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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第8章 接触編その2
137/161

第132話 王

誤字報告いつもありがとうございます!

 ーーー

 レムリア帝国(第2帝国)


 帝国議事堂 大広間会議室

 ーーー


 使節団が帰国してから13日後。

 日本を始めとする外界の国々との今後の対応を議題とした帝国御前会議が始まろうとしていた。


 前回と同様、各省長とその幹部、第三者組織たる元老院議員、そして、大勢の国議員達が集う。


 真ん中が切り抜かれた大きな円卓の席には各省長と幹部、元老院議員。四方にある雛壇には大勢の国議員達がガヤガヤと雑談しながら座っている。


 円卓の中央に浮かぶ水晶玉が天井に吊るされているシャンデリアの灯りで淡く反射している。


 前回と変わらない光景…のように思われたが、少し違っていた。



「お、おい……今日はスヴェン長官、遅刻せずに来てるぞ」


「本当だ……どうしたんだ? 一体」


「おぉ! アルシェラ大神官様だ!」


「良かった……ご病気で床に伏していたと聞いていたが、大事なさそうだな」


「あいも変わらずお美しい……」


「今日は、かの使節団も居るようだな」


「カリアッソ殿もお出でとは……何か一波乱起きなければいいのだが」


「それよりも私はスラウドラ中将殿がいる事に嬉しさを覚えるぞ! なんと凛々しく、なんと美しいことか!」


「今日はいつもの面々とは少し違いますな。」


「そうですな。しかし、1番驚いたのは……」



 何時もと違う状況に皆其々の心情を口にする中、1番の驚くべき存在に注目が集まる。


 レムリア帝国第三組織『元老院』議長

 ヴァーキンス・ゾル・リーフェン。


 歳はレムリア年齢で98歳。

 小さな皺はあるが顔立ちが整った初老の男性で珍しい赤い色の髪をしている。伸びたもみあげは下顎の髭まで繋がったチンストラップで口髭はない。他の元老院議員の様に、衣服に目立った装飾品は見受けられないが、純白で気品溢れるスラっとした作りになっている。それは地球でいうスーツに近い。



「あのお方は……まさか元老院議長!?」


「一年前に即位した新しい議長殿か。確か前回の議長は汚職で投獄されたらしいではないか?」


「そうだが……あの人がいるとは珍しい。この様な場に参加する時は代理の副議長が出ていたのだが……やはり今日は何か違うぞ」



 リーフェンは左向かいに座しているスラウドラと目が合うと、ニッコリと優しい笑みを向ける。スラウドラも微笑を彼へ向けながら軽く頭を下げた。


 しかし、彼女が向ける目の奥には強い警戒心があった。リーフェンが向ける笑みはそんな彼女の警戒を嘲笑う様にも見える。


 そんな彼女と彼との言葉なきやりとりを興味無さげにスヴェンは一瞥する。そして、すぐに視線を上へと向け大きな溜息を吐く。



(スラウドラめ、くだらんことを。危惧するべきは()()()()()()()()



 そこへレムリア帝国現皇帝のルデグネスが入室する。


 皆が一斉に立ち上がり彼に敬礼を向ける。

 皇帝が自らの席へ座るまでの移動の最中、彼の視線が一瞬だけ元老院議長リーフェンへ向けられた。皇帝は少しだけ目を細めた後、視線を元に戻した。


 皇帝専用の豪華な椅子へ腰掛けると、リーフェンの鋭い殺気じみた視線が一瞬だが感じ取れた。彼はリーフェンへチラリと視線を向けると、優しい笑みを浮かべる彼の顔だけが見て取れた。


 皇帝は周りに聞こえない程度に鼻で笑うと、皆へ向けて祈りを告げ始めた。



「では皆……神メルエラへ祈りを捧げよ」



 ゆったりとした口調で祈りの言葉を口にし始めた。周りは両の手を組んで目を閉じる。組まれた手は額に当てられ、人によっては教紋を象ったロザリアを握る者もいた。



「――永遠に奉らんことを……メーラム」


「「メーラム」」



 祈りの言葉を終えると鐘の音が3回続けて聞こえてくる。その音が聞こえなくなるまで皆の祈りの体勢を崩すことは無かった。


 そして、音は消え、皆が椅子へ座した。



「さて……ではこれより帝国御前会議を始める。前回から一月も経っていないが、急を要する事態なのでな。皆の賢なる意見を聞きたい。あと2週間を切った『聖教国家連盟会議(聖国会議)』の件にも関わるかも知れん。以前、聖典省職員のルインが外界の奴隷狩りに合い行方不明となった件は聞いているな? 悲劇とも言える状況の中、そんな彼を救ったのが例のニホン国だ」



 未だ謎の多い転移国家ニホン。


 異端国家との色濃い疑惑が漂う中、彼の国を神の名の下に聖戦を仕掛けるべきだとの声も増えつつある国内で、この報せが来たことは驚きだった。虚偽情報ではと疑う者も少なくは無かったが、実際にルインが使節団よりも先に本国へ戻ってきた時にやっと皆が信じる形となった。


 空港に到着したと同時に大神官アルシェラが取り乱した様に彼の元へ駆け寄り熱い抱擁を交わした姿は、国中の家庭用映像機へ配信されていた。


 一職員に対し、大神官はそこまで想っていたのか、と多くの視聴者が感動したその映像は、今でも再放送されている。



「ふむ……やはりニホンは中々良識のある国ではないか? 聖教化した際には、それなりの優遇処置を与える事も検討すべきでしょう。場合によっては新たな常任理事国としても宜しいのでは?」


「たしかに。外界を管理する国も必要になってくるからな。我が国だけではどう逆立ちしても人手が足りない。ならば外界初の常任理事国とするのも悪くない話ではあるな」


「それは少しやり過ぎではないか?」


「待て待て。彼の国が本当に良識ある国とは限らんぞ。全てニホン国の自作自演という可能性もある」


「それは些か考え過ぎでは?」


「可能性はゼロではなかろう?」



 早速各々の意見を口にする国議員達。

 皇帝は静かに手を上げると周りの喧騒はすぐに止まった。


 皇帝は話を続ける。



「良いかな? 意見が出ることは大変よろしい事だがまだ話の最中だ。さて、ニホンが彼を保護していると聞き、私は特務使節団派遣を命じた。その目的はルイン氏の保護、そしてニホン国の調査だ。知っての通り、ルインは無事に本国へと戻った。さて、ここからが本題なのだが、これから皆に報告資料を配布する。それを見ながら、今この場にいる使節団達の言葉にも耳を傾けてほしい」




 ーーー

 ーー

 ー

 1時間後……


 従者により配られた資料に目を通し、使節団一人一人がその目で見て、感じたニホン国の印象を皆へ説明した。


 ニホン人の姿……


 ニホンの建物……


 ニホンの都市……


 ニホンの工場……


 ニホンの軍事力……


 そして、ニホンの宗教概念。


 皆が熱弁するニホン国の印象はこの場にいる者全員の予想を遥かに上回るものばかりで、途中大きな騒めきも何度か聞こえてはきたが、何とか使節団全員、説明を終えることが出来た。


 最後の1人が説明を終えた後の会場にいる者達の反応は様々だった。



 眉間にシワを寄せ何度も資料を読み直す者。


 腕を組み考え込む者。


 隣同士で耳打ちする者。


 嘲笑する者。


 呆れたように資料を途中から見すらしない者。


 などなど様々だった。


 ある程度考えが纏まったと見た皇帝は、椅子から立ち上がり皆に告げた。



「ではこれより、各代表者から纏まった意見を発表してもらう。先ずは国議員4名からだ」



 四方の雛壇から其々1人ずつが降りてきた。

 各雛壇の前に置かれた演説台の前へ移動し意見を述べ始めた。



「東台から意見を述べさせて頂きます。ハッキリ申し上げますと、使節団の皆様方が話した内容とこの資料は誇張し過ぎていると思われます。ニホン国が飛空艇を造れる程度の魔導技術を持つ事は認めます。しかし、常任理事国を超える力があるというのは、何とも信じがたいものがありますな。いやはや、英雄たるスラウドラ殿がいてこんな事を言うのは心苦しいのですがね」



 東台雛壇代表者の小太りの国議員が嘲笑うように述べると、カリアッソら数名の使節団が彼を睨みつけた。



「外界という未知の世界で冷静さを失ったのでは? 現地人との共存や高速移動したまま目標を正確に射抜く戦車砲など、馬鹿げた夢物語もいいとこだ。まぁそこは100歩譲って由としましょう。我々が何よりも許せないのは……ニホンが無宗教の国という所であります!!」



 突然声を荒げた東台の国議員に、周りの他の国議員達も「そうだ!」と声を張り上げ始めた。


 東台の国議員の話は続く。



「神メルエラこそが絶対であり唯一なのです! それを知らぬ事さえ大罪だと言うのに、それすら認めようとしない点は断罪に処す蛮族国家であります! 故に我々はニホン国に聖戦を仕掛け、聖教化による完全管理にて正常化を実施するべきと述べさせていただきます。以上です」



 東台の国議員が一礼し元の席へ戻ると、今度な西台の国議員が意見を述べ始めた。



「では次は私から……えー、我々もニホン国の聖教化には賛成で、メルエラ教にて我らの管轄下に置くべきであると具申致します。しかし、聖戦は仕掛けるべきではないと思います」



 この発言を聞いた東台と南台の国議員達は一斉にざわつき始めた。が、それも皇帝の一挙ですぐに静まり返る。



「話を続けます。ニホン国の軍事力に関しては誇張し過ぎてあると言う意見も確かに多かったです。しかし、かの英雄スラウドラ殿の報告書に目を通すと、それが偽りの気がしませんでした。そもそも、国家の英雄たるメルエラ勲章を授与された彼女が虚偽の言するわけがありません。故に我々は常任理事国までは行かずとも、ルイン氏救出の功績を認め、対話による聖教化を進めるべきと申し上げます。以上です」



 この後も続けて南台と北台の代表者たる国議員らが意見を述べたが、南台は聖戦派、北台は対話派と見事に二分する形となった。報告資料や口頭説明の内容に関する事細かな受け取り方はあれど、ニホンが異端国家、それも国教を持たない無宗教という点は許し難いという点は同意見故にニホンを聖教化するという一点では共通の意を持つ結果となったのだ。



「ふむ。各代表国議員諸君、ご苦労だった。では次に各省からの意見を聞こうか」



 ・レムリア帝国国防省長官

 ゲーリン・イル・ラゼム


 ・レムリア帝国財務省長官

 エルシェンコ・ファー・ラミート


 ・レムリア帝国外務省長官

 ルアル・トーノン・カリア


 ・レムリア帝国総務省長官

 ロコンド・リザ・ザムレス


 ・レムリア帝国宣伝情報省長官

 リジィ・キー・ボラーロ


 ・レムリア帝国司法省長官

 イクシム・カッツ・ノーファン


 ・レムリア帝国帝室親衛隊指令局長官

 ウロジーミル・ゾツ・ガロフ


 ・レムリア帝国保安警備省長官

 セルベイ・ヴェ・ドーノフ


 ・レムリア帝国魔導科学省長官

 ルシッド・タブラン・スヴェン


 ・レムリア帝国聖典省最高責任者

 カミーラ・レ・アルシェラ



 円卓に座る各省長たちが1人ずつ立ち上がり、各々の意見を述べる。



「国防省長官のラゼムです。私が着目した点はニホン国の軍事兵器です。戦車や戦闘ヘリ、自動小銃など様々な武器兵器の中でも、30式戦車のスラローム射撃なるものにはかなり驚きました。そしてアパッチなる戦闘ヘリ、20式小銃の連発・単発の切り替え。極め付けは人型魔導機械。もしこれが事実であればニホン国の軍事力もとい魔導科学力を侮るべきではないと判断します」



 国議員の1人が立ち上がり声を上げる。



「しかしラゼム長官殿、そんなものが本当に存在すると思いますか? 人型魔導機械などちょっと小細工を施した全身鎧を纏えば誤魔化せるのでは?」


「戦車のスラローム射撃も信じられません! 予め目標に遠隔起爆式の細工がされていたのではないのでしょうか?」



 方々から国議員達の疑問と意義の声が聞こえてくる。この場では基本的に自由な発言は許されている為、皇帝は特に何も咎めることは無い。寧ろ、皇帝はこう言った質疑応答こそ必要であると考えてる。あらゆる事に疑問を持つ事こそ、皆に深く情報が浸透するのだ。


 彼らの疑問を国防省長官のラゼムは答えた。



「信じられぬからこそ考察するのです。相手は外界……それも同じ転移国家。我々の常識とは全く異なる発展や文明を持っていても可笑しくはありません。あらゆる事に可能性を考慮し、対策を練ることが国政を担う我々の使命なのです」



 未だ腑に落ちない国議員らであったが、彼の言ってる事は間違いでもない為、これ以上の問い詰めをやめて席へ座り直す。


 ラザムの話は続く。



「あくまで私は国防を担う人間。他の分野においては疎いところも多々ある故、断言は致しかねますが、私としてはニホン国とは争うべきではなく、友好的に関わるべきであると判断致します。場合によっては聖教化はしないという選択も必要かと」



 最後の一言に周りのざわつきが一気に広がった。そのざわつきは次第に罵詈雑言へと変わり、「撤回しろ!」「それでも栄えあるレムリア人か!?」「神メルエラを侮辱するか!」

 などの言葉も聞こえるようになる。



「静まれ……」



 しかし、それも皇帝の一言で直ぐに静寂の間へと戻る。ラザムは皇帝へ一礼すると席へ座った。



「次に外務省長官のカリアです。これらの情報を吟味した上で結論から申し上げます。ニホン国は我々が今まで出会ってきた国の中でも、かなり異質な存在であり未知であります。故に外務省としてもニホンとは下手に争うべきでは無い、と申し上げます」



 ここでも国議員達が立ち上がる。



「外務省までもがそんな世迷言を!」


「あんな報告を信じると言うのか!?」



 多くの批判を受ける中、カリアは声を上げて答える。



「副長官のノリスを始め、使節団として選んだ彼らは私の信頼する者たちです! 神より与えられた命を誇りに任務にあたった者達です! 私が信じず誰が彼らを信じるのですか!? そもそも、国の未来に繋がる大命に偽りを述べると本気でお思いなのですか!? 確かに驚くべきところはありましたが、それは信じないというわけではありません!」



 あまりの気迫に反論した国議員達は腰が引けてしまい、それ以上は何も言わなくなった。


 カリアの話は続いた。



「現在、外務省は外界にて3カ国と正式に国交を樹立しています。無論、メルエラ教の国教化とその教えを国を挙げて浸透させ、広める事を条件に。ゆくゆくは、それらの国々へ聖国連軍を正式に駐留させていく予定です。コレらを徐々に外界で広め勢力を伸ばす事で、万が一ニホン国と争うような場合でも、コレらは大きな役割を果たすことになるでしょう。また現在、外界ではそれなりに名を挙げた国に打診中で今のところは良い反応が見られます」



 その報告を受け、他の省長や国議員達も納得したように頷いた。それらの働きには聖国連軍務局の上役達や聖典省も絡んでいるのだろうと受け止めていた。



「総務省長官ザムレスです。要点だけで言えば、ニホンと事を構えるのは時期尚早。まだ事を荒だてるべきではありません。外堀を埋めるべきという点では外務省と同意見です。以上」



 淡々と一方的に述べたザムレスはもう役は済んだとばかりにさっさと椅子へ腰掛け、目を閉じていた。もういかなる反論に答える気は無いのだろうと周りも仕方なしと諦めた。そもそも、あんな切れ者に反論してもその何倍にもして返されるのは目に見えている為、もとより誰も言う気は無かったのは彼らだけの秘密である。


 その後も続けて、各省長らが各々の意見を述べていく。その結果、国防省や外務省らと同意見が大半で聖戦を仕掛けるべきと話すものはいなかった。


 そして、残るは後1人となった。

 その人物こそーー



「では……次は私かな? 帝国元老院議長ヴァーキンス・ゾル・リーフェンである。先ずは皆に一言謝らせてほしい。議長への任命早々に行方をくらませてしまい申し訳無い。なにぶん忙しい身であった故に、周りからの介入を避けていたのだ。その為、元老院へ用事があった者の多くは副議長のガーゼラーが対応をしてくれたと思うが……いやはや、本当に申し訳なかった」



 リーフェンは紳士然とした優雅な一礼を皆へ送る。そして、その優しい目線は皇帝へ向けられた。彼はピンと背筋を伸ばし、皇帝へ向け話を始める。



「特に皇帝陛下。陛下の使者達が何度も元老院本堂や議長邸へ赴いてくれたというのに……誠に申し訳ございません」


「いや……気にするな。息災で何よりだ。だが次からは連絡だけでもいいから残してくれたら助かる」


「おぉ何という深き御心! ありがとうございます!」


「こうしてお前と言葉を交わすのはコレが初めてか。しかし……不思議だな。」


「はて? 何がでございますか?」



 頬杖をついて微笑を浮かべる皇帝に、リーフェンは首を傾げる。



「資料で見たヴァーキンス・ゾル・リーフェンよりも少しばかり若い気はするが?」



 その言葉に周りがどよめくが、リーフェンは優雅に一礼をした後ニコッと笑顔で答える。



「ここ近年大変忙しく……この様な有様に。お見苦しい姿を晒してしまい申し訳なく思います」


「よい。気にするな。私も少し大人気なかった。さて、元老院の意見を聞こうか」



 リーフェンは襟元を引いて身嗜みを整えた。すると、徐に彼は歩き始めた。周りのざわめきなど御構い無しに、堂々とした足取りで進んでいく。


 彼は皇帝を含め、皆が自分の目の前にある位置で立ち止まると、両の手を広げて高らかに話を始めた。



「我ら元老院は神メルエラの名の下、異端なる大罪国ニホンに対し聖戦を仕掛けるべきと判断した!」



 ニホンと戦うべきーーと


 その言葉に混乱こそ無かったが周りの動揺は隠せなかった。それを確認するとリーフェンは再び語り始めた。



「何を恐れる必要がある、何を戸惑う事がある! 我らは神に選ばれた真なる人間! 魔導科学の叡智と、我らの誇りを持って敵を撃滅し、神メルエラを不変の絶対宗教と世界へ掲げる事が重要ではないか! それこそが神の使徒たる我々が為すべき使命なのだ!! ニホン国の技術がいかに発展しているとしても、話によれば大した勢力拡大をしていない腑抜けではないか! そんな敵に何故尻込みするというか! さぁ立ち上がれ、偉大なる神の使徒であるレムリアこそが世界を統べるに相応しい存在なのだ! 以上」



 彼の高らかな演説は各省の一部幹部官や国議員らを含めた全員の心を代弁した様な内容だった。更に優雅な彼の動作1つ1つが彼らの昂ぶる心情を助長させる。



「そうだ……その通りだ」



 誰かがポツリと呟いたその一言を皮切りに、また一言、また一言と言葉が出てきた。



「何を恐れる……我らレムリアに敵うものなど存在せぬ」


「我らこそが……支配者なのだ」


「やるぞ、やるべきだ」



 次第に戦うべきではないと口にした者たちも、彼らと同調する発言が聞かれた。

 事態が混乱する事を危惧した皇帝はすぐさま場を治めるべく、立ち上がり皆に声を掛ける。



「落ち着くのだ、親愛なる同胞たちよ。彼らの言い分も分からなくは無いが、よく知りもしない相手に無闇矢鱈と戦いを挑むのは愚策である! 負けぬまでも此方とて大勢の犠牲者が出ることも間違いはないだろう。そうならぬためにも、我らは知恵を振り絞らなければならぬ……ここにいる者はそれすら出来ない愚者ではあるまい」



 皇帝の言葉に周りから「そうか、そうですな」という声が漏れ聞こえてきた。ボルテージが上がる寸前の空気も止み、周りは何時もの雰囲気へと戻った。


 その事に安堵のため息を周りに気付かれないよう吐いた皇帝は、静かに目線をリーフェンへ向ける。リーフェンは足を組みながら目をとじていた。しかし、その口元は笑みを浮かべている。



(ただでさえニホン国に対する強硬派と慎重派で張り詰めたこの空気。おまけに帝政府と同格とも言える第三組織である元老院のトップからの言葉。そして、謎めいた雰囲気に加えた高貴な風貌……マズイな)



 皇帝はリーフェンへ鋭い視線を向ける。



(狙っていたか……クソッ、やはり元老院も廃絶するべきだったか。しかし、多くのコネクションを未だ有している元老院を潰そうともなれば思わぬ反撃を受けた可能性も高い。前議長を退陣させたは良いが、面倒なヤツが選ばれたか。基本、元老院内での人選は帝政府は口出しはしない事になってはいたが、あの男はこれまで築き上げてきた安定を全て壊すつもりか?)



 あの男は自分が成した全てを台無しにしようとしている事に皇帝は苛立ちで歯軋りした。



 ヴァーキンス・ゾル・リーフェン。

 この男との面識は生憎、元老院から送られた新たな議長が選定された時の資料のみである。


 第三者組織である元老院は転移前より存在する貴族院兼政治機関で、主に帝政府と相対する政治面に携わる事が多い。転移前は裏でレムリアの実権を握っていたとされる組織であったが、転移後からはその弱腰な政策姿勢から次第に議員や国民たちからの信頼がなくなり、代わりに突出して国民から大きな信頼を得始めたのがルデグネス家である。


 ルデグネス家は軍部拡大と強硬姿勢を一貫とし、異世界軍に対抗する働きを見せた。また、その裏でも元老院らと共に共謀し、当時の政権打破を実行。異世界軍を返り討ちにしたルデグネス家はその功績と爆発的な国民からの厚い支持。また、元老院による手引きにより、新たに生まれ変わったレムリア帝国としてレムリアの頂点に君臨した。


 しかし、皇帝の座に就いたルデグネス家は、自分たちの権威をより一層確実なものにすべく、元老院を帝政府の裏から完全に切り離した。当然、恩恵を裏切られた元老院は直ぐに報復へ動こうとしたが、完全に周囲を固められてしまい、何も出来ずただ名前があるだけの御飾りな組織として存在するだけになってしまった。


 大した実行力を持たなくなった元老院など恐るるに足らずと、ルデグネス家は特に気にも留めずに我が覇道を突き進んだ。


 しかし、ルデグネス家の権威も次第に衰えを見せ始めた。4度にも渡る大戦により、信仰心の強い臣民でも政権に対する不平不満は募る一方だった。国が圧倒的な力を得て、安定したからによって生まれる贅沢な不満。


 それは賢王石発見と外界での実験によって、一気に加速した。


 当時、皇帝として君臨していたルデグネス家の一人物に対し、元老院を始めとした各省、国議員らが一斉に現皇帝を攻め始めた。更には暴走気味となり制御しきれなくなった軍部や魔導科学省に関しても批判へと繋がった。次第に皇帝の力は衰え、逆に元老院が帝政府での力を増しつつあった。


 更に共和国時代へと戻った事で、元老院の暗躍は更に進む。様々な有力議員や各省幹部を抱き込み、その誘惑の魔の手は軍務や聖国連にまで及んだ。


 かつての栄光を取り戻しつつあるそんな時、それを裏返す存在が現れた。


 それがバークリッド・エンラ・ルデグネス。

 レムリア帝国(第2帝国)初代皇帝である。


 元老院からすれば彼の存在は目の上のたんこぶ。邪魔者以外の何者でもない。元老院はかつての威光を取り戻すまでもう一息の所で立ち往生となる。彼は有能な部下を配下に加え、元老院の影響に及ぼさない国を創りつつあった。


 どうにかして彼を排除出来ないかを模索している時に、遂にあの男が動き出した。


 ヴァーキンス・ゾル・リーフェン。


 元老院にとって王手とも取れる切り札が遂に表舞台へ戻ったのだ。


 ルデグネスは彼の詳細を『根』を使って調べさせたが、隠れ蓑が上手いらしく、その足取りはおろか痕跡すら全く掴めない状態。『根』を使っても正体不明な存在に強く警戒をするルデグネスであったが、その男とまさかの場所で対面することになった。



(一体何者なのだ……この男は)



 その後、帝国御前会議は終了。

 ニホン国への対処は引き続き監視と情報収集に専念する事となった。国議員や元老院からの反発はあったが、それもリーフェンが諌めると直ぐに大人しくなった。


 この時点で彼が既に帝政府内でもかなり手回ししているという事を見て取った皇帝は直ぐ様、リーフェンを調べるよう『根』を使ったが、その後にまた行方をくらましたとの事だった。






 ーーー

 レムリア帝国


 元老院本堂内

 ーーー

 ロウソクの灯りを模した魔電灯に照らされた薄暗い広間。その真ん中には円卓が設置され、囲うように純白に黒の紋様が縫われたローブを着込んだ13人がいた。


 彼らは元老院上級議員。


 100名は下らない元老院議員の中でも特に強い力を持つ13名だけが持つ役だ。


 その中の1人、副議長イーワン・タフ・ガーゼラーが口を開く。



「ではこれより元老院会議を始めます。先ほど行われた帝国御前会議……皇帝はニホン国を始め外界に対し基本的に静観すべしと判断を下した」


「甚だ不愉快な……敵対しておるとはいえ皇帝は何故そんなに弱腰であらせられるか」


「全くですな」


「許せませぬな」


「やはりこの国の真の支配者は誰なのか、我々の代で決着を付けねばなりますまい」


「そうですな」


「そのようですな」



 皆の意見が早々に固まった事をガーゼラーが確認する。すると、そこへ1人の男が暗がりからやって来た。


 皆が彼に視線を向けると、一斉に立ち上がり頭を下げた。ガーゼラーだけが椅子から立ち上がるとその男の前へ移動し、跪く。



「お待ちしておりました、我らが主。既に皆の意思は固まりました。あの3人もやっと此方側へ寝返る事を確約した事もあり、既に帝政府内に奴らの居場所は御座いませぬ。いつでも仕掛けられます」



 気が付けば他の議員たちも彼の後に続くよう跪き、こうべを垂れている。



「先ほど『根』の隊長ラトラーからの報告によりますと、各省長も此方側へ」


「全方面の大将を始めとした名だたる名将たちも」


「聖国連の軍務局は勿論でございまする」


「穏健派で政務や軍務に携わっていた者は皆、何かしら適当な罪状を仕立て上げ、今ごろは各4方面の前線へ送られているか、投獄されている事でしょう。これで過激派……もとい正統派が各分野における実権を握れます」


「聖典省はルイン氏の安全を保障することを条件が出ましたが、こちらの判断でその条件を飲み、協力関係を得ました」


「常任理事国のトップたちも了承済みです。しかし、ガルマ帝国あたりが中々渋っております」


「その件については他の者たちと同様、金と権利をチラつかせて釣ろうと思います」


「穏健派議員は議員資格を剥奪させ、その資産も没収。その者たちの資産で軍事研究にあてたく存じます」


「例の使節団……スラウドラ氏を除く全員に『根』の刺客を放っております。そろそろ、頃合いかと」


「クアドラード神国、バーク共和国、ハルディーク皇国にも隠密特使を送りました。良き返事が届き次第、各地へ魔導転移装置を設置する手筈となっています」


「アルバラ・エンラ・ルデグネス様の準備も整っておいでです。兄を見返したいとかなり気合が入っております。おっと、勿論そこは言い聞かせております。瓜二つな容姿を利用した傀儡である事は本人も良く理解しており、表では完璧なバークリッドを演じれるかと」


「『根』の報告では使節団の報告はやはり信用に足るものかと。イール王国にて人型魔導機械を多く目にしたとの事です。それに加え、あの者の行っていることが事実ならば、ニホンへの戦略を考え直す必要があります」



 一同が其々の報告を淡々と述べると、その男は跪く皆の前で立ち止まり声を掛ける。



「うむ、大儀であった。この国の8割以上は既に我が手の中よ。聖国連の軍務も抑えれば、我が派閥の武力は一層確実なものとなり、仇なす者もその前には無残にその心をへし折ることだろう。人心を掌握する近道は金と権力である。それさえ、確約すれば自然と同胞は増えよう。個を重視した質の法則など時代遅れよ。これからは量による力だ。とりあえずはそのまま計画通りに進めよ。アルバラの演技指導は引き続き継続だ。そうする事で己が役目の重要意識が高まる。ハルディークの籠絡は無理にやる必要は無い。面倒なことに近場の森にはダークエルフが移り住んでいると聞く。報告が正しければダークエルフはニホンと利害が一致した関係を築いている。恩を受けている分、奴らを抱き込むのは難しいだろう」



 そう答えると男は彼らを通り過ぎ、円卓の席の1つに座る。



「さて……機は熟した。500年の時を経て再び我らがこの国の全てを奪い返す時が来たのだ。ククク、あの男に感謝せねばな」



 元老院上級議員たちは再び彼の方へ姿勢を向けて跪く。



「「我らが王! この国の真なる支配者!」」


「「帝国万歳(レーヴェ・レムリス)! 皇帝万歳(レーヴェ・ルーガル)!」」


「「神は偉大なりオル・ジョ・メルィーラ! 偉大なる主に栄光を(エル・ラ・メルィーラ)!」」



 男は立ち上がる。

 広間一杯に満たされる彼を讃える言葉の数々を一身に受けるよう、両の手を広げて…求めていた威光を想像し受け止める。



「さぁ、取り戻そう玉座を! 取り戻そう愛すべき祖国を! 神に選ばれし国を! そして、世界を統一した時、この国は大レムリア帝星国となるのだ!!」



 男――ヴァーキンス・ゾル・リーフェンは叫ぶ。彼が望むべき世界を実現するために。


 その時が来た時…彼は全世界へ高らかに告げるであろう。


 自らの真名を……。







 彼の真の名は……

 ヴァルガメシュ・エンキ・レムリアス


 転移前より失われたとされるレムリアの正統なる王家の末裔である。









 ーーー

 ーー

 ー

 2週間後……


 開催された聖国会議にて、宗主国たるレムリア帝国のルデグネス皇帝は加盟国に対し、こう告げた。



『神メルエラによる聖教統一化を実現すべく、教主・宗主国として常任理事国および領主へ告げる! 我らは聖国連全勢力を掛けて、異端なる外界に対し聖戦主軸とした強行戦略実施を宣言する!!』


接触編はこれで終了となります!!

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