第102話 新列強国
溜まってた分投稿します。
ーー
「ニホン国は、第2世界についてどこまで知っていますか?」
シリウスの言葉に会場がざわつき始める。
列強国や準列強国は兎も角、その他の国々は『第2世界』という存在自体が認知されていない。
「彼は何を話しているのだ?」
「第2?…まるでココとは違う世界があるかのような言い草だな。」
「ばかばかしいッ!そんなのありえんよ。」
純粋に疑問に思う者や小馬鹿にする者がいた。しかし、ハルディーク皇国のらシリウスと日本国の安住、その他列強、準列強国の代表者らの真剣な表情を見て、その話が段々と本当の事であると実感し始める。
「……ま、まさか…本当にそんな国が存在する…のか?」
息を呑む一同。先程までざわついていた会場が、一気に静寂に包まれた。その静寂を最初に破ったのは安住であった。
「あらかた貴国の予想通りとは思いますが、ネイハム氏からある程度伺っております。霧の壁の向こう側に『第2世界』があるという事や、その第2世界の大半を統治してるのが、レムリア共和国であるということ…ぐらいでしょうか。」
シリウスはゆっくりと頷いた。
「なるほど…まぁ思っていたよりは少なかったですね。…ところでアズミ殿。ここで我が国から提案があるのですが…。」
「何でしょうか?」
「実際に第2世界を確かめる気はありませんか?」
「……。」
安住は黙っていたが、シリウスは話を続ける。
「あの霧の壁を抜ける為の術を我々は有しています。どうですか?案内を務める我が国の精鋭部隊とニホン国の調査隊で、第2世界へ派遣するっと言うのは?」
安住は静かに目を閉じる。シリウスはどうかこの誘いに乗ってくれと心の中で祈りながら、更に話を続ける。
「何事もその目で、体で体験しないことには何も成長はありませんよ。」
すると安住が口を開いた
「ネイハム氏の話を聞く限りでは…どういった所なのかはハッキリ言って良く分かりません。ある意味、隊を派遣するのも1つの手ででしょう。」
「で、でしたらー」
「だからと言って、未知の土地へそう安易に隊を派遣する事は出来ません。私に自衛隊の指揮権がある訳ではありませんが、二つ返事でハイハイと了承できる話では無い。」
「つ、つまり断るとッ⁉︎」
「そうは言ってません。ただ今回の件、私1人で決めるにはあまりにもデカい提案であると言う事です。申し訳ありませんが、一度本国へ戻り官僚達と話し合いをさせて下さい。」
安住が静かに頭を下げる。シリウスもそれに答える様に軽く頭を下げた。
2人の一連のやり取りに、議長も多少困惑は見られたものの、取り敢えず済んだことを確認し、話を進める。
「え、えー…では、その件についてはまた後日っという事で…。では次の議題です。ある意味、この議題こそが、多くの国々が集まった一番の理由でしょう。」
周りから喧騒やらヒソヒソ話やらが聞こえなくなり、全員がピリピリした緊張感に包まれていた。
「ハルディーク皇国はニホン国との戦争及び敗戦により、列強国としての力を保持出来なきいものであると考えられますが…ほかの4カ国の列強国の皆様はどの様にお考えで?」
真っ先に手を挙げたのはサヘナンティス帝国てあった。
「我が国としては、ハルディーク皇国を列強国から除外するべきであると考えております。彼の国には、最早、列強国と言える程の力は有しておりません。更に公になった数々の列強国規定違反…その中でも特に無視出来ないのが『奴隷売買』です。これは傘下国やその他諸国へ、極秘裏に捕らえた奴隷を裏ルートで多額の売買を行なっていた事が分かりました。」
〜列強国が奴隷制度やその売買に関わることを禁じる〜
という規定があるのだが、ハルディーク皇国はこの規定を違反していた。それだけでは無く、規定違反を認知していながら、リトーピアからの勧告を無視し続けていた。
「うむ…確かにハルディーク皇国を列強国から外す理由としては十分ではあります。他の列強国の皆様も同意見でしょうか?」
議長が各列強国の代表者に問い掛ける。すると、レイス王国のリオネロ・ネリスが手を挙げ、妖しげな声で口を開いた。
「あ、すみませ〜〜ん。実は、あともう1カ国…列強国から外すべき国が有るんですけど。」
「ッ!」
リオネロの言葉に周りが驚愕した。議長は軽く咳き込みながら、話の続きを伺った。
「い、いいでしょう。レイス王国が指名する除外国は?」
「ふふふ…バーク共和国よ。」
「ッな、なんだとッ⁉︎」
バーク共和国のエステルが思わず、椅子を倒す勢いで立ち上がる。額からは滝のように流れる汗と鬼気迫る表情をしていた。リオネロはそんな彼の顔を見てクスクスと笑う。
「り、リオネロ!!!幾ら同じ列強国でも言っていいことと悪い事が有るぞ!!!ここは冗談をいう場では無ー」
「あら?私が冗談を言っているとでも?」
彼女の眼は本気だった。
エステルは余計に腹が立つ。しかし、彼女がバーク共和国を除外するに値するという言葉の意味を、彼は理解していた。
「ふ、2人ともどうか落ち着いてッ。…ふぅ……それで、リオネロ殿。一体どう言った理由で、バーク共和国を列強国から外そうと?」
「バーク共和国は、ハルディーク皇国と同様に多くの奴隷商会や傭兵を雇っては、非公式且つ秘密裏に希少種族などを捕らえて、多くの国々に売りさばいていたわ。それだけじゃないわよ、あの国は原住民から居場所を無理矢理奪っては、男達を労働力として扱い、女達を慰めモノとして扱っているわ。」
エステルの冷や汗は止まらなかった。彼女が話している事は全て事実であったからだ。今まではこの件を上手く隠してきたつもりであったが、現在の男が国のトップになってから、その管理は杜撰なものなってしまっていた。
そもそも、その件については何世代も前から続いていた事であった。しかし、エステルや先代国家主席の尽力のもと、この忌まわしい現状を全て終わらせようと努力し続けていた。しかし、先代が急死した事で、あの男がトップに立ったことで全て水の泡となり、原住民とのイザコザは、最早修復不可能にまで悪化してしまった。
「くっ!」
「あら?その様子じゃあ図星みたいね。」
「ち、違ー」
「否定しても無駄よ。証人と奴隷売買や傭兵達を雇った時の資料は、ずっと前から確保してたんだから。」
「なんだと⁉︎」
「ふふふ…バーク共和国って本当に…工作員に甘い国よね。入国する時なんて、軽い身体検査で終わりだもの。まぁ、先代の時であれば先ず、潜入すら出来なかったけど、今のボンクラがトップになったおかげで…かなり楽だったわ。」
レイス王国の使者が会場に証拠資料を掲示、更に元奴隷商人や元傭兵を証人として会場へ連れて来させて、バーク共和国の悪態を赤裸々に語った。
ーーー
ーー
ー
「ふむ…確かにあまりにも規定違反だ。エステル殿…十分な証拠が揃っているが、何かいう事は無いですかな?」
エステルは立ったまま俯いていた。拳を強く握りしめて、静かに口を開く。
「あ、ありません。」
「そうですか。では今回の会談後に私の使いを貴国へ送ります。事の詳細がハッキリでき次第、バーク共和国を列強国として存続させるか否かを決定します。よらしいですか?」
各国の代表者達が頷くのを確認すると、議長は話を進める。
「では…ハルディーク皇国が列強国では無くなったわけですが…無論、このまま列強国の席を空かせる訳には参りません。ましてや、またすぐに列強国の席が空くかもしれませんからね。」
会場内が再び緊張感が走る。
「さて…私から述べさせて頂く、ハルディーク皇国の後釜は……ニホン国です。」
周りの反応は思ったほどざわつきは無かった。寧ろ、ここ最近の日本の活躍を見れば、誰が考えても明らかである。
「よろしいですかな?では……新たなる列強国として…ニホン国をー」
「異議あり!ちょっとお待ち下さい!」
突如として聞こえてきた異議の声。その声が聞こえてきた方向を見るとー
「何かご不満でも?……クアドラード神国のエルケドゥアス殿。」
長くスラッとした体格の男、クアドラード神国の外務神官エルケドゥアス・サンテリアスであった。彼はスッと立ち上がると会場に居る全員に演説し始めた。
「皆さん!本当にニホン国が列強国として繰り上がらせて宜しいのでしょうか⁉︎また、ただ武力があるというだけで、よく分からない国をこの世界の支配者の一角を担わせてよろしいのでしょうか⁉︎」
彼の高らかに張る声に、周囲がざわつき始める。周囲が混乱するのを確認したエルケドゥアスは薄く笑い、更に話を続ける。
「皆さん…思い出して下さい!30年以上前……この世界の均衡を壊したあのヴァルキア大帝国を!」
30年前…知る者こそは少ないが、ヴァルキア大帝国は日本と同じくこの世界に転移してきた国家である。そのヴァルキア大帝国が、転移して間もない頃、当時7カ国の大国…7大列強国が世界を全ていた。その中の内の2カ国である、アルサレム王国とペリュード連邦が同盟を組み、未知なる新敵であったヴァルキア大帝国へ宣戦布告をした。結果は僅か1週間で大敗。その領土は奪われ、今はヴァルキア大帝国の自治区として存在している。
その後、ヴァルキア大帝国はその圧倒的軍事力を評価され、列強国の仲間入りとなった。
「皆さん……世界は7つの大国により秩序が生まれていました。しかし!そこへ現れた野蛮なる国が、その秩序を壊し、いま現在に至るまでギリギリの均衡へと変わってしまった!ニホン国も同じです!果たして武力だけを見て、また同じことを繰り返しても良いのでしょうか⁉︎真なる平和を臨む者の…偉大なる神アヴァロンに使える者として、ここに宣言いたします。列強国となるは、熱心なる信仰心と平和を望む強い国であるべきだと…。違いますか、皆さん?どうなのですか⁉︎」
彼の勢いに周りの国々が次々と圧倒される。一方、野蛮と呼ばれたヴァルキア大帝国のオルネラ・ヴェルガゾーラは不快に感じていた。
「失礼ですが、エルケドゥアス殿。貴方は先ほど我が国を『野蛮』と仰いましたね?その気持ちは本心でしょうか?……ここは国の代表者の集い…つまるところ、ここでの発言はその国の意志であると肝に命じた上で、もう一度お伺いします。」
「……何故ですか?あらゆる事に対し、武力で解決するような国を野蛮と答えて何が悪いのです!例え如何なる場合にせよ、平和を愛する…愛の力こそが世界を救う力となるのです!」
オルネラの瞼がヒクヒクと動き出す。
「決して武力だけでは解決出来ないという現実をお教え致しますよ?オルネラ殿。」
「なるほど…よく分かりまー」
「静粛に!!!!!!!!!!!!」
当然、響き渡る怒号に周りの窓ガラスが激しく揺れる。各国の代表者達は思わず耳を塞いでいた。大声を上げたのは他でもない、リトーピアの最高責任者兼議長のモイセス・ペレスである。
「ここは神聖なる会談の場……戦のお膳立て会場では無いッ!!!…エルケドゥアス殿。」
「は、はいッ⁉︎」
「貴方の言動全てに敬意を感じられない。よって…今後その様な言動が見られた場合は、即刻退出させます!」
「わ、私は事実をー」
「黙りなさい!!!一体何を目的にその様な事を口に出すのですか⁉︎…この様なことはあまり口には出したくはありませんが……余りにも目に余るものであれば、リトーピアが動きますよ。」
「ッ!!!」
モイセスの言葉にエルケドゥアスは、スゴスゴと引き下がる。周りの喧騒も止んだ。
「……ありがとうございます、モイセス議長。」
「はぁ…全く、貴女様も貴女様です。彼ほどでは無いにしろ、あまり挑発に乗らない様心掛けて下さい。」
「……はい、お恥ずかしい限りです。ですが…久しぶりに見れましたわ。元『列強国』の顔を…。」
オルネラの言葉を聞いた安住は彼女の言葉に驚いた。
「元…れ、列強国?」
「ん?アズミ殿知らなかったのですか?」
疑問に抱いてる安住にウェンドゥイルが声を掛ける。
「30年前まで『リトーピア』は、列強国だったんですよ。『浮遊都市国家:リトーピア』。地方によっては『絶対強者の国』と呼ばれていました。」
「ふ、浮遊都市…国家?」
リトーピアは飽くまで永世中立としての立場を持つ存在である事は知っていたが、国としては勿論、列強国の一角であったという事実は聞いていなかった。
「こ、この浮いている島が…国家⁉︎と、都市国家⁉︎た、確かに小さな建物はチラホラ見かけましたが…。」
「ハハッ…最初は皆が驚きます。この島の都市は内部…つまり中枢に存在しています。まぁ総人口は1万にも満たないですし、兵力も少ない…ですが、兵士一人ひとりが折り紙つきのバケモノです。クアドラードのエドガルドもそうでしたが、彼でも太刀打ち出来ない程の実力者揃い…本当に恐ろしいですよ。そのトップが、モイセス議長だったんです。」
ウェンドゥイルは説明を続けた。
30年前の列強国。つまり7大列強国は、『サヘナンティス帝国』、『レイス王国』、『バーク共和国』、『ペリュード連邦』、『アルサレム王国』、『ハルディーク皇国』そして、『リトーピア』であった。
当時は列強国同士の会談の場など存在せず、それぞれが自国領土とその周辺を統治していた。
突如、それまで存在していなかったはずの国の出現により、調査に名乗りを上げたのはペリュード連邦とアルサレム王国、そしてリトーピアであった。
当初は三ヶ国協力しての調査を目的としていたが、ペリュード連邦とアルサレム王国はリトーピアを出し抜く為に密かに企んでいた。
その両国は同盟を組み、大軍を率いて『ヴァルキア大帝国』へ攻め込んだ。目的としては、未知なる資源と領土の拡大だった。しかし、結果は知っての通り大敗…。
他の列強国はその事実に驚愕し、リトーピアのモイセスは、「一度落ち着いて慎重になるべきだ」と提言したが、激昂した両国は彼の計画に耳を傾ける事無く、そのままヴァルキア大帝国と戦争に踏み込んだ。そして、両国は逆に取り込まれてしまった。
先走った愚行の結果とは言っても、両国とリトーピアは兄弟の様な関係であった。その両国を失ったモイセスの悲しみと怒りは計り知れないものであったが、ここだけ感情に流されては、両国の二の舞になる事が分かっていた。そこで、モイセスは列強国同士の仲介役を担い、二度と愚かな行為が起きない様、この会談を設立し、永世中立としての立場を貫く為に列強国の座から降りた。
その後間もなく開かれた会談で、ヴァルキア大帝国に自身の後釜を担わせ様と列強国の座を譲った。
その後、列強国が絡むような事が起きたと言う事実を知るたびに会談を開いた。
「そ、そうだっんですか…。」
リトーピアについてはよくわからない事があったのだが、予想を超える事実に安住は驚愕していた。すると、引き下がっていたクアドラード神国のエルケドゥアスが再び立ち上がり、話を始めた。
「もう一度よろしいですか?…先程は少々取り乱してしまい申し訳ありませんでした。ですが…2…いや、実質3ヶ国の列強国が消えたことで世界では侵略と紛争と小競り合いが後を絶ちません。無論、リトーピアの力が衰えたという認識はありませんが、世界の均衡を保つ為にも…もっと慎重に選ぶべきです!」
彼はまるで演劇の舞台に上がってあるかの様な動きを見せながら、話を続ける。高度文明国家群は段々と彼の言葉に共感する様な声もチラホラ聞こえてくる。
「皆さん……新たな列強国の座を得るのは、この世界を想い…愛する国で無ければならないのです。」
そこは1人の代表者が口を開いた。
「おやおや、エルケドゥアス殿。貴公の話を聞いていると、まるで自分こそが列強国に相応しい様な言い方ですな。」
「……ドルドント殿。」
エルケドゥアスが目を向けた先には、足を組みながら不敵な笑みを浮かべている1人の男性がいた。彼の名はドルドント・バ・ティア。クアドラード神国と同じ、準列強国の一角を担うバリシアン皇国の外務局長である。
「クックックッ!」
「…何がおかしいのですか?ドルドント殿。」
まるで小馬鹿にするかの様に笑う彼に、エルケドゥアスは苛立ちと不快感を露わにする。
「いやはや、失礼…。あまりにも胡散臭いと思いましてね。」
「何…?」
「いやね…貴公の仰りたい事は分かりますし、共感しますよ。ちゃんと国としての在り方や存在意義を証明している国でなければ列強国は務まらない事は分かります。いやぁ〜不思議ですねぇ。貴方が流暢に話せば話すほど、それが胡散臭く聞こえてくるのですよ。」
「……くっ!」
エルケドゥアスは歯噛みした。ここまで自身を踏みにじるような発言するドルドントを睨みつける。
ドルドントは話を続ける。
「やっぱりここはハッキリ言って、今一番好景気な我が国…バリシアン皇国こそが、列強国の座に相応しいかと。」
「なんだとッ⁉︎」
「実際、今我が国は新たな金脈鉱山の開発に大成功しています。デカい資金力と兵力を有する我が国こそが、新たな列強国の座に相応しいでしょう。如何ですか?…何なら今この場にいる国に大金貨を1000万枚ずつ…お渡ししても構いませんよ。」
大金貨1000万枚を渡しても良いと言う彼の言葉にエルケドゥアスは驚愕し、列強国以外の国々は大きくざわついた。
「おぉ!」
「ぎ、議長殿!誠悦ながら、ここはバリシアン皇国にッ!」
「大金貨…1000万…い、1000万ッ。」
次々とバリシアン皇国を次の列強国に上げるべきだと言う意見が聞かれる。しかし、議長の表情が緩む事は無く、ただほくそ笑むドルドントを見ていた。
そこへもう1人…黙って腕を組み続けていた代表者が口を開いた。
「全く…どいつもこいつもカネばかり目がくらみやがってッ。」
ドスの効いた低い声で話し始めたのは、バリシアン皇国やクアドラード神国と同じ、準列強国の一角…サナ王国の外務局長、ドナフ・テカ・ン・ドゥであった。貫禄のある初老の男性で、額にくの字型の大きな傷が特徴的であった。
「議長さん。儂ぁ次の列強国が、ニホン国でも構いやしませんぜ。」
「…ドナフ殿。何を言っているのですか?この話は、貧乏なサナ王国にとっては願っても無い話でしょ?」
「アホぅ…金よりも大事なモンがあるじゃねぇかい。バリシアンやクアドラードみたいな、腑抜けどもの国が列強国になる筈あるめぇな。」
「…じゃあ貴方はどういった国が列強国に相応しいと想いますか?」
「儂ぁイケイケの奴しか認めんぞ。金勘定しか脳のないヤツや金に目のくらんだヤツ、それに野心剥き出しのヤツが列強国にあがるなんざゴメンだ。たとえどんな状況でも、誇りのために張り続けるのが列強国やろが。」
「……5000程度の兵力しか無いサナ王国は黙って頂きたい。」
「たかが5000程度でも……80万いるお前んトコと十分に渡り合えるぞ。」
互いに鋭い睨み合いを続けるドナフとドルドントは、今にも一触即発の状況だったが、議長が仲介に入った。
「お二人とも落ち着きて下さいッ!全く、これ以上この場を混乱させないで下さい。」
議長の仲介もあり、下手な衝突も無く済むことが出来た。…が、流石に握手で仲直りというわけにはならなかった。
「…ケッ!」
「フンッ!」
安住は準列強国の国々がかなり険悪な関係である事とモイセス議長がかなり胃を痛める思いをしているということに気付いた。
(…今度リトーピアに良い胃薬でも送ろうかな。)
更にそこへサヘナンティス帝国のロラン・シェフトフが会話に入って来た。彼は相変わらずシワの目立つ正装で、片方にズレた眼鏡を掛けている。
「ま、まぁまぁ落ち着いてください。武力も大事ですが、財力も大事です。ドルドント殿はそれを言いたかったのですよ!」
ドルドントは腕を組んで目を合わそうとしないが、ドナフはロランの方へ顔を向ける。
「あぁ…そうかもしれんな。恥ずかしいところを見せちまって…スマン。」
薄く微笑みながら謝る彼を見て、ロランはホッと胸を撫で下ろし、議長へ問い掛けた。
「それで?モイセス議長。結局のところ、ニホン国を列強国へ迎え入れるのですか?それとも……」
「うむ…ニホン国についてよく分かっていない国々が多いことは承知である。だが、ニホン国による働きはかなり大きい所が多いのも事実なのだ。」
モイセス議長はニホン国の働きについて説明をした。ドム大陸でのロイメル王国とアムディス王国との衝突を防ぎ、大陸内での平和をもたらしたこと、過剰なまでの奴隷制度を敷いていただけで無く、諸外国にまでその魔の手を伸ばそうとしたテスタニア帝国を打ち破り、多くの奴隷を救ったこと。そして、暴走したハルディーク皇国の野望を阻止し、多くの国々を救ったこと。
日本をあまり良く知らない国の代表者達は興味津々に聞き入っていた。
「ふむ……ハルディーク皇国の件以外は殆ど知らなかったが…悪い印象は無いな。」
「だが…本当にそこまでの実力があれば、世界を手に入れることもわけない筈だ。」
「それはニホンが平和を愛する国であるからであろうな。」
「わ、私的にはやはり…バリシアン皇国の方が…。」
「お前は金が目的ではないのか?」
多くの国々が日本の業績に高い関心を覚えた。議長がそのことを確認すると、再び話し始めた。
「まぁそもそもこの考えを変えるつもりはなかったが……ニホン国を列強国の一角ということで…決定した!!!!!!」
周りから大きな拍手が聞こえてくる。
こうして日本国はこの異世界で、遂に列強国の一角を担う形となった。バリシアンのドルドントは、少し不満ながらも皆と同じように拍手していた。しかし、クアドラードのエルケドゥアスだけは、恨み篭った目で安住を睨みつけていた。
安住はエルケドゥアスの視線には気付いておらず、立ち上がり、周りの国々に向けて礼を繰り返していた。
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会談が終わり、各国の代表者達が帰路につこうとしていた。会場の隅で友好国と楽しく話している国もいれば、格上の国に対してゴマスリをしているであろう国も見られる。
役目を終えた安住は会場を後にし、此処まで共に移動していたサヘナンティス帝国の飛行戦艦へロランと共に搭乗しようとしていた。
「いやはや、まさか列強国になるとは…貴国には驚かされっぱなしですよ。」
「いえいえ、サヘナンティスを含めた多くの国々の支えがあったからこそです。…これで日本は世界に強い存在感を示す形になりましたよ。」
「ははは…そのようですね。ほら。」
ロランが指差す方向へ安住が目を向けると、廊下には多くの国々の代表者達が、端でニコニコと笑いながらこちらを見ていた。
「あ、あのぉ…アレは?」
困惑する安住にロランは苦笑いで答える。
「まぁ…貴国は列強国の一角を倒したのです。オマケにヴァルキア大帝国とは違い、友好的かつ開国的ですから、多くの国々が貴国との繋がりを得て、何かしらの利益を狙っているのです。」
「は、はぁ…。」
安住は、要は虎の威を借る狐なのだと思った。そして、日本という後ろ盾を利用して今後の外交や貿易、軍事面に関して有利に進めようと企んでいる。安住は軽くため息を吐きながら、列強国になる事で大変な事もあるのだと改めて実感した。
「おぉ!大人気ではないですか、アズミ殿!」
突然声を掛けて来たのは、ロイメル王国の第一王子、フェンディス・ルファーであった。まだ世の汚れや闇を知らない真っ直ぐな彼には、他の国々に対する日本国の影響にただ感動していた。
「ふ、フェンディス王子殿。」
「実に羨ましいですなぁ。まさに!列強国に相応しい威厳!そんな国と我が国が友好国であると考えると非常に心強いですなぁ!」
キラキラした目で話してくる彼に対し、素直に教えるべきなのか、安住は迷った。
下手に友好関係を結べば、それを利用して様々な面倒事に日本を巻き込み、最悪戦争に巻き込まれる可能性がある事を…。
この様な国同士の会談の場で見られる笑顔の大半は、裏には必ず何かしらの腹黒さが潜んでいることを。
「全く、意地汚い奴らばかりではないか。」
腹に響く野太い声が聞こえて来た。それと同時に、笑顔で待機していた代表者達が次々と血相を変えて、逃げるように退がり始めた。
安住が後ろを振り返ると、そこにはドラグノフ帝国龍王、バハムートとアルフヘイム神聖国聖王、ウェンドゥイルがいた。
「ば、バハムート氏にウェンドゥイル氏ではありませんかッ!」
フェンディスはバハムートの威圧的な姿に言葉を失っていた。
「やれやれ、アズミ殿は顔に似合わず友好的だからな。奴らがそれを知ってか知らずかは分からないが…そこは少し改めるべきだろう。」
「は、はぁ…すみません。」
龍王の言葉に安住は思わず謝り、ウェンドゥイルもその様子を薄い苦笑いで見ていた。
「ですが…実際に友好的に付き合う国は慎重に選ぶつもりです。そこは御安心下さい。」
「ハハハッ!!!そうか、そうか!」
「バハムート殿、そろそろ我々も行きますか?」
「ムッ?そうだな。では、アズミ殿、ヒロセ王によろしくな!」
バハムートとウェンドゥイルはその場を後にする。安住は、バハムートの言った『ヒロセ王』に疑問を抱いていた。
「ひ、広瀬…王?」
更にそこへ2人の代表者が現れた。
「列強国の仲間入りおめでとう…えーっと…アズミ殿でしたね?」
「フッ…まさか新参者に列強国の座を取られるとはなぁ…まぁ別に構いやせんがな。」
バリシアン皇国のドルドントとサナ王国のドナフであった。
「今後の貴国の活躍に期待してますよ。」
「下らん欲に惑わされんようにな…。誇りを忘れなら、その国はお終いだからよぅ。」
2人は軽く一言二言話し、その場を後にする。その時に2人は軽くド突きながら帰って行った。安住は、なんだかんだ言ってそこまで仲が悪いわけではないのではと思った。
「ま、まぁとりあえず船に急がましょう。大物が連続して現れた事で、殆どの代表者達がどっか行っちゃったみたいですし。」
「そ、そうですね。」
ロランと安住は早歩きでその場を後にして、飛行戦艦に搭乗した。
ーー翌日 クアドラード神国 法王聖堂 法王の間
「クッ!バリシアン皇国とサナ王国どもめ!いつもいつも我々の邪魔ばかりしおって…こうなる事なら両国に刺客を差し向ければ良かった!」
机を叩きながら苛立ちをあらわにしているのは、法王アギロンであった。彼の前には、エルケドゥアスが立っている。
「もともと議長は、ニホン国を列強国に推薦するつもりでしたから、我が国が列強国になれる可能性は限りなくゼロでした。」
「馬鹿者が!!!ハルディーク皇国の後ろ盾が無いこの状況どうするつもりだ⁉︎幾ら何でもハルディーク皇国が抑えていた傘下国を取り込む力が無ければ、それらに抗う力も足りないのだぞ⁉︎更にだッ…エドガルド達の身柄もニホンが預かっている。ヤツが残党どもを率いてくる可能性も否定できん!」
「すみません…私の力不足でー」
「全くだ!列強国の後ろ盾が無ければ、我が国はバリシアンやサナに遅れをとるぞ!本来であれば『ユートピア』で生まれた軍事技術も近々受けてる手筈だったんだ!それが無くなったんだぞ!」
「…も、申し訳ありまー」
「このまま行けば下手すれば準列強国の座を失いかねん!お前の不甲斐無さのせいで、この国はどんどん沈んで行くんだぞ⁉︎」
不甲斐ないも何も、議長が既に決めていた事を覆させるのは困難を極める事である。アギロンはそんな事など御構い無しに、無理難題を部下に押し付け、分かりきっていた失敗を責め立てる。エルケドゥアスは静かに拳を握りしめるが、怒りを通り越して逆に哀れに思えてきた。
「どいつもこいつも使えん連中ばかりだ!お前たちはどこまで私を惨めにさせれば気がすむのだ⁉︎そもそも貴様はー」
エルケドゥアスは、こんな屑を具現化した様な男の為に外務神官となった訳ではなく、純粋に神を愛し、国を愛するが故にクアドラードでの反乱に参加し、現在に至る。
だが、今になり自分の行動が間違いだった事に気付き始めた。真にこの国を導く筈の人間を追い込んだ罪人であると思い始める。
「おい!聞いてるのか⁉︎」
アギロンの怒鳴り声でエルケドゥアスは我に返った。
「全くッ!そんなテレ〜っとしてるからお前は役立たずの中でも一番の役立たずなのだぞ!」
「も、申し訳ありません。」
「やっぱりお前は……いや、待てよ。おい、ニホン国は第2世界への調査には行くやもしれんっと申したな?」
「え?で、ですが…まだ決まった訳では…。」
「だが可能性は十分にある!……確かハルディーク皇国からも何人か調査に同行すると申していたな。」
「は、はい…ニホンが調査に出ればの話ですが…。」
アギロンはニヤリと笑い、エルケドゥアスに命令を出した。
「よし!念の為皇国に潜ませていた『アサルディー』に連絡をしろ!その調査隊の中に紛れるようにな!」
「あ、アサルディーをですか⁉︎た、確かなヤツは裏方全般を任せている一流の工作員ですが……本当によろしいのですか?我が国の切り札ですよ!」
「構わん!早く連絡をいれろ!」
「は、はい!」
ーーハルディーク皇国 某路地裏
薄汚い路地裏の影に潜む1人の男がいた。男は恐ろしいまでに特徴の無い顔をしていた。眉毛や睫毛、ホクロやら髪、ヒゲも無い。血が通っていないとさえ思えるほど色白であった。
男は表情1つ変えず、物乞いに扮してただ片隅に座り込み続けていた。
そこへ1人のフードを羽織った人物が彼の前に現れ、声を掛ける。
「仕事だぞ、アサルディー。今回の報酬は大金貨1000枚だ。」
「……。」
物乞いに扮しているこの不気味な男こそが、クアドラードの切り札である、アサルディーであった。
フードの男の話に返事はおろか、頷きすらない。ただ動かず一点を見つめていた。
「おい、聞いてんのか?」
「……お前は素人か?」
「な、何?」
やっと口を開いたかと思えば、聞かれたのは返事で無く、質問であった。
「本当にお前は裏の人間…暗殺者なのかって聞いてるのだが。」
「あ、当たり前だ!」
すると突然、アサルディーは目の前に立っていた男の膝に蹴りをくらわせた。
ベキィ!
「ッかはっ‼︎」
男の膝が有り得ない方向に曲がりながら、何かが折れる音を響かせる。男がそのまま身体を崩すと同時に、アサルディーが瞬時に起き上がり、男を地面に叩きつけ、マウントポジションを取るように男の上に乗った。
「な、何をッ⁉︎」
アサルディーは腕に仕込んでいた短剣を取り出して男の喉元に突き付ける。
「俺はなぁ…今もこうしてこの国に潜伏してるんだよ。分かるか?お前みたいにいかにもな奴が堂々と現れて話しかけたら怪しまれるよ?まぁ今は周りに誰もいないから、こうやってお灸をすえてやってだけださぁ。」
「く、くぅ!」
「隠密な連絡手段なら幾らでもあるでしょ?…なんでこんなバカな事すんの?」
静かで且つ淡々とダメ出しを口にしていた。アサルディーはゆっくりと男から離れる。男もゆっくり身体を起こしながら、膝を抑える。
「次から連絡する時は鳩なり蟲なりを使えよな。」
「クッソ!……分かったよ。」
「っで?仕事は?」
「……確定では無いが、ハルディーク皇国とニホン国が第2世界へ調査へ行く。お前はその中に扮して、同行し、第2世界の国に接触してほしい。その国が将来的にクアドラードの後ろ盾となれるよう何らかの策は練っておけ。」
アサルディーは暫く沈黙した後、踵を返して何処かへと移動する。
「お、おい!何処へ行く!」
「仕事をやれと言ったでしょ?雇われているとは言え、メチャクチャな仕事ばかりだね。」
アサルディーは軽く不満を口にした後、裏路地の闇へと消えて行った。
やっと区切りが出来たって感じです。




