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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第8章 接触編その2
124/161

第119話 巡り合わせ?

遅くなりました。


今回はある程度、レムリア帝国に関する事が分かるようになってます。


え?…と思うところも多々あるともいますが、今後とも宜しくお願いしますm(_ _)m

 帝国御前会議から数時間後……レムリア帝国(第二帝国)初代皇帝バークリッド・エンラ・ルデグネスは、神都で一番巨大な建物にして、この国の象徴とも言える建造物が一つ…大聖城エル・ディオスにある皇帝書斎室に篭っていた。

 精巧に造られた大きめのデスクで黙々と報告書に目を通し、印を押し、サインの記載を行う。


 デスクの後は神都を一望出来る、壁一面が大きく開かれたガラス張り。

 読解が難しい本や書類が一杯に詰められた天井まで届くほどの本棚がズラリと並ぶ。


 棚と棚との間に空いている空間には申し訳程度に置かれた観賞する為の銅像や絵画などが置かれている。



(出来る事なら……綺麗さっぱりにして、落ち着ける空間が欲しいところだが、それが出来ないのも皇帝になる上では必要な犠牲か)



 これらは彼の趣味でも何でもない。


 偉人か何かの肖像画、よく分からない紋様が入った壺、何を表したのか不明な絵画。


 鑑識眼を持つものなら一級品と分かるだろうが、生憎と皇帝にはそのようなモノは持ち合わせていない。


 全くもって邪魔でしかない。


 自分が皇帝という地位に就いているため、飾ってあるだけなのだ。彼個人としては、本当に必要なものだけが置かれた余計なものなどが一切ない静かな雰囲気の部屋が好みだ。

 しかし皇帝であり続ける以上、この国のトップに君臨する以上、自身に付き従う者や相手への威厳や格をアピールする為にも趣味には合わない、多少豪華なモノで飾らなければならないのだ。


 最初こそ落ち着ける空間では無かったが、一年もここで仕事をこなし続ければ意外と慣れるものだった。


 今ではそんなに気にもせず仕事をこなすことが出来ている。



(慣れというのは怖いものだ)



 そんな事を考えながらドアの右横に佇むメイドへ目を向ける。


 今日の書斎室当番メイドは数時間もその場にふらつく事なく佇んでいる。いつ如何なる時でも皇帝陛下のお世話が出来るようにする為に。


 皇帝は「疲れないのか?」と思いながらも口には出さず、直ぐに視線をデスクの上に置かれた書類へ戻した。



 ジリリリ! ジリリリ!



 デスクの片隅に置かれた専用の固定電話が鳴った。

 その音に直ぐ様反応したメイドはいつでも命令に対応出来るよう視線を向けて来る。


 そんな真面目で優秀なメイドが多数仕えている事を心強く思いながら受話器を手に取った。



「私だ……あぁ分かった、此処へ案内してくれ」



 報告を受けた皇帝は受話器を静かに戻した。そして、ドア横に立っていたメイドへ指示を送る。



「5分後にスヴェンが来る」


「かしこまりました」



 それだけ伝えると、メイドは恭しく頭を下げた。今のうちに皇帝はデスクの書類の整理を始める。元々几帳面であったこともあり、Dr.スヴェンがドアの前まで来る頃には整理は終わっていた。



 コンコンッ



 ドアがノックされる。メイドはドアを少しだけ開き、ドアの向こうにいる人物を確認すると一度をドアを閉めてから皇帝に報告する。



「陛下、魔導科学省のスヴェン長官がお見えになられました」


「分かった、入れろ」


「かしこまりました」



 メイドが恭しく頭を下げ、ドアをゆっくりと開けた。ドアの向こう側には両の手を後ろに組んだDr.スヴェンが立っていた。スヴェンはデスクの前に佇む皇帝を確認すると、僅かに片方の口角を上げながら歩み寄る。



「すまないが、暫くは席を外しててもらえるか? 用がある時に呼ぶ」


「かしこまりました」



 皇帝からの命令を受けたメイドは、スヴェンと入れ替わるように退室する。



「この部屋も随分と殺風景になったものだな。お父上殿がご存命の時はもっと煌びやかな部屋だったというのに」



 とても国のトップ、否、第2世界のトップと言っても過言ではない者に対する言葉遣いとは思えない。しかし、皇帝は彼の言動に対して微塵も不快感を抱かない。



「あの部屋は好かん。邪魔なものばかりだ。今だってそうだ。邪魔なものが多くて敵わん。最初と比べれば幾分かマシだが、それでも落ち着ける空間かと聞かれれば首を横に振るだろう」


「ハハハッ、随分と欲のない皇帝だ」


「欲が無いだと? フッ、それは違うな」


「むぅ?」



 軽い口調の会話をする両者は地位や権力の垣根を超えた親友同士である。故に、他者がいない場であればこのように当たり障りのない会話が出来る。


 スヴェンは相変わらずの身なりだが、皇帝はそれを気にするわけでも無く、部屋の一角に備えてある応接間へと促した。


 L字型に並ぶソファとテーブル。スヴェンは適当な場所へ腰を下ろす。その近くには無数の酒瓶ご置かれた棚とワインセラーがあった。



「何か飲むか? さて何があったか……おぉ、これがあったな。あぁスヴェン、すまんがそこの棚からグラスをいくつか持ってきてくれないか?」


「勿論、皇帝陛下のお望みとあらば」



 皇帝はワインセラーから一本のボトルを手に取り、ソファへと腰掛ける。二つのグラスが両者の前へ置かれると、皇帝はスヴェンへ持っていたボトルを投げ渡した。


 ボトルを受け取ったスヴェンはそれを見て驚いた。



「ほぅ! 20年モノの『ヴォン・ジョーレ』か。流石は皇帝。そのへんの国議員では手に入らん代物だ」


「わかった、わかった。早く飲もう」



 スヴェンがボトルのコルクを抜き、グラスへとワインを注いだ。その瞬間、芳醇な香りが2人を包み込む。部屋の明かりに照らされたグラスにワインが反射し、ルビーの如き美しい宝石の輝きとなる。


 2人は同時にワインをクッと口の中へ運ぶ。


 その瞬間、口の中に広がる見事なまでの、純粋無垢な葡萄果実の味わい。と同時に浮かぶ無数の美しい花々。その香りが口と、鼻腔一杯に満たされる。滑らかで、上質で、糖度と酸味が見事にバランスを取り合っている。


 口の中へ含んだワインを存分に楽しんだ後、2人は飲み込んだ。その後から最後の一撃とばかりに鼻腔を擽るワインの香り。


 思わず深いため息が出てしまう。



「美術品には興味はないが、酒の良し悪しは分かってるつもりだ。ふふ……見事なものだな」


「あぁ、美味い」



 2人はグラスを一度テーブルへ置いた。

 皇帝はソファの上で頬杖を付けて横になる。



「なぁスヴェン、お前はさっき私は欲が無い……といったな?」


「んん? あぁ、確かに言ったな」


「それは間違いだ。私は誰よりも強欲な皇帝だ」


「ほぅ、例えば?」


「資源、領土、労働力、資金、 武器兵器、人材、魔導科学技術……全てを欲している。現に異端国家(ヘリジア)を3つ、私が皇帝となった後に潰して聖教化している。その際、その国の民達のものは全て聖国連、もとい我が国の管轄下だ。無論、自治領としては認めているがな。軍事力は撤廃させ、聖国連軍で治安維持に対処させる。メルエラ教を国教とさせ、聖教育を徹底させる」




 ーー


 レムリア帝国を主軸とする聖国連は、メルエラ教を主教とする国際連合組織である。しかし、連合組織とは名ばかりで、事実上はレムリア帝国の属国だ。


 500年前にこの世界へ転移してきた強大な宗教国家レムリア帝国。当時は共和国であったが、

 転移当初は周辺国へ使者団を送り、友好関係と物資の供給を願い出た。


 しかし、当時のレムリアは周辺国に恵まれなかった。


 送り出した使者団は惨殺遺体と化して送り返され、多くの国々が新たに発見された未開国へ向けて侵攻軍を送り出してきたのだ。


 そして、返り討ちにした。


 侵略するつもりだった当時の周辺諸国は逆に侵略を受ける事となったのだ。

 圧倒的軍事力と文明力に恐れをなし、心が折れた周辺諸国は以降従順な属国と化した。

 レムリアは野蛮な蛮族国家への償いと正しき道へ導く為、メルエラ教の教えを広める聖教化を始めた。初めこそは抵抗力が強かった。


 しかし、今では最初に聖教化を受けた当時の周辺諸国は完全なメルエラ教を主教とする国と化し、属国ではなくレムリア帝国の一部と化している。


 最悪のコンタクトでスタートしたレムリアは学んだ。


 孤立無援の世界で生き抜く為には『力』そして『行動力』。そして、絶対にして唯一無二の神であり導きであるメルエラ教が世界を一つにさせる、と。


 この頃に世界を分断する霧の壁が現れた。


 その後レムリア共和国はレムリア帝国へと名を変え、敵対国を次々と侵略、聖教化させた。示威行為を見て素直に応じる国には平和的な救いを。力の差を理解し得ない蛮族国家には裁きによる救いを。


 結果、転移から200年にも満たない内にレムリア帝国は第2世界の3分の2を支配、もとい聖教化させた。

 レムリア帝国は間違いなく第2世界最強の国と化したのだ。


 この間、200年内に起きた大戦は4度になる。


 そして聖教化した国々を一纏めに組織し、自国をトップに置いて創り出したのが……


『聖教国家連合』。

 通称『聖国連』。


 この組織の目的はメルエラ教の教えによる『聖教化的世界平和』である。


 加盟している国は50を超える。


 加盟国は一定レベルの魔導科学技術の共有及び享受、資源物資供給の安定化、通貨の同一化及び経済補助の協力、未加盟国に対する武力的対処の協力、自然災害に於ける支援救援の共有、情報の共有、また、加盟国間の武力衝突及び宗主国(レムリア)の許可が無い経済制裁の禁止、etc。


 何より殆どの国がレムリア帝国の庇護のもと成り立っていると言っても過言では無い。

 抵抗勢力を出さないため、先人たちが精密かつ綿密に建てた体制による賜物だ。


 しかし、50を超える国をレムリアだけで纏めるのは中々に厳しい。


 その為、最初の周辺諸国を除く、聖教化が国の髄まで浸透した信頼に足る3つの大国に細かな対応は任せている。無論その3大国も資源及び軍事力の半分以上をレムリアに依存している。万が一の反抗も万全である。


 第2世界の国々は聖国連に所属しなければ生きていけない状態と化したのだ。


 聖教化に抗う国及び部族や種族などの未加盟国……通称『異端国家』は長い間、聖国連の脅威に追われ戦っている。その数は年々減少していた。が、その減少はレムリアが異世界転移してから300年経った頃、聖国連創設から100年後に著しく停滞し始めた。



 自国と聖国連が軌道に乗って暫くした後、最早脅威は去ったと受け止めた当時の皇帝は、再びレムリア帝国をレムリア共和国へと名前と中身を変えた。


 力ではなく、宗教による平和的解決を目指し始めたのだ。


 しかし、その本当の理由が帝国時代に新たに見つかった超高密度の魔鉱石……賢王石の恐ろしさに気付いた皇帝とその臣下たちが、暴走気味になっていた魔導科学省と軍部、国防省を半強制的に抑えつける為にとった苦渋の選択だった。

 それを知るのは現皇帝を含め数える程度である。


 ともあれ、激戦時代の終焉と共に平和が訪れた。


 始めのうちは皆がその平和を喜び合った。


 しかしそれはカタチだけの、誤りの時代だったと理解するのにそう時間はかからなかった。


 共和国へと戻り、平和の名の下に活動を始めるが、それが誤りだった。


 平和の一時は次の戦争の準備期間。


 異端国家群は平和的解決に向けて前向きに検討しつつ、外交や会談を行っていた。しかしそれは表の顔。裏では次こそ聖国連を叩き潰そうと企て、軍事力増強、情報収集、綿密な作戦の打ち合わせを行っていたのだ。


 既に当時のレムリアは半分平和ボケとなっていたが、異端国家群が裏で怪しい動きをしていると加盟国からの情報で知ることなった。


 しかし、気付いた時には遅く。


 それは200年を超える泥沼の戦争になった。政府内では何度も軍事力をもっと活用させるべきという話が出ていたが、完全に国防省と魔導科学省のコントロールを失う事、更に賢王石の完全なる軍事開発の既成事実化を危惧し、踏ん切りがつかなかった。


 更に平和の味を知った多くの国民、更に加盟国からの不満や反発もあった。


 それから更に長い年月が経ち。


 第103代レムリア共和国大統領リグリーゼ・アル・ルデグネスの次男、バークリッド・エンラ・ルデグネスが齢17を超えた。

 レムリア共和国では昔から男は17歳、女は16歳を迎えれば成人と認められている。


 バークリッドはその年で政治面、軍事面でも優秀な成績を実績を残し、その腕を買われ、父の右腕として活躍し続けた。


 その時、既に彼は動いていた。


 当初の目的である聖教化世界平和へ向けた計画を。


 彼に従い、彼を慕う同志と共に。




 ーー



「確かに、我が国は25代前からは異端国家への聖戦もめっきり無くなったな。泥沼な拮抗状態が続き、悪質なテロリズムまで蔓延る始末」


「そうだ。それを私の代から変えるのだ。これから異端国家群は地獄を見るだろう。いや、異端国家群だけでは無い。我が国に逆らう外界の全ての国もだ。偉大なる神に選ばれた我らに逆らうとどうなるのか、それを思い知らせてみせる。賢き国には繁栄を、愚かな国には破滅を……やるなら徹底的にだ」



 静かに、しかし熱く語る彼の言動は酒の力だけではない。彼の胸中に隠れていた強欲の塊が、彼の声を借りて語り出しているようだった。


 長い付き合いのあるDr.スヴェンは彼――皇帝バークリッドのことはよく知っている。

 齢17の若輩に声を掛けられた時は心底驚いたものだった。

 賢王石が持つ莫大なエネルギー、それの有用性は計り知れない。かつてのデータを見つけ時は喜狂したものだった。魔導科学の可能性を大きく広げるその鉱物を彼は年若い頃から熱心に、極秘裏に調べていた。


 当時の彼は魔導科学研究者の中では突出した天才だった。しかし天才過ぎる故に恐れられ、必要最低限に利用するだけの軟禁状態が続いていた。


 彼は誰よりも、なによりも魔導科学の発展を夢見ていた。それは国の、果てはこの世界の更なる発展。そして人類の進化に繋がると信じていた。彼は恵まれた知識をもってそれに臨みたかった。


 しかしそれがこの国、つまりこの世界そのものが許してくれなかった。


 彼の苦しみは齢20から48までの28年間続いた。


 最早絶望に飲まれ掛けていた時、相応の役職にしか知り得ない彼の存在を齢17の若造が見つけ、現れた。


 そして彼は手を差し伸べられた。



『お前の才能、俺の元で活かしてやる』



 天の救いの声だった。


 まさに神メルエラがここに体現したかのような。


 彼の心は17の若造によって絶望の淵から蘇る。




「だから俺は……ん? どうしたんだ、さっきから」


「いや……昔を思い出しただけだ」


「そうか……ところで、残りの面々は遅いな。どこで油を売ってー」



 ドォン! ドォン!



 突如、乱暴にドアをノック……というよりも殴る音が聞こえた。扉の外ではメイドが何やら狼狽えている声が聞こえるが、緊急事態でないことは、さっきのドアを殴る音で分かった。


 Dr.スヴェンは肩を竦め、皇帝は苦笑いを浮かべる。



「皇帝陛下。貴方の喧しい兄上殿が来られたようですぞ?」


「そのようだな」



 バァーン! とドアが勢い良く開かれる。

 ゴツ! ゴツ! と軍靴を鳴らしながら此方に向かって来る音が聞こえる。


 皇帝は振り返り、その喧しい足音を鳴らす正体を視界に映した。



「おぉおぉ! 我が愛しき弟よォ! もう始めてたのか……全く、兄である俺を差し置いて酷いヤツだなぁ! ハーハッハッハッハッ!」



 身長は190センチは優に超える大男。髪は金の短髪で筋骨隆々の体躯をしている。身に纏う軍服は緑色を基調としており、黒のマントがヒラヒラと僅かに靡いている。左胸には一際大きな勲章とその下にキレイに小さな勲章が付けられている。腰には拳銃、そして立派な短剣が備えている。


 誰が見ても軍人、それもかなり高位の軍人である事が理解出来る。


 それもその筈。

 彼はレムリア帝国軍第1軍団所属西方辺境派遣軍最高指揮官。

 ラドリッジ・ドゥ・バミール大佐。


 皇帝バークリッド・エンラ・ルデグネスの兄である。彼がルデグネスの姓でないのは、皇帝と同姓だと妙な反感を抱かれやすいという点から奥方の姓を使っている。


 因みに腹違い兄だ。


 バミール大佐は軍帽をポイっとソファへ投げ捨てるや否や満面の笑みで弟のバークリッドを抱き上げた。



「うわ! ちょ、兄う、バミール大佐。」


「ハッハッハッ弟よ、愛しき我が弟よぉ! ハーハッハッハッ! どうした? また昔みたいに『にーに』と読んでも構わんのだぞ」


「私は42ですよ」


まだ(・・)42だろう? 私など59だ。おや、まだ(・・)だったな! いやぁ〜どうにも年齢基準がここの世界基準に浸透してしまっていかんなぁ。この世界の人類と、我々がいた世界の人類は僅かに異なる(・・・・・・)というのになぁ。ハーハッハッハッハッ!」


 まるで幼子を抱き抱えるバミール大佐に対し、流石の皇帝も苛立ちを露わにする。無論、普通なら不敬罪でひっ捕らえられるのだが、彼はそうはしない。


 兄もDr.スヴェンと同じ、同志なのだから。



 コンコンッ



 今度は上品なノックだ。


 静かに開かれた扉からはコツコツと足音が近づいて来る。


 気品ある柔らかな足取りだ。


 履物は軍靴だが、それは女性である事が直ぐ分かる。



「失礼……しま、す。はぁ……兄さん、バークリッドに何してるの?」


「おぉ、カトレアかァ? 久し振りだなァ。どうだ、北の最果て……『スノーホーン』は。北方辺境派遣軍最高指揮官の仕事は」



 軍帽の色とデザインはバミールと同じ。無論、サイズは異なる。身長は170弱の整った顔立ちの女性で、綺麗は綺麗だが、どちらかと言えば『イケメン』に近い風貌をしている。


 彼女はレムリア帝国軍第2軍団所属北方辺境派遣軍最高指揮官のカトレア・メル・スラウドラ大佐。バークリッドの腹違いの姉で、バミール大佐の妹でもある。年齢は45歳。


 軍帽を脱いだ彼女はサッと軽く髪を上げると、脱いだ軍帽をキチッとスタンドへ掛けた。



「相変わらずよバミール大佐。第3、第5、第26領国から追加の増援が来たけど、極寒の地に慣れていないせいかまるっきり訓練に身が入ってないのよ。全く、我が国の……ひいては神メルエラ様の庇護の下、安寧を与えているというのに、どうも感謝の心構えが足りないみたいね」


「むぅ、それはいかんな。北の異端国家兵どもは野蛮にも地の利を活かす戦法で襲ってくる。それでは無駄に兵が犠牲になるだけではないか! 後で上に掛け合ってみたらどうだ?」


「もう掛け合ってるわ……って、あなたいつまで私の弟を抱き上げるつもり?」


「ん? おぉ、すまんすまん……つい」



 やっと丸太の様な太い腕から解放された皇帝は、軽く溜息を吐きながら身嗜みを整えてからソファに座る。



「まぁ2人もご苦労だった。遠慮なく腰掛けて適当に何か飲んでくれ」


「おぉ、そうさせてもらおう。『エーテルターキー』はあるか? お、あるではないかァ! カトレアぁ、お前はどうする?」


「『ドライシェーラ』を」


「……む? どうやら無いみたいだなぁ」


「じゃあ『白酒』」


「おう、キューっとイッとけ!」



 バミール大佐は棚から琥珀色の酒瓶と透明な小さい酒瓶を一本ずつ取り出すと、それをスラウドラ大佐へ投げ渡した。


 2人は各々の好きなように酒をグラスへ注ぎ、軽くグラスを挙げるように乾杯した後、スッと口の中へ運ぶ。



「かぁ〜〜美味い!」


「はぁ……上等なお酒なんて久し振り」



 2人は酒の味に酔い浸りながらソファへ腰掛ける。



「聖典省長最高責任者のアルシェラは夜の聖書朗読で。総務省長官のザムレス、元帥のヴァレンシアも多忙につきもう少し遅れると報告は聴いている。まぁ今回の召集は飽くまで急を要しない。気長にー」


「あら? 陛下、アルバラは?」



 意地の悪い笑みで問いかけて来る彼女の言葉に、眉を潜める。



「スラウドラ大佐、何故ここで愚弟の名前が? アイツは我らとは関係ない、というのは百も承知のはずだぞ?」


「えぇ、そうでしたわね。ふふふ、申し訳ありません。ちょっとした冗談です。陛下とバミール大佐とのやり取りが少し羨ましかったもので。私とて役職云々関係無く、腹違いとはいえ可愛い弟と戯れたいのですよ」


「だから私はもうー」


「42でしょう? しかしそれが何か? まだ人生の折り返し地点まで生きてないではありませんか?」



 彼女の言葉に思わず溜息を吐いてしまう。そんな困り顔の弟を見て姉であるスラウドラはフフっと微笑する。




 ーー


 この世界の人類と、ヴァルキア大帝国そしてレムリア帝国が居た世界の人類は見た目及び身体の構造が若干異なる。


 肌は灰色に近く、髪の色は黒、金、白の三種。


 耳の長さも、エルフ族ほどではないが少しだけ尖って伸びている。


 寿命は150年。

 かの世界の人類は75歳が人生の折り返し地点なのだ。故に40代、50代などまだ若輩の内に入る。



 ーー



「愚弟といえど家族としては愛しているさ……出来が悪いほど可愛いとはよく言うものだ。だが、それは家族や兄弟でいるうちだけだ。国を左右させる役職や事柄に於いてアイツはあまり期待出来ん。実際、奴の自信を試すために北のアルハリル山脈の天然砦の防衛の任務にヤツに任せた結果あのザマだ。あの時の、父上の判断には愚かとしかいいようがなかった」


「……確かに。あの砦を奪われた件に関してはかなり痛い敗北。結果、未だに奪い返せていない」


「でも、もうミスリル地帯を攻略出来る術はあるのでしょう? Dr.スヴェン」



 いつの間にかソファから立ち上がり、神都を一望出来る窓を眺めていたスヴェンが、彼女の言葉に頷いて答えた。



「その通りだ。飛空艇に必要不可欠なエネルギー資源『飛行石』。これは純度の高い魔鉱石から抽出される特殊なエネルギーを凝縮、結晶化させた人工資源。ハルディークも我が国の飛行石を有しているが、アレは質の悪いモノを売ったに等しい。奴らは飛行石の製造技術すら知らんよ。だが、質に関係なくミスリル地帯では飛行石の力は無力だ。この世界でミスリル地帯は少なくない。まさに鬱陶しいことこの上ない。だが、長年に及ぶ研究の末、私は対ミスリル用飛行石への改良、及びその大量生産に成功した。これでミスリル地帯を隠れ蓑にしていた蛮族共は残らず一掃可能となるだろう」



 聞いてもいない余計な情報までペラペラと喋る彼に若干呆れつつも、納得した様子で話を聞いて頷いた。今現在、聖教化が及んでいない場所は3分の1で、それら全てが異端国家群である。近年までかの国々のミスリル地帯を利用した戦略には煮え湯を飲まされてきた。


 量産前の対ミスリル用の飛空艇は活用して来たが、燃費が悪く十分な火力を搭載出来なかった為、大した戦果を残す事が出来なかった。


 しかしそれもDr.スヴェンの研究によって終焉を迎える。


 これからの異端国家群は魔導科学の力によって悲惨な末路を迎えることになるだろう。


 そんな思いを皆は抱いていた。



「取り敢えず、アルハリル山脈の天然砦の奪還に向けて第1、第3軍団の各艦隊のテルメンタ級戦艦とレランパゴ級戦艦、エスパーダ級戦艦を現地へ送りたいと考えているのだが……宜しいかな?」


「なに? 既に戦艦級まで対ミスリル用に改良していたのか?」


「あぁ、早く実戦でその成果のほどを確認したかったからな。ついでに言うと既に中央聖規軍の全艦改良済みだ」


「そ、そんな事をいつの間にー」


「私が許可した。黙ってて悪かったな。お前たちに伝えた後に正式な手続きをするとなると時間が掛かる。事後報告みたいだが、ここは皇帝特権と言うわけで許してほしい」



 2人の最高指揮官は彼の行動を是正し認知していた皇帝へ目を向ける。彼がかなり暴走気味な研究者兼技術者である事、そしてそれなりのコネやパイプを有している事は知っていたが、まさか自分たちですら知らぬ間にそこまで対ミスリル用に改良した事に驚愕していた。



「なに。私は必要最低限の改良しかしとらんよ。流石に大々的な改良となればコッソリなレベルでは不可能だからね。だが、対ミスリル用にのみ改良するだけなら私を含め数名の技術者がいれば一時間もあれば可能だよ」



 まるで出来て当然のように淡々と説明するその内容は凄いを通り越して呆れの境地であった。



「Dr.スヴェン……非公式でも構いませんから次からはちゃんと報告をしていただきたい。毎度のことながら心臓に悪い」


「同じく」


「ん? はっはっ、こりゃあすまないね」



 4人が再び酒を酌み交わしながら談笑をしていると、再びドアをノックする音が聞こえた。



「……入れ」



 ドアを開けるとそこには3人の人物が部屋へと入ってくる。1人は美しい女性聖職者。1人はバミール大佐達とは比べ物にならない量の勲章を左胸に付けた老軍人。最後の1人は眼光の鋭いインテリ系国議員の高官だ。


 3人は皇帝の前で横一列に綺麗に並ぶと、恭しく頭を深々と下げる。



「よいよい。そう畏まるな。ここでは同志。気軽にせよ」


「「ハッ」」



 聖典省最高責任者兼聖メルエラ教大神官

 カミーラ・レ・アルシェラ


 レムリア帝国軍元帥

 エルバドール・ゾル・ヴァレンシア


 レムリア帝国総務省長官

 ロコンド・リザ・ザムレス



「お前たちも好きな席へ座り、好きな酒を飲むがよい」


「陛下、恐れながら私はー」


「分かってる、アルシェラ。お前は職業柄、酒は禁忌だったな。上等な水を用意した。それでいいか?」


「ありがとうございます」





 ーー

 ー



「さて……揃ったところで本題といこう。私は回りくどいのは苦手でね。いきなり言わせてもらう」



 皆が各々の場所へ座して皇帝の言葉に耳を傾ける。その様子は真剣そのものだった。酒が入っているなど考えられないほどに。



「我らが聖教化しつつあるこの世界に……外界から来た間者が紛れ込んでいる。恐らく1年前、それより前ではなかっだろう痕跡がごく僅かだが残っていた。しかし何者かは分かっていない。分かっているのはこの世界のどこかに潜伏している……という点のみ」



 この言葉に軍人であるバミール、スラウドラ、ヴァレンシアは眉をひそめる。それもそのはず。一定の高い地位にある他の者達ですら苛立ちを覚えるのだ。国を守る責務を負う彼らにしてみれば相当な不快感と怒りを抱いている事だろう。



「……『根』を以ってしも掴めない連中と?」



 髭を蓄えた歴戦の老軍人、ヴァレンシア元帥が口を開いた。その目は猛禽類を思わせる鋭いモノを感じさせ、その視線に思わず皇帝は身じろぎしそうになる。



「あぁ、そうだ。私は彼らの実力は十分理解している。彼らに不可能など存在しないとも。しかし、そんな彼らですら捕らえるどころかその痕跡すら満足に集めさせないその侵入者、只者ではない」


「ふむ。となると、やはり考えられる理由の1つは外界の国、ニホン国ですな」


「その可能性が高いだろう。オワリノ国へと来たついでに彼の国の密偵が入り込んだのだ。やはりあの国を完全に手中に収めることが出来なかったのはイタいな」



 この言葉にヴァレンシアは頷いた。



「確かに。今ではあの国はニホン国と友好関係を築き、交流も盛んに行われているとのこと。それは当然、この世界を探る為の密偵もでしょうな」


「それだけじゃありませんよ、元帥。あそこは遠距離の敵国に対する重要な魔導レーダーや魔導ミサイル基地の拠点としてもベストでした。それを完全に失えば…その土地の有用性を彼の国が理解したら、その逆も然りかと」



 どちらの話も筋が通る。やはり、あの国を失った事は痛い。

 それを挽回するためにもアルハリル山脈を奪還する事が大事だった。



「ネズミは何処に潜んでいるのか分からない。皆警戒を厳にせよ。根掘り葉掘り、な」


「「ハッ」」


「ザムレス長官、そっちは滞りないか?」



 純インテリ系の男、総務省長官のザムレスは眼鏡を位置を少し直しながら綺麗な姿勢で答えた。



「何もかも万事問題ありません。帝政組織、各支部の運営および制度、地方行財政、災害対策、辺境に至る国民の保護に情報通信、上手くいっております。まぁ私の部下達も皆が優秀なものばかりです。前政権時代は汚職が酷くて仕方がなかったですが、今はそのような愚行は粉微塵も許しません。まぁ人材はだいぶ減りましたから、クズなりに仕事はこなしていた分私達の負担が増えた事が唯一上げる不安要素でしょうか?」


「すまんな、ザムレス。今しばらくの辛抱だ。我が国がもっと軌道に乗れば優秀な人材が現れるだろう。それまで耐えてくれ。無論、できる限りの支援はするつもりだ」


「ありがとうございます。それから

 元老院についてですが、如何なさいますか? かの老人達は帝政へと戻った事をいい事に、裏でその実権を握ろうと暗躍する動きがあるとの『根』からの報告がありましたが」


「取り敢えずそのまま監視の目を向けよ。あれらは最早烏合の衆も同然。敢えてあれらを残したのは、私に対し反乱を企てようとする者共はより高い地位を持つ者をバックにつけようと考える。そして、行き着く先は元老院どもよ。奴らは反乱分子を誘き寄せる餌だ。それを自覚していない分、より都合が良い」


「畏まりました」



 ある程度の報告を受けた皇帝は、数段高いデスクの側へ移動し皆に告げ始めた。



「さて、我が同志達よ。これから先、この国は更なる栄華に彩られる事になるだろう。従う者には救いを。抗う者には死を……分かってるさ、アルシェラ。先ずは対話だろう?  平和主義という路線は変わらない。だが、敵対者には容赦の無い神の鉄槌を喰らわせる。それを粛々と成し遂げ続けた暁には……世界唯一の神メルエラと、その宗主国である我がレムリア帝国の下、世界は信仰心により1つとなる。それは正に『世界平和』そのものである」



 気が付けば皆右手を左胸に当て頭を下げていた。多少の誤差はあれど皆の胸中には其々成し遂げたい事があった。しかし、それは叶うことなく終わるのだと諦めていた。


 彼と出会う前までは。


 彼は不可能と思われる事を次々成し遂げた。


 皆の成し遂げたい、叶えたい目標をかれは限りなく可能性に近い段階まで引き上げてくれた。


 正に人生の恩師。


 恩師に年齢も地位も関係ない。


 皆が彼というカリスマを慕う、従うと決めたのだ。



 ジリリ! ジリリ!


 デスクに置かれた専用固定器が突然鳴り始めた。特に何か報告を受ける予定を聞いていない皇帝はデスクまで歩いて行き、受話器を取った。



「私だ……どうした、なんだと? それは確かか?」



 目を細める皇帝に周りが少しばかり緊張した空気が張り詰めた。


 尚も受話器から報告を受け続ける皇帝。



「……分かった。その方向で事を進めてくれ。……アルシェラには私から伝える。あぁ、ご苦労だった」



 ガチャリと受話器を戻した。


 唐突に自分の名前が呼ばれた事に驚いたアルシェラが首に下げたロザリアを握りながら、彼の口から電話での話の内容を待った。



「アルシェラよ」


「はい……」


「『ルイン』という名の聖典省職員の件なんだが、彼は外界へ布教活動の任を実施中に行方不明となったそうだ」


「ッ!?」



 驚愕。

 一気に心拍数が跳ね上がり、呼吸が荒く激しいものへと変わる。いつもは落ち着いた雰囲気の彼女が今では目を見開いた…明らかな動揺を見せていた。


 しかし、それも無理はないと周りの皆がそう思っていた。


 先程皇帝の口から出てきたルインと言う名の青年は、アルシェラの弟だ。


 アルシェラは誇るべき聖典省のトップへと上りつめ、そして大神官の役職も得ている。

 彼はそんな姉に憧れて姉と同じ聖典省へ尽くそうと決めた。


 超難関の学校へ入学。

 そして、猛勉強の末に見事最優秀成績で卒業。

 その成績を買われ、聖典省へ抜擢された。


 齢はまだ19とかなり若い年齢だ。


 未来に希望を抱く、最愛の弟。


 そんな彼がまだまだ未知の世界でーー



「行方、不明……そんな陛下……陛下……

 陛下!!」



 覚束ない足取りで皇帝へ下がり寄ろうとする彼女を、慌ててバミールとスラウドラが支える。


 そんな彼女の元へ皇帝は歩み寄り、彼女の手を握った。



「気持ちはわかる。アルシェラよ、だが今は落ち着け」


「し、しかし、しかし、陛下……しかし!」



 言葉も覚束ない。

 視点も定まっていない。


 彼女にとって弟がそういう(・・・・)存在だった事は以前より知っていたが、実際にここまで取り乱す彼女を見るのは初めてだった。



「ルイン……あぁ、ルイン! 私の、私の可愛いルインがぁぁああ! そんな早く、早く見つけないとぉ! ルイン、ルイン、ルイン!!」



 髪を振り乱す様はとても大神官とは思えない様子だ。この鬼気迫る勢いで来ると、側から見ればある意味恐怖に似た感情を抱くだろう。


 しかし、皇帝は臆せずに彼女の動揺と不安を一心に受け止める。


 自分に摑みかかる両手の爪が物凄い力でギリギリと食い込み血が滲む。


 ここまで動揺するのなら、何故彼を未知の世界へ送ったのか?


 それはルインの強い要望。彼が姉に対して初めて口にしたワガママだった。



 未知の世界でメルエラ教の素晴らしさを、平和の尊さを教え、そして導いてあげたい。多くの人を救ってあげたい。



 その一心だった。


 長い長い話し合いの末、折れたのは姉のアルシェラだった。しかし、条件付きで、安全が保障された場合以外は絶対に行かない。そして、必ず周囲に優秀な護衛をつけること。


 それを呑んだルインは嬉々として外界へと向かった。その際も、彼女は多少の取り乱しや不安定は見られたが、今は大分落ち着きを取り戻していた……筈だった。



「私の、私の可愛いルインがぁぁぁ!!」


「落ち着け、アルシェラ。取り乱す気持ちは分かるが今は落ち着け。それが何よりも重要だ。落ち着かなければルイン君は助けられない」



 周りの慰めもあって、何とか話が出来る状態まで落ち着きを取り戻すことができた。



「先ずは情報収集だ。現地に『根』も向かわせる。捜索隊も組織しての任務だ。今すぐに現地へ飛びたい気持ちも分かるが、まだ外界の魔素情報が全く足りていない。これでは魔導転移装置(ゲート)を造ることも出来ない」


「はい、はい……分かってます」


「よし、いいぞ。そこで先ずは動かせるだけの者達で現地の情報収集を図る。通信機能は正常に作動しているから、連絡手段に困ることはない。いいな? 何か分かったら逐一お前にも連絡を取るとしよう」


「ありがとう……ございます、陛下」



 涙ぐんで嗚咽を漏らす彼女の肩を優しくポンポンと叩く。


 やる事は山積みだ。

 そして、更にやることが増えたのだ。


 順風満帆と思っていたレムリア帝国に僅かな、ほんの僅かな怪しい雲が漂い始めた。


 しかし、彼はそれをある意味楽しんでいた。


 予想外の出来事。


 それを乗り越えた先には何が待っているのか。


 そんな事を考えながら若き皇帝は行動を起こした。







 ーー

 日本国 首都 東京


 首相官邸 会議室

 ーー

 ー


「では本日も定例会議を始めます。皆様のお手元に配布した資料に目を通して分かるように、現在、日本国家はある意味究極の決断を迫られている、と言っても過言ではありません」



 いつもながら始まった会議を、いつものように副総理の南原が司会のもとで始まった。皆の顔が気難しいのも毎度のことではあるが、今回に限ってはいつも以上に苦い顔をしている。


 普段マイペースな雰囲気の広瀬総理大臣ですら頰杖をついて軽い溜息を何度も吐いている。



「さてと……これをチャンスと受け止めるか、それとも不幸の始まりと受け止めるか。

 無論、俺としては前者である事を願いたい」


「それにしても……まさか1年という短い期間でこの様な事が起きるとは……平穏はまだ先ですかね?」



 オワリノ国の出来事から1年。


 第2世界初の国交樹立国兼友好国と化したオワリノ国との交流は活性化しつつあった。あの一連の内乱は影でレムリア共和国、現在のレムリア帝国(第二帝国)が糸を引いていた事は理解した。が、明確な証拠は殆どなく、宗教による影響だとオワリノ国の人々が声を上げて、唯一国交があった第2世界の某国へ進言するが……。



 メルエラ教の教えを歪ませたのはそっちだ。こちらも同じメルエラ教を国教としているが、貴国の様な野蛮な争いなど起きていない。言い掛かりも良いとこだ。貴国と関わるとロクなことが起きそうにない。悪いが一方的に断交させてもらう。



 マトモに取り合ってもらえないどころか、第2世界で完全に孤立してしまったオワリノ国。


 しかし内乱も収束し、新たな外界からの友人……ニホン国と国交を得た事で、孤立による様々な問題はほぼゼロに等しくなった。


 因みに天獄一派のオワリノ人達は、治療(・・)を受けながらも一般の人と変わらない慎ましい生活を送っている。


 天獄について行った者たちと接した所、皆妙に虚弱な体躯をしており、言動もイマイチ噛み合わなかった。そこで、国境なき日本医師団(MSFJ)を現地へ派遣。


 精密検査をしたところ、微量ながらも薬物反応が検出された。薬物の反応は『ルカの秘薬』と同種であると診断。強烈な禁断症状が出なかったのはかなりの微量だからなのかは不明だが、軽い依存性が大半に見られた為、治療を行っている。


 それからは、現地民の生活に影響を及ぼさないレベルでのインフラ整備が始まった。


 物資の輸出入の効率化や衛生面の改良もそうだが、それらも含めたオワリノ支部の自衛隊基地建設を目的の1つである。


 そこは第2世界から来ると考えられる様々な脅威に備え、戦略的利点に於いても重要拠点であると考えられていた。


 今では現地民と自衛隊との交流は日常茶飯事で、毎日が楽しくも賑わいに満ちていた。


 そこから更に慎重を重ね、第2世界の国々ともコンタクトを取ろうとしたが、門前払いの扱いで終わってしまった。



 ーー異端者と交わす言葉は無い。



 この一言で殆どが終わった。

 中には外務局なり外務省なりと確認を取ろうとしていた国もあったが、その返事はすぐに来た。



 ーー都合が合わない。

 ーーお引き取り願いたい。



 まだ数える程度しか当たっていないが、恐らくどこも相手をしてはくれないだろう。銃を向けてイキナリ引き金を引いてこないだけ、良心的と捉える事にした。


 時間だ。


 恐らく時間が早すぎたのだ。

 ここは焦らずにゆっくり、じっくりと時間をかけて接点を作っていけば良い。


 日本国政府はこちらからの積極的なファーストコンタクトを控える事とし、向こう側の様子をもう少し見ていくべきと判断を下した。此方としてもオワリノ国という新たな良き友好国を得た為、取り敢えずはこれで良しとした。


 フレンドリーなオワリノ国は経緯も含めてあの国だけ異端なだけだったのだ。


 ではこれからはもっとこちら側に目を向けていこうと息巻いた時、今回の出来事が起きたのだ。




「まさか密入国を企んでいた奴隷商船に()がいたとは……救助出来たのは良いが参ったなぁ」



 数日前、中ノ鳥半島南方の沖合で木造帆船が航行しているのを八咫烏(ヤタガラス)が発見した。公的航路から明らかにずれて航行しているその帆船は明らかな不審船だった。


 その為、急遽その不審船の臨検を執行した。


 結果、最近では殆ど見なくなった奴隷商船である事が判明。奴隷商人とその関係者を逮捕、捕らえられていた人々を保護し、中ノ鳥半島の基地内病院へ搬送した。


 大半が何処ぞの低文明国家から捕らえられていた女子供や亜人族だったが、その中かなり珍しい人種を見つけた。


 服装は剥ぎ取られた為、小汚い布を羽織っただけだったがソレがここらでは見たことない人種である事は一目瞭然だった。

 現場にはロイメル王国の兵士達も協力のもと同伴していたが、彼らでも見たことない人種だ、とかなり興奮していた。


 しかし、日本国では知っている者はいた。


 ヴァルキア人達と同じだったのだ。


 肌は灰色に近い。


 髪は金髪。


 一見中性的で見分けがつかなかったが、性別は男性で恐らくかなり年若い。


 保護して連れて行こうとした時は、必死に何かを祈っている風だった。


 そして、基地へ連れて行き。


 ある程度、体力的、精神的に回復した後、事情聴取を開始した。


 最初はヴァルキア人が捕らえられていたのかと考えた。


 しかし、その結果……



「まさか、レムリア帝国の聖職者が捕まっているなど誰が予想出来る? まぁ知ってても救助はしていたが」


「まぁ……驚愕、ですね」


「言語が通じるのは同じで助かった……それでも意味不明な、祈りかなんかに近い言葉は分からなかったな。そこんとこの違いはなんだろうな?」


「文字は此方と同じように通じませんでした……少なくとも、文学的コミュニケーションは少々難しい事は分かりましたね」


「名前は……確か『ルイン』だったか」


実は過去作も地味目に修正とかしてますた。


なんか最近、人気絶好調だった日本転移系の作家たちの長期不投稿や失踪が出て来ましたね…。


仕方がないのでしょうが、なんか寂しい感じはしますね。

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