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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第7章 オワリノ国編
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第114話 古代龍と魔王

ーーオワリノ国 魔天・安土城



 城の広い内庭にノブタケを始めとする多くの武将たち、その中には三士の内の2人である鬼亜羅と髏鬼もいた。



「何故こんな事に」



 ショックを隠せないノブタケ。騒つきが止まらない武将たち。鬼亜羅は怒りに満ちた表情を浮かべ、髏鬼はただ静かに目を閉じていた。


 彼らの真ん中にはガマの葉で編まれた筵に寝かせれている3人の遺体。其々の上に更に筵が掛けられており、姿は見えない。しかし、筵に滲むドス黒い血と僅かな腐臭。


 この場にいる者全員が、あの3人が何者なのかは知っているのだ。



「此方です」



 そこへノブタケの従者に案内されてやって来たのは2人の男。近藤と土方であった。話を聞きつけた2人は、ノブタケの呼び出しを受けてここへやって来たのだ。



「まさかそんな!」


「な、那鬼亜……さん」



 2人もショックが隠せない様子だった。


 そんな2人が場にやって来るのを見るなり、1人の武将が声を荒げながら2人に向けて指をさした。



「おい、貴様らァ! 那鬼亜様に何をしたァ!?」



更に追従する様に何人かの武将達も声を上げる。



「貴様らかァ!? 貴様らが那鬼亜様を!?」


「おのれぇ余所者! 最初から怪しいと思っておったぞ!!」


「今ここで叩っ斬ってしまえェ!!」



 声を荒げた武将達が腰の刀へ手を掛けようとした。その時、三士の1人である髏鬼が彼らを制止させる。



「やめい!!」



 怒気の込められた声に武将達はすくみ上がってしまい、それ以上の行動が出来なくなってしまう。



「ノブタケ様の許可もなく客人達を斬ろうなどと……ましてや犯人と決まった訳でもなく。この愚か者どもがァ!!」



 続けて鬼亜羅も文字通り鬼の形相で、声を荒げた武将達を叱咤する。



「し、しかし鬼亜羅組頭……彼らは余所者でー」


「だからと言って彼らが那鬼亜達を殺した証拠にはならん!!」



 そこへ更に多数の武将達が口を開いた。



「鬼亜羅様の仰る通りです。ここ3日間、かの者たちは我等の里に住まっているが、何ら迷惑な事はしていない」


「然り。我が家族と使用人たちと一緒に畑仕事や洗い物や子どもの面倒も見てくれている。敵意のカケラなど微塵もない。むしろ、彼らのおかげで助かってる事が多い」


「いやはや全くですな」


「あんなに親切な方々とは思わなんだ」


「紛うことなく、彼らは白だ」


「お主たちは、彼らの悪い噂を少しでも聞いたことがあるか? 家内や、子や、使用人から……のう?」



 矢継ぎ早に近藤たちの無実を証言する武将たちの言葉に、声を荒げていた武将達からの敵意の雰囲気が無くなっていった。そもそも、彼ら自身、近藤たちが悪者でない事は気付いていた。


 それでも、余所者だからと彼等を犯人と決め付けてしまった。


 それほどに那鬼亜という人物の人望が厚く、皆から好かれていたのだ。


 そんな人物が無残に殺された。


 冷静になれなくなるのも無理はないと、他の武将達は勿論、近藤と土方も、彼等に対する哀れみを抱いていたのだ。


 しかし念には念をと、残りの隊員たちは古民家から一歩も出ないよう外出禁止令を受けており、周囲には見張り兵による監視も受けていた。


 那鬼亜たちを殺した者が何者なのか判明しない中、ノブタケは近くの木陰に目を向けて言葉を発した。



「オドゥオか?」


「ハッ、そうでございます」


「何かわかったか?」


「はい。つい先ほど、那鬼亜様たちを殺したと思われる者たちが判明いたしました」


「……では、姿を見せて皆にそれを伝えよ」


「ハッ」



 するとノブタケの直ぐ真横に何処からともなく、1人の小柄な男が姿を現した。


 その男は、まるで時代劇に見る忍びを服装をしており、緑色の肌に顔は布の様なもので覆っている。しかし、僅かに見える部分からその素顔が醜く歪んだ顔をしている事が見て取れた。



「オドゥオ、説明しろ」


「ハッ。先ず初めに述べさせ頂きますが、ニホン国の方々は白で御座います。あの屋敷には私の部下を配置させておりましたが、不審な動きをする者は誰1人としておりませんでした」



 近藤はとりあえず自分たちの疑いが完全に晴れたことにホッと胸を撫で下ろした。しかし、肝心の那鬼亜を殺した者達は分かっていない。


 オドゥオは話を続ける。



「此処からが重要です。那鬼亜様とその付き人2人を殺した犯人は聖天衆である事が判明いたしました」


「なんだとッ!?」



 この事実にタケノブを含めた全員が驚愕する。


 この国……少なくとも都郊外は霧の結界によって外敵の侵入から守っている。いかなる力を以ってしても、あの霧の結界を超える事は不可能であると皆が分かっている。



「それは誠か?」


「奴らが結界を超えてきたなど、とても信じられぬ」



 チラホラと彼の報告に疑いの声が出てくる。


 オドゥオは手を挙げると、彼と同じ服装をした忍びの者数名が叢から現れた。彼等は筵に包まった何かを運んでいる。


 皆が警戒する中、部下の忍び達が筵を地面へ置くと、それを広げ始めた。


 そこから出てきたのは1人の死体。しかし、その死体は近藤達も見たことのある服装をしていた。



「あの頭巾……まさか」


「はい。聖天衆の死体です。那鬼亜様の遺体から少し離れた小道の影におりました所を、私が仕留めました。無論……拷問に掛けた後で御座います」



 その遺体もかなり損傷していたが、皆が死体のある部分へと目を向け、そして確信した。


 彼の報告が事実である事に。



「見よ……あの『たりすまん』」


「メルエラ教の……紋章だ」



 死体の首にはタリスマンが掛けられており、円型の部分には謎の紋章が刻まれていた。それはフルールドリスに八芒星が組み合わせたような形をしていたる。


 どうやらアレがメルエラ教のシンボルであると近藤達は気付き、そのシンボルを目に焼き付けた。



「どうやら事実のようだ」


「しかし、ならばどうやって結界を?」



 各々の疑問を口にする中、オドゥオは話を続ける。



「拷問にかけた際、奴らは霧の角笛を使って侵入してきた事が判明しました」


「霧の角笛だと?」



 反応したのは髏鬼だった。



「あり得ん。天獄一派へと与した者でそれを所持している者は全て俺が斬り伏せた。もしくは、角笛を破壊したはずだ」


「承知の上です。それに、それを所持してたのは土瑠鬼でして、彼が那鬼亜様とその付き人2人を殺した犯人です」


「土瑠鬼!?」


「土瑠鬼だと?」


「あの裏切り者めェ!」



 土瑠鬼という男の名に皆が恨みと怒りの声を上げる。近藤達には、その土瑠鬼が何者なのかは不明だが、皆の言葉を聞く限りでは、どうやら裏切り者でかなりの強者である事が分かる。



「なるほど……分かった。オドゥオよ、その土瑠鬼はまだ結界内に居るのか?」


「ハッ! 間違い御座いません。」


「ふむ……奴の狙いは恐らく、我らの戦力を減らす事。そして我が国で保護している古代龍の抹殺」


「陛下、そうなるとかなり危険です。今まで結界があるからと結界内の警備を怠ったツケが来てしまいました」


「むぅ……そうだな。だが今更悔いても仕方ない。髏鬼、直ぐに兵を集められるか? 皆の者も配下の兵を出来る限り集めるのだ! それから里に住まう者達と城下の民達全員を城へと避難させよ!」


「じ、城下の民もですか!?」


「地下空洞を使えば十分過ぎる程避難出来る。出来るだけ急げ。聖天衆が何処に潜んでいるやも分からん」


「「ハッ!」」



 ノブタケの言葉に武将達が一斉に動き始めた。数は少ないが、団結力では天獄一派に負けていない。皆がノブタケという存在の元に1つとなっているのだ。



「オドゥオ、今奴が何処にいるか分かるか?」


「ククク……ご安心下さい、ノブタケ様。我が配下自慢の者達を偵察に付けております故、そろそろ定時報告が来る頃と思われー」


「失礼します! カシラ、一大事です!」



 そこへ何処からともなくオドゥオの部下が大慌てでやって来た。息が切れている様子から余程の事が起きたのだと、近藤達は理解した。



「何事だ! ノブタケ様の御前でー」


「も、申し訳ありません。しかし、一大事です! 土瑠鬼達の監視に向かわせた者たち全員との連絡が、沼の渓谷にて途絶えました!」


「なっ!?」



 オドゥオがその報告を受けて驚愕した。彼の自慢の部下達との連絡が途絶えた……それはつまり、土瑠鬼に仕留められた事と受け止めても可笑しくはない。



「ぜ、全員か? あの精鋭達を!?」


「お、恐らく……」



 オドゥオは苛立ちと悔しさを露わにして、ギリギリと歯噛みした。しかし、それよりも気になることがあった。



「待て! 沼の渓谷と申したな? で、では少なくとも奴らはもうそこまで……」


「そ、そう考えるのが妥当かと」


「バカな……夜通しの移動となっても、そこまでたった3日で辿り着ける筈がー」


「いや、土瑠鬼なら可能だろう」



 オドゥオの話を遮って答えたのは髏鬼だった。



「彼奴は主に古代龍の護衛を任としていた者。であれば、我々ですら知り得ない近道を使った可能性が高い。オドゥオの部下達もそのルートを通って来たのだろうが、それを報告する前に仕留められたか。となれば拙いですな。偵察の者との連絡が途絶えたという時間差を考えれば……奴らは後2日足らずで古代龍の住処へと辿り着きます。今から急いで向かったとしても、とても間に合いません」


「くっ! 古代龍を始末し、霧の結界が消える。そして、聖天衆の精鋭達が一斉に迫ってくるわけか」


「そうなると四鬼王達も動くでしょう。今から城の守りを固めて何とか間に合いましょうか」



 どうやら古代龍は殆ど諦めているようだった。無論、守れるのなら守りたいというのが正直な気持ちなのだろうが、迫り来る敵の脅威から民を守るためにも、民の避難と城の守りを固める事を優先しようとしていた。


 すると鬼亜羅が無言のまま、何処かへと行こうとしていた。髏鬼が何処へ行くのかと問い掛けるが、彼女はそれに答えない。しかし、怒りに燃えたその眼が全てを答えていた。



「チッ……バカが」



 髏鬼は急いで彼女を取り押さえる。鬼亜羅は必死の抵抗をするが、完全に抑え込まれた体勢から逃れるのは不可能だった。



「離せェェェェェ! 殺してやる! 那鬼亜を……友を殺したアイツは……もう師匠でも何でもない!! この手で殺してやるゥゥゥ!!」


「痴れ者め!」



 鬼亜羅は髏鬼の当て身を受けて、そのまま気を失った。



「ふぅ……おい、この馬鹿を城の中まで運んでやれ」


「は、ハイ」



 髏鬼はオドゥオの部下に命じて、鬼亜羅を城内へと運んで行った。



「さて近藤とやら……お前達は今色々と混乱しているだろうが、今ここで説明するべきだろう。我が国と古代龍の関係を」



 タケノブは近藤達を客室へと案内した後、神妙な面持ちで話し始めた。



「時は500年も昔に遡る。当時、我が国には『原初の龍』と言う13の存在がいた。それらは後に『古代龍』と呼ばれ、数多の伝説として語り継がれている。噂では蛮界には龍人族が使役する古代龍がいると聞いたが、我が国に長く居座る(おきな)の話では、「古代龍としてはまだまだヒヨッコ」らしい」



 近藤と土方は中ノ鳥半島基地へ突如現れたあの古代龍を思い出した。確かに龍人族が使役する古代龍であったが、その大きさはまるで空飛ぶ鯨を思わせる威圧感を漂わせていた。そんな龍が本物の古代龍からして見ればヒヨッコと言うのだから、その翁と呼ばれる古代龍がどれほどの存在なのかまるで想像出来なかった。



「その13の古代龍達は、この国……当時のガルヴァス王国の人里離れた山々を住処としていたが、何千年も昔は世界各地をまわり、その土地に住まう者に知恵を授けたと聞く。その知恵を受けた者たちは、後に国を築いた。そして、彼らは古代龍達を『空の賢者』と崇めたとの伝説がある」


「空の賢者……ですか?」


「うむ。翁から聞いた話では、まだ彼らが成龍にもなりきれん頃、神霊界の使者から叡智を貰い受けたらしい」


「神霊界?」



 2人はその言葉に疑問を抱いた。


 数千年前、世界各地を飛び回り、人々に文化や国を創る為の知恵を与えた古代龍に、その神霊界という場所から来た者たちが叡智を与えたという。



「神霊界とは何なのですか?」


「ん? 神霊界とは……」



 ノブタケは開かれた縁側から見える空へ目を向けた。



「青々と漆黒と美しさに満たされた……空」


「まさか……う、宇宙?」


「ん? ニホンでは『宇宙』と呼ぶのか?」



 2人は絶句した。あのポーカーフェイスの土方も開いた口が塞がらなかった。


 つまりこの世界の文明・文化は遠く遠く遡れば宇宙から来た使者……つまり『宇宙人』からの知恵である。そして、それは宇宙人は存在する事にも繋がった。


 とんでもない所でとんでもない真実を知った2人であったが、それは、頭の片隅に置いておく事にした。


 2人がここまで驚く理由が分からないノブタケであったが、敢えて触れずに話を続けた。



「翁の話ではその後、多くの国が生まれたらしい。しかし、それは同時に戦の世を広める事となった。異なる文化、異なる価値観、異なる種族……そして飽くなき欲望が争いを生み出し、世界は混沌と化した」



 2人は彼の言葉は自分たちが前までいた世界……地球の歴史に置き換えた。そのどれもが地球における争いの歴史に酷似している。


 世界は違えど、自分たちと異なるという理由から、争いが起きるというのは変わらないのだと実感した。



「それはこの国とて例外ではなかった。悪政を敷き、多くの民を苦しませた当時の魔王も混沌と化した世の毒気に侵され始めていた。そして世の繁栄を願ったばかりに戦争の世へと変えてしまった事に自責の念を抱いた古代龍達は、とある秘術を決行した」


「秘術……ですか?」


「転移魔法だ」


「ッ!?」



 2人は驚愕した。転移……それはまさに日本がこの世界へ来る事になった原因がその古代龍達にあったと言う事実にただ驚いていた。しかしまだ本当にそうだとは分からない。2人は質問したい気持ちを抑えながら話を聞いた。



「古代龍達は世を泰平へと導く存在を呼び出そうとした。そして、呼び出されたのが……燃え盛る寺院だったそうだ」


「燃え盛る?」


「突如として現れた燃える寺院に、翁達も驚いたらしい。だが、直ぐにその寺から3人の異世界人が現れた。そして、その3人こそ今のオワリノ国を創り上げた存在で、我が祖先オダ・ノブナガ様だ。残る2人はノブナガ様の家臣でモリ・ランマル様とヤスケ様だ」



 その寺院は恐らく本能寺で、燃えていたのはあの本能寺の変であると気付いた。


 明智光秀の謀反により襲撃を受けた織田信長の最期の地である。しかし、焼け跡からは彼の遺体は見つからなかった事から、何処かで生き延びたとの話も出ていた。森蘭丸もその本能寺の変によって安田国継によって討たれた。そして、元召使いの黒人で当時の信長の従者だった剛力武者の弥助は様々な逸話があるが、本能寺の変で生き延び、信長の息子を守るために奮起した。



「ノブナガ様は2人の従者と共に同胞を集め、国取りを仕掛けた。奇想天外な戦術と豪快かつ柔軟な思考で、当時の魔王の配下を悉く討ち破り……そして、魔王を打ち取ったのだ」



 信長という人物が一体どんな存在だったのかを熱く語るノブタケに、近藤達は何か新鮮な気持ちで話を聞き続ける。



「ノブナガ様によりこの国は新たに生まれ変わり、オワリノ国となる直前、古代龍側である問題が起きたのだ」


「問題?」


「翁曰く、考え方の違いによって半分の仲間と衝突したとの事だ。ノブナガ様によって我が国は平穏を取り戻し、更には諸外国にまでその影響力を伸ばそうと考えていた。その事に半分の仲間は賛同したが、もう半分は反対したらしい。翁曰く、『1つの価値観を持つものが世界を統治しては多様性が欠けてしまい、世の繁栄と泰平は望めない』というのが反対側の意見だそうだ」


「そ、それは……」


「むぅ……翁はそのときのことを思うと、彼らは恐れていたのやも知れない、と言っていた。1人の強大なカリスマが自分たちを脅かす存在になり得るのでは、と」



 2人はその言葉に絶句した。世の泰平を望んでいた存在が、そんな事を考えてしまえば本末転倒だからだ。泰平にするために呼び出した存在に、自分たちの居場所が脅かされるやもと怯えるなど。


 その翁達が衝突するのも無理はなかった。



「そして反対派の古代龍達は、いつからか世を支配する絶対の神……創造神と成る事を望み始め、翁を含めた残りの古代龍達と完全に対立した。彼らは自分たちの手駒となる絶対的な力を有する存在を手に入れるべく、極大の転移魔法を唱えたのだ。そして人ではなく、国そのものが現れた。その国こそ……」


「レムリア共和国……というわけですか」



 レムリア共和国。

 500年前にこの世界に現れた最初の転移国家。メルエラ教を国教とし、支配下は勿論、自国の影響下にある国々をも教化にてメルエラ教を信仰の対象と化す事で、今やこの第2世界の覇者と言っても過言ではないほどの勢力を誇る。


 その強欲な古代龍達は自分達の傀儡として世界を支配する存在を呼び出したのだ。



「しかし、その古代龍達に2つの誤算が生じた。それはレムリア共和国の力が、当時の世界にとってはあまりにも強大な力を有していたこと。そして、その国の者たちの支配欲は古代龍よりも遥かに強かったのだ。それは正に深淵の如し。フフ……聖神だの、唯一神だの世のため人のためと綺麗事をベラベラと抜かすわりには、やる事なす事は野蛮な侵略国家と変わらんな」



 ノブタケの話を聴くと、強欲な古代龍達は転移したばかりのレムリア共和国へと降り立ち、自分達こそがこの世界の王であり、支配者であると。そして自分たちの代わりに世を導く存在となる事を助言した。その代わり彼の国に古代龍達こそが知る『魔導の知識』を与える……と。


 レムリア共和国は先にその魔導の知識を教えて貰う事を条件に、彼らの手足となる事を誓った。そして謎の国が現れた事を世界が認知し始めた頃、手厚い弾丸の雨を挨拶とした、聖教化戦争を開始したのだ。



「これが後の……第2世界における最初の大戦である」



 大戦。それを聞いて近藤達は地球で起きた第一次、第二次大戦を思い出していた。


 あれらの戦争で出た犠牲者の数は5000万〜8000万人と言われている。しかし、そのレムリア共和国から仕掛けた第2世界での世界大戦は、圧倒的な技術力を持つレムリア共和国が終始一人勝ちの状況が続いた。


 そして犠牲者の数は2500万人と途轍も無い数で、15を超える中小国が滅びた。


 しかし、近藤はここである疑問を抱いた。



「すみません。そのレムリア共和国が始めた大戦の事実は、霧の向こう側には何も記述がありません」


「無論だ。その時には既に、ノブナガ様のお陰で、此方側と向こう側を隔てる霧の壁が出来たのだからな」


「の、信長様が?」



 更に詳しく話を聞くと、最初、信長はメルエラ教に対しそれなりの期待感を抱いていた。しかし、腹心とも言える家臣達や翁を含めた古代龍から彼の国の真実を聞いた時、期待感が強い危機感へと変わった。そこで、信長は翁達に世界を二分にするほどの巨大な霧の壁を作るよう要請した。



「その結果があの霧の壁……ですか?」


「うむ。しかし既に国内にはメルエラ教を信仰とする者が増えておってな……仕方なくオワリノ国にメルエラ教信者を隔離する区を設立させ、そこでメルシタン達に祈る事を許したのだ。下手にメルシタンだからと粛清しては後々の収拾がつかなくなるからだ。そして、その区こそが『惠奠(エデン)』。天獄一派の本拠地だ」


「その……天獄とは?」



 ノブタケは怒りと悲しさを持った目で語り始めた。



「彼はノブナガ様にその『惠奠』の管理を任された腹心の血を引く者だ。かつての良き理解者だったらしい。しかし今ではメルエラ教に毒され、この国をメルエラ教の下へ置こうと転覆を図っている。その為多くの家臣達もその道に連れ込んで、な」


「そうだったのですか……」


「うむ。その中には鬼亜羅や髏鬼に並ぶ、四士と呼ばれていた頃の一角もいる。十分に警戒をするべきだろう」



 近藤達の背後で激しい歯軋りの音が聞こえた。音の発生源はいつのまにか目を覚ましていた鬼亜羅だった。


 髏鬼は相変わらず眉を動かさずに目を閉じて静かに座っていた。



「その後、強欲な古代龍達はレムリア共和国の裏切りのよって殺された。『魔導の知識』を貰い受けた彼の国は、もはや古代龍は不要と判断して手に掛けたのだ。これにより一層レムリア共和国は暴走し、さらに何度か大戦も起きた。その間にレムリアでも国が帝政へと変わったらしいが、そんなの知ったことでは無い」



 どうやらレムリア共和国でも何度か国が変わる出来事があったようだが、500年もの歳月ならばそれも不思議では無いと思えた。



「ノブナガ様達が亡くなり、我が国はレムリア共和国の魔の手に脅かされることない日々を送っていた。しかしあの霧は膨大な量の魔力を消費する為、長い年月が経つごとに一体、また一体と魔力が尽きて衰弱する古代龍が現れた。それで世の泰平がレムリア共和国に脅かされることを危惧した古代龍達は裏切り者達と同じように、レムリア共和国に対抗できる国を転移召喚する事を決めた。しかし既に衰弱しかけた古代龍達では上手くできる保障がなかった。それでも彼らは実施した。その結果、半分の古代龍が死に、新たな転移国家が現れた。もう30年近く前の話だ。その国は霧の向こう側に現れたらしい」



 近藤達はその国がヴァルキア大帝国であると気付いた。どうやら彼の国はレムリアの対抗するための存在として召喚された国らしい。


 しかし魔導の知識を得たレムリア共和国は更に技術力を高め、『魔導科学』なるものを見出した。それにより、レムリア共和国は更なる繁栄と発展を成し遂げていく。


 生き残った古代龍達はこれではレムリアに対抗出来ないと判断し、最早全滅する覚悟で、一年近く前に最期の転移召喚を行った。


 それで召喚されたのが、日本国だった。



「その後、霧の向こう側へも影響力を伸ばそうとするレムリア共和国の刺客達に、弱り切った古代龍は殺されていった。我々は成す術なく気が付けば生き残ったのは翁だけとなり、今でも彼1人であの霧の壁を作っている。もうまともに動くことすら出来ず、霧の壁には僅かな抜け道も出来た」


「その抜け道からハルディーク皇国が第2世界の国々と……そして、戦火の火種が霧の向こう側へと齎された、と言うわけですか」



 近藤の言葉に土方も頷いた。


 そして理解した。


 レムリア共和国は思っていた以上に危険であると。



「それから恐らく、この霧ももうすぐ消えるだろう」


「え?」



 ノブタケの言葉に近藤達は思わず聞き返してしまう。しかし、ノブタケは気にするでもなく、静かにその真意を答えた。



「もうそろそろ翁の魔力も尽きるからだ。これだけ大きな魔力を帯びた霧を維持し続けるなど、幾ら古代龍といえど一体だけでは不可能だ。それでも翁は霧を生み出すことをやめないのだ。死にかけた国を捨てず、我らを守り続けている」


「誇り高い古代龍……だからでしょうか?」


「いや、奴が今でも馬鹿正直に守っている理由は至極単純。それがノブナガ様との…大好きな友との約束だからだ」



 何故ここまで義理堅く霧を起こし続けているのか、遅かれ早かれ消える霧を生み出し続けているのか。


 もっと合理的な理由を想像していた2人だったが、その理由がとても真っ直ぐかつ単純だってことに、驚いた。


 あの第六天魔王は異界の地で古の龍と、弛まぬ絆を築いていたのだ。




ーー

 数時間前


 霧の壁内



「旦那方ァ! 古代龍の落ち着きが無くなってきたァァ! 多分そろそろ、霧の壁を抜ける!」



巨大な龍ーー 古代龍 ーーの背に乗って操縦している龍人族が後方へ向けて語り掛けると、黒いフェイスマスクを被り、迷彩服を見に纏った集団のリーダー格が親指を立て、「了解」の意思を伝えた。



「はっきり言って此処から先はなーーーんもワカンねぇ未知の世界だァ! だから、霧を抜けたら直ぐに引き返させて貰うが、アンタらァどうやって降りー」


「問題ないですよ」


「ンォ!?」



 再び振り返ると、後方にいた筈のリーダー格の男が直ぐ目の前まで近付いていた。振り返った先に突然現れた事に驚きの声を上げてしまう。



「そ、そうかい。んじゃあ気ぃ付けてな」


「ハイ、どうもお世話になりました」



 特戦群一行が彼に敬礼を送ると、何の迷いもなく古代龍の背から飛び降りた。


 そして、パラシュートを開き、ゆっくりと陸地へ向けて降りて行く。


お気付きかと思いますが、レムリア共和国とヴァルキア大帝国は同じ世界から来た転移国家です。


後々、その点についてた出来るだけ詳しく載せていくつもりです。

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