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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第7章 オワリノ国編
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第112話 よぎる不安

遅くなりました。

 ーーレムリア共和国 首都ティル・ラ・ノーグ



 多数の現代的な建造物と中世を思わせる歴史的な建造物が建ち並び、中央地区には高層ビルもいくつか建てられている。


 首都内には多くの魔導車が走っていた。魔導車は地球でいうところの自動車にあたり、第2世界の先進国では国民達の移動の足として広く使われている。


 首都郊外にある東西南北の四方には4つの塔が建てられており、それらを守るよう首都防衛司令基地も4つ存在していた。


 東聖塔『イステ』基地

 西聖塔『オエステ』基地

 南聖塔『アルサル』基地

 北聖塔『ノルテ』基地


 4つ全ての基地は基地と言うより要塞に近く、難攻不落と言っても過言では無い程の武装と堅固な造りとなっている。


 郊外とはいえ、首都にここまでの軍事基地を備える理由は、言わずもがな4つの塔にある。


 4つの塔には首都全体に巨大なドーム状の魔導障壁を発生させているという、首都防衛において重要な役割を果たしているからだ。


 それらはこの首都に限らず、レムリア共和国内の各都市や政府直轄の重要施設にも対害魔導障壁(聖塔)が建てられている。本来であれば1つ建てるだけでも充分であるが、この場所はレムリア共和国の首都という事もあり、4つも存在している。


 この魔道障壁は敵の攻撃から都市を守る為のものであるが、都市内を飛び交う飛空艇がぶつかる事は殆どない。事前に通告もしくは登録されていれば、ぶつかる事なくすり抜ける事ができるからである。


 その為、神都上空を飛空艇が魔導障壁に気にする事なく飛び交う事が出来るのだ。



 魔導科学の技術と叡智の結晶と言っても過言ではない首都は、アメリカでいうところのホワイトハウスにあたる大聖城『エル・ディオス』の最上階テラスから誇らしげに眺めていた一人の男がいた。



「偉大なる先人達が今日まで築いたこの光景を観ていると……つくづく我がレムリア人は崇高なる聖神にして唯一神であらせられるメルエラの寵愛を受けているのだと実感できる」



  第2世界最大にして最強を誇るレムリア共和国は、この世界では魔導科学と呼ばれる技術が発達しており最先端の技術力を有している。


 その男……レムリア共和国第103代大統領が長男、バークリッド・エンラ・ルデグネスがそこにいた。


 鼻から大きく息を吸い込み、吐き出すと、上機嫌で室内へと戻ろうした。その時、テラスに大きな影が覆う。


 既に取手へと手を伸ばしていたバークリッドは、振り返り空を見上げた。



「おお……アレは中央聖規空軍第7艦隊旗艦『エスパーダ』! そうか、今日は第8と第2艦隊との遠征軍事演習から帰投する日だったな」



 全長200mを超える空飛ぶ怪物(・・)が、悠々と神都の上空をゆっくりと飛行していた。圧倒的な存在感と威圧感を放っていた。


 その姿はまさに空の王者。


 周りの飛空艇は、ぶつかるルートでも無いにも関わらず、殆どが道を譲るように離れていく。



「我が国最強の飛空戦艦。数多の邪教国家を滅ぼしたその偉大なる姿……フフフ、『エスパーダ』よ、お前は我が国の誇りだ」



 自国最強の飛空戦艦を見た事で更に上機嫌となったバークリッドは、テラスから室内へと戻り、身嗜みを改めて整えてから自室を後にした。


 その足取りは軽やかであったが、次第に心の奥底にあった不安感が少しずつ蘇ってきた。その不安感を取り払う為にも、彼はある場所へと歩みを進める。



(ニホン国……確か数ヶ月前にハルディークの使者の報告にあった新興国。最初は取るに足らない国と思っていたが……ふむ、もう一度確認し直す必要があるか)






 ーーレムリア共和国 特殊未界情報管理局



 レムリア共和国には神都にある中央情報局本部を筆頭に、東西南北の主要都市部に情報局支部が存在し、其々の役割を果たしている。


 しかし、東西南北の情報局支部は勿論、本部である中央情報局でも極々少数の者しか知られていない超国家機密機関が存在している。


 それが『特殊未界情報管理局』である。


 そこには未界(霧の向こう)側に関するありとあらゆる情報が収集、管理されている。


 その存在を知っている極々少数の者たちでさえ、その機関は全くの謎だらけの為、滅多に近づくことは無かった。そこで働いている者も薄気味悪い変人ばかりで、余程の事情がない限りは近付こうとさえ思わないだろう。


 バークリッドもそうと思っている人間の一人なのだ。



「やれやれ……仕方がないとはいえ、ここへ来る羽目になるとはな」



 バークリッドは狭くて長い廊下を歩いていた。天井に取り付けられている電灯もチカチカと点滅し、消えては付いてを繰り返している。窓は1つも無く、申し訳程度に絵が飾られているが、場所が場所だけにどんなに美しい絵も不気味な絵に見えてしまう。



(全く不気味なところよ。だが、不思議と嫌ではない)



 などと思いながら、バークリッドは1つのドアの前に辿り着いた。そのドアは木製で質素な何処にでもあるドアに見えたが、薄っすら紫色に光ると小さな魔法陣がドアから浮き出てきた。


 それを見たバークリッドはドアノブから手を引っ込める。



(おっとっと……危ない、危ない)



 バークリッドは引っ込めた手を、浮き出てきた魔法陣へ手を翳す。すると紫色だった魔法陣が、緑色へと変化するとドアがゆっくりと開いた。



(『魔紋認証システム』……厳戒な警備が必要な時には便利だが、どうにも面倒だ。いや、これは俺のワガママと言うやつだな。忘れよう)



 そう思いつつ室内へと入ると、目の前に軍服を着た中年の男性が立っていた。男は右手拳を左胸にあてる敬礼を見せる。



神を讃えよ(ルーフ・メリィーラ)! ようこそ、バークリッド副大統領!」


神を讃えよ(ルーフ・メリィーラ)。悪いな、バノス局長。忙しいのに」



 彼は特殊未界情報管理局の局長を務めるナル・バノス局長で、バークリッドの友人でもある。



「いえいえ。ハルディーク皇国(情報提供者)がなくなった今は、集まった情報の整理をするばかりで、どちらかといえば暇を持て余しています」



 バノスが苦笑いを浮かべると、バークリッドは彼の肩を軽く叩いた。


 バノスとバークリッドは幼少時からの遊び仲間であり、副大統領となる前はよく2人で飲み歩く事も多かった。今は明らかに立場が違ってしまい頻回に会う事はなくなったが、それでも2人の友情が廃る事はなかった。


 ここまで気さくに接することが出来るのは、バノスを含めて僅か数人のみである。



「そうかそうか。では1つ頼み事を聞いてくれるか?」


「勿論、何なりとお申し付け下さい」


「うむ。実は……」






 ーー

 薄暗い一室には頼りない光を発する豆電球が僅かに設置されているだけであった。しかし、その部屋の扉が開くと同時に、さっきまで弱々しかった豆電球の光が一気に強い光を発して、薄暗い部屋全体を照らす。


 部屋には腰くらいまでの大きさの円柱型の台座が複数存在していた。その台の上には小さな魔法陣が形成されており、淡い赤色の光を発していた。



「この第3保管室に、ニホン国の情報が管理されています。ですが全て皇国からの情報でして、その数は少なく、信憑性も微妙なところです」



 バノスが部屋を案内しつつ説明をするが、バークリッドは特に気にすること無く、彼の後に続いた。


 バノスは1つの台座の前で止まると、台の上へ手を翳す。すると、赤色の小さな魔法陣が緑色へと変わり、魔法陣の中心から1つの巻物(スクロール)が現れた。


 その巻物(スクロール)を手に取り、バークリッドへと手渡した。



「これがニホン国に関する情報をまとめた資料です」


「あぁ、ありがとう」



 バークリッドは早速巻物(スクロール)を広げて中に目を通した。



(アムディス王国を武力を使わずに制し、圧倒的な兵力を持つテスタニア帝国を破った新興国。ふむふむ……)



 暫く目を通した後、巻物(スクロール)を台座へと戻した。巻物(スクロール)は自動的に魔方陣の中へと消えていった。



「お気に召す情報はございましたでしょうか?」



 バノスが問い掛けるが、バークリッドは顎に手を当て考え込んだままであった。その目は真剣そのもので、バノスはこれ以上声を掛けることが出来なかった。



「チッ……皇国め、何故もっとニホン国に関する情報を提示せなんだ」



 バークリッドは小さく毒づくとバノスへ目を向ける。



「間違いなくニホン国は、我が国とヴァルキア大帝国に続く第3の転移国家だ。そしてその実力は恐らく未界では敵無しの実力を有しているだろう」



 バークリッドの言葉にバノスは目を見開いて驚いた。レムリア共和国は500年前に、ヴァルキア大帝国は30年前にこの世界へ現れた転移国家である。


 レムリア共和国は皇国との繋がりを再開してから、ヴァルキア大帝国を未界最強の国として最重要視していた。純粋に国として、そして敵として。


 それもそのはず、両国の間には大きな時の差はあれど、共通点が存在していた。


 両国は同じ世界から来た転移国家である。



「何と……あのヴァルキア大帝国さえも凌ぐ強さを?」


「何とも言えんが、犠牲も無くテスタニア帝国とハルディーク皇国を破る事はヴァルキア大帝国には不可能だろう。ニホン国はそれが出来た。ならば少なくとも技術レベルの差は30、いや下手をすれば50年以上もあると捉えるべきだ」


「しかしそれは幾らなんでも考え過ぎは? 強国である事は間違いないとは思いますが、ヴァルキア大帝国を凌ぐ実力ほどではー」


「ほう? では、お前がそう考え付く理由は?」



 バノスは腕を組んで考えた後、思い浮かんだ内容を話し始めた。



「色々とありますが……1つ挙げるならば飛空戦艦を有していない、という点でしょうか。飛空戦艦は戦場における勝利の要。そんな必要不可欠なモノすら開発出来ない様な国が、ヴァルキア大帝国を倒せるとはとてもとても」



 飛空戦艦は、バークリッドがテラスで見かけた空飛ぶ戦艦のような物体のことである。レムリア共和国を始めとした第2世界の強国全てが、飛空戦艦を攻守を兼ね備えた戦争の要と捉えている。


 ヴァルキア大帝国も飛空戦艦に対する考え方は同じであった。しかし、大帝国の飛空戦艦と比べると、ハッキリ言って第2世界の、とりわけレムリア共和国の飛空戦艦の方が洗練され、優れてると自負していた。


 それでも、ヴァルキア大帝国が驚異的な存在であることに変わりはない。


 バークリッドは彼の答えに薄く笑みを浮かべる。



「なるほど。確かに、我々が元いた世界ではそれが常識と言えるだろう。だが、もしニホン国が全く違う常識を有した世界から来たと考えれば……どうだ?」



 自分たちとは異なる常識を持つ世界。


 そう考えれるとバノスは口が詰まってしまった。自分たちの理解が及ばない世界とあっては、自分が考えうるもの全てが的外れになると考えたからである。


 そんな中でもバノスは彼の問いに答えようとする。



「むぅ……確かに言われてみると。必ずしも同じ価値観を持つ世界ばかりとは思えませんね。しかし、やはり俄かには信じられません。飛空戦艦の無い世界から来たなど」


「ハハハ! 我々の常識に囚われては、未知の敵には勝てんぞ。物事には必ず常識とは異なるモノが存在するのだ。もしかするとニホン国は、飛空戦艦など造る必要の無い世界から来たのやも知れん。最悪、『神霊界』にまで足を運ぶことが出来る術も有しているかもしれんな」



 その言葉にバノスはギョッとした。


 神霊界とは地球で言う『宇宙』のことである。


 生き物が立ち入ってはならない神秘の領域。そこへ辿り着く術を日本国()持っているかも知れないという彼の言葉に、バノスは驚きを隠せないでいた。



「あ、あの……天高くに存在する美しくも暗黒に染まった世界……神霊界へと到達する術を⁉︎ ご、御冗談が過ぎますよ! そんな事が出来るなど、我が国と同格かそれ以上の力ではありませんか⁉︎」


「飽くまで可能性の話だ。俺もそこまで本気では考えていない」


「やめて下さい。焦りましたよ」


「ハハハ。だが、驚異的な力を持っている事は確かだ。最低でもヴァルキア大帝国と同格レベルと見るべきだろう」



 その後、目的の情報を手に入れたバークリッドとバノスの2人は部屋を後にし、長い廊下を歩いて行く。


 するとバークリッドが彼に話しかけた。



「バノスよ。中央情報局からオワリノ国に関する情報は来ているか?」


「ハッ。相変わらず布教活動が後一歩のところで低迷しているらしく、ノブタケ一派の抵抗を受けているとの事です」


「チッ! 天獄に早く結果を出せと伝えろ。出来なければ、オワリノ国の統治権を任せると言う話は無かったことにするとも伝えておけ!」


「分かりました」



 バークリッドは少しだけ苛立ちを露わにする。


 その背景には、未界攻略にあたっての様々な大規模工作が失敗に終わった事が関係していた。



(未界攻略における足がかりとしたハルディーク皇国も使い物にならない。クアドラードも同じだ。あの国は皇国のバックアップが無ければ『ゴミ』だ。それに龍と心を通わせる事が出来るエルフ族のフレイヤの拉致。それが失敗し、皇国も潰された今、ニホン国が何かしらの手を打って来ても可笑しくはない)



 すると彼にある考えが脳裏によぎった。



「まさか……ニホンは既にオワリノ国に?」



 そう考えたバークリッドは眉を顰めた。



(だとすればマズい……早々に此方からも手を打たねば。やっと最後の1匹まで数を減らした古代龍を奪われてしまえば、それこそ未界攻略が困難となる! 最悪、最後の古代龍の始末だけでも達成させねば!)





 ーー日本国 首相官邸 会議室



 会議室には広瀬総理を始めとする各大臣達が其々の椅子に腰を掛けて座っていた。いつもであれば広瀬が茶化す場面などがあったのだが、今日の皆の面持ちは難しく、真剣そのものであった。


 その理由が、第2世界調査隊との音信不通である。



「調査隊との連絡が途絶えて既に2日が経過している。不測の事態が起きる事は覚悟していたが……」



 広瀬の言葉に皆の表情が更に暗くなる。



「ここまで音沙汰が無いとなるとは……」



 調査隊が霧の向こうで消息を絶ってから数時間後、日本はありとあらゆる方法で調査隊の捜索を行ったが何も手掛かりを得ることが出来ず、霧の壁によって押し戻されるだけであった。


 最新鋭の無人機を駆使しても霧の効力で直ぐに停止してしまい、どうする事も出来なくなっていた。そこで、日本政府はハルディーク皇国へ助力を要請した。


 ハルディーク皇国は喜んで要請に応じ、更に数名の使者と幼龍を使っての案内を行った。しかし、幼龍達は霧の壁を抜ける事が出来ずに終わってしまう。これにはハルディーク皇国も驚き、明確な原因が分からずにいた。


 今朝、ハルディーク皇国の特殊調査団からの報告により、霧の壁の濃度が急激に変化した事が原因ではないかとの報告を政府は受けていた。


 無論、政府はあの霧の壁の性質を解析する術が無く、ハルディーク皇国へ再び要請を送った。皇国は言わずもがな解析に乗り出す旨を伝えて来たが、解析には早くても10年はかかるとの返事が来た。


 全くの予測不能の事態。


 政府は非常に困惑していた。



「今回の件について、野党が一斉に批判してきました。野党だけではありません。各マスコミや新聞社も、『与党は人命を軽んじる最悪政権だ』などと大々的に報道してます」


「これでは支持率が大きく下がってしまうではー」


「馬鹿野郎ゥ! 今は支持率云々の場合では無い! 隊員達の、日本国民の命が掛かった大事件だ!!」



 何人かの大臣達が与党の支持率は次の選挙に対する不安を口にする中、怒鳴り声を上げたのは防衛大臣の久瀬だった。


 大臣達は彼のあまりの気迫に身を引いてしまった。



「批判だろうがなんだろうがそんなの関係ねぇ。今は調査隊の安否を確かめ、場合によっては救出するの事が大事だろうが!」



 彼は安否不明の者達が無事なのかどうか気が気でなかった。それは彼が元自衛官でもあったのも要因の一つだが、一番の理由としては、帰ってくるはずの家族が居なくなる事であった。


 久瀬の父親はとある中小企業に勤めていたごく普通のサラリーマンだったが、彼が小学生の時、いつものように出勤を見送ったのが最後、父親は交通事故で亡くなったのだ。


 調査隊の中には家庭を持つ者も多くいる。


 そんな彼らと彼らの家族の為にも、自分と同じ気持ちを味あわせてはならないと思っていたのだ。



「落ち着け、久瀬。アイツらも悪気があったわけじゃねェ。そんなカッカしてたら、進む話しも進まなくなる」



 激昂する久瀬を官房長官である小清水が静かに窘める。久瀬は彼の言葉に冷静さを取り戻し、頭を下げた。



「も、申し訳ありません。冷静じゃあなかったです」



 小清水は仏のような優しい笑みを見せる。しかし、音信不通となった調査隊の安否の確認方法は何も見つかってないのだ。



「事態は急を要します。あの霧の中では、現代科学の粋を集めても無に等しいのですから」



 暗い静寂が部屋全体を支配する。何か案が出る者がいれば良いのだが望み薄だった。


 そんな中、厚生労働大臣の田嶋が今この場に居ない大臣の名を言った。



「ふむ……安住は遅れて来るとは聞いていたが」


「安住外務大臣は今現在、亜人族国家の王族貴族達への対応を任せています。スケジュールの合間を縫って会議には遅れてくる事にはなってますので、もう暫くお待ちを」



 今から3日前。日本国は異種族問わずに友好的な関係を望んでいる事をより世界に伝える為にーー



 アルフヘイム神聖国(エルフ族の国)

 ドルキン王国(ドワーフ族の国)

 リリスティーグ(ドリアード族の国)

 ヴェルディル王国(獣人族の国)

 バルファール海底国(水人族の国)

 ドラグノフ帝国(龍人族の国)



 ーーの6大国家を始めとした様々な亜人族国家の王族達が今現在、国賓として安住が案内の元、日本の観光案内や今後の関係構築について対応していた。


 副総理の南原の言葉に田嶋は慌てて訂正をする。



「い、いやいや。そっちはそっちでやるべきだろう。そうですよね? 広瀬総理」



 田嶋が広瀬へ顔を向けるや否や、広瀬は手を軽く上げてその場を静めた。皆が各々の意見を述べるのを止めて広瀬へと注目が移る。


 彼はいつもの口調で口を開いた。



「全員に伝えなきゃならない事がある。先ず今回の件について既に手は打ってあるという事。そしてその要となるのが、安住だって事だ」



 広瀬の言葉にその場がざわつき始めた。何故この場に居ない安住が、調査隊捜索に関係しているのか。彼は今、各亜人族国家の王族たちとの対応に務めているはずだからだ。



「ど、どういうことですか?」


「広瀬さん?」



 大臣達が広瀬にその真意が何なのかの答えを求めてる中、広瀬はチラリと腕時計へ目を向ける。



「そろそろ……かな?」



 そう呟くと広瀬はニヤリと笑みを浮かべる。


 すると、数回のノックの後に会議室の扉がゆっくりと開き始めた。扉の先から現れたのは外務大臣の安住だった。



「遅くなってしまい、申し訳ありません」


「あ、安住?」


「おい、王族達の対応は良いのか?」



 彼が会議室へ入ると、各大臣達から一斉に質問が飛び交ってくる。確かに遅れて来るとの連絡はあったが、普通は途中で抜け出して良いような仕事ではない。しかしー



「来賓の方々は、国が管理しているホテルにて休んでおります。国内観光はかなりの高評価で、皆様から御満悦の言葉をいただきました」



 安住の言葉に広瀬もウンウンと頷く。



「それから……今回の調査隊捜索にあたっての、力強い協力者を極秘裏に得る事が出来ました」



 真剣な表情で口にする安住の言葉に全員が驚いた。何と彼はあの状況の中で、協力者となる者……もとい国を得ていたのだった。



「当然、無条件という事ではありませんでしたが……その件についても今ここで皆様からの御判断を頂きたいと存じます」



 安住が背後を振り向くと、再び扉が開き始めた。そこからある人物が入って来ると、大臣達は息を呑んだ。


 黒曜の様に煌めく鱗に覆われた龍頭の人物。鋭い棘の生えた尻尾が邪魔にならないよう出来るだけ揺れないように歩くその姿は、堂々と威厳に満ちていた。


 龍人族である彼は、大臣達に向けて深々と頭を下げた後に口を開いた。



「私はドラグノフ帝国の龍王バハムートが長子、ファヴニールと申します。突然の御来訪にも関わらず対話の時間を頂き、誠に恐縮の至り。ありがとうございます」



 彼はドラグノフ帝国の龍王バハムートの息子で、名はファヴニール。将来的には龍王の座を継ぐ者であり、それに見合った実力を持つドラグノフの顔役である。


 未だ困惑する中、広瀬が椅子から立ち上がると彼は目の前へと移動し、頭を下げた。



「日本国総理大臣、広瀬勝と申します。此方こそ、希望に応えて頂き感謝の極みです」



 2人は笑顔で固い握手を交わすと、いつの間にか広瀬の椅子の隣にもうに1つ椅子が用意されていた。無論、その椅子に座るのはファヴニールである。


 少し斜めに向かい合うように置かれた椅子へ2人は腰掛ける。その光景はまるで国際会談をしているようにも見える。


 そして、先に口を開いたのは広瀬だった。



「安住から話は伺いましたが、本当に調査隊の捜索に御協力して頂けるのですね」


「ハイ。我がドラグノフ帝国は、喜んで貴国の助けになりましょう。両国が更なる友好的な関係を築く為にも、今回の件は重要とも取れます」


「なるほど、実に心強い言葉です。しかし、知っての通りあの霧は普通ではありません。一体…どうやってあの中を?」



 2人はまるで周りに誰も居ないかのように話しを続ける。大臣達はただその光景を静かに見ている事しか出来なかった。



 こうして、日本とドラグノフ帝国との突然の会談は30分程で終了した。


 ドラグノフ帝国は1週間後に捜索活動への参加を表明した。どうやってあの霧の壁を抜けるのかと思いながら、大臣達は話を聞いていたが、彼の言葉を聞いて皆が納得した。寧ろ、何故気付かなかったのかと、勝手に苛立つ者もいた。


 そして、彼の国が捜索活動に協力するにあたっての条件は決して簡単な事では無いが、不可能では無く、日本側としてもメリットがある内容であった為、潔く了承する事となった。

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