第116話 戦火!オワリノ国
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ーーオワリノ国 関所櫓
普段であれば関所の前方には大きな霧が見えていたのだが、古代龍が死んだ事でその霧が完全に消えていた。
門には巨漢の2人のオーガ族、オ・グ、オ・グルが大門から集まっていた。他にも、甲胄を身に纏った武将達と角人族、ゴブリン族、オーク族の兵士たちが槍や刀を手に取って整列していた。
弓と鉄砲に長けた部隊は櫓の狭間や塀に配置されている。
「よいかァ! 此処で憎っくき天獄一派供を蹴散らすのだ! 奴らに苦しめられた今までの怒りをぶつけるのだァ!」
「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
この場にいる約200名ほどの兵達の士気は上々だった。関所櫓の指揮官も皆が一致団結の思いで集まっている事に納得したしたように頷いた。
「オーガ族の部隊が来たぞォ!」
そこへ更に20体のオーガ族が集まって来た。
彼らは皆、鈍重な鎧と厳つい棍棒を装備しており、腰には虎柄の腰布を巻いていた。正におとぎ話に出てくる鬼を思わせる姿である。
「うむ。城下町や城内に彼らを配置するわけにはいかないからな。彼らの力を存分に振るう場所は此処以外にあるまい」
オワリノ国で随一のタフさとパワーを誇るオーガ族が20体もいる事により、最早負ける気などしなかった。
そして関所櫓の外側へ目を向ける。
広く整えられた街道が一本。他は断崖絶壁の崖が風の音を立てるのみであった。
「翁様によって作られた霧の幻影が消え、本来の道が露わになった。道はこの一本道のみ。奴らがこの断崖絶壁を超えることは不可能。さてさて……弓隊と鉄砲隊が待ち構えるこの一本道を奴らはどう攻略するつもりかな?」
ニヤリと笑みを浮かべる指揮官の心は揺るぎない自信で満ち溢れていた。
そこへ一本道の街道の奥からゆっくりと奴らが現れるまでは。
ーー城内 地下洞窟
広く、そして肌寒い地下洞窟は多くの灯篭に火が灯り、多くの民達が避難していた。
「皆さん、此方へどうぞ!」
「押さないでください! 足元に気を付けて!」
「もっと奥へ詰めてください!」
城内で警備に当たっていた調査隊達も、余裕があるものは避難の誘導を手伝っていた。
その中には鬼亜羅の妹である羅鬼もいた。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「お、おやまぁ……すまないねぇお嬢ちゃん」
羅鬼は避難誘導をしている兵士たちと一緒に、年配の人や体が不自由な人たちの手伝いを積極的に行っていた。
「羅鬼ちゃん。貴女も避難していいのよ?」
避難誘導にあたっていた根津が彼女に声を掛ける。
「いえいえ大丈夫です! 私も何かお手伝いをしたいと!」
「えぇ、でもー」
その時、奥から数人の女性が駆け寄ってきた。
「す、すみません、私の息子達を見ませんでしたか!?」
「私の息子もです!」
「私も!」
血相を変えてやって来たのは武将達の奥方達だった。根津は里で彼女達とすっかり打ち解ける仲になっていた為、直ぐに気付いた。
「見当たらないのですか?」
「は、はい。少し前まで近くに居たのに……まさかあの子、外へ出たんじゃ!?」
「まぁ! では私の息子達も!?」
「あの子、『父上が敵を斬りふせるところを見てみたい』と何度も言っていましたし、もしかしたら……」
「で、ではウチの子も……あぁ、どうしましょう」
いつ敵が攻めてくるのかも分からない状況で子供だけが外にいるのはあまりにも危険である。根津は直ぐに外へ出て探しに向かう事を伝え、洞窟の外へ向かった。
「おい根津、俺たちも手伝うぞ」
「1人より3人の方がいいだろう?」
するとそこへ西谷と川口もその場に現れ、一緒に子供達を探すと言ってきた。
「え、でもー」
「隊長からの許可は貰ってる。何かあったら元も子もないからな」
「ほら、行くぞ」
「……うん、ありがとう!」
3人は装備を確認し合った後、洞窟の外へと出て行った。
ーー
ー
ノブタケ達は関所櫓と城下町の決戦がどうなっているのかを見届けるに城の高台へ登っていた。
「さて……あれ程の数を敵はどう対処するか」
そこへ1人の兵が慌てながら走ってやって来た。
「で、伝令! 聖天衆は刄鬼、眞鬼、剛鬼の四鬼王が内の3人を先陣に関所櫓を突破されました!」
「何だと!?」
「さ、更に敵は城下町最奥地区手前まで迫ってきています!」
「ば、バカな! もう城門の直ぐそこまで迫って来ているとでもいうのか!?」
慌ててノブタケは高台を登り、その光景を目の当たりにした。
「こ、こんなことが……」
燃え上がる城下町、味方の悲鳴、血の臭い。
此処から見えるだけでも多くの兵士たちが地に倒れているのが分かる。
所々で見えた聖天衆達は刀を主として戦っていたが、その動きは殆ど無駄がなく素早い。そして的確に相手の急所や鎧の隙間などを狙って振るっていた。
「うわぁ!」
「オェ、グァ!」
「た、助け……助け、ぎゃあ!」
1人、また1人と兵士たちがまるで流れ作業の様に血を流して倒れていく。
あまりにも洗練された聖天衆達に、ノブタケの兵士たちは殆ど歯が立たなかった。
「くぅ、天獄め……力を蓄えていただけの事はある!」
悲惨な光景を眺めていたノブタケがギリリと歯軋りを立てる。
「撤退だ! 撤退の狼煙を上げろ! 城下町が敵の手に落ちるのも時間の問題だ!兵を引かせ、城内で迎え討つ!」
「は、ハハッ!」
城内から赤色の煙が立ち昇る。
城下町で死闘を続けていた兵達が一斉に門へ撤退を始めた。
関所櫓、城下町に配置していた総勢1500の内、無事に撤退できた者は100足らずだった。
ーー
ー
城下町はむせ返るような血と臓物の臭いに包まれていた。
刀を握ったままの斬り落とされた手、地面を落とされた首、滅多斬りにされた原形の分からない死体、棄てられた折れかけの刀や槍、どこの部位かも分からない斬り落とされた肉片……かつての活気溢れる城下町はたった半日程で死の町へと変わった。
目に入る夥しい数の死体の殆どがノブタケ派の兵士ばかりで、天獄一派、聖天衆の死体は殆ど見られなかった。
聖天衆の被害は負傷者が10名、死者が3名と微々たるものだった。
多少武器を扱える者が大半のノブタケの兵達に対し、聖天衆は超が付く程の精鋭中の精鋭。聖天衆一人に対し兵達は4、5人で相手にしてやっと互角のレベルで、2人以下では足止めにすらならない。
中でも四鬼王は別格だった。
刄鬼は大小の刀を扱う二刀流で、まるで流れ作業の如く兵達を斬り伏せていた。
眞鬼は手槍に長けた槍術士で、オーク族や武士レベルの角人族の厚い鎧の隙間を的確に貫いていた。
最後の剛鬼は大棍棒を振り回す怪力の持ち主で、倍以上の体躯を持つオーガ族をその一振りのもと屠っていた。
ノブタケの兵の半分以上は彼ら3人の手によって討ち取られたのだ。
「神の使徒たる聖天衆よ、神は我らに勝利の微笑みを向けた。異端なる者どもは神の刃たる我らに敗走し、櫓と城下町を取り戻した」
とある大きな館。その中庭に聖天衆達は整列していた。壇の上でリーダー格の刄鬼が皆に向けて言葉を発している。
館の中も飛び散った誰かの血と柱や壁には武器による生々しい傷跡が残っているが、死体は全て放り出された為に1つも見当たらなかった。
それでも異様な空間である事に変わりはない。死体を見慣れた戦士でも、まともでいらないであろう空間に、彼の話を聞いている聖天衆達は誰1人として吐き気などを催す者はおらず、寧ろ希望と使命感に満ちた目をしていた。
疑うことのない自らに課せられた使命。
信仰とする神に認められている。貢献しているという充実感。
彼らの心には死者に対する哀れみは皆無だった。あるのは信仰心のみ。
そして、これから告げられるであろう大きな使命に真剣な面持ちで耳を傾ける。
「明日はいよいよ、城内へ攻め込む。異端者どもは死に物狂いで抵抗するだろう。だが、恐れる事はない。神の使徒たる我らには唯一にして絶対なる聖神メルエラの加護がある。異端者の武器などに痛みは感じない。痛みを受けるのは異端者だけだ。恐れることはない、これは救済だ。正しき道を違え、信じるべき神を見つけることが出来なかった愚者の魂を救済する。繰り返す……恐れるな、偉大なる神の使徒よ!」
「「オォォォーーーーーー!!」」
喜びに満ちた顔で声を上げる聖天衆達を見て、刄鬼達も満足した笑みを向ける。
「明日は正面からの突破組と武士の里へ通じる抜け道を使う侵入組の二手に別れて聖戦を行う!」
「「ハッ!」」
聖天衆達が力強い返事を返す。
「では、明日に備え体を休めるのだ。異端者どもが備蓄している食料もあるだろう。今は英気を養うのでござんす」
「フフフ……解散です。皆に神の加護があらんことを」
剛鬼と眞鬼の言葉を皮切りに、聖天衆達は一斉に解散した。
残った3人は木枠の窓から見える魔天・安土城へ目を向ける。月夜に照らされた城は幻想的な雰囲気を出していたが、その城が明日には異端者達の血で染まると考えると自然に笑みが浮かび上がる。
昼間の戦闘とは違った興奮が湧き上がった3人は、その場で衣服を脱いで肌を重ね合った。
ーー
城内 武士の里
ここはノブタケに仕える武将達とその家族達が暮らす里だが、今は皆避難している為に人っ子一人いない。
そんな中、頭巾を被った5人の男たちが刀を抜き、中腰で素早く里の中を移動していた。
「おい、本当に大丈夫なのか? 勝手なことをして」
「平気さ。元武士の父から聞いた秘密の抜け道を通ってきたんだ。あの御三方にだってバレないよ」
「だが本当に人っ子一人いねぇな」
「あぁ、生活品も見当たらない」
「例の洞窟にでも避難したんだろう」
彼らは刄鬼達や他の仲間たちに黙って城内まで極秘裏に侵入していた。
あわよくば、ここで敵将首を取り、勝ち星を上げてメルエラ教内での地位を高めたいと企んでの行動だった。しかし着いてみれば肝心の異端者達が居ない事に気付いた。
5人は一度空いてる家の中へと入り、これからどうするかの話し合いを始めた。
「どうする? 敵がいなければココは引き返すか?」
「バカ言え。このまま手柄も立てずにオメオメ戻れるか」
「だが深追いは厳禁だ。敵も警備を厳重にしているだろう」
「あ〜〜畜生! 早く俺の腕を試したいぜ」
「お前は昼間の戦闘で遅れてきたから1人も異教徒を救済出来なかったな」
「ハハハハハ」
「笑うなッ」
その時、5人は近くで物音が鳴るのを聞いた。
瞬時に切り替えて刀を抜くあたりは流石精鋭部隊の者たちであると思わせる。
内2人が物音が聞こえた方向へ忍び足で近づき確認をする。物陰に隠れながらそっと覗き込むと、そこには3人の子供が歩いていた。
「こんなに里が静かになるなんて初めてだね!」
「うん! なんだかワクワクするね!」
「洞窟にいてもつまんないし、ここでイッパイ遊ぼう!」
無邪気にはしゃぐ子供。どうやら避難先からこっそりと抜け出してきたようだ。
それを確認すると、2人は後方にいた3人に向けて小さく声を発した。
(子どもだ。避難先から抜け出した子供だ。服装的に見て、恐らく武士の子供だろう)
(どうする?)
(決まってるだろ? 救済すんだよ)
(あぁ、そうだな。信じる道を違えた哀れなる無垢な子供に魂の救済をしよう)
(それが俺たちにできる最善の方法だ)
5人は頷き合うと、様子を見に向かっていた2人が子供達に向かって近づき始めた。1人は子供達が向かう先の木陰に、もう1人は後ろからゆっくりと近付いて行く。
(聖神メルエラよ……今あなたの元に3人の無垢なる御霊が向かいます。)
木陰に隠れていた1人が心の中で祈ると、子供達の姿が見えた瞬間に飛び出して行った。その目には迷いはなく、刀の刃が月夜に照らさギラリと光る。
3人の子供達も月夜の明かりのお陰で目の前から黒い頭巾を被った刀を持つ男がこちらに向かってる走ってきている事に気付き、一斉に来た道へと引き返し逃げて行った。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「出たァァァァァ!」
「うぇーーーん!」
泣きじゃくりながら必死に逃げる子供達だが、その先にはもう1人の頭巾を被った男が刀を持って歩いて来た。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
「怖いよぉ! 怖いよぉぉ!」
「母上ェェェェ! 父上ェェェェ!」
恐怖のあまり遂に逃げることすら出来なくなった子供達はその場でへたり込み、泣きじゃくってしまった。
「泣くな! 哀れなる子供達よ! 今我らがお前たちを救済してやる!」
「さぁ、神の御許へ!」
挟み討ちに成功した2人は振り上げた刀を子供達に向けて振り下ろした。
ダァン! ダァン! ダァン!
突然の乾いた破裂音が夜の里に響き渡ると、2人の男が転がるように倒れていった。
「え?」
刀を持った怖い人たちがイキナリ目の前で転んだかと思いきや、そのまま起き上がる事なく倒れたままの状況に子供達は困惑していた。
それは子供達の救済報告を待っていた3人の聖天衆達も同じだった。
「なんだなんだ!?」
「何が起きた!」
慌てて家屋から飛び出て2人が向かった方向へ向かうと、座り込む子供達を前と後ろに倒れている2人を見つけた。
3人はすぐに周囲へ目を向けた。
その瞬間、連続して聞こえたは破裂音と同時に身体に鋭くも重い痛みと衝撃に襲われた。慌てて態勢を整えようとするが、その気持ち虚しく地面へと倒れこむと、3人の意識は二度と戻ることは無かった。
「敵影ナシ。クリアぁ!」
「確保ォ!」
すると、子供達の元へ緑色の服を着た女の人が慌てて駆けつけて来た。子供達は彼女が怖い人ではない事を知っている。
彼女はいい人。
そして、後から来た2人のオジさんもいい人である事も知っている。
その3人は調査隊の自衛官、根津、川口、そして西谷だった。西谷達はいなくなった子供達を探す為に里へと戻っていた。その時、子供達の悲鳴が聞こえて来た為、慌てて駆け付けて今に至った。
「大丈夫? 怪我は無い? あぁ、怖かったね、怖かったね! もう大丈夫よ。大丈夫だから!」
西谷と川口が20式小銃を構えながら周囲を警戒し、その間に根津が子供達の保護をしていた。根津が子供達を抱き締めると、助けに来てくれたことによる安心感から子供達は更に大声で泣き始めた。
「おい、急いで此処を離れるぞ」
「敵は城内に侵入できる抜け道を通って来た可能性が高い。早くノブタケさん達に報告しねぇと!」
「分かってる。さぁ、みんなの所へ戻ろう」
その後、西谷は事の経緯をノブタケ達に報告した。その結果、城内の配置を大幅に変更する事となり、武士の里側にも兵を配置する事になった。
そして、5人の聖天衆を容易く討ち倒した自衛隊員の力を知った事で、ノブタケは調査隊も城内決戦に組み込ませる事となった。
近藤はあまり内戦ごとに深く関わることは避けていたが、状況的に見ても此処は協力し合う事が賢明と捉え、部下達に戦闘準備の命令を下した。
そして心中で固く誓う。
例え己が命を棄ててでも部下を守る事を。
2作品目は箸休め的なポジションです。
恐らく今作品以上に不定期投稿になるやもしれません。