の独断で軍を動かす事も可能である為、やはり常任理事国は恵まれているのだ。


 領国は国であって国にあらず。


 常任理事国はその国の民達の主権が何とか保障された国の階級とも言えるだろう。


 自国が長年にわたって築き上げてきた文明や文化、歴史がたった一度の過ちで全てを消され、いずれはそれら全ての過去すらも否定され無いものとされるより遥かに素晴らしい事なのだ。まだ領国内では自国の文化歴史を覚えている者は存在するだろう。しかし、それもあと数年足らずで全てが《《無かった事になる》》。


 尤も、その危機感を覚える者は常任理事国の人間であろうと極々少数しかいないだろう。





 ーーー

 第2世界 ガルマ帝国


 帝都 ガルマディア

 ーーー

 第2世界に存在する常任理事国の3大国が内の一角……ガルマ帝国。


 ガルマ帝国は砂漠と荒野に覆われた大国で点々とした位置に緑豊かなオアシスが存在する。そういった恵まれた大地の恩恵となる場所に都市部などを築き上げてきた歴史を持つ。 


 金銀銅や魔鉱石の鉱脈が豊富な反面厳しい環境下にある事もあり、昔からその国の技術力は高い。故に人工的にオアシスを創り上げ、そこを拠点とする場所も少なくはないが規模は大きいとは言えない。


 その中でも一際広大なオアシスがこの国の中心地にして最も栄えている場所……帝都ガルマディア。


 地球で言うイスラーム建築を更に洗練された建物が大小連なり、中には螺旋状の巨大な高層建築物も存在する。この国に住う人々の服装は灼熱地帯特有のもので『トーブ』に近い。ただ女性は普通に頭部を露出し、肌は赤褐色をしている。


 賑やかで栄えた帝都。

 その空を行き交う無数の飛空挺。

 軍関係のものは少なく大半が民間商業だ。


 そんな帝都を一望出来る贅沢なテラスでデスクに腰掛ける1人の老年男性、ガルマ帝国皇帝ルキンソン・ガルマは居た。


 皇帝は書斎机の右斜め前に置かれた応接間にある向かい合いに設置されたソファに腰掛けながら、目の前のソファに座る1人の人物へ視線を向ける。



「さて……名将よ。この書状をどう見る?」



 ガルマ皇帝が一枚の書状を手に取り、それを目の前の人物へと手渡す。その人物は胸に幾つもの勲章を付けた初老の男性で、その眼付きや挙動一つ一つから見ても歴戦の猛者を思わせた。





 彼の名はダヴ・グロー。


 ガルマ帝国航空軍大将兼『パドギア』艦隊提督。


 ガルマ帝国が誇る最強の艦隊を率いる彼には数々の伝説的逸話が存在する。


 その中でも特に認知されているのが3年前の聖国連宗主国たるレムリア共和国との遠征合同軍事訓練の出来事である。


 その合同訓練は宗主国と常任理事国3カ国で、其々軍艦10隻による艦隊戦を模した内容で行われていた。


 宗主国たるレムリアと常任理事国とでは魔導科学技術の差は少なくとも50年は離れており、殆ど演習にならず常任理事3カ国のボロ負けで終わっている。


 つまり、レムリア軍部によるストレス解消の一環、というよりそれが目的の様なものである。


 火力も性能も防御も機動力も、何もかもで劣る常任理事3カ国では殆ど太刀打ち出来ない事が続いた。


 ーーダヴ・グローという男が現れるまでは。


 いつものように純血至上主義派の二流将校指揮の元の、技術性能差による蹂躙が始まると思っていた。


 エル・ドラヴィルとルシールの軍は瞬く間に敗北する中、グロー指揮下の艦隊はしぶとく生き残っていた。その巧みな指揮の連続にレムリア側は翻弄され、一隻、また一隻とキルカウントを受けてしまい、遂に痺れを切らしたその指揮官は無謀な突撃命令を下した。


 それを待ってましたと言わんばかりの両翼からの挟み撃ちに加え、駆逐艦戦闘隊の遊撃によりレムリア側は全滅の審判を下される。


 ガルマ帝国が常任理事国最強を是正するキッカケとなったこの一大出来事は今現在も続いている。




 そんな伝説の将軍は皇帝に呼ばれ、彼から手渡された書状へ目を通している。 


 それは聖国連上層部からの書状だった。



「穏やかではありませんな。元々の要請された兵員の倍近い数を駆り出せなど、近頃の帝国の動きは先日の聖国連会議以降、おかしな事ばかりです」


「その点については私も同意見だ。あの賢人たるルデグネス閣下がここまであからさまな純血至上主義へ舵を戻すなど……まぁ今は良い、問題なのは何故こんな伝令が来たのか、だ。無論、それに応える事は可能だが、こんな事は今までに無い」



 皇帝が頭を抱えながら大きな溜息を吐くと、腕を組みながら考えていたグローはゆっくりと口を開いた。



「恐らく、我ら常任理事国の力を削ぐためでしょうな」


「……むぅ、なるほど」



 皇帝はやはりと言わんばかりの顔で頷いた。

 思うところがないわけでは無い。


 この200年もの平和の間に自国を始めとする3カ国は軍拡政策を密かに進めていたのだ。無論、異端国家群への対抗措置ではあるが、もう一つの裏の理由としては少しでもレムリアとの差を埋めるためでもあった。


 それがばれたのか否かは分からない。


 しかし、この派兵によって兵を送る事で結果的に軍事力の低下へと繋がる可能性は大いにある。



「余計な力は付けるな……ということか」


「恐らくは。どちらにせよ、我々に選択権が無いのも事実。もしこれを拒否しようものなら常任理事国の地位を剥奪……とまではいかずとも、何かしらの報復は受ける事でしょう」


「民達に余計な負荷をかけさせるわけにはいかんな。仕方なしだ。派兵にはこの要求通りに進めよ。記載されている事が事実であれば、戦果によって我らが新たに管理する国の増加、つまりは版図拡大を約束すると」


「そうだ。だからエル・ドラヴィルとルシールは張り切っているらしい。要求以上の派兵を準備している」



 その言葉を聞いたグローはやれやれと呆れた。


 ガルマ帝国以外の常任理事の2カ国、エル・ドラヴィル王国とルシール大公国もこの書状が届いており、約束された版図拡大に目が眩んだ両国は要求の約3倍の派兵を決定したのだ。


 元よりこの2カ国はロクな国では無い。


 自分たちがこの世界の管理職であることを良いことに自分たちが管理する領国で好き勝手な事をしている。異常な税収、徴兵、差別擁護……そして奴隷。


 この第2世界では基本的に奴隷はごく一部を除き違法である。しかし、この2カ国は役名を『娼婦』『娼男』『出稼ぎ労働者』『メイド』などと呼ぶ事で奴隷である事を否定している。


 定期的に聖国連の監査官が来るのだが、彼らはその2カ国から賄賂金を受けている為、無視されるか屁理屈で容認される事が多い。



「権力と支配欲に溺れた国のなんと愚かなことか」


「あの2カ国に関しては今更では? 元より支配下に置いた国の人間を家畜程度にしか見ていない連中です。そんな国に常任理事国という地位を与えた聖国連にも思うところはありますが……これも今更ですな」


「とにかく。外界への大聖戦に対してその2カ国が張り切っているのは分かっている。そこはまぁ良しとしよう。問題はその敵だ。特に警戒が必要なヴァルキア大帝国にサヘナンティス帝国は、定期的に聖国連の情報部から情報は上がってはきているが、ニホン国に関する情報はそんなに多くはない」



 ニホン国ーー


 ヴァルキアやレムリアと同じく異世界から現れた国家。その実力は未だ未知数で少なくとも飛空挺や摩天楼を造る技術がある国という事はわかっている。



「警戒するべきは未知なる敵。上から送られてくる情報を信用するなとは言わぬが……はてさて」


「数だけなら驚異的なテスタニア帝国、急速に力を増したハルディーク皇国。この2カ国との戦争にほぼ無傷で勝利を収めたと言いますが、にわかには信じがたいですな」


「ほぅ? それはニホンがその2カ国と拮抗しているという予測からか?」


「航空戦であれば我が名誉に賭けて味方を1人も失わずに敵を殲滅して見せましょう。しかし、陸戦となれば別です。いくら国力や技術力の差があれど奇襲、遊撃なんでも使えば多少の被害は被ります。最も、砲撃部隊からの援護などがあればまた少し変わりますが」


「ふむ。そうだな。しかし、現にニホンはその被害も無く勝利を収めているのも事実。これをどう考える?」


「砲撃部隊や航空支援がちゃんと徹底していた。或いは少なくとも私が経験した戦場ではあり得ない程の力の差があった。この2つですかな。私個人としては前者の可能性があるかと。後者の可能性もないわけではありませんが」


「要約すると、油断出来ない国なのだな?」


「そうです」



 互いに苦笑いを向けて肩を竦める。

 結果的にはやはり「油断するな」が一番なのだ。


 何事も過信慢心は良くないことを痛いほど理解しているからこそ、2人は信頼し合えているのだ。


 その後、2人は天井を仰ぎながら呟いた。

 悲壮感に包まれたその顔で……。



「なぜ……わざわざ争うのだろうな」


「分かります。しかし争いこそが人のサガなのかも知れません。自分より劣った存在を見つけたいのです。それが害あるものにしたいのです。故に未熟で、故に脆くそして弱い……それが人間なのです。」


「……臆病なのだな、《《我々は》》。」


「はい……人間ですから」



 2人は人の弱さを、愚かさを嘆いていた。

 レムリア人ではなく、人の弱さを。


 しかし、嘆いてばかりはいられない。

 その非情な現実の中で救いとなる道を見出さなければならない。



「我々が為すべきことは、戦争の前線へ立つことだけか」


「いえ、寧ろそれが救いとなるかと」


「なに?」


「あの2カ国やレムリア指揮下の聖国連に取り込まれた国が辿る末路は悲惨以外の何物でもない。ならば、せめて我々の管轄下に置くことが少しでも多くの外界の人々を救う事に繋がります」



 グロー提督は強い眼差しを皇帝へ向ける。

 皇帝はその瞳を受け止め、頷いた。



「無論だ。それで1人でも多くが救われるのなら……頼めるか? グロー」


「お任せを!」



 グロー提督は席を立ち敬礼を向ける。

 彼なら任せられる。そう確信した皇帝は微笑を浮かべる。



(一つでも多くの国を救えるなら、これしか道はない)






 ーーー

 エル・ドラヴィル王国


 西方外界侵攻軍主力飛行艦隊

 ーーー


 聖国連からの要請により外界攻略のための進攻遠征軍の派遣を実行。


 その数は要請された数の倍以上の1000隻を超える。



「潰せ、爆ぜろ、燃やし尽くせ! 外界の原始人共を! そして目掛けとなる国を植民地とし、我らエルドラン人の礎とせよ! 奴らは人間未満の猿だ! ならばその土地や資源、財産を我らが有効活用するのが筋だ!!」


「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」



 長方形の後部にダンゴムシの様なタイヤ型の蒼白い動力源を備え付けた艦艇が1000隻以上。


 それらは東から外界を攻めんと空を突き進む。





 ーーー

 ルシール大公国


 西方外海侵攻軍主力航空艦隊

 ーーー

 円錐を逆さにして四方に巨大リングを浮かび纏わせた形状の艦艇。


 大小様々であるが、その数もまた1000弱隻。


 目的は同じく外界攻略の為の遠征侵攻軍である。




「偉大なる大公閣下に新たなる版図拡大を贈呈するのだ! 未開な野蛮人風情に宣戦布告など不要! ただただ蹂躙し尽くすのだ!」


「「オォォォォォォォォォ!!」」



 艦艇はリングの回転を調整する事で方向推進を得て動き出している。


 ルシールの大艦隊は数日後、エル・ドラヴィルの大艦隊と合流する形で外界勢力と交戦する手筈もなっている。


 その中の一隻にして、この大艦隊の総旗艦

 ヴォーラ型一級戦闘艦『ヴァシレフ』


 その艦橋内にて大艦隊を眺める提督

 デルジロ・ヴァシート。


 側には艦長のダロゾフがいた。



「ヴァシート提督。ここまで壮観な眺めは中々お目にかかれませんね。」


「そうだな。情報では外界の航空戦力の大半は翼龍だそうじゃないか。まさに蛮族」


「全くです」


「しかし……一番槍を決められないのは残念であるな」



 ヴァシートは一枚の用紙を取り出し、訝しげに眺める。それは聖国連からの書状だった。



「『先遣隊による先制攻撃後に侵攻を』……か。まぁその分我らも楽にはなるが」



 自らの活躍の場が減れば統治する植民地が減るというモノ。その事に少し憂いを感じるヴァシートはそれでも仕方無しと諦めるしかなかった。



(情報筋によれば、普段は殆ど見ない潜海軍も出るらしいが……気にはなるな、だが知ってどうなる? 海の中を進む軍艦など聞いた事ないわ)







 ーーー

 サヘナンティス帝国


 国境外縁部上空

 ーーー

 霧の壁が晴れて以降、国境付近の警備態勢は今までの比ではない程に強化された。今までは警戒艇数隻程度が今では小規模の艦隊で警戒にあたる始末。


 軍部の上役連中はともかく、他の高官からは「過敏に反応しすぎでは?」と若干、呆れられている。


 当然、万全を期すに越した事はないと理解はしているだろうが、今後の結果次第では軍部の連中がデカイ顔で国政にしゃしゃり出てくる事を危惧しての事だ。


 最もそんな事を気にする余裕がある事に現場で命を懸けるものからすればたまったものではない。




「たかだか国境警備に戦艦級を出す、か。」



 サヘナンティス帝国国境外縁部警備隊司令のハックは旗艦ロックス級戦艦の艦橋部から見える艦隊を見て呟いた。



「司令?」


「いや……ここまでする程の相手と我々は戦うのかと思ってな」



 艦長から心配の目で見られてしまい少しばかり気恥しくなる。軽く心の吐露を口にして、別に聞かれても構わなかったという雰囲気を伝える。


 それにこれは本音だ。


 少なくとも自分が生まれ落ちてから、国がここまで対外国に警戒した事は一度もない。


 そこまで怯える程、敵は強大なのだ。


 しかし、決して孤独ではない。


 その為の包囲網となる連合軍にて迎え撃たんとしているのも事実。5大列強国が一丸となって第2世界と大軍勢と戦う。まるで吟遊詩人の英雄譚だ。しかし、御伽噺と現実は違う。


 その辺の不安感は、かつて無い連合を組んだとしても拭い切れるものではない。



「まぁ相手が相手ですからね。その分、最新鋭機器を惜しみ無く使うので、そこまで悪い気はしないんですけどね」



 艦長が笑みを浮かべながら答える。


 彼の言う通り、軍部は皇帝からの許可を得て最新鋭機器を軍艦などに搭載する数を増やしつつあった。


 最大射程70kmの魔波探信器。

 30㎜3連装砲塔。

 斜角魔導ロケット弾。

 艦載戦闘機『キンソン』


 この艦隊に空母は無いため、キンソンは無いが他は揃っている。


 サヘナンティス帝国の軍人であればこれらを装備した艦隊は過剰戦力と言える。



「その気持ちは分かるがな。さて、任務に集中しよう」


「はっ!」








 ーーー

 ーー

 ー



「ビルゼー中将。間も無くサヘナンティス帝国西国境外縁部へ到達します。」


「うむ。」



 レムリア帝国内聖国連第400艦隊提督ナット・カ・ビルゼー中将は旗艦のテルメンテ級戦艦『ビメルテ』の艦橋部にて艦長から間もなく目的地到達の報告を受けた。


 30隻にもなる艦隊。


 皇帝陛下からの勅命という名誉ある任務を与えられ此処へ至ったビルゼーは、間もなくその任務を完遂出来ることに心の中で歓喜していた。



(ひと昔前までは、レムリア貴族はかつての権威と栄光にすがる存在などと言われて来たが、何があってか陛下は貴族の存在が如何に重要なのかを改めて理解した様子であるな。ククク……やはり賢明なお方だ。貴族が如何に優秀で高貴なる存在かを分かっておられる)



 名前だけでかつての威光にすがるだけの無能モノの地位……貴族。未だにその血筋を重じる貴族家系は少なくない。故にその貴族の長男次男を軍部へと送り武功を立てて貴族としての威を取り戻さんとする家系は多く、彼もその1人である。


 しかし、傲慢な者の多い貴族位の人間がまともに指揮を取れるモノは少なく、同じレムリア人でも他者を見下す事は珍しくない。


 大成する者は多くない。

 しかし、何故貴族位は現代まで残っているのか。


 その原因は元老院にある。


 元老院は貴族位を持つ者たちをその権力ももって抱き込み保護しているのだ。その為、帝政府も本腰を入れての貴族位撤廃は中々に進まない。


 元より元老院はレムリア建国の一助を担った大功労者たる大貴族の末裔から成る組織。その権威は言わずもがなで、有能なモノも多い。


 そんな元老院からの保護を無自覚で受けている貴族らは「自分たちにが誇り高い貴族故に帝政府は潰しに来れない」と勘違いしているが、実際は元老院の威を無自覚で借りてるに過ぎない。


 では何故、元老院は無能に近い貴族を抱き込んでいるのか?


 理由は単純明快……財力があるのだ。


 受け継がれてきた土地や商圏は無視できない財力である。どんな人間でも膨大な財の前では無力に等しくなる。


 言うなれば万人に等しく分かり易い力の象徴。

 元老院は今ではその財を操っているに等しい。


 貴族連中からはその分、かつての権威を取り戻してくれると言う形で元老院から約束されている為、惜しみなく財を提供している。


 そのもう一つの対価が、各貴族家の御子息を軍の指揮権をもつ地位へと格上げすること。今までは穏健派が出張っていたが、そんな連中を後方または難癖を付けて降格処分とさせて、貴族位の子息を出す。


 そこで得る戦果を我がモノとする。


 約束されたこの大聖戦ならば我先にと貴族から「我が子を!」「いや我が子を先に!」

 と嘆願される。


 何度も言うようだがビルゼーもその1人なのだ。


 それなりに名があるビルゼー家の後継。



「我が帝国の最新鋭魔波レーダーは150km。圧倒的距離からの攻撃で敵艦を灰塵と化してくれるわ。」


「陛下より贈られた最新兵器を試すのが楽しみですな。」


「まったくだ、ククク」



 上機嫌で話していると雛壇型の艦橋の下部にいた観測班から報告が上がる。



「前方の駆逐艦部隊より通信。12時の方角より魔波レーダー感知。データ照合によりサヘナンティス帝国の艦艇と判明。数は15」



 獲物を見つけた。

 その報告を受けたビルゼーは舌舐めずりをうつ。



「如何されますか?」



 指示を確認する艦長の目がなんと邪悪なことか。



「この外界において我らの前に立ち塞がる存在は全てが神の敵である! 総員第1種戦闘配置に就け! 『魔導瘴気ミサイル』をもって敵を殲滅せよ!」


「「ハッ!」」


「こちら旗艦ビルメンテ。各ミサイル戦闘艦へ伝令! 魔導瘴気ミサイル発射の準備を急げ!」



 旗艦からの伝令を受けた5隻のミトロギア級ミサイル戦闘艦の艦後部ハッチが開いた。先端部が土筆の様に隆起した独特な形のミサイルが現れる。


 全てのミサイルが前方へ斜角を向ける。



『こちら魔導ミサイル艦部隊一番艦。魔波探知にて目標捕捉。魔導瘴気ミサイル発射準備完了』


「了解」



 発射態勢が整った報告を受けると、ビルゼーはモニターに映るサヘナンティス艦隊へ向けて掌を向ける。



「ククク、発射」



 轟音と共に5発の魔導瘴気ミサイルが飛来していくのが艦橋のガラス張りから僅かに見えた。




 ーー

 ー

 サヘナンティス帝国の国境外縁部警備艦隊から一斉に警告音が響き渡る。



「探信器より魔力感あり! 3時の方向!」


「何だと!?」


「かなりのスピードです! 真っ直ぐ此方へ向かって来まー」



 直後、旗艦の横を並行していた巡洋艦が爆発を起こした。その衝撃波が此方にまでビリビリと伝わる事から、その破壊力が見て取れる。



「バロ級巡洋艦3番艦の右側艦部被弾!」



 続けざまに後続の艦3隻。前方の艦1隻からも爆発が発生する。



「くっ! 被害報告!」


「前方のセルメック級駆逐艦被弾!」


「後続のバロ級巡洋艦1隻、セルメック級駆逐艦2隻被弾!」


「ダメージコントロール! 飛行動力部が無事なら何とかなる! 敵影は!?」


「確認出来ません!」


「出来な……射程圏外からだと!? 70km以上の?」



 魔波探信器の探知範囲は70km。

 接近してきた謎の飛来物に反応したのはその範囲内に来たからこそ。ではその飛来物を撃ち出してきた敵艦は映っていない。



「敵は…圧倒的射程圏外から……我々を捕捉できる技術を持っている……のか!?」


「司令、どうすれば!?」


「う、狼狽るな!  全艦面舵一杯!飛来物は右真横から来た!」


「は、はい! 通信兵!」




 指揮官ハックの指示により全艦はミサイルが飛んできた方向へ向けて舵を取った。



「全艦砲雷撃戦用意! 目標捕捉後、射程に入り次第一斉砲撃を開始する! アレほどの破壊力を持つのだ、そう何発も連続で来られてたまるか!」


「「ハッ!」」


「被弾した艦はどうだ? 戦闘継続は可能か?」



 ハックは疑問に感じていた。

 アレほどの爆発を受けて航行に殆ど支障をきたさずにこのまま戦闘に参加する味方艦に。


 普通であれば良くて中破。

 最悪撃沈などと言うことがあってもおかしくはない。


 にも関わらず……



「何故……普通に航行出来るのだ?」



 ハックは望遠鏡で被弾した艦を艦橋から眺める。


 被弾箇所からは《《紫色》》の爆煙が立ち昇っているが、肝心の破損状況は小さな穴を開けた程度の微々たるものだった。無論、場所によっては深刻になる程度の破壊力はあるのだが、それでもこの被害はさして問題とは言えないものだった。



「問題は無いみたい、だな」


「どうやら敵の飛来物は射程こそ優れていますが、破壊力はそこまでではないようで……」



 艦長が安堵共にそう口を漏らした。


 ハックは何となく胸騒ぎを感じて、自らその被弾を受けた1隻のバロ級巡洋艦に通信を入れる。



「こちら指揮官のハックだ。其方の被害状況はどうだ?本当に問題は無いのか?」


『ハック司令、それが……私共としても困惑しておりまして。現在消火作業に取り掛かっておりますが、予想していたよりも被害は無く。あ、負傷者は出ましたが、とにかく問題はありません』


「む、そうか。これから敵艦を見つけ掃討する。大丈夫なのだな?」


『ハッ! 問題はございま……む? ど、どうした?』



 通信越しから聞こえる僅かな喧騒。

 妙な胸騒ぎが起きる。



「お、おい、どうした?」


『わ、分かりません。何やら騒がしく……おわ!!』



 その瞬間、隣を航行していた巡洋艦が大きく揺らぎ始めた。その航行はかなり不安定で隊から離れて出鱈目に飛行している。



「おい、何があった!?」


『と、突然動力源に異常が……制御がで、出来ません!』


「何だと!?」



 ハックは慌てて望遠鏡を使い、さっきまで連絡をとっていた隣の艦へと望遠鏡を向ける。


 紫色の煙の量が心なしか増えていた。



(む? こ、これは一体……)



 その時、まだ繋がっていた通信機から幾つもの断末魔が聞こえた。通信士が何があったのか直ぐに連絡を取ろうと呼び掛けるが返事が来ない。代わりに聞こえてくるのは悲鳴と喧騒のみだった。



「繰り返す! 応答せよ!」


『む、紫の……人が……体に……結晶! 乗組員が結晶……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』



 途切れ途切れに聞こえる声から詳しい事は分からないが、あそこまで取り乱すほどの事があの艦で起きている事は分かった。


 ハックは望遠鏡を使い注意深く艦を観察する。


 すると、被弾部付近の艦の装甲部にキラリと光るモノが一瞬だけ見えた。あの場所にああ言う風に光る装備は無かった筈。


 すると、被弾部から立ち昇っていた紫の爆煙が一気に増殖し始めた。その紫煙は生き物の如く艦艇を包み込むと、紫煙に触れた部分から先ほど見たキラリと光るモノが見えた。



「アレは……け、結晶?」



 それはハッキリと見えた。


 その艦艇の紫煙がまとわり付いた部位に紫の結晶がビッシリと発生していたのだ。それは瞬く間に艦艇ほぼ全てにまで広がり、結晶化した部位から紫煙がガス噴射している。


 石にまとわりつく苔の姿に酷似している。


 やがて艦艇は制御を失い、ところかしこで爆発が発生し地上へと落下していく。



(な、何という……)



 艦橋内にいる乗組員全員が今しがた墜落した艦艇がいた何も無い空間を唖然と眺めているだけだった。ハックとて同じ気持ちだ。今見た光景があまりにも現実離れしてた恐ろしい事に、脳が理解するのを拒否している。


 だが、現実はそれを許さない。


 同じく被弾した他の艦艇もさっきの艦艇と同じ末路を辿ったからだ。



『うわぁぁぁ!』


『制御不能! 制御不能! だ、誰か……』


『いやだぁぁぁ!』



 通信機から悲鳴やら絶叫が聞こえて来る。


 更なる絶望が彼らを襲う。



「あ……探信器に感あー」



 謎の飛来物の第2波が襲いかかったのだ。


 もはや恐怖を一周して感情が失った観測士からの呆けた報告を最後まで聞き届ける間も無く、ハックの艦艇は艦橋部に被弾。


 続けて第3波……残った全ての艦艇に被弾。


 全てが紫の結晶と化し、地上へと墜落して行く。


 そして、サヘナンティス帝国西国境外縁部警備艦隊は敵の状態を確認する事もなく全滅した。



 ーー

 ー


「敵艦隊全滅を確認。」



 観測班からの報告を受けたビルゼーは下卑た高笑いを上げた。



「クハーーッハッハッハ! 何とも脆い! まさかここまで弱い蛮族国家だったとはな!」


「司令。この後は如何なされますか? 予定通り敵基地を?」


「ふむ……」



 艦橋内前部の斜め上に設置された菱形の魔導モニターへ目を向ける。モニター画面は真っ暗な映像からこのあたり周辺の地形地図へと変わった。


 現在彼らがいる地点が真っ赤に点灯する。



「そうだな。進路そのままで、サヘナンティスの最西端軍事基地『カマ』を殲滅する。その後は後続の艦隊と交代だ」


「後続の……つまりはドラヴィルとルシールですね」


「そうだ。美味しい手柄は高潔なるレムリアが。面倒な作業は小間使いに任せればよい。」



 その後、ビルゼーのカマ方面遠征打撃艦隊はサヘナンティス帝国最西端の軍事基地カマを無傷で殲滅。その後、入れ替わりで直ぐに現れたエル・ドラヴィル王国とルシール大公国の艦隊によって、西側の主要都市部の約2割が占領される事となった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実世界も武漢ウィルス戦争が日に日に熾烈化してます。 異世界日本も風雲急を告げているようですね。 まぁせめて異世界では日本国は無双してほしい。 撃退につぐ撃退を期待してしまいますわ。 武漢…
[良い点] なんか某ヤマト完結編のハイパー放射ミサイルよりもやばそうなミサイルが来た!? [一言] ついにレムリアと聖国連が喧嘩を売りに来ましたが、果たして日本はどの様に迎撃するのか… ところでいきな…
2020/03/26 12:05 退会済み
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[気になる点] 飛空挺...艇では? 挺だと空挺団の挺。 でも作者様の設定だと挺なのかな?
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