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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第9章 侵攻編
139/161

第134話 彼らの故郷ルタロスタ

誤字報告いつもありがとうございます!!

 ーー

 ギルバトア大陸


 浮遊島リトーピア

 ーー

 この世界で2番目の面積を誇る巨大湖のリピア海。その中央上空に浮かぶ一つの島。その上には気品ある神殿が建っていた。


 その建物こそ世界規模の重要な案件を決める5大列強国を始めとする世界会談の場である。


 会談の場所である大ホール内の円卓には5大列強国……日本国、ヴァルキア大帝国、サヘナンティス帝国、レイス王国、亜人族国家連合の代表者達である。



 ・日本国

 内閣総理大臣 広瀬勝

 補佐:外務大臣 安住弘


 ・ヴァルキア大帝国

 皇帝 レイグラーフ・ユーセフソン

 補佐:軍民党党首 マート・レーリー


 ・サヘナンティス帝国

 皇帝 マティアス・グラバート

 補佐:外交長官 ロラン・シェフトフ


 ・レイス王国

 女王 クレメンティナ・フリュクレフ

 補佐:外務局長リオネロ・ネリス


 ・亜人族国家連合

 代表 龍王バハムート

 補佐:聖王ウェンドゥイル・アルヴァーナ



 他にも高度文明、低文明国家の代表格達が集っており緊張感が場の空気に漂っている。そこへこの浮遊島の代表者が現れた。



「久方ぶりですね、皆さま。此度の会談議長を務めさせていただくモイセス・ペレスです。さて、此度の5大列強会談ですが……第2世界の脅威に対抗する為の策についてです」



 議長のペレスがそう告げると、ヴァルキア大帝国の皇帝ユーセフソンが立ち上がった。ざわつく周囲に一瞥する事もなく、彼は話し始める。



「ヴァルキア大帝国が皇帝レイグラーフ・ユーセフソンである。先ずはこのような場は外務を役とすることが常識なのだが、事が急務である故に皇帝である我と、他列強国の代表者達がこのように集う事態となっている。先ずは集まってくれた者達へ感謝の意を贈ろう」



 そう述べるとユーセフソン皇帝は胸に手を当て軽く礼をする。それに応えるよう各代表者達も一斉に立ち上がり軽く頭を下げた。



「ありがとう……早速だが本題に入らせて貰う。霧の壁が数ヶ月前より消失したことは知っているだろう。その結果、第2世界の覇者であるレムリア帝国の国教……メルエラ教がその布教活動を着々と進めているのだ。この中にも実際にその影響を受けた国もあるだろう。たとえそれが直接的でなくとも」



 その言葉にサヘナンティス帝国のグラバート皇帝とシェフトフ外交長官を始め、周囲の国々からも歯噛みしたような表情をする者がいた。彼らの表情を見たユーセフソンは静かに頷く。



「うむ。どうやら居る様だな。知っている通りそれら布教活動は決して甘く見てはならない。メルエラ教の布教活動を直接的に受けた低文明国家の中には、一部町村からの反乱が多発し、まともな管理ができずにいると聞く。そして、それは今後ますます拡大するだろう」



 そこへレイス王国女王のフリュクレフが静かに手を挙げた。



「でも、自国民が他国の宗教に洗脳される様を黙って見てる国の重役達はいないでしょう?」


「それについてもこれから述べるつもりですよ、フリュクレフ女王。そういった国々の王たちは強行に布教者や影響を受けた国民達を弾圧しました。しかし、その効果が出たのはほんの一時期だけで、直ぐにそれによって更なる反意を持った者達の過激な反応が起きています。そして、弾圧をすればする程にメルエラ教への執着心も増す……まさに『炎龍に水』」



 ユーセフソンの言葉に心当たりのある国の代表者達が難しい顔をする。メルエラ教の拡大はこの1ヶ月の間でも進み、最初に布教を受けた国は元々の宗教よりも圧倒的にメルエラ教が台頭してきていた。


 それらの国々の王と高官達は所詮は民達のやる事とそこまで事態を重く見ていなかった。しかし、メルエラ教の教えに影響を受けた民達は各所で蜂起した。



 ーーー我々は神の名の下に自由を愛する!


 ーーー民が流した血と汗と涙を王族達は搾取している!


 ーーーレムリア帝国こそ…神メルエラこそが世界に安寧を齎してくれる!



 聖神万歳(レーヴェ・メルィーラ)


 偉大なる主に祝福を(エル・ラ・メルィーラ)



「意味を知ってか知らずか……敵国の言語で訳の分からぬ事を叫ぶ始末だ。全くもって参るよ本当に。間違いなく敵は武力ではなく、宗教による血を流さない侵略を狙ってるのだろう。敵が放った芽は余りにも多い。悠長な時間はあまり無いと捉える方がいいだろう」



 サヘナンティス帝国皇帝のグラバートがそう口にすると、他4カ国の列強国のトップ達は頷く。



「なるほど……既に敵は駒を放った、というワケか。心の弱みにつけ込むとは……姑息!」



 龍王バハムートが猛獣の如き唸り声を上げながら不快感を表す中、広瀬が静かに口を開く。



「しかし、それが戦いです。相手の弱みにつけ込み、そして思うがままに操る。血を流すのは影響を受けた此方側であって、向こうはただおためごかしな綺麗事を抜かすだけ。下手に労力を掛けることなく王手を決めに掛かろうとする……敵の策が一つ上をいっていた事になりますな。このまま各々バラバラで当たれば、ラチがあかないでしょう。それも連中は狙っているはずです」



 広瀬はユーセフソン始め、各列強国のトップ達へ目線を送る。


 個々で立ち向かえば勝ち目は薄い。が、団結すれば希望はある。敵は明確な敵意こそまだ示してはいないが、恐らくそれは時間の問題。必ず何か直接的な行動を仕掛けるはず。そして、その時が来てからでは手遅れでもある。


 決断は、今求められるのだ。



「では皆に問おう。まだ何も互いを知らぬ。もしくは敵対している国もいるだろうが、今は目を瞑ろう」



 ユーセフソンは大きく息を吸い…吐き出した。周囲を見渡し、覚悟を決めて口を開く。



「世界同盟……の設立をするべきである。今我らの敵は……レムリア帝国もとい第2世界」



 それは数秒だったかも知れない。だが、ユーセフソンらにとって、この言葉の後の沈黙の間はあまりにも長く感じた。



「その前に、この場にいる方々に伝えなければならない事がある。長年開示する事に反対し続けきた我らだが、この状況ではそうも言っていられない。語るべきだろう……我ら灰色の肌を持つ人間が何処から来て、ヴァルキアとレムリアの関係が何なのかを」




 ーーー

 レムリア(第二)帝国


 大聖城(ティル・ラ・ノーグ)

 皇帝書斎室

 ーーー

 レムリア帝国建国父兼、正当王家が末裔、ヴァルガメシュ・エンキ・レムリアスは神都を一望出来る一面ガラス張りの壁の側に立っていた。


 無数に建ち並ぶビル群を始めとした多種多様な建物や空を飛び交う飛空挺。何かの商品広告板など……様々な人工的な光が神都を照らしている。


 正に光の都市そのものの光景である。


 レムリアスはそんな神都をただ眺めていた。



(500年……500年の歳月を経て、我が偉大なる祖国はここまで発展を遂げた)



 レムリアスは体の向きを書斎室側へと戻すと、パチンと指を鳴らした。すると部屋の魔電気の光が薄くなり、天井から淡く蒼白い光を放つテーブル大ほどの大きさの水晶板が降りてきた。


 薄暗い部屋は、その水晶板の淡く蒼白い光でやんわりと照らされる。


 レムリアスが手をかざすと、水晶板から地形を模した立体映像が浮き出てきた。それは正に第2世界の世界地図……レムリア帝国の版図を記していた。更に指を少し動かすと蒼白い立体映像は瞬く間に赤色へと拡がり始めた。赤色は第2世界の8割程を飲み込むと、要所と思われる地点にはメルエラ教の教紋が浮かび上がる。


 レムリアスは一つ一つに指差しながら呟いた。



「ここは落とした。ここも、ここも、こことここも落とした。ここは……もう少し、か。それから……」



 かつての敵国及び異端国家群の本拠地。そこは真っ赤に塗りつぶされ、教紋が記されている。レムリアスはひとつ、またひとつと其々に指を差していく。



「後は時間さえ掛ければどうとでもなる。問題は……ココだ」



 腕を勢いよく振りかざすと水晶板に浮かんでいた地図がスライドし、また別の地図が現れた。


 そこは日本国が存在する側の世界。

 第2世界で言うところの外界の地図である。


 そこには多少の差異はあれど、ほぼ正確な地図が浮かんでいた。ヴァルキア大帝国、サヘナンティス帝国、各亜人族国家、レイス王国、リトーピア……そして、日本国も。



「恐らく連中は自国の位置や地形を把握してないと踏んでいるだろう。そして、攻め込んできた時に、地の利を生かした戦略で返り討ちを狙う。確かに、把握していない地形でそんな手を取られたならば敗けぬまでも此方とて無事では済まないだろう。しかし、それは驕りである。霧が晴れさえすれば、短時間かつ不鮮明ながらもそちら側を把握する術を我らは持っている……見るだけだがな。だが、それで充分だ」



 レムリアスは片側の口角を上げ、自信に満ちた笑みを浮かべる。


 レムリア帝国の魔導科学省の成果は素晴らしいの一言に尽きる。それも、賢王石という規格外の魔鉱石を得てから更に飛び抜けている。


 その偉大なる成果の一つとも言えるのが、先ほども述べた外界を探る魔導機械。



 ー天雲千里(トラヴィス)



 帝政府管轄下特一級魔導機械。

 これを使用するには、皇帝ルデグネスを始め各長官達からの過半数の同意を得る必要があった。


 ルデグネスはこの魔導機械を使い、外界の地形を把握していたのだ。戦略的にも、外交的にも優位に立つために外界の情報を収集していた彼であったが、今は積み重ねてきたもの全てを奪われている。


 もう1人の自分に成り済ました実の弟……アルバラ・エンラ・ルデグネスに。



「勝手に部屋に入られては困りますな。元老院議長殿」



 レムリアスが水晶板を操作していると、背後から声が聞こえた。振り向くとそこには、バークリッド・エンラ・ルデグネスが立っていた。


 否、それはバークリッドではない事をレムリアスは理解している。



「これはこれは皇帝陛下。ご無礼をどうか」


「いやいや、次からは一言伝えてくれれば良い」



 人払いを済ませた後、2人は応接間のソファへと腰掛ける。



「さて……アルバラ君。君にはルデグネスの代わりとして努めさせているがどうかね? 不自由はしていないか?」



 レムリアスの言葉に、偽りの皇帝アルバラ・エンラ・ルデグネスは恭しく答える。



「ハッ。何も不自由は御座いません。業務に至っても全て順調です」


「うむ。ならば結構。しかし、バークリッドの奴が築き上げたもの全てを奪い我らが受け継いだは良かったが、嬉しい誤算があったものよな」


「えぇ、全く。まさか兄上がここまで富国強兵の地盤を固めていたとは思いもよりませんでした。我の想像の上を行く……正に驚異でしたよ」


「だが、それも全て我らのモノ。彼には取り敢えず『大儀であった』と労っておくとしよう」



 くすくすと笑う2人は、ついこの間までこの部屋の主人であった元皇帝を思い浮かべる。


 信頼していた筈の臣下達に裏切られ、恩情を掛け僻地への追放と軟禁で生かしていた弟にも仇で返された憐れな男。


 今はその多大なる功績に免じて今度は彼を僻地へと追放・軟禁している。



「まぁ、少々危険ではあるが使える男であることに違いはない。今の奴の暮らし自体、軟禁という点を除けば不自由はない筈だ。様子を見て我が配下に加わるよう催促するとしよう。その頃には既に世界は我が物となっているだろうがな」


「えぇ、きっとそうなっている事でしょう」


「アルバラ、お前も兄に負けず精進する事だな。今のお前は兄の実績を受け継いだに過ぎぬのだから」


「は、はい……」



 アルバラはその言葉に眉間をヒクつかせる。

 彼にとって兄とはコンプレックスの塊ような存在。似ているのは容姿のみで自分に無いものを全て手に入れている。


 彼はそんな兄を越えることが目標だった。


 そして、その兄は今では此方の策謀により軟禁。今では自分が兄であるバークリッドとして皇帝の座に君臨している。


 しかし、結局は兄に似せた存在に過ぎない。


 誰もアルバラではなく兄として見ているのだ。


 今の彼の目標は兄のあらゆる功績すら覆し、自分の名を高々に宣言する事で初めて自分が兄を超えた事になる。



(今に見ていろ……世界に俺という存在を認めさせてやる)



 そんな野心を抱き考えていた時、レムリアスはソファから立ち上がると建ち並ぶ本棚の前へと移動し始めた。



「確か……ここだったか?」



 そう呟くと彼は本棚の中の一冊を選び、その背表紙を押した。すると、本棚は奥へ奥へと進んで行き、ガコンッ! と音が聞こえると今度は本棚が上へと昇って行った。


 その奥は一つの空間が広がっていた。


 とはいっても4畳半あるか無いかの空間である。そんな空間の中央に一冊の古ぼけた本が台座の上にポンと置かれていた。



「か、隠し部屋ですか!?」


「この部屋は太古の昔に造られたものだ。埃の量から察するにバークリッドも開けていない秘密の部屋……いや、存在は知っていたが開けなかったのかな? まぁそんな事はどうでも良い」



 レムリアスは本を持ち上げると積もった埃を優しく手で払う。



「それは……い、一体?」


「この国で一番価値のある、最も古い本だ。簡単に言えば歴史書だな」


「なんと! しかし、それは帝国書庫院にもー」


「あんな紛い物と一緒にするな。コレにこそ真実が記されている」



 そう言うとレムリアスは歴史書の一頁を開いた。



 ーーー

『ルタロスタ』


 それがレムリア人とヴァルキア人が元いた世界の名称である。


 太古の昔……それこそ最古の書物にすら明確に記されていない時代にルタロスタに無数の隕石群が降り注いだという。故にルタロスタには至る所に巨大なクレーターが出来ている。雨風に打たれ、長い年月を掛けて巨大なクレーターは侵食が進み、幾つもの広大な内殻空間、以降『内殻界』が形成された。


 レムリア人やヴォルキア人……以降、『ルタロスタ人』は古来からその内殻界で暮らしてきた。内殻界には森や草木、川や超巨大は湖が存在しており、人間を始め動植物が生きていくに必要な条件が十分に整った世界だった。


 その内殻界其々が国としての役割を果たしており、其々違った幾つもの文明や文化を築いている。


 陽の光は植物と鉱物の中間的構造をした特殊な植物の『鉱樹』によって内殻界に降り注ぐ。鉱樹は地上にしか存在しない貴重なモノで、鍾乳石に近い光を通す構造の根を張り、内殻界へ日光を降り注いでいる。夜には月光が降り注ぐようにもなっている。


 一部を除き、ルタロスタの人間はこの鉱樹を信仰の対象として来た。


 しかし、何故ルタロスタ人は地下世界に文明を築き、文化を育み、国を建てて来たのだろう?


 確かに住みやすい世界なのかもしれない。産まれてからそこに居たのだからそこで暮らすのが当たり前なのかも知れない。


 では地上はどうなのだろう?

 地上で暮らそうとは思わないのだろうか?


 先ほども述べた鉱樹が無ければ、人々は陽の光を浴びる事は出来ない。それどころか、内殻界の植物が光合成を行うことが出来ず、人間は勿論、動植物が生きていけない世界へと変わり果ててしまう。


 それならば地上へ出るべきではないか?


 その答えは実に単純明快なものだった。



 ーー地上では生きられないからだーー



 正確に言うなら『地上の環境は、穏やかな内殻界と違い非常に過酷』なのだ。


 地上は穏やかで豊かな内殻界とは違い、暴風が吹き荒れ、予測不能の落雷が発生、酸性の雨が降り注ぐ……そんな世界なのだ。大昔に地上での生活を目指した開拓民が地上へと足を運んだが、3日と保たずに逃げるように戻ってきた事があった。


 そんな過酷な世界に生きていくために必要な鉱樹などが存在している。


 しかし、そんな過酷な環境も年がら年中と言うわけではなく、3年に1度だけ半年も穏やかな環境へと姿を変える時があるのだ。


 連なる山脈や砂漠、海も地上にしか存在しない。


 ルタロスタ人たちはその僅かな期間で地上にしか存在しない鉱物の採取や研究……戦争を仕掛ける。


 発展する国あれば滅びる国あり。それは人為的なものもあれば自然に蹂躙されるもの等様々だが。


 内殻界は限りある狭まれた世界。

 文明や文化が発達し人口が増えれば、新たな領土と資源が必要になる。


 長い年月互いに殺し、奪い合いを続けていく内に、その限りある世界……内殻界は荒れ果てる一方。中でも必要不可欠の資源、鉱樹もその数を減らしつつあった。


 増えすぎた人口を、消費する資源を補う為の戦争は……いつしか本気で生き残る為の戦争へと変わった。


 鉱樹は内殻界の清浄な空気や水を養分として生きる存在であるのに対し、ルタロスタの人間はいつしかそんな重要な事よりも欲に目が眩んだ戦争と領土開発を進め続けた。


 それが結果的に自らの首を締めることに繋がるとも知らずに。


 もはやルタロスタには人類が生きていけるだけの鉱樹など存在しなかった。人類はその僅かに残った鉱樹が自生する国を見つけては奪い、搾取し、また鉱樹が枯れかけたら別の鉱樹が自生する国を探す。


 その繰り返しである。


 その結果、一つ、またひとつと国や人類は急速にその数を減らし続けた。


 そして、残ったのは強大な国のみ。


 レムリアやヴァルキアもその内の一国である。


 中でもレムリアは突出した力を有した国だった。その理由の一つが、彼の国が鉱樹を信仰としない、数少ない独自の宗教国家と言う点である。


 一つの宗教の元に組織が纏まり、明確な目的と教えを持って国が発展しているのだ。


 レムリアはメルエラ教という宗教を国教とし、神の御意志とは口ばかりの侵略戦争を太古の昔より先陣を切って続けてきた国だ。


 他の国々にも国教が無いわけではない。だが、大半の国はレムリアによって真っ先に滅ぼされてしまい、今となってはどんな宗教が残っていたのかすら伝えられてすらいない。


 彼の国の神……メルエラの話は昔より他国でも良く耳にする。この世界の創造神にして内殻界という楽園を創りし神。慈悲深き女神。聖神。唯一神。絶対神などなど呼び方は様々だ。


 レムリアの民は、内殻界は我らが神が創りし楽園。故に神に選ばれたレムリアの民のモノでもあると信じている為、他国からはあまり良くは思われていない国だ。


 ヴァルキアは鉱樹を信仰とする数多い国の一国でおり、その中では最強の国でもある。


 そのせいもあってかレムリアとヴァルキアは大小規模の衝突を繰り返し続けていた。


 やがて、遂には内殻界の大半も砂漠と荒野に変わった時、異変が起きた。




 ーー巨大な落雷がレムリアを包み込むように落ちてきたのだーー




 人々は欲に塗れた戦争を繰り返してきた罰だと喜びを口にしていたが、国一つポッカリと丸々無くなるのはあまりにも不自然であると、不審に思う者も少なくは無かった。


 そして、現れたのだ。


 最初こそ困惑したレムリアであったが、一度攻勢へ出てみれば何も怖いものは無かった。


 この世界の人間もとい国の文明レベルはかなり低い。無限にすら見える狭まれない世界。見たことのない動植物、資源。滅多に災害など起きない穏やかな環境。


 正にこれは神からの贈り物。


 選ばれしレムリアの民にのみ与え給うた世界。


 全ては神のもの、即ちレムリアのもの。


 この世界の全てはレムリアのもの。


 レムリアが世界に向けて覇を唱えるのにそう時間は掛からなかった。


 そして、古龍たちと出会い、初めて知る世の理。


 自らの覇権のために駒として、古き儀式で我らを呼び出したこと。


 その事を後悔させた。


 奴らを数える程度になるまで追い込んだ。

 かつて世界の覇者である古龍すら安易に屠る事が出来た。


 この世界を統べるなど時間の問題だと思えた。


 しかし、最後に古龍の生き残りたちが面倒な真似をしてくれた。


 霧の壁で世界の3分の1を閉じ込めたのだ。


 神から与えられた大義を邪魔するとは愚かなり。しかし、今は構わない。ならばこの内なる世界から統治してくれよう。古龍を全て片付けた暁には、残りの世界も瞬く間に統治しよう。


 古龍狩りの過程の中で、霧の外……外界へ通じる穴が出来た。そこを使い外界の情報を少しずつ手に入れ続けた。


 古龍との会話を可能とする力を持つエルフの雌がいた。


 神々の怨敵たるヴァルキアも現れた。


 傀儡となり得る国を見つけた。


 そして、新たに転移してきた国が現れた。


 それは我らがいたルタロスタとは全く異なる世界から来た蛮族だった。


 しかし、我らは止まらない。


 神々の名の下に我らが世界を統べなければならない。


 これは神から与えられた大義ある使命である。



 ーーーー




「大義は我らにある……全ては神のため。これは聖戦なのだ」




 本を閉じたレムリアスは静かにそう呟いた。






 ーーー

 ーー

 ー


「――以上が我らが居た世界、ルタロスタの歴史だ。レムリアが消えたあとの長い年月も結果的に戦争が消えることも、人類が手を取り合って、世界規模の環境問題に取り組むことはなかった。ただ共通の敵が居なくなっただけだ。それが居なくなればまた新たな敵を作ることになる。そして、30年前のルタロスタは既に確認出来る鉱樹は枯れ果ててしまい、人類の最期を待つばかりの死の世界だった。愚かと思うであろう。しかし、我らは思う。太古の人々は、作りたくて敵を作ってきたのではないのだ、と。あの世界に絶望したからこそ、何かに責に押しつけたかった。敵を作り、それを相手にすることで紛らわしたかったのだ、と。だがそれも愚かな行為。ただの現実逃避または、争いこそが人の性分なのかも知れん」



 ユーセフソン皇帝は項垂れるように述べる。

 ヴァルキアとレムリアとのイザコザにこの世界は巻き込まれていると言っても可笑しくない。


 正直たまったものではない。

 しかし、今彼に向けて罵声なりを浴びせるのは間違いである事も理解している。


 今は敵であるレムリアをどう対処するかが重要なのだ。



 しかし……




 ーー敵を倒すために今こそ垣根を超えて手を組もう!!ーー



 事情は分かったにせよ、まるで少年少女が胸を踊らせる英雄譚ではないだろうか。こんな提案を「ハイ」と素直に応える国がいるだろうか?否、普通はいないだろう。


 国と国、文化と文化、種族と種族……その垣根を、亀裂を忘れて手を組む事は非常に困難。


 しかし、これは必要不可欠な提案。


 ユーセフソンは賭けるしかなかった。



「合理的であるが、現実的ではない。それを真に受ける人の正気を疑いますな」



 グラバートは嘲笑しながら席を立つ。

 そのあまりにも無礼な態度にヴァルキア大帝国側近のレーリーが額に血管を怒張させながら椅子を倒す勢いで立ち上がる。ユーセフソンはそんな彼を手で制する。



「つまり提案は受け入れられない、という事ですか? グラバート殿」



 ユーセフソンがそう問うと彼は答えた。



「賛成です」


「むッ!?」



 まさかの言葉にユーセフソンは目を見開いた。それはグラバートも同じで周囲にいる多くの高度・低文明国家のトップ達も同様だった。



「先ほどは失礼な言を……申し訳ありません。そして賛成の意は本当です。それに私もそうするべきだと考えていましたから」


「なんと…………」


「尤も、私だけではないようですが」



 そう言うとグラバートは周りへと向ける。釣られてユーセフソンも同じ方向へ目を向ける。



「日本国としても皆が手を取り協力し合う事に賛成です」


「うむ! 我ら亜人族国家連合も共闘の意を唱えよう! 構わんな? ウェンドゥイル」


「勿論ですとも。そもそも、ニホン国が賛同して同盟国である我らは賛同せぬなどあり得ません」


「レイス王国も同意するわ……そもそも、他の列強国を見ると私たちが列強を名乗って良いのか疑問に思うけど」



 各列強国もユーセフソンの提案に同意の言葉を述べる。まさかここまでアッサリと同意してくれるとは思いもよらなかったのだが、それは即ち皆がレムリアに対し強い危機感を抱いているという事である。


 強大な敵がいるからこそ手を取り合える。


 では、その敵が居なくなれば?



(フッ……考えるだけキリがないな)



 次に議長のペレスが高度・低文明国家の国々からも意見を聞き始めた。



「ロイメル王国がドム大陸の国々を代表して述べさせていただく。我らも同盟に賛同し、共に第2世界からの脅威に立ち向かおう!」


「バリシアン皇国も賛同する。金銭面での困り事なら我が国を頼ってくれ」


「サナ王国も協力させて頂きます。遊撃ならお手の物よ」


「低文明諸国連合も共闘する!」


「我が国もー」


「我らもー」


「賛同するー」



 この会談の場に集まっている大半の国々が世界同盟に対し賛同の意を口にする。


 一つの巨大な組織に対し、かつての敵対国家同士が、種族が手を取り合う。その温かい光景に議長は思わず涙腺がゆるむ。


 しかしーーー



「申し訳ないが、我がクアドラード神国は賛同を拒否する」



 準列強国が一角であるクアドラード神国は拒否の意を示した。



「バーク共和国も拒否する。明確な敵対行為の無い相手に戦争を吹っかけるつもりは無い。『備え』だとしても、世界同盟の設立は却って相手を刺激する事になる。よって我が国も拒否だ。そもそも我が国はそれどころではない。列強国から堕ちた今……あちこちで暴動や反乱などの内紛状態なんだからな。」



 元列強国のバーク共和国に続き、また一国…また一国と賛同しない国も出てきた。


 その中には既に国そのものがメルエラ教を国教と決定付けている国も存在していた。


 結果として、34ヶ国の内、世界同盟に賛同したのは16ヶ国。残りの18ヶ国は拒否と、ほぼ半々で分かれた形となる。



「話はこれで以上ですかな? では、世界同盟に反対派である我らこれにて失礼致します。じつに実りある会談でした」



 クアドラード神国の代表者がそう言い残すと、残りの反対派を連れて退室した。


 残った賛成派の中には、彼らに対し強い怒りと混乱を感じる者も少なくなかったが、それが許される場である事は重々承知しているために、胸の中にその怒りを留めた。



「さて……ここから先は世界同盟賛同派による会談の場へと変わりました」



 議長のペレスの一言で、場の空気は元に戻る。


 ここからが真の意味での会談となるのだ。


 第2世界対策に向けた案を、この場にいる各国の代表者達は次々と述べていく。


 会談が終了した時、すでに月が世界を照らしていた。



 ーーー

 ーー

 ー

 リトーピアでの会談は何とか大事無く終えることが出来た。途中、退席した国もあったが、そんな事は想定内の会談だった。


 大まかなに決まった内容としてはーーー



 ・第2世界の動き、取り分けレムリア帝国及び聖国連の動きを監視出来る体制を整える。


 ・聖国連又はレムリアが軍事的行動を取ってきた場合による防衛体制を整える。これは主にニホン国、サヘナンティス帝国、ヴァルキア大帝国を中心に取り掛かるものとする。


 ・先の3カ国以外の国々は補佐として、軍港、軍事基地や兵器工場の設立を受け入れること。


 ・レイス王国及び亜人族国家連合はそれら調整役としての任を担う。



 決まった内容といえどこれは大雑把なものでしかなく、具体的な案は今後の会談を経て作っていく予定となった。





 ーーー

 ーー

 ー

 世界会談から数時間後。

 広瀬は某所にて黒巾木組の田中一朗から報告を受けていた。




「やっぱりか」


「はい。賛同した国の内半数以上がレムリアの息が掛かっている可能性が高いです。潜入していた隊員より、レムリアの生臭坊主共がその国の高官らと接触している現場を目撃。証拠もあります」



 そう言うと田中は十数枚の写真を取り出した。


 そこに写されたモノはありきたりな、言い逃れのしようがないものばかりだ。



「唯一の救いとは列強国とドム大陸国家、イールやハルディーク、テスタニアはシロだということか。他は……」


「ほぼクロで間違いないかと。」


「ふむ。やっぱり敵は根回しが上手いな」


「反対派の中には既に中継基地と思われる建物があるものと思われます」



 広瀬は少しの間思案した後、ポンと手を叩いた。



「うん。そいつらの破壊工作は別班に任せる。厄介な連中を後でリストアップしてくれ」


「ハイ。実はその中で少し厄介なのを既に特定しております」


「何処だ?」



 田中は一枚の写真を取り出し。



「バーク共和国です。元列強国。此処にはすでにレムリアの前衛部隊がいるものと思われます」


「写真を見る限り……陸軍や海軍、あの空中戦艦の類は見られないが?」


「海の中です。連中は潜水艦を有しています。バーク共和国高官を捕らえ、拷問にかけたところ、『潜航艦』と彼奴らは呼称しているとの事です。数は少なくとも30。敵指揮官及び潜航艦の兵装性能等は未知数。海上に浮かぶ軍艦も複数確認出来ましたが、見たところ兵装は対空兵器が1つのみと大した兵装はしておりません。恐らくですが、敵は海の上に軍艦を浮かべると言う発想が乏しい人類種なのでは、と愚考しております」


「やれやれ。ますます地球人類とは思考が異なるな」



 そう答えた広瀬は目頭を押さえる。


 火蓋が開かれる1週間前の出来事である。

年内にもう1話投稿出来れば良いかなと思っております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短時間かつ不鮮明ながらもそちら側を把握する術を我らは持っている。……見るだけだがな。だが、それで充分だ。」 と自信満々に行ってますが常に第2世界を遥か上空から日本は監視しると気付いたらどん…
[一言] 更新お疲れ様です。 銃火を交えない静かな侵攻・・・・ 中小各国首脳部にもその魔の手は伸び(><) かの国の大艦巨砲主義の究極の進化系の巨大空中戦艦に対しどう相対するのか? 精密誘導出来る…
[一言] 追加で 総理が名代になればいいかも。
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