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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第8章 接触編その2
125/161

第120話 訪れた機会

溜めてた分を出していきます。

 ーー

 某低文明国家

 某街

 ーー


 薄暗く、狭く、不衛生な荷台。

 周りには自分と同じような人物ばかりでオンボロの布切れ一枚羽織るだけだった。


 ガタガタと荷台は酷く揺れる。時折、囲っている鉄格子へ頭をぶつけてしまうが、そんな事はどうでも良い。


 今問題なのは、これから自分はどうなってしまうのかだ。



(なんでこんな事に……あぉ、偉大なる神メルエラよ…どうか御加護を)


 彼ーーレムリア帝国聖典省聖官ルイン・レ・アルシェラは肩を震わせ自らが信仰する神を祈った。



 ーー

 ー

 時は数日前まで遡る。


 レムリア帝国の聖教使節団の1人として、とある低文明国家へ訪れていたルインは、その国の高官達主導のもと布教活動を進めていた。


 少しでも未知の世界の国と関係を持ちたいのか、この国の王は嬉々として彼らの活動を容認した。


 ルインとしては宗教の教え、そしてその救いには国境や世界など関係無いのだという少し勘違いも甚だしい思いを抱いていた。


 初めは少人数しか自分たちの言葉に耳を貸さなかったが、日数が経つにつれ、彼らの教えに興味を抱く者が増えつつあった。このまま布教活動が上手くいけば、この国も正式に聖国連の一国となるだろう。


 そうやってメルエラ教は広まり、やがて世界は尊い教えの元で1つとなる。


 彼の心にはそんな希望の光が差し込んでいた。


 しかし、彼は世の中の恐ろしさへの認識が甘かった。


 その日の布教活動を終えようとしていたとき、とある男に話しかけられたのだ。



 ーーどうか、御内密に貴方とお話を。貴方様が語るメルエラ教の教えを……病弱な我が子にぜひ!



 ルインに迷いはなかった。


 病に苦しむ子が我らの神の救いを求めている。


 しかし、その子が居るところは布教活動の指定範囲外であった。それでもルインは救いを求める子を放ってはおけないと護衛や同じ聖官達の目を盗んで、コッソリと彼が指定した場所へと訪れた。


 小汚くて薄暗い裏路地。


 先程話しかけてきた男の姿は……見当たらない。


 次の瞬間ーー



「バカだぜ、アンタ」



 頭部に強い衝撃が走る。

 視界がボヤけ、遂には暗闇が覆った。


 彼は意識を失った。




「へへへ、霧の壁から来た異種族だ……しかも上玉! 高く売れるゾォ!」





 ーー

 ー


 現在に至る。


 あれから暫く経ち、人気の無い岬へと辿り着いた。物でも扱うように乱暴に荷台から降ろされると、今度は岬に泊めていた大きな帆船の中へと詰め込まれた。周りには自分と同じような人たちが大勢いた。

 手足に枷をかけられた商品達だ。


 今、彼は海の上を漂っている。


 恐らく、自国へ戻る事は絶望的だろう。


 自分が出来ることは、ただ祈りを捧げ続ける事のみだった。



「天にまします我らが主よ。唯一神メルエラよ。どうか哀れなる信徒をあらゆる災いからお護り下さい。あぁ、主よ。慈悲深き主よー」


「んな事やったってだれも救われねぇよ」



 突如、薄暗い部屋の中から呆れたような声が聞こえてきた。



「神様が助けてくれるだぁ? くだらねー」


「どうせ誰も助からないよ」


「諦めるのが1番さ」


「はぁ……あの時、夫の言葉に従うべきだったわ。もっと早くに帰るべきだった、うぅ」




 諦めの境地とも言える言葉が彼方此方から聞こえてくる。ルインは構わず祈りを捧げ続けるが、自身の祈りの声よりも周りの声が段々と大きくなるように感じつつあった。


 そして最早周りの声しか聞こえなくなった。


 気が付けば祈りをやめて、両耳を手で塞いで蹲っていた。



「やめて下さい……もう、もうやめて下さい!」



 思わず大声を出してしまった。


 しかし、それで周りの声がシーンッと止まる事にもなった。聞こえなくなった事でホッとしているのも束の間。


 唯一の出入り口のドアが勢いよく開けられると、ずんぐりとした大男とその取り巻きと思われる男2人が入ってきた。


 その取り巻きの1人はよく見ると、あの時自分を騙した男だった。



「ウルセェぞ、糞虫どもがァ! このまま海に放り込まれたいかぁ!?」



 大男の怒鳴り声がビリビリと耳に響いた。周りの人たちは皆ビクビクと怯えて蹲っている。



「大声を出した糞虫は……お前かぁ?」



 大男と目が合った。その顔は卑しくて醜い豚をそのまま写した様な顔だった。

 そんな醜い男が自分のすぐ目の前まで歩み寄ってきたのだ。


 大男が彼の髪を乱暴に引っ張り上げる。髪で隠れていた自分の顔が露わになると、まるで舐め回すかのようにジロジロと見てきた。


 それだけでもかなりの嫌悪感を抱いた。



「ほっほ〜こりゃあ見た事ねぇ種族だなぁ。希少種の亜人かな? まぁとにかく、かなりの上玉だなぁ〜。しかも男ってのが余計に唆られるじゃねぇか! おいお前ら、コイツを押えろ!」



 いきなり唾を飛ばしながら興奮し始めた大男は、部下に彼を押さえつけるよう命令した。彼は上から乱暴に押さえつけられた後、髪を掴まれ無理やり頭を起こされた。



「く、口をぉ〜開けさせろぉ〜」



 部下達が彼の口を無理やり開けさせようとしてきた。そして、大男はズボンの止め紐を不器用な手つきで解こうとしている。


 その瞬間、大男が何をしようとしているのかを理解してしまった。



「や、やめろぉ! 頼むやめてくれ!」


「うるせぇぞ!」



 必死に抵抗するが2人の男からの容赦ない拳が振り下ろされた。慣れない痛みのあまり抵抗する気力はすぐに無くなってしまう。



「おいおい、商品に傷つけるんじゃねぇよ。でも……コレ(・・)くらいならいいよねぇ? 後でちゃ〜んと濯げばいいんだからねぇ?」



 遂に大男のズボンが降ろされようとしている。


 再び体を動かして抵抗するが、直ぐに押さえられてしまう。


 ルインは心の奥底で助けを請うたのは自らの神ではなく、姉だった。



(た、助けて、姉さん!)


「か、か、か、頭ァァ!!」



 慌てた様子で部下の1人が転がりながら降りてきた。突如、ただならぬ雰囲気で現れた部下に大男は行為をやめて部下に何事かと声を掛けた。



「に、ニホン国です! ニホン国の『鋼鉄の怪鳥』が現れました!」


「な、なんだと!? ここはドム大陸からかなり離れているはずだ! 何故見つかった!?」


「分かりません……ただこの船の周りをグルグルと周ってるんでさぁ。何処にも逃げられません!」


「さ、さっさと撃ち落としてしまえ! バリスタがあるだろうが!」


「あんな速いの撃ち落とせるワケありませんよ! しかもかなりの高度で、よ、翼龍以上のー」


『そこの不審船に告ぐ! ただちに帆を畳み、停船しなさい! 繰り返す……ただちに停船しなさい!』



 大型帆船の中深くまで響き渡る声に思わず耳を塞いでしまう。明らかに大男達は酷く動揺しているのが分かる。



「く、クソ! ズラかるぞ!」


「「へ、へい!」」


「頭、コイツらはどうしまー」


「知るかァ! ほっとけ! ちっくしょう! もうすぐで俺も億万長者だったのにヨォ!!」



 大男達は我先に部屋を出て行ってしまった。


 残された奴隷達は呆然と眺めるだけだった。

 自分たちはどうなるのだろうと考えていると、すぐに上からドタドタと複数人が船内を走る音が聞こえて来た。


 恐らくさっきの大男達だろう、と思っていると突然、怒声や悲鳴が聞こえてきた。



「うわぁぁぁ!」


「な、なんだテメェら!」


「来いよこのやー」



 ドン! ドンドン!


 ドン! ドン!



 突如聞こえてきた発砲音。

 ルインも含め奴隷達は悲鳴を上げて身を縮こまらせた。


 そして、大男達の怒声が止んだ。


 代わりに聞こえて来るのは数人の足音。


 間違いなく大男達を無力化させた連中の足音だ。その足音が此方へ近づいて来る。


 すると、ルインの身体全身から恐怖心がドッと溢れ出てきた。



(こ、殺される……殺される、殺される!?)



 頭を抱え込むように蹲る。

 全身の震えが止まらない。


 何の躊躇もなく引き金を引いた連中が此処へ来て、もしこの場にいる者たちすべてを殺しに来たのだとしたら……そう考えただけで死の恐怖が自分を押し潰そうとしてくる。



(嫌だ、死にたくない……死にたくない! 僕は、僕はまだやり残した事がある………生きたい!)



 扉がゆっくりと開く。


 勇気を振り絞って、指の隙間からその連中を覗き見た。


 真っ先に目に移ったのは光だ。


 船底部のこの部屋に陽の光が入る事などあり得ない。ランタンの灯りでもここまで眩くはない。これは携帯型の魔導電灯だと理解した。


 その光が複数存在し、ユラユラと動いている。その光の数だけの人数がいるのだろう。


 薄ら暗い部屋である為ハッキリとは分からないが、恐らく個々が持つ電灯は銃らしき物に装着していると思われた。



(アレが……ニホン……軍?)



 散開し警戒しつつ、彼らは辺りを探索し始めた。

 ひとりひとりの距離が近過ぎず、しかし遠過ぎない一定の距離を保ちながら移動する光景は洗練された兵そのものだった。何があってもすぐに対処可能な間隔を常に空けている。


 表情……顔は全然見えなかった。

 いや、見れなかった。


 顔全体を覆う変わった形のマスクを嵌めていた。口元は歪な形をしており、目の部分はまるで甲虫類の様に大きい。


 一通り確認し終えた後、何やら手で他の仲間にサインを送った。



「オールクリア。これより民間人の保護に移る」


「「了解」」



『此方ニ班、人身売買に於ける物的証拠類を確認』


『此方三班。主犯格含めた5名を巡視船へ連行完了。内2名は非殺傷弾(ゴム弾)による肋骨部の骨折あり』


「此方一班、了解。此方も民間人を見つけた。これより保護する。その2名は医療班へ回せ」



 その後、彼らは捕まっていた人たち一人一人を丁寧に上へと連れていった。最早歩く力すらないものには担架を使って運び込んでいた。



(あぁ、これは救いだ。神の救いなのだ。私の祈りが通じたのだ)



 皆が次々と上へ運ばれる中1人が近づいて来た。

 私は希望を徐々に取り戻しつつあった表情で手を伸ばした。


 するとその人物は優しく手を握ってくれた。


 が、近付いて初めて気付いた。

 その人物は人ではなかった(・・・・・・・)



『お怪我はありませんか? 歩けますか?』



 優しくも人とは違う何処か人工的な声が耳に入ってくる。あまりにも人間地味た自然な動きに全く気が付かなかった。


 それは人型の機械だった。


 自国にも自動人形(オートマ)がいるが、それよりも遥かに精密かつ精巧なそれは、まるで別のものに見えた。


 その衝撃から私の意識は遠い世界へと旅立ってしまった。






 ーー

 ー


(あれ? ここは……何故だろう。とても心地良くて……暖かい)



 気絶していたルインは徐々に意識を取り戻した。まだあまり鮮明とは言えないが、それでも周りの景色を視認できる位にまでは戻っていた。


 目だけを動かし周りを見渡す。



 広く、そして白い空間だ。

 孤独感や閉塞感は無い。


 開かれた窓からは心地よいそよ風が入り、純白なカーテンがヒラヒラと靡いている。


 壁、天井、床も白だ。


 それから自分が今ベッドで横になっている事に気付いた。


 ベッドすら清潔感が溢れるほどの白だ。

 普段自分が使っているベッドなど比べ物にならない。



(私は……天国へ来てしまったのか?)



 そう捉えたルインは心からの安心感と幸福感から再び目を閉じて2、3度深呼吸をした。が、直ぐに何かを思い出しカッと目を開く。



(だ、ダメだ! 私には、私には世界をメルエラ教で1つにするその架け橋となる存在に……姉のような偉大な存在になる為にも!)


「まだ死ねないんだァ!」



 声を張り上げ勢い良く体を起こした。

 ゼェゼェと息が上がる。気が付けば身体中汗ばんでいた。


 すると、天井から女性の声が聞こえて来た。



『急激な血圧の上昇を確認。ただ今スタッフが参ります』



 仕組みは不明だがどうやら自分は監視されているのだと気付いた。今までの安心感が嘘のように一気に周りに対する警戒心が跳ね上がる。



(見たところ此処は医療施設のようだ。この清潔感から野戦病院とは違う、正規の医療施設だろう。確か自分はあの時船で、うーん)



 此処が医療施設である事は恐らく間違いはないだろう。


 しかし、なぜ自分が此処にいるのか。


 ルインは眉を顰めながら必死に此処へ来るまでの経緯を思い出そうとする。ぼんやりとだが少しずつ思い出して来た。



(そうだ……奴隷狩りにあって、船に乗せられて……それからー)



 コンコンッ


 ノックの後に部屋のドアが開かれた。


 思わずビクッと身体を跳ねてしまったが、入って来た人物を見て少しだけホッとした。



「失礼しま……あ! 目を覚ましたんですね!」



 入って来たのは白衣を纏った女性だ。

 恐らく看護婦だ、とルインは心の中で頷いた。


 自国の看護婦とは少し違うが、それでも医療従事者である事は間違いないと受け止めた。


 しかし、その後から入って来たモノに思わずギョッとした。



『バイタル正常値まで戻りました。お加減はいかがですか?』



 優しい機械的な声で話しかけて来たのは、真白く丸みを帯びた滑らかな甲冑を付けたような人型の機械が現れた。そのボディのラインから女性に似せて造ったのだろうが余計に衝撃的だった。



「は、はい……お陰様で」



 緊張からかそれだけ答えるので精一杯だった。


 本当ならもっと色んな事を聞きたかったのだが、心と頭が整理出来ずに当たり障りない返事しか出来なかった。


 何とか頭を整理させて看護婦に問い掛けようとするが、それよりも前に看護婦がニッコリと笑って口を開いた。



「今、先生をお呼びします。少々お待ち下さい」



 看護婦が軽く頭を下げた後、白い機械人形も後に続こうとした時、また3人が部屋へ入って来た。


 しかし、彼らが身に付けているのは黒いスーツ。看護婦の様子から医師ではない事は間違いない。


 何やら看護婦に耳打ちをした後、看護婦は小さく頷いてその場を後にした。


 残ったの自分と3人の黒スーツの男性だけだ。



「お疲れのところ申し訳御座いません。私は日本国外務官の(はら)と申します。後ろの2人はー」



 ニホン国の外務官。


 その言葉を聞いたルインは絶句した。


 ハッキリと思い出したのだ。


 あの船の出来事を。


 そして此処は未知の国……ニホン国。


 自分は今ニホンにいるのだ、と。



「此方をお返しいたします」



 ハッと我に返ると原と名乗った外務官は後ろの男の1人が持っていた袋を受け取り、それを自分へと丁寧に手渡して来た。



「あの船の中にあった民間人の所持品の中から見つけました。残ったのがコレだけでしたので、消去法で貴方の荷物と思われましたが……もし何か違かった、もしくは足りないなどと言うなどがありましたら遠慮なく言ってください」



 ルインは恐る恐る袋の中身を確かめた。


 そこには間違い無く自分があの奴隷商人達に奪われた衣服やロザリアなどの物品一式だった。


 全てある。

 その事に心の底からホッとした。



「あ、ありがとう、ございます。ちゃんと、あります」


「それはそれは……良かったです」



 原は笑顔で返し、部屋が少しだけ和んだ様な空気に包まれた。が、それも原の表情が真剣なものになった事で一変した。


 ルインは彼のその変化に身が強張る。



「貴方のそのロザリア……調べました。レムリア帝国の国教、メルエラ教の教紋らしいですね」


「は、はい」


「警戒しないで下さい……と言っても無理だとは思います。でも信じて下さい。我々は貴方を傷付けたりする事は決してありません。目処が立てば貴方の国へ送り帰しましょう。しかしその間、貴方には色々とお伺いたい事があるですが、よろしいですか?」



 緊張のあまり唾を飲み込んだ。


 この状況下では自分に拒否権はない。


 もしかしたら、自分は最悪の結果を覚悟しなければならない。


 ルインは頷きたくはない首を縦に振った。







 ーー

 レムリア帝国(第二帝国)

 神都内 ハルドロク魔導科学技術開発局

 6番実験用格納庫

 ーー


 レムリア帝国神都の中でも外れの場所にある研究開発所は国により運営管理されている。


 研究所内では飛空艇などを始めとした武器兵器類、魔法などのあらゆる部門を請け負って日夜様々な研究を続けている。


 前大統領の政権下では訳あって大した成果をあげる事が出来なかったが、現皇帝へと変わってからはその成果は凄まじく、一年という短時間で多くの魔導科学の発展に貢献し、レムリアをより偉大な国へと発展させた。


 故にそのセキュリティは大聖城などを除けば帝国屈指の超厳重レベルで、ハルドロク魔導科学技術開発局局長のDr.スヴェンが許可した部外者以外は一切の立ち入りを禁止している。それどころか半径5㎞以内の立ち入りすら認められていない。


 ある意味此処は帝国の心臓部と言っても過言ではない。


 寧ろこの位の厳戒態勢が当然であろう。


 そんな開発局施設内で様々な実験を目的とした特殊格納庫が多数設置されている。


 その中の1つ。

 6番実験用格納庫。


 此処では主に戦闘機のエンジン及び武装関連の実験を行っていた。


 汚れた作業服を着た工作員と実験で得たデータを分析する白いコートを着た研究者があちこちでチームとして動き回っている。


 様々な形状の複雑な機械が斜めに整列している。機械を繋ぐ無数のチューブ、火花を散らしながら数人の工作員が手を加え、ドッチボールほどの縦長のひし形をした青色の魔鉱石が組み込まれた機械が煙をあげながらピストンが作動する。


 小さな魔鉱石が入った大きな透明カプセル。繋がれたら多数のコードが1つ端末に接続され、作動させると中の魔鉱石が激しい輝きを放つ。

 見ただけで大きなエネルギーがカプセル内で蠢いているのが分かる。工作員達はその機械を見守り、研究員達は端末の画面を眺めデータを取っている。


 リング状の大きな機械が緻密な機械の台座の上で浮かんでいた。その真上には球体型の大きな魔鉱石が設置されていた。

 周りにはリングの四方八方から突きつけるようにアンテナの先端が向けられる。工作員がレバーを引くと真上の魔鉱石が輝き出した。するとリング状の機械の内面が青く光り始めた。その光はリングの内側を速過ぎず、遅過ぎずにリングを沿う様に回り始めた。

 研究員達はマジマジと端末画面へ視線を向ける。


 更には機銃の試し撃ちや何かの部品の格納システムの確認など、すべてを上げるにはキリがないほどだ。この6番実験用格納庫だけでもコレなのだ。

 そんな格納庫が多数存在している。


 故にハルドロク魔導科学技術開発局は広大な敷地面積を誇るのだ。



「よーし。次は7号魔高炉へNo.52463の魔鉱石をセットしろ。最新鋭魔導動力器の耐久性チェックだ。今日は数値を6000まで上げるぞ」


「「了解」」



 何時もと変わらない様子で実験を行っている職員達。そんな彼らの元へひとりの男が現れた。



「おぉ、皆励んでいるようだな。」


「「局長!」」



 魔導科学省長官兼ハルドロク魔導科学技術開発局局長のルシッド・タブラン・スヴェンが視察に訪れていた。


 職員達は敬礼を送るがDr.スヴェンは手を軽くあげてそれを制止させる。



「やめんか、堅苦しい。構わず続けよ」


「分かりました」



 職員達は実験を再開した。

 Dr.スヴェンは少しその様子を眺めた後、踵を返した。


 道行く職員達からの挨拶を受け、軽く返事をしつつ向かった先は局長を含めた極限られた職員しか入る事が許されない場所だった。


 厳重な鉄製の扉には魔法文字が浮き出ている。


 これは防衛システムの一種で許可が出ていないものがこの扉に触れると超高圧の電流が流れる仕組みになっている。


 Dr.スヴェンは扉の端に備えられた認証画面に手をかざした。すると、先ほどまで浮き出ていた魔法文字が消えて、独りでに扉が開き始めた。


 彼は何食わぬ顔で扉をくぐり進んで行った。


 暫く進むと円形の少し広い空間へと出た。

 彼はその中央部へ進むと、中央部の床から嵌め込まれていた水晶が浮かんで出てきた。


 その水晶は彼の胸位の高さで止まると、Dr.スヴェンはその水晶へ手を乗せ、滑らかな動きで器用に操作した。


 すると、円形の床が動き始めた。


 円形の床は地下の奥底へゆっくりと降り始めた。長い時間、降りた先には大きな空間が広がっていた。


 Dr.スヴェンが一歩中へ入ると、天井の照明が一斉に点灯し始めた。


 そこには13機の小型飛空艇がズラリと鎮座していた。


 無駄がない滑らかなフォルムは空気抵抗を極限まで減らしたもので、その姿形はトビウオに近いものだった。緑色に光る塗装。レムリア帝国の紋章と流星と剣を交差させた紋章が左右に1つずつその装甲に刻まれている。



 この13機こそレムリア帝国の技術の結晶たる奥の手の内の1つ。


 超最新鋭戦闘機

 聖騎士団(クルセイダーズ)


 機首8㎜機銃が2門。

 主翼根元11㎜機銃2門。

 主翼下部空対空ミサイル4基搭載




「この絢爛たる私の最高傑作たち。どうだ! 同志よ! 最高速度は音を優に超える! 誰が追い付けようか! 誰が敵うと言うのか!」


「全くもってその通りだな、Dr.スヴェン」



 1人の人影が戦闘機の陰から現れた。その人物は彼の言葉に同調の意を示しながら彼の元へ歩み寄る。



「おぉ、友よ」


「Dr.スヴェン。これらの量産体制は可能か?」



 現れた男は皇帝ルデグネスである。


 彼はDr.スヴェンの肩へ手を置くと穏やかな目で問い掛ける。



「今すぐは難しいだろうな。後5年……いや、3年で何とかなるかもしれんが」


「この音を超える速さ……具体的にはどの程度だ?」


「音速2.0と言ったところかな。実験の過程では最高速度は2.5までは出たが、2.2を超えた辺りから機体がそのスピードに耐え切れずに破損する傾向が見られた。機体の耐久性向上の研究開発を進めてはいるが、あまり目覚ましい成果は出ていないのだよ、全く。パイロットの負担や戦闘機としての実用性を考慮した結果、2.0がベストという結論に至った」



 皇帝は心底悔しそうに口にする彼を慰めるように肩をポンポンと叩く。



「気に病むな。最新鋭戦闘機の開発を進めてから僅か6年でここまでの成果だ。主要戦闘機として配備されている機体すら音速1.0だ。更に1.0も向上させたのは流石と言うほかない。私ですら音を超えられ世界が拓けただけで到達点と一時期は考えていたのだ。その更に上へ上へと可能性を広げた君を、心の底から尊敬する」


「ふふふ、世辞でもそこまで言われたら流石に歯痒いな。ありがとう友よ。そして約束しよう。必ず私は更なる向上を成し遂げよう」


「血が滾るか?」


「勿論だとも。研究者として、開発者として、疼いてくるよ」



 欲望に更なる技術の発展に対する強い探究心が宿った瞳がギラギラと輝いていた。他の研究者達には無い、魔導科学の深淵に触れたいと願う者の目はある意味恐怖すら感じる。


 しかし、だからこそ皇帝は彼を気に入っているのだ。彼はこの国、否この世界に無くてはならない存在なのだ。



「ところでDr.スヴェン。少しばかりマズイことが分かったのだが……聞いてくれるか?」


「ん? ここでか? 不味いことなら同志たちも集めた方が良いでは」


「分かってる。だが、お前と相談して、彼女の対応について少しだけ打ち合わせしたいと思ってな」


「彼女? アルシェラか?」



 皇帝は苦笑いを浮かべる。

 どうやら当たった、と受け止めたDr.スヴェンは皇帝が何を伝えたいのか何となく理解した。



「なるほど。彼女の弟の件か? 亡くなったのか? ならば、発狂することは間違いないだろう。そうなると……」


「いや違う」


「ん?」


「……聖国連の三大国の1つ、ガルマ帝国からついさっき連絡があってな。オワリノ国の使者が来らしいんだ」


「ほう、異端国家が何をー」


「彼女の弟、ルインが見つかった。場所は……あのニホン国だ。どうやら彼は奴隷商人達に捕まってしまった後、偶然ニホン国が彼を助けたらしい。それで今彼はニホン国に保護されている」



 Dr.スヴェンは驚愕した。

 まさかこの様な偶然が起きるとは思いもしなかったのだ。

 行方不明の彼が見つかった事は良いことだ。

 だが彼を保護してくれのが今現在我が国がヴァルキア大帝国と同じく警戒している謎の転移国家、ニホン。



「彼女は間違い無くニホン国へ向けて出立をするつもりだろう。道中の安全確保など気にも留めずにな。それを抑えるための算段を考えて欲しい」


「なるほど、理解した。しかし……ニホン国か。その国がこれを機に何かよからぬ、こちらを脅すような交渉ごとをしてこないとは限らん。まさかこの様な形で、それもこんな早い段階で彼の国と接点を持つことになるとは」


「うむ。私も少し困惑しているが、ある意味これはチャンスだとも思っている」



 Dr.スヴェンは彼の言葉を聞いて、その意味が理解できた。が、内心複雑なだと言わんばかりの表情を隠さずに表す。



「些か……強引な気もするが、本気か?」


「なに、気長にやるつもりだ。あの国を知る良い機会だ。存分に調べさせて貰うさ。それに上手くことが進めばその国も無血で聖教化が出来るやもしれん」


「ふむ、それはそうだが……やれやれ、彼女の対応に苦労しそうだなぁ」



 Dr.スヴェンは肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。皇帝は同意を得たと受け止めてニヤリと微笑した。



「先ずは使節団を送るぞ。外務省と聖典省から異端国家相手でも良識ある者達(・・・・・・)を選ぶぞ。選別は……ザムレスに任せれば安心だな」



 皇帝はチャンスとも取れるこの機会を逃すまいと、早速手を打つ算段を立て始めた。


 全ては我が国の栄光のために。

次の話からはレムリア側の主観キャラをだしていく予定です。

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