第113話 襲い来る魔の手
特に仲が良いわけでもない、職場の人とプライベートで会う時ほど、気まずいものはない。
ーー日本国 東京都 政府管轄の某ホテル
「ふぅ……疲れた。ニホンは凄い国だが、あまりにも我らの常識とはかけ離れ過ぎていて理解に困る。」
政府管轄のとある某ホテルの特殊なゲストルームに、ドラグノフ帝国の皇子であるファヴニールはいた。
ベッドに腰をかけながら、テーブルに置かれたウォーターポッドの水をグラスに注がずにがぶ飲みする。
このホテルには現在、使者として来ている各亜人族国家の代表者達が寝泊りをしていた。その為、その造りは少しだけ特殊となっており、出入り口はいちいち屈まないように高くしており、ベッドや壁も頑丈な造りになっている。
また酒類が好物の種族もいる為、冷蔵庫には多量の酒が用意されている。中には水人族もいる為、寝室にはベッドの代わりに大きな水槽を用意していた。
このように、このホテルは亜人族に適応した特殊なホテルとなっている。主に国賓館として使われた。
ファヴニールが部屋で寛いでいると、誰かが部屋をノックする音が聞こえて来た。
「申し訳ありません、ファヴニール様。御目通り願いたいという方が……。」
声の主はファヴニールの従者だった。
何事かと思いファヴニールは中に通すよう伝えた。すると、ドアが開かれた先に居たのは、外務大臣の安住とその後ろに見知らぬ男がいた。
安住のことは無論知っているが、もう1人の男性は見たことがなかった。しかし、その身なりから安住と同格の存在である事は見てわかった。
「これはこれは、安住殿ではありませんか。」
「お疲れのところ申し訳ありません、ファヴニール様。実は少しお話が御座いまして。」
ファヴニールは思考を巡らせる。
この時間帯にわざわざ訪れるというその意味は、間違いなく他国には話せない、2国間での何かしらの話し合いであると考えた。
ファヴニールは頷き、構わない事を告げると、後ろの男性が前へ出てきた。
「突然の来訪にその落ち着きよう。流石は百戦錬磨である龍王バハムート様の御子息。」
「ふむ。父上を知る者か?」
「お初にお目にかかります。私は日本国総理大臣の広瀬と申します。以後、お見知り置きを。」
「むぅ?ヒロセ…ヒロセ?……ッ!?」
一瞬、考えた後、ファヴニールは気付いた。
父であるバハムートから、日本を統治する王の名前がヒロセである事を思い出したのだ。
ファヴニールは直ぐに片膝を付けて跪き、従者も慌てて彼の動きに合わせて跪いた。
「も、申し訳ありません!まさか、ヒロセ王とは知らずー」
「ま、誠に申し訳ありません!」
突然の行動に驚いた広瀬は慌てて2人を立たせる。
「い、いやいや。そんな跪くとかはやめて下さい。そんな大それたものじゃあありませんし、私は王ではありませんよ。」
「え?お、王では無い?」
ファヴニールは彼の言葉を聞いて呆気にとられた。そして、ここでは何だというわけで、ファヴニールの部屋へと一先ず入ることになった。
ーー
ー
「つ、つまり……総理大臣という役職は、我々でいう宰相の様な肩書きである、と?」
「簡単に言えばそういう事です。」
「何と…そうでしたか。」
広瀬の役職について一通りの説明を受けたファヴニールだったが、少なからずまだ困惑している様子だった。彼の国に限らず、この世界では、よほどの事情が無い限り宰相が国の実権を握る事はありえない事らしい。
そもそも国の実権を得て支配しているわけでは無いのだが、そこも含めて後日説明する必要がある事を広瀬と安住は深く実感した。
そして、何故2人が彼の元へ訪れたのか、その本題に入る。
「率直に伝えます。我が日本国は、次の列強国会談にて、空席であるもう1つの席に、ドラグノフ帝国を推そうとしています。」
「ッ⁉︎」
予想の斜め上をゆく発言にファヴニールは空いた口が塞がらなかった。
「正確に言えば、各亜人族国家間で連盟を組み、亜人族国家連盟の代表者となって頂き、そのトップ…つまり盟主に貴国を推したいのです。」
「ま、待ってほしい。た、確かに列強国入りする事はとても魅力的な話ではある。まだ残りの一席が空いていることもしっています。しかし、何故我が国を?エルフの国やドワーフの国も十分な強国です。」
当然の疑問である。上手い話には必ず裏がある。それが個人による問題であれば良いが、それが国レベルとなればシャレにならない。
ファヴニールは冷静に物事を考える。
「理由の1つが、貴国は亜人族国家でも最強の国であるということ。並大抵の高度文明国家では太刀打ち出来ないほどに。もう1つはその強さ故に多くの亜人族国家から一目置かれている為、連盟の代表者としては申し分無く、まとめやすいからです。さらにもう一つ…ですが、これは、我が国から貴国に対し要請したい事が御座います。」
ファヴニールはやはり来たかと内心で呟いて、彼の発言に耳を傾ける。
「霧の壁へ向かった調査隊捜索のため、貴国の助力を要請したいのです。」
広瀬の言葉にファヴニールは首を傾げた。
「霧の壁…捜索…まさか、第2世界へ人員を派遣したのですか⁉︎」
驚きのあまり立ち上がったファヴニールに、広瀬は眉ひとつ動かさずに頷いて答えた。ファヴニールは力無く椅子へもたれ掛かる。
「何と…貴国には『恐れ』というものがないのですか!?確かに…霧を抜ける術を持っていないワケではありません。しかし、それでも霧の向こう側に関わらないのは、危険が大きいからです。どんな災厄が訪れるか…分かったものではありません。」
触らぬ神に祟りなし。余計な事をすれば不幸が来る事をファヴニールは訴えて来た。日本の行動はまさにこれに該当する行為であると。しかし、今現在まで日本が関わって来た争いごとの殆どに、少なからず第2世界の国…とりわけレムリア共和国が絡んでいる事が明らかとなっている。
日本としては後手でこれ以上受けるわけには行かず、何かしらの先手を打つ必要があった。
「我々は何かしらの一手を出す必要があると判断しました。リスクは高いですが、後手にばかり回っては、テスタニア帝国、クアドラード、ハルディーク皇国と同じような手を使われる可能性が高いです。そうなる前に、此方からも動く必要があるのです。」
ファヴニールは今一度深く考える。確かに広瀬の言い分には是がある。しかしー
「ふむ……どちらかと言えばデメリットの方がデカい気がしますが……分かりました。貴国の要請には応えましょう。ニホン国との交渉ごとは私に一任しても良いと了承を得ています。しかし、此方としても条件があります。」
「ほう、それはどんな条件でしょうか?」
「貴国の……いや、広瀬殿の真の狙いを教えてもらいたい。ただの救出要請の見返りが、列強国のイスではどう考えても割に合いません。本当は後から何か吹っかけてくるのでしょう?」
ファヴニールの鋭い目が広瀬の目を見ていた。対して広瀬も臆する事なく相手を見据える。
数秒の沈黙の後、広瀬は薄く笑みを浮かべながら答える。
「やれやれ…これでは我が国が腹黒いと言っている様なものではないですか。」
「フフッ……国と国との会談は常に腹の探り合い…腹黒くなくては小国すら守れません。寧ろ、貴国の腹の内を聴くことが出来て、我々としては非常に幸運でした。」
すると広瀬は数枚の資料をファヴニールに手渡した。既に中身は現地人に翻訳させているため、問題なく読むことか出来る。
ファヴニールはその紙に目を通すと、目を見開いて驚いた表情を見せた。
「こ、これは…⁉︎」
「検討…していただけますかな?」
「む、むぅ……こんなものを…か、可能なのか!?……だがしかし、ニホンであれば…可能なのでしょう。……わかりました、認めます。他の亜人族国家への説得も任せて下さい。まぁ……連盟として列強国の甘味を得られるのなら、奴らは喜んで了承するでしょうけど。」
苦笑いのファヴニールに広瀬はニッコリと笑顔で返した。
「ありがとうございます。我々も必ず、貴国を含めた連盟を列強国の席へと導きます。」
2人は握手を交わした。
その後、ドラグノフ帝国がニホン国との堅固な友好国としての意を世間へ示すため、後日に抜き打ちの会談と称した茶番を演じる事となった。
そして、これらの出来事は瞬く間に日本国周囲の異世界国家中に広がり、列強国日本は、亜人族国家と友好的かつ密接な絆を有している事を知る事となる。
その為、日本との国交活発化や利益、または軍事力を目的とした中小国が、亜人族に先手を打たれたと悔しがっていた事を日本は知らない。
ーー
日本国 某所
廃れた採掘場跡地に、複数人の黒い人影がいた。
『それら』はー
全てが『黒』だった。
ーーー顔。服装。履物。そして、雰囲気や気配までもが『黒』だと感じた。
彼らは別班。
日本が有する暗殺、工作、隠密など…日本を裏から守る超極秘組織である。
そこへ更に数人の黒い影の集団が現れた。集団は一糸乱れぬ動きで、物陰から物陰へと移動し、物音一つ立てなかった。しかし、既に集まっていた1人の男が、そこにいるのが既に分かっているかのように物陰へと声を掛ける。
「一里塚、唐松等の…?」
「…老鴉。」
合言葉を確認し合うと、物陰から数人の男たちが現れた。
「隊長、これで指定された者たちは全員です。」
隊員の1人が隊長に向かい報告をする。
「良し。じゃあ、今回の任務を説明する前に……新しい隊員を紹介する。」
そう告げると皆の前に1人の男が出てきた。
その素顔は見られないが、その纏う雰囲気は他の別班たちと同じ、『黒い』ものを感じた。
「坂部です。よろしくお願いします。」
軽く頭を下げた坂部と名乗る新入りを見て、隊員の1人である野村が口を開いた。
「へぇ…今度は坂部ですか。隊長、もう少しイカした名前付けましょうよ。」
軽いノリで話す野村に隊長ーー 鈴木 ーーはため息混じりに声を出した。
「野村。ふざけたことを抜かすな。」
「お〜怖い怖い。んで、坂部。お前は何をやらかしたんだ?」
隊員の1人が軽い感じで問い掛けると、坂部は静かに答えた。
「殺人7、放火殺人5。」
「ウハッ!そりゃあ、死刑にもなるわな!」
「野村……。」
ふざけた感じの野村に隊長がドスの効いた低い声を発した。それを聞いた野村は流石に拙いの感じ、静かに身を引いた。
「さて…先ずは今回の任務は2つ。1つは霧の壁を抜けた調査隊の捜索もしくは救出。もう1つは現地調査だ。既に分かっている通り、霧の中では一切のテクノロジーが通用しない。よって、中を抜ける為に、ドラグノフ帝国からの協力を受ける必要がある。我々はその際、特戦群の隊員として向かう事になる。」
「成る程…以前、国内の武装テロリストどもを始末した時と同じように、特戦群に扮するので?」
「まぁそういう事だ。作戦開始は明後日の『1200』だ。」
「「ハイ。」」
皆の返事を聞いた鈴木は一呼吸置いた。
「では諸君…解散。」
隊長が解散を告げると、廃れた採掘場は再び人気の無い静寂の世界へと包まれた。
ーー第2世界 オワリノ国 武家の里
オワリノ国の主、オダ・ノブタケのすすめもあり、近藤達はオワリノ国の武士達が住まう『武家の里』へと案内された。
案内人はノブタケに使える大侍、三士の1人…那鬼亜である。彼女はポニーテールと八重歯が特徴的な野生味溢れる雰囲気を持つ角人族で、肌身離さず槍を持ち歩いている。
そんな彼女の案内の元、近藤たちは今は空き家となっている大きな古民家へと辿り着いた。
「此処っす!此処がアンタ達が使う家になるっす!基本的に武家の里なら自由に行動しても良いっすけど、里の外へ行くんならノブタケ様の許可が必要っす!」
元気一杯な那鬼亜に対し、近藤達は礼を述べると、荷物一式を家の中へと片付けた。
「衣食住まで世話になってしまい…感謝に絶えません。」
「気にしないで欲しいっす!鬼亜羅ちゃんの妹ちゃんを助けてくれた人なんっすから、これくらいの事は当然っす!じゃあ自分は稽古があるから失礼するっす!何か困った事があれば、武家の人達に聞いてみると良いっすよ!じゃあ、お疲れっす!」
隊員達は那鬼亜を見送った後、一度家の中へと集まり、今後どうするかの話し合いを始めた。
「どうします、隊長?」
「行方不明の隊員達も心配です。」
近藤は一呼吸置いた後、隊員達へ告げる。
「皆、色々と不安を抱くその気持ちはわかる。だが、今下手に動くのは愚策だ。幸いにもこの国の王であるノブタケ氏は、我々に友好的な様子だった。今はその親切な行為に甘え、一先ず落ち着こう。明日、武家の皆さんにお願いして、残りの隊員達の捜索の助力をノブタケ氏に申し願おう。もし上手く見つかれば合流し、霧の壁を抜ける為の策はその時に考えるとよう。」
「「ハッ!」」
力強い隊員達の返事を聞き、近藤は心強く感じた。そして、後ろで待機していた第五世代の『WALKAR』の『ウルフ』へ声を掛ける。
「ウルフ、お前には引き続き信号を送って、壁の外への連絡を試してくれ。」
『分かりました。』
「良し!…先ずは里にいる方々へ挨拶回りと行こうか。俺たちは余所者だからな。挨拶もなしってのは失礼だ。」
「「ハッ!」」
『菓子折りは必要ですか?』
ウルフのセリフに場がドッと笑いに包まれた。緊張の糸が解れた事で、皆が心の底からリラックス出来た一時を近藤も心の底から楽しんだ。
ーー
その夜、部下達の稽古を終えた那鬼亜は、夜道を歩いていた。その背後には2人の部下を従えている。
「いや〜、今日も月が綺麗っすね〜!」
「組頭…その意味、分かって使っているので?」
「自分…本気にしますよ。」
「え?何がっすか?」
槍を肩に担ぎながら那鬼亜は、ご機嫌で空を見上げている。2人の部下達も少し揶揄うが、それが通じない事に肩を竦める。
「何のことかわかんないっすけど……その本気を次の稽古で見せて欲しいっす!」
鼻唄混じりの軽快な足取りで夜道を歩く彼女の後ろで、部下達が苦笑いを浮かべる。
「はぁ〜…全くこの人は変わらないなぁ。」
「でも、そこが魅力的なんだよな。いつ天獄一派率いる聖天衆が襲い来るかも分かんない中……あの人の笑顔は力をくれるんだからなぁ。」
「あ、あのよ……お、俺…天獄一派を討伐したら……な、な、那鬼亜の組頭に……告白…しようと思うんだ!」
1人が彼女に聞こえない程度の力強い声で話すと、もう1人がニヤニヤと笑みを浮かべながら彼の肩を叩いた。
「ほほ〜う…お前も抜け目無いねぇ。三番組の隊員達みんなが組頭を狙ってるってのに……まぁ、組の2番手…『看板』の役職を持ってるお前なら…文句はねぇか。しっかりやれよ!!」
「ちょ、声でかい!」
「何言ってんの?こんくらいでオドオドすんな!そんなんじゃあ、丈夫な子が作れねぇぞ!」
「ったくお前はー」
「ちょっとちょっと、な〜に話してんっすか?私にも教えて欲しいっす!」
気が付けば、前を歩いていた那鬼亜が顔を覗かせる様に2人の側に近づいていた。
「あ、いや…そのぉ…。」
「悩み事っすか?だったら、遠慮なく私に相談して欲しいっす!この胸でドーーンっと受け止めてあげるっすよ!」
そう言うと那鬼亜は、満面の笑みで両手を広げた。胸部には巻かれたサラシが露わになる。キツく巻かれている為、大きめの胸部が一層強調されており、部下達はその光景に思わず動揺してしまう。
「え?な、何を!?」
「あわわわ…!」
「さぁさぁ!遠慮無く……!?」
突然、那鬼亜は槍を構え、つい先ほどまで通って来た道を静かに見据えていた。その行動をすぐに読み取った2人の部下も、腰に備えていた刀を抜いた。
「組頭…何者でしょうか?」
「分かんないっす…でも、敵なのは間違いないっす。」
「何か来ます。」
暗闇が覆う不気味な道の奥から、頭巾を被った黒装束の集団が現れた。その手には2本の仕込み刀、刀、短槍、鎖鎌…各々が自分に合った武器を持っており、明らかな殺意が込められている。
「聖天衆っすね……どうやって此処まで来たのかは分かんないっすけど、ノブタケ様の国を我が物顔で歩くのは…イラッとするっすね。」
「どうします、組頭。」
「簡単な事っす……何人か生け捕りにして、残りは皆殺しっす。そうっすね…2、3人くらいいればいいっすかね。」
「「了解!」」
3人は聖天衆に向けて飛び掛かろうとした瞬間、那鬼亜の片頬に生暖かい何かが掛かった。驚いた那鬼亜がその方向へ顔を向けると、部下の1人の左腕が斬り落とされていた。
そして、目の前に一本の大刀が地面に突き刺さった。
部下の左腕が背後から投げられた大刀によって切断されたのだ。
「な、何だと……!?」
「こ、この大刀……まさか!?」
那鬼亜は後方へ顔を向ける。奥から大柄な巨躯を持つ頭巾頭の男が歩み出て来た。その片手には、投げられた大刀と同じものが握られていた。
「ど、土瑠鬼…さん!アンタっすね!!」
大男の名は土瑠鬼。天獄一派、聖天衆の大幹部、四鬼王の1人である。
「久方ぶりだな、那鬼亜。元気にしてたか?いや、これから死にゆく者にこんな事を聞くのは間違い…か。」
落ち着いた口調で話す彼に、那鬼亜は眉を顰める。
「本当に…天獄に毒されたっすね。貴方ほどの猛者が、あんな胡散臭い宗教にハマるなんて…見損なったっすよ。」
一方、片腕を斬り落とされた那鬼亜の部下は、最初こそ驚いていたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、裾の一部を切り裂いた後、瞬時に裾で巻き付けて止血を行った。
「大丈夫っすか!」
「問題ありません!しかし……まさか、土瑠鬼の組頭が来るとは。」
「前方に聖天衆の集団……後方に元四士の土瑠鬼さん!ヤバイです!」
既に3人の周りには聖天衆が取り囲む様に配置されていた。彼らは鍛えられた戦士であるため、各々の邪魔にならない距離を保ちつつ、隙のない包囲網を構築している。
「これは…ちょっと不味いっす。」
「那鬼亜よ……昔のよしみだ。最後の慈悲を与える。天獄様に忠誠を誓え。そして、メルエラ教を信仰するのだ。」
大刀の剣先を向けて交渉を持ち掛けた土瑠鬼であったが、那鬼亜は鋭い眼光を向けながら力強く言い放った。
「断るっす!私はそんなモンに縋るほど…心は弱くないっす!」
「残念だ……。冥土の土産に教えてやろう。何故、我らが霧に覆われた都郊外にまで侵入できたのかを。」
そう告げると、土瑠鬼は懐から竹笛の様なモノを取り出した。それを見た那鬼亜は驚きの声を上げた。
「それは…!?」
「そう……古代龍の角のカケラから作りだした角笛だ。本来これは、四士にしか与えられない貴重品。私が裏切った時、髏鬼によって壊された筈のコレは……偽物だったのだよ。」
「なに…!?」
「さぁおしゃべりは終わりだ。『羅刹』の異名を持つこの土瑠鬼の剣を受けて…死ね。」
ーー
3日後……那鬼亜とその部下2人は、山道の外れで死体となって見つかった。




