第125話 交差する運命
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とても助かっています!
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第2世界
北方辺境地スノーホーン
アルハリル山脈
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ゴバ山脈攻略とほぼ同時刻。
極寒の白い山々が連なる北方の地。
その上空にレムリア帝国聖国連北方辺境派遣軍第1艦隊が、北の異端国家群の根城である山脈を囲うように展開していた。
北方に存在する艦隊の中でも最強の実力を誇る第1艦隊は第2艦隊とそう大差はないが、旗艦が違っていた。
ミトロギア級ミサイル戦闘艦
甲板後部には広い甲板が設置されている。
無論、これは艦載機の離着陸の為に造られたモノではない。
甲板だった場所が両開き式にハッチが開かれた。その下には深緑色に塗料されている大きな筒状の物体が綺麗に固定機に並べられていた。
大きく開いた甲板からそのうちの1つがゆっくりと直立し外へ上げられた。
尖った先端に円錐型。
先端部に一対の翼。
後部には二対の翼が装着されている。
あれこそがこの艦の特徴的兵器。
『魔導ミサイル』である。
魔導ミサイルを乗せた発射台は艦前方部斜め上方向へその先端を向ける。
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ー
旗艦ミトロギア級ミサイル戦闘艦。
その艦橋にて指揮をとる軍帽を被り、将校位を意味するマントを纏う1人の女性軍人……カトレア・メル・スラウドラ大佐はモニターに映るアルハリル山脈へ真っ直ぐに目を向けていた。
軍帽から僅かに垂れるショートの銀髪が艦橋内の明かりによりキラキラと輝いている。また、女性でありながらその佇まいは紛れもなく軍人そのもの。綺麗かつ整った容姿ではあるが、美女というよりもイケメンに分類される。
故に彼女に惚れた軍人は男女問わず多く、辺境派遣軍として送られる際、最も配属希望が多い場所は彼女が指揮をとる北方である。
ピンと背筋を伸ばし、指揮棒を握るその姿を見て興奮する者もしばしば。
「ヤナン艦長。降伏勧告を伝えに向かった使者団から何か連絡は?」
彼女の側に立っていた本艦の老年の女性艦長。
イバン・カロフ・ヤナンは敬礼を向けながら答えた。
「ハッ。もうそろそろ何かしら連絡を受けても良い頃だと思われますが、まだ何もありません」
「ふむ、そうか」
スラウドラは静かに頷く。
彼女の背後には横一列に並ぶ複数人の副官クラスの女性軍人達が、彼女の一挙一動を見て頬を赤らめる。
そこへ1人の乗員が彼女もとへ小走りで駆け寄り、敬礼を向け報告する。
「スラウドラ司令。今しがた使者団から報告が上がりました。『創造主を裏切ることは出来ない』との事です。どうやら連中は降伏勧告を
呑まないようでー」
「なんですって!?」
声を上げたのはスラウドラの女性副官の1人だ。
驚いた乗員が彼女らへ顔を向けると、皆がワナワナと震えながら怒声を上げる。
「未開人の分際で、高貴で華麗なスラウドラ司令の御慈悲を無下にするなど!」
「赦されない……とても赦されない事ですわ!」
「神の慈悲を拒み、スラウドラ司令の慈悲も拒む。なんと、なんと罪深い!」
スラウドラは溜息混じりに手を挙げて彼女らを制止する。
「やめないか、君たち」
「「も、申し訳ございません!」」
「うむ。分かればいい」
彼女達には一瞥もせず、謝罪の言を受け取ったスラウドラは再び目線をモニターへ戻した。
一方、女性副官たちは頬を赤らめ少し荒い息を漏らしていた。中には僅かにモジモジした動かきを見せる者もいたが、ほかの乗員たちはそんな彼女らをやや引き気味に眺めていた。
「ヤナン艦長。魔導ミサイルの用意は?」
「ハッ。既に完了しています。目標地点の特定すればいつでも発射可能です。」
「良し。では観測弾発射用意!」
スラウドラの命令を復唱しながら、艦橋の乗員達が一斉に準備に取り掛かった。慌ただしくなる艦橋内に流石の副官達も落ち着きを取り戻していた。
「観測弾装填完了!」
「目標、アルハリル山脈!」
「第1副砲塔……方角角度共によーし!」
発射準備が整った事を確認したスラウドラは持っていた指揮棒を高く掲げた後、前方へ向けて振るった。
「撃てェェ!!」
ボボボボォォォーー!
艦橋内に僅かだが聞こえてきた通常の砲弾とは違う、少し間の抜けたような発射音。
「観測班、魔導レーダー注視!」
スラウドラの力強い命令を受け、艦橋内の観測班らオペレーター達が各々が腰を掛けて担当する半球体のモニターへ目を向ける。
そこから映し出される多数のデータから、同じ半球体の端末を両手で転がすように操作する。
「観測弾アルハリル山脈中腹部へ着弾!」
「着弾確認! 信号波確認!」
「全4発の内1発に不具合発生! 信号波微弱!」
観測班の1人が慌てたように振り返り報告する。
しかし、スラウドラは微塵も動揺せず、ただ正面の巨大モニターへ視線を動かさずに真っ直ぐ立ち続けている。
「狼狽えるな! 残りの3発から送られる信号波から精密な距離を割り出せ。その距離から目標地点へのミサイル着弾点を見出すのだ」
「司令、偵察機のオウル05から通信が」
「繋げろ」
艦橋内に偵察機からの通信音声が響き渡る。
『此方、オウル05。スラウドラ司令、アルハリル山脈のソロージョ族達が山頂部の擂鉢状に窪んだ地形に集まりつつあります』
「そこはどうなっている?」
『擂鉢状に窪んだ頂上部の下に、彼らが創造主と奉っている存在を模した石像があります。彼らはその石像へ向けて五体投地の祈りを捧げているようで、かなりの数がいます』
「分かった。報告ご苦労」
偵察機からの通信が切れる。
「魔導ミサイル着弾点はアルハリル山脈山頂部だ! そこの擂鉢状になっている窪みを狙え! そこにいるソロージョ族供も諸共だ!」
「「ハッ!」」
スラウドラの命令に皆が力強く応える。
この1発の魔導ミサイルで此度の作戦が終了するものだと彼女は理解していた。
そして、それを使用する事はソロージョ族へ対する武人としての最期の情けでもあった。
そもそも、各辺境派遣軍へ通達された命令は『敵の殲滅』。生き残りは不要なのだ。しかし、それも最高指揮官らの判断によって、恭従の意思ある者であれば、ある程度の生き残りは許されていた。
ソロージョ族への降伏勧告は彼女の彼らに対するせめてもの情けだった。が、彼らはそれを呑むことはなかった。
「彼らは自らの死を選んだ……愚かだが、覚悟ある愚か者だ。ならば私は一軍人として、彼らの意思を尊重しなければならない」
スラウドラはメルエラ教信者であり、レムリア人であり、そして誇り高い軍人でもある。
例え相手が劣等種族でも、死を覚悟した勇気ある決断をした者にはその意思と敬意を表する事を是としている。
そして彼女の部下達は、彼女の容姿は勿論、その誇り高い心に惚れ込んでいる。故に彼女を慕い尽くすのだ。
その忠誠心はある意味、信仰にも近いものかもしれない。
「信号波より測定完了。160、200、240!」
「距離測定完了! 偵察機からの予測距離との誤差180!」
「誤差修正!」
「誤差修正了解! 160、340、380!」
「発射角度、方角修正!」
「修正完了!」
オペレーター1人が報告する。
「スラウドラ司令、魔導ミサイル発射の準備が整いました!」
「うむ。戦術班、腕の見せ所だぞ」
「「ハッ!」」
戦術班達の気合の入った声が艦橋内に響いた。
その返事に満足げに頷くスラウドラは正面の巨大モニターへ目を細める。
(せめて一思いに……)
そんな思いを胸に彼女は高らかに叫ぶ。
「魔導ミサイル、発射ァァ!!」
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ!!
唸るかのように艦内が振動する。
そして、巨大な正面のモニターに映る紫色の煙の線を引きながらアルハリルの山頂へ向かう魔導ミサイルの姿が見えた。
ーー
ー
アルハリル山脈の山頂部。
ソロージョ族祈りの広場は擂鉢状に窪んだ山頂部内に造られている。周りには大小様々な柱が建てられ、複雑に線をなぞった様な文字がびっしりと彫られていた。
その最下部に建てられた坐禅を組む四つ腕で細身、頭頂部に毛が一本も生えなていない銅像が一つ。
それを崇め奉るようにソロージョ族達が必死に五体投地の祈りを捧げている。
「創造主よ、我らに救いの手を」
皆が祈りを捧げる。
その中でも一際目立つペイントを身体にほどこされた1人の男。
ソロージョ族の長である男は四つの腕を組むように祈り続ける。
ソロージョ族は異形の亜人種だ。
全身は雪のような白色で、雪に覆われているこの地方またはこの山脈ではほぼ同化していまうほどだ。そして、個々が2mを超える巨躯を持つがかなりの細身。腕は四つ。顔には縦にした様な大きな目が一つのみ。身を纏うものは薄い腰布のみである。
彼らは皮膚から空気中の魔力を取り込む事で栄養を得ており、故に目以外の部位は存在しない。発している声はテレパシーに近いものだが、それは周囲にも聞かせる事は可能。
彼らの血液は青色で強力な不凍液の成分が含まれている。
故に彼らはここでも十分に生きていけるのだ。
いや、ここのように極寒の地でしか生きられないのだ。少しでも暖かい地へ降りようものなら、すぐに死んでしまう。
(創造主よ……我らの歴史はここまでなのですか?)
長は銅像を見つめながらふとそんな事を考えた。
ソロージョ族は見た目こそ恐ろしい外見をしているが、レムリアが来るまでは平和を好み、争いを嫌う心優しい種族なのだ。
人間は彼らを脳髄を吸う悪魔というが、そんなものは吸うはずはなく、寧ろ食べると言うこと自体が不可能なのだ。
争うことを知らない心優しい種族。
しかしその種族も今、強大な国の前に滅びようとしている。
ソロージョの長がふと空を見上げると、紫色の雲を引いて向かってくる槍のような飛行物体が此方へ向かっていることに気付いた。
そして、直感的に理解する。
(アレは……ワレラをホロボすモノだ)
長は振り返り、祈りを捧げ続けている同胞達へ向けて声……もといテレパシーを発した。
「ソロージョのタミタチよ……ついにこのトキがキてしまった」
長が指差す方向へ皆が目を向ける。
何かが此方へ向かって来ている。
しかし、ソロージョ族達の反応は意外にも鎮まっていた。そして皆が銅像と同じような体勢で坐禅を組み始めた。
(恐れる事はない……還るべき場所へ向かうだけなのだから)
長は単眼の縦目をそっと閉じてその瞬間をジッと待つ。
そして、山頂部から大きな爆炎が上がる。
ーー
ー
第1艦隊旗艦ミトロギア級ミサイル艦の艦橋内は歓喜の声で満たされていた。
「目標命中! 見事に命中!」
「オウル05より通信! 山頂部の窪み全体が崩壊! ソロージョ族の生存率絶望的と判断!」
「魔導ミサイル軌道上での誤作動見られず! スラウドラ司令、見事に一撃で敵を殲滅しました!」
湧き上がる歓声の中、スラウドラの表情は崩れる事なく静かに巨大モニターを睨みつけていた。モニターに移るアルハリル山脈の山頂部からはもくもくと巨大な黒煙が立ち昇る。
「本当に誤差は無いのか?」
「は、はい?」
「軌道上は問題無くとも、目標地点へは誤差なく着弾出来たのか?」
横目で問い掛けてくるスラウドラにオペレーター達は一気に緊張が走った。
「た、た、ただ今オウル05へ連絡を!」
「頼むぞ」
そう言うと彼女は目を閉じて報告を待った。
そしてー
「オウル05より報告。予定着弾よりも80mの誤差が……ありました」
オペレーターの声が段々と小さくなる。
気落ちしたくなるその報告に周りの歓喜の声も一斉に静まり返る。
「そうか。いや、いい……分かった。報告ご苦労。皆も良くやってくれた。周囲を警戒しつつ、アルハリル山脈を巡回するぞ。まだ生き残りがいるとも限らん。皆目を凝らすのだ。流石に此処へは陸戦軍を送れないからな」
「は、ハッ!」
「すまないが、少し艦内を歩いてくる。何かあったら艦内放送で呼んでくれ」
「「ハッ!」」
指示を出したスラウドラはマントをはためかせながら、踵を返し艦橋を後にした。
艦橋の扉が閉まるのと同時に副官達の喘ぐような声が全体に響き渡る。が、その声が彼女へ聞こえなかったの僥倖と言えるだろう。
ーー
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広い艦内の通路を一人でスタスタと歩くスラウドラは、所々に居た乗員達に労いの言葉を掛けていた。
彼女を見た途端に素早く整った敬礼を向けるあたり、部下達の彼女に対する忠誠心の高さが伺える。
艦内を歩き回るうちに明かりが殆どなく、薄暗い整備班ぐらいしな通らないであろう通路へと足を運ぶ。
そして周りに誰もいないことを確認すると、彼女は壁へともたれ掛かり、目を閉じて深い溜息を吐いた。
(はぁ……神メルエラよ。今貴女様の元へ、清く、そして異形なる魂が向かいました。どうか彼らが望むべき場所へお送り下さい。そして、どうか彼らの魂に……安寧の祝福を……メーラム)
小さな声で祈りを捧げる。
それは己が為でも国の為でもない。
命絶えた亜人族、ソロージョ族達の魂に対する安らかな祈りであった。
(彼らは最期まで自ら信じるモノを棄てずに護り続けた。当然、歯向かう意思として私は容赦ない鉄槌を振るう。だがそれでも、最期まで曲げなかったその誇りは尊重するべきだ。彼らの魂の救うを求めても良いはずだ。偉大なる神メルエラならば、お赦しになるはずだ)
彼女はゆっくりと目を開ける。
彼女の忠誠心は国もとい弟でありレムリア帝国皇帝のバークリッド・エンラ・ルデグネスにある。
彼女が養子として育った家は名高い軍人の名家だった。幼少期から軍人としての知識と鍛錬を培ってきた彼女は、軍へ入隊した時点で最優秀
軍人候補の一人として挙げられるほどだ。
しかし、彼女は軍人としてあまりにも真っ直ぐ過ぎるが故に彼女の意図とは関係無く彼女を慕う者も徐々に現れつつあった。
そんな彼女の存在が己の面子や権益にも影響すると感じた上官達が彼女を適当な理由を付けて辺境の小規模基地へ左遷させたのだ。
それでも彼女はめげずにその場所で己が為すべき事を一所懸命に取り組んだ結果、その基地は今では北方辺境派遣基地の本部にまで拡大したのだ。
その後、彼女の手腕を買う為にバークリッドは彼女の元へ足を運び、手を伸ばした。
カトレアは国の為、弟の為に、その手を取り、己の能力を存分に振るい続けた。
だからこそ今の自分がいる。
気高き軍人でいられる。
あのまま弟が現れなけば、遅かれ早かれ自分は追い詰められていたかもしれない。
そう考えない日はなかった。
(流石に歩き過ぎかしら? 少し休むべきね)
祈りを終えた後、彼女は自分が疲れていることに気付いた。ここで寝るわけにはいかないと、彼女は壁から背中を離して自室へと向かった。
自室へ通じる一本道には二つのセキュリティゲートがある。特定の魔紋を持つ者以外が通ることは不可能なほどに。
スラウドラは扉の横に埋め込まれるように設置された半球体へ手を置くと、半球体は緑色に光り扉がシュンッと開く。
彼女がそこへ入ろうとした瞬間ー
「あっ! す、スラウドラ司令!」
少し離れた突き当たりの通路から、彼女に気付くなり急いで駆け寄ってくる1人の若い乗員が現れた。肌の色から領国民である事はわかるが、一等か二等か、はたまた三等臣民かは分からない。まぁそこはどうでも良い所ではある。
「む? どうした?」
ちょうど通路に入った所で立ち止まり振り返る。若い乗員は近くまで駆け寄るとビシッと敬礼を向けて話し始めた。
スラウドラは綺麗なその敬礼に彼の練度の高さを実感し軽く頷く。
「ハッ! お忙しいところ申し訳ありません。実はー」
シュンッ
ちょうどセキュリティゲートが閉まってしまった。彼女が通路内にいたせいか、若い乗員も同じようにセキュリティゲート内に入ったままである。
その事に動揺する乗員だったが、スラウドラはフフっと微笑を浮かべながら「構わん、続けろ」と答える。
若者は頬を赤らめながら報告を再開した。
それが何を意味したものなのかは本人のみぞ知る。
「は、ハイ! 本国から通信が来ております!」
「本国から、だと? それは緊急を要するものなのか?」
「は、ハイ! 帝政府からの特一級通信です」
「分かった。私の部屋へ繋げておいてくれ」
「ハッ!」
連絡を終えた若者はホッとした表情を見せる。
司令官への報告という大役を若いながらに熟したのだ。そう感じるのも仕方ないだろう、とスラウドラは考えると、ある疑問を問いかける。
「ところで君、トシは幾つだ?」
「え? 自分が、ですか? えーっと、自分の故郷では13から成人なので、14です」
「14!? ど、どうりで……幾ら何でも若すぎると」
「し、司令?」
ブツブツと独り言を呟く彼女に若者が心配そうに声を掛けると、彼女は我にかえったように話し始めた。
「……い、いや、なんでも、ない。報告ご苦労だった」
彼女は俯きながらセキュリティのロックを解除して、彼を押し出した。再びドアがシュンッと閉まると、一人の通路の中、彼女は両手で顔を覆い顔全体を赤らめる。
(そもそも本国帝政府からの特一級通信が来ているというのに、自分はなんと愚かな事を!)
自分の欠点はそんな所だ、などとブツブツ言いながら自身の部屋へ入っていく。
そして、そこに設置されている通信機が置かれたデスクへ腰掛け、通信機器を操作する。
『お? 繋がったか? ヨォ妹よ! 元気してたか? 第一報で聞いたぞ! アルハリル山脈をやったってなぁ、流石だなぁ!』
思わず耳を離したくなる程の大声で直ぐに気付いた。西方辺境派遣軍最高指揮官ラドリッジ・ドゥ・バミール大佐である。
「はぁ……何かしらバミール?」
「あぁ!? 随分と素っ気ないなぁ! せっかく祝いの一報を入れてやったのになぁ」
「アルハリルで武力をかざしてた種族は初日の攻撃で全員潰したわ。デカい口を叩いておいて、いざヤバくなったら同族の子供を盾に逃げ出すような屑どもよ。アイツらさえ仕留めれば後は問題なかったわ。まぁ報告には無かった、亜人族が住んでいたけど」
「なに? それはどんなだ?」
「ソロージョ族よ」
「あぁ。あの色白で単眼四つ腕の巨人か。なるほど、あの種族の特性上そこにいても可笑しくは無いな。……となると、やったか?」
「……魔導ミサイルでね」
いつもの間にかバミールの声が小さくなり、どこか気遣うような口調にも感じた。
「一応、降伏勧告と新しい北の住処の提供もしたんだけど断られた。そんな事すれば殲滅が待ってるのに、信仰は棄てられないって」
「そうか。うむ! 強き志を持った種族だな!」
「ええ、ホント。だから彼らの意思決定を尊重して魔導ミサイルを使ったの。見た目に反して知的な種族だったから残念」
「そうかそうか」
「ところで……何か用? 特一級扱いの通信を入れるんだもの」
バミールは思い出したように話し始めた。
その口調は何時ものうるさいモノに戻っていた。
「おぉ! そうだそうだ! 実はな、例のニホン国への使節団結成の件だが、決まったぞ!」
「あら、そうなの? メンバーは?」
「それなんだが……その中の一人に、スラウドラ、お前が入ってる!」
まさかの自分に思わず顔をしかめる。
通信越しにはバミールのうるさい笑い声が聞こえてくるから妙に腹立たしい。
「……私が? 総務省のザムレスの決定だからまぁ、反対する気はないけど。他には誰が?」
バミールは相変わらずのデカい声で話を続けた。
・外務省副長官
マナン・デッファ・ノリス
・外務省第三次官
ジニョリエーロ・モロ・ゾマノフ
・聖典省第三次官
カーレン・キスト・デナティファ
・魔導科学省副長官補佐
エゾン・ポグ・ハーソン
・国防省第三次官
ガイン・ジョ・ルガリカー
・聖国連軍務局副局長補佐
デルタザール・ギグ・カリアッソ
そこへ、レムリア帝国聖国連北方軍大佐のカトレア・メル・スラウドラを入れて主要メンバーは7人。辺境派遣軍最高指揮官はアルハリル攻略を達成した為に除名となっている。
スラウドラはそのメンバーの中に一人だけ腑に落ちない者がいる事に気付いた。
「バミール……聞き間違いかしら? 今確か…カリアッソの名前が聞こえた気がしたんだけど?」
カリアッソは聖国連軍の軍務局副局長補佐の役職に就くレムリア人で艦隊を一つ請け負う程の軍位も得ている軍人でもある。
彼女が彼がメンバーとして選ばれている事に対して腑に落ちない理由は、彼の性格にある。
弱き者には強く、強き者には弱く出る日和見な性格で、彼がそこまでの役職に就いているのは優秀な副官達がいるからであって、決して彼の実力ではない。
本来であれば彼の部下達が昇級なりを得るはずなのだが、賄賂などを軍務局へ入れているカリアッソはそこを多少は操作するコネを持っている。
「聞き間違いではないぞ。まぁ、お前の気持ちは分からんでもない。だが……だがしかし、お前も気付いているだろう? 弟の狙いが」
「まぁ……それはそうなんだが」
カリアッソのような人間が選ばれた理由。
それは、あの様な愚者相手にニホンがどう出てくるのか。またはニホンの対応能力を見る為である。それで国際問題になったとしても、その程度でムキになる国ならば幾らでも対処の仕方も存在する。仮に戦争になったとしても、その国の動きはかなり読み易い。
逆に愚者相手でもムキにならず、上品な対応を駆使してくる相手となると、その読みは難しくなる。無論、出過ぎるのならそれはある意味愚かなであるが、そうではない……国を背負う代表者然とした態度で来るなら、その国が軍力は別として、外交という場ではかなり練度が高い事が伺える。向こう側から丁寧に謝罪を要求してくるのであればそれすらも皇帝は厭わないだろう。
未知なる、それも自国と同格かも知れない国の実力を知ることに比べれば微々たる恥である。
生きていればその屈辱を挽回する機会もある。
苦虫を味わい、明日の栄冠を掴み取る。
「まぁ流石にやり過ぎはマズイからな。そのストッパー役としても私が出るのか……だが、私で良いのか? もっと他に適任がー」
『む? なんだ、知らなんだか?』
「な、何がだ?」
『アイツはお前に惚れてる』
「……はぁ?」
まさかの答えに流石のスラウドラも身を乗り出した。何故全く部署が違うあの男が自分なんかを好いているのか全く見当もつかない。
『知らないのか? まぁその点を利用しろって事だ!』
「はぁ……訳がわからない。こんな私の何処がー」
『お前……異性は勿論、同性からもかなり人気だぞ? 色んな意味を含めてな』
「なっ!?」
『例えば……東方にいたあの男、ツァーダだったか? アイツは何としてもお前を手に入れたと思ってるって有名だ! 何たってアイツは元老院の家系の出だからな !欲しいものは手に入れるってヤツかね! ハーハッハッハ!』
最早ため息しか出ない。
呆れつつも、スラウドラは話を続けた。
「あんな下衆野郎に惚れるわけが無いでしょ? いい加減にして。元部下でもアレは好きにはなれないわ。あぁ思い出しただけでも鳥肌が立つわ、あのスキあらば狙ってくる、あの舐め回すようなネッチョリとした視線……」
『分かってる分かってる! お前の性癖についてはよーく分かってー』
「言ったら殺す……二度殺す」
ドスの低い声で威圧するスラウドラに、思わずバミールの声量も落ちてしまう。
『わ、分かった分かった。ゴホンッ! あー、うん。正式な発表はまだだが、お前にはもう一つ別の視点からもニホンを見て欲しい。詳しくでなくて構わない。ただ見て、感じろってヤツだ』
「えぇ、分かってるわ」
『報告は以上だ。いつになるかは不明だが、ニホンを楽しんでこいよ!』
「ふふ……気が早過ぎ。それにニホンは敵になるかもしれない国よ」
『ふん! その時は叩き潰すまでよ! ではさらばだ!』
通信が切れた。
あんな切り方は何だと言いたくなるが何時もの事である。
スラウドラは身に纏っていた軍服を脱ぎ、ハンガーに掛けた。そして、ボクサータイプのスポーツパンツとスポーツブラのみを身に付けた姿
でベッドへと横たわる。
その体はほっそりしているが、鍛え上げられている引き締まった体で、腹筋は見事に六つ割れている。
「ニホン、か…………良い国だといいな」
そして静かに眼を閉じる。
その呟きはメルエラ教として、軍人としてでは無い、1人の女性としての純粋な言葉だった。
ーー
日本国 中ノ鳥半島
中ノ鳥半島自衛隊基地本部
特殊来賓室
ーー
時間の流れとは早いものである。
レムリア帝国が北方、東方辺境部を事実上攻略し終えてから実に1ヶ月近い時が流れた。
未だに彼の国は接触を図っては来ないが、それはこちらも同じ状況であった。
故に両国とも未だに直接的にも間接的にも繋がりは無い。
しかし、それも時間の問題となりつつあった。
「突然の来訪にお出迎え頂き感謝いたします」
「いえ、お気になさらず。どうぞお掛けになって下さい」
「ありがとうございます」
現れた3人の来訪者。
その中の1人と日本国外務官の舛添香が握手を交わす。
・ヴァルキア大帝国
外務大臣 オルネラ・ヴェルガゾーラ
・サヘナンティス帝国
外交長官 ロラン・シェフトフ
・亜人国家連合
エルフ族の国『アルフヘイム神聖国』聖王
外交部代表者 ウェンドゥイル・アルヴァーナ
3つの大国の外交部門のトップ達が日本国は中ノ鳥半島自衛隊基地内特別来賓室へ訪れていた。
この三大国の中で一番大きな変化が起きたと言えば、エルフ族のアルフヘイム神聖国を含めた亜人族の国々だろう。
ーー
浮遊島リトーピアにて多くの国々が集う中、バーク共和国に代わる新しい列強国を決める会談が行われていた。いくつかの国を推薦するその他列強国、我こそはと自信満々に立候補する国々、そんな中、日本はその後釜として龍人族、獣人族、エルフ族、ドリアード族、水人族、ドワーフ族…計6ヶ国の亜人族国家を推薦した。
無論、その場にいた多くの国々からの様々な意見が出てきたが、6カ国を列強国にするなど到底無茶な話。
そこで日本が出した案はー
6カ国で1つの連合を創る。
ーであった。
これにも多くの国から反発の声があったが、現に低文明国家連合の様な存在もある事から不可能ではない。
そして、他4カ国の列強国からの賛成の意を受け、日本の推薦は受理された。
この時でも納得のいかない多くの国、中でも高度文明国家の多くが不満な表情を浮かべるが、新参者とは言え日本は列強国の一角。それに加え、他4カ国の列強国も賛成するとなれば反論する事など出来ない。
こうして6カ国の亜人族国家は各々の独立を保ちながら連合という名の1つの巨大組織として列強国に君臨する事となったのだ。
ーー
日本国の外務官舛添は数人の外務官らと共に特別来賓室で彼らを出迎えた。皆の表情には緊張が滲み出ている。
「本来であれば、外務大臣の安住氏が出迎えるのですが……」
「お気になさらないで下さい。突然、押し掛けて来たのは此方です。あなた方には何一つ非はございません」
ヴァルキア大帝国の外務大臣ヴェルガゾーラが長い銀髪を煌めかせながらも手を挙げて非がないことを伝える。
優しそうな糸目の美しい顔からは相変わらず、その真意が読めない。
対してサヘナンティス帝国の外交長官シェフトフはボサボサの髪に少しずれた眼鏡。そして、相変わらずの小汚い服装……は流石に不味いと思ったのか、服装はかなり綺麗なスーツに近いものを身に纏っていた。
「本当にありがとうございます。なにせこちらもかなり困惑した状況でしたから」
シェフトフはペコペコと頭を軽く下げながら苦笑いを向ける。フレンドリーさが滲み出るのは良いのだが、国の威信も背負うとも言える外交部のトップがこれで大丈夫なのか? と思いたくなるのだが、それはサヘナンティス側の問題である。
そして彼の言葉、『困惑した状況』と言う言葉に舛添は眉間に皺を寄せる。
「困惑した状況?……それは我が国にも関わる問題でもある、と?」
「然り」
ヴェルガゾーラが頷き答えた。
舛添に緊張が張り詰める。
「ここからは私が説明いたします。そもそも事の発端……というよりも第1の関係者は我々アルフヘイムなのですから」
エルフ族の聖王にして亜人国家連邦の外交部代表のウェンドゥイル・アルヴァーナが右手を胸に当てながら一礼し話を始めた。
「数日ほど前、第2世界からとある使者達が訪れて来ました。その者たちはかなりボロボロで、彼らが第2世界からきた使者と聞かなければ、オンボロの木船に漂う漂流者としか思えなかったでしょう」
「その使者達とは?」
訝しげな雰囲気で問い掛ける外交官に、アルヴァーナは一呼吸置いた後に答えた。
「異端国家群の使者達です」
「異端国家群……それはまさか」
「ええ。第2世界ではほぼ浸透しつつある宗教、メルエラ教に抗う組織の呼称です。レムリアを始めとした多くの国は彼らを殲滅すべき、忌避する存在として扱われています」
異端国家群。
メルエラ教を信仰せず、独自の信仰を重んじる国もしくは民族や種族が徒党を組んだ組織。
第2世界ではレムリア帝国を始め、多くの国々が彼らを忌避し、殲滅の対象と捉えている。
「その組織の使者が、こちら側へ?」
「そうです。しかし、彼らが目指していた国は我々ではありませんでした」
「では、彼らが向かう筈だった国は?」
「ニホン国です。異端国家群はニホン国を味方に引き入れたく、命辛々やってきたのです」
舛添ら外交官は互いに顔を見合わせる。その複雑な表情を3人が浮かべる中、舛添が口を開いた。
「えっと……それはつまり、我が国の武力を求めていると?」
三大国の代表者たちが一同に頷く。
舛添らは大きなため息を吐いた。
「これは……舛添さん」
「えぇ、参りました……他と全く同じ動機ですね」
「参るなんて事はありませんよ。いつも通り突き放せば良いだけの事です」
「まぁそうなるでしょう……先ずはその人達の話を聞く必要はあります。ここでは決めかねますので、最終的な判断は上に持っていく事になるでしょう」
日本の力を、威を借りたいと願う国は多い。
それは列強国となってからも減る事は殆どなく続いていたのだ。
ある国は武力を、ある国は技術を。
無論、日本政府としては応えるワケにはいかない。断固拒否の意を伝えていはいるが、性懲りも無く手土産を変えてはまたやって来るの繰り返しなのだ。
正直、キリがない。
「ニホン国としては毅然とした対応で断りの意を伝えるのは百も承知です。しかし、あのレムリアが相手となれば話は変わります」
ヴェルガゾーラが少しだけ目を開きこちらを見つめる。
外交官の1人が彼女の発言を聞き、ある話を思い出した。
「そう言えば、レムリアと貴国のヴァルキア大帝国は元は同じ世界から来たと」
彼の言葉にヴェルガゾーラは頷いた。
「確かに。我が国とレムリア共和国、いやレムリア帝国は元々は同じ世界に存在する国でした」
「つかぬ事をお伺いしますが、まだ多くの国々が貴国の事についてあまりにも無知な状況です」
「レムリアが相手となると話が変わる、というのであるならば我々はもっと親密な情報共有を図るべきなのでは?」
「マスゾエ氏やアルヴァーナ氏の言う通りです。ここは1つ、ヴェルガゾーラ氏」
日本国他二大国がヴェルガゾーラに返答を求めた。脅威と言うのなら、あの国の事を最もよく知るヴァルキア大帝国との緊密な情報共有が必要不可欠となってくる。
ヴァルキア大帝国は現在でもこの世界で一二を争う実力を誇る強大な国である。しかし、その歴史や国土、軍事力などは未だに謎が多い。
ヴェルガゾーラは暫く思考した後、小さな溜息を吐いて答えた。
「……我が国としては未だに他国に対し、開放的になる事に難色を示す声が多くあります。しかし、あの霧の壁が無くなってからはそれらを改める必要があると私は思います。これは私個人としての意見。最終的な決定は政府に委ねる事になります」
「それでも一向に構いません。真の脅威となる敵が現れるのであれば、そういった小さな変化でも大きな進歩です」
「しかし、その小さな一歩に対して向こう側が大きな一歩を踏み出した場合は……覚悟が必要ですよ」
褒めるような発言をするシェフトフに対し、アルヴァーナが少し辛辣な言を述べる。しかし、ヴェルガゾーラは不快感1つ表に出さず頷く。
「悠長な事なのは百も承知。しかし、この世界へ呼ばれた我が国の成り立ちも考慮して頂きたい」
ヴァルキア大帝国は30年前にこの世界へ転移してきた。しかし、そのファーストコンタクトは侵略の手であった。
当時からの圧倒的な軍事力で元列強国2つを手中に収めたヴァルキア大帝国はその後、鎖国に近い体制を維持しつつ列強国の名を冠するようになった。
30年はそこまで昔の出来事ではない。
年代によっては明確に覚えている者もいるだろう。
そんな彼らの気持ちを考慮すれば、他国に対して強い不信感を抱くのも納得出来る話である。
「近いうちに結果は出します。そしてもしあなた方にとって利となる結果が出た時はリトーピアで全てをお話しします。どうかその時まで……」
ヴェルガゾーラが皆に対し頭を下げた。
外交のトップが頭を下げる事は国が頭を下げるも同じ意味を持つ。そんなことを知らない彼女ではない分、驚愕に値する光景であった。
「そう言えば……ニホン国は何やら珍客を迎え入れていると聞きましたが……」
アルヴァーナの言葉に舛添が頷いた。
「はい。丁度これを機会に皆様にお伝えします。政府からも秘匿する必要は無いと判断したうえですので。吉田さん」
「はい」
同じ外交官の吉田が説明を始めた。
それは1ヶ月前に偶然、中ノ鳥半島沖合で航行していた奴隷船から救出したレムリア人の件である。
説明を聞き終えた三大国は驚愕の表情を浮かべる。特にヴェルガゾーラは目を見開いて驚いていた。
「な、何と……そのような事が!?」
「珍客とは聞いていたが、まさかそんな人物を保護していたとは!」
「なんだか頭が痛くなるよ」
吉田は懐から一枚の写真を見せる。
写っているのはその保護したレムリア人、ルインである。
「ほほう」
「肌が灰色ですね。やはりヴァルキア大帝国と同じ世界の」
「しかし些か灰色が濃い感じがしますな。ヴェルガゾーラ氏は勿論、私が見た中のヴァルキア人は皆肌が明るい灰色に近いんです」
皆が興味津々に写真を眺めながら、その写真に写っている青年のレムリア人とヴァルキア人であるヴェルガゾーラを見比べた。
シェフトフの言う通り、ヴァルキア人の肌は灰色ではあるが色は明るく、白に近い灰色と言った感じだ。そして明確な違いとして耳の長さが違う。
レムリア人の耳はエルフ族程ではないが、尖っている。対してヴァルキア人の耳は普通の形だ。
同じ世界でもこうも僅かな違いがあるものなのかと思うと、舛添らは少し感慨深くなる。
地球で言う目の彫りの深さや目の色のようなモノなのかも知れない。
3人は揃って椅子へ腰掛けると、シェフトフが口元を隠すように戸惑いながら問いかけた。
「そ、そのぉ……ニホン、は……彼を交渉の材料に、使う気は……ありますか?」
「交渉、ですか?」
「この子の出自や役職は不明ですし、彼の国が人命を軽んじてるかも分かりませんが……そうでないと場合なら、かなり利用価値はあるかな……と」
シェフトフの発言に少し驚いたヴェルガゾーラが苦笑いを向ける。
「まさか、貴方の口からそんな言葉を聞けるとは思いませんでした。しかし、彼の国がそういった交渉事に応じるとは思えません。却って危険でしょう」
「な、なぜそう言い切れるんです? 重役クラスなら様々な交渉材料にー」
「愚策です。レムリアの逆鱗に触れる可能性が高いですね。信者を救うために聖戦を仕掛ける事は明白。まだ実力が未知数の相手にその手はあまりにも危険です」
ヴェルガゾーラは強くハッキリとした口調でシェフトフの発言を制止させる。シェフトフは頭をポリポリと掻きながら「それは確かに」と呟いた。
「とりあえず、先ずはその異端国家群の使者達の話を聞くべきでしょう。今彼らは我が国の医療施設で療養中です」
「分かりました、アルヴァーナ氏。では近々、日本国政府の外交官らがアルフヘイム神聖国へ訪問致します。そこで彼らの話を聞くことにしましょう。詳しい日程などについて後日、其方の自衛隊基地を通し連絡致します」
「分かりました。その時はどうぞよろしくお願いします」
アルヴァーナと舛添は互いに頭を下げて後日の訪問を約束する。ヴェルガゾーラも少しだけホッとしたのか安堵のため息を吐いた。
(第2世界の使者が来る事は予想していたけど……まさか、レムリアの人間がニホン国に保護されていたのは予想外だったわ。それにしても、ニホンがその保護したレムリア人をダシに何かを仕掛けなくて良かった。あの国と戦うなら、出来るだけ多くの国と協力する必要があるもの。その為にも国内の準鎖国派の連中を説得しなければ……もう時間がない)
一方、シェフトフはヴェルガゾーラとは違って安堵の溜息を吐いた。
(ふぅ……とりあえず、ニホンは他の国と違って保護したレムリア人をどうこう扱う事はなさそうだな。それにしても皇帝陛下も人が悪い……『ニホン国の真意を掴んでこい』だなんて。まぁでも、真意は掴めたかな。第2世界に対しても、ニホン国は愚者ではなかった。これは大きな収穫かな)
こうして三大国との緊急会談は無事に終えた。
日本は大きな世界の変動の渦に飛び込もうとしていた。しかし、それは他の列強国、そしてレムリア帝国も同じだった。
懐かしき国々も登場する予定です。
「あれ?こんな国いたっけ?」
と思った方はどうぞ振り返ってみて下さい。
私も振り返ります…




