第101話 休戦協定と講和条約
長らくお待たせしました。
期間が空いた分の出来栄えでは無いと思います…。
想像力と文章力が本当に欲しいです…切実に。
それがあれば多少完成度は上がると思っているのですが…。
ーーハルディーク皇国 皇都港付近
そこには多くの皇国民が集まっていた。全員がざわついており、その殆どが不安の表情を見せていた。兵士たちが民を落ち着かせ、道を開けるよう声を上げる。
「道を開けろ!!!」
「皇女様のお通りだ!!!」
兵の声聞いた大群衆が急いで道を開ける。その開いた道を近衛を連れ、馬に乗ってキャサリアス皇女がやって来た。
少し…また少しと港へと近づいて行く。
彼女の手に汗が握られる。今彼女が向かおうとしている場所は何時もの港であってそうではない場所だからである。
今港には、サヘナンティス帝国の第3飛行艦隊が停泊していた。既に港は軍艦で一杯ではあったが、上空に停船している多数の飛行戦艦にとっては無意味に等しかった。
ーー
数分馬に乗って進み、港へと到着した。港へ移動する途中から既にハッキリと見えていたが、いざ近くに来るとサヘナンティス帝国第3飛行艦隊の迫力に思わず足元がすくんでしまいそうになった。
既に地上には、小型船らしき乗物で降りて来た数人のサヘナンティス帝国の使者が待っていた。彼女は急いで馬から降り、彼らの元へと歩んで行く。
「大変長らくお待たせしてまい申し訳ありません。私はハルディーク皇国の皇女キャサリアス ・ガピオラと申します。」
彼女がゆっくりと頭を下げて自己紹介をすると、サヘナンティス帝国側の使者も丁寧に挨拶をする。
「皇女様自らがお出迎え頂けるとは…誠に光栄でございます。私はサヘナンティス帝国外交官のマルハルト・サッチョと申します。そして私の右隣に居るのが、第3飛行艦隊司令官兼艦隊旗艦『ベズルフェルニル』艦長のカイン・トネリコです。」
サッチョ外交官の右隣に立っていた、顎髭を生やしたイカツイ軍服姿の男が、キレの良い敬礼をする。
「カイン・トネリコ中将です!!!何卒宜しくお願い申し上げます!」
キャサリアスは彼に対してもお辞儀をする。軽い挨拶をした後、サッチョ外交官が書状を取り出し読み上げた。
「では率直かつ簡潔にニホン国からの言伝を読み上げさせて頂きます。…『これ以上無益な犠牲を増やさぬ為にも、ニホン国はハルディーク皇国に対し降伏を勧告するものとし、休戦を協定し、今後両国における平和的かつより良い関係を築く事を望むものである。』…以上でございます。」
キャサリアスは思っていたよりも簡潔的な日本側の言伝に若干拍子抜けを感じていた。もっと威圧的な内容とばかり思っていたからである。
サッチョ外交官が静かに口を開く。
「私共はニホン国からの言伝を伝えに来ただけに過ぎません。しかし…願う事ならこの勧告を素直に受けて頂ける事を望みます。」
キャサリアスは視線を飛行艦隊の方へと向け、そして思った。
(コレは脅しね。もし私たちがそれを拒否しようものなら、直ぐにでもサヘナンティス帝国の飛行艦隊が皇都へ向けて攻撃を開始するでしょう。)
キャサリアスは特に軍事的知識があるわけではない。しかし、何度か自国の飛行戦艦を見たことがある為気付いた。
(サヘナンティス帝国の飛行戦艦の方が圧倒的に強く…大きい。あんなのが一斉に砲撃でもしたら…)
キャサリアスは今目の前にある脅威から民を守る為にも、ニホンからの勧告を断る訳にはいかなかった。
「分かりました。ニホン国からの勧告に応じます。」
この言葉を聞いたサッチョ外交官達の表情が少し明るくなった。
「おぉ!応じて下さるのですね!いやはや本当に良かったです!……では休戦協定を行う為の場所ですが、ギルバドア大陸にある浮島『リトーピア』にて、7日後の正午にて行います。」
「…リトーピアですね?分かりました。」
「はい。…さらに申し上げますと、リトーピアにて行われるのは休戦協定だけでは御座いません。5大列強国の他に3ヶ国の準列強国、25ヶ国の高度文明国家、30ヶ国の低文明国家、そして各亜人族国家の代表者達も集う事になっております。」
キャサリアスは驚きの表情を浮かべる。
「ッ!……コレはまた前代未聞ですね。それに大人数の前での休戦協定と和平協定を行うなど…我々の威厳を潰す様にも思えますね。」
「…実際のところ、両国間の協定をリトーピアで行う事に関しては、ニホン国側からの要請でした。」
(ッ!…やはり完全に我が国を屈服させる事が狙いですか。更に多くの国の代表者がリトーピアに集まるというのは…やはり前代未聞だ。)
リトーピアにて行われる国家間での会談及び会議は幾度となく行われて来た。しかし、5大列強国以外の国々が多数参加する程の規模で行われることは聞いた事がなかった。唯一、例を挙げるとすれば500年前のレムリア共和国に対しどう対応するかの会談にて、当時の列強国の他に準列強国が参加したくらいである。
「致し方無い事だと思います。それに、リトーピア側からも重大な発表があるとの報告がありましたので。」
「重大な……?」
「私共もリトーピア側からどんな発表があるのか知らぬのです。……では、お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。これにて失礼致します。」
サッチョ外交官達は深々とお辞儀をした後、後ろに停めていた小型飛空挺に乗り込んだ。小型飛空挺は、後部に付けられた蒼白い球体が光り始めると同時に両翼のプロペラが回り始めた。
小型飛空挺は、上空に停めていた飛行戦艦へ向かいゆっくりと浮上して行った。
その後、サヘナンティス帝国の第3飛行艦隊は元来た方向へと引き返して行った。キャサリアスと皇国民達は、艦隊が見えなくなるまでその姿を眺め続けていた。
ーー2日後 日本国 某所
暗く、薄汚い裏路地にあるたった一坪の空き地。そこにはボロボロのブルーシートを使って建てられたテントと小さく燃え続ける焚き火があった。
その焚き火に囲っている数人のホームレスがボソボソと会話をしていた。
「臼井さんが死んだのか。」
黒いニット帽を深々と被るヒゲを蓄えた男が話しかけた。もう1人のホームレスが答える。
「あぁ間違いねぇ。多分明日あたりにニュースになると思うぜ。ご丁寧に自殺に見せかける様細工してたって話さ。」
「運転手も一緒に死んでたんだよな?山崎だっけか?」
「あぁ、当日の運転手はアイツだった。服装も同じ…だがよぉ、顔が潰れてたんだよ。」
「…分かり易いまでの偽装だな。」
するともう1人のホームレスが一坪の空き地に現れた。その姿はボロボロの小汚い作業服の様な姿をしていた。
「…少し時間は掛かったが、犯人は特定できた。」
この言葉を聞いた他のホームレス達はその男に振り向いた。
「ほう…それは誰だい?田中さん。」
田中と呼ばれるホームレスは彼らと同じ様に焚き火の側に座り暖を取った。
「『幻狼会』の……張子豪だ。」
「「ほぅ…。」」
ホームレス達は特に驚くこともない反応をした。
「幻狼会ねぇ…厄介だな。」
「それに張子豪か…。」
「張って言えば幻狼会日本支部の総統だろ?本部でもボスに顔がきく程の大幹部か。」
幻狼会はアジアで一番影響力を持つ裏社会の組織。アジア最強のマフィアと言っても過言では無い。その力は強く、中国共産党の重役との癒着も存在しており、国にとって目障りな存在を幻狼会が始末しているという話も都市伝説雑誌に載っている程である。
「しかしそれが事実だとしても妙に納得いかないな。」
1人のホームレスが怪訝そうな顔で呟く。
「本国との繋がりがまだある頃ならまだしも…今この現状……つまり本国との繋がりが途絶えた幻狼会が何故動き出したかって事よ。一体奴らに何の得がある?」
数秒の沈黙の後、田中が答えた。
「そこはまだ分かない……が、何かしらの利益があるからこそ行動に移ったのは間違いない。」
「この事を広瀬のオヤジは?」
「耳に入ってるが、とりあえず今は様子を見るしかないそうだ。半年以上前……俺達が特戦群に扮して行った、デモ隊の一斉摘発。まぁ表上は警察組織では対処しきれない事と早期解決を名目に特戦群を投入したっと言うのが世間の認知だが、実際はデモ隊に紛れていた在日愚連隊のアジト摘発と調査…その結果はー」
「武器製造工場……。小さいとは言えあんな空きビルの地下にそんな物騒な工場があったとはなぁ。あの時は驚いたぜ。」
まだ日本が異世界に転移してから間もない、ドム大陸でアムディス王国との一件が治る少し前のこと。日本では、一般市民に気付かれない内に一部の裏組織の人間達が活発になりつつあった。
元々この混乱の中で、そう言った連中が大人しくするとは思ってもいなかったが、その中でも特に気になる動きを見せていたのが、不法滞在の外国人と半グレ集団である。殆どがアジア系を占める奴らは左派を引き連れて多くのデモ活動を行なっていた。これ事態は特に珍しい事では無かったが、都心や町外れの空き家や廃ビルにちょくちょく出入りしているのを発見した。
黒巾木組が極秘裏に調査をした結果、小火器類の武器を製造していた事が判明した。
本来であれば警察及び機動隊に要請するところであったが、当時の異世界転移における混乱がまだ残っていたことから、黒巾木組が特戦群に扮し、武器製造工場の制圧とその幹部達の確保を行った。
わざわざ特戦群に扮した理由としては、考えたくはない事ではあるが、『内通者の存在を否定出来ない』からである。
話は戻り、ここである疑問が浮かび上がる。なぜ不良人達が武器製造を行っていたのか?…方法は誰から学んだのか?
「違法滞在の外国人に半グレ、チンピラどもの寄せ集めがなぜ武器製造工場を作ったのか。捕らえた連中を尋問しても『何も知らない』の一点張り。自白剤や精神尋問をやっても同じだった。」
「奴らは捨て駒に過ぎないって事だ。」
彼らは目の前の欲に目がくらみ、連中の良いように操られていただけであった。しかし、その嗾けた者達との繋がりまでは特定できなかった。
「どっかの別組織が嗾けてたのは明白だ…っと思ってた矢先、幻狼会の登場だ。あんまり考えたくはないが…下手すれば最悪の事が起きる。」
1人のホームレスがその最悪の事態を口にする。
「ウンベカントを通して武器密輸を狙ってる可能性も高い。」
「実際ウンベカントへ移動する事業団体に紛れて韓国系とフィリピン系の半グレどもが混じってたらしいぜ。当然奴らはとっ捕まえたし、その事業団体も移動が頓挫したがな。」
田中が深い溜息を吐いた後、静かに呟いた。
「想像してみろ……この世界の大半の国々は中世ヨーロッパレベルだ。そんな国がいきなり未来の武器・兵器を手に入れたらどうなる?……手に入れた力で内に秘めた欲望を解放するぞ。戦乱の世が始まる。」
「だが…やはり気になる…そんな事して何のメリットがある?」
「取り敢えず俺たちはいつも通りにやるだけだ。出来れば半グレやチンピラを捕まえて幻狼会の情報を聞き出せたらいいんだが。」
「奴らは簡単に尻尾をつかませねぇ。そんなんで情報が手に入るとは思えねぇが……唯一の救いは奴らの行動範囲が日本国内に限定されてるって所だな。」
ーー日本国 某所 廃鉱山
棄てられた廃鉱山…寂れたトタン製の大きな建物がチラホラ建っている。人気が無いこの場所を滅多に人は訪れない場所である。
そんな人里離れた不気味な場所に数人の男達が訪れていた。
彼は『爆蓮華』と呼ばれる不法滞在している在日中国人の弱小グループである。
〈ここで良いのか?〉
〈その筈だ…とは言っても連中が本物とは限らんがな〉
〈また前みたいに『特戦群』が待ち構えている可能性も高い。念の為、後方に部下を15人ほど待機させてる。〉
〈だ、だかよぉ…本当にやる気か?〉
〈あぁ?何がだよ?〉
〈げ、『幻狼会』って言ったら本物の闇の組織じゃねぇか!色んな国の政府との繋がりが深いし、まともな奴らなら連中に関わろうとしねぇよ!!!〉
彼以外の仲間も不安そうな顔でリーダー格の男に目で訴える。本当にヤバい…と。
〈ビビってんじゃねぇよ!!!皆んなで決めた事だろうが!今の日本は俺たちにとってはあまりにも住み難くなっちまったんだ!もうこうするしかねぇよ!〉
彼の言っていることはその通りだった。日本が異世界に転移する前は、 しょうもない詐欺や密売で生計を立てていた。しかし異世界転移後の警察組織からの監視や取り締まりが爆発的に厳しくなった事で、彼らは堂々と稼ぎが出来なくなってしまった。
日本に不法滞在している彼らにとっては、今日を生きていくのがやっとの状態であった。
〈こんな弱小グループに声を掛けてくれたんだ!ここから俺たちの人生は変わるぞ!〉
〈本物かどうかも怪しいがな。〉
すると彼らの目の前に1人の人影が近づいてきた。その人影に気付いた彼らは咄嗟に身構えた。しかし、その人影がハッキリ見えないにも関わらず、表の人間でない事は間違い無いと感じた。
〈ようこそ…『爆蓮華』の皆様。私は張子豪と申します。〉
黒スーツ姿の中年男性。顔には斜めに大きく裂かれた傷痕が目立っていた。それもあってか、その男性からは途轍もない威圧感と貫禄を感じる。
『爆蓮華』の男達は、一瞬で怖気付いてしまった。
〈ん?…はははッ。恐れる必要はありません、別に取って食おうなんて事は考えておりませんよ。これからはあなた方も…立派な『幻狼会』の一員ですよ。〉
見た目からは似つかわしく無い笑顔で話す張が余計に恐怖を増幅させた。
しかし、そんな彼らのリーダーは、恐怖心を抱きながらも精一杯の強気な姿勢で彼に問い掛けた。
〈ほ、本当にアンタが…幻狼会の…ち、張なのか?ニセモノじゃねぇのか?〉
彼の言葉に対し、張は静かに答える。
〈さぁな…ニセモノかもしれない…だが、本物かもしれない。でも引き返すことは出来ないし、君達は信じるしかない…もう後戻り出来ないんだろう?俺たちみたいな日陰者が生きるには難しい世の中だ、そうだろ?〉
何とも言えない彼に張は更に詰め寄る。
〈だからこうやって同胞を集め、以前のような力を得る必要がある。〉
するとリーダー格の男はニヤリと笑った。
〈あぁそうさなぁ…だがアンタは1つ大きなミスをしたぜ。それは……親玉が部下も連れずにたった1人で俺たちの前に現れた事だ!〉
そう叫ぶと彼は懐から拳銃を取り出し、張に向けた。彼に続くように他の仲間達も拳銃やナイフを取り出した。
〈あ、アンタらが必死に集めた同胞達は俺らが喜んで使ってやる。この異世界で新たな伝説を作るのは俺たち『爆蓮華』だ!〉
しかし、張は怯む事無く冷たい目線で彼らを見つめていた。その様子に『爆蓮華』たちは動揺を隠せないでいた。
〈な、何だよ?何余裕ぶってんだ⁉︎〉
張は小さな溜息を吐いた後、声を掛けた。
〈今現在『幻狼会』の元に集まった同胞の数は、全国合わせて5万人以上。あなた方に彼らをまとめる器量はありますか?私を殺してその次は何をするつもりで?『幻狼会』の為に集まった彼らを納得させる算段は?〉
淡々と述べられる質問にリーダー格の男は舌打ちをするだけで、何も言い返せなかったら。そんな彼に張は再び溜息を吐き、落胆した様な表情を見せる。
〈全くもってガッカリですよ。その程度で大組織を動かせると本気で思ってるのですか?〉
〈やかましい!!!コッチには背後にも拳銃を持った兵隊が15人も居る!今のアンタに勝ち目は無ぇ!……へへへ、まさかこんな早くに俺の思っていたチャンスが来るとはな。〉
〈ほう…その15人とは…彼らの事ですか?〉
張がスッと手を挙げると、後ろの森から数人の黒スーツの男達が現れた。彼らの手には、『バスケットボール程の大きさをした丸い何か』を持っていた。
〈なッ⁉︎い、いつの間にッ!〉
他の黒スーツの男達が持っていた『モノ』を『爆蓮華』達に向かい放り投げる。
転がって行く15個の『丸い物体』は彼らの足元で止まった。真夜中の為、よく見えなかったソレは、近くに来てやっとハッキリと分かった。
〈ひぃっ!!!〉
〈嘘だろ⁉︎〉
『爆蓮華』達は驚愕した。15個のソレは後方の森に待機していた筈の15人の仲間たちの頭部だった。
〈い、何時だ⁉︎何時殺した⁉︎ここに到着する5分たらず前までは連絡を取り合ってたのに…〉
彼の質問に張は静かに答える。
〈彼らはココへの下見ともしもの為の援軍として用意していたようですが……そんなので私たち『幻狼会』に勝てると思っていたのですか?本当にガッカリですね。もう貴方には興味も無い。〉
すると張は拳銃を取り出し、銃口をリーダー格の男に向けた。
〈う、ウォォォォォォーー!!!〉
リーダー格の男が声を荒げながら張に向かい拳銃の引き金を引こうとするが、それよりも早く張が躊躇いも無く引き金を引いた。
パァンッ!
静かな人里離れた廃鉱山に鳴り響く乾いた発砲音。
ズシャアッ……
リーダー格の男は操り糸が切れた糸人形の如く、力無く倒れ起き上がる事は無かった。
〈あわわわ…〉
〈ひ、ひぃあッ!〉
リーダー格の男がアッサリ殺されたのを目の当たりにした他の『爆蓮華』達はすっかり怖気づいてしまっていた。
〈君たちはどうするの?出来る事なら殺したくは無い…戦力減っちゃうし。〉
再び不気味な笑みを浮かべながら問いかける彼に『爆蓮華』達は一斉に顔を見合わせて頷いた。
〈お、俺たちはアンタ達に付いて行くよ。〉
その言葉を聞いた張は、歯茎がハッキリと見えるくらいまでの満面の笑みを浮かべる。
〈よし、良い判断だ。〉
真夜中だと尚更その笑みの不気味さが際立つ。そんな中でも1人の男が彼に質問する。
〈ひ、1つ聞いて良い…ですか?〉
〈…何だ?〉
〈力を手に入れる見たいな事言ってたけど……一体何を起こすつもりで?〉
すると後方にいた黒スーツの男が凄い怒りの形相で彼に詰め寄る。しかし、張が彼を睨みつけると、男は静かにに引き下がった。
〈この世界に…新しい中国を創る。俺たち幻狼会が統べる新しい中国をね。その為には先ず力が必要だ。君達には働いてもらうよ。〉
他の黒スーツの男達の案内の元、彼らは廃工場の中へと入って行った。まだ廃工場の外にいた張は、同じく残っていたもう1人の黒スーツの男に近付いた。
〈全く、彼らは貴重な駒だよ。前の世界なら兎も角、此処では俺たち在日中国人の数は限られる。さっきみたいにブチ切れて減らされでもしたらたまったもんじゃ無いよ。分かってるのか?楊。〉
短髪、顎髭にガッシリとした体格をした黒スーツの男。身長は190㎝は超えている。彼の名は楊文海。幻狼会日本支部総統である張子豪の補佐、つまりは右腕的存在である。
〈スマナイ、張。あいつ生意気にも俺たちの目的を聞いてきたもんだからつい…。〉
2人は苦しくて貧しい地獄の様な幼少期を共に生きか抜いてきた親友…と言うよりは兄弟に近い存在だった。2人は誓い合っていた…ドブの様な世界から必ず這い上がり、頂点に立つと。そして血反吐を吐く様な苦労の末、2人は『幻狼会』へと辿り着き、日本支部の総統とその補佐にまで昇り詰めた。しかし、2人の野望は此処で終わらなかった。
〈まぁお前が頭に血が上り易い奴だってのはわかってるさ……一本やるか?〉
張は懐からタバコを取り出し、一本を楊に渡し、火をつける。
〈フーーッ…しかしまぁ、おとぎ話の生き物が住まう異世界に転移されるなんて誰も予想してなかったからなぁ。〉
〈全くだよ。俺たちが幻狼会の頂点に立つと言う目標がこうも簡単に叶っちまうとは。だが此処では終わらねぇよ。もっと貪欲に…上へ上へと目指しやる。日本を退け…俺たちが新たな中国を創設し、この世界を統一する。〉
〈そしてお前が異世界の始皇帝か?〉
〈バカ野郎…俺『たち』だ。〉
〈おいおい、始皇帝が2人って…。〉
時折ふざけた話を入れながら談笑する2人。この2人の絆と信頼はとても強いものだった。
〈なぁ楊、お前の妹と弟は元気か?〉
楊には大きく歳の離れた妹と弟がいる。3人は碌でもない母親が何処ぞで出来た子供……種違いの異父兄妹なのである。
〈ん?美帆と浩然か?相変わらず元気だよ。何処へ行くにも兄さん兄さんと言って着いてくる。可愛らしいもんだが…アイツらには俺と同じ世界にまで着いて来て欲しくない。真っ当な人生を歩んで欲しい。〉
楊にとって2人はかけがえのない存在。そんな2人を守る為なら修羅の道を歩む覚悟を有していた。
〈フッ…そうだな。早くこの世界に新しい中国…いや、『幻狼帝国』を創ろうじゃねぇか。〉
〈はぁ?『幻狼帝国』?……ダッセェ。相変わらずのネーミングセンスだな、それだけは勘弁だわ、ハハハッ。〉
〈……うっせぇバカ。〉
一服を終えた2人は寂れた建物の中へと戻って行く。そして、廃鉱山に再び静寂が訪れた。
ーーそして時流れ…7日後
北西の大陸 ギルバドア大陸 浮遊島『リトーピア』
広大かつ緑豊かな大地と美しい山々が連なるこの大陸。
その中央…リピア海と呼ばれる巨大な湖に浮かぶ島『リトーピア』には、いくつもの大理石で作られた建物の中でも一番大きな建物があった。大きさは倍もあるが、ローマ帝国時代の『パンテオン神殿』を思わせる建物である。
そこでは数年に一度だけ行われる『5大列強会談』が行われている。 その時は無論、リトーピアに仕えている者達は厳粛かつ忙しく各々の仕事をこなしていた。
しかし、この日だけは違かった。
忙しい事は変わりないが、その忙しさがいつも以上だったのだ。
「ほら!急げ急げ!椅子は最低でも50は必要だぞ!無論ドルガンド製の最高級のヤツだ!それから茶はルミール茶葉を使え!それならー」
使いの者達がせっせと会談の準備にあたっていた。
事前通告があったにせよ、年内に2度もリトーピアで会談を行う事は30年前のヴァルキア大帝国の件以来であったからである。
それもただの『5大列強国会談』では無い。3ヶ国の準列強国と高度文明国家全20ヶ国と低文明国家の代表約5ヶ国。その低文明国家代表内に亜人族国家代表である『アルフヘイム神聖国』と『ドラグノフ帝国』。そして謎の新興国であり、異世界から来たと話す『日本国』である。
合計全34ヶ国の国々が集まるのである。これは30年前のヴァルキア大帝国の時の倍近い数の国の代表者がこのリトーピアに集うのである。
「全く!まさか30ヶ国以上がこのリトーピアに集まるとは……最低限必要な茶菓子を用意するのに一週間は掛かるのに、無理を言って超特急配達ギルドを使ったぞ!全くもって金のかかる事だ!」
リトーピアに仕える人達からも多少の苛立ちが見られる。それぐらいに今この場所は忙しいのだ。
「おい!会談開始まであと2時間だぞ⁉︎」
「ウーーン…何とかギリギリだな。あと1日遅かったら間に合わなくなり、リトーピアの威厳がガタ落ちだったぞ!」
慌ただしい現場にリトーピアの最高責任者のモイセス・ペレスが現れた。
「まぁ慌てるな。仮に間に合わなくとも向こうは理解して頂けるだろう。そもそも最初に来るのは低文明国家の代表者達であろう?多少の遅れは問題無い。準備が遅れるなどバレるはずが無いからな。」
「い、言われてみれば確かに。」
「このリトーピアに低文明国家が来るのは初めてですからな。此方の準備期間など気にはせぬでしょうな。」
などと話しているうちにリピア海沿岸付近に噂をすればの低文明国家代表者達が到着していた。
「も、モイセス議長!低文明国家の代表者の内2ヶ国が来ました!」
「ほう、来たか来たか。思っていたよりは速かったな。それで…何処の国が来たのかな?」
「えぇっと……ドラグノフ帝国の龍王バハムート様とアルフヘイム神聖国の聖王ウェンドゥイル様ですね。」
地上を見下ろせば、リピア海港にてウェンドゥイルとバハムートが数人の従者を連れて立っていた。ウェンドゥイルは初めて訪れたリトーピアに多少の緊張した様子が見られるが、バハムートは堂々とした出で立ちで、腕を組んで迎えが来るのを待っていた。
「うわっひゃあ〜〜、あの龍人族見ろよ。おっかねぇ〜よ。」
「バカ!ありゃあ龍王だぞ。」
「お、俺奴隷以外のエルフ族初めて見たよ。な、何だか新鮮だなぁ」
使用人達が文字通り高みから2人の様子を眺めていた。しかし直ぐに上司から叱咤を受けて各々の作業に戻る。
ーーさらに数時間後…
遂に5大列強国を含めた全34ヶ国の代表者達がリトーピアに集った。
大きな円卓の机を囲うように日本を含めた5大列強国が堂々たる姿で椅子に座っていた。
◇リトーピア最高責任者
モイセス・ペレス
◇ヴァルキア大帝国
外務大臣 オルネラ・ヴェルガゾーラ
◇サヘナンティス帝国
外交長官 ロラン・シェフトフ
◇ハルディーク皇国
外務局長 シリウス・マルクッチ
◇レイス王国
外務局長 リオネロ・ネリス
◇バーク共和国
外務卿 エステル・スウェントン
◇日本国
外務大臣 安住宏
さらに輪状の机が、円卓と彼らを囲うように設置されていた。その周りには準列強国の代表者達が座っていた。
◇クアドラード神国
外務神官 エルケドゥアド・サンテリアス
◇バリシアン皇国
外務局長 ドルドント・バ・ティア
◇サナ王国
外務局長 ドナフ・テカ・ン・ドゥ
更に2つの机を囲うように輪状の机が並べられていた。他の机と比べると多少の安っぽさが出ている造りであった。この机には高度文明国家約20ヶ国の国々の代表者が座っていた。
その更にもう一段上には、更に他の3つの机を囲う様に大きな輪状の机があった。そこには数多の低文明国家の代表者5名が座っていた。
◇ドラグノフ帝国
龍王バハムート
◇アルフヘイム神聖国
聖王ウェユドゥイル・アルヴァーナ
◇ロイメル王国
第1王子 フェンディス・ルファー
◇レーバ諸国連合
連合長 ウーラン・ファン
◇バルターゴ帝国
第一皇子 ザラン・ギモー
会場がすり鉢状になっているこの場所で、今からハルディーク皇国と日本国の休戦協定を含めた会談が行われようとしていた。
「では……皆様お久しぶりの方はお久しぶりです、初めましての方は初めまして…私はこのリトーピア最高責任者にして今会談の進行役を担っている……モイセス・ペレスと申します。」
モイセスが自身の自己紹介を終えると軽く礼をした。他の代表者達もゆっくりと礼を行い、会談は始まった。
「では先ず…恐らく既に聞いている人もいるとは思いますが……ニホン国とハルディーク皇国の戦争に終止符を打つ為の『休戦協定』を行います。ハルディーク皇国外務局長シリウス殿、貴国はニホン国からの降伏勧告を受諾すると言う事でしたが、間違いございませんか?」
モイセスの言葉にシリウスは頷いた。
その姿を見た周りの代表者達がざわつき始めた。
「なんと……本当の事だったとは。」
「列強国の一角が落とされるなど…30年ぶりですなぁ。」
「フンッ当然の結果だ。列強国と言う名の傘と圧倒的な軍事力で多くの国に多大な迷惑をかけたツケがきたのだ。」
「だが…ニホン国がそれほどの強大国だったとは…。」
「信じられん…アムディス王国の件ならとも無く、テスタニア帝国の件は何かしらの盛られた部分があると思ってたが…コレは驚いたぞ。」
シリウスはその言葉一つ一つを聞き、歯噛みした。列強国としてのプライドが踏みにじられた事に対してである。しかし、ニホン国との差は歴然、どうしようもない。そう感じたシリウスはコレが自国に対する他国の感情なのかと深く痛感した。
「静粛に願いたい。……ではニホン国外交長官アズミ殿、ハルディーク皇国は貴国に対し降伏するものとした。それで両国共に此方の休戦協定宣言書にサインを記載して頂きたい。」
両国の代表者の机の上に1枚の紙が置かれる。2人はそれにスラスラと記載した。そしてそれを確認した近くの従者が紙を回収し、議長の元へ持って行った。
「ふむ……コレにて両国の休戦協定が結ばれました。立会人は私を含めたこの場にいる各国の代表者です。」
周りから拍手が聞こえる。その拍手は純粋に平和が訪れる事を願っての事なのか…はたまた別の意味なのか…少なくとも周りの目が決して純粋に喜んでいる様に見えない代表者もいる事は確かであった。
そして、議長が次の議題へ移った。
「ではニホン国からの休戦協定もとい降伏勧告つまり…無条件降伏を呑んだハルディーク皇国に対し和平協定における条件を提示させます。アズミ殿、よろしくお願いします。 」
「ハイ。」
従者が代表者達に資料手渡す。全て手渡した事を確認すると、安住は淡々と資料に記載してある内容を読み始めた。
「ハルディーク皇国と我が国との休戦協定が受理された事を心より感謝いたします。では早急ではございますが、貴国との講和条約を結ぶにあたっての条件としてお手元の資料をご覧下さい。」
安住が話し始めると周りから騒ついた声が聞こえてくる。
「(お、おいあの男……ッ。)」
「(昔古い資料書に載っていた…お、オーク族じゃないか?)」
「(何とッ⁉︎異質な国とはきいていたが、まさかオーク族と組んでいたとは…。)」
「(恐ろしや恐ろしや…。)」
正直安住自身この反応には耳が痛い。日本はこの異世界で更なる存在意義を示すために数ヶ国訪問したのだが、皆がこの顔のせいで周りの様な反応を出すのだ。
(はははッ…やっぱり慣れないな。たまに自分でも思うけど、よく外務大臣になれたよなぁ。)
周りの声を何とか無視しつつ、安住は手元に資料を読み上げる。
「えー…我が国がハルディーク皇国へ求める講和条約はコチラになります。」
・ハルディーク皇国は日本国に対し大金貨3億枚、イール王国とアルフヘイム神聖国に各大金貨5億枚の賠償金を支払う事。(また、日本国への賠償金は特定地帯の採掘権と土地の譲渡により、軽減可能とする。)
・上記のイール王国、アルフヘイム神聖国に対する賠償金の3億枚分は、民間人への虐殺行為を指示した主犯格を明け渡す事で軽減可能とする。
・傘下国に対する非人道的な兵器実験の行為は、許されざる行為である。その幹部達を、傘下国へ引き渡し、厳正な処罰を受けさせること。
・ハルディーク皇国は今後、必要最低限の戦力しか保持してはならない。その際は、日本国が紹介する第三国の監視の元とする。
・戦力保持に関して、条約を破るようであれば、更なる制裁を加すものとする。
この内容を読み上げた瞬間、周りが一気にざわつき始めた。
「だ、大金貨13億だと⁉︎」
「そんな大金…国中から掻き集めても足りんぞ⁉︎」
この異世界において、一番流通し、尚且つ共同通貨の様な価値を持つのは『金銀銅貨』である。
時は少し遡る。
以前、テスタニア帝国の件で、多額の賠償金をその国の通貨で受け取った。しかし、ガルカイドニア大陸とごく一部の諸外国を除き、日本やその他多くの国々では大して価値の無いモノでしかなかった。
無論、日本国政府はその通貨の価値が自分たちにとって大した価値が無い事は知っていた。
当時、日本国は某国との国交樹立の条件として、向こう側から多額のテスタニア帝国通貨の要求があった。特に強い圧力があった訳では無く、その諸国が同じ通貨を使う格上の国から多額の借金があったが為であった。
本当であればこの様な条件を飲む事などあり得ない事ではある。だが当時、異世界に転移して間もない日本国は、食糧難の一角である『香辛料』が大幅に不足していた。この異世界でも香辛料は超貴重品であったが、その某国だけが香辛料を十分に生産している事が判明した。
その為、日本国政府は某国の要望を急遽承諾し、多額の賠償金を得て、その某国との国交樹立を成功させた。
故に金銀銅貨が一番価値のある通貨という事になる。
講和条約を結ぶにあたり、敗戦国側である自国に多少の無理難題が来る事は覚悟していた。しかし、その中身は最早皇国が国として機能しなくなる可能性の高いものである。
「13億の大金貨……これは余りにも…。」
慈悲を求める目で安住を見つめるシリウスだったが、強面である彼の顔からはとても慈悲の心を持っているとは感じられなかった。
「ん?何か問題でも?」
「……いえ。」
シリウスは悲しさを通り越して苛立ちが込み上がる。自業自得とは言え、ここまで断る事のできない無慈悲な条約を出されては、無理でも「ハイ」返事をするしかないのである。
「条約の通り、下記の提案を満たして頂けるのであれば、貴国が支払う賠償金額は大幅に軽減されますよ。」
「採掘権と残虐行為の主犯格の引き渡しは…認めます。しかし、特定の土地と言うのはッ⁉︎」
「……貴国で唯一の…自然界の奇跡と呼ばれる『バロバレスコ地方』一帯を譲渡して頂きたい。」
シリウスは驚愕した。
バロバレスコ地方は、環境汚染が深刻化している皇国で唯一、汚染に脅かされていない美しい自然が残る地帯である。
当時、更なる資源を求めてこの地方の開拓を計画していた先代皇帝だったが、深刻な環境汚染を危惧した研究者達からの猛反対もあり、渋々計画を中止した。しかしその地方から流れてくる空気や水のおかげで、現在までハルディーク皇国は人が住める土地になっている。
その土地が奪われると言うと事は、ある意味『詰み』の状態である事を意味する。
「そ、その土地だけはどうかッ!…そこが無くなれば我が国は……」
「御安心下さい…何も森林伐採などをするつもりは毛頭御座いません。」
「え…?」
森林資源を目的としないのであれば、日本国がその土地を欲しがる理由が分からなかった。安住はその理由を口に出した。
「その土地には…ダークエルフ族達を移民させるつもりです。自然を愛するあの種族なら、汚すどころか更に豊かな森を育むでしょう。」
「ッ⁉︎い、異種族の移民を……ダークエルフ族の土地にするとッ⁉︎」
「ついでに言うならば、ダークエルフ族達こそが、我が国が紹介する監視の第三国です。」
周りの国々が驚く中、シリウスは勿論であるが、一番驚いていたのは、エルフ族の王であるウェンドゥイルであった。彼は立ち上がり、安住に質問をする。
「ま、待ってください⁉︎アズミ殿、これはどういう事ですか!」
冷汗をかくウェンドゥイルの質問に、安住は冷静に答える。
「貴国に知らせていなかった点につきましては謝罪致します。情報が漏洩する恐れもありましたので…。」
「う、うむ…。」
ウェンドゥイルは、事情はどうであれ、自国を裏切った腹心を思い出し、それ以上の言及をやめた。安住は静かに頭を下げ、話を続けた。
「ですが、これはエルフ族としても喜ばしい事であると思っています。拮抗状態に等しい両種族はいつ、何がキッカケで暴発してもおかしくない程の険悪なものでした。しかし、今回の件でダークエルフ族が他の地へと移動する事により、元々はハイエルフ族達の森だった場所を取り戻すことができ、新たな新天地を求めていたダークエルフ族も十分な環境へと移住する事ができる。」
「確かに…お互い損はない。寧ろ得が多いか。」
「いかがですか?」
ウェンドゥイルは口元に手を当て考える。確かにダークエルフ族とは長年話し合いすらまともに出来ない程、仲が悪い。細かく見れば、小さな小競り合いや衝突も後を絶たない。内政問題を一気に解決する手段でもある。
「はぁ…良い。ほかの長達には私から説明しよう。」
「ありがとうございます。」
一方、シリウスは頭を抱えている。
(ダークエルフ族が移住だと⁉︎亜人族が、我が国のすぐ近くにッ⁉︎…確かに監視役も担うとなるとうってつけになるという事か。)
「シリウス殿…返事をお聞きします。」
ビクっと身体が反応してしまう。シリウスはゆっくりと頭を上げて…頷いた。
「わ、分かった…仕方の無い事です。ですが、戦力保持の制限については慎重に考えて頂きたいッ!自業自得とは言え…我が国の周りは敵ばかりなのです。」
「分かっています。その点につきましては、ある程度の配慮は致しますのでご安心を。貴国の内情が落ち着くまでは、我が国の保護下とします。無論、貴国の主権を脅かすような事は致しません。また、他国に晒される事もありません。」
「それは…あ、有り難いッ!」
シリウスはホッと胸をなで下ろす。少なくとも国の民が他国からの侵略や報復に脅かされる心配は無くなった。次はこちらの番。日本国との優位性では無く、友好姿勢を示す方向を取り始める。
「では次に…ハルディーク皇国からニホン国へ提案があると言う件ですが…シリウス殿。」
「は、ハイッ。」
議長に呼ばれ、スッと立ち上がるシリウスは安住に対し、質問を行なった。
「アズミ殿……ニホン国は今…第2世界についてどこまでご存知ですか?」
休戦協定と講和条約を同時進行になってしまいましたが、これはこれで大丈夫なのでしょうか?




