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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第7章 オワリノ国編
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第111話 オダ・ノブタケ

仕事が辛たん。

ーー オワリノ国


 近藤たち調査隊は、オワリノ国蛮界国境守備隊の隊長兼一番組組頭の鬼阿羅達の案内のもと、この国の首都、もとい『都』へとやって来た。


 幾つもの山や谷を越え、道と呼べるのかすら怪しい道を通って来たが何とか無事にたどり着いた。本当であればきちんと整備された街道があるらしいのだが、今は訳あって街道は殆ど使えない状況らしい。


 しかし、辿り着いたといっても彼らの目前には大きな霧の壁がそこにあった。


 その霧は第2世界と自分たちがいた側を隔てていた霧と何となく雰囲気が似ている気がした。


 すると鬼阿羅の部下の1人が小さな竹笛を取り出し、吹き鳴らした。鳴らしたといっても何かしらの音色が聞こえたわけではない。掠れたような空気音が僅かに聞こえる程度だった。しかし、部下が吹き終えてから少し経つと、霧と壁に小さなトンネルが現れた。奥も霧のようなモヤが掛かっていたが、鬼阿羅達はその中へと迷わず進んで行み、近藤達も後に続いた。



「離れないで下さいね。開いた道から外れるとまた入り口に戻されますよ」



 鬼阿羅の声が前から聞こえて来るが、既に姿は全然見えなくなっていた。時間にして5分は経っただろうか。前の人から逸れないよう進んで行くと、霧のトンネルを抜ける事が出来た。あの霧に包まれたトンネルを進んで出て来ると、何だか久し振りに太陽を浴びた様な気分だった。


 霧のトンネルを抜けた先には整備された街道が目に入った。トンネルを抜ける前までは道といってもかなり荒れ果てた歩きにくい道だった。



「すみません、さっきの霧のトンネルは?」


「アレは我が国に住まう古代龍オルグラードが吐き出している魔法の霧です。あの爺さん……というよりも古代龍の吐き出す霧には不思議な力があって、霧の結界を造って他者を領域テリトリーに入れないのもその1つなんです。でも、私たちは別ですよ! 我々オワリノ国の民とあの爺さんは仲間ですから」



 近藤はあの世界を隔てる巨大な霧の壁を思い出した。亜人族国家の王族達が中ノ鳥半島へやって来た際も霧を吐く龍、つまり古代龍に乗って来たのだが、龍王曰くあれは古代龍と言ってもまだまだ若い部類で、せいぜい自身の周りに霧を纏わせるのが限界だ、と話していた。


 古代龍については龍王自身も分からないことが多い謎の存在。1千年生きた龍でもほんの一人握りの龍のみが辿り着ける、『古代』の力に目覚めるらしい。一説では人間や亜人族などが存在するよりも前にこの世界を支配していた種族なのではないか? という意見もあったそうだが、真意は今も不明。


 アレほどの霧の壁を生み出す古代龍であれば、その点を含めて様々なことを聞くことが出来るのではないか? と近藤は考えた。


 しかしそれはコミュニケーションが取れたらの話である為、下手に動いて相手を不快にさせるのは当然避けるべき事と受け止める。



「その竹笛は?」


「え? ああコレですか? コレはその爺さんの牙を削って作った笛です。この笛を持っている者はほんの僅かですが」


「その古代龍とオワリノの民が仲間、というのは?」


「それは……あ、見えてきましたよ。アレが城下町へ入るための正門です」



 部下の1人が指差す方向へ目を向けると、大きなは石垣が建っていた。布積み式で建てられた高さは5〜8mはある石垣が、その城下町を囲むようにズラッと横へ何処までも続いていた。内側には一定間隔で矢倉も建てられている。更に進むと目の前に大きな門が現れた。


 木製で日本式の立派な門の前に、2mはあるであろう巨躯の大男2人が立ちはだかる様に立っていた。顔は凶悪そのもので、下顎から伸びている大きな2本の牙が更にその凶悪さを際立たせる。はち切れそうな胸板に丸太のように太い腕をしているが、鬼阿羅達のようなツノは無かった。



「鬼阿羅様、お勤めご苦労様です。話は伺ってます。さぁどうぞ…このまま城まで向かって下さい」


「どうも、ウ・グにオ・ゴル。オーガ族の中でも実力者である貴方がいれば安心ね」


「またまたお戯れを。では道中お気を付けて」


「バイバーイ!」



 ウ・グとオ・グルと呼ばれる2人はオーガ族と呼ばれる種族らしい。いつぞやの異世界講習で習った中で、絶滅した種族の1つにあった事を思い出す。



(ここはやっぱり、あのガルヴァス王国ってヤツか?)



 その点も含めてオワリノ国の若様と呼ばれるノブタケ氏に色々と聞いてみようと決めた。勿論それが許されるのであればの話だ。


 暫く進むと点々と農家と思われる建物と広い田畑が見えてきた。その光景は昔の日本の田舎に似ていた。植えられてある野菜も見たことのあるものが殆どで、田んぼでに至っては見たまんまの稲である。しかし、今の日本ほど立派な稲では無い、どこか弱々しさが見て取れる。


 農民と思われる人々が此方を不思議そうに眺めており、子ども達は一斉に近くの家屋へと隠れてしまう。恐らく外から来る者が珍しいのだろうが、良いイメージを抱いてるとは言えない。彼らの前を通り過ぎるときに見た目には明らかな敵意が感じたからだ。


 額にツノが生えた種族……角人族が見られた。中には鬼阿羅達や門番達とも違う種族がいた。彼らはオーク族やゴブリン族と呼ばれる種族らしく、オーク族は見た目に反して臆病な気質で武器を持つことすらまともに出来ないらしい。農作業で使う道具は別とのこと。一方ゴブリン族もその悪党顔からは信じられないほど忠誠心の高い種族で、自分たちの上に立つ存在には命を賭して尽くすらしい。また、彼らは一般的な戦士職よりも『もっと別』な役割に向いているとのことだ。


 城下町へ向かう道中、様々な説明を受けた近藤達はその話の中身を何とか頭の中へインプットする。


 暫く進むと目に入る建物も段々と立派なものへと変化していた。昔の農家特有の建物から時代劇などで見かける建物が見え始めてきた。人通りも多くなり、無数の視線が一気に襲い掛かる。



「どうやら私たちはあまり歓迎されていないみたいですね」



 近藤の言葉に鬼阿羅達が苦笑いで答えた。



「すみません。この国の民はあまり外の者に対して良い感情を抱いていないもので」


「オマケに我が国は大問題を数年前から抱えている為、同種族でもこの国から『外にいる』者には恨みしか抱いていない者も少なくありません」


「そう捉えれば、外から来た他種族のあなたがたの方がまだマシっと言ったところでしょうか」



 近藤は彼らの発言から違和感を覚えた。

 異国異種族の者に良い感情を抱いていない、という点はまだ理解出来る。しかし此処とは別の、つまり外側にいる同族に対する敵意が強い、という点だ。



「見えて来ましたよ、アレが我が国の主城…『魔天・安土城』です」


「安土城?」





ーー魔天・安土城



 まるで日本の観光名城へ訪れている気分だった。その見た目、造りも全て日本の城そのものだったからだ。唯一、日本の城とは少し違う雰囲気のある場所といえば、頂上にある天守閣である。あの場所だけ造りが何処と無く西洋風で金色に輝いている。


 明らかにこの城のモデルとなるのは、かの有名な『安土城』だろう。そもそも名前に安土城とつけているのだから間違いない。


 しかし幾ら何でも城の作りまで日本とまるまる同じ文化と言うのはやはり無理がある。ほぼ間違いなく日本文化に精通した者がいたと考えるのが普通だろう。



「では、大広間までご案内します。若様は私用により今は城を離れておりますが、すぐに戻って来ますので、大広間に着いたらそこで少しお待ち下さい」



 衛兵達に武器や道具等を預けた後、近藤達は鬼阿羅達にそのまま城の内部まで案内された。


 暫く進むと、上段の間付きの大広間へ辿り着いた。綺麗に整えられた一室は畳独特の心地よい香りで満たされており、懐かしさすら感じた。


 予め用意されていた座布団へ各隊員が座り、その場で静かに待っていた。



(さてさて、どうなる事やら……最悪、隊員達の安全を守らなければな)


「近藤隊長。自分、気付いたことがあるのですが」


「ん? どうした、西谷?」



 真剣な顔を近づけて耳打ちしてくる西谷の言葉に耳を傾ける。もしかしたら、彼は何か重要な事に気付いたのかも知れないと近藤は考えた。



「この国の女性、特に角人族女性のルックスが……途轍もなく高いです」


「は?」


「自分にそっちの趣味はありませんが、羅鬼ちゃん何か某ソシャゲに出てくる超レアキャラクターに似てるんです。そのキャラクターは見た目の幼さに反してとても妖艶かつ大人びた雰囲気で、ツノの感じもソックリです」


「……おい、西谷ー」


「羅鬼ちゃんの姉である鬼阿羅さんに至ってはもう色々とヤバいです。あのグラマーな体で野生的なまでの軽装備……コレは来ましたね。あのコスチューム、許可が出たらウチの店の娘達に早速支給しようとー」



 その目は真剣だが、変な意味で興奮しているその姿はハッキリ言って変質者である。状況的にもそんなふざけて事を言っていい場合ではない為に、これを上官である近藤が見逃して良い筈がない。


 近藤が繰り出した静かな裏拳が西谷の顔面にクリーンヒットする。まともに受けても微動だにしなかった西谷であったが、しっかりと鼻血は流れていた。



「大馬鹿者が、こんなとこで言う事か? お前は本当に昔から変わらんな。基本真面目だがたまに暴走するよな。もしもの時はニュースにならない内に俺がシメるぞ」


「こ、近藤隊長〜〜俺はただ……す、すびばせん」


「近藤隊長……私からも良いですか? ツノの生えた男の娘には何か滾るものを私は感じー」



 いきなり出て来た根津の言葉を強制的に止めたのは川口だった。彼の拳骨が広い部屋に響き渡る。そして、続いて西谷にも。



「近藤隊長、うちのバカ2人がとんだご迷惑を」


「川口、お前も苦労するな」


「いえ、でも隊長……後ろを見てください」



 川口の言葉を聞いた近藤は肩越しに背後へ目を向ける。そこには一見落ち着いているように見える隊員達の姿であった。しかし、その手や肩を僅かに震わせている者も少なくなかった。



「外部からの連絡手段が取れず、残り半数以上の隊員達の安否も不明。詳しいことが殆ど分かっていない未知の世界で右も左も分からない……この状況下で不安を抱かないということ自体難しい事です。ですが、発狂しないだけでも私は彼らを褒めたいところですね」



 右隣に座っていた土方が静かに語り始めた。


 西谷と根津、この2人の行動は隊員達が抱えている複雑な不安を和らげるために行ったのではないかと思えた。実際、2人の行動に隊員達から笑顔がチラホラと見られたからだ。



『まぁあの2人がそれを本当に意図していたかは分かりませんがね。しかし鬼阿羅さんの格好には同感です』


「おい、ウルフ」


『ハハ、ジョークですよ。私が滾るのはモーターだけで十分ですから! ハハハハ』



 左隣に座っていたウルフが明るい独特な電子音混ざりの笑い声が一際大きく響いた。


 この状況ではあまり良い行動とは言えないかもしれない。しかし、ある種のメンタルケア的なこの行動を間違いとも言えない。



「全く、うちの隊員こども達は問題児ばかりだな……ハハハ」



 すると襖がゆっくりと開かれ、中から厳つい顔をした角人族が入って来た。その衣服は直垂と呼ばれる日本古来の襅様式に近いものだった。下は山袴で見た目よりも動きやすさを重視した印象を受ける服装だ。しかし、決して小汚いというものでは無く。寧ろ小綺麗な身だしなみである。



「失礼、それでは若様が参ります」


「分かりました。皆、頭を下げろ」



 さっきまでの和やかな雰囲気から一気に緊張感に包まれる。隊員達は改めて姿勢を見直し、頭を下げた。正座をした状態で深々と頭を下げているだけなので、コレが本当にこの国の文化の礼儀に反していないかの不安がよぎる。


 近藤は目だけを動かして、上段の間付近にいたさっきの厳つい男性の表情を伺った。相変わらずおっかない顔付きだったが、何も言ってこないあたり間違いでは無いのだろう。静かに安堵の息を漏らした。



「オダ・ノブタケ様の御成りです」



 厳つい男の声と共に、前の襖の戸から1人の男性が入って来たのが分かった。その足取りはとても軽く、さっさと上段の間へ上がると、用意されていた座布団の上へと腰を下ろす気配を感じた。



「苦しゅうない。面をあげよ」



 隊員達は静かにゆっくりと頭を上げる。そして、目の前にいる男性へと目が向ける。



「ふむ……余がこのオワリノ国の王、第13代目魔王のオダ・ノブタケである。お主達が蛮界から来たという者達か。早速で悪いが、お主らは『ニホン』と言う国から来たと言うが、それは誠か?」



 赤い糸で結われた茶筅髷に、整った顔立ちをした好青年がそこに居た。額に伸びたツノは角人族の中では少し短くすら思える。服装は湯帷子で片方の袖を外している。虎柄の半袴に腰紐には色々な袋がぶら下げられ、短筒と思われるモノが二丁納められている。おまけに所々土埃や泥が付着しているところを見ると、あまり王様っぽい雰囲気はない。寧ろ皆無だ。


 しかし、その明るい雰囲気にはとても惹かれるモノを感じた。それだけであの見窄らしい格好など帳消しになるほどのカリスマ性を持っている。



「若様、いきなり客人に対してその様な言はあまりよろしくは無いかと……」



 厳つい男がノブタケに声を発すると、ノブタケは特に不快感を出す事なく、「そうだな!」と答えた。



「申し訳ない。異界からの客人に少々興奮してしまってな。先ず、遠路遥々ここまでご苦労であったな。ニホン国の方々よ」


「ありがとうございます。魔王陛下」


「普通の国なら国を挙げての宴にするべきなのだろうが生憎、我が国は基本的に外部からのモノに対してあまり良い感情を抱いていない。無論、お主らは別だ。我が国の民を、鬼阿羅の妹を助けてくれたのだからな。だがやはり多くの民は外部の者に対しては……申し訳ない」


「何も謝る必要などございません。魔王陛下の深いお気遣い。我ら一同深く感謝致します」



 あまりこう言った国のトップと話す事など無かった近藤は必至に頭を働かせながら一つ一つの言葉に注意しつつ言葉を発していた。そして、不快感を見せていないところを見ると、今のところ言葉遣いに問題は無いのだと安堵する。



「余からも聞きたいことは色々とあるのだが、先ずお主らが此処へ来た理由を聞かせてもらえないだろうか? 嘘偽りなく、全てを」



 近藤は自分たちがこの第2世界へ訪れた理由を全て話した。そして、可能であれば貴国を始めました様々な国々と友好的な関係を作りたい旨と、此処へ来る最中、18名の隊員の行方が分からなくなった事も伝える。



「なるほど……ハルディークの様な愚国とは違うようだ。その友好国として国交を結びたいという点については前向きに検討していこう。まぁあの霧があってはあまり活発な交易は出来ないとは思うが、あの霧を消すことは許されないのだ。それについては後で説明するとしのう」


「ありがとうございます!」


「それから、此方側にいる様々な国とも友好的に接したいとと言っていたが……余からして見れば、あまりお勧めはしたくは無いな」



 近藤はその理由を聞きたくなったが、それよりも前にノブタケが話を続ける。



「あと、お主らの残りの仲間達の事だが……恐らくは恵奠領の近海へ流れ着いた可能性が高い。恵奠も一応は我が国の領土なのだが……さてさて、どう説明するべきか」



 ノブタケは小難しい顔で考え込む。自分の部下達が何処にいるか何となく目星がついてる点では良かったといえば良いのだろうが、無事かどうかはに至ってはまた別となるだろう。



「まぁ簡単に言えばだ……我が国は現在2つの派閥に分裂している状態なのだ。本来の国の在り方でいこうと考えるオダ派と、他の国々と同じように『メルエラ教』の教えのもとで新しい国を作ろうとする天獄派に、な。お主らの仲間はその天獄派が支配している近海へ行っている可能性が高い。もし我が国の近海へ流れていれば、とっくに守備隊から報告があるはずだからな」



 近藤の胸中に嫌な予感が過った。もしかしたら、自分たちは今とんでもない事に巻き込まれるのではないか、と。最悪なパターンを考え込む中、ノブタケの声で我に返った。



「まだ色々と聞きたい事はあるのだが、それはまた明日という事にしよう。ではお主達の宿だが、那鬼亜ナキアに任せようと思う。我が三組衆、三士の1人だ」





ーー天獄領 恵奠 天鳳山


 とある茶の間の一室で天獄は茶を立てていた。彼の前には3人の角人族が静かに正座をしている。


 1人はサラサラと長い髪をなびかせた美青年。


 1人は死人のような白い肌を持ったポニーテールの女性。


 1人はゴワゴワの短髪をした強面の大男。


 鳥の囀りと心地よく響く鹿威しの中、茶室で茶を立てるその光景は風流なものである。


 茶を立てた天獄が3人に真緑の茶が入った器を出した。3人は揃って頭を下げた後、ゆっくりと茶を口へ運んだ。



「さて……土瑠鬼を除いた四鬼王全員が揃いましたね。刄鬼バッキ、軟禁しているあの者たちの説得はどうですか?」



 四鬼王の1人。美青年の角人族…刄鬼が口を開いた。



「はい。自衛隊なる組織の特殊調査隊らは最初こそは漂流中であった彼らを助けた我らに友好的でしてたが、何かを察してかあまり協力的ではなくなりました。更に断固として我らの素晴らしくも偉大なメルエラ教の教えを受けようとしません」


「ほほほ、そうですか。メルエラの教えを拒否するのはかなり不快ですが、まだ乱暴に扱ってはなりません。もっと友好的に、平和的に接するのです」


「はい」


「では次に眞鬼マキ剛鬼ゴウキ。兵達の……神に選ばれし信徒、聖天衆の成長具合は?」



 次に四鬼王残りの2人。剛鬼と眞鬼の2人が答えた。



「はい、天獄様。既に100人以上の聖天衆が及第点を超えております」


「今現在、育成中の聖天衆たちもあと2、3ヶ月の内に及第点を超えると思われるでゴザンス」



 天獄は満足した様子で頷きながら茶を啜った。



「良いですね。100人もいれば十分でしょう。これなら、もうこれ以上計画を延長する必要はありませんね」


「おお! では遂にッ!」


「遂にあの異端者どもをッ!」


「クク……血が滾るでゴザンス!」



 3人の目が輝いていた。

 天獄は満足げな顔を浮かべる。その目はとても邪悪なものを孕んでいた。



「宗主国様から、結果を出せと言われていますからね。もうこれ以上の延期は出来ませんし、思いがけない拾い物……ニホン国の者達を手に入れたのです。何としてでも彼らをうまく丸め込み、ニホン国が宗主国様の為になるような存在への礎となるようにしなければ。出来れば同じ聖天衆になっていただければ御の字ですが」


「失礼ですが天獄様、土瑠鬼は今どこに?」



 眞鬼の問い掛けに天獄は答えた。



「土瑠鬼は今も密偵として部下を連れて、憎っくきノブタケ勢力の力を削ぐための工作を図っている筈ですよ。それに古代龍の居場所もまだ特定出来ていません。まぁ粗方候補は絞られていますが」


「あらあら? フフフ……やはり土瑠鬼では荷が重いのではありませんか?」


「だが我らの中で一番腕が立ち、ノブタケの事も知り尽くしているのは彼だけです。元三士の1人ですからね」


「むぅ……確か彼の後釜には鬼阿羅とか言う弟子がなったそうだが。まぁどうでも良いでゴザンスか」







ーーオワリノ国 某所


 オワリノ国の者でも近づく者など殆どいない、薄暗い洞穴の中に複数人の暗い影が潜めいていた。黒い頭巾を頭部に被せた彼らは天獄もといメルエラ教の信徒とした戦闘集団、聖天衆であった。


 その中のリーダー格、一際大きな巨躯を持った大男。土瑠鬼がいた。



「よし、皆準備はいいな?」



 土瑠鬼の言葉に全員が頷いて答えた。



「今回の目標は三士の1人……那鬼亜ナキアだ。なかなかに行動が読みにくい者であった為、時間は掛かったが、今回でやっと三士の一角を落とせるだろう。那鬼亜は槍術に長けている。例の場所へ誘き出した後に一斉で掛かるぞ」



 土瑠鬼が告げると全員かれ静かで気合の入った声を上げた。そして、黒き影の集団はオワリノ国の城下町へと向かった。


 土瑠鬼も後に続く中、懐から1つの竹笛を取り出し口に咥えた。

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