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日出づる国、異世界に転移す  作者: ワイアード
第5章 ハルディーク皇国編
104/161

第99話 戦慄する皇国

気が付かないうちに、色んな異世界モノの面白い小説が出てました( ´∀`)


基本的に異世界モノはなんでも好きなのですが、自分的には日本転移系の異世界小説が好きです。

ーー

皇都ハル=ハンディア 飛行軍基地



皇都から南側へ離れた所にある飛行軍基地には、石造りの堅固な建物が複数建てられていた。その建物は、中々に目立つ造りとなっている。


大きな離陸用滑走路は綺麗に整備されており、その片隅にある停泊場には、数機の複葉戦闘機と飛行戦艦が配備されていた。しかし、今だにハルディーク皇国飛行軍基地の大半が、翼龍や闘龍を常備していた。


複葉戦闘機や飛行戦艦は、大体の部品を『ユートピア』で造った後は地上まで運び出して組み立てていた。しかし、度重なる敗戦により地上にて組み立てた複葉戦闘機などは、殆ど破壊されてしまった為、今地上に残っているの一部の基地を除いて、ほぼ僅かとなっている。


再び戦前と同じくらいに配備するには時間が掛かる。しかし、その部品を造る『ユートピア』が崩壊したという報せは、まだ殆どの基地へ知らされていなかった。



「よーしよしよし。ほら、餌だぞ。」



1人の兵が龍舎に入り、中にいる翼龍や闘龍達に餌を撒いていた。



「ふぅ…良かったなぁ。お前ら、処分されなくてよ。全くッ!上の連中はどうかしてるぜ。」



美味しそうに餌を頬張る翼龍達の頭を撫でながら、男は苛立ち紛れに呟いた。


『ユートピア』で造られた新兵器が登場すると同時に、最近まで使われていた飛行戦力の翼龍や闘龍は『時代遅れの不要品』とオリオン皇帝とその取り巻きである政務官達判断した。


『不要品』の処分方法は『殺処分』にするべきだと政務官達は決定していた。しかし、日本とアルフヘイムとの戦争が決まった事もあり、『殺処分』は戦後という形で延期となった。


しかし、長年龍騎士として生きてきた者からしてみれば、構造が殆ど分からない『翼が付いた機械の塊』に飛行戦力の座を譲ることなど、到底認められる事ではなかった。


皇国の空を舞うは、龍騎士ではなく今では飛行兵である。龍騎士は皆、陸軍か海軍へ所属を変えるのだが、中には彼の様な雑用に近い役職に就く人もいる。死を待つだけの龍の世話など辛いだけではあるが、それでも龍と共に生きたいと願った。



「とは言っても、延期になっただけだもんな。はぁ…何とかしてコイツらを生かす道は無いかなぁ。」



彼がぶつくさ文句を垂れていると、突然基地内が慌ただしくなった。



ウゥゥゥゥ〜〜〜〜!!!



鳴り響くサイレン……彼は直ぐに敵の襲来だと気付いた。



「い、急いで出撃準備をー」



彼が鎧を取りに行こうとした時、我に帰った。

自身は既に、皇国の空を守る騎士では無い事に気が付いた。



「あー…そうか、今の俺は…。」



龍舎の外を見ると、飛行士達が次々と複葉戦闘機を動かす準備をしていた。今はアレが主役……その証拠に、アレは滑走路の近くに格納庫が建てられているが、龍舎は基地の外れに追いやられている。



「へっ…せいぜい頑張ってこいよ。」



彼は踵を返し、トボトボと龍舎へ戻ろうとした。



次の瞬間ー


「は、速すぎる!」


「何なんだよアレー」



ドドドドドドォォォーー!!!



途轍もない爆発音と衝撃波が彼を襲った。

衝撃波により彼は龍舎の中へとキレイに吹っ飛んだ。



「お、おぉぉぉぉーー⁉︎⁉︎」



しかし、彼は龍舎の壁に激突する事なく、偶々多量に積んでいた藁の山に突っ込んだお陰で、無傷であった。



「う、うぅん。何だ…一体?」



朦朧とする意識の中、翼龍達の怯えた鳴き声が響いてくる。それと同時に、外から悲鳴が多数聞こえてくる。彼は何とか身体を起こし、ゆっくりと龍舎から外へ出る。



「な、何だコレ⁉︎」



キレイに整えられていた筈の滑走路は、見るも無残な荒地の様にボロボロとなり、格納庫や司令塔も崩壊し、炎を立ち昇っていた。周りには必死に消火作業や救助をしている者が所々で見られるが、彼等よりも死者の方が圧倒的に多い事は直ぐに気付いた。



「…こ、コッチはまだ出撃すらしてな…ッ⁉︎」



不意に彼が空を見上げると、飛行軍基地上空を通過し、この惨劇の原因と考えられる飛行機械群が、一糸乱れない編隊で飛行しているのが見られた。



「アレか⁉︎…だ、だが…あんな形の飛行機械は…見た事ないぞ⁉︎」



あっという間に見えなくなったその飛行機械群は、また別の基地の方向へと向かい飛行して行った。


F35Jの護衛の元、ハルディーク皇国の軍事基地を爆撃するP3C爆撃隊が皇国の空を我が物顔で飛行していた。



『第1目標地点の爆撃完了。敵航空戦力の無力化を確認。』


『このまま第2目標地点へ向かう。』







ーー同時刻 皇国 陸軍基地


飛行軍基地とは別の皇国の軍事基地でも同様に、爆撃を受けていた。


P3Cから投下される多数の無誘導爆弾が、基地内に配備されている戦車や『合成獣キメラ』を容赦なく破壊していく。



基地にいる皇国軍は持っている小火器で応戦するも、P3CやF35Jに、当然当たる事もなければ届く事もない。


破壊される戦車、まともに爆撃を受けた兵士や『合成獣キメラ』は、無数の肉片と血を撒き散らす。



「うわぁ!!!」


「ぎゃああ!」


「た、助けー」


「ヒィィーー!」



まるで小アリの群れを焼き払うかの如く無情な爆炎の波が皇国軍に襲い掛かる。


そこへ、P3C爆撃隊とは逆方向から別の集団が現れた。



「え、援軍だ!」



別の飛行軍基地から出撃したハルディーク皇国飛行軍の複葉戦闘機25機と3隻の飛行戦艦が隊を組んで現れた。絶望の中から現れた援軍に、基地の兵士達から歓喜の声が沸き起こる。



『ニホン軍の飛行軍だ!気を引き締めて行け!』


『訓練の成果を見せてやる!!!』



護衛にあたっている10機のF35Jに対し、ハルディーク皇国飛行軍は28機。数では日本が不利であった。その為、ハルディーク皇国飛行軍は、内心勝利を確信していた。


飛行戦艦の艦長は、望遠鏡を覗かせていた。


眼に映る光景には、先に日本の爆撃隊に向かって進んでいく自国の複葉戦闘機部隊が映っていた。しかし、艦長は日本のF35Jのスピードが、遠目ではあるものの、信じられないスピードで向かってくる事に驚愕していた。



「むむ……かなりのスピードだ。それにあの形状…見た事がない。あんな質素な機体で本当に飛行出来ているとは…信じられん。だが、純粋にスピードだけで戦いを挑むのは少し愚策であるな。」



艦長が通信機を手に取り、艦内の砲撃手に援護射撃の用意を伝えようとしたその時、複葉戦闘機部隊の間を縫うように、何かがこっち向かって来るのに気が付いた。艦長は直感的にそれが危険なモノである事に直ぐ気が付き、回避行動を移るよう指令を出す。



「きゅ、急速旋回!回避しー」



しかし、時すでに遅し。



3機の飛行戦艦は、F35Jより放たれた数発の空対空誘導弾の餌食となり、激しい爆炎と共に地面へと落ちていく。


突然の出来事に動揺を隠せないでいた複葉戦闘機部隊は、横スレスレを通った槍のようなモノーー空対空誘導弾ーーが、後方の飛行戦艦を一瞬で沈めたという事実を受け止めきれないでいた。



「嘘だろ……。」


「今の…何だったんだ?」



しかし、今の彼らは余所見をする暇も許されない状況であった。まだ距離は離れてはいたが、F35Jから放たれた10発近い空対空誘導弾が彼らを襲い、撃ち損じる事なく全弾命中した。


まるで羽虫のように落ちていく仲間の複葉戦闘機を見た。生き残り達は、自分達が戦っている相手の強さに完全に臆してしまい、統率力を完全に無くしてしまう。デタラメな方向へ逃げて行く複葉戦闘機部隊を、F35Jは容赦の無い追撃を加えた。


再び放たれた空対空誘導弾が彼らを襲う。必死に振り解こうとするが、赤外線画像誘導方式で追い掛ける誘導弾から逃れるのは困難であった。


彼らは後悔の念を抱く前に爆発と共に絶命した。


希望そのものであった援軍がまさかの全滅に、最初よりも深い絶望感を味わう事となった基地の兵士達は、爆撃により荒地へと変わってしまった基地を……爆撃により見るも無残な姿で死んだ仲間を…呆然と眺める事しかできなかった。


皇都から高度5000m地点から、今回の爆撃作戦の司令塔の役割を果たしていたE767早期警戒機は、各爆撃部隊から任務完了の報告を受けていた。



『こちら朱雀。予定投下地点全ての爆撃に成功。』


『玄武も同じく、全ての予定投下地点への爆撃完了。』


『こちら青龍。敵航空戦力と交戦するも被害無し、予定投下地点への爆撃を完了とす。』


『白虎は、丁度現時点で投下完了。』



報告を聞いた指揮官は大きく息を吸った後、口を開いた。



「…皆の働きに感謝する!国いや、世界は違えど、国の為に犠牲となった者達への黙祷は……任務を終えた後にしよう。」





ーー同時刻 皇都内 皇国防本部



皇都内でも一際警備の厳しいこの場所では、軍内部の中でも自国防衛を優先的に考えて行動する事を是とした組織である。


数mにも及ぶ塀と重装備の兵士達、少々派手な装飾品で飾られた大きな建物が複数も建ち並ぶその光景は、どこぞの大貴族の屋敷とすら思えなくも無い造りであった。


その中でも特に大きな建物の開けた大廊下を早歩きで歩く1人の男性がいた。彼はここの最高責任者にして、軍務局長の代行兼補佐官を担っているロイエス・バルガーである。もみ上げから続く立派な顎髭と金縁メガネを掛けた彼は、頭が痛くなる様な状況に悩まされていた。



「はぁ〜…困った、困った。皇城と『ユートピア』が崩壊してしまい、皇帝直属の幹部達とは連絡が付かない。更に皇都の民は暴徒と化し、既に数は三分の一を超えている。……あぁ〜〜困った困ったッ!」



引っ切り無しに聞こえて来る地響きと爆発音。

大廊下から見える景色では、皇都のどこで爆発が起きているのかは不明であった。しかし、恐らくは暴徒によるものだと直ぐに思った。



ボォォ……ンッ!


ドドドド……ドド…ッ



「全く!何処からだ?」


そこへひとりの職員が彼の元へ息を切らしながら駆け寄って来た。



「はぁ!はぁ!…ろ、ロイエス本部長ッ!皇都近辺の各軍事基地より緊急の入電がありました!」


「ほ、本当か⁉︎ようやく暴徒鎮圧のために兵を送ってくれるのだな!…はぁ〜これで問題が1つ解決に向かえば良いが……それでどこの基地からだ?『ゼピアン』か?それとも『フルド』か?」



ロイエスは先程から応援を要請していた基地からの援軍報告だと思っていた。しかし、部下の口から聞こえてきたのは、彼が想像していた内容とは全く違かった。



「い、いえ……先程申しました通り、入電は皇都近辺の各基地からで……ニホン国の飛行軍勢により壊滅的な被害が出ているとの報告で……小隊1つもまともに送れない状態だそうです。」



ロイエスは驚愕した。


確かに所々で爆音や地響きは聴こえていたが、それらは暴徒によるもので、まさか日本の空襲だとは夢にも思っていなかった。



「で、では引っ切り無しに聞こえていたこの爆発音はッ⁉︎」


「お、恐らくは…ニホン軍のー」


「あ、アレはなんだ⁉︎」



何処からか聞こえて来た叫び声と同時に、空の彼方から複数の何かが皇都に向かって来ているのが分かった。


それらは信じられないスピードで皇都の空を通過して行った。


F35Jである。


複数のF35Jは、特に何か攻撃を仕掛けるでも無くそのまま通り過ぎて行った。しかし、ロイエスを含め、皇都にいる人々にとってはそれだけでも十分過ぎるほどの衝撃を受けていた。



「い、今のは一体ッ。」



先程のF35Jが飛んで行った方向から乾いた様な爆発音が聞こえてきた。



「や、やはりあの音は……皇都からでは無く、皇都近辺の軍事基地が攻撃を受けた音…か。」


「あの方向は……ゼピアン飛行軍基地が…。」



ロイエスは、国内で大きな騒動が起きている間に、敵国からの攻撃を成す術無く受けていた自分達の状況に呆然としていた。



「じ、状況は極めて…し、深刻だ。こうなってしまってはハルディーク皇国は終わりだ……早く何とかしなくてはッ」


「ろ、ロイエス本部長‼︎大広場にて、キャサリアス様を発見いたしました!」


「ほ、本当かッ⁉︎だが、何故大広場に⁉︎……ええい!そんなことはどうでもよいか!とにかく直ぐに姫様の元へ向かおう!この大混乱を治めるには、姫様だけが頼りだ!」




今この状況を何とかするには、皇帝の妹であるキャサリアスの存在は必須であった。ロイエスは急いで部下を引き連れて、彼女の元へと向かって行った。


手遅れになる前に…。





ーー

皇都の大広場では、民衆達のどよめきが聴こえてくる。先程皇都の上空を物凄いスピードで飛んで行った、F 35Jの姿を見たことにより、恐怖と不安が溢れかえっていた。



「い、今のなんだったんだ?」


「ニホンの飛行軍だろ!!!きっとそうだ!」


「あぁ、神様…まだ死にたくない!」



ようやく治りかけていた暴動が、再び怪しくなり始めた。



「姫様ッ!」


「わ、私も驚いてます。身体の震えが止まりません……アレが…アレがニホンの……。」



キャサリアスは震える身体を必死に抑えようする。しかし、目の奥底にはとてつもない恐怖と絶望を有している事をアリエスは感じた。


アリエスは彼女を落ち着かせる為、ソッと両腕を伸ばし、抱きしめようとする。しかし、キャサリアスはそれを拒否した。



「ひ、姫様?」


「情けない…姿を見せてしまい…申し訳ありません。だ、大丈夫です。わたしは……私はもうこの国を代表する者……私に任せて下さい。」



アリエスは、震える声と涙が溜まった目を向けながら、必死に作った笑顔で話す彼女を見た。それでも尚、ほっとけない気持ちを歯噛みしながら抑え、大人しく引き下がる。


キャサリアスは再び音声拡張魔法具を取り出し、民衆に向け声を発する。



『落ち着いて下さいッ!!!先ずは皆さん、近くの建物へ避難して下さい!!!動ける人は怪我人に手を貸してあげて下さい!!!』



彼女の言葉を聞いた民衆は、最初は戸惑いながらも皆んなが協力し合いながら、建物の中へと入り避難して行く。キャサリアスやアリエス、兵士達も率先して行動していた。そこにはもう身分など関係無く、助け合いの姿がそこにはあった。


キャサリアスは誘導しながらも今の状況を何とか分析していた。



(分からないことは多々ありますが、ニホンの飛行機械は皇都を通ったにも関わらず、何も危害を与えたなかった。普通であれば、敵国の首都を壊滅させていた…でもしなかった。)



彼女は遠方から微かに聴こえてくる爆発音の方向へ目を向ける。



(恐らく…彼らの狙いは軍事基地。必要最低限の労力と犠牲で追い込む……。)



キャサリアスは空を見つめる。そして、静かに涙が頬をつたう。



(あぁッ……基地にいる兵士達は……。今の私には彼らを救う事は…出来ません。うぅ…すみません…すみません。)



今彼女に出来ることは、皇都にいる人々を一人でも多く避難させる事のみ。こうしている間にも、日本の攻撃を受けて犠牲となっている基地の兵士達の事を思うと涙が止まらなくなっていた。そして、今彼らを救う手立てが何も思い浮かばない…何もする事が出来ない自分の無力さに怒りを覚える。



(あぁ……お兄様は、あの様な国に戦争を仕掛けてしまったのですね。)



一人の人間の判断で始めた戦争で、国の全てが崩壊仕掛けてしまう。国の上に立つ者としての責任感を、この状況の中で彼女は深く実感し、身に染みた。





ーー皇都郊外 フルド飛行軍基地



「て、撤退ッ!!!総員基地から離れろ!!」



ボボボボォォォォーーーッ!!!


ドォンッ!ドドドドッ!!!



「うわぁぁ!!!」


「ぎゃあッ⁉︎」



編隊を組みながら飛行するP3C哨戒機次から次へと投下される爆弾の雨が、フルド飛行軍基地の滑走路や兵舎、管制塔、武器弾薬庫を破壊し続けていた。



兵士達は、蜘蛛の子が散らす様に逃げ回ることしか出来なかった。少しでも基地から離れようとひたすら逃げ回っていた。中には恐怖のあまり足がすくみ、ガタガタと崩壊しかけた建物の隅で屈んでいる者もいた。



「くそッ!めちゃくちゃだ!こんなのッ…せ、戦争じゃない!ただの殺戮だ!」



一人の兵士が、ボロボロの身体で上空を飛行するP3C哨戒機に向け叫び出した。しかし、言葉を返す様に、1発の爆弾が彼めがけて落ちて来た。



「う、うわぁぁぁぁ!!!」



地獄と化した基地に更にもう一つの爆音が追加された。地上は爆炎に飲まれ、生き残っていた兵士達はあっという間に火だるまと化した。


管制塔では、まだ使える無線機を使い、ひたすら援軍を要請する指揮官がいた。



『こ、こちらフルド飛行軍基地!現在敵の攻撃を受けている!至急援軍をッ!至急ー』



もう何度も無線機に向かって声を荒げながら発しているが、一向に返事が返ってこない。



「くそっ!まさか他の基地もッ⁉︎…な、何故だ!何故なんだ!我がハルディーク皇国は列強国では無かったのか⁉︎なぁ…だれか答えてくれ!」



無論、彼の問いに答える者など周りに存在していなかった。管制塔には恐らく、彼以外の生き残りは存在していない。


次第に揺れが大きくなり、段々と崩れ始める管制塔。業火と爆炎の中を必死に逃げ回る兵達と火だるまになる兵士達。絶えず聞こえてくる悲鳴、絶叫、ニホンの飛行機械から聴こえてくる空を切る風音。


指揮官は目の前の状況に深く絶望した。そしてガクッと膝から落ちた。



「列強……ハルディーク皇国………そうだ、そう呼ばれていた。なのに何故……何故ダァァァァァァァーー!!!」



悲痛な叫び声は、大きく倒壊した管制塔の音と共に消えて行く。






ーー皇都ハル=ハンディア


数時間後…止め処なく聴こえていた爆発音は一切聴こえなくなった。皇都の外には人っ子一人居ない、何処と無く不気味な静寂が包み込んでいた。



「爆発の音が……止んだ?…も、もうニホン軍は帰ったのかしら?」



恐る恐る建物の窓から外を覗くキャサリアスとアリエス。他の民衆達は、ガタガタと身体を震わせ、身を寄せ合っている。



「す、少し外の様子を見てきます!」


「ひ、姫様ッ!お待ちをッ!」



キャサリアスの後を追う様に、アリエスも建物から出て行った。


皇都は変わらず、異常なまでの静けさと小さな風の音が聞こえてくるのみであった。



「姫様、ガスマスクをー」


「アリエス……どうやら本当に攻撃は止んだみたいね。」



彼女の言葉を聞いたアリエスは、少し周りを見渡した。確かに遠くから聴こえてきていた爆発音などは聴こえなくなっていた。



「そ、その様ですね。しかし、何故皇都だけが無傷なのか……。」


「恐らくですが…ニホンの狙いは我が国の軍事基地……完全に戦力を削ぐ事を狙っていたのでないかと…。」


「つ、つまり爆発音が止んだと言うことは……。もう皇国は戦う力は無くなったわけですね。」


「基地にいた兵達が……不憫でなりませんッ!私は彼らの為に何も出来なかった…何も。」



涙を浮かべる彼女の肩に、アリエスは優しく手を添える。




「姫様…自分を責める必要はありません。例えいかなる者であっても、あの状況ではどうする事も出来ません。ここは静かに…彼らの死を弔いましょう。それに今回の戦争を起こしたのはハルディーク皇国です…仕方のない結果ではありますが…。」


「えぇ…そうですね。」



少しの間、再び静寂した時間が過ぎて行く中、馬に乗った政務官達が彼女達の元へとやって来た。



「ひ、姫様ぁ!!!ご無事でしたかッ!!!」



現れたのは数人の部下を連れたロイエス本部長であった。彼女達の姿を確認した彼らは、馬から降りて、2人の元へ駆け寄る。恐らく余程の間探し回ったのであろう、彼らの顔からは安堵と疲労感が伝わって来た。



「はぁッはぁッ!……さ、捜しましたよ!中心地へ向かったら人っ子一人もいなかったもので……いやぁご無事で良かったです!」



キャサリアスの無事を確認したロイエスは、ホッと胸をなでおろした。するとキャサリアスはハッと思いついた様に彼に話し掛ける。



「ロイエス本部長、丁度良かったです!」


「……え⁉︎な、何で御座いますか?」



突然、詰め寄られたロイエスは一瞬戸惑ってしまう。しかし彼女はそんな事など御構い無しに、彼を近くの建物の壁際まで追い詰めてしむう。


彼女は強い意思を持った目で口を開いた。



「今現在確認できる幹部達を集めて下さい!場所は……皇国防本部の議事堂でお願いします!」


「わ、分かりましたが…な、何をなさるおつもりですか?」


「無論!この戦争の後始末です!ニホンが更なる攻撃を仕掛けてくる前に何としても終わらせなければッ!!!今の私には、その責任があります!」



その顔には、もう既に涙など存在していなかった。


こうして大半の戦力を失ったハルディーク皇国は、日本との休戦協定を結ぶ為に緊急御前会議が開かれる事となった。

年末が近づくにつれて仕事が忙しくなって来ました(°▽°)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] P-3CにはMk.82/83/84運用能力ありません。 日本〇召喚みたいにBP-3Cとか改修しないとね。 ていうか、P-3Cなんて西暦2045年のはるか前に退役してるんじゃない?
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