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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第7章 オワリノ国編
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第109話 誤解

ーー オワリノ国 沖合


 未だに上陸が出来ずにいた隊員達は、小型艇の上で夜を過ごす事となった。あの黒頭巾の集団のこともあって、上陸するのはまだ危険過ぎると判断したのだ。


 隊員達は見張りと休憩を交代で行なっていた。



『此処で見る星空と君が見てる星空は同じなのだろうか?』


「どうした? ウルフ。ついに壊れたか?」



 ウルフと調査隊員の西谷が見張りながら他愛ない話を始めた。


 西谷は平静を装いながらもウルフに話し掛けるが、彼の心の中は不安で一杯だった。ワケのわからない土地にやって来て、ワケの分からない状況に追い込まれ、他の隊員達を乗せた2隻の小型艇の消息も不明……彼は誰かと会話して、この不安を誤魔化したかったのだ。



『昔、近藤一尉に勧められた小説に書いたあったセリフです』


「お前本読むのか?」



 ウルフから発せられたまさかの言葉に西谷は素で驚いた。



『配属される前、AI学習プログラムの一環で様々な人間的感性機能をインプットされていますが、読者による感性を発達させるという原始的な方法は私は嫌いではありません。寧ろ好ましく思っています』


「……お前ロボットのクセに人間くさいな」


『ロボットのクセにとは何ですか? 人権侵害で訴えますよ!』


「それはジョークか?」


『おや? よくお気付きになりましたね!』


「はは、自虐ネタギリギリだろ?」



 ウルフが電子音混じりの小さな笑い声をあげた。隊員は少し呆れながらも、彼の明るさに少し救われているのも事実であった。


 少し余裕を取り戻した西谷を再び見張りの役割に集中した。そのとき横になってい休んでいる根津へと目を向けた。彼女のすぐ隣には先ほど助けた鬼に似た姿の少女、羅鬼も寝ていた。


 羅鬼は根津にベッタリとくっついて、胸元に顔を埋めながらスヤスヤと穏やかな寝息をかいていた。



「種族は違えど、同じ女同士だと安心するのかねぇ」


『或いは、肉親と似た何かを感じているのかもしれませんよ』


「かもな……取り敢えず、ゆっくり寝れるなら寝るに越したことはないさ」



 彼女の事については、名前以外まだ何も分かっていない。あの後、羅鬼はまるで糸が切れたように根津の腕の中で眠ってしまったのだ。


彼女が何者で、何処から来たのか。そして、あの黒頭巾達は何者なのかは明日の朝に聞く事になったのだ。



「何たってこんな女の子を殺す必要があったんだろうな?」


『気になりますが理解はしたくないですね』



 2人なそんなことを思いながら見張りを続けたその時ー



チャプゥ……



 少し違和感のある水の音が聞こえた。小型艇に当たる海の波の音かと最初は思ったが、何故だかそれとは違う気がした。



(……ウルフ)



 西谷はウルフに向け、小さく声を掛けた。ウルフは此方へ顔を向けなかったが、僅かに頷いた。



『探知機能は起動していました。しかし、複数の反応が7m以内に入るまで全く探知出来ませんでした』


隊長オヤジ達を起こすぞ)


了解イエッサー



 西谷達がゆっくりと立ち上がりながら、他の隊員達を起こそうとした。



「……動くな」



 突如背後から聞こえて来た聞き慣れない女性の声。西谷の背筋に冷たいものが走った。ウルフもその場から動かずにジッとしていた。



『まずいですね……既に5名がこの小型艇に乗り込んでます』



どうする? 戦うか? いや、まだ危害を受けた訳では……しかし、危害を受けてからでは遅いのではないのか? やられる前にやる……だが。



 西谷の頭はこの危機的状況を乗り越えるにはどうすれば良いのかで頭がパンクしそうだった。しかし考えれば考えるほどパニックを起こしてしまい、息も上がり、冷静の判断が出来なくなる。



『分かりました……あなた方の指示に従います』


「ッ! ウルフ」



 ウルフの言葉に西谷はハッと我に帰った。

 今は彼女の指示に従うのが一番で、下手に逆らうと自分たちは勿論、他の隊員達も殺されるだろう。もしかしたら、敵ではないのかも知れない。向こうからしたら、我々は未知なる存在。多少手荒になるのは仕方のない事だろう。


 そして、2人は両の手を上げてゆっくりと膝をついた。それから、また別の数人が小型艇の上をを歩く音が聞こえて来た。



ーーー

ーー

 謎の集団による夜襲を受けてしまった近藤一尉達は、叩き起こされた後に全員が捕縛され、甲板の片隅に集められた。



「も、申し訳ありません、近藤一尉」


「気にするな。にしても、まさかウルフの探知もあざむく輩がいるとな思わなかった」



 近藤を始めとした各隊員達の前に、彼らから押収した持ち物を積んで、1人の女性が睨みつける様にその上に座っていた。


 月の光に輝く鉄の胸当ブレストプレート腰当タス臑当ポレインには獣の牙を加工したと思われる鋭利な突起物が付けられており、腕当バンブレスには多数の斬撃の跡が残っている。


 そして、これら装備以外で身体を覆う物は備えておらず、つまりは露出している状態だ。少しばかり破廉恥な気もするが、そらも彼女の鋭い眼光、そしてバッキバキに割れた腹筋、一目でそれは女性といえど戦闘向きの身体つきであった。


 それに加えて一層に目立つのがある。


 『角』だ。



(彼女も、あの子と同じ種族なのか?)



 彼女を始めとした他の仲間達の額にも角が生えていた。長さや太さに個人差はあるが、どれも鋭利に尖っていた。そして、全員が角があるという事以外、人間……とりわけ日本人とさほど変わらない容姿をしている事にも驚いた。


 羅鬼はあれだけ騒がしくなっているというのに相変わらずスヤスヤと眠っていた。しかし彼女は、我々とは別に奴らに捕らえられていた。


 女性の額にも立派な角が生えていた。片方は半分折れていたが、それが更に彼女の強者としての風格をより一層強くさせた。



(彼女らの目的は侵入者の始末か? それに羅鬼を追っていた連中の仲間なのか? もしアイツらが羅鬼を狙っていた連中なら……)



 近藤は最悪殺される事になっても、あの子だけでも逃さなければと考えていた。それは偶然にも、他の隊員達も同じ考えだった。



 すると、長い沈黙と睨み合いが続いた後、リーダー格と思われる女性が口を開いた。



「問おう、蛮界の人族よ。お前達の目的は何だ?」


「第2せ……此方側の調査です。何もやましいことはありまー」


「嘘をつくなッ!!」



 彼女から発せられた甲高くも雷の如き怒号が響き渡る。



「貴様らは身なりこそは違うが、ハルディーク人なのであろう? もしくはハルディークの貴族どもに雇われた傭兵か?」


「それは違う。私達はそのような存在ではない」



 近藤は冷静に言葉を返す。その表情には一切の動揺や恐怖は滲み出ていなかった。



「ほう、そうか。だがお前たちと一緒にいたあのハルディーク人は何者だ?」


「……我々は此方側に関してあまりにも疎いので、少しでも此処に詳しい案内人を務めて貰っている。それだけだ」


「フン……ハルディーク人は我々を単なるケモノ以下の存在か奴隷程度にしか見ていない。そんな輩と協力するような連中など、たかが知れている。どうせお前たちも珍しい奴隷が欲しくて来たのであろう?」


「信じては貰えないだろうが、『違う』と答えよう。私たちは日本という国の者だ。此方側の国……もといオワリノ国と接触したいと思い来た所存だ。勿論、血を流さない平和的な接触だ」



 女性は近藤の目を覗き込んだ。近藤は微動だにせず、同じように彼女の目を見続ける。


 すると突然、同じく捕らえられていたラルボックが立ち上がり、悲鳴をあげながら小型艇から飛び降りて逃げようとした。



「う、うわぁぁぁぁ! 嫌だァこんな所で死にたくないィ!!」



 ただの案内人で何の覚悟も持っていない彼が泣き叫び、生に縋りながら逃げ惑う姿は何とも醜かったが、近藤は無理もないと思った。しかし、縛られた状態でこの暗い海に飛び込むのは自殺行為に等しい。他の隊員たちが彼を止めようと必死に体を動かそうとした。


 その時ー


 リーダー格の女が目にも留まらぬ速さで抜刀し、一瞬でラルボックの頭部と身体を切り離した。ラルボックの頭部と身体はそのまま乗り出した勢いで、海へと落ちて行った。



「どのみちハルディーク人は殺すつもりだった……しかし、お前たちは何処か違う……少し興味が湧いた。だが嘘偽りを垂れるようならば、容赦なくその首をー」



 女が再び詳しく聞き出そうと、元の位置へ戻ろうとしたその時、呑気に眠っていた羅鬼がゆっくりと目を覚ました。



「う、うん……あれ?」



 寝起きで少し寝ぼけており、今の状況が理解出来ていなかった。近藤たちは彼らの暴力が羅鬼に向けられる事を予想し、その時は何としてでも彼女を庇おうと覚悟した。しかし、彼らの不安は見事に裏切られる事となった。


 突如、女が羅鬼を力強く抱きしめたのだ。



「羅鬼……!」



 彼女の意識が戻った事に心の底から安堵した様に見える女の行動に近藤たちは困惑した。



「え?……お姉ちゃん?」



 羅鬼の言葉に隊員たちは更に困惑した。



「もう大丈夫よ。村が『聖天衆せいてんしゅう』に襲われたと聞いた時は、本当に……本当に心の臓が止まるかと!」


「あ、そ、そうなの! それでね、その聖天衆からこの人達が助けてくれたの!」


「……え⁉︎」



 羅鬼は嬉しそうに隊員たちの方へ指を向けた。すると女は驚愕した顔で勢いよく此方へ顔を向けた。他の仲間たちも困惑した様子でざわついていた。



「こ、近藤一尉?」



 イマイチ、状況が把握出来ない隊員の1人が声を掛けてきた。近藤は安堵の溜息を吐いた後、静かに答えた。



「ま、まぁ……とにかく、助かったと捉えていいだろう」


『近藤一尉の判断はどうやら間違いでは無かったようですね』





ーーー

ーー

 女は蛮界から来たケダモノと思っていた者達が、1人を除き、妹の命の恩人である事を理解した。そして、突然のことながら彼女は隊員達を解放、近くの岸まで案内をした。


 そして、久方ぶりに大地へと足を乗せた隊員達は一斉に安堵の声を漏らした。そして羅鬼を含めた女の仲間たちは一斉に跪き、隊員達へ向けて頭を下げた。



「ほ、本当に申し訳ありません! まさか、妹の命の恩人であったとは……な、何とお詫び申し上げたら良いかー」


「え、えぇと……気にしないで下さい。と、とにかく、2人が無事再会できて良かったです」



 女は何度も何度も砂浜に頭を付けて感謝と謝罪の言葉を口にし続けた。先ほどまでの、文字通り鬼の如き形相と気魄は何処へやら。角があるという点を除けば、普通の綺麗な女性がひたすらに土下座をする光景は、どこか心が痛むところがある。


 すると女は何かを思い出したように顔を勢いよく上げた。



「ハッ!そうでした、自己紹介がまだでしたね。私はオワリノ国の蛮界国境守備隊の隊長兼一番組は組頭くみがしら鬼阿羅キアラと申します。そして、此方が妹の羅鬼です」


「く、組頭?」



 近藤は組頭という言葉に少し引っかかった。いや、それ以前にも彼女……鬼阿羅を含めたその他仲間達の身なりを見れば誰でも気になるだろう。


 着ている防具、服装、武器も少し違うところはあるが、そのどれもがテレビとかで見る時代劇で武士や侍が身につけているモノに非常によく似ていた。



「失礼ですが、貴女の腰にかけている武器……その名前は『刀』では?」


「ば、蛮界にも刀が存在しているのですか? これはオワリノ国独自の武器で、こちら側の者ならともかく、蛮界の者がこれを知っているとは……驚きです」



 刀に似た武器もそのまんま日本と同じ『刀』と呼んでいる。多少なりとも元の世界の文明・文化と似ている国は多くて見たが、ここまで日本と似た文明を持つ国が存在している事には驚いた。


 そもそもオワリノ国という名前も、日本の愛知県西部に位置する『尾州』と呼ばれる地方の旧名である。


 近藤は、このオワリノ国という国が偶然日本と文明・文化が被ったとは思えなかった。



(……誰か日本の知識をも持った者が此処に? だとすれば結構古い時代を生きた者だろうか?)



 我ながら何を考えているのだろうかと思ったが、国そのものが異世界に転移し、魔法や亜人族が普通に存在している世界で暮らしている為、あながちイかれた考え方とも言えないだろう。



「失礼ですが、自衛隊の皆様はこれから何処へ?」



 鬼阿羅が質問に、近藤は思い出したかのように荷物から一枚の折り畳まれた紙を取り出した。それを両手で広げると、鬼阿羅に見せるように近づいた。



「知っての通り、我々は此方側の地理に詳しくありません。コレは此方側の地形を模した地図なのですが、今我々が居るのはどちらでしょうか?」



鬼阿羅と羅鬼、そして数名の仲間たちも一緒に近藤が広げた地図を眺めた。


この地図は獣人族の王、アビジアーナ・アンプルールが日本との友好の証として贈られた、第2界側の地形などが描かれた地図である。


すると鬼阿羅が申し訳無さそうな顔を向けながら答えた。



「も、申し訳ありません。私の知っている地図とこの地図とでは地形が大きく違いすぎて……『あ、この形はココに似てるかなぁ』ぐらいは少し、ほんとに少しだけあるのですが……は、ハッキリ言ってサッパリですね」



 鬼阿羅の言葉に近藤達は驚いたが、予測できた反応だった。


 この地図は500年以上昔の地図で、今の地図と比べれて大きく異なっているのは当たり前と言えば当たり前だからだ。例えるなら15世紀の地図で、現在位置を確認することに等しい行為である。



「そうですか……」


「あ、あのぅ」



 鬼阿羅が恐る恐る近藤に声をかけて来た。

 あの時の気魄は本当に何処へいったのだろう。



「もし行くあてが無いのであれば……オワリノ国の城下町までご案内しますが」


「よ、宜しいのですか⁉︎ わ、我々が行く事で、皆様を怖がられてしまうような事になりませんか?」



 願っても無いチャンスであるが、そうする事でその国の人々に余計な不安や迷惑を煽る事になりかねない。しかし、鬼阿羅と羅鬼は笑顔で「大丈夫です。」と答えた。



「私の部下が先に『わか』へ報告するよう伝えておきますので、そのまま城へ向かいましょう」



 隊員達は驚愕した。まさかいきなりオワリノ国の城へ入れるとは思ってもいなかった。確かに普通の下宿へ行くよりも、城へ向かった方が余計な混乱を招く事はないかも知れない。



「ですが、そのぉ……わ、『若様』が我々を受け入れてくれるのでしょうか?」


「大丈夫です! 第十三代魔王の『オダ・ノブタケ』様は大海の如き器の持ち主です! きっとあなた方の事も気に入られるでしょう!」





ーーー

ーー


 広く、立派な木造の部屋。薄暗い部屋を照らすは格子戸から入る月明かりと、淡いロウソクの灯りのみ。余計な家具などは一切無く、部屋の中央に1人の青年が刀の手入れをしていた。


 片わなの髷を結い、顔立ちの整った好青年の印象を受け、額から伸びる2本の立派な角は、鬼阿羅達と比べて少し短く感じさせる。


 その刀身から出てくる美しい輝きが、ロウソクと月の灯りでより一層美しさが際立っていた。


 青年が真剣な表情で刀身に打粉を叩いていると、突如その手を止めて、天井へ目を向けた。



「……オドゥオか?」


「流石で御座います……お気づきになられましたか」



 青年はオドゥオと呼ばれる天井裏に潜む者に声を掛けた。怪しいかすれ声で話すオドゥオは姿を見せずにその青年へ向け話を続けた。



「鬼阿羅様から伝令を預かっております。何やら、鬼阿羅様が任されていた沿岸付近で、蛮界から来た者達を見つけたそうで」


「蛮界? それはハルディークの者達ではないのか?」


「はい、どうやら違うようで。それに、鬼阿羅様の妹が、聖天衆に襲われていた所を助けたとのことで……」


「聖天衆だと⁉︎」



 聖天衆という言葉を聞いた青年は驚いた。その驚きは、ハルディーク人とは違う人間が蛮界から来た事よりも大きい。



「その者達は日本という国から来た使者だそうで……鬼阿羅様も城まで案内したいと申されております」



 青年は静かに刀を床へ置き、顎は手を当てながら考えながら口を開いた。



「そうか……聖天衆から鬼阿羅の妹を守ったという事は、悪い者達ではないだろう。それに礼も言いたい。連れて来てくれと伝えてくれないか?」


「ハッ」



 まるで虫が這うかのような音が天井裏から僅かに聞こえたが、その音は直ぐに小さくなって消えていった。


 静寂が再び部屋を満たし始めた。

 青年はあぐらをかき、顎に手を添えながら考え込んだ。



(まずい……鬼阿羅の妹がいた村にまで知らぬ間に天獄の魔の手が伸びていたとは……見誤った)



 青年は悔しそうに歯軋りを立てた。



(……連中の狙いは鬼阿羅の命だろう。アイツのことだ。妹が殺されたとあれば、私の命令がなれけば、無視して一人で仇を取りに行くだろう。後は上手く鬼阿羅を罠か何かを張り巡らせた場所へ誘き出して、隅へ追いやった獣を狩るように数で仕留める…っと言ったところか? しかし鬼阿羅ほどの剣客を仕留める者がい……いや、『四鬼王しきおう』達がいるか)



 青年は立ち上がると、壁に掛けてある大きな布を見つめた。その目には誇りと尊敬が込められていた。



「我が偉大なる御先祖様……迫害を受け、行き場を失い、同族同士の争いごとが絶えず、バラバラとなったガルヴァス王国を、オワリノ国へと建て直し、泰平の世を創り上げた貴方様の偉業」



 青年はそっと壁に掛けてある布へ手を添えた。

 その大きな布は長い年月を経て、多少の汚れや傷が見受けられる。


そして真ん中には『五つ木瓜』が描かれいた。


 青年は力強い意思を込めて宣言した。



「六代目ガルヴァス王国魔王、そしてオワリノ国国父『オダ・ノブナガ』様の血を引く、この『オダ・ノブタケ』が、この国を守り抜いて見せます!」








ーー オワリノ国 天鳳山


 開けた平野に不自然と存在する大きな山がある。標高は約400mほどでその頂上には、麓からでも見えるくらいかなり煌びやかとした寺に近い形状の大きな建物があった。それ以外にも、金の装飾が施された塔や建物が、木々が生い茂る山肌からチラホラ覗かせている。


 山の周りには広大な田畑のみが広がる殺風景な景色であるが、天鳳山と呼ばれる山は全くの真逆であった。


 山を囲うように建てられている城壁が山頂部、中腹部、麓の三階層に分かれるように建てられていた。一番下の階層には多くの中小様々な大きさの建物が多数並んでおり人々の居住区となっている。中腹部は様々な用途で使われる意味深な建物が多く、人の往来は少ない。山頂部に建てられた唯一の建物は大きくて黄金色の装飾で飾られていた。誰が見ても相当位の高い者が住まう場所であると同時に本殿であることは明白だった。



 ココは聖天衆の本拠地『恵奠エデン』。


 頂上にある豪華な本殿が聖天衆の総本山『聖天鳳寺』が存在する。







ーー


 聖天鳳寺の最奥にある広々とした清潔感のある一室。二十畳近くの部屋に敷かれた畳からは、独特な落ち着く匂いが立ち込めている。


 複数に置かれた灯篭の光が、外からの光が殆ど入らない大広間を照らしていた。そして、その更に奥には仏などを奉る内陣と思われる場所には、翼の生えた美しい女性を象ったとされるであろう金の像がとても大切に奉られていた。


 その部屋の中央に寂しく置かれた座布団の上に、一人の大男が静かに座った。



「ただいま戻りました、亜闍梨:天獄様」



 その男は羅鬼の村を襲った聖天衆を率いていた土瑠鬼であった。彼は深々と頭を下げると、スーッと襖が開かれた音が小さく聴こえてきた。



「ホホホ。ご苦労様でしたねぇ、土瑠鬼」



 奥から現れたのは金色の法衣を纏った面長の男性。つり上がり細っそりとした目からは、蛇のような瞳孔が僅かに覗かせており、髪は下げ髷で簡易にまとめていたが、その髪留めとなるヒモにも金色の模様が彫られている。


 そして、額からは左右非対称にグニャリと曲がった2本の角が伸びていた。



 彼こそがこの恵奠を治める者。


 亜闍梨:天獄その人である。



薄気味悪い、しかし品性のある法衣が彼の雰囲気を多少は緩和させていた。


 天獄は土瑠鬼の前にある、少し離れた座布団にゆっくりと座った。



「面をあげなさい……亜闍梨である私の威光を拝める事を許可します」


「ハッ」



 土瑠鬼はゆっくりと顔を上げる。



「さてさて、話は密偵から聞きましたよ。なんでもしくじったそうではありませんか」


「面目次第も御座いません」


「良いですか、土瑠鬼。我ら聖天衆がオワリノ国の半分を手に入れたとしても、ノブタケには鬼阿羅を含めた『三士さんし』と、ノブタケの懐刀、オワリノ国最強の剣客である『髏鬼ロキ』がいるのです。我々は近いうちに訪れる偉大なる聖戦へ向けて、少しでも敵の戦力を削ぐのが貴方の努めなのですよ」


「承知しております」


「土瑠鬼……四鬼王の一角である貴方の実力を疑うわけではありません。次こそは必ず仕留めるようお願いしますよ」


「ハッ」


「……ところで、少し気になることがあるのですが、先の報告にあった蛮界から来た謎の集団の事ですが…その者達はもしや、緑色の衣服を身に纏った者達では?」



 天獄の言葉に土瑠鬼は小さく頷いた。すると天獄は気持ちの悪い、甲高い笑い声を上げた。



「ホッホッホッホ! それはそれは……至高なる神メルエラ様は間違いなく、我らに微笑みかけておられるようで!」



 土瑠鬼は天獄が話してある事の意味がイマイチ分からなかった。



「その船は1隻でしたか?」


「は、はい……1隻だけだっと聞いております」


「そうですか、そうですか。ホホホホッ!」



 天獄は甲高い笑い声を発した後、舌舐めずりをしながら不敵な笑みを浮かべる。



「一隻に8人。つまりはノブタケに8、私に16……ホホッこれで揃いましたね。これでノブタケ側にいる8人も取り込めば、我らの勝利は間違い無しですね! ホホホホ!」



 そう言うと天獄はスッと立ち上がり、背後にある金の像へ向けて、跪きながら高らかなに話し始めた。



「あぁ! 偉大なる聖神にして至高なる存在であるメルエラ様ァ! 御身の慈愛に満ちた寵愛に感謝いたします! そしてッ! より一層の祈りを捧げたく存じます!!」



 少々大袈裟なようにも見て取れる祈り方であるが、土瑠鬼はそんな事など気にも留めずに、天獄と共に……しかし、彼とは違い静かに祈りを捧げた。

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